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{{Otheruses|日本法における新株予約権|ワラント及びワラント債全般|ワラント}}
{{Law}}
'''新株予約権'''('''しんかぶよやくけん''')とは、[[株式会社]]に対して行使することにより当該株式会社の[[株式]]の交付を受けることができる権利をいう[[b:会社法第2条|会社法第2条]]21号。用途に応じて'''ワラント(warrant)'''とも呼ばれる
* [[会社法]]について以下では、条数のみ記載する。
 
日本法の「新株予約権」の概念は2000年代に入り商法改正によって導入されたもので、従来の転換社債の転換請求権、[[ワラント債]]の新株引受権、[[ストックオプション]]をあわせて「新株予約権」として再構成したものである<ref name="nomura">{{Cite web|和書|url=https://www.nomura.co.jp/terms/japan/si/sinkabuyoyakus.html|title=証券用語解説集 新株予約権付社債 |publisher=[[野村證券]] |accessdate=2018-01-07}}</ref>。なお、転換社債と非分離型ワラント債は「新株予約権付社債」として一本化されたが、分離型ワラント債については社債と新株予約権の同時発行として構成されたため新株予約権付社債の概念からは除外された<ref name="nomura" />。
== 用途==
新株予約権制度は、以下の用途で用いられることが多い。
#日本的な意味における[[ストックオプション]]としての[[インセンティブ]]報酬
#資金調達の手段
#負債の担保
#[[企業買収|買収防衛策]]の一手段(いわゆる[[ポイズンピル]])
新株予約権の機能は様々であるが、大別すると上記四種になる。
 
* [[会社法]]について以下では、条数のみ記載する。
1は、本来制度創設時に予定されていた用途である。
 
2は、有償で== 新株予約権を発行した場合の用途 ==
新株予約権制度には主に次のような用途がある<ref name="shinkabuyoyakuken8">江頭憲治郎 編『会社法コンメンタール 6 新株予約権』商事法務、2009年、8頁</ref>。
*①株式発行とは違い、発行しても行使されるまでは[[資本金]]の額が増加しない
#取締役等の職務執行に対する対価([[インセンティブ (経済学)|インセンティブ]]報酬)<ref name="shinkabuyoyakuken8" />
*②金融機関からの融資とは違い、負債が増えない
#転換社債型新株予約権付社債<ref name="shinkabuyoyakuken8" />
と言う性質を利用した用途である。直接金融([[金融機関]]を介さない資金調達)の方法として、利用される。
#敵対的企業買収への対抗策([[ポイズンピル]])<ref name="shinkabuyoyakuken8" />
 
43について[[M&A#ポイズンピル|M&A]]参照。
3の具体例は、[[新株予約権付社債]]・[[転換社債型新株予約権付社債|転換社債型新株予約権付社債(CB)]]等である。
4は、[[M&A#ポイズンピル|M&A]]を参照。
 
== 概念新株予約権の沿革 ==
新株予約権の沿革は1938年(昭和13年)の商法改正で導入された転換社債(のちの転換社債型新株予約権付社債)の転換権に始まる<ref>江頭憲治郎 編『会社法コンメンタール 6 新株予約権』商事法務、2009年、6頁</ref>。
従来、新株予約権は、新株引受権と呼ばれていた。しかし、この語は、「新株発行の際に優先的に新株を引き受ける権利」と「会社に対して行使することにより有償で新株又は自己株式の交付を受けられる権利」の、両方の意味を持っていた。そのため、平成13年[[商法]]改正時に、この概念を分離し、前者を新株引受権、後者を新株予約権と定義した。
 
[[1981年]](昭和56年)には権利を行使しても社債権は消滅しない新株引受権附社債(新株引受権付社債)が追加された<ref name="shinkabuyoyakuken7">江頭憲治郎 編『会社法コンメンタール 6 新株予約権』商事法務、2009年、7頁</ref>。これはいわゆるワラント債であり<ref name="nomura" />、社債と分離して流通させることができない非分離型と社債と分離して流通させることができる分離型があった<ref name="shinkabuyoyakuken7" />。
また、新株引受権は、行使をする者を限定しない概念であったが、平成17年の会社法制定に伴い、新株引受権の行使権者は「株主」に制限され、用語自体は破棄された。これにより、募集株式の発行の際に、第三者が有利発行を受ける権利については、名称そのものが存在しない事になった。
 
[[1997年]](平成9年)には[[議員立法]]によりストックオプションとして取締役や使用人にインセンティブ報酬の権利(新株引受権)を付与することを認める制度が導入された<ref name="shinkabuyoyakuken9">江頭憲治郎 編『会社法コンメンタール 6 新株予約権』商事法務、2009年、9頁</ref>。ストックオプションとしての権利付与には、権利行使時に会社が保有している自己株式を交付する方式(自己株式方式)と新株を交付する方式(株式引受権方式)があった<ref name="shinkabuyoyakuken9" />。
更に、平成13年改正までの新株予約権は、[[新株予約権付社債|新株引受権付社債]]のように社債に附され、分離する事が不可能であったが、この改正により、単独発行が認められるようになった。そのため、'''新株予約権'''のみを売買することが、可能となった。しかし、[[転換社債型新株予約権付社債|転換社債型新株予約権付社債(CB)]]の様に、新株予約権付社債の形式で発行された新株予約権は、なお従前の通り、分離処分は出来ず、[[社債]]部分の金額をもって、[[株式]]に転換する権利を持つとされた。
 
このように従来の新株引受権は転換社債や新株引受権付社債として社債とともに発行される場合と取締役・使用人に対するインセンティブ報酬として付与される場合が想定されていたが、[[2001年]](平成13年)の商法改正でこのような従来の制限をなくした「新株予約権」の制度が導入された<ref name="shinkabuyoyakuken7" />(2002年4月から施行<ref name="nomura" />)。これにより従来の転換社債の転換請求権、ワラント債の新株引受権、ストックオプションはまとめて「新株予約権」として再構成されることとなった<ref name="nomura" />。
上記の様な概念の整理に至ったのは、平成7年の[[商法特例法]]制定によって、特定の会社に先行導入された[[ストックオプション制度]](それ以前に会社実務においては、[[擬似ストックオプション]]という制度が普及していた)が、平成9年の商法改正により、本格的に導入された事とも関連する。平成9年当初のストックオプション制度は、自己株式方式と株式引受権方式とがあったが、新株引受権が[[定款]]規定が必要であったり、導入に付き、[[株主総会]]で正当な理由があることを述べなければならなかったりと、導入の障害になる規定が多かった。そこで、平成13年商法改正で、新株予約権の制度を創設し、ストックオプションとは、株主以外の者への新株予約権の無償での有利発行である、と整理して、自己株式方式と株式引受権方式によるストックオプションの規定を削除した。
* 新株予約権は新株発行とは関係なく一定の条件で株式を取得できる権利とされた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nomura.co.jp/terms/japan/si/sinkabuhikiukeken.html|title=証券用語解説集 新株引受権 |publisher=[[野村證券]] |accessdate=2018-03-10}}</ref>。
*: 従来、新株予約権は、の「新株引受権と呼ばれていた。しかし、この語は、「新株発行の際に優先的に新株を引き受ける権利」と「会社に対して行使することにより有償で新株又は自己株式の交付を受けられる権利」の、両方の意味を持っていた。そのため、平成13年[[商法]]改正時に、この概念を分離し、前者を[[新株引受権]]、後者を新株予約権と定義した。
* 新株予約権は社債と組み合わせることなく単独で発行することができることとされた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nomura.co.jp/terms/japan/si/sinkabuyoyaku.html|title=証券用語解説集 新株予約権 |publisher=[[野村證券]] |accessdate=2018-03-10}}</ref>。
*: 従来の転換社債と非分離型ワラント債は「新株予約権付社債」として一本化された<ref name="nomura" />。また、分離型ワラント債については社債と新株予約権の同時発行として構成し新株予約権付社債の概念からは除外された<ref name="nomura" />。
* 新株予約権方式のストックオプション
上記の様な概念の整理に至ったのは、平成7年の[[商法特例法]]制定によって、特定の会社に先行導入された[[ストックオプション制度]](それ以前に会社実務においては、[[擬似ストックオプション]]という制度が普及していた)が、平成9年の商法改正により、本格的に導入された事とも関連する。*: 平成9年当初のストックオプション制度は、自己株式方式と株式引受権方式とがあったが、新株引受権が[[定款]]規定が必要であったり、導入に付き、[[株主総会]]で正当な理由があることを述べなければならなかったりと、導入の障害になる規定が多かった。そこで、平成13年商法改正で、新株予約権の制度を創設しに組み込み(新株予約権方式)、ストックオプションとは、株主以外の者への新株予約権の無償での有利発行である、と整理して、自己株式方式と株式引受権方式によるストックオプションの規定を削除した。
*[[2005年]](平成17年)に成立した[[会社法]]では第2編第3章に新株予約権の規定が整備された。
*:新株予約権は、権利者が予約権を行使することにより株主となる権利と整理され、交付される株式が予約権行使者が払い込んだ金銭等や[[準備金]]・[[剰余金]]等の[[資本金]]への組入を伴う[[新株発行]]によるものか、会社が保有する[[自己株式]]からかの区分がなくなり、「新株引受権」は法文上から消滅した。
 
== 新株予約権の消長及び性質 ==
;=== 新株予約権が発生する時 ===
#募集新株予約権の発行時。
#取得対価が当該会社の新株予約権である時の取得請求権又は取得条項付(種類)株式ないしは全部取得条項付種類株式の取得時。
#対価が新株予約権とされている吸収型再編。
 
;=== 新株予約権が消滅する時 ===
#新株予約権を行使した場合。
#自己新株予約権を消却した場合。([[b:会社法第276条|会社法第276条]])
#(行使期間の満了等により)新株予約権を行使する事ができなくなった場合。([[b:会社法第246条|会社法第246条]] [[b:会社法第287条|287条]])
 
;=== 新株予約権の性質 ===
#株式や社債とは、別個独立に発行可能。
#募集新株予約権の割当てを受けた者は、割当日に新株予約権者になる(募集株式の発行の場合は、払込期日に株主の地位を得る)。
#募集新株予約権の割当てを受けたにもかかわらず、払込期日までに払込みをしなかった者は、失権する。
#株式と同じく、譲渡制限を附す事が出来る(ただし、株式の場合とは違い、定款に定める必要はく、発行決議時にそう定めていればよい)。
#株式と同様に、取得条項を附す事が出来る(ただし、取得請求権を附す事が出来るとする規定は、存在しない)。
#新株予約権の行使より得られる株式の総数は、発行可能株式総数から発行済株式総数を控除した数を超えてはならない(ただし、行使期間の初日を迎えていない新株予約権には、この規定は適用されない)。
* 新株予約権の内容一般につき、[[b:会社法第236条|236条]]を参照。
* 共有に属する新株予約権の権利行使の方法につき、[[b:会社法第237条|237条]]を参照。
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== 新株予約権の発行 ==
=== 新株予約権の募集 ===
募集新株予約権の発行は、原則的に、[[募集株式]]の発行に関する条文を[[準用]]している。以下の4段階の手続を踏むことになる
#'''発行決議''' : 発行の承認及び募集事項の決定を行なう。その後、決定事項を株主など申し込みをしようとする者に通知する。
#'''申込み'''  : 株主又はそれ以外の者から申込みをうける。または、総数引受契約の締結をする。
#'''割当て'''  : 新株予約権を申込んだ者は割当の時に新株予約権者になる。(ただし、権利行使の時又は払込期日までに払い込まない場合、失権する。)
#'''払い込み''' : 当該新株予約権の交付と引換えに金銭出資又は現物出資をする。(ただし、払込みは、原則として新株予約権の行使の前日までに払い込めばよく、払込期日等を定めた時だけ、その期日ないしは期間内に払わなければならない。)
 
* 募集事項([[b:会社法第238条|238条1項]]各号)。
*# 今回発行する新株予約権の内容([[b:会社法第236条|236条]])と数
*# 払込金額 (当該新株予約権一個と引換えに払込むべき金銭の額を言う。金銭の払込みが不要ならその旨を記す。)
*# 払込期日 (ただし、定めた時のみ。)
*# 割当日
*# 募集社債に関する事項 (当該予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合のみ。)
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* それらの特則について、[[b:会社法第244条|244条]]。
* 新株予約権者となる日について、[[b:会社法第245条|245条]]。
* 無償割当て募集新株予約権に係る払込みについて、[[b:会社法第277条|277条]]から[[b:会社法第279246条|279246条]]。
 
=== 差止請求権 ===
=== 「募集新株予約権の発行をやめることの請求」 ===
* 既存株主につき、[[株主の差止請求|差止め請求権]]が認められている([[b:会社法第247条|247条]])。
*: 発行が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、募集新株予約権の発行をやめることを請求することができる(1項)。
 
===無効の訴え===
*会社の組織に関する行為の無効の訴え([[b:会社法第828条|828条]])
 
== 新株予約権原簿 ==
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* 自己新株予約権の取得につき、[[b:会社法第273条|273条]]から[[b:会社法第275条|275条]]。
* 新株予約権の消却につき、[[b:会社法第276条|276条]]。
 
== 新株予約権の無償割当て ==
* 無償割当てにつき、[[b:会社法第277条|277条]]から[[b:会社法第279条|279条]]。
 
== 新株予約権の行使 ==
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*新株予約権の行使([[b:会社法第280条|280条]])
*株主となる時期([[b:会社法第282条|282条]])
* 新株予約権者がその有する新株予約権を行使することができなくなったときは、当該新株予約権は、消滅する。([[b:会社法第287条|287条]])
 
== 新株予約権証券 ==
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* [[b:会社法第288条|288条]](新株予約権証券の発行)から[[b:会社法第294条|294条]](無記名式の新株予約権証券等が提出されない場合)。
 
==無効の訴え==
*会社の組織に関する行為の無効の訴え([[b:会社法第828条|828条]])
 
==新株予約権の評価==
[[資金調達]]における新株予約権を発行する企業は、発行における公正価値の根拠に対して、既存[[株主]]に対して説明責任を負うこと、また、訴訟リスクを回避するために、第三者機関に委託し、評価を行うのが一般的である。また、[[ストックオプション]]としての新株予約権においても、[[会社法]]施行後、上場企業において[[費用計上]]が義務付けられたため、新株予約権の評価が必要となった。
 
また、[[プルータス・コンサルティング]]は新株予約権の評価手法において、市場の流動性や株式売却が市場へ与える影響度を考慮したモデルを初めて構築し、以後、評価手法のスタンダードとなった。
 
== 用途出典 ==
{{Reflist}}
 
== 参考文献 ==
* 新株予約権・種類株式の実務(第一法規) ISBN 978-4474022812
* [http://www.findai.com/ 金融大学ホームページ]
* [http://www.stockoption.jp/ ストックオプションブログ]
 
== 関連項目 ==
* [[商法]]
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* [[新株引受権]]
 
{{金融派生商品}}
{{law-stub}}
 
{{economy-stub}}
{{DEFAULTSORT:しんかふよやくけん}}
[[Category:コーポレートファイナンス]]
[[Category:株式市場]]
[[Category:証券市場日本の株式会社法]]
[[Category:金融株式会社]]
[[Category:会社法]]