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'''米軍再編'''(べいぐんさいへん
== 沿革 ==
=== 再編前夜 ===
==== 国際情勢の変化 ====
[[File:Bundesarchiv Bild 183-1989-1110-018, Berlin, Checkpoint Charlie, Nacht des Mauerfalls.jpg|thumb|right|250px|西ベルリンに入る東ベルリン市民]]
[[太平洋戦争]]以後、米[[ソビエト連邦|ソ]]対立による[[冷戦]]体制の下、アメリカ合衆国は[[資本主義]]陣営の盟主として、また世界最大の軍事力を誇る国として世界の警察を自負し、[[西側諸国|西側]]社会ひいては世界の安全保障を主導する世界戦略をとってきた。これは古典的な「[[パクス・アメリカーナ]]」であり、米国を中心とした政治的・経済的・軍事的な世界秩序を構築して影響下にある国々の経済の相互依存性を維持し、[[ヨーロッパ|欧州]]と[[アジア]]での対抗勢力の拡大を阻止するものであった。
この為、米国は欧州と[[東アジア]]において、積極的に友好国に海外基地を設けて、駐留米軍を前方展開させ続けた。この時代のアメリカ軍は、典型的な[[工業化]]時代の軍隊であり、[[重厚長大]]な階層化組織と多数の重装備を有していた。
[[1991年]]に[[ソビエト連邦の崩壊]]により冷戦が終焉を迎え、これまでのイデオロギー対立の下で抑えられていた宗教と民族の違いによる対立が顕在化し、[[グローバリゼーション]]と[[地域主義]]とのせめぎあいといった新たな問題が生じたことで、米国はその世界戦略の見直しを迫られた。
それまで冷戦期を通じて自国の軍事力を世界的に展開してきた米国は、その戦略地域として東西対立の最前線であった東西[[ドイツ]]、[[朝鮮半島]]や[[日本]]といった地域に駐留軍を配置してきており、新たな戦略地域として、大西洋地域やインド洋地域への重点化が焦点となったのである。ソ連崩壊後、これらの地域においては、それまで[[クレムリン]]や[[ホワイトハウス]]に抑圧されていた世界各地の民族問題が再燃し、各地で[[紛争]]が激化した。これらの紛争に対して、アメリカ軍は、[[国連ソマリア活動]]や[[NATOによるボスニア・ヘルツェゴビナ空爆 (1995年)|デリバレート・フォース作戦]]、[[アライド・フォース作戦]]において武力介入を実施した
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==== RMAの進行 ====
[[ファイル:Bombing republika srpska.jpg|thumb|200px|デリバレート・フォース作戦での空対地精密攻撃]]
その一方、1980年代後半より、情報通信・電子機器技術の急速な進歩に伴い、これを軍事面に応用するという[[軍事における革命]](RMA)が提唱されていた。RMAは軍事装備技術のあらゆる面に応用されているが、特に[[C4Iシステム|C4ISRシステム]]、[[精密誘導兵器]](PGM)の開発・配備が重要とされた。
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の2点を中核とする革新的軍事ドクトリンであり、要するに、高度な[[C4Iシステム]]を背景にした[[機動戦#機略戦|機略戦]]である。[[アメリカ海軍]]は、1998年の艦隊戦闘実験において、NCWコンセプト採用時とPCWコンセプト(在来型)採用時の相対比較を行うことにより、NCWの有用性を検討した。この結果、平均的な意思決定サイクルは43分から23分に短縮され、任務遂行に要する時間は50%減少、射撃の有用性は逆に50%増大、艦隊の防御網を突破した敵舟艇数は1/10に減少して、NCWコンセプトの有用性は立証された。
=== NDPの勧告と
[[File:ARTHUR K CEBROWSKI.jpg|thumb|200px|セブロウスキー提督。NCW創案者であり、OFTの初代部長でもあった。]]
米軍再編の基本概念は、国防諮問委員会(National Defense Panel, '''NDP''')が1997年に発表した「国防の転換: 21世紀の国家安全保障」(Transforming Defense: National Security in the 21st Century)において確立された。この報告書においては、RMAによって防衛技術は急速に刷新されつつあり、また[[非対称戦争]]や[[戦争以外の軍事作戦]]へのニーズ増大など軍がおかれている環境も激変しているにもかかわらず、アメリカ軍はこれに対応しきれていないことが指摘されるとともに、これらの情勢変化に対応して、運用・編制・装備のすべてを統合的に刷新する改革の必要性が提唱された。
そして、2001年9月に発表された[[四年ごとの国防計画見直し]]2001(QDR2001)において、従来の「脅威ベースのアプローチ」から「能力ベースのアプローチ」への転換が発表された。前者においては、[[冷戦]]構造のもとで特定の脅威([[ワルシャワ条約機構]]など)への対処を目的としていたのに対し、後者においては、従来は知られていなかったものも含む多様な脅威に対して、いかなる時間・場所においても対処できる軍組織が目標とされる。QDR2001の発表直前に発生した[[アメリカ同時多発テロ事件]]により、能力ベースのアプローチに基づいた米軍再編の重要性は火急のものとなった。これを受けて10月には、NCWの創案者であるセブロウスキー提督(この直前に退役)を部長として、[[アメリカ国防総省]][[アメリカ国防長官府|長官府]][[
=== TPGの発表 ===
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== 再編計画 ==
=== RMAの推進 ===
[[ファイル:MQ-9 Reaper in flight (2007).jpg|thumb|250px|[[MQ-9 リーパー]]無人攻撃機。]]
1980〜1990年代から進められてきた新たな兵器の開発が、21世紀に入り成果を産みはじめ、[[軍事用ロボット|無人兵器]]に代表される従来の兵器とは異なる軍事技術が実用化されるようになってきた。長距離を無着陸で米本土から世界中を高精度で爆撃できる技術<ref group="注">[[コソボ紛争]]時には[[B-2 (航空機)|B-2爆撃機]]によって米国本土から無着陸で飛行し[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]/[[慣性航法装置|INS]]による精密[[誘導爆弾]]の[[JDAM]]によって空爆した。</ref>により、従来の[[戦略爆撃]]と同様の用兵で[[戦術爆撃]]や近接航空支援<ref group="注">[[アフガニスタン]]と[[イラク]]では地上の米特殊部隊員の指示で高空の[[B-52 (航空機)|B-52爆撃機]]からのレーザー誘導爆弾(LJDAM)によって1m程度の誤差での爆撃が行なわれている。</ref>が行なえるようになっている。また、[[無人航空機]]による偵察<ref group="注">[[RQ-4 (航空機)|RQ-4 グローバルホーク]]や[[
民主主義世界の先進国では、戦闘によって死亡する兵士が多いと政権の不安定化に結びつくことが多く、戦場での兵士数を最小にしたまま無人兵器によって遠隔攻撃する戦闘形態は、将兵の損耗が避けられ、軍隊と国民の支持が得やすいと考えられる。また、海外派兵の多くは将兵が家族と長期に渡り引き離される場合が多く、この改善は誰からも喜ばれる。また、米国の[[軍需産業]]も高機能(で高価)な兵器の大量使用によって人的損耗を避けるという選択は、冷戦後に急速に減少した兵器需要を支えるものとして歓迎し、[[軍産複合体]]を米軍再編へと突き動かす動機となる。
=== 展開態勢の見直し ===
[[File:26th MEU in Djibouti 003.jpg|thumb|250px|[[ジブチ]]にて作戦中、[[M16自動小銃|M16]]を発砲する[[海兵隊]]員]]
'''米軍の展開態勢見直し'''(Global Posture Review, '''GPR''')は、海外駐留米軍の体制を根本から見直すもので、QDR2001において宣言されたのち、2003年11月より正式に開始された。
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: 冷戦期には[[東側諸国|共産主義陣営]]への対抗として米軍が国内に駐留することに価値を見出した国々も、冷戦終結後にはそういった要素が失われて、駐留への抵抗が大きくなった。
; 経済的背景
: 海外部隊の維持費が高いこともGPRの背景にある。海外基地の中には相応の費用負担を受け入れる国もあるが、一般的には維持運用するのに巨額の費用が掛かる<ref group="注">冷戦終了によって1990年代の海外駐留将兵の割合は冷戦期の半分以下になったが、それでも25万人/140万人であり、海外での装備・訓練・給与のコストは米国の総国防予算の5分の1になっている。</ref>。
: また逆に、海外の米軍が国内基地に戻ることは米国の地域経済に寄与するために、地元国民とその選出議員達が強く望むことである。
; 攻撃に対する脆弱性
: 米軍の海外基地そのものに対する本格的なテロ攻撃はまだ起きていないが、[[イエメン]]のアデン港で起きた[[米艦コール襲撃事件]]や続発する米大使館へのテロ攻撃から見て、海外基地も防備を固める必要に迫られている。
: また、[[朝鮮民主主義人民共和国|北朝鮮]]や[[中華人民共和国|中国]]、[[イラン]]も弾道ミサイルによる攻撃を行なう潜在的な脅威となり、発射国に近ければ短時間で飛来するので迎撃手段が限られるか迎撃手段が無いことや、射程が短く誘導精度が悪くても実用となることなど不利な要素が多くなる<ref
米軍再編の基本理念のもとで、これらの問題を解決するものとして策定されたのがGPRである。[[2004年]][[6月]]の[[アメリカ合衆国下院]][[公聴会]]における[[アメリカ合衆国国防副長官|国防副長官]]の答弁や、[[2005年]][[3月]]に発表された[[国家防衛戦略 (アメリカ)|国家防衛戦略]]([[:en:National Military Strategy (United States)|NSS]])において、下記の5点がGPRの要点として述べられている。
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==== 在日米軍の再編 ====
{{main|在日米軍再編}}
[[在日米軍]]の再編計画の課題とするところは、まず[[ワシントン州]]フォートルイスにある[[アメリカ陸軍]][[第
[[アメリカ海兵隊]]は[[沖縄県]]の住民の負担を軽減するため、一部部隊の移動や訓練の一部移転を計画した。[[普天間飛行場|普天間基地]]を返還して、代替基地として辺野古地区への移転が決定している。海兵隊員約8千人とその家族約9千人のグアム移転、[[那覇港湾施設|那覇軍港]]返還、[[キャンプキンザー]]返還、キャンプレスター返還、キャンプフォスター・ライカム住宅地区やロウワープラザ住宅地区などの返還、[[北部訓練場]]の
=== 組織構造の刷新 ===
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==== 米陸軍再編 ====
[[ファイル:Stryker ICV front q.jpg|thumb|250px|[[ストライカー装甲車]]。SBCTの主力車両となる。]]
{{See also|旅団戦闘団|フューチャー・コンバット・システム}}
米陸軍の再編計画では、指揮統制の迅速化と戦力投入の効率化のため、従来採用されてきた、旅団-師団-軍団-軍という4段階の指揮系統が見直され、UA‐UEx‐UEyとして再構築された。またこれらの部隊の編制は、高度にモジュラー化された。
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: 作戦・戦術階梯における司令部部隊である。作戦階梯のものは従来の[[軍団]]、戦術階梯のものは従来の[[師団]]に相当し、のちに名称のみがこれに戻された。
; Unit of Action, UA
: 戦術階梯における実戦部隊である。従来の旅団に相当し、のちにこれにちなんで、戦闘部隊は[[旅団戦闘団]]と改称された。旅団戦闘団には、機甲部隊としての重旅団戦闘団(HBCT)、軽歩兵部隊としての歩兵旅団戦闘団(IBCT)のほか、戦略機動性に優れた機械化部隊として、新たに制式化した装輪式で比較的軽量な[[ストライカー装甲車]]を装備したストライカー旅団戦闘団(SBCT)が新しい編制として導入された。また旅団戦闘団のほか、各種の支援部隊もモジュラー旅団に改編されており、航空旅団、火力旅団、防空旅団、後方支援旅団、戦場捜索旅団、機動強化旅団が編成された。
また、これらの組織改革と並行し、装備改革として、[[フューチャー・コンバット・システム]]の開発が行われている。これは、陸軍の各種戦闘システムを統合的に開発するものである。
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== 反対意見 ==
;全面反対
:反対意見の中でも、米軍を海外から引き上げることで生じる最も大きな問題点としてあげるのは、[[原油]]の輸送航路を守りにくくなることである。また、受入国との関係は軍事面だけでなく政治経済面でも考慮されねばならず、米軍の引き上げが新たな問題を生む国もある。一度失った海外基地は容易には再取得できない点も検討が足りない。誘導兵器はどれだけ精密であっても人間の判断力や観察力には及ばず、人工衛星による通信ネットワークという脆弱性を考慮せずに米軍戦略全体を急激に変更することは危険であるという意見がある。今後増える非正規戦ではますます現場で得られる正確な情報が求められ、近くに前方展開する基地が無くなれば支障が出る可能性がある<ref group="注">パキスタン北部に潜伏していた[[アイマン・ザワーヒリー|ザワヒリ]]の殺害では、攻撃にプレデターが使用されたが情報が不正確で結局、民間人12人を殺し、パキスタン政府から抗議を受けた。</ref>。
;漸進的改革意見(急速な改革に反対)
:兵器技術の著しい向上や国際社会の環境の変化に対応して軍の海外展開政策の変更は必要だとするものの、急速な改革には反対する意見がある。
:[[制空権]]の維持には海外の航空基地は、少なくとも今後しばらくは必要である。<ref group="注">[[F-22 (
== 脚注
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
==
{{参照方法|date=2017年1月|section=1}}
* {{Cite web|和書|author=福田毅
* {{Cite web|和書|author=大嶋康弘/宮内由幸/古本和彦/吉田則之/岩下寛/佐藤明/大江健太郎
* [
* [[中村好寿]] 『軍事革命(RMA)-「情報」が戦争を変える』 中央公論新社〈中公新書〉、2001年。ISBN 4-12-101601-7
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[[Category:アメリカ合衆国の国際関係]]
[[Category:アメリカ合衆国の軍事]]
[[Category:軍事改革]]
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