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'''焼戻し'''(やきもどし、{{Lang-en|tempering}})とは、[[焼入れ]]あるいは溶体化処理されて不安定な[[組織]]を持つ[[金属]]を適切な温度に加熱・温度保持することで、組織の変態または[[析出]]を進行させて安定な組織に近づけ、所要の性質及び状態を与える[[熱処理]]{{Sfn|日本工業標準調査会|1995|p=4}}<ref name="コトバンク_焼戻し">{{Cite webKotobank |urlword=焼戻し |encyclopedia=世界大百科事典 第2版 |hash=https://kotobank.jp/word/%E7%84%BC%E6%88%BB%E3%81%97-143462#E4.B8.96.E7.95.8C.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E4.BA.8B.E5.85.B8.20.E7.AC.AC.EF.BC.92.E7.89.88 |title=焼戻しとは 世界大百科事典 第2版の解説 |work=コトバンク |accessdateaccess-date=2014-10-08 |publisher= 朝日新聞社、VOYAGE GROUP}}</ref>。
'''焼き戻し'''、'''焼もどし'''とも表記する<ref>{{Cite web |和書|url=http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/221243/m0u/ |title=やきもどし【焼(き)戻し】の意味 デジタル大辞泉 |work=goo辞書 |accessdate=2014-10-08 |publisher= NTTレゾナント}}</ref><ref name="機械工学辞典_1308">{{cite book |和書 |editor=日本機械学会 |title=機械工学辞典 |publisher=丸善 |year=2007 |edition=第2版 |isbn=978-4-88898-083-8 |page=1308}}</ref>。
 
狭義には、焼入れされた[[鋼]]を対象にしたものを指す<ref name="コトバンク_焼戻し"/>、鋼の焼戻しは、焼入れにより[[マルテンサイト]]を含み、硬いが[[脆化]]して、不安定な組織となった鋼に[[靱性]]を回復させて、組織も安定させる処理である<ref name="機械工学辞典_1308"/>。
 
[[アルミニウム合金]]のような[[非鉄金属]]や[[マルエージング鋼]]のような[[特殊鋼]]などへの溶体化処理後に行われる焼戻し処理は[[時効 (金属)|時効]]処理の一種で{{Sfn|荘司ほか|2014|p=79-80}}、'''人工時効'''あるいは'''焼戻し時効'''、'''高温時効'''と呼ばれる<ref name="コトバンク_人工時効">{{Cite webKotobank |urlword=人工時効 |encyclopedia=ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 |hash=https://kotobank.jp/word/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E6%99%82%E5%8A%B9-81691#E3.83.96.E3.83.AA.E3.82.BF.E3.83.8B.E3.82.AB.E5.9B.BD.E9.9A.9B.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E4.BA.8B.E5.85.B8.20.E5.B0.8F.E9.A0.85.E7.9B.AE.E4.BA.8B.E5.85.B8 |title=人工時効とは ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 |work=コトバンク |accessdateaccess-date=2014-10-08 |publisher= 朝日新聞社、VOYAGE GROUP}}</ref>。
 
本記事では焼入れされた鋼の焼戻しについて主に説明する。人工時効については[[時効 (金属)]]を参照のこと。また、本記事では[[日本工業規格|日本産業規格]]、[[学術用語集]]に準じて、「焼戻し」の表記で統一する{{Sfn|日本工業標準調査会|1995|p=4}}<ref>{{Cite web |和書|url=http://dbr.nii.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000120Sciterm |title=オンライン学術用語集検索ページ |work=学術用語集 |accessdate=2014-09-21 |publisher= 文部科学省・国立情報学研究所}}</ref>。
 
== 目的 ==
;硬さと靱性の調整
:[[焼入れ]]によって得られた[[]]の[[マルテンサイト]]組織は、硬いが脆い状態となっている。この焼入れ組織に粘り強さを与えるのが焼戻しの目的の1つである{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=176}}。基本的には'''焼戻し温度'''と呼ばれる焼戻し時に加熱・保持する温度を変更することで、[[硬さ]]と[[靱性]]のバランスを決定する{{Sfn|熱処理技術入門|1980|p=140}}。靱性を重視する場合は比較的高温で焼戻しする高温焼戻しが、硬さを重視する場合は比較的低温で焼戻しする低温焼戻しが適用される{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=184}}。
 
;残留応力の除去
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比較的低温域で焼戻しすることで、焼入れ後の硬さをあまり減少させず、残留応力の低減と性状の安定化を行うことができる{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=131}}。このような焼戻し処理を'''低温焼戻し'''と呼ぶ{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=81}}。焼戻し温度は目安として150 - 250℃の範囲である{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=133}}。低温焼戻しによって生じる鋼組織は、上記で説明した低炭素マルテンサイトで{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=187}}、[[ビッカース硬さ]]は約800HVとなっている{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=133}}。
 
硬さや耐摩耗性を必要とする材料に低温焼戻しが適用される{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=188}}。鋼種としては、炭素含有量が0.77%超える過共析鋼が主となっている{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=81}}。[[工具鋼]]の例としては、二次硬化特性を持たない[[炭素工具鋼]]や冷間加工用の[[合金工具鋼]]などに適用される{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=210}}{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=215}}。実際の製品としては、ナイフや包丁といった切削工具、ゲージや[[ノギス]]といった計測器具、自動車車体のプレス金型、[[軸受]]などで適用される{{Sfn|坂本卓|2007|p=81}}{{Sfn|大和久重雄|2008|p=186}}<ref name="軸受材料">{{Cite web |和書|url=https://www.jp.nsk.com/app01/jp/ctrg/index.cgi?gr=dn&pno=NSK_CAT_728h_204-225 |title=軸受材料|format=pdf|pages=212-213|accessdate=2015-02-17 |publisher= 日本精工}}</ref>。また、低温焼戻しは[[高周波焼入れ]]後や[[浸炭焼入れ]]後の標準的な焼戻しでもある{{Sfn|大和久重雄|2008|p=53}}。
 
加熱装置には油浴が最適とされる{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=132}}。100℃に[[沸騰]]させた[[お湯]]に漬す焼戻しでも残留応力を25%程度減少でき、耐摩耗性向上の効果があるので、本来の低温焼戻し温度が不可能な場合などに推奨される{{Sfn|大和久重雄|2008|p=53}}。高温焼戻しの場合は焼戻し脆性を避けるために水冷などを用いた急冷が推奨されるが{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=133}}、焼戻し脆性温度を避けている低温焼戻しの場合は空冷などのややゆっくりした冷却が推奨される{{Sfn|大和久重雄|2008|p=51}}。これは、ひずみや割れを防ぐためである{{Sfn|不二越熱処理研究会|2001|p=99}}。
 
=== 高温焼戻し ===
低温焼戻しに対して比較的高温域で焼戻しすることで、[[靱性]]を高める焼戻しを'''高温焼戻し'''と呼ぶ{{Sfn|藤木榮|2013|p=77}}。焼戻し温度は目安として温度400 - 680 ℃の範囲で行われる{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=133}}{{Sfn|大和久重雄|2006|p=98}}。加熱装置には塩浴や燃焼炉、電気炉が用いられる{{Sfn|朝倉・橋本|2002|p=188}}。
 
前述で説明した通り、焼戻し温度によって得られる組織が異なる。高温焼戻しと呼ばれる焼戻し温度域の中でも、400 - 500℃から焼き戻すと[[トルースタイト]]と呼ばれる組織が得られる{{Sfn|藤木榮|2013|p=77}}。トルースタイトの[[ビッカース硬さ]]は約400HVで{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=133}}、硬さを残しつつ靱性もある程度高い組織が得られる{{Sfn|大和久重雄|2008|p=54}}。ただし、トルースタイトは錆びやすいのが欠点の1つである{{Sfn|大和久重雄|2008|p=54}}。実際の製品としては高級刃物や[[ばね]]類などに適用される{{Sfn|大和久重雄|2006|p=57}}{{Sfn|日本熱処理ガイドブック技術協会|2013|p=82}}。
 
500 - 650℃から焼き戻すと[[ソルバイト]]と呼ばれる組織が得られる{{Sfn|藤木榮|2013|p=77}}。ソルバイトのビッカース硬さは約280HVで{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=133}}、鋼の組織の中では最も[[靱性]]が高いのが特徴となっている{{Sfn|大和久重雄|2008|p=54}}。適度の強さと高い靱性を得られることから機械構造用鋼に適しており{{Sfn|日本熱処理技術協会|2013|p=82}}、実際の製品としても、トルースタイトと同じくばね類も含め、機械部品全般で広く採用される{{Sfn|大和久重雄|2006|p=58}}。
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== 脚注 ==
{{脚注ヘルプReflist|25em}}
{{Reflist|2}}
 
== 参考文献 ==
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* [[焼ならし]]
* [[テンパリング]]
 
== 外部リンク ==
* {{機械工学事典|id=08:1012833|title=焼もどし}}
* [https://www.kagakueizo.org/create/other/11477/ 『工学入門シリーズ 熱処理』(1962年)] - 文部省(現・[[文部科学省]])の企画の下で日経映画社(現・[[日経映像]])が製作。再生開始後18分9秒から23分2秒までの間、焼入れと焼戻しの説明がセットで為されている。『[[科学映像館]]』より
 
 
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[[Category:熱処理]]