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{{Otheruses|学問|原口沙輔のボカロ曲|イガク}}
{{医学の情報源|date=2022年12月}}
{{観点出典の明記| date =2014 202378月}}
{{読み仮名_ruby不使用|'''医学'''|いがく|{{lang-en-short|links=no|medical science}}<ref name="kenkyuusha">[https://ejje.weblio.jp/content/%E5%8C%BB%E5%AD%A6#:~:text=%E3%81%8C%E3%81%8F%20%E5%8C%BB%E5%AD%A6-,medical%20science,medicine 『研究社 新和英中辞典』「医学」]</ref>、{{lang|en|medicine}}<ref name="kenkyuusha" />}}または{{読み仮名_ruby不使用|'''医科学'''|いかがく|{{lang-en-short|links=no|medical science}}<ref>[https://ejje.weblio.jp/content/medical+science#:~:text=Google%2C%20WikiPedia-,%E5%8C%BB%E7%A7%91%E5%AD%A6 『ライフサイエンス辞書』「medical science」]</ref>}}とは、生体([[人体]])の[[メカニズム|構造]]や[[機能]]、[[疾病]]について研究し、疾病を[[診断]]・[[予後]]・[[治療]]・[[予防]]・[[緩和医療|緩和]]する方法を開発する[[学問]]である<ref name="koujien_six">広辞苑「医学」</ref>。主流の医学は'''[[生物医学]]'''または'''主流医学'''、'''[[西洋医学]]'''などと呼ばれる。<!--「{{要出典範囲|自然科学としては生物学等を基礎科学として利用する応用科学分野であり、生命科学研究の重要な一分野である。|date=2014年9月}}」-->現代の医学は、生物医学科学、生物医学研究、[[遺伝学]]、医療技術を応用して、医薬品や外科手術による診断・治療・予防をはじめ、[[心理療法]]、外部装具や牽引、医療機器、[[バイオ医薬品|生物学的製剤]](バイオロジクス)、[[放射線|電離放射線]]など、多岐にわたる療法を提供している。

医学は、病気の予防および治療によって健康を維持、および回復するために発展した様々な[[医療]]を包含する。{{関連記事|医療}}
 
== 概説 ==
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仏教圏において、「医」の象徴として[[薬師如来]]が知られていることからも判るように、「医」は元々は漢方等の「薬」を扱っていた者によって行われていた。古代中国においては、「医」は主に[[道士]]や[[法師]]等によって営まれ、宗教と密接に繋がっている。[[伝統中国医学]]は、単に「医」または「医方」と呼ばれており、勘と経験に頼る部分が非常に大きかったが、明時代になると、[[鍼灸]]だけでなく、[[漢方薬]]においても、中国の根本的な理論である[[陰陽五行思想]]や[[経絡]]理論など、[[理]]で固めるようになり、理論的・学問的な色彩が強くなった。それを強調するために、あえて「醫學」という言葉が用いられるようになったのである。
 
また医学を意味する[[英語]] medicineは、[[ラテン語]]のmedicina(治癒の芸)に由来し、その語源はmedicus(医師)である。さらに遡ると、これは古代ラテン語の動詞medeor(治す、癒やす)に関連し、[[インド・ヨーロッパ祖語|印欧祖語]]の語根med-やmedo-(計る、熟慮する、配分する、助言するなどの意味)に由来する。この語源的背景においては、医師とは「助言する者」「熟慮する者」といったニュアンスをもつ存在であり、治療行為と知的判断の結びつきが古くから認識されていたことを示している。
また、「医学(醫學)」という言葉は、明治時代に「{{lang|en|medicine}}(英語)」や「{{lang|de|Medizin}}(ドイツ語)」などを翻訳する時に作られた造語([[新漢語]])のひとつ<ref>「[[哲学]](哲學)」「[[民主主義]]」「[[社会]](社會)」などと同じように</ref>、とする説もある。
 
「医学(醫學)」という言葉は、明治時代にmedicineやMedizin([[ドイツ語]])などを翻訳する時に作られた造語([[和製漢語]])のひとつとする説もある。
 
=== 様々な医学 ===
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ギリシャ医学、[[ユナニ医学]](イスラム医学)、[[中国医学]]、[[アーユルヴェーダ]](インド伝統医学)、[[チベット医学]]など、歴史が長い医学を、まとめて[[伝統医学]]と呼ぶことがある。なおこれらの伝統医学は各地で現在でも用いられており、現役の医学である。
 
なお、安全性や有効性が疑わしい治療法は[[偽医療]]と称される。
 
== 歴史 ==
医学の起源は[[先史時代]]にさかのぼり、その多くの時期においては技芸(アート)として、地域文化の宗教的・哲学的信念と結びついていた。例えば、「シャーマン」や「医術師」が草薬を用い、祈りを行って治癒を図る一方で、古代の哲学者であり医師でもある者が、[[四体液説|体液説]]に基づき[[瀉血]]を行うこともあった。[[考古学]]的証拠によれば、当時の人類は[[骨折]]の整復や[[穿頭|頭蓋穿孔]]などの処置も行っていた形跡がある。
エジプトの[[パピルス]]の中に「現存する最古の医学書」と言われているものがあり、そこには[[紀元前3世紀]]の[[古代エジプト|エジプト]]においてすでに「外傷者に対しては、まず質問検査、機能試験、診断、治療」と記述されており、現代と変わらない診療手順を行ったことが明らかになっている<ref name="britanica">『ブリタニカ百科事典』「医学」</ref>。
 
古代文明においては、医学は宗教や呪術と密接に結びついていた。エジプトの[[パピルス]]の中に「現存する最古の医学書」と言われているものがあり、そこには外科的処置、薬草療法、魔術的儀式が併用されていた記録が残っている。一方で[[紀元前3世紀]]の[[古代エジプト|エジプト]]においてすでに「外傷者に対しては、まず質問検査、機能試験、診断、治療」と記述されており、現代と変わらない診療手順を行ったことが明らかになっている<ref name="britanica">『ブリタニカ百科事典』「医学」</ref>。メソポタミアでは、病気は[[罰|神罰]]とみなされ、呪文や祈祷とともに治療が行われた。
 
医学は歴史をふりかえると経験医療([[経験]]的[[医療]])として存在していた。他の各学問が成熟してゆく中で医学も独自性を持った学問として発展し、(西洋では)「人体の研究と疾病の治療・予防を研究する学問」とされた<ref name="britanica" />。
 
(西洋医学は20世紀に医学を「人間の疾病に関することを取り扱う学問」などとしつつ疾病にばかり着目し他の面を見落としたり、人間をただの物体のように扱う傾向があり、それが諸問題を引き起こす結果を招いたが、反省が始まり)、近年では(西洋医学も)「人間を生理的・[[心|心理]]的かつ[[社会]]的に能動的ならしめ、[[QOL|できるかぎり快適な状態]]を保たせる研究」として機能や社会的な面についても見落とさないようにする立場に変わりつつある<ref name="britanica" />。
 
近代科学の到来以降、医学は芸術と科学の融合へと進化した。例えば、縫合技術は実践によって習得される技術的側面を持つ一方、縫合される組織における細胞レベルや分子レベルでの作用は科学によって理解されている。
 
{{Main|医学史}}
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中国伝統医学は民間療法とは区別されている<ref name="sitte" />。
東洋医学(伝統中国医学)は、民間療法とは異なった考え方に基づいて運用されている<ref name="sitte" />。
 
一例として、[[生姜]]の使い方を見ると、どちらも風邪の時に使うことはあるものの、民間療法では風邪の時に何の考えもなしにそれを機械的に与えるのに対し、中国伝統医学では、寒気(さむけ)が強い時のみに使用され、反対に熱感が強い時には使用しないのである。なぜなら、中国伝統医学では、生姜は体を温める作用がある、と考えているからである<ref name="sitte" />。
 
日本でも古代より「医」は[[巫女]]、[[陰陽師]]、[[僧侶]]によって中国から伝えられた呪術、医療が行われていた。[[室町時代]]以降は[[中国大陸]]との交易も盛んとなり、[[中国医学|漢方]]が積極的に伝わっていった。[[江戸時代]]以降は、日本は独自の[[漢方医学]]を発展させ、[[薬学]]である[[本草学]]を中心に診療が行われていった。[[華岡青洲]]によって記録上世界最初となる[[麻酔]]による[[乳癌]][[手術]]が行われたりした。また、[[幕末]]には[[国学]]の影響を受けて漢方伝来以前の医学(「[[和方]]」)を探求する動きも現れた。
 
現在は[[中華人民共和国]]では[[中医学]]、[[朝鮮民主主義人民共和国]]では[[東医学]]、[[大韓民国]]では[[韓医学]]として実践されている。これらの伝統医学は、長い歴史を通じて各地で培われ、現在でも広く実践されている。
 
=== 西洋医学 ===
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[[File:Surgeons at Work.jpg|thumb|right|180px|[[手術]]]]
{{Main|西洋医学}}
[[ヨーロッパ]]世界においては、「医」の起源は[[古代ギリシア]]の[[ヒポクラテス]]とされている。ヒポクラテスは[[紀元前5世紀]]頃、医学を宗教から切り離して観察と理性に基づく学問としての医学を確立し<ref>「近代科学の源をたどる 先史時代から中世まで」(科学史ライブラリー)p122-123 デイビッド・C・リンドバーグ著 高橋憲一訳 朝倉書店 2011年3月25日初版第1刷</ref>、[[四体液説|体液説]]を提唱した。その後[[古代ローマ]]の[[ガレノス]]が[[アリストテレス]]などの自然学を踏まえ、それまでの医療知識をまとめ、古代医学を大成した<ref>「近代科学の源をたどる 先史時代から中世まで」(科学史ライブラリー)p134 デイビッド・C・リンドバーグ著 高橋憲一訳 朝倉書店 2011年3月25日初版第1刷</ref>。
 
しかしこうした医学書の多くは[[ギリシア語]]で書かれていたため、ローマ帝国の崩壊とともにヨーロッパではその知識の多くが失われ、断片的なものが残るに過ぎなくなっていた。一方、医学知識はローマの継承国家でありギリシア語圏である[[東ローマ帝国]]において保持され、[[8世紀]]以降[[アッバース朝]]統治下においてヒポクラテスやガレノスをはじめとする医学文献が[[アラビア語]]に翻訳された<ref>「近代科学の源をたどる 先史時代から中世まで」(科学史ライブラリー)p184 デイビッド・C・リンドバーグ著 高橋憲一訳 朝倉書店 2011年3月25日初版第1刷</ref>。イスラム世界においてもガレノスは医学の権威とされ、その理論を基礎とする[[ユナニ医学|イスラム医学]]が発達した<ref>「近代科学の源をたどる 先史時代から中世まで」(科学史ライブラリー)p197 デイビッド・C・リンドバーグ著 高橋憲一訳 朝倉書店 2011年3月25日初版第1刷</ref>。11世紀初頭には[[イブン・スィーナー]]が「医学典範」を著わしたように、この時期イスラム世界では百科全書的医学書が多く編まれ、理論と実践を統合した体系的な医書としてイスラムおよびヨーロッパ世界に大きな影響を与えた<ref>「近代科学の源をたどる 先史時代から中世まで」(科学史ライブラリー)p350-351 デイビッド・C・リンドバーグ著 高橋憲一訳 朝倉書店 2011年3月25日初版第1刷</ref>。
 
これらのアラビア語文献は、[[12世紀]]に入ると[[シチリア王国]]の首都[[パレルモ]]や[[カスティーリャ王国]]の[[トレド]]といった、イスラム文化圏と接する[[キリスト教]]都市において[[ラテン語]]へと翻訳されるようになった<ref>「医学の歴史」pp150 梶田昭 [[講談社]] 2003年9月10日第1刷</ref>。これによってヒポクラテスや、特にガレノスの著作が西欧に再導入され権威とされたほか、イブン・スィーナーなどの新たな文献も流入した<ref>「近代科学の源をたどる 先史時代から中世まで」(科学史ライブラリー)p352-353 デイビッド・C・リンドバーグ著 高橋憲一訳 朝倉書店 2011年3月25日初版第1刷</ref>。
 
同時期のヨーロッパでは修道院が病院として機能し、看護や慈善活動が行われた。
ヨーロッパ[[中世]]においては、[[内科学]]のみが医学とされ、[[外科学]]の地位は低かった。外科医療は[[理容師]]([[理容外科医]]とも言われた)によって施術され、外科手術や[[瀉血]]治療などが行われていた。([[内科学]]、[[外科学]]の記事を参照)。16世紀に入ると、それまでの伝統的医学を打ち破る新たな流れが生まれ始めた。[[解剖学]]では[[アンドレアス・ヴェサリウス]]が1543年に『{{仮リンク|ファブリカ (ヴェサリウス)|en|De humani corporis fabrica|label=ファブリカ}}』(人体の構造)を著わし、ガレノスの誤りを修正した<ref>「医学の歴史」pp164-165 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。また、[[パラケルスス]]は医学への[[化学]]の導入を試み[[医化学]]を確立した<ref>「現代化学史 原子・分子の化学の発展」p13-14 廣田襄 京都大学学術出版会 2013年10月5日初版第1刷</ref>。
 
ヨーロッパ[[中世]]においては、[[内科学]]のみが医学とされ、[[外科学]]の地位は低かった。外科医療は[[理容師]]([[理容外科医]]とも言われた)によって施術され、外科手術や[[瀉血]]治療などが行われていた。([[内科学]]、[[外科学]]の記事を参照)。16世紀に入ると、[[解剖学]]や[[自然科学]]が進展し、それまでの伝統的医学を打ち破る新たな流れが生まれ始めた。[[解剖学]]では[[アンドレアス・ヴェサリウス]]が1543年に『[[ファブリカ (ヴェサリウス)|ファブリカ]]』(人体の構造)を著わしてガレノスの誤りを修正し<ref>「医学の歴史」pp164-165 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>、[[ウイリアム・ハーベー]]は[[血液循環]]を発見した。また、[[パラケルスス]]は医学への[[化学]]の導入を試み[[医化学]]を確立した<ref>「現代化学史 原子・分子の化学の発展」p13-14 廣田襄 京都大学学術出版会 2013年10月5日初版第1刷</ref>。
18世紀前半には、[[ヘルマン・ブールハーフェ]]が近代的な[[臨床]]の方法論を確立した<ref>「医学の歴史」pp201 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。またこの時期、ジョバンニ・モルガーニが医学と解剖学を結びつけ、[[病理解剖]]の創始者となった<ref>「医学の歴史」pp214-216 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。1796年には[[エドワード・ジェンナー]]が[[種痘]]を成功させた<ref>『医学の歴史』pp221 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。
 
1918世紀に入ると、自然科学の発展に伴い以降は近代医学も急速な発展を遂げが形成された。特に1918世紀半には、[[ロベト・コッホ]]と[[ルイマンパスツール]]によって[[細菌学ハーフェ]]が創始され、人工近代的な弱毒化による[[ワクチン臨床]]の生産や多く方法論を確立した<ref>「医学病原菌歴史」pp201 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。またこ発見時期、ジョバンニ・モルガーニ起き医学と解剖学を結びつけ、[[病理解剖]]の創始者となった<ref>「医学の歴史」pp261pp214-264216 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>、さら。1796年これに関連して[[衛生学エドワード・ジェンナー]]が[[種痘]]も進歩遂げ成功させた<ref>医学の歴史」pp273-275』pp221 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。
 
19世紀に入ると、自然科学の発展に伴い医学も急速な発展を遂げた。特に19世紀後半には、[[ロベルト・コッホ]]と[[ルイ・パスツール]]によって[[細菌学]]が創始され、人工的な弱毒化による[[ワクチン]]の生産や多くの病原菌の発見が起き<ref>「医学の歴史」pp261-264 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>、さらにこれに関連して[[衛生学]]も進歩を遂げたことで、感染症の理解と予防が進んだ<ref>「医学の歴史」pp273-275 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。
 
[[日本]]では[[安土桃山時代]]にキリスト教の伝来に伴ってわずかに西洋医学の流入があったとされるが<ref>「医学の歴史」pp285 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>、本格的な流入は江戸時代中期の1774年、オランダ語の解剖学書である『[[ターヘル・アナトミア]]』が[[杉田玄白]]や[[前野良沢]]らによって[[翻訳]]され、『[[解体新書]]』として出版されてからのことである<ref>「医学の歴史」pp290-292 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。解体新書の出版は日本の医学界に衝撃を与え、以後医学を中心に[[蘭学]]が隆盛するきっかけとなった<ref>「医学の歴史」pp293 梶田昭 講談社 2003年9月10日第1刷</ref>。
 
20世紀には、[[抗生物質]]([[ペニシリン]])の発見、ワクチンの開発、外科手術の進歩、医療画像技術([[X線]]、[[CT]]、[[MRI]])の導入などが医学を飛躍的に発展させた。21世紀に入ると、ゲノム医学、[[再生医療]]、AIやビッグデータを活用した[[精密医療]]などが注目を集めている。
 
==制度・機関==
医学の実践は、多様な制度や機関を通じて組織化されてきた。現代社会において医療の提供は、病院、診療所、公衆衛生機関、研究所などによって担われている。
 
歴史的には、古代文明においても医療は制度化されていた。例えば、[[古代エジプト]]や[[メソポタミア]]では[[神殿]]が治療の場を兼ねており、[[古代ギリシア]]のアスクレピオス神殿や、[[古代インド]]の[[アーユルヴェーダ]]施設、中国の医療体系などもその例である。[[中世ヨーロッパ]]においては[[修道院]]が病人を収容し、慈善的役割を果たした。
 
近代以降、医療制度は国家的枠組みのもとで整備され、[[医学部]]や[[大学病院|大学附属病院]]が医師の養成と研究の中心となった。さらに20世紀以降は、[[国民皆保険制度]]や[[公的医療保険]]の導入によって、医療へのアクセスが拡大した。
 
現代においては、医療機関は単なる診療の場にとどまらず、教育、研究、[[公衆衛生]]活動の拠点としても機能している。これらの制度は地域や国によって形態が異なり、[[自由診療]]主体のシステムから公的医療中心のシステムまで多様である。
 
== 通常医療と代替医療の状況 ==
近年、伝統中国医学の本場であった中国では西洋医学の医師が増加中で現代西洋医学の利用される割合が増加しつつある。
 
反対にアメリカ合衆国やヨーロッパ諸国では[[西洋医学]]の様々な問題点が取り沙汰され、[[伝統医学]]などの[[代替医療]]のほうが高く評価され利用率が増えており、アメリカ合衆国では代替医療の利用率が西洋医学のそれを超えた。無保険者だけでなく、富裕層の利用も増えている<ref>[http://www.daiwa-pharm.com/info/world/2280/ 50歳以上のアメリカ人、7割が代替医療を利用 米国NCCAM(代替医療調査センター)報告]</ref>{{リンク切れ|date=2024年10月}}
 
日本では、西洋的な思考様式に基づく医学を「西洋医学」、[[伝統中国医学]]の思考様式に基づく医学を「東洋医学」と、大きく区分して呼ぶことが一般的である。現在日本で「東洋医学」と呼ばれるものは、おおむね伝統中国医学に相当し<ref name="sitte">三浦於菟『東洋医学を知っていますか』第一章</ref>{{refnest|group="注"|ただし、中国において「東洋医学」と言うと、中国からみた東の国の医学、すなわち日本の医学のことを指すという<ref name="sitte"/>。}}、中国大陸で生まれ発達し、日本にも伝えられた<ref name="sitte" />。西洋医学が入ってくるまでは日本の主流医学であった<ref name="sitte" />。江戸時代の日本に「オランダ医学」が入ってきた時に、それらの医学を呼び分ける必要が生じ、オランダの医学に対して、中国(漢)の医学という意味で「漢方医学」と呼ぶようなことも行われるようになった<ref name="sitte" />という。明治政府の方針により西洋医学が主流の医学と位置づけられるようになり、東洋医学を行う医師も西洋医学を学ぶことになった。それ以来、日本では西洋医学の利用者数が多くなったが、現在でももっぱら[[東洋医学]]のほうを好み愛用する人々もおり、両者は並存してきた。
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=== 基礎医学 ===
人体の構造・機能、疾患とその原因など医学研究の根拠となる知見を得るための学問分野である。これらの科目は医学部、[[薬学部]]等医療系学部以外に一部の大学では[[理学部]]や[[理工学部]]等の生物学科でも開講している。
*[[解剖学]] - [[発生学]] - [[組織学]]- [[生理学]] - [[病理学]] - [[疾病学]] - [[生化学]] - [[医化分子生物学]] - [[薬理学]] - [[免疫学]] - [[微生物学]]([[細菌学]]) - [[ウイルス学]]) - [[医動物学]]・[[寄生虫学]] - [[神経科学]]
 
これらは臨床に直接携わるものではないが、現代医学の進展に不可欠である。
 
=== 臨床医学 ===
診断や治療などに直接関連する応用的な研究分野である。多岐にわたる専門領域が存在する。
* 臓器別分類
** [[循環器学]] - [[消化器学]] - [[呼吸器学]] - [[腎臓学]] - [[内分泌学]] - [[血液学]] - [[神経学]] - [[婦人科学]] - [[泌尿器科学]] - [[耳鼻咽喉科学]] - [[皮膚科学]] - [[眼科学]]
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=== 社会医学 ===
社会医学とは社会的な環境と健康について研究する医学領域。
*[[衛生|衛生学]] - [[公衆衛生]] - [[疫学]](統計医学)- [[法医学]] - [[犯罪学]]などが含まれる。
 
=== 関連分野 ===
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[[歯学]] - [[薬学]] - [[看護学]] - [[心理学]] - [[健康心理学]] - [[臨床心理学]] - [[生体機能代行装置学]] - [[作業療法学]] - [[理学療法学]] - [[性科学]] - [[抗老化医学]] - [[熱帯医学]] - [[医用生体工学]] - [[医療機器]] - [[医学教育]] - [[医学史]](医史学)- [[生命倫理学]] - [[医療人類学]] - [[病跡学]] - [[医療社会学]] - [[医療経済学]] - [[宇宙医学]] - [[臨床情報学|臨床情報工学]] - [[柔道整復師|柔道整復学]]
 
== 脚注教育と法的規制 ==
医学は専門性の高い学問であり、医師の養成には長期にわたる教育と訓練が必要とされる。現代において医師となるには、通常、大学の[[医学部]]またはそれに相当する教育機関に入学し、基礎医学および臨床医学の教育課程を修了する必要がある。その後、臨床実習(臨床研修)を経て、[[国家試験]]などの資格試験に合格することで、法的に医師として認可される。
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
 
医学教育は国や地域によって制度が異なるが、一般的には学士課程・修士課程レベルの前期教育と、卒後教育に分かれる。卒後教育には[[インターンシップ]]、レジデンシー(専門研修)、およびフェローシップ(さらに専門的な訓練)が含まれる。
== 参考文献 ==
 
* 三浦於菟『東洋医学を知っていますか』[[新潮選書]]、1996
医療の実践は、多くの国において厳格に法的規制を受けている。資格のない者が医行為を行うことは違法とされ、医師免許を持たない者による治療行為は処罰の対象となる。
* アンドルー・ワイル『心身自在』[[角川文庫]]
 
* 『ブリタニカ百科事典』
また、医師の職務は[[医療倫理]]と職業規範に基づいて行われる。これには[[ヒポクラテスの誓い]]や現代版の倫理綱領が含まれ、患者の権利尊重、守秘義務、無害性原則などが強調される。
 
== 医療倫理 ==
医療倫理は、医療の実践に伴う道徳的原則や行動規範を体系化したものであり、医学における重要な柱の一つである。古代ギリシアのヒポクラテスの誓いにその起源を持ち、長い歴史の中で発展してきた。
 
現代医療倫理は、しばしば以下の四原則に集約される。すなわち、
<br>1.'''自律尊重''' – 患者が自らの医療に関して意思決定を行う権利を尊重すること。
<br>2.'''善行''' – 患者にとって利益となる行為を行うこと。
<br>3.'''無害''' – 「まず害をなすな({{仮リンク|プリムム・ノン・ノセレ|en|primum non nocere}})」の原則に基づき、患者に不必要な危害を与えないこと。
<br>4.'''正義''' – 医療資源や治療を公平に分配すること。
 
さらに、[[インフォームド・コンセント]]、[[守秘義務]]、臨床研究における倫理的配慮、[[終末期医療]]に関する判断なども現代医療倫理の中心的課題である。これらはしばしば、技術の進歩や社会的価値観の変化に応じて議論の対象となる。
 
医療倫理の問題は、単に医師と患者の関係にとどまらず、公衆衛生や医療政策、医療資源の配分など社会全体の文脈に広がっている。そのため、医療倫理は[[哲学]]、[[法学]]、[[社会学]]とも密接に結びついて発展している。
 
== 質・効率・アクセス ==
現代医療は、その質、効率、およびアクセス可能性において絶えず評価と改善が試みられている。
 
医療の質は、安全性、効果、患者中心性、適時性、効率性、公平性といった要素によって定義されることが多い。質の向上には、[[エビデンスに基づく医療]](EBM)の導入、[[医療事故]]防止、臨床ガイドラインの策定と遵守が重要とされる。
 
効率性は、限られた医療資源を最大限に活用し、無駄を最小化することを目的とする。これは、医療費の抑制と患者[[アウトカム]]の改善を両立させるための中心的課題である。医療の効率を高めるために、医療情報システム([[電子カルテ]]、[[遠隔医療]])の普及や、[[予防医療]]への投資が進められている。
 
医療へのアクセスは、医療サービスを受ける機会の公平性を指す。地域格差、経済格差、社会的障壁は、医療アクセスを阻害する要因となるため、各国で国民皆保険制度、医療費補助、公衆衛生活動などが整備されてきた。特に低所得国では、基礎的医療サービスの提供が重要な国際的課題とされている。
 
=== 遠隔医療 ===
[[遠隔医療]]とは、通信技術を用いて、地理的に離れた場所にいる患者と医療者が診断、治療、健康相談、モニタリングなどを行う医療形態である。
 
遠隔医療は、電話やビデオ通話を利用した診療、遠隔画像診断、遠隔モニタリング(心電図や血圧などの生体データの送信)、さらにはAIによる診断支援などを含む。これにより、医療資源が限られた地域、僻地、戦場、宇宙空間などにおいても医療提供が可能となる。
 
近年はインターネットとモバイル端末の普及により、遠隔医療が急速に拡大している。特に[[COVID-19パンデミック]]の際には、感染リスクを回避する手段として遠隔診療の利用が世界的に増加した。
 
遠隔医療には、医療アクセスの改善、移動コスト削減、慢性疾患管理の効率化といった利点がある一方、プライバシー保護、診断の正確性、技術的インフラの不足、法規制などの課題も残されている。
 
==栄誉・賞==
===ノーベル生理学・医学賞===
{{See also|ノーベル生理学医学賞}}[[アルフレッド・ノーベル]]の遺言で指定された5分野の一つで「生理学及び医学の分野で最も重要な発見を行なった」人に授与される。主な受賞者には、神経構造の研究とニューロン説提唱の[[S.ラモン・イ・カハール]](1904年度)、[[ペニシリン]]を発見した[[A.フレミング]](1945年度)、DNAの[[二重らせん構造]]を発見した[[ジェームズ・ワトソン]]と[[フランシス・クリック]](1962年度)、日本人唯一の同賞受賞者[[利根川進]](1987年度)等がいる<ref>{{Cite web |title=ノーベル生理学・医学賞index |url=https://www.kahaku.go.jp/special/past/nobel/plus/medicine/index.html |website=www.kahaku.go.jp |access-date=2023-10-02}}</ref>。
 
===アルバート・ラスカー医学研究賞(ラスカー賞)===
{{See also|アルバート・ラスカー医学研究賞}}
「アルバート・ラスカー医学研究賞」は、[[医学賞]]の中でも「ノーベル(生理学・医学)賞に最も近い賞」と言われる賞である<ref>{{Cite web |title=ノーベル生理学・医学賞にカタリン・カリコ氏とドリュー・ワイスマン教授 新型コロナウイルスワクチンの開発に貢献 |url=https://web.archive.org/web/20231017154358/https://news.livedoor.com/article/detail/25095160/ |website=ライブドアニュース |access-date=2023-10-02 |language=ja}}</ref><ref name=":0">{{Cite web |title=ラスカー賞(ラスカーショウ)とは? 意味や使い方 |url=https://kotobank.jp/word/%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E8%B3%9E-192519 |website=コトバンク |access-date=2023-10-02 |language=ja |last=デジタル大辞泉,日本大百科全書(ニッポニカ),知恵蔵mini}}</ref>。医学で大きな貢献をした人に与えられる米国医学界最高の賞であり、[[ラスカー夫妻]]が1946年に創設した。[[アルバート・ラスカー基礎医学研究賞]]、[[ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞]]、[[メアリー・ウッダード・ラスカー公益事業賞]]、[[ラスカー・コシュランド医学特別業績賞]]の4部門から構成される<ref name=":0" />。日本では、1982年に[[花房秀三郎]]が初受賞し、[[利根川進]]、[[山中伸弥]]の2名のノーベル生理学医学賞ほ受賞者もラスカー賞を受賞している。2014年9月には、[[森和俊]](京都大教授)がラスカー基礎医学研究賞を受賞し、7人目の日本人ラスカー賞受賞者となった<ref name=":0" />。
 
== 関連項目 ==
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* [[日本心身医学会]]
* [[国際医学団体協議会]]
* [[健康科学]]
* [[ヘルスケア]]
* [[公衆衛生]]
* [[生命倫理学]]
* [[薬学]]
* [[歯学]]
* [[看護学]]
* [[獣医学]]
* [[代替医療]]
* [[医療経済学]]
* [[医療社会学]]
* [[国際保健]]
 
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
* 三浦於菟『東洋医学を知っていますか』[[新潮選書]]、1996
* アンドルー・ワイル『心身自在』[[角川文庫]]
* 『ブリタニカ百科事典』
 
== 外部リンク ==
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{{Wikibooks}}
* [https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0 MSDマニュアル](医学事典)
* [https://igaku-love.hatenadiary.org/ 医学ニュース一覧](医学処)
* [https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1124321 医学文化年表] 藤井尚久(日新書院、1942)
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