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== 症候 ==
気分変調症の特徴の一つに、長期間におよぶ抑うつ気分があり、これに不眠または過眠、疲労感または低活動性、食行動の変化(増加または減少)、易怒性または過剰な怒り、自尊心の低下、絶望感といった症状のうち少なくとも二つ以上を合併することである。集中力低下または決断の困難は、もう一つの可能な症状として扱われる。軽症の気分変調症は、ストレスからの退却と失敗する機会の回避につながりうる。より重症の気分変調症では、逃避機構として長期の感情鈍麻を起こしたり日常の活動から退却しうる。罹病者は普段の活動や娯楽をほとんど楽しめなくなる。気分変調症の診断は、症状が目立たないため難しく、患者の社会状況の中に症状が埋もれてしまうことがあり、他者がそれら症状を検知することが困難になる。感情鈍麻は外見上、声の単調性あるいは重大な人生の出来事に対する反応の欠如の形で観察されることがある。<ref>[https://www.healthcentral.com/article/depression-symptoms-feeling-numb "Depression Symptoms: Feeling Numb"]. HealthCentral.</ref>
 
集中力低下または決断の困難は、もう一つの可能な症状として扱われる。軽症の気分変調症は、ストレスからの退却と失敗する機会の回避につながりうる。より重症の気分変調症では、逃避機構として長期の感情鈍麻を起こしたり日常の活動から退却しうる。
しかしながら、これは類似の症状を呈する別の障害のものと間違えられることがある。またその一方で、気分変調症が他の精神障害と同時に起こることもあり、これら障害間での症状重複のために気分変調症の存在確定に一定の複雑さを生じる。<ref name=":2">Sansone, R. A. MD; Sansone, L. A. MD (2009). [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2719439 "Dysthymic Disorder: Forlorn and Overlooked?"]. ''Psychiatry''. '''6''' (5): 46–50. {{PMC|2719439}}, {{PMID|19724735}}</ref>気分変調症では併存症が高頻度で認められる。自殺行動も気分変調症にみられる大きな問題である。うつ病、[[パニック障害]]、[[全般性不安障害]]、アルコール・薬物の乱用、および[[パーソナリティ障害]]の徴候を検索することが肝要である。<ref>Baldwin, Rudge S.; Thomas S. (1995). "Dysthymia: Options in Pharmacotherapy". ''Practical Therpeutics''. '''4''' (6): 422 to 430, {{doi|10.2165/00023210-199504060-00005}}</ref>
 
罹病者は普段の活動や娯楽をほとんど楽しめなくなる。気分変調症の診断は、症状が目立たないため難しく、患者の社会状況の中に症状が埋もれてしまうことがあり、他者がそれら症状を検知することが困難になる。
 
感情鈍麻は外見上、声の単調性あるいは重大な人生の出来事に対する反応の欠如の形で観察されることがある。<ref>[https://www.healthcentral.com/article/depression-symptoms-feeling-numb "Depression Symptoms: Feeling Numb"]. HealthCentral.</ref>
 
しかしながら、これは類似の症状を呈する別の障害のものと間違えられることがある。またその一方で気分変調症が他の精神障害と同時に起こることもあり、これら障害間での症状重複のために気分変調症の存在確定に一定の複雑さを生じる。<ref name=":2">Sansone, R. A. MD; Sansone, L. A. MD (2009). [https://wwwpmc.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2719439/ "Dysthymic Disorder: Forlorn and Overlooked?"]. ''Psychiatry''. '''6''' (5): 46–50. {{PMC|2719439}}, {{PMID|19724735}}</ref>気分変調症では併存症が高頻度で認められる。自殺行動も気分変調症にみられる大きな問題である。うつ病、[[パニック障害]]、[[全般性不安障害]]、アルコール・薬物の乱用、および[[パーソナリティ障害]]の徴候を検索することが肝要である。<ref>Baldwin, Rudge S.; Thomas S. (1995). "Dysthymia: Options in Pharmacotherapy". ''Practical Therpeutics''. '''4''' (6): 422 to 430, {{doi|10.2165/00023210-199504060-00005}}</ref>
 
== 原因 ==
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=== 二重うつ病 ===
二重うつ病は、既存の気分変調症を下地にうつ病エピソードを経験するときに起こる。患者はうつ病エピソードを自らの人格の自然な一部分、ないしは人生の一部分であり、かつコントロール不能であるとめるため治療は難しい。気分変調症患者は増悪する症状を不可避なものとみなすことがあり、そうすると治療介入が遅れうる。仮に彼らが治療を求めたとしても、うつ病の症状だけが語られ気分変調症の症状が語られないと、治療は十分効果的にならないことがある。二重うつ病の患者は健常者よりも有意に高度の絶望感を訴えるため、メンタルヘルス治療者が患者の治療に当たる際には着目すると有用である。それに加え、認知療法は二重うつ病患者に対処する際、ネガティブな思考パターンを変え、自身と自身の環境を見る新しい視点を提供するために有効である<ref name=":4">[http://www.webmd.com/depression/double-depression Double Depression: Definition, Symptoms, Treatment, and More]. Webmd.com (2012-01-07). Retrieved on 2012-07-01.</ref>。
 
二重うつ病の最もよい予防法が気分変調症の治療であることが示唆されている。抗うつ薬と認知療法の併用は抑うつ症状の発症を防ぐのに有効でありうる。それに加え、運動と良好な[[睡眠衛生]](例えば睡眠パターンの改善など)は気分変調症状治療と増悪予防に相加的効果を有すると考えられている<ref name=":4" />。
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[[機能的MRI]]の技術を用いて気分変調症患者群と非患者群を比較した別の研究では、この障害の神経学的指標をさらに支持する結果が得られた。具体的には、脳の複数の領域が異なる機能を示したのである。気分変調症患者では、[[扁桃体]](恐怖などマイナスの感情の処理に関与)、[[島皮質]](悲しみの感情に関与)および[[帯状回]](注意と感情との橋渡し役を果たす)における活動性の亢進が観察された<ref>Ravindran, A. V., Smith, A. Cameron, C., Bhatal, R., Cameron, I., Georgescu, T. M., Hogan, M. J. (2009). "Toward a Functional Neuroanatomy of Dysthymia: A Functional Magnetic Resonance Imaging Study". ''Journal of Affective Disorders''. '''119''' (1–3): 9–15. {{doi|10.1016%2Fj.jad.2009.03.009}}, {{PMID|19351572}}</ref>。
 
健常者と気分変調症患者とを比較したある研究では、さらに他の生物学的指標が示唆された。自らの感情に関わるどのような出来事が将来予期されるか聞いたところ、健常者はネガティブな形容詞の使用がより少なかったのに対し、気分変調症患者はポジティブな形容詞の使用が少ないという結果が得られた。さらに、健常者は気分変調症患者と比べ、ポジティブ、中立、ネガティブのいずれの出来事予期に対しても神経学的により強い反応を示すことが分かった。このことは、気分変調症患者が感情鈍麻を学習することで過剰にネガティブな感情から自己防衛する神経学的な証拠となる<ref>Casement, M. D.; Shestyuk, A. Y.; Best, J. L.; Casas, B. R.; Glezer, A.; Segundo, M. A.; Deldin, P. J. (2008). [https://wwwpmc.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2709790/ "Anticipation of Affect in Dysthymia: Behavioral and Neurophysiological Indicators"]. ''Biological Psychiatry''. '''77''' (2): 197–204. {{doi|10.1016/j.biopsycho.2007.10.007}}, {{PMC|2709790}}, {{PMID|18063468}}</ref>。
 
気分変調症を含むすべての型のうつ病における遺伝的基盤を示すエビデンスがある。それは、一卵性双生児のほうが二卵性双生児よりも、共にうつ病を有する確率が高いというもので、気分変調症が部分的には遺伝によって起こるとする考えが支持されている<ref>Edvardsen, J.; Torgersen, S.; Roysamb, E.; Lygren, S.; Skre, I.; Onstad, S.; and Oien, A. (2009). "Unipolar Depressive Disorders have a Common Genotype". ''Journal of Affective Disorders''. '''117''': 30–41, {{doi|10.1016/j.jad.2008.12.004}}</ref>。
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== 治療 ==
[[英国国立医療技術評価機構]](NICE)の成人を対象とした2005年の臨床ガイドラインでは、治療について一般的な[[うつ病]]と区別をしておらず<ref name="nicecg90">{{Cite report|title=CG90 - Depression in adults: The treatment and management of depression in adults |publisher=[[英国国立医療技術評価機構]] |date=August 2009-08 |url=https://www.nice.org.uk/guidance/cg90 |at=Introduction, Recommendation chapt.1.6 }}</ref>。うつ病性障害のサブタイプや患者の個性に基づいて治療を変えることへの根拠は乏しい(little evidence)として、様々な治療戦略を取っ換え引っ換えし続けることのないよう述べている<ref name="nicecg90" />。またNICEの児童青年を対象とした臨床ガイドラインでは、気分変調症は中等症のうつ病と同じ扱いであり、[[非指示的療法]]、グループによる[[認知行動療法]]、専門理論に基づいた[[セルフヘルプ]]を行うとされている<ref> {{cite report |publisher=[[英国国立医療技術評価機構]] |title=CG28: Depression in children and young people |___location=London |year=2005 |url=http://www.nice.org.uk/CG28 |at=Recommendations chapt.1.2}}</ref>。
 
精神福祉の情報サイトのサイコ・セントラルでは、薬物療法(抗うつ薬)と心理療法の併用が最善の治療法だとされている<ref name=":6"/>。他のサイトでは[[対人関係療法]]と抗うつ薬の併用が最も有効であったと記載されている<ref name=":7"/>。多施設で行われた研究の2000年の報告では、[[認知行動療法]]のみまたは薬物療法のみに対する奏功率は約48%であったのに対し、併用療法では奏功率は約66%であった。<ref name=":6" />
 
気分変調症の人々が治療を探し求める理由として、抑うつ気分を理由にするのではなく、ストレスの増加や、困難な状況が起きているのでということがよくある<ref name=":6">John M. Grohol (2008), [http://psychcentral.com/lib/2008/dysthymia-treatment/ Dysthymia Treatment]. psychcentral.com</ref>。それはこの障害が慢性的であるためであり、また抑うつ気分が自らの性格であると認識してしまうからだと仮説しうる<ref>[http://www.alternativedepressiontherapy.com/symptoms-of-depression.html Common Signs and Symptoms of Depression]. alternativedepressiontherapy.com</ref>。こうして、彼らはストレスが溜まって初めて症状の改善を求めて臨床家を訪れる。気分変調症の最初の診断は通常、[[DSM-IVのための構造化面接]]の施行によって行われる<ref name=":6" />。この時点において、臨床家の支援を受けつつ、一連の治療について話し合いまた選択する。特定の治療法を選択する際には、患者の人生に関わることで治療に影響しうる因子を全て考慮に入れることが重要であとなる。それに加え、もしある治療がある患者に有効でなければ、別の治療を試すこともできる。
 
=== 心理療法 ===
認知行動療法が一般的に推奨される<ref name=":6" />。心理的手法ではほかに[[対人関係療法]]や、短期や長期の力動的精神療法も有効とされており、集団精神療法はエビデンスが限られている<ref name=":7">''[https://emedicine.medscape.com/article/290686-treatment Dysthymic Disorder~treatment]'' at eMedicine</ref>。気分変調症と診断された人々にとっては、物事によりよく対処するスキルを育てたり、症状の大元の原因を探究したり、(自分は価値のない人間だ、といった類の)誤った信念を変えることが役立つかもしれない<ref name=":6" />。
 
また[[セルフヘルプ]]や、[[自助グループ]]の活用も気分変調症の治療に有益でありえ、後者ではもし問題が薬物乱用となって現れているならば、[[アルコホーリクス・アノニマス]]のようなグループもある<ref name=":6" />。これらの方法を通して、自尊心、自信、人間関係の問題やパターン、自己主張のスキル、[[認知再構成]]などに取り組み強化することができる<ref name=":6" />。
 
==== 認知行動療法 ====
認知行動療法においては、認知再構成法や問題解決法、行動活性化などの手法が用いられる<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠心書房, 34-67頁.</ref>。
 
認知再構成法では、認知面にアプローチし、抑うつ的な[[自動思考]]を新たな思考に変えていけるよう支援する。治療者は、物事の良い面や希望の持てる事実、本人の長所などを提示することを通して、自動思考をとらえなおした後、機能的な新たな思考を提案し、本人をサポートする<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠心書房, 57-58・65-66頁.</ref>。
また[[セルフヘルプ]]や、自助グループの活用も気分変調症の治療に有益でありえ、後者ではもし問題が薬物乱用となって現れているならば、[[アルコホーリクス・アノニマス]]のようなグループもある<ref name=":6" />。これらの方法を通して、自尊心、自信、人間関係の問題やパターン、自己主張のスキル、[[認知再構成]]などに取り組み強化することができる<ref name=":6" />。
 
また問題解決法では、行動面にアプローチし、気分転換や楽しめるこ変調の一因をすなっていことなど問題含め解決し行動や活動を活性化させるこいく。本人治療者が協同で、結果的に気分が改善されることから次の手順を行っていく。治療者は、本人が活動性問題解決法の手順高められ身につけその後のさまざまな問題にも対処できるよう治療者がサポートることも大切である<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠心書房, 42・4648-47・56頁.</ref>。この際、活動と気分などを記録する活動モニタリングシートを用いることがある<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠心書房, 5667頁.</ref>。
 
# 困っていることを具体的に書き出してみる
認知行動療法においては、認知再構成法(認知にアプローチし、抑うつ的な自動思考を新たな思考に変えていく。治療者は、悲観しなくても良いことを示す事実や本人の長所を提示したりして自動思考をとらえなおした後、機能的な新たな思考を提案し、本人をサポートする)や問題解決法(行動にアプローチし、気分変調の一因となっている問題を解決していく。本人は治療者とともに、1. 困っていることを具体的に書き出してみる、2. 問題が解決または改善された状況を具体的にイメージして目標を設定する、3. 問題の解決・改善のための具体的な方法を案出する、4. それらの方法の実行可能性・有効性を検証し、用いる方法を選択する、5. その方法の具体的な実行計画を立てる、6. 実行し、その結果がよければ継続し、思ったように解決できなければほかの方法を試す、といったプロセスで行われる。治療者は、本人が問題解決法の手順を身につけその後のさまざまな問題にも対処できるようになるよう、サポートする)といった手法である<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠心書房, 57-58・65-66頁.</ref>。
# 問題が解決または改善された状況を具体的にイメージして目標を設定する
# 問題の解決・改善のための具体的な方法を案出する
# それらの方法の実行可能性・有効性を検討し、用いる方法を選択する
# その方法の具体的な実行計画を立てる
# 実行し、その結果がよければ継続し、思ったように解決できなければ他の方法を試す
[[行動活性化]]では、気分転換や楽しめる趣味などを含めて行動や活動を活性化させることで、結果的に気分が改善されることから、本人が活動性を高められるようサポートする<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠心書房, 42・46-47・56頁.</ref>。その際、活動や気分などを記録する活動モニタリングシートを用いることがある<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠心書房, 56頁.</ref>。
 
=== 薬物療法 ===