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'''仕事関数'''(しごとかんすう、{{lang-en-short|work function}})は、物質[[表面]]において、表面から1個の[[電子]]を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギーのこと。
[[en:Work function]]
 
== 定義 ==
'''仕事関数'''('''Work function'''):[[表面]]において、表面から1個の[[電子]]を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギーのこと。この時、表面上の空間は真空であるとする。N個の電子からなる表面系の基底状態の全エネルギー(場合により自由エネルギー)をE<SUB>tot</SUB>(N)とすると、最初電子がN+1個あった表面(E<SUB>tot</SUB>(N+1))から電子を1個無限遠方まで取り出すとすると(無限遠方にある電子状態を真空準位V(∞)とすると、系全体として、E<SUB>tot</SUB>(N)+V(∞)となる)、仕事関数Wは、
電子が ''N'' + 1 個ある表面系の基底状態の全エネルギー(場合により自由エネルギー)を ''E''<sub>tot</sub>(''N'' + 1)とする。
表面上の空間は真空であるとすると、系全体のエネルギーは''E''<sub>tot</sub>(''N'' + 1)である。
ここで、この表面系から電子を1個無限遠方まで取り出し、電子が''N'' 個になったときを考える。
N個の電子からなる表面系の基底状態の全エネルギーを ''E''<sub>tot</sub>(''N'') とし、無限遠方にある電子状態を[[真空準位]] ''V''(∞)とすると、系全体としては''E''<sub>tot</sub>(''N'') + ''V''(∞) となる。
よって仕事関数 ''W'' は、次のように書ける。
:<math> W = -E_{\mathrm{tot}}(N+1) + \{ E_{\mathrm{tot}}(N) + V(\infty) \} </math>
 
== 性質 ==
<math> W = -E_{tot}(N+1) + \{E_{tot}(N) + V(\infty) \} = - {\partial E_{tot} \over {\partial N} } + V(\infty) = - \mu + V(\infty) </math>
となる。ここでμは[[化学ポテンシャル]]であをμとす(Nと、''N'' が十分大きければ、<math> E_{\mathrm{tot}}(N+1) - E_{\mathrm{tot}}(N) = {\partial E_{\mathrm{tot}} \over/ {\partial N} } = \mu </math>であるため、次のように表せる<BR>
:<math> W = -E_{tot}(N+1) + \{E_{tot}(N) + V(\infty) \} = - frac{\partial E_{\mathrm{tot} \over }}{\partial N} } + V(\infty) = - \mu + V(\infty) </math>
温度が絶対零度 (''T'' = 0 K) なら、
:<math> \epsilon_Fepsilon_{\mathrm =F} \,= \mu </math>
 
となり(ε(''ε''<SUBsub>F</SUBsub>は[[フェルミエネルギー|フェルミ準位]])、仕事関数は真空準位とフェルミ準位とのエネルギー差となる。表面から電子を取り出す場合、それは熱(→[[熱電子]])であったり、光の吸収や原子、イオンなどの衝突などによって電子が励起されて飛び出してくる。飛び出す電子はいろいろなエネルギー準位から出てくるが、仕事関数は定義によりその中で最小のものとなる。従って真空準位とフェルミ準位 (''T'' = 0 K) との差が仕事関数となる。表面の電子状態が[[バンドギャップ]]を持つ場合は、バンドギャップ中にあるフェルミ準位と真空準位とのエネルギー差が仕事関数となる。<BR>
となる。ここでμは[[化学ポテンシャル]]である(Nが十分大きければ、<math> E_{tot}(N+1) - E_{tot}(N) = {\partial E_{tot} \over {\partial N} } = \mu </math>)。<BR>
温度が絶対零度(T = 0 K)なら、
 
真空準位は常にフェルミ準位より高いところにある。真空準位がフェルミ準位より低くなること(つまり負の仕事関数)は、表面から(何の励起もなしに)自発的に電子が出て行くことになりあり得ない。
<math> \epsilon_F = \, \mu </math>
 
金属元素表面での仕事関数の値は、およそ2–6 [[電子ボルト|eV]]程度である。金属単体として最も仕事関数が小さいのは[[セシウム]]で、1.93 eVである。
となり(ε<SUB>F</SUB>は[[フェルミ準位]])、仕事関数は真空準位とフェルミ準位とのエネルギー差となる。表面から電子を取り出す場合、それは熱(→[[熱電子]])であったり、光の吸収や原子、イオンなどの衝突などによって電子が励起されて飛び出してくる。飛び出す電子はいろいろなエネルギー準位から出てくるが、仕事関数は定義によりその中で最小のものとなる。従って真空準位とフェルミ準位(T = 0 K)との差が仕事関数となる。表面の電子状態が[[バンドギャップ]]を持つ場合は、バンドギャップ中にあるフェルミ準位と真空準位とのエネルギー差が仕事関数となる。<BR>
真空準位は常にフェルミ準位より高いところにある。真空準位がフェルミ準位より低くなること(つまり負の仕事関数)は、表面から(何の励起もなしに)自発的に電子が出て行くことになりあり得ない。
 
仕事関数の値は、表面における原子の種類、面の方位や、構造、或いは他の原子が吸着していることなどに強く依存する。これは別の言い方をすれば、仕事関数は表面の電子状態に強く依存している量である。その意味で、仕事関数は表面の研究において非常に重要な物理量の一つである。<BR>
実験的には、ケルビン法(振動容量法)などで測定される。
 
実験的には、[[ケルビン法]](振動容量法)、熱電子放出や光電子放出実験などで測定される。
<B>(電気陰性度との関係)</B><BR>
ポーリングの[[電気陰性度]]をχとすると、いろいろな単体元素表面の仕事関数とχには次のような相関関係がある(単位はeV:[[電子ボルト]])。
 
<B>(== 電気陰性度との関係)</B><BR> ==
<math> W = \, 2.27 \chi + 0.34 </math>
ポーリングの[[電気陰性度]]を ''χ'' とすると、いろいろな単体元素表面の仕事関数と ''χ'' には次のような相関関係がある(単位はeV:[[電子ボルト]])eV)
 
:<math> W = \, 2.27 \chi + 0.34 </math>
 
勿論、実際の値にはばらつきがあり、上式にあまり当てはまらないものもある。
 
== 熱電子放出と仕事関数の関係 ==
【関連用語】 [[電子親和力]]
{{see also|電子親和力}}
熱電子放出強度を''I''とすると仕事関数''W''とは、
 
:<math> I = \alpha T^2 e^{-W / kT} </math>
 
の関係が成り立つ。''α'' は適当な定数、''T'' は温度、''k'' はボルツマン定数。この関係から、熱電子放出強度とその温度依存性を測定すれば仕事関数を求めることができる。
 
== 参考文献 ==
単体元素の仕事関数に関しては、以下の文献にまとめられている。
* [[doi:10.1063/1.323539|Herbert B. Michaelson, "The work function of the elements and its periodicity". J. Appl. Phys. 48, 4729 (1977).]]
 
==関連記事項目==
* [[表面物理学]]
* [[物性物理学]]
* [[プランク定数]]
* [[シュテファン=ボルツマンの法則]]
* [[レイリー・ジーンズの法則]]
* [[ヴィーンの放射法則]]
* [[禁制帯幅]]
 
{{Normdaten}}
*[[表面物理学]]
{{DEFAULTSORT:しことかんすう}}
*[[物性物理学]]
[[Category:固体物理学]]
[[Category:関数]]
[[Category:電子]]