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[[国交省]]が、建設工事受注動態統計調査のために業者から提出された調査票の数値を書き換え、不適切な処理をしていた問題<ref name=":kensho">
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| url = https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001459557.pdf
| title = 建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書
| date = 2022-01-14
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| publisher = 建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会
| format = PDF
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| accessdate = 2023-05-28
}}
</ref>。
== 建設工事受注動態統計調査と調査票について ==
1947年(昭和22年)3月26日、[[統計法]](昭和22年法律第18号)が公布された。
1956年(昭和31年)4月から四半期毎の調査として"建設工事着工統計調査(公共工事・民間土木工事)"は開始された。
1960年(昭和35年)4月には、調査対象工事を公共機関から発注された建設工事に限定し、名称も"公共工事着工統計調査"に変更された。
1969年(昭和44年)4月分調査から、調査サイクルが従来の四半期に一度の調査から月次調査に変更された<ref>
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| url = https://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/chojou/gai_koch.htm
| title = 公共工事着工統計の概要
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| publisher = 国土交通省
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| doi =
| accessdate = 2023-05-28
}}
</ref><ref group="注釈">調査票が遅れて提出される原因のひとつと考えられる。</ref>。
2000年(平成12年)4月に"建設受注統計調査"に再編・統合された。
建設工事統計は工事額のストックとフローの両面から活用される。工事の着工額あるいは受注額が先行きの見通しを捉える際に有用であり、これが受注統計調査により把握される。一方、受注工事の毎月の出来高は雇用の動向や資材の動きに密接に関連し、公共工事や民間設備投資の進捗を捉える上で重要であるが、進捗状況を統計調査から直接把握することは困難であり、建設受注統計調査にもとづく着工額等のストックデータに工事の種類ごとの進捗状況の分布等を使用して推計される。このように加工して作成された統計情報が建設総合統計として公表され、広く利用されている<ref name=":kensho" /><ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P7</ref>。
調査票は国交省が作成したものを事業者に配布、記入を依頼している。事業者は記入をし、調査対象月の翌月の10日までに、各都道府県または国交省に提出する。各都道府県は事業者から提出された調査票を国交省に送付する<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P10</ref>。
調査票の平均回収率は平成12年度に約67%であったが平成20年度には60.2%に低下している<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P34</ref>。
建設受注統計は、2000年(平成12年)4月からは建設省建設経済局調査情報課が、2001年(平成13年)1月からは国交省総合政策局情報管理部建設調査統計課が、2007年(平成19年)7月からは同省同局同部情報安全・調査課建設統計室が、2008年(平成20年)10月からは同省同局同課建設統計室が、2011年(平成23年)7月からは同省同局情報政策課建設統計室が、2014年(平成26年)4月から2022年1月現在に至るまでは同省同局同課建設経済統計調査室が所管している(以下、これらの建設受注統計の所管部署をまとめて「本件統計室」という。)。
== 書き換えと過月分調査票の当月合算処理 ==
書き換え行為は、その開始時期は明らかではないが、2000年(平成12年)4月に建設受注統計調査に再編・統合される以前の「公共工事着工統計調査」(1960年4月から2000年4月)及び「民間土木工事着工調査」(1956年4月から1960年3月)の時代から行われていた。
調査対象となる建設業者の中には、調査に協力的でなかった者もあり(とりわけ中小零細企業は期日どおり調査票を提出していたわけではなく)、複数月分の調査票をある月にまとめて提出する場合があった。
遅れて提出された調査票(過月分調査票)は、そのままでは統計に算入することができない。その開始時期は明らかではないが、'''本件統計室は調査票を書き換えて当月(提出された月)に合算することにし、各都道府県に書き換え作業を行うよう指示した'''。
歴代の係長は、"遅れて提出された本件調査票の数値(個別工事内訳の数値を含む。)を廃棄せずに有効活用するには本件合算処理以外の方法がなく、また、合算(欠測値の補完)をしないことにより年間の受注額が実数値よりも少なくなることを懸念した"旨供述している<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P14</ref>。
過月分調査票の当月合算処理をすると、当月の受注額合計の推計値は真の値に遠くなる。しかし年間受注額の推計値は真の値に近くなるという効果があった<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P36</ref>。
== 欠測値の補完と二重計上 ==
2009年(平成21年)3月、「公的統計の整備に関する基本的な計画」が閣議決定され、本件統計室はそのころから統計精度向上に向けての検討を開始<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P15</ref>。
'''2013年(平成25年)4月分以降'''、「公的統計の整備に関する基本的な計画」における公的統計の質的向上の要請を踏まえ、建設受注統計調査についてはその受注高が建設工事施工統計調査の完成工事高と比べ相当程度小さい推計値(平成19年度実績で約6割)となっていることから、'''推計手法を変更した'''。
回収率が 100%に満たない場合、かつて多くの府省庁の統計で行われていた、未回収の調査票に記入されるべき受注額(欠測値)を 0 とする推計方法を適用すると、受注額が過小推計されやすくなる。すなわち、調査票が回収された事業者の受注額に抽出率の逆数を乗じて合計しても、真の受注額合計よりも小さくなる可能性が高くなる。もし、欠測値が実際に 0 であれば、この推計方法によって受注額合計を偏りなく推計できるが、欠測値が正であれば、過小に推計する。そして、回収率が低いほど、そして欠測している値が大きいほど、偏りは大きくなる<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P34</ref>。
母集団への復元を実施するに当たっては、各標本毎に定められる抽出率の逆数及び回収率の逆数を各標本の調査結果に乗じることとし、この作業は毎月の回収率に応じて実施している<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P28</ref>。
欠測による影響の調整方法の適否は、回答発生の仕組みに関する想定の適否に依存する。その想定が実際と近ければ推計値の偏りを修正できる。もちろん、その想定が完全に正しいとは限らない。しかし、欠測の影響を処理しないことは欠測値に 0 を代入して集計することに相当し、それ自体、欠測の発生について強い仮定を設けることになる。もし、欠測の影響を処理しなければ、推計値が過小となる可能性が高い<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P36</ref>。
つまり、'''工事受注実績がありながら調査に回答しなかった事業者(期日に間に合わなかった過月分調査票を含む)について、回収率の逆数と抽出率の逆数を用いて欠測値を補完することにした'''<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P16 P17 P36</ref>。
'''この推計方法を検討・変更した室長、担当課長補佐は、担当係が過月分調査票を当月分に合算処理していたことを認識していなかったか、この推計方法を導入することで二重計上が生じることを認識していなかったと考えられる'''。
本件統計室の係員は、回収率の逆数を乗じて補正をしていることに加え、過月分合算を承知していたのであるが、そのことに疑問を持たずに(二重計上が生じることを認識せずに)本件合算処理を継続した<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P39</ref>。
実務を担当していた本件統計室の係長以下の者と、欠測値の推計による補完方法を検討していた課長補佐以上の者の間で十分な情報共有がなされておらず、いわば情報の分断が生じていた<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P40</ref>。
そのため、'''2013年(平成25年)4月分から2021年3月分まで、欠測値の補完と過月分調査票が当月合算処理したものとで二重に加算され、過大推計となっていた'''<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P36</ref>。
== 課長補佐の報告・会計検査院の調査・国交省課長への報告 ==
[[2019年]](平成31年/令和元年)5月頃、担当課長補佐は本件合算処理について認識し、疑問を抱き、室長及び企画専門官に本件合算処理について報告した。6月頃、室長及び企画専門官は本件合算処理によってどの程度実態と乖離するか検証するよう指示した。各都道府県に対して本件合算処理を取りやめるよう指示されることはなかった。
2019年11月、会計検査院が「公的統計の整備に係る業務の実施状況等について」調査。
本件統計室は会計検査院の知れるところとなった本件合算処理について、どのように対応すべきか検討を開始。
この頃、室長が作成したと思われるメモによれば、遅くともこの頃には室長も本件二重計上を認識したと考えられる。
室長、企画専門官及び担当課長補佐は、情報政策課の職員に対応を相談。
室長らは本件合算問題及び本件二重計上問題を、令和元年12月24日に課長へ報告・相談。同月27日に政総審へ報告・相談。
2020年1月、課長は各都道府県に対して過月分合算処理をやめるよう指示すること、公表数値の検証作業を開始することを決定。
1月下旬頃、課長の判断により、統計の継続性の観点から、過月分を全く入れない場合には数値の変動が激しくなるとの理由で、過月分は前月分のみを入れるが個別工事が完了したものは除外するとの方針を採用することに決まった。過月分調査票の当月合算処理については検討が続いた<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P25</ref>。
2020年1月分から、各都道府県は過月分合算処理をせず本件調査票をそのまま国交省に送付するよう指示した。
また、統計室において本件調査票の元の数値を残し復元することが出来るようマスキングテープを貼った上で本件合算処理を行うこととした。
しかし、一部の都道府県で書き換えが継続されていた可能性がある<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P43</ref>。
2020年(令和2年)1月、本件統計室は会計検査院に対し、"各都道府県に対する合算処理の取りやめを指示し(過月分を合算していない調査票をそのまま送付させ、本件統計室で合算処理を行うようにし)たのは、統計の精度向上の一環として取扱いを見直したものであって会計検査院の調査を理由に取りやめさせたわけではない"と説明している<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P25 P26</ref>。
2020年(令和2年)9月、室長が総務省統計委員会担当室の政策企画調査官らと面談。建設工事施工統計の欠測値補完の話題に続けて、建設受注統計についても話が及び、暫定値と確定値を公表する2段階公表化について相談した<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P30</ref>。
'''2021年(令和3年)4月分から、合算措置廃止'''。本件統計室は、令和3年4月分の集計から、過月分を合算しない方法、つまり当月のみを計上する方法に切り替えることとし、欠測値の補完については、回収率の逆数を乗じるほか、建設工事施工統計調査における未回答業者の新たな欠測値補完方法に基づく乗率を乗じる方法により計算した結果を公表した。
この際、同じく過月分調査票の数値を全く合算しない方法で、令和3年4月分から変更された推計方法により(上記のマスキングテープを剥がして)再計算した2020年(令和2年)1月分から令和3年3月分の数値も併せて公表された<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P31</ref>。
2021年(令和3年)9月、会計検査院の報告書『公的統計の整備に関する会計検査の結果について』の中で、本件合算処理の問題が指摘された。二重計上については指摘されなかった<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P31 P32</ref><ref>
{{Cite news
| author = 後藤遼太 浦野直樹
| title = 統計不正、検査院が国会報告せず 「行間に書き込んだつもり」
| newspaper = 朝日新聞
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| language = JP
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| agency =
| date = 2021-12-20
| url = https://www.asahi.com/articles/ASPDM5G3XPDKUTIL05V.html
| accessdate = 2023-05-28
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</ref>。
2021年12月15日、朝日新聞が合算処理と二重計上について報道した<ref name=":asahi2022">
{{Cite news
| author =
| title = 国交省の統計不正問題、いま分かっていること 仕組みや影響を解説
| newspaper = 朝日新聞
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| date = 2022-01-25
| url = https://www.asahi.com/articles/ASQ1C6S6GPDXUTIL03F.html
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}}
</ref>。
2021年12月23日、国交省は、建設工事受注動態統計調査における不適切な処理に関する問題の検証を行うため、外部有識者による検証委員会を開催した<ref>
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| title = 「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会」の開催について
| date = 2021-12-22
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== 建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会の報告 ==
建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会は、次のように報告している。
"過月分調査票の受注額を当月の受注額として合算して集計したことについては、本委員会は、統計の注記に記載するなど公表なしに行われていたこと、調査票の書き換えによって(元の数値が消え)有用な情報の活用を損ねた点において、不適切であったと考えた。"<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P32 P33 P34</ref>
"月遅れで提出されたとしても手持ち工事高を的確に把握することが重要ととらえられていたと考えられる。とりわけ、大規模な工事であれば工期が長くなることから、これを推計に含めないことによる各月の出来高に与える影響は、1、2 ヵ月程度の時期の計上のずれに比べてはるかに大きい。"
"本来は、次年度に前年度の月次の着工額を改定するのが適切な手順であるが、以上の認識に加えて、当時の担当者からのヒアリングを踏まえると、工事ごとに受注と着工の時期のずれの把握の困難、報告者が時間を割いて記入・提出した調査票情報を無駄にはできないとの姿勢と既に発表した統計の月次の計数を変更しないことへのこだわりの意識及び作業負担を軽減したい気持ちと年度の計数の推計値は真の値により近くなることへの安心が作用して、過月分調査票の計数の当月への合算を正当化したのではと推察しうる。"<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P32</ref>
"過月分調査票の処理それだけに関しては、統計データの行政上の利用の観点から行ったものであり、真実を歪める何らかの意図が働いたとはいえず、その意味では、統計実務の観点から絶対に許容されない行為なのかは議論の余地がある。しかしながら、国交省が行ってきた本件合算処理は、統計調査における処理のやり方として少なくとも妥当であったとはいえない。"
"当時の行政ニーズの観点から、月次のフローの統計情報よりもストックの統計としての精度向上を優先させたいとの意向はあったとしても、過月分調査票の統計処理に関して、少なくとも統計の注記として記載しておくことが、国民の利用の観点からも必要であった。"<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P33</ref>
"国土交通省令の調査規則において、調査票の2年保存を規定している。その規則に反しているとはいえないまでも、不測の事態に直面した場合に集計しなおし作成されるべき統計が作成できるようにするべきである。"<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P33</ref>
"建設受注統計調査の全体を通して、調査の各段階における一つ一つの手続きが最終的な統計の作成にどのような影響を及ぼすかを精査する役割の担当者が決まっておらず、形式的にも実質的にもそうした役割を持つ担当者がいなかったことに起因していると認められる。"<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P36 P37</ref>
"通常の業務ルーティンにおいて遅れて提出された本件調査票を(既に集計・公開済みの)正しい月の集計結果に反映させる方法がない以上、通常業務ルーティン外で正しい月の集計結果に反映させる方法を検討すべきだった"<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P38</ref>
"建設受注統計を含む統計一つ一つについて、集計から制度設計まで
を統合的に理解する職員を配置し、情報の分断を防ぐべきである。"<ref>建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書 P42</ref>
== 影響 ==
政府は書き換えによるGDPへの影響は限定的だとしている。山際大志郎・経済再生相は2021年末の臨時国会で、「間接的にGDP統計にも影響が及ぶ可能性はあるが、その影響の程度は仮にあったとしても現時点では軽微と考えている」と答弁した。
中小企業支援の政策にはすでに影響が出ている。2021年12月28日、経済産業省の中小企業向けの支援策で、対象業種を選ぶ判断ができなくなっていることが公表された
<ref name=":asahi2022" />。
== 東京地検特捜部の判断 ==
市民団体が作成に関わった職員を統計法違反の疑いで東京地検特捜部に告発した。
東京地検特捜部は、関わった職員5人について、いずれも長年続いていた不正な処理の正常化を図ろうとしていたもので統計を意図的に過大計上したものではなく、統計の継続性を確保するために、正常化に一定の期間がかかることはやむをえないなどとして、起訴猶予にした<ref>
{{Cite web
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| url = https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220909/k10013811811000.html
| title = 統計不正 国交省職員を起訴猶予 “不正の正常化図ろうとした”
| date = 2022-09-09
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| publisher = 日本放送協会
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</ref>。
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
<references group="注釈" />
=== 出典 ===
<references />
[[Category:2021年の日本の事件]]
[[Category:2021年の日本の政治]]
[[Category:公務員の不祥事]]
[[Category:国土交通省]]
[[Category:統計学]]
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