「Lean (証明アシスタント)」の版間の差分
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→拡張された do 記法: エラトステネスの篩の例を校正。返り値の型を Array Bool ではなくて Array Nat にする。 |
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{{Infobox programming language|name=Lean|logo=Lean logo2.svg|logo size=220|paradigm=[[関数型プログラミング]]|developer=[[Leonardo de Moura]]<br/> [https://lean-fro.org/ Lean FRO]|released={{Start date and age|2013}}|latest release version=v4.
[[ファイル:Cantor theorem.png|代替文=Lean4で Cantor の定理を示している様子|サムネイル|Cantorの定理をLeanで示している様子.右側の infoview に今使える仮定と示すべきゴールが常に表示される.]]
Lean は純粋関数型プログラミング言語でありながら、標準でループや可変ローカル変数の構文を備えているほか、一定の条件の下で関数アクセスをフィールドアクセスのように書くことができるという構文上の特徴がある。また、「参照カウントに基づいて自動的に破壊的変更を行う」という、Functional but in-place と呼ばれる最適化を行う。総じて、従来の関数型言語のパフォーマンスと構文面における欠点を改善している。
また、定理証明支援系としての Lean は、Unicode の積極的な使用と高度な対話性、拡張性の高さによる構文定義の柔軟性により可読性と快適な UI を提供することにある程度成功しており、型システムの専門家や形式証明の研究者だけでなく、数学研究者や学生からも支持を集め、Mathlib という大規模な形式数学ライブラリを擁するに至った。
== 歴史 ==
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=== 拡張可能性 ===
Lean は強力なメタプログラミング機能を持っており、新しい記法の定義や証明の自動化が行えるようになっている。以下は、<code>notation</code> コマ
def modulo (k n m : Int) : Prop := k ∣ (n - m)
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#check (1 ≃ 6 mod 5)
</syntaxhighlight><code>declare_syntax_cat</code> コマンドや <code>macro_rules</code> コマンドを使うことで、さらに複雑な構文も定義することができる。<ref>{{Cite web |url=https://lean-ja.github.io/lean-by-example/ |title=Lean by Example |access-date=2025年2月17日 |publisher=GitHub}}</ref><syntaxhighlight lang="lean" line="1">
/-- 2項演算の集合 -/
inductive Op where
/-- 加法 -/
| add
/-- 乗法 -/
| mul
deriving BEq
/-- 数式 -/
inductive Expr where
/-- 数値リテラル -/
| val (n : Nat)
/-- 演算子の適用 -/
| app (op : Op) (left right : Expr)
deriving BEq
namespace Expr
/- ## Expr の項を定義するための見やすい構文を用意する -/
/-- `Expr` のための構文カテゴリ -/
declare_syntax_cat expr
/-- `Expr` を見やすく定義するための構文 -/
syntax "expr!{" expr "}" : term
syntax:max num : expr
syntax:30 expr:30 " + " expr:31 : expr
syntax:35 expr:35 " * " expr:36 : expr
syntax:max "(" expr ")" : expr
macro_rules
| `(expr!{$n:num}) => `(Expr.val $n)
| `(expr!{$l:expr + $r:expr}) => `(Expr.app Op.add expr!{$l} expr!{$r})
| `(expr!{$l:expr * $r:expr}) => `(Expr.app Op.mul expr!{$l} expr!{$r})
| `(expr!{($e:expr)}) => `(expr!{$e})
-- 構文が正しく動作しているかテスト
#guard
let expected := Expr.app Op.add (app Op.mul (val 1) (val 2)) (val 3)
let actual := expr!{1 * 2 + 3}
expected == actual
end Expr
</syntaxhighlight>
=== 自動証明 ===
Lean は対話的に証明を書くことをサポートするだけでなく、タクティクによる自動証明機能も提供する。
以下は複雑な命題に見えるが、たった一つのタクティクで証明が終了する例である。<code>omega</code>は自然数や整数の線形算術の自動化に長けたタクティクで、面倒な証明も自動化してくれる。<syntaxhighlight lang="lean" line="1"> example (a₁ a₂ a₃ : Nat) : 3 ∣ a₁ + 10 * a₂ + 100 * a₃ ↔ 3 ∣ a₁ + a₂ + a₃ := by
omega
</syntaxhighlight>▼
また次のコードも、複雑に見える命題の証明が一発で終わる例である。ここで使用している <code>grind</code> タクティクはカスタマイズ可能で汎用的かつ強力な証明自動化タクティクであり、この例では帰納的述語のケース分割などを行わせているが、線形算術なども行うことができる。<syntaxhighlight lang="lean">variable {S : Type} (R : S → S → Prop)
/-- 反射的閉包 -/
▲</syntaxhighlight>
inductive ReflClosure : S → S → Prop where
/-- `ReflClosure`は`R`を含む -/
| incl : ∀ x y, R x y → ReflClosure x y
/-- `ReflClosure`は反射的 -/
| refl : ∀ x, ReflClosure x x
/-- `Prime R := R ∪ {(s, s) ∣ s ∈ S}` -/
def Prime := fun x y => R x y ∨ x = y
example : ReflClosure R = Prime R := by
grind [Prime, ReflClosure]</syntaxhighlight>
== Lean の特徴 ==
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=== テーブル化型クラス解決(Tabled Typeclass Resolution) ===
[[ファイル:Diamonds perf.png|代替文=型クラス解決アルゴリズムの実行時間の比較|サムネイル|Lean 4 の型クラス解決アルゴリズムは、実行時間を指数的に改善した. <ref name=":2">{{
型クラスは、プログラミングと定理証明の両方において、'''アドホック多相性''' <ref>型に応じて、同じ処理に複数の実装を提供すること</ref> を実現してくれる。しかし、Lean の急成長中の数学ライブラリ Mathlib の中で、型クラスが広く使われるにつれ既存の型クラス解決手続きの理論的限界が進歩の妨げになるようになった。既存の型クラス解決手続きの主要な理論的限界とは、次のようなものである:
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* サイクルが存在する場合に発散が生じる
Lean 4 では、この2つの問題を解決する新しいアルゴリズムであるテーブル化型クラス解決が実装されている。このアルゴリズムは Prolog に対して1998年に <ref>{{Cite
=== 拡張された do 記法 ===
Lean は純粋関数型言語であるため、手続き型言語では暗黙に扱われる副作用を、モナドという再利用可能な抽象的要素で再定義することで扱っている。この再定義によって、副作用をより厳密に制御したり、派生的な副作用を導入したりすることを可能にしている。モナドは Haskell の最もよく知られた抽象化機能であり、そのユビキタスな糖衣構文である do 記法と常に結びついている。
Lean では、メタプログラミングフレームワークによる高い拡張可能性を生かして、do 構文が Haskell と比べて拡張されている。具体的には以下のような記法を最初からサポートしている<ref>{{Cite
* 可変な変数を <code>let mut</code> で宣言できるようにする Rust ライクな記法
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* <code>for</code> ループ、<code>break</code> や <code>continue</code> といった制御フロー
たとえば、以下は Lean 4 で実装したエラトステネスの篩である。<syntaxhighlight lang="lean" line="1">
/-- `n`以下の素数のリストを `Array Bool` の形で返す。
private def eratosthenesAux (n : Nat) : Array Bool := Id.run do▼
`i` 番目が `true` ならば `i` は素数で、`false` ならば合成数。 -/
let mut isPrime := Array.mkArray (n + 1) true▼
isPrime := isPrime.set! 0 false
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break
-- `p` の倍数を消していく
let mut q := p * p
while q
isPrime := isPrime.set! q false
q := q + p
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def eratosthenes (n : Nat) : Array Nat :=
eratosthenesAux n
#guard eratosthenes 10 = #[2, 3, 5, 7]
#guard
let actual := eratosthenes 100
let expected := #[
2, 3, 5, 7, 11,
13, 17, 19, 23, 29,
31, 37, 41, 43, 47,
53, 59, 61, 67, 71,
73, 79, 83, 89, 97
]
expected == actual
</syntaxhighlight>
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* [[Coq]]
* [[Agda]]
* {{仮リンク|Isabelle (証明アシスタント)|en|Isabelle_(proof_assistant)|label=Isabelle}}
== 外部リンク ==
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* [https://reservoir.lean-lang.org/ Reservoir] Lean のパッケージレジストリ。パッケージをインデックスするだけでなく、ビルドとテストも行う。
* [https://marketplace.visualstudio.com/items?itemName=leanprover.lean4 vscode-lean4] [[Visual Studio Code|VS Code]] に Lean 言語のサポートを追加する拡張機能。Unicode 記号をサポートしていて、<code>×</code> に対する <code>\times</code> のような[[LaTeX]]に似たシーケンスを使用して入力ができるようにする。
* [https://www.ams.org/journals/notices/202507/noti3184/noti3184.html Paola Iannone, Gihan Marasingha and Athina Thoma: "Teaching Mathematics with Lean: Interactive Theorem Provers in the Classroom", Notices of AMS (Aug. 2025)]
{{Normdaten}}
[[Category:定理証明ソフトウェア]]
[[Category:数学教育ソフトウェア]]
[[Category:関数型プログラミング言語]]
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