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{{wikify|date=2025年9月}}
{{Infobox 事件・事故
| 名称 = 小石川事件
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| 脚注 = 本件発生現場となったアパート。2018年撮影。[[東京ドーム]]から徒歩数分の場所に立地していた{{Sfn|野嶋|2016|p=23}}。
| 地図 = {{Location map|Japan Tokyo city|lat=35.717370|long=139.745610|label=発生地|caption=事件発生地(小石川2丁目)}}
| 場所 = {{JPN}} [[東京都]][[文京区]]小石川2丁目
| 緯度度 = 35|緯度分 = 43|緯度秒 = 2
| 経度度 = 139|経度分 = 44|経度秒 = 54
| 日付 = [[2002年]]([[平成14年]])[[7月31日]]
| 時間 = 午後7時10分午後10時頃(死亡推定時刻)
| 時間帯 = [[日本標準時]]
| 概要 = 高齢女性が白色タオルで口を塞がれ窒息死。被害者宅から現金2000円が盗まれたとされる。
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| 死亡 = 1人(84歳女性)
| 損害 = 現金約2000円
| 犯人 = 男性I(当時22歳、冤罪を主張)
| 容疑 = 強盗殺人
| 動機 = 金銭目的とされたが、本人は公判で全面否認
| 管轄 =
* [[警視庁]]([[刑事部|捜査一課]]・[[富坂警察署]])<ref name="読売新聞20020802">『[[読売新聞]]』2002年8月2日東京朝刊社会面31頁「東京・文京の84歳変死 強盗殺人で捜査」([[読売新聞東京本社]])</ref>
* [[警視庁]] 冨坂警察署刑事課
* [[東京地方検察庁]]
* [[東京地方裁判所]] → [[東京高等裁判所]] → [[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]
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| 刑事訴訟 = 無期懲役確定 → 第2次再審請求準備中
}}
'''小石川事件'''(こいしかわじけん)は、[[2002年]]([[平成]]14年)[[7月31日]]に、[[東京都]][[文京区]][[小石川]]のアパート室内で発生したとされる[[強盗殺人]]事件(以下、「本件」と記載する。)である{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。被害者は当時84歳の女性であり、口に白色タオルを詰められた[[窒息死]]体で発見された{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}{{Sfn|伊集院|2016|p=21}}。部屋からは現金約2000円が奪われていたという{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。
 
'''小石川事件'''(こいしかわじけん)は、[[2002年]]([[平成]]14年)[[7月31日]]に、[[日本]]の[[東京都]][[文京区]][[小石川]]のアパート室内で発生したとされる[[強盗殺人]]事件(以下、「本件」と記載する。)である{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。被害者は当時84歳の女性であり、口に白色タオルを詰められた[[窒息死]]体で発見された{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}{{Sfn|伊集院|2016|p=21}}。部屋からは現金約2000円が奪われていたという{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。
この事件で逮捕・起訴されたI(当時22歳)は、[[公判]]より一貫して[[冤罪]]を訴えている{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。しかし[[一審]]はIに[[無期懲役]]を言い渡し、[[控訴審]]・[[上告審]]も一審を支持して刑が確定した{{Sfn|伊藤|2018|p=29}}。Iは45歳となった現在も、[[千葉刑務所]]で服役中である{{Sfn|伊藤|2018|p=29}}。[[File:千葉刑務所 正門.jpg|thumb|千葉刑務所 正門 ]]
 
この事件で逮捕・起訴された男性I(当時22歳)は、[[公判]]より一貫して[[冤罪]]を訴えている{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。しかし[[刑事手続|刑事裁判]]の[[審級|第一審]]ではIを[[懲役#無期懲役|無期懲役]]とする有罪[[判決 (日本法)|判決]]が言い渡され、[[控訴]]審・[[上告]]審でも一審判決が支持されたため、無期懲役の刑が[[確定判決|確定]]した{{Sfn|伊藤|2018|p=29}}。Iは45歳となった2025年(令和7年)時点でも、[[千葉刑務所]]で服役中である{{Sfn|伊藤|2018|p=29}}。[[File:千葉刑務所 正門.jpg|thumb|千葉刑務所 正門 ]]
 
本件は現在、[[日本弁護士連合会]](以下、「[[日弁連]]」)による[[日本弁護士連合会が支援する再審事件|再審支援の対象]]となっている{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。第1次[[再審請求]]の棄却を受け、弁護団が第2次再審に向けた準備を進めている{{Sfn|伊集院|2024|p=35}}。
 
== 事件の概要 ==
2002年8月1日朝、[[東京都]][[文京区]][[小石川]]二丁目のアパート一室で<ref>『読売新聞』2002年8月1日東京夕刊社会面15頁「アパートで一人暮らしの老女が変死/東京・文京」(読売新聞東京本社)</ref>、単身高齢女性が死亡しているのが発見された{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。遺体は口にタオルを詰められており、死因は窒息とされた(死亡推定時刻は、前日7月31日の午後7時10分から午後10時ころまでの間とされている{{Sfn|確定判決||p=8}}{{efn|group="注"|当記述は、「小石川えん罪事件の再審を支援する会」が作成・販売する冊子に収録された、東京地裁一審判決(確定判決)の8頁に基づくものである。当該冊子は、日弁連人権擁護委員会編『日弁連・小石川事件報告書』(全32頁)に、一審判決全文を合冊した形式で構成されており、該当箇所は冊子全体の40頁に相当する。<br>
なお本記事中で、以降も「確定判決」を出典とする記載が現れるが、すべてこの同一冊子内の東京地裁判決文を基にしている。}})。 現金2000円入りのがま口財布が見当たらなくなっていたことなどから{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}[[警視庁]][[刑事部|捜査一課]]と[[富坂警察署]]は[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]事件と断定、[[捜査本部|特別捜査本部]]開始設置した{{Sfn|21世紀の再審|2021|p<ref name=204}}"読売新聞20020802"/>
 
犯人と認定されており、本件当時22歳の男性Iは、被害者と同じアパートの別室に住んでいた{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。本件から1月後の[[9月1日]]、Iは当該アパートで発生した別件の[[住居侵入罪|住居侵入]]・[[窃盗]]容疑で逮捕された{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。[[File:東京都文京区アパート外観 2018.jpg|thumb|別角度から見たアパート外観]]その後視庁Iを本件の[[容疑者]]としても疑い、継続的に追及した{{Sfn|野嶋|2016|p=23}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。逮捕から110日目となる[[2002年]][[12月19日]]、Iは本件への関与を自白した{{Sfn|鬼頭|2017|p=25}}。これを受けた警察て特捜本部、翌[[2003年]][[1(平成15年)1月12日]]、Iを[[強盗殺人]]容疑で再逮捕し<ref>『読売新聞』2003年1月13日東京朝刊社会面35頁「84歳女性の強殺容疑、男を再逮捕/東京・富坂署」(読売新聞東京本社)</ref>、[[東京地方検察庁]]は同月31日、Iを強盗殺人罪で[[起訴]]した{{Sfn|鬼頭|2017|p=23}}{{Sfn|吉村|2021|p=86}}<ref>『読売新聞』2003年2月1日東京朝刊都民版32頁「文京のアパート強盗殺人事件 I被告を起訴/東京地検」(読売新聞東京本社)</ref>
 
Iは公判当初から、一貫して[[無罪]]を主張した{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。自白は強要されたものであると述べ、別件の窃盗容疑は認めたものの、本件への関わりを全面的に否認した{{Sfn|野嶋|2016|p=23}}{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。
 
== 確定判決の判断 ==
一審では、まずIの自白の任意性<ref>[https://imidas.jp/judge/detail/G-00-0074-09.html イミダス「自白の任意性」](集英社)</ref>が中心的な争点となった{{Sfn|事件報告書|p=3}}。[[確定判決]]は、被疑者段階におけるIの自白は、内容が具体的かつ詳細であり、死体の損壊状況や被害者方居室内の状況と整合し、関係証拠との矛盾もなく信用できるとした{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207–208}}{{Sfn|確定判決|p=17–18}}。他方、公判におけるIの供述は内容が変遷しており、信用できないとした{{Sfn|確定判決|p=17–18}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=208}}。
 
この判断に加えて、裁判所は以下に示す5点を有罪認定の根拠とし{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}。東京地方裁判所(村瀬均裁判長)は2004年(平成16年)3月29日Iに検察官の求刑通り強盗殺人罪等によりなどの成立を[[事実認定|認定]]、Iを[[懲役#無期懲役|無期懲役]]とする有罪判決を言い渡した{{Sfn|確定<ref>『読売新聞』2004年3月30日東京朝刊都民版32頁「文京の84歳女性強殺に無期判決|p=21}}/東京地裁」(読売新聞東京本社)</ref>
===確定判決の判示する5つの有罪認定の根拠===
 
=== 確定判決の判示する5つの有罪認定の根拠 ===
1 本件現場からの指紋検出<br>
# 本件現場からの指紋検出
#* 被害者方の居室、小物入れ内の化粧水の瓶から、Iの指紋が検出された{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
# 死亡推定時刻の[[アリバイ]]不在
 
#* 被害者の死亡推定時刻に、アパートにひとりでいたIの行動を裏づける客観的証拠がない{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
2 死亡推定時刻の[[アリバイ]]不在<br>
# アパートへの出入りの痕跡なし
被害者の死亡推定時刻に、アパートにひとりでいたIの行動を裏づける客観的証拠がない{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
#* 本件アパートに居住する者以外に、外部からの侵入および犯行が行われた形跡は窺えない{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
 
# 金銭的動機の存在
3 アパートへの出入りの痕跡なし<br>
本件アパートに居住#* Iは当時、同棲する者以外恋人の父等、外部から100万円を超す借金をしていた。本件当日は借金侵入および犯行返済日であった行われ、めどが立形跡は窺えなず、経済的に逼迫して{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
# 事件翌日の金銭使用
 
#* 本件当日のIは、所持金がない状態であった。しかし翌日には、コンビニで千円札による買物を行っていた{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
4 金銭的動機の存在<br>
Iは控訴したが、後にそれも[[棄却#日本法|棄却]]された{{Sfn|吉村|2017|p=15}}。これを受けて[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]へ上告したが、2005年(平成17年)6月17日付で最高裁第一[[小法廷]]([[才口千晴]]裁判長)から上告棄却の決定を出されたため、無期懲役の判決が確定した<ref>『[[朝日新聞]]』2005年6月19日東京朝刊第1社会面39頁「文京の女性殺害、被告の無期確定」([[朝日新聞東京本社]])</ref>。
Iは当時、同棲する恋人の父等に100万円を超す借金をしていた。本件当日は借金の返済日であったが、めどが立たず、経済的に逼迫していた{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
 
5 事件翌日の金銭使用<br>
本件当日のIは、所持金がない状態であった。しかし翌日には、コンビニで千円札による買物を行っていた{{Sfn|宮野|2023|p=11}}{{Sfn|確定判決|p=9}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=207}}。
 
その後控訴・上告ともに棄却され、Iの無期懲役は確定した{{Sfn|吉村|2017|p=15}} 。
 
== 再審支援決定 ==
[[2007年]][[2月20日]]、Iは服役中の[[千葉刑務所]]から再審支援の要請を行った{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。これを受け、[[日弁連]]人権擁護委員会が調査を開始した{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。調査期間は実に8年間に及び{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}{{Sfn|伊集院|2016|p=21}}、この間に多数の新証拠が示されたと日弁連は評価した{{Sfn|伊藤|2015|p=6–8}}{{Sfn|伊集院|2016|p=21-23}}{{Sfn|野嶋|2016|p=23-25}}{{Sfn|吉村|2017|p=15-17}}{{Sfn|鬼頭|2017|p=23-25}}。これらの新証拠は、[[再審]]に必要な「証拠の新規性と明白性{{Sfn|安倍|1961|p=45–62}}」を満たすとの結論から、[[2015年]][[5月8日]]、日弁連は本件を再審支援対象として正式に決定した{{Sfn|鬼頭|2017|p=23}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}。
 
日弁連が支援する再審請求事件は、[[2025年]][[810]]現在、[[日本弁護士連合会が支援する再審事件|全国で10件にとどまる]](解決、再審決定の案件を除く)。本件小石川事件は、全国的な知名度は高くない。しかし日弁連は、再審請求において新たに提出された[[DNA型鑑定|DNA鑑定]]結果、指紋付着や繊維片未着の矛盾等により、Iの本件への関与には合理的疑いが生じ、[[冤罪]]の可能性は高いとの見解を示している{{Sfn|野嶋|2016|p=23-25}}{{Sfn|事件報告書|p=1}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=205–206,208-209}}<ref name="日弁連2020">[https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/200423.html 日弁連ホームページ 2020] </ref>。
 
なお、日弁連が支援を決定した再審請求事件のうち、[[有罪判決]]の正当性を理由に支援をとりさげた例は過去に確認されていない<ref> [https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2024/5-5-1.pdf 弁護士白書 2024]</ref>{{efn|支援が終了した事例としては、いわゆる[[日産サニー事件]]があるが、これは[[仮出獄]]後の請求人本人の意向により請求継続を断念したものである<ref>{{citeCite web |url=https://kotobank.jp/word/日産さにー事件-1834103 |title=日産サニー事件 |website=コトバンク |accessdate=2025年7月16日}}</ref>。}}。
 
== 明かされた新証拠(弁護側主張) ==
 
8年におよぶ調査の末、弁護団が明らかにしたとする新証拠のうち、主要なものは以下に記す4点である{{sfn|野嶋|2016|p=23–25}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=205-206,208-209}}{{sfn|事件報告書|p=3,6–11}}。
 
=== 1 真犯人を示唆するDNA型の検出 ===
数ある新証拠の中でも、弁護団が本件再審請求の核と位置づけるのが、[[2013年]][[3月18日]]付で本田克也教授([[筑波大学]]法医学教室)が作成した[[DNA鑑定]]結果報告書(以下「本田鑑定書」)である{{sfn|伊藤|2015|p=6–7}}{{sfn|伊集院|2016|p=21–22}}。後述の本田鑑定書では、犯行凶器とされた白色タオルから「未知のDNA型」が検出され、それが犯人とされたIのDNA型と明確に異なる事実が示されている{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}{{Sfn|吉村|2017|p=15-16}}。弁護団は、この本田鑑定書がIの無実を証明するとともに、真犯人の存在を示唆すると判断した{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}{{Sfn|伊集院|2016|p=22}}{{sfn|三角|2019|p=51}}。
 
==== 犯行態様とDNA型 ====
確定判決は、Iが被害者の口腔内に白色タオルを押し込み、[[気道閉塞]]により窒息死させたと認定している{{Sfn|確定判決|p=2–3}}。この犯行態様によれば、Iは抵抗する被害者を押さえ込み、素手でタオルに触れ{{efn|group="注"|name="素手"|本件犯行時、Iが手袋等を装着していた、あるいは犯行後に指紋および掌紋を拭き取ったという事実、供述、客観的証拠はいずれもない{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}{{sfn|事件報告書|p=11}}。}}、強い力で長時間口腔内に押し込んでいる{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}。そうであるなら、タオルにはIの皮膚・垢等の細胞成分が付着し、IのDNA型が検出される可能性が高いとされる{{sfn|伊藤|2015|p=6–7}}{{sfn|事件報告書|p=6,10}}。これは弁護団からの要請を受けた本田教授が、ミトコンドリアDNAに関する[[法医学]]の専門家として示した見解である{{Sfn|鬼頭|2017|p=23}}{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}{{sfn|事件報告書|p=6,10}}{{Sfn|吉野|2021|p=24-25}}。  
 
実際に、確定審の吉井富夫作成によるDNA鑑定書(以下「吉井鑑定書」)には、被害者の口腔内に押し込まれていた白色タオルB部{{efn|group="注"|name="タオル注釈"|白色タオルB部とは、被害者の口腔内に詰められていたタオルのうち、救急隊員立会のもと、捜査官が犯人の接触部位と判断して切り取った部分を指す{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=2}}。}}から、被害者のDNA型に加え、被害者以外の成分が混入していたことが記載されている{{sfn|事件報告書|p=6}}。しかしこの成分、すなわち「未知のDNA型」の出どころについて、検察官は立証を行わず、Iとの関係も争点とすらされず、確定判決でも一切触れられてはいなかった{{sfn|事件報告書|p=6}}{{Sfn|萩原|2018|p=31}}{{Sfn|確定判決|p=1–21}}。
 
==== 具体的調査 ====
こうした経緯を踏まえ、弁護団は犯行凶器のタオルから検出された「未知のDNA型」が、犯人とされたIのDNA型と一致するか否かを検証した{{Sfn|伊藤|2015|p=6-7}}{{Sfn|伊集院|2016|p=21-22}}。千葉刑務所に服役中のIから手指の爪、およびIが逮捕前に使用していた白色長袖シャツ(Iの血痕付着)を入手し{{sfn|事件報告書|p=6}}、さらには遺体発見時、被害者の口腔からタオルをとり除いたIの恋人の父(以下、「父」)の[[口腔粘膜]]試料も取得した{{efn|group="注"|name="chichi"|本件の発生現場となったアパートでは、被害者、I、Iの恋人(2人は同棲)、およびIの恋人の父が、それぞれ別室に居住していた{{Sfn|事件報告書|p=1 }}。}}。これらを用いて、本田教授にミトコンドリアDNA―HV1型による鑑定を依頼した(以下「本田鑑定」とする){{sfn|事件報告書|p=6–7}}。
 
==== 本田鑑定 ====
本田鑑定では、被害者の心臓血(被害者DNA型)を基準として、Iの長袖シャツ(血痕付着)、Iの爪、父の口腔粘膜、および白色タオルB部から検出された、「未知のDNA型」を比較した{{sfn|事件報告書|p=6-11}}。鑑定結果は以下のとおりである{{sfn|事件報告書|p=6-11}}。
 
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;弁護側の主張
:# 証拠価値
:#* 以上の結果から、本件犯行態様において、凶器とされた白色タオルから犯人のDNA型が検出される蓋然性は高い{{sfn|事件報告書|p=6,10}}。そして、実際に検出された「未知のDNA型」は、被害者とも、Iとも、その他当該タオルに触れた可能性のある者たちとも異なる{{sfn|伊集院|2021|p=38–39}}。すなわち、真犯人由来のDNA型である可能性が高く、これはIが犯人でないことを積極的に示唆する{{sfn|事件報告書|p=6,10}}。
:#* 加えてこの新証拠は、Iの公判での否認供述{{Sfn|確定判決|p=17}}を科学的に補強し、逆に確定判決の根幹をなす自白の信用性{{Sfn|確定判決|p=16–18}}を大きく減殺するものである{{sfn|事件報告書|p=10}}。
:# 法的評価([[白鳥決定]]の射程)
:#* 最高裁判所昭和50年5月20日決定([[白鳥決定]])は、再審開始の可否を判断するにあたり、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、「確定判決の事実認定について合理的疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」であると定義した{{sfn|事件報告書|p=10-11}}。その上で、再審の可否は、新旧すべての証拠を総合的に評価することによって判断すべきとしている{{sfn|事件報告書|p=10-11}}。
:#* 今回提出された本田鑑定書は、まさに白鳥決定の定める、「確定判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」である。同決定が求める「新旧全証拠の総合評価」という枠組みに照らせば、本田鑑定の結果により、これまで有罪認定の柱とされてきたIの自白の任意性・信用性についても、新たな視点から再検討されるべきである{{sfn|事件報告書|p=10-11}}。
:#*白鳥決定は、「[[疑わしきは被告人の利益に]]」という[[刑事裁判]]の基本原則が、再審においても適用されると明言している{{sfn|三角|2022|p=28}}。本件では、激しい接触を伴う犯行態様にもかかわらず、凶器とされた白色タオルからはIのDNAが一切検出されていない{{sfn|伊集院|2016|p=22}}。むしろ、タオルに触れた関係者とも一致しない「未知のDNA型」が検出されているのである{{sfn|伊集院|2016|p=22}}。この点だけでも、Iの本件犯行認定に疑わしき事情が存在することは明白である{{sfn|野嶋|2016|p=24}}。これらの事情を総合すれば、本田鑑定書は再審請求の要件を明確に充足するものであり、再審開始を認めるに足る証拠であることは疑いの余地がない{{sfn|三角|2022|p=28-29}}。
 
=== 2 指紋検出への疑義 ===
(1)証拠価値<br>
以上の結果から、本件犯行態様において、凶器とされた白色タオルから犯人のDNA型が検出される蓋然性は高い{{sfn|事件報告書|p=6,10}}。そして、実際に検出された「未知のDNA型」は、被害者とも、Iとも、その他当該タオルに触れた可能性のある者たちとも異なる{{sfn|伊集院|2021|p=38–39}}。すなわち、真犯人由来のDNA型である可能性が高く、これはIが犯人でないことを積極的に示唆する{{sfn|事件報告書|p=6,10}}。
加えてこの新証拠は、Iの公判での否認供述{{Sfn|確定判決|p=17}}を科学的に補強し、逆に確定判決の根幹をなす自白の信用性{{Sfn|確定判決|p=16–18}}を大きく減殺するものである{{sfn|事件報告書|p=10}}。
 
(2)法的評価([[白鳥決定]]の射程)<br>
最高裁判所[[昭和50年]][[5月20日]]決定([[白鳥決定]])は、再審開始の可否を判断するにあたり、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、「確定判決の事実認定について合理的疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」であると定義した{{sfn|事件報告書|p=10-11}}。その上で、再審の可否は、新旧すべての証拠を総合的に評価することによって判断すべきとしている{{sfn|事件報告書|p=10-11}}。
今回提出された本田鑑定書は、まさに白鳥決定の定める、「確定判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」である。同決定が求める「新旧全証拠の総合評価」という枠組みに照らせば、本田鑑定の結果により、これまで有罪認定の柱とされてきたIの自白の任意性・信用性についても、新たな視点から再検討されるべきである{{sfn|事件報告書|p=10-11}}。
 
さらに白鳥決定は、「[[疑わしきは被告人の利益に]]」という[[刑事裁判]]の基本原則が、再審においても適用されると明言している{{sfn|三角|2022|p=28}}。
本件では、激しい接触を伴う犯行態様にもかかわらず、凶器とされた白色タオルからはIのDNAが一切検出されていない{{sfn|伊集院|2016|p=22}}。むしろ、タオルに触れた関係者とも一致しない「未知のDNA型」が検出されているのである{{sfn|伊集院|2016|p=22}}。この点だけでも、Iの本件犯行認定に疑わしき事情が存在することは明白である{{sfn|野嶋|2016|p=24}}。<br>
これらの事情を総合すれば、本田鑑定書は再審請求の要件を明確に充足するものであり、再審開始を認めるに足る証拠であることは疑いの余地がない{{sfn|三角|2022|p=28-29}}。
 
=== 2 指紋検出への疑義===
[[File:Iの指紋が付着したとされるスキンローション瓶.jpg|thumb|小物入れ内のスキンローション瓶{{sfn|事件報告書|p=14}}]]
被害者方の居室、小物入れ内の化粧瓶(スキンローション容器)からIの指紋が検出され、確定判決は、これを有罪認定の状況証拠のひとつとした{{sfn|確定判決|p=9}}。
これに対し弁護団は、Iが本件発生の数月前である[[2002年]]5月か6月に、被害者方に窃盗目的で侵入した事実を認めている点に着目した{{sfn|野嶋|2016|p=24}}。Iの供述によれば、この物色時に当該スキンローション瓶に触れた可能性があるとしている{{sfn|野嶋|2016|p=24}}。
 
弁護団は、Iが取調の警察官に当該窃盗行為の供述をしたのは、本件について追及を受ける前であることを重視した{{sfn|野嶋|2016|p=24}}{{efn|group="注"|name="窃盗供述"|Iは本件発生の1月後、まず別件の窃盗容疑で逮捕されている{{sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。}}。さらに、化粧瓶から指紋が検出されるよりも前になされた供述であり、あとから都合よく出されたものではないとしている{{sfn|野嶋|2016|p=24}}。
 
自白内容に従えば、Iは本件犯行時、小物入れの開き戸を開け、タンスの小引き出しも開けて内部を物色したとされる{{sfn|確定判決|p=11}}。しかし小物入れの取っ手やタンスの前面、タンス内部のビニール袋など、そのいずれからもIの指紋は検出されていない{{sfn|事件報告書|p=11}}{{efn|group="注"|name="素手"}}。また小物入れの前にはアルミ製のトランジスタラジオが置かれており、小物入れを開けて内部を物色するには当該ラジオをどける必要があるが、ここからもIの指紋が検出されていない事実を弁護団は指摘している{{sfn|事件報告書|p=12}}{{efn|group="注"|事件現場の状況は、確定審で証拠採用された捜査側作成の写真撮影報告書に拠る{{sfn|事件報告書|p=12}}。}}。
219 ⟶ 208行目:
本件当日、犯行現場の文京区に隣接する[[千代田区]]の気温は、21時で29.8度に及んだ{{sfn|事件報告書|p=11}}。被害者方にエアコンはなく、室内は高温であったと推認できる{{sfn|事件報告書|p=11}}。弁護側が依頼した斎藤保鑑定士の鑑定結果によれば、Iが自白どおり激しい動きを伴う犯行{{Sfn|確定判決|p=10–11}}を行い、その後タンス類を物色したならば、発汗により指紋が付着する可能性は高いとされる{{sfn|事件報告書|p=11}}。実際に行われた再現実験では、Iの自白どおりの動作(抵抗する被害者を押さえつけ、長時間にわたり力を込めたうえで、タンス内部ほかを物色)を再現した行為者の指紋が、トランジスタラジオ、小引き出しの前面、引き出し内のポケットティッシュの袋等から明確に検出された{{sfn|事件報告書|p=12-13}}。
 
にもかかわらず、当該ラジオやタンスの前面、他接触が不可避であった箇所から、Iの指紋・掌紋は一切検出されていない{{sfn|事件報告書|p=11}}。仮にIが犯人であるならば、これらの部位から指紋が検出されないのは不自然かつ不合理であると弁護団は評価している{{sfn|事件報告書|p=14-15}}。
 
加えてかような状況下において、スキンローション瓶のみにIの指紋が残存していたという状況{{sfn|確定判決|p=7}}も、極めて不自然であると弁護団は指摘する{{sfn|事件報告書|p=14-15}}。
すなわち、確定判決が有罪の根拠とした「化粧瓶に付着したIの指紋」について、弁護団は、本件当日の付着とは考え難く、本件発生の1~2ヵ1〜2か月前、Iが窃盗目的で侵入した際に付着したと考えるが合理的であるとの見解を示している{{sfn|事件報告書|p=14-15}}{{efn|group="注"|name="shimon_kantei"|指紋が検出できる期間は、室内では付着してから3月前後とされる。Iの指紋が付着していたスキンローション瓶は、小物入れの中にあり、光や風による乾燥、紫外線による劣化影響をほぼ受けないことから、さらに長期間の指紋検出が可能と推認できる {{sfn|事件報告書|p=14}}。}}。
 
弁護団は、そもそもIが本件当日に被害者を殺害し、小物入れやタンス内を物色したとする自白じたいが虚偽であると指摘している{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}。Iは被害者を殺害しておらず、室内を物色しておらず、本件当日に被害者宅に侵入すらしていない。こうした事情を踏まえれば、化粧瓶に付着したIの指紋を根拠に、Iを本件の犯人と断定することには重大な疑義が生じる、というのが弁護側の主張である{{sfn|事件報告書|p=11-15}}。<br>
 
=== 3 [[繊維]]鑑定の矛盾 ===
本件において、被害者の体や衣服から、Iの着衣の構成繊維が明確に検出されていない点が、Iの自白内容と矛盾すると弁護団は指摘している{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=209}}。
 
本件において、被害者の体や衣服から、Iの着衣の構成繊維が明確に検出されていない点が、Iの自白内容と矛盾すると弁護団は指摘している{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=209}}。<br>
確定判決によれば、Iは犯行時、立っていた被害者をうしろに引き倒したあと、自分の左肘を被害者の右胸あたりに当てて強く押さえつけ、被害者の口腔内にタオルを押し込んで窒息死させたとされている{{sfn|確定判決|p=11}}。また取調段階の自白において、Iは「[[袈裟固|柔道の袈裟固め]]のような体勢で、被害者に体を密着させて押さえつけた」と述べている{{sfn|三角|2019|p=51}}{{Sfn|伊集院|2024|p=34}}。弁護団は、このような密着接触があれば、被害者の体や衣服からIの衣類の繊維が検出される可能性は高いと主張する{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=209}}。[[File:Hon kesa gatame.jpg|thumb|250px|'''袈裟固'''の基本形]]
 
242 ⟶ 231行目:
Iの自白が真実であるなら、被害者の体や衣服からは、Iの着衣の繊維片が明確に検出されるはずである{{sfn|事件報告書|p=18}}。それが一切確認されていないことは、Iの自白と矛盾しており、弁護団はかかる自白に証拠能力は認められないと結論づけた{{sfn|事件報告書|p=19}}。
 
=== 4 [[大腿部]]裏の傷 ===
 
[[File:被害者大腿部の傷.png|thumb|right|upright=0.8|被害者の遺体に残された傷痕{{sfn|支援会ニュース33号|2023|p=3}}]]
 
250 ⟶ 238行目:
確定判決のいうような、Iが立っていた被害者をうしろに引き倒し、自分の左肘を被害者の右胸あたりに当てて強く押さえつけ、被害者の口腔内にタオルを押し込む犯行態様{{sfn|確定判決|p=11}}では、このような傷は生じ得ないと弁護団は指摘している{{sfn|支援会ニュース33号|2023|p=3}}。
 
弁護団は、このような傷が生じた原因として、被害者が椅子に腰かけていた状態で引き倒された可能性を挙げている{{sfn|支援会ニュース33号|2023|p=3}}。その際、椅子の座面や背もたれ等が大腿部の裏側に強く接触し、このような線状の傷痕が生じた可能性があると主張している{{efn|group="注"|name="再現実験"|この見解は、[[2023年]][[11月26日]]に[[文京シビックセンター]]で行われた犯行再現実験の席で、弁護団から出された意見をもとにしている{{sfn|支援会ニュース33号|2023|p=3}}。}}。
 
==== 犯行再現実験 ====
弁護側が作成した、[[2013年]][[3月18日]]付の実験報告書{{sfn|事件報告書|p=19}}は、捜査機関が本件直後に作成した検証調書および現場見取図等をもとに、原寸大のシート上に当時の室内を必要な限度で再現し、Iの自白内容との整合性を検証したものである。
 
実験では、Iと同程度の身長の協力者をI役、被害者と同程度の体格を持つ人形を被害者役とし、犯行状況を自白どおりに再現した{{sfn|事件報告書|p=19}}。その結果弁護団は、Iの自白と現場の客観的状況との間に、複数の矛盾が存在すると結論づけた{{sfn|事件報告書|p=19}}。
259 ⟶ 247行目:
第一に、本件犯行現場とされる被害者方居室は4.5畳ひと間である{{sfn|吉村|2017|p=17}}。Iの自白によれば、「被害者が台所で洗い物か何かをしており、その隙に気づかれずに盗みに入れると考え侵入した{{sfn|確定判決|p=10}}」とされている。しかし弁護団は、部屋全体を一望できる造りにおいて、この供述じたいがありえないとしている{{sfn|吉村|2021|p=86}}。
 
また自白によれば、Iは被害者が自分に気づいた瞬間に背後から飛びかかり、後方に引き倒したとされる{{sfn|確定判決|p=10-11}}。弁護団は、この自白を前提とする場合、被害者は一度Iの方向へ体を向け、その後に背を向ける動作を取ることになり、犯人に気づいた直後に自ら背を向けるという行動はいかにも不自然であるとした{{sfn|事件報告書|p=20}}。
 
さらに被害者の遺体が倒れていた場所の左横には、籐製の低い椅子があった{{sfn|事件報告書|p=20}}。Iの自白では、被害者の右胸あたりに左肘を当て、自身の体の左側を被害者の左脇腹に押し当てるという体勢で犯行に及んだとされる{{sfn|確定判決|p=11}}。しかし弁護団が行った再現実験の結果、Iがそのような体勢を取るには籐椅子の上に乗りかかる必要があり、実現は不可能であると報告された{{sfn|事件報告書|p=20}}。
265 ⟶ 253行目:
[[File:椅子の位置.jpg|thumb|right|250px|警察道場で行われた再現実験の場面。籐椅子の配置が現場と異なっていた{{sfn|事件報告書|p=20}}。]]
 
なお、本件直後、Iの自白に基き警察の道場で行われた再現実験では、籐椅子の配置が実際の現場とは異なっていた{{Sfn|伊集院|2024|p=34}}{{sfn|事件報告書|p=20}}{{Sfn|伊藤|2018|p=31}} 。弁護団は、事件当時の椅子の配置を前提とすれば、Iの自白通りに犯行を行うことは物理的に不可能であると結論づけ立証した{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}{{sfn|事件報告書|p=21}}。
 
'''以上、弁護団は上記4点([[#1 真犯人を示唆するDNA型の検出|DNA]]、[[#2 指紋検出への疑義|指紋]]、[[#3 繊維鑑定の矛盾|繊維片]]、[[#4 大腿部裏の傷|大腿部裏の傷]])を、再審請求における中核的主張と位置づけている'''{{sfn|野嶋|2016|p=23-25}}{{sfn|21世紀の再審|2021|p=208-209}}{{sfn|伊藤|2015|p=6-8}}。
'''{{sfn|野嶋|2016|p=23-25}}{{sfn|21世紀の再審|2021|p=208-209}}{{sfn|伊藤|2015|p=6-8}}。
 
この前提に沿って、後節の主張が展開される。
 
== 自白の信用性および任意性==
=== 青色ズボンの存在と「[[秘密の暴露|犯人しか知り得ない秘密]]」の欠落 ===
 
被害者の遺体には、上胸部から下腹部にかけて裏返しになった青色のズボンが不自然に掛けられ、その両先端は被害者の両肘下に挟まれていた{{sfn|事件報告書|p=21}}。弁護団は、 このような状況が偶然に生じたとは考えがたく、犯人が何らかの意図をもって配置した結果であると判断した{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。
 
281 ⟶ 267行目:
このような、犯人であれば当然に知り得るはずの重要な事実について言及がないことは、いわゆる「[[秘密の暴露]]」の欠落として、Iの自白の信用性を大きく減殺すると弁護側は捉えた{{sfn|事件報告書|p=21}}。同時に、Iが現場の状況を詳細に知り得なかった有力な傍証となり、Iが犯人であることに重大な疑問を生じさせるものであると主張している{{sfn|事件報告書|p=21}}{{sfn|三角|2019|p=51-52}}。
 
=== 自白の強要と取調の違法性 ===
Iの自白は任意でなく、捜査機関による長時間の違法取調、虚偽情報、暴力、[[利益誘導]]を含む重大な[[人権侵害]]によりなされたものであると弁護側は判断した{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=205-206}}。
 
2002年9月1日、Iは文京区小石川のアパート内で発生した住居侵入・窃盗容疑で逮捕された{{sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。警察は、約1か月前に同アパート別室で起きた本件犯行もIによるものと疑った{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。Iに対し、窃盗の起訴後の勾留期間を利用して、本件に関する取調を長時間くり返した{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}。
 
同年12月5日から13日にかけては、別件に関する取調が行われた{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}。計12通の[[供述調書]]が作成される中で、担当警察官はIに、「殺人認めろ。認めるなら殺人1本、認めないなら別件で再逮捕、起訴、その後殺人」とする利益誘導的な発言をくり返した{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}{{sfn|事件報告書|p=27}}。同年12月12日から23日にかけては、12日間連続、合計77時間以上の取調が「任意」の名目で行われた{{sfn|事件報告書|p=25}}。
Iの自白は任意でなく、捜査機関による長時間の違法取調、虚偽情報、暴力、[[利益誘導]]を含む重大な[[人権侵害]]によりなされたものであると弁護側は判断した{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=205-206}}。<br>
[[2002年]][[9月1日]]、Iは文京区小石川のアパート内で発生した住居侵入・窃盗容疑で逮捕された{{sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}。警察は、約1ヵ月前に同アパート別室で起きた本件犯行もIによるものと疑った{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}。Iに対し、窃盗の起訴後の勾留期間を利用して、本件に関する取調を長時間くり返した{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}。<br>
同年[[12月5日]]から[[12月13日|13日]]にかけては、別件に関する取調が行われた{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}。計12通の[[供述調書]]が作成される中で、担当警察官はIに、「殺人認めろ。認めるなら殺人1本、認めないなら別件で再逮捕、起訴、その後殺人」とする利益誘導的な発言をくり返した{{Sfn|鬼頭|2017|p=24-25}}{{sfn|事件報告書|p=27}}。同年[[12月12日]]から[[12月23日|23日]]にかけては、12日間連続、合計77時間以上の取調が「任意」の名目で行われた{{sfn|事件報告書|p=25}}。
 
また取調の過程において、警察官がIに虚偽情報を伝えたことも弁護団は重視している{{Sfn|伊藤|2015|p=8}} 。警察官は、「遺体の下にうさぎの毛が落ちていた。その毛をDNA鑑定したところ、お前の飼育するうさぎの毛と一致した」とIに告げ、この虚偽情報をもとに、Iに本件への自白を迫った{{Sfn|野嶋|2016|p=23}}{{sfn|事件報告書|p=27}}{{efn|group="注"|name="偽計取調"|うさぎの毛は確定判決において、Iの飼育するうさぎとは別の毛であり、警察官が事実とはちがう形でIに伝えたことが認定された{{sfn|確定判決|p=16}}。しかし、それは何らかの事情により警察官がそのように思いこんでIに伝えたものであり、偽計にはあたらないと判断された{{sfn|確定判決|p=17}}。}}。
 
同年[[12月18日]]、警察官は「私がやりました」という書面を作成し、Iにそこへの署名押印を迫った<ref name="基調報告p48">。[https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/symposium/jinken_taikai/62th_keynote_report3.pdf 基調報告書 2019年、p.48]</ref>。
[[12月19日|19日]]は、「自白するまでトイレに行かせない」という違法な強制手段をとったことが確定判決で認定されている{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}{{Sfn|確定判決|p=14}}。さらに警察官はIの頭を平手で殴り、胸ぐらをつかむなどの暴行を加えたことも認定されている{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}。深夜24時まで続いた取調<ref name="基調報告p48" />で、Iの自白は引き出された{{sfn|事件報告書|p=24-28}}。
 
上述期間に作成された供述書等は、内容が明らかに被疑者取調に該当するにもかかわらず、すべて「参考人取調」の形式で作成されていた{{sfn|事件報告書|p=25}}。Iの取調を担当した警察官は、[[公判廷]]において、「取調は任意だった」と証言している{{Sfn|確定判決|p=15}}。
297 ⟶ 284行目:
 
== 5つの有罪根拠への弁護側反論 ==
[[#確定判決の判示する5つの有罪認定の根拠|確定判決が判示する5つの有罪根拠]]に対して、弁護側は遺留指紋を除き、Iを本件の犯人であると推認させる力は相当弱いとした{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=205}}うえで、以下のとおり反論した。
に対して、弁護側は遺留指紋を除き、Iを本件の犯人であると推認させる力は相当弱いとした{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=205}}うえで、以下のとおり反論した。
 
=== 1 本件現場からIの指紋検出 ===
{{See2|[[#2_指紋検出への疑義|指紋検出への疑義参照]]を}}
 
=== 2 死亡推定時刻の[[アリバイ]]不在 ===
被害者の死亡推定時刻は、午後7時10分から午後10時ころとされている{{Sfn|確定判決|p=8}}。確定判決は、本件当日のIに、午後9時過ぎから同10時前後のアリバイがないことを有罪根拠のひとつとした{{Sfn|確定判決|p=9}}{{efn|Iのアリバイとして、午後7時から同9時過ぎまでは、恋人とテレビを観ていたことが認定されている{{Sfn|確定判決|p=9}}。}}。しかし被害者の死亡推定時刻には幅があり、そもそも判決の判示する午後9時過ぎから10時前後に、本件犯行が行われたことを裏づける客観的証拠は存在しない{{sfn|三角|2019|p=51}}。
 
=== 3 アパートへの出入りの痕跡なし ===
本件当日、アパート東側の道路は午後9時から翌朝5時30分まで工事により通行止めとなり、警備員が配置されていた{{sfn|事件報告書|p=28}}。確定判決はこれを根拠に、本件は外部より第三者が侵入して起きた犯行ではないと推認した{{sfn|事件報告書|p=28}}。しかし死亡推定時刻の幅{{Sfn|確定判決|p=8}}を考慮すれば、午後7時10分から同9時までの間に外部の者がアパートに侵入し、犯行に及んだ可能性は排除できない{{sfn|事件報告書|p=28}}。
 
313 ⟶ 299行目:
そもそも警備員らは、アパートへの出入りの監視目的で配置されたわけでなく、アパート住人についての情報も持っておらず、仮に外部の者が出入りしていたとしても、それを正確に認識、記憶して捜査官に供述するのは困難である{{sfn|事件報告書|p=28}}。
 
=== 4 金銭的動機の存在 ===
確定判決は、Iに金銭目的という動機が存在したとしているが{{Sfn|確定判決|p=1–2}}、仮に動機があったとしても、強盗などの強行犯の前科がないI{{Sfn|確定判決|p=21}}が強盗殺人を犯すほど、切迫して追い詰められた状況にあったことを示すものではない。
確かにIには経済的な余裕がなく、父に対する借金や金銭目的による窃盗の余罪も存在していた{{Sfn|確定判決|p=1–2}}。しかしこれらを背景としても{{Sfn|確定判決|p=21}}、Iが強盗殺人にまで及ぶとの推認は成り立たない。
 
=== 5 事件翌日の金銭使用 ===
[[File:ファミリーマート小石川2丁目店.jpg|thumb|本件翌日、Iが利用したコンビニ。]]
確定判決は、Iが本件当日に所持金がなかったにもかかわらず、翌日にコンビニで千円札を使用して買物をしていたことを、有罪根拠のひとつとした{{Sfn|確定判決|p=10}}。
Iは当初、千円札について「父から交通費としてもらった」と供述していた{{sfn|事件報告書|p=29}}。しかし取調官から「父は金を渡した事実はないといっている」と告げられると{{Sfn|確定判決|p=18}}、「入手先は不明」と供述を変え、公判では再び「父からの交通費である」とした{{sfn|事件報告書|p=29}}。判決はこの供述変遷を不自然とし、父や恋人の記憶に残っていないのも理解しがたいと判示した{{Sfn|確定判決|p=18}}。
判決はこの供述変遷を不自然とし、父や恋人の記憶に残っていないのも理解しがたいと判示した{{Sfn|確定判決|p=18}}。
 
しかしながら、Iが初めてこの件を供述したのは、2002年9月15日である{{sfn|事件報告書|p=29}}。問題とされたコンビニでの買い物は同年8月1日と、1月半も前の話であり、わずか千円の記憶が曖昧になるのはむしろ自然である{{sfn|事件報告書|p=29}}。また判決は、「もし父から受け取ったのであれば、恋人や父も記憶していてしかるべき」とする{{Sfn|確定判決|p=18}}が、父自身は、「渡したことを記憶してはいないが、渡していないともいえない」と証言している{{sfn|事件報告書|p=30}}。
 
さらに当日の映像には、Iが千円札でカップ麺を購入し、釣銭を恋人に渡す様子が映っていた{{sfn|事件報告書|p=30}}。Iが犯人であり、本件で手にした千円札を使用したならば、釣銭は自身で保持するのが自然であり、この行動はむしろ、恋人や父から得た金を使ったというIの供述と整合的である{{sfn|事件報告書|p=30}}。以上からすれば、Iが使用した千円札を本件で手にしたとの推認は成り立たず、Iが犯人であることを裏づける証拠とはならない{{sfn|事件報告書|p=31}}。[[File:ファミリーマート小石川2丁目店.jpg|thumb|本件翌日、Iが利用したコンビニ。]] {{clear}}
 
== 第1次再審請求 ==
[[File:Tokyo High Court Building02bs3200.jpg|thumb|東京地方裁判所が入る合同庁舎(霞が関)]]
 
=== 再審請求審(東京地裁) ===
[[2015年]][[6月24日]]、Iの弁護団は[[東京地方裁判所]](以下、「[[東京地方裁判所|東京地裁]]」)に第1次再審請求を申し立てた{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}。13点の新証拠が提出された{{sfn|伊藤|2015|p=6}}が、弁護団が特に重視したのは以下の4点であった{{sfn|伊藤|2015|p=6–8}}{{sfn|吉村|2017|p=15–17}}。
 
1 # [[DNA型鑑定]]に関する新証拠<br>
2 # 指紋に関する新証拠<br>
3 # 繊維鑑定に関する新証拠<br>
4 # 被害者の大腿部背面の傷に関する新証拠
 
これらは確定判決における有罪認定に合理的疑いを生じさせるものであり、再審開始の要件である新規性と明白性{{sfn|安倍|1961|p=45–62}}を充足すると弁護団は主張した{{sfn|野嶋|2016|p=23–25}}。
加えて同年[[10月21日]]には、本件に関する以下の未開示証拠の開示を[[検察官]]に命じるよう、東京地裁に申し立てた{{sfn|萩原|2018|p=30–31}}。
 
加えて同年10月21日には、本件に関する以下の未開示証拠の開示を[[検察官]]に命じるよう、東京地裁に申し立てた{{sfn|萩原|2018|p=30–31}}。
① [[DNA型鑑定]]結果<br>
② 指紋関係<br>
③ 繊維鑑定関係<br>
④ 事件現場周辺の視認状況関係<br>
⑤ 犯行現場の客観的状況関係・犯行再現状況関係<br>
⑥ コンビニエンスストアで支払った現金関連<br>
⑦ 取調関係証拠<br>
⑧ 供述関係証拠<br>
 
# DNA型鑑定結果
同年[[11月30日]]、裁判所と弁護人の二者協議が開かれた{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。弁護側は裁判所に対して、証拠開示命令、確定記録・証拠物の早期取り寄せ、証拠散逸防止の措置を求めた{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。[[2016年]][[2月2日]]、検察官から再審請求に反対する意見書が提出され、弁護団はこれに対する反論書面を提出した{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。弁護側が再審請求における中核となすDNA型鑑定に関する主張の対立は、以下のとおりである。
# 指紋関係
# 繊維鑑定関係
# 事件現場周辺の視認状況関係
# 犯行現場の客観的状況関係・犯行再現状況関係
# コンビニエンスストアで支払った現金関連
# 取調関係証拠
# 供述関係証拠
 
同年11月30日、裁判所と弁護人の二者協議が開かれた{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。弁護側は裁判所に対して、証拠開示命令、確定記録・証拠物の早期取り寄せ、証拠散逸防止の措置を求めた{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。2016年2月2日、検察官から再審請求に反対する意見書が提出され、弁護団はこれに対する反論書面を提出した{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。弁護側が再審請求における中核となすDNA型鑑定に関する主張の対立は、以下のとおりである。
'''検察主張'''<br>
1 弁護側は白色タオルB部{{efn|group="注"|name="タオル注釈"}}からIのDNAが検出されなかったと強調するが、タオルを口内に押し込んでも、必ずしも犯人のDNAが残るとは限らない{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}。<br>
2 タオルB部から検出されたDNA型は複数人の混合型であり、IのDNA型が検出されなかったとしても不自然ではない{{sfn|吉野|2021|p=25}}{{efn|当記述は、検察官が確定審の吉井鑑定書に依拠して述べた見解である。当該鑑定書では、「複数人のDNAが混合した資料の場合、各座位ごとに反応が僅かな特徴点が、鑑定に当たり特徴として認められないことがある」とされている{{sfn|吉野|2021|p=25}}。}}。<br>
3 タオルB部には、本件前に被害者方に出入りしていた介護ヘルパー、野菜の[[行商人]]、知人友人、遺体発見者らのDNAが付着していた可能性もある{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}。
 
; 検察主張
'''弁護側反論'''<br>
:# 弁護側は白色タオルB部{{efn|group="注"|name="タオル注釈"}}からIのDNAが検出されなかったと強調するが、タオルを口内に押し込んでも、必ずしも犯人のDNAが残るとは限らない{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}。
1 本田克也教授(以下、「本田教授」)に依頼して、Iの自白どおりの犯行態様、タオルを口内に押し込んで窒息死させるという形で、犯人役のDNA型がタオルから検出されるか否かを検証した{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}。弁護人が被害者役になり、複数名の男性が犯人役となった結果、犯人役全員のDNA型がタオルから検出された{{sfn|三角|2019|p=51}}{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}{{sfn|吉村|2021|p=87}}。<br>
:# タオルB部から検出されたDNA型は複数人の混合型であり、IのDNA型が検出されなかったとしても不自然ではない{{sfn|吉野|2021|p=25}}{{efn|当記述は、検察官が確定審の吉井鑑定書に依拠して述べた見解である。当該鑑定書では、「複数人のDNAが混合した資料の場合、各座位ごとに反応が僅かな特徴点が、鑑定に当たり特徴として認められないことがある」とされている{{sfn|吉野|2021|p=25}}。}}。
2 本田教授の意見書からもわかるとおり、検察官の主張は理論的根拠、論文、研究、実験結果等の科学的根拠を何ら示すことなく述べている独自の考えである{{Sfn|伊集院|2020|p=31}}。<br>
:# タオルB部には、本件前に被害者方に出入りしていた介護ヘルパー、野菜の[[行商人]]、知人友人、遺体発見者らのDNAが付着していた可能性もある{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}。
3 本件において、当該タオルに触れた可能性がある人物はほぼ調査済みであり、その全員のDNA型が、タオルB部から検出されたDNA型と不一致である{{Sfn|伊集院|2021|p=38}}。しかしひとりだけ、連絡がつかないホームヘルパーAがいる{{Sfn|伊集院|2021|p=38-39}}。Aに関する情報は検察官が保持するはずであり、住所ほかの開示を求める{{Sfn|伊集院|2021|p=38-39}}{{efn|group="注"|当記述における「ヘルパーA」は、出典とした「再審通信」121号に基づいている{{Sfn|伊集院|2021|p=38-39}}。他の節では、「再審通信」117号に依拠して別人を同名の「ヘルパーA」としているが{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}、両者は異なる人物である。}}。
:<!-- バグ回避のための行。[[Help:箇条書き]]参照。 -->
; 弁護側反論
:# 本田克也教授に依頼して、Iの自白どおりの犯行態様、タオルを口内に押し込んで窒息死させるという形で、犯人役のDNA型がタオルから検出されるか否かを検証した{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}。弁護人が被害者役になり、複数名の男性が犯人役となった結果、犯人役全員のDNA型がタオルから検出された{{sfn|三角|2019|p=51}}{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}{{sfn|吉村|2021|p=87}}。
:# 本田教授の意見書からもわかるとおり、検察官の主張は理論的根拠、論文、研究、実験結果等の科学的根拠を何ら示すことなく述べている独自の考えである{{Sfn|伊集院|2020|p=31}}。
:# 本件において、当該タオルに触れた可能性がある人物はほぼ調査済みであり、その全員のDNA型が、タオルB部から検出されたDNA型と不一致である{{Sfn|伊集院|2021|p=38}}。しかしひとりだけ、連絡がつかないホームヘルパーAがいる{{Sfn|伊集院|2021|p=38-39}}。Aに関する情報は検察官が保持するはずであり、住所ほかの開示を求める{{Sfn|伊集院|2021|p=38-39}}{{efn|group="注"|当記述における「ヘルパーA」は、出典とした「再審通信」121号に基づいている{{Sfn|伊集院|2021|p=38-39}}。他の節では、「再審通信」117号に依拠して別人を同名の「ヘルパーA」としているが{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}、両者は異なる人物である。}}。
:<!-- バグ回避のための行 -->
; 三者協議期日の開催と証拠開示をめぐる攻防
: 検察・弁護側の主張対立を受けて、裁判所は2016年7月11日、第1回三者協議期日{{efn|group="注"|三者協議期日:再審手続において、裁判所・検察官・弁護人の三者が非公開で協議を行う場。刑事訴訟法上の明文規定は存在せず、実務慣行として運用されている。証拠開示や進行管理をめぐる重要な協議の場だが、開催の有無や頻度は裁判官の裁量に委ねられており、制度的な不安定さが指摘されている<ref>[https://www.benseiren.jp/news/vol602.html 弁政連ホームページ]2020</ref>。}}を開催した{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。弁護側は証拠開示の必要性を複数の鑑定(DNA型・指紋・繊維片)に即して主張したが、検察官は応じる気はないとし、裁判所も証拠開示の勧告をするにはいたらなかった{{Sfn|野嶋|2016|p=25}}。
: その後の三者協議では、検察官の反論準備の遅れによる進行の遅延なども起きる中、弁護団は裁判所に証拠開示命令を発するようくり返し求めた{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。2017年5月25日には、弁護団が東京地裁に補充書を提出し、ホームヘルパー関係証拠{{efn|group="注"|事件当時、被害者宅には計5名のホームヘルパーが出入りしていたが、そのうち1名の所在が不明であり、弁護側は検察に対し当該人物の身元・所在情報の提供を求めた{{sfn|萩原|2018|p=31}}。}}について開示命令を申し立てた{{sfn|萩原|2018|p=31}}。
: 同年10月10日、裁判所は検察官に対し、本件に関するDNA型、指紋、繊維に関する捜査書類が存在する場合、開示可能かを明らかにするように求めた{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。検察は2018年2月21日、一部の証拠の存在を認めた上で、「弁護人提出証拠の明白性の判断に資するものではない」として、開示は不要との意見書を提出した{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。
: 2018年2月26日の三者協議において、弁護団は裁判所に対し、証拠開示を勧告するよう強く働きかけた{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。結果裁判所はその席で、検察官に対して、同年3月末日までに下記4点、存在する証拠については任意の開示を促した{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}。
:# DNA型鑑定関係証拠
:# 指紋関係証拠
:# 繊維鑑定関係証拠
:# 犯行現場の客観的状況を示す資料等
: これに対して検察は、下記4点を任意に開示するにいたった{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}。
:# 2通の鑑定嘱託書写しおよび1通の鑑定書(DNA型関係証拠)
:# 3つの証拠(指紋関係証拠)
:# 鑑定嘱託書謄本1通、鑑定書1通(繊維鑑定関係証拠)
:# インデックスプリントしたものおよび現像した写真(犯行現場の状況に関する証拠)
 
本件の再審請求申立からすでに2年半以上が経過しており、弁護側はようやく証拠開示において一歩前進したと受け止めた{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。だが同時に、開示された証拠はまだ一部に過ぎず、さらなる未開示証拠の開示を求めた{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}。これまでも多くの再審事件において、検察官から新たに開示された証拠から事件の真相が究明され、再審無罪が果たされている{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}{{Sfn|萩原|2018|p=32}}{{Sfn|伊集院|2016|p=23}}{{sfn|三角|2019|p=52}}。弁護団は、再審開始に向けたさらなる証拠開示を粘り強く求める姿勢を見せた{{Sfn|伊藤|2018|p=31}} 。
'''三者協議期日の開催と証拠開示をめぐる攻防'''
 
検察・弁護側の主張対立を受けて、裁判所は[[2016年]][[7月11日]]、第1回三者協議期日{{efn|group="注"|三者協議期日:再審手続において、裁判所・検察官・弁護人の三者が非公開で協議を行う場。刑事訴訟法上の明文規定は存在せず、実務慣行として運用されている。証拠開示や進行管理をめぐる重要な協議の場だが、開催の有無や頻度は裁判官の裁量に委ねられており、制度的な不安定さが指摘されている<ref>[https://www.benseiren.jp/news/vol602.html 弁政連ホームページ]2020</ref>。}}を開催した{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。弁護側は証拠開示の必要性を複数の鑑定(DNA型・指紋・繊維片)に即して主張したが、検察官は応じる気はないとし、裁判所も証拠開示の勧告をするにはいたらなかった{{Sfn|野嶋|2016|p=25}}。
 
その後の三者協議では、検察官の反論準備の遅れによる進行の遅延なども起きる中、弁護団は裁判所に証拠開示命令を発するようくり返し求めた{{Sfn|吉村|2017|p=17}}。[[2017年]][[5月25日]]には、弁護団が東京地裁に補充書を提出し、ホームヘルパー関係証拠{{efn|group="注"|事件当時、被害者宅には計5名のホームヘルパーが出入りしていたが、そのうち1名の所在が不明であり、弁護側は検察に対し当該人物の身元・所在情報の提供を求めた{{sfn|萩原|2018|p=31}}。}}について開示命令を申し立てた{{sfn|萩原|2018|p=31}}。
 
同年 [[10月10日]]、裁判所は検察官に対し、本件に関するDNA型、指紋、繊維に関する捜査書類が存在する場合、開示可能かを明らかにするように求めた{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。検察は[[2018年]] [[2月21日]]、一部の証拠の存在を認めた上で、「弁護人提出証拠の明白性の判断に資するものではない」として、開示は不要との意見書を提出した{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。
 
[[2018年]] [[2月26日]]の三者協議において、弁護団は裁判所に対し、証拠開示を勧告するよう強く働きかけた{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。結果裁判所はその席で、検察官に対して、同年3月末日までに下記4点、存在する証拠については任意の開示を促した{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}。
 
① DNA型鑑定関係証拠<br>
② 指紋関係証拠<br>
③ 繊維鑑定関係証拠<br>
④ 犯行現場の客観的状況を示す資料等<br>
 
これに対して検察は、下記4点を任意に開示するにいたった{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}。
 
① 2通の鑑定嘱託書写しおよび1通の鑑定書(DNA型関係証拠)<br>
② 3つの証拠(指紋関係証拠)<br>
③ 鑑定嘱託書謄本1通、鑑定書1通(繊維鑑定関係証拠)<br>
④ インデックスプリントしたものおよび現像した写真(犯行現場の状況に関する証拠)
 
本件の再審請求申立からすでに2年半以上が経過しており、弁護側はようやく証拠開示において一歩前進したと受け止めた{{Sfn|萩原|2018|p=32}}。だが同時に、開示された証拠はまだ一部に過ぎず、さらなる未開示証拠の開示を求めた{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}。
これまでも多くの再審事件において、検察官から新たに開示された証拠から事件の真相が究明され、再審無罪が果たされている{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}{{Sfn|萩原|2018|p=32}}{{Sfn|伊集院|2016|p=23}}{{sfn|三角|2019|p=52}}。弁護団は、再審開始に向けたさらなる証拠開示を粘り強く求める姿勢を見せた{{Sfn|伊藤|2018|p=31}} 。
 
しかしそれ以降、弁護団が求めつづける証拠開示に対して、検察官は強い抵抗を示した{{sfn|日弁連基調報告書|p=51}}。弁護側が求めたホームヘルパーの情報開示についても、検察官は「不見当」の意見を返した{{sfn|三角|2019|p=52}}。弁護側は具体的な内容について検察庁に釈明を求めたが、検察官は「これ以上の回答を行う義務はない」との回答に終始した{{sfn|三角|2019|p=52}}。
 
[[2019年]][[7月31日]]までに、三者協議期日は計15回開かれた{{sfn|日弁連基調報告書|p=51}}。検察官は新たな証拠開示に応じる姿勢を見せず、裁判所も追加の開示勧告は考えていないとの回答に終始した{{sfn|日弁連基調報告書|p=51}}。[[2020年]]に入るころには、裁判所から「弁護側の主張は終わりですか?」と審理の終了を示唆する発言が見られ{{sfn|支援会ニュース13号|2020|p=3}}、再審請求審の判断が近づいていることが示された。
 
=== 裁判所の判断(東京地裁 [[2020年]] [[3月31日]]決定) ===
東京地裁は、弁護団の求めた事実調べや専門家の証人尋問等を実施することなく、弁護側が提出した新証拠の価値を否定したうえで、再審請求を棄却した(裁判長:小森田恵樹)<ref name="日弁連2020" />。
 
まず、白色タオルからIのDNA型が検出されなかった点について、裁判所は「DNA型が混合していた場合、IのDNA型が検出されずとも、その鑑定結果から、IのDNAが含まれていないものと断定はできない」とした{{Sfn|吉野|2021|p=25}}。この見解はすなわち、「DNA型が検出されなくても、Iがタオルに触れていない証拠にはならない」とするものであり、弁護側はDNA型鑑定の意義そのものを否定するとして強く非難した{{sfn|支援会ニュース20号|2021|p=4}}。また裁判所は、上記見解に依拠したうえで、「Iやヘルパー、行商人等のDNA型が検出されていないとはそもそも断じ難い」と判示した{{Sfn|吉野|2021|p=25}}。
 
指紋に関して、裁判所は、<br>
* 汗の分泌量が多すぎて指紋が付着しない可能性<br>
* トランジスタラジオについた指紋が、ラジオの穴により連続性を欠いて現場指紋と扱われなかった可能性<br>
* 指紋が重複して採取不能だった可能性<br>
は、いずれも否定できないとした{{sfn|吉村|2021|p=88}}。<br>
この判断は、「汗の分泌が指紋付着の蓋然性を高める」といった弁護側主張{{sfn|事件報告書|p=11}}を[[排斥]]するものであり、主張の根拠として弁護側が証人要請した指紋鑑定士の意見を聞くことなく、検察主張のみに依拠したものであった{{Sfn|伊集院|2020|p=31-32}}。
 
408 ⟶ 387行目:
これらの判断が依拠するのは、すべて検察側が提出した鑑定人の意見書であった{{Sfn|伊集院|2020|p=31}}。弁護側は、「科学的根拠を何ら示すことなく述べている独自の考え」であるとして{{Sfn|伊集院|2020|p=31}}、その判断は明らかな誤りであるとの見解を示した<ref name="日弁連2020" />。また、弁護側が強く求めたヘルパーAの住居に関する情報開示にも、裁判所は必要性を認めなかった{{Sfn|伊集院|2021|p=39}}。
 
[[2020年]] [[4月6日]]、弁護側は即時抗告し、判断は即時抗告審に持ち込まれた{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}。
 
=== 即時抗告審(東京高裁) ===
[[File:Tokyo-Hight-Coat-01.jpg|thumb|東京高等裁判所(霞が関合同庁舎)]]
 
即時抗告審は[[東京高等裁判所]]第2刑事部(大善文男裁判長)に係属し{{Sfn|三角|2022|p=27}}、最大の争点は、再審請求審(以下、「原審」とする。)に引きつづき、DNA型鑑定の科学的評価をめぐる弁護団と検察官の対立であった {{Sfn|三角|2022|p=27}}{{Sfn|伊集院|2021|p=37-39}}{{Sfn|吉野|2021|p=24-26}} 。
 
==== DNA型に関する弁護側主張と証拠開示請求(三者協議開催前) ====
 
弁護団は、原審が「DNA型が混合していた場合、IのDNA型が検出されずとも、その鑑定結果から、IのDNAが含まれていないものと断定はできない{{Sfn|吉野|2021|p=25}}」とした判断を最大の問題点とした{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}{{sfn|吉村|2021|p=88}}{{Sfn|吉野|2021|p=24-26}} 。この判断は、専門知識を有さない裁判官が、弁護側鑑定人の知見を聞くことなく、検察側鑑定人の意見書のみに依拠して下したものであり、当該意見書自体にも科学的・学術的根拠が何ら示されていないと厳しく指摘した{{Sfn|伊集院|2020|p=30}}{{Sfn|伊集院|2021|p=38}}{{sfn|支援会ニュース20号|2021|p=4}} 。
 
427 ⟶ 405行目:
さらに弁護団は、原審で不要とされたヘルパーAの情報開示の必要性を、改めて強調した{{Sfn|伊集院|2021|p=39}}。 凶器とされたタオルからは、IのDNA型が検出されていないだけでなく、被害者のものとも異なる「未知のDNA型」が検出されている{{Sfn|鬼頭|2017|p=23}}{{Sfn|野嶋|2016|p=24}}{{Sfn|吉村|2017|p=15-16}} 。弁護団は、この「未知のDNA型」が真犯人に由来する可能性が高いと当初から主張してきた{{Sfn|野嶋|2019|p=29}}{{Sfn|伊集院|2016|p=22}}{{sfn|三角|2019|p=51}}。 本件当時、タオルに接触した可能性のある人物のうち、Aを除く全員からDNA型の提供を受けており、いずれも「未知のDNA型」とは不一致の結果が得られている{{Sfn|伊集院|2022|p=25}}。この状況下で、情報未開示のAのDNA型が不一致となれば、「未知のDNA型」は、Iともタオルに触れた全関係者とも異なり、もはや真犯人以外には考え難いと弁護団は主張した{{Sfn|伊集院|2021|p=39}}。
 
==== 第1回三者協議期日開催 ====
[[2021年]][[3月26日]]、即時抗告審の第1回三者協議が実施された{{Sfn|伊集院|2021|p=39}} 。弁護側が新証拠としたDNA型の実験結果について、検察官は外部の専門家に相談のうえ、反論の書面等を提出するか検討中であると答えた{{sfn|支援会ニュース21号|2021|p=2}}。あわせて裁判所から、弁護団に証拠開示請求についての確認があり、弁護人は開示の必要性、特にAの住所を開示する重要さについて強調した{{sfn|支援会ニュース20号|2021|p=5}}。この点について、検察官からは開示請求に理由がない旨の意見が出され、裁判所は、同期日では証拠開示についての判断を示さなかった{{Sfn|伊集院|2021|p=39}}。
 
==== 検察主張と弁護側反論 ====
同年[[6月25日]]、検察官は意見書と、[[科学警察研究所|科警研]]の研究官・関口和正からの聴取結果を記載した報告書を東京高裁に提出した(以下、「関口報告書」とする){{sfn|支援会ニュース21号|2021|p=2}}。同年[[7月2日]]には、関口報告書に添付された英文資料の翻訳文を追加で提出した{{Sfn|吉野|2021|p=25}}。検察官は、関口報告書および英文資料に基づき、本田教授の鑑定方法に疑問を呈し、原決定の見解の正当性を主張した{{Sfn|吉野|2021|p=25}}{{sfn|支援会ニュース21号|2021|p=2}}。
 
同年[[8月25日]]、弁護団はこれに反論する書面を提出し、あわせて本田教授の新たな意見書を証拠提出した{{Sfn|吉野|2021|p=25}}。弁護団および本田教授は、関口報告書の見解と引用の海外論文は、本田教授の鑑定を否定できておらず、むしろ鑑定結果の正しさを裏付けるものであると指摘した{{Sfn|吉野|2021|p=25}}{{sfn|支援会ニュース23号|2021|p=3}}。また弁護団は、従前よりDNA型の専門家として本田教授、繊維片の専門家として澤渡千枝教授の証人尋問を請求していたが、新たに今回、被害者の大腿部裏に残された傷跡に関して専門的知見を有するとして、[[九州大学]]の池田典昭教授の証人尋問を請求した{{Sfn|吉野|2021|p=25}}。
 
==== 第2回三者協議期日と求釈明 ====
====第2回三者協議期日と[[釈明権|求釈明]]{{efn|group="注"|「求釈明」とは、相手方の保有する証拠や情報について、裁判所に説明・開示を促すよう申し立てる行為である。もともとは民事訴訟の用語だが、刑事再審実務でも慣用されている。本件では弁護団が裁判所に対して行った求釈明(申立て)と、裁判所が検察官に対して行った求釈明(指示)とがある<ref>{{cite web |url=https://kotobank.jp/word/%E9%87%88%E6%98%8E%E6%A8%A9-75855#goog_rewarded|title=釈明権 |website=コトバンク |accessdate=2025年7月28日}}</ref>。}}====
※[[釈明権|求釈明]]とは、相手方の保有する証拠や情報について、裁判所に説明・開示を促すよう申し立てる行為である。もともとは民事訴訟の用語だが、刑事再審実務でも慣用されている。本件では弁護団が裁判所に対して行った求釈明(申立て)と、裁判所が検察官に対して行った求釈明(指示)とがある<ref>{{cite web |url=https://kotobank.jp/word/%E9%87%88%E6%98%8E%E6%A8%A9-75855#goog_rewarded|title=釈明権 |website=コトバンク |accessdate=2025年7月28日}}</ref>。
2021年[[10月4日]]、第2回三者協議が開催された{{sfn|支援会ニュース23号|2021|p=3}}。この席上、検察官は弁護団からの関口報告書への反論に対し、さらに反論するか検討中であると述べた{{sfn|支援会ニュース23号|2021|p=3}}。弁護団は、凶器のタオルから検出された「未知のDNA型」は真犯人由来である可能性が極めて高く、当該タオルに触れた可能性のある全関係者のDNA型を検査する必要性を指摘した{{Sfn|伊集院|2021|p=39}} 。これは原審からくり返されてきた求釈明の申立てであり{{Sfn|伊集院|2022|p=25}}、残されたひとりである、ヘルパーAのDNA型検査の必要性を弁護団は改めて強調した。
 
2021年10月4日、第2回三者協議が開催された{{sfn|支援会ニュース23号|2021|p=3}}。この席上、検察官は弁護団からの関口報告書への反論に対し、さらに反論するか検討中であると述べた{{sfn|支援会ニュース23号|2021|p=3}}。弁護団は、凶器のタオルから検出された「未知のDNA型」は真犯人由来である可能性が極めて高く、当該タオルに触れた可能性のある全関係者のDNA型を検査する必要性を指摘した{{Sfn|伊集院|2021|p=39}}。これは原審からくり返されてきた求釈明の申立てであり{{Sfn|伊集院|2022|p=25}}、残されたひとりである、ヘルパーAのDNA型検査の必要性を弁護団は改めて強調した。
翌日の[[10月5日]]、東京高裁は検察官に対し、ヘルパーAの住所が記載された書面の有無を確認し、存在する場合は弁護人に開示するよう求釈明を行った{{Sfn|伊集院|2022|p=25-26}}。これは2016年に弁護団が申立てたAの情報開示{{Sfn|萩原|2018|p=31}}に対し、5年を過ぎてなされた求釈明であった。しかし検察官は、書面の存在は認めつつも、その開示を拒否した{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}。理由として、AのDNA型がタオルから検出された「未知のDNA型」と不一致となったところで、真犯人がいるという推論は成り立たずに意味がないと述べた{{sfn|支援会ニュース24号|2022|p=2}}。また検察官は、証拠開示に応じることは確定判決を全面的に見直すことになり、実質「第4審」を開くに等しく、確定判決の法的安定性を損なうため許されない、との主張を展開した{{sfn|支援会ニュース24号|2022|p=2}}<ref name="澤藤統一郎ブログ 2022">[https://article9.jp/wordpress/?p=18532 澤藤統一郎ブログ 2022]</ref>。
 
翌日の10月5日、東京高裁は検察官に対し、ヘルパーAの住所が記載された書面の有無を確認し、存在する場合は弁護人に開示するよう求釈明を行った{{Sfn|伊集院|2022|p=25-26}}。これは2016年に弁護団が申立てたAの情報開示{{Sfn|萩原|2018|p=31}}に対し、5年を過ぎてなされた求釈明であった。しかし検察官は、書面の存在は認めつつも、その開示を拒否した{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}。理由として、AのDNA型がタオルから検出された「未知のDNA型」と不一致となったところで、真犯人がいるという推論は成り立たずに意味がないと述べた{{sfn|支援会ニュース24号|2022|p=2}}。また検察官は、証拠開示に応じることは確定判決を全面的に見直すことになり、実質「第4審」を開くに等しく、確定判決の法的安定性を損なうため許されない、との主張を展開した{{sfn|支援会ニュース24号|2022|p=2}}<ref name="澤藤統一郎ブログ 2022">[https://article9.jp/wordpress/?p=18532 澤藤統一郎ブログ 2022]</ref>。
 
この対応を受けて、弁護団は裁判所に意見書を提出した{{sfn|支援会ニュース24号|2022|p=2}}。求釈明を拒否した検察官の行為は、裁判所の訴訟指揮権に対する侵害であり、また、拒否理由としてAのDNA型鑑定に対する不要論を述べているが、それを判断するのは裁判所であり、検察官ではないと厳しく批判した{{sfn|支援会ニュース24号|2022|p=2}}{{efn|こうして検察官が情報を隠しつづけることの問題は根深い{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}として、弁護団にとどまらず、Iの支援団体や、弁護団の一員ではない[[澤藤統一郎]]弁護士らも検察のあり方を厳しく非難した<ref name="澤藤統一郎ブログ 2022" />{{sfn|支援会ニュース24号|2022|p=3}}。}}。
 
検察を批判しながらも、弁護団は独自の調査を再開した{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}。新たな切り口から調査をやり直した結果、遂には長年把握できなかったAの所在を探し当てた{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}。[[2022年]][[2月11日]]、弁護団はAに事情を説明し、DNA型調査への協力に成功した{{sfn|支援会ニュース25号|2022|p=2}}。
 
==== 「欠けていた新証拠」の入手と弁護団の主張 ====
本田教授の鑑定において、AのDNA型も「未知のDNA型」とは不一致との結果報告がなされた{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}{{sfn|支援会ニュース25号|2022|p=2}}。この鑑定結果を基に、弁護団はタオルB部から検出された「未知のDNA型」は、真犯人由来であることがはっきりしたと主張した{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}。これに対する検察の反論は抽象の域を出ないとして、弁護団はIが犯人ではないと断言し、きたるべき即時抗告審の結論を待った{{Sfn|伊集院|2022|p=26}}。
 
=== 裁判所の判断(東京高裁 [[2022年]] [[4月7日]]決定) ===
東京高裁は原審の棄却決定を支持し、再審開始を認めない決定をした(裁判長:大善文男)<ref name="産経新聞2022 4">[https://www.sankei.com/article/20220407-5ERWT7MEYNONPFHCGV6C2GQCMM/ {{Harvnb|産経新聞 2022年4月7日] }}</ref>。原審と同様に、弁護側が求めた専門家の証人尋問等は実施されず、弁護団提出の新証拠に価値を認めない決定であった{{Sfn|三角|2022|p=27-29}}<ref name="日弁連2022">[https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2022/220412.html 日弁連ホームページ 2022] </ref>。
 
最大の争点となったDNA型鑑定をめぐっては、ミトコンドリアDNAに関する[[法医学]]の専門家である、検察側の関口和正と弁護側の本田克也、両者の見解の信頼性や妥当性が問われた{{Sfn|三角|2022|p=29}}。東京高裁は関口の見解に依拠した検察主張を採用し、以下のように判示した{{Sfn|三角|2022|p=27-28}}。
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「白色タオルB部からIのDNAが検出されなかったとしても、Iが自白どおりの方法で犯行に及んだ際に、そのB部に触れなかった、あるいは触れたとしてもDNAを検出できるだけの生体試料が付着しなかった可能性があるため、タオルB部からIのDNAが検出されなかったことが、Iの犯行を否定する根拠になるとは限らない」{{Sfn|三角|2022|p=27-28}}
 
あわせて裁判所は、検察官の主張を追認する形で、<br>
* DNAが混合型の場合、Iの反応がわずかで特徴点として認められなかった可能性{{efn|group="注"|DNA型が複数人分まじりあった「混合試料」では、特定の人物のDNA型がごく微量だと、その特徴点が正しく検出されないことがある(ドロップアウト){{sfn|日本DNA多型学会|2019|p=6–8}}。}}<br>
* ノイズとピークが混同された可能性{{efn|group="注"|DNA検査の際、本物のDNA信号(ピーク)と区別がつきにくい背景ノイズ(誤った信号)が混入し、特に信号が弱い場合には、ノイズを本物のピークと誤認する可能性もある{{sfn|日本DNA多型学会|2022|p=2–6}}。}}<br>
* 試料について採取、保管、検査等の場面で[[コンタミネーション]]{{efn|group="注"|コンタミと略されることも。他のDNAの混入{{sfn|司法研修所|2013|p=4}}。}} が生じた可能性
が生じた可能性<br>
を指摘したうえで、「タオルB部からIのDNAが検出されなかったとしても、IのDNAが付着していなかったと断定することはできない」と結論づけた{{Sfn|三角|2022|p=28}}。
 
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重ねて弁護団は、裁判所が抽象的な可能性を列挙して弁護側の新証拠を排斥したとして、これは最高裁の[[白鳥決定|白鳥・財田川決定]]の考え方に反し、「[[疑わしきは被告人の利益に]]」という刑事裁判の原則に抵触するもので、[[日本国憲法第31条|憲法31条]]にも反するとの見解を示した{{Sfn|三角|2022|p=29}}。
 
この見解を基に、弁護団は東京高裁の決定が不当であり、Iの再審請求が正当であることを明らかにするとして、2022年[[4月12日]]、[[最高裁判所]]に特別抗告を申し立てた{{Sfn|三角|2022|p=29}}。
 
===特別抗告審([[最高裁判所 (日本)|最高裁]])===
 
=== 特別抗告審(最高裁) ===
[[File:Saikosaibansho.jpg|thumb|right|300px|[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]庁舎(東京都千代田区)]]
 
特別抗告審は最高裁第3小法廷([[渡邉惠理子]]裁判長)に係属し、原審および即時抗告審の判断の妥当性が問われた{{Sfn|三角|2022|p=27}}。弁護団は、東京高裁の判断に対抗するにあたり、新たなDNA型鑑定の専門家である、[[東邦大学]]医学部の黒崎久仁彦教授(以下、「黒崎教授」)に意見書の作成を依頼した{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=2}}。黒崎教授は「科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方」(司法研究所編『法曹界』)の協力研究員であり、同書ではDNA型鑑定に関する幅広い科学的知見が述べられており、裁判所からも信頼されているとされる専門家であった{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=2-3}}。
 
黒崎教授は、捜査段階の「吉井鑑定書」で示された混合試料、すなわち被害者のDNA型と「未知のDNA型」が混合した白色タオルについて、各ピークの高さと、その高さ割合について検証した{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=3}}。結果として、「未知のDNA型」は、十分にDNA型が検出できるだけの混合割合で存在しており、これらの混合ピークにノイズであると指摘できる特徴や傾向は見出だせないと述べた{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=3}}。
 
 
{| class="wikitable" style="text-align:center"
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この結果を受けて、弁護団はタオルB部にはノイズではなく、明確に識別可能なDNA型が検出されたと認識した{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=3}}。そしてそのDNA型は、Iとも、事件と関係なくタオルに触れた全関係者とも一致していない{{Sfn|伊集院|2024|p=35}}{{Sfn|伊藤|2015|p=7}}。これらの科学的根拠を踏まえ、弁護団は改めて、タオルB部から検出された「未知のDNA型」は、真犯人に由来する可能性が高いと結論づけた{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=3}}。
 
また2022年[[8月]]、弁護団は本件が発生したアパートの居室を家主から借りて{{efn|group="注"|本件の現場となったアパートは、2025年8月現在、取り壊されて駐車場になっている{{sfn|支援会ニュース39号|2025|p=2}}}}、Iの自白内容に沿った現場再現を実施した{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=4}}。ここで弁護団は、改めて4.5畳の狭さにおいて、室内に被害者がいると知りつつ「バレずに盗めると思った{{Sfn|確定判決|p=10}}」という自白の非現実性、また、居室の狭さと配置された籐椅子の存在等から、「袈裟固めのような体勢で押し倒す{{Sfn|伊集院|2024|p=34}}」ことが不可能であることを立証した{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=4}}{{efn|group="注"|この問題についてジャーナリストの江川紹子は、「狭い部屋で住人がいるのに侵入するか? 裁判官は四畳半に住んだこともなく、狭さを実感していないのではないか」と裁判官のリアリティのなさについて言及している{{sfn|支援会ニュース6号|2018|p=2}}。}}。
 
同年[[10月27日]]、弁護団は黒崎教授の意見書および現場再現報告書等を新証拠として最高裁に提出し、Iが犯人であることに合理的な疑いが生じており、再審開始が決定されるべきであると求めた{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=4}}。また同年[[11月15日]]、弁護人2名で千葉刑務所にIを訪ね、最高裁で逆転勝利をつかむための大きな一歩を踏み出したと報告した{{sfn|支援会ニュース28号|2022|p=4}}。
 
=== 裁判所の判断(最高裁 [[2022年]] [[12月12日]]決定) ===
最高裁第3小法廷(渡邉惠理子裁判長)は、12月12日付で、以下のとおりIの再審請求を棄却した<ref name="産経新聞2022 12">{{Harvnb|産経新聞 2022年12月}}</ref>{{sfn|支援会ニュース29号|2023|p=1}}。
 
最高裁第3小法廷(渡邉惠理子裁判長)は、12月12日付で、以下のとおりIの再審請求を棄却した<ref name="産経新聞2022 12">[https://www.sankei.com/article/20221214-KDFK7ZDKCFMARI6WIT42N3ZH4A/ 産経新聞2022年12月14日]</ref>{{sfn|支援会ニュース29号|2023|p=1}}。
{{Quotation| 主文 本件抗告を棄却する。理由 本件抗告の趣意は、[[憲法違反]]、判例違反をいう点をふくめ、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、[[刑事訴訟法|刑訴法]]433条の抗告理由に当たらない。よって、同法434条、426条、1項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 令和4年12月12日、最高裁判所第3小法廷 裁判長渡邉恵里子、裁判官宇賀克也、林道晴、長嶺安政、今崎幸彦}}
 
最高裁の判断としては、最高裁は憲法違反や判例違反を審理する場であり、本件の特別抗告は事実誤認の訴えであるため、上告理由に当たらないとするものであった{{sfn|支援会ニュース29号|2023|p=1}}。これは弁護団が黒崎教授の意見書ほか新証拠を提出してから1月半後の棄却決定であり、弁護団は「内容ゼロ、真摯な検討もなし、棄却決定を先に決めて新証拠を無視したとしか考えられない」と厳しく非難した{{sfn|支援会ニュース29号|2023|p=2}}。これを受けた日弁連は、本決定は極めて不当であり、容認できないとの声明を出し、すでに弁護団が、第2次再審請求に向けた準備を進めていることを公表した<ref name="日弁連2023">[https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2023/230130.html 日弁連ホームページ 2023] </ref>。
 
== 第2次再審請求に向けた動き ==
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=== 支援と評価 ===
[[2017年]][[4月13日]]、[[日本国民救援会]]に「小石川えん罪事件の再審を支援する会」が[[発足]]し、[[署名活動]]や裁判所要請、[[街頭宣伝]]、[[現地調査]]、犯行再現実験その他、活動と情報発信を行っている<ref name="国民救援会">[https://kyuenkai.org/support/%E5%B0%8F%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E4%BA%8B%E4%BB%B6/ 日本国民救援会 HP 事件の概要と経過] </ref>。
また[[布川事件]]の当事者として知られる、社会運動家の[[桜井昌司]]([[故人]])も、[[生前]]は小石川事件に言及し、支援の姿勢を示していた<ref name="獄外記">[https://blog.goo.ne.jp/syouji0124/e/c6c986fb4baa4f43ce5efc211466e390 桜井昌司 獄外記] </ref>。桜井は事件現場の状況やIの供述の不自然さ、証拠の欠落などを指摘したうえで、「この小石川事件も、必ず再審で無罪になる日が来る」「ホントに日本の[[司法]]は狂ってるよ」などと述べ、日本の冤罪構造の一端として本件をとりあげ、問題視していた<ref name="獄外記"></ref>。
 
さらに[[オウム真理教事件]]の報道などで知られるジャーナリストの[[江川紹子]]も、本件に対し冤罪の可能性ありとの見解を示している{{sfn|支援会ニュース号外 |2018|p=4}}。[[2018年]][[4月26日]]に開催された「小石川えん罪事件の真相を開く会」で講師を務めた江川は、のちに支援会に下記メッセージを[[寄稿]]している{{sfn|支援会ニュース号外 |2018|p=4}}。
 
{{Quotation|有罪判決は、化粧水の瓶の指紋と自白を、有力な証拠としています。しかし、瓶のあった戸棚を物色したなら、扉やその前に置いてあるラジオにも指紋がついていなければ変です(瓶の指紋は、過去に被害者宅に盗みに入った時についた可能性があります)。現場には、他にI氏の指紋はなく、彼の毛髪等も落ちていません。被害者の口に押し込んだタオルにも、彼のDNAはなく、それどころか他人のDNAが検出されたとのこと。彼が犯人ならありそうな証拠がなく、自白が有力な証拠になっているという点は、再審無罪となった[[布川事件]]にも似ています。当時の芳しくない生活態度ゆえに、別件で逮捕・起訴され、身柄拘束が続く中、捜査員から虚実とりまぜた追求を受けて"自白”に追い込まれたのも同じです。本件でも、今なお隠された証拠の中に真相に近づくヒントがあるかもしれません。徹底的な証拠開示が必要な事件だと思います。|江川紹子さんからのメッセージ{{sfn|支援会ニュース号外 |2018|p=4}}。}}
 
== 獄中で23年間を過ごすI ==
=== 人物像===
[[2005年]][[6月]]に無期懲役が確定したIは{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}、[[東京拘置所]]から[[川越少年刑務所]]に移送され、そこで数月の分類審査期間を経て、[[2006年]][[3月]]、[[千葉刑務所]]での[[服役]]が決まった。Iの支援者は[[2024年]][[8月]]の段階で168名に達しているが{{sfn|支援会ニュース36号|2024|p=4}}、支援者には川越少年刑務所でIと共に過ごした人物もおり、当時のIの人柄を証言している{{sfn|支援会ニュース40号|2025|p=4}}。[[File:似顔絵 支援する会公表.png|thumb|40歳のI。千葉刑務所面会室で{{sfn|支援会ニュース16号|2020|p=3}}。]]
 
Iは25歳当時、小柄で整った顔立ち、繊細で物静かな雰囲気の青年であった{{sfn|支援会ニュース40号|2025|p=4}}。川越では厳しい運動訓練にも必死に取り組み、倒れても挫けず、職員からの叱責にも耐える姿が印象的であったという{{sfn|支援会ニュース40号|2025|p=4}}。また所持金が少なく、自弁品の[[シャンプー]]を購入できずに官物の[[石鹸]]で頭を洗っていたが、愚痴をこぼすことはなく、周囲の[[受刑者]]に対してときおり笑顔を見せるなど、心優しい人物であったとも証言している{{sfn|支援会ニュース40号|2025|p=4}}。[[File:Iの似顔絵.jpg|thumb|40歳のI。千葉刑務所面会室で支援者作画{{sfn|支援会ニュース16号|2020|p=3}}。]]
 
=== 自白の背景と述懐 ===
Iは、2002年に窃盗容疑で逮捕され、過酷な取調[[#自白の強要と取調の違法性|(※参照)]]の中で本件強盗殺人の自白に至ったが、その背景について、獄中から支援団体に寄せた直筆メッセージの中で述懐している{{sfn|支援会ニュース36号|2024|p=2}}。
{{Quotation|22年も前というと、本当に一昔前という感覚で、事件に関係のない当時の記憶は曖昧なものがほとんどですが、7月31日の出来事やその後の行動、そして取調べを受けていた頃の記憶は、今でもはっきりと覚えています。それ程、身近にいた人が殺害される、自分が殺人犯として疑われている、ということが衝撃的な出来事だったのです。<br>私は、警察の圧力に抗いきれず、ウソの自白をしてしまいました。世間の方は、やってもいないのに何故自白をするのか理解ができない、不思議でならないという方がほとんどではないでしょうか。当事者でなかったら、私もそのように思ったはずです。<br>自白に至った原因は、一義的ではありません。暴力や暴言、生理的要求の拒否など、直接的に苦痛を与えるものから、家族や恋人、友人知人などの名前を出しては、その人たちが不幸になる、迷惑がかかると恫喝まがいのやり方で精神的に追い込んできたりします。このまま否認していても、自分に待っているものは絶望しかないと思わせるのです。<br>私は、いくら自白をしたからといって、それだけで犯人とされるはずはないだろうと本気で思っていました。しかしその一方で、このまま犯人にされてもかまわないという投げやりな気持ちもありました。当時の私は堕落した生活を送っており、将来に希望も持てず、そんな自分に失望し、変わる努力もしないで、自分にはまともに生きる価値もないと人生を諦めていたのです。<br>そのように、つけこまれる隙がたくさんあったこと、自分自身に価値を見出だせなかったこと、ただただ弱かったことなど、さまざまな要因が何重にも重なって自白をしてしまったのです。|支援会ニュースレター第36号 2024年8月26日{{sfn|支援会ニュース36号|2024|p=2}}}}
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Iは2006年に千葉刑務所にきた当初は、絶望により廃人のように過ごしたとの心境を告白している{{sfn|支援会ニュース35号|2024|p=5}}。しかし日弁連が本件を支援決定し、支援する会が結成され、「会ったこともない、話をしたこともない多くのみなさんから支援激励していただき、変わることができた」と述べている{{sfn|支援会ニュース35号|2024|p=5}}<ref name="国民救援会2">[https://kyuenkai.org/support/%E5%B0%8F%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E4%BA%8B%E4%BB%B6/ 日本国民救援会 HP 裁判の争点] </ref>。そのような心境変化の中で、Iは書物で勉強し、新聞・ラジオ等に無実を訴える手紙を何百通と書き送った{{sfn|支援会ニュース37号|2024|p=6}}。思いを届けるためには、きちんとした文章と字を書かなければとの思いから、多くの支援者を驚かせる達筆ぶりを身につけている{{sfn|支援会ニュース37号|2024|p=6}}。ほかにも[[危険物取扱者]]、[[簿記検定|簿記2級]]、[[漢字検定|漢字検定1級]]等の資格を獄中で取得し、特に漢字検定1級は合格率が約10%の難関資格であることから、Iの努力とひたむきさに多くの支援者が感嘆し、第2次再審請求に向けた支援をつづけている{{sfn|支援会ニュース34号|2024|p=1,3}}。
 
{{Quotation|私は諦めません。決して諦めません。私が犯人ではない事は、誰よりも、私自身が、一番よく知っています。そして、私が犯人ではないという真実は、決して変わる事はありません。誰にも変える事はできません。<br>真実が明らかとなるその日まで闘い続け、そして、いつか再審が認めれられ社会に戻れる日がくる事を信じ、その時のために日々、精進し、自己向上につとめていきたいと思っています。|支援会ニュースレター号外 2018年6月{{sfn|支援会ニュース号外|2018|p=1}}}} [[File:支援会発行ニュースレターChiba Prison and Message by I 2020.jpg|thumb|Iが支援団体に寄せた直筆文{{sfn|支援会ニュース号外|2018|p=1}}]]
 
== 事件発生から現在(年表)==
* [[2002年]][[7月31日]] - 本件強盗殺人事件発生{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=204}}
* 2002年[[9月1日]] - 別件の窃盗容疑でI逮捕{{Sfn|伊藤|2015|p=6}}
* [[2003年]][[1月12日]] - 強盗殺人容疑でI再逮捕{{Sfn|伊集院|2016|p=21}}
* [[2004年]][[3月29日]] - [[東京地方裁判所]]、無期懲役判決([[村瀬均]]裁判長){{Sfn|確定判決|p=19–21}}
* 2004年[[12月21日]] - [[東京高等裁判所]]、控訴棄却判決(安東文夫裁判長){{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}
* [[2005年]][[6月17日]] - [[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第一[[小法廷]]、上告棄却決定([[才口千晴]]裁判長){{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}
* [[2007年]][[2月20日]] - I、獄中から日弁連に再審支援要請<ref name="国民救援会"></ref>
* [[2015年]][[5月8日]] - 日弁連、再審支援を決定{{Sfn|21世紀の再審|2021|p=206}}
* 2015年[[6月24日]] - I、東京地裁に再審請求{{Sfn|吉村|2017|p=15}}
* [[2016年]][[11月]] - 国民救援会支援決定<ref name="国民救援会"></ref>
* [[2017年]][[4月13日]] - 「小石川えん罪事件の再審を支援する会」結成<ref name="国民救援会"></ref>
* [[2018年]][[3月]] - 検察が証拠の一部を開示{{Sfn|伊藤|2018|p=31}}
* [[2020年]][[3月31日]] - 東京地裁、再審請求を棄却(小森田恵樹裁判長)<ref name="日弁連2020" />
* [[2022年]][[4月7日]] - 東京高裁、第2刑事部、即時抗告を棄却(大善文男裁判長)<ref name="産経新聞2022 4">< /ref>
* 2022年[[12月12日]] - 最高裁第3小法廷、特別抗告を棄却(渡邉恵里子裁判長)<ref name="産経新聞2022 12">< /ref>
* [[2025年]][[910]]現在 - 弁護団が第2次再審請求に向けて準備中{{Sfn|伊集院|2024|p=35}}
 
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
 
=== 注釈 ===
{{Notelist|group="注"30em}}
 
== 出典 ==
{{Reflist|325em}}
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book |和書 |editor=日本弁護士連合会 人権養護委員会|year=2021|title=21世紀の再審|pages=204-210|publisher=日本評論社|ISBN=978-4-535-52529-0|ref={{Sfnref|21世紀の再審|2021}} }}
* {{Cite report |和書 |author=日弁連人権擁護委員会 |title=日弁連・小石川事件報告書 |publisher=日本弁護士連合会 |pages=1–32 |date=2015 |ref={{SfnRef|事件報告書}} }}
* {{Cite journal|和書|author=伊藤祐尚|year=2015|title=日弁連支援事件 小石川事件:再審開始請求申立て 再審開始の扉を開けさせる一歩として|journal=」『再審通信|issue=110号|pages=6-8|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|伊藤|2015}} |id=国立国会図書館 請求記号:Z2-874/874、書誌ID:000007991563}}ID:000007991563)
** {{Wikicite |reference=伊藤祐尚「再審開始請求申立て 再審開始の扉を開けさせる一歩として」(110号〈2015年〉6-8頁)|ref={{Sfnref|伊藤|2015}} }}
* {{Cite journal|和書|author=伊集院剛|year=2016|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 適切な証拠開示を求めて~再審開始請求申立てその後|journal=再審通信|issue=111号|pages=21-23|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|伊集院|2016}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=伊集院剛「適切な証拠開示を求めて〜再審開始請求申立てその後」(111号〈2016年〉21-23頁)|ref={{Sfnref|伊集院|2016}} }}
* {{Cite journal|和書|author=野嶋真人|year=2016|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 科学的証拠で自白を崩す|journal=再審通信|issue=112号|pages=23–25|publisher=日本弁護士連合会|ref={{SfnRef|野嶋|2016}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=野嶋真人「科学的証拠で自白を崩す」(112号〈2016年〉23-25頁)|year=2016|ref={{SfnRef|野嶋|2016}} }}
* {{Cite journal|和書|author=吉村健一郎|year=2017|title=日弁連支援事件 小石川事件 : これまでの経緯と裁判所での協議の状況|journal=再審通信|issue=113号|pages=15-17|publisher=日本弁護士連合会|ref={{SfnRef|吉村|2017}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=吉村健一郎「これまでの経緯と裁判所での協議の状況」(113号〈2017年〉15-17頁)|ref={{SfnRef|吉村|2017}} }}
* {{Cite journal|和書|author=鬼頭治雄|year=2017|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 自白した経緯に着目して|journal=再審通信|issue=114号|pages=23–25|publisher=日本弁護士連合会|ref={{SfnRef|鬼頭|2017}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=鬼頭治雄「自白した経緯に着目して」(114号〈2017年〉23-25頁)|ref={{SfnRef|鬼頭|2017}} }}
* {{Cite journal|和書|author=萩原美保子|year=2018|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 証拠開示請求における進展|journal=再審通信|issue=115号|pages=30–32|publisher=日本弁護士連合会|ref={{SfnRef|萩原|2018}} |date=2018年5月1日 |id=請求記号:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=萩原美保子「証拠開示請求における進展」(115号〈2018年〉30-32頁)|ref={{SfnRef|萩原|2018}} }}
* {{Cite journal|和書|author=伊藤祐尚|year=2018|title=日弁連支援事件 小石川事件:再審開始請求申立て 再審開始の扉を開けさせる鍵として|journal=再審通信|issue=116号|pages=29-31|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|伊藤|2018}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=伊藤祐尚「再審開始請求申立て 再審開始の扉を開けさせる鍵として」(116号〈2018年〉29-31頁)|ref={{Sfnref|伊藤|2018}} }}
* {{Cite journal|和書|author=野嶋真人|year=2019|title=日弁連支援事件 小石川事件:小石川事件のDNA型鑑定|journal=再審通信|issue=117号|pages=29-30|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|野嶋|2019}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=野嶋真人「小石川事件のDNA型鑑定」(117号〈2019年〉29-30頁)|ref={{Sfnref|野嶋|2019}} }}
* {{Cite journal|和書|author=伊集院剛|year=2020|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 科学的な根拠に基づく判断を|journal=再審通信|issue=120号|pages=30-32|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|伊集院|2020}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=伊集院剛「科学的な根拠に基づく判断を」(120号〈2020年〉30-32頁)|ref={{Sfnref|伊集院|2020}} }}
* {{Cite journal|和書|author=伊集院剛|year=2021|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 小石川事件のその後|journal=再審通信|issue=121号|pages=37-39|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|伊集院|2021}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=伊集院剛「小石川事件のその後」(121号〈2021年〉37-39頁)|ref={{Sfnref|伊集院|2021}} }}
* {{Cite journal|和書|author=吉野雄介|year=2021|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 即時抗告審の経過について|journal=再審通信|issue=122号|pages=24-26|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|吉野|2021}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=吉野雄介「即時抗告審の経過について」(122号〈2021年〉24-26頁)|ref={{Sfnref|吉野|2021}} }}
* {{Cite journal|和書|author=伊集院剛|year=2022|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 即時抗告審いよいよ決定|journal=再審通信|issue=123号|pages=24-26|publisher=日本弁護士連合会|ref={{Sfnref|伊集院|2022}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=伊集院剛「即時抗告審いよいよ決定」(123号〈2022年〉24-26頁)|ref={{Sfnref|伊集院|2022}} }}
* {{Cite journal|和書|author=三角恒|year=2022|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 最高裁へ|journal=再審通信|issue=124号|pages=27–29|publisher=日本弁護士連合会|ref={{SfnRef|三角|2022}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=三角恒「最高裁へ」(124号〈2022年〉27-29頁)|ref={{SfnRef|三角|2022}} }}
* {{Cite journal|和書|author=伊集院剛|year=2024|title=日弁連支援事件 小石川事件 : 次の再審請求に向けて|journal=再審通信|issue=128号|pages=33–35|publisher=日本弁護士連合会|ref={{SfnRef|伊集院|2024}} |id=国立国会図書館:Z2-874/書誌ID:000007991563}}
** {{Wikicite |reference=伊集院剛「次の再審請求に向けて」(128号〈2024年〉33-35頁)|ref={{SfnRef|伊集院|2024}} }}
* {{Cite book |和書 |others=三角恒|editor=冤罪白書編集委員会|year=2019|title=いま、闘われている冤罪事件|volume=2|pages=50–52|ref={{SfnRef|三角|2019}}|id=国立国会図書館:Z72-S575/書誌ID:030162866}}
* {{Cite book |和書 |others=吉村健一郎|editor=冤罪白書編集委員会|year=2021|title=いま、闘われている冤罪事件|volume=3|pages=86–89|ref={{SfnRef|吉村|2021}}|id=国立国会図書館:Z72-S575/書誌ID:030162866}}
* {{Cite journal |和書 |author=宮野絢子|year=2023|title=小石川事件|journal=Libra : The Tokyo Bar Association journal|volume=23|issue=10|pagespage=11|publisher=東京弁護士会|ref={{SfnRef|宮野|2023}} |id=特集「今こそ変えよう!再審法 : えん罪被害者の速やかな救済のために」所収。国立国会図書館請求記号:Z71-E605/書誌ID:000000162915}}
* {{Cite journal |和書 |author=安倍治夫 |year=1961 |title=再審理由としての証拠の新規性と明白性--刑訴435条6号の運用に関する比較法的反省-1- |journal=警察研究 |volume=32 |issue=2 |pages=45–62 |publisher=警察庁 |ref={{SfnRef|安倍|1961}} |date=1961年2月 |id=国立国会図書館請求記号:Z2-64/書誌ID:656096}}
* {{Cite book |和書
| title = 東京地方裁判所判決
| date = 2004-03-29
| publisher = 東京地方裁判所
| othersquote = 平成15年合(わ)第34号、平成14年刑(わ)第3180号、刑(わ)第3806号、刑(わ)第4277号(強盗殺人、住居侵入、窃盗被告事件)に関する一審判決。控訴審・上告審にて支持され、確定した。
| ref = {{SfnRef|確定判決}} }}
* {{Cite journal|和書|author= |year=2020|date=2020-3-17 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=」『ニュースレター |issue=13号「事件の真相と現状」 |pages=1-4 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース13号|2020}}}}
** {{CiteWikicite journal|和書|authorreference= |year=2020|date=2020-10-9 |title=東京・小石川冤罪13号「事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issue=16号 「面会記の真相と現状 |pages=2020年3月17日、1-4 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース1613号|2020}}}}
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** {{CiteWikicite journal|和書|authorreference= |year=2021|date=2021-11-18 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issue=2321 「弁護団報告」 |pages=2021年8月23日、1-5 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース2321号|2021}}}}
** {{CiteWikicite journal|和書|author= |year=2022|date=2022-1-28 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issuereference=2423 「弁護団報告」 |pages=2021年11月18日、1-4 |publisher=国民救援会5頁 |ref={{SfnRef|支援会ニュース2423号|20222021}}}}
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** {{CiteWikicite journal|和書|author= |year=2022|date=2022-11-28 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター|issuereference=2825 「弁護団報告」|pages=2022年4月14日、1-6 |publisher=国民救援会4頁 |ref={{SfnRef|支援会ニュース2825号|2022}}}}
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** {{Wikicite |reference=33号「犯行再現実験」2023年12月4日、1-4頁 |ref={{SfnRef|支援会ニュース33号|2023}}}}
* {{Cite journal|和書|author= |year=2024 |date=2024-5-16 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issue=35号「漢字検定合格の力はどこから?」 |pages=1-6 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース35号|2024}}}}
** {{CiteWikicite journal|和書|author= |year=2024 |date=2024-8-26 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issuereference=3634号「第5回総会Iさんが漢字検定1級に合格! |pages=2024年2月19日、1-6 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース3634号|2024}}}}
** {{CiteWikicite journal|和書|author= |year=2025 |date=2025-4-28 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issuereference=3935号「目撃証言漢字検定合格検証力はどこから? |pages=2024年5月16日、1-6 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース3935号|20252024}}}}
** {{CiteWikicite journal|和書|authorreference= |year=2025 |date=2025-7-1 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issue=4036号「第5回総 |pages=2024年8月26日、1-6 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース4036号|20252024}}}}
** {{Wikicite |reference=37号「面会記」2024年11月15日、1-6頁 |ref={{SfnRef|支援会ニュース37号|2024}}}}
* {{Cite journal|和書|author= |year=2018 |date=2018-6-28 |title=東京・小石川冤罪事件 : 再審を支援する会|journal=ニュースレター |issue=号外「江川紹子メッセージ」 |pages=1-4 |publisher=国民救援会 |ref={{SfnRef|支援会ニュース号外|2018}}}}
** {{Wikicite |reference=39号「目撃証言の検証」2025年4月28日、1-6頁 |ref={{SfnRef|支援会ニュース39号|2025}}}}
** {{Wikicite |reference=40号「面会記」2025年7月1日、1-6頁 |ref={{SfnRef|支援会ニュース40号|2025}}}}
** {{Wikicite |reference=号外「江川紹子メッセージ」2018年6月28日、1-4頁 |ref={{SfnRef|支援会ニュース号外|2018}}}}
* [https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2024/5-5-1.pdf 『日弁連が支援している再審事件の現状』 弁護士白書 2024] 167-169頁
* {{Cite |和書
|和書
|title=第62回人権擁護大会シンポジウム・基調報告書(小石川事件)
|publisher=日本弁護士連合会
634 ⟶ 612行目:
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|ref={{SfnRef|日弁連基調報告書}}}}
 
* {{Cite |和書
|title=DNA鑑定についての指針(2019年)
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|ref={{SfnRef|NYC OCME|2021}} }}
 
* {{Cite web
|title=Application of Thresholds for Interpretation
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|ref={{SfnRef|STRBase|2009}} }}
* {{Cite news |和書 |url=https://www.sankei.com/article/20220407-5ERWT7MEYNONPFHCGV6C2GQCMM/ |title=平成14年の84歳女性殺害、再審認めず 東京高裁 |date=2022-04-07 |newspaper=産経新聞 |ref={{SfnRef|産経新聞 2022年4月}} }}
* {{Cite news |和書 |url=https://www.sankei.com/article/20221214-KDFK7ZDKCFMARI6WIT42N3ZH4A/ |title=20年前の高齢女性殺害、再審認めず 最高裁、特別抗告を棄却 |date=2022-12-14 |newspaper=産経新聞 |ref={{SfnRef|産経新聞 2022年12月}} }}
 
== 外部リンク ==
* [https://www.benseiren.jp/news/vol602.html 日本弁護士政治連盟(弁政連)HP座談会 「いまこそ再審法の改正を」(2020年)]
* [https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/200423.html 「小石川事件」再審請求棄却決定に対する会長声明 - 日本弁護士連合会(2020年4月23日)]
*  [https://article9.jp/wordpress/?p=18532  澤藤統一郎「真実と法的正義に唾する検察官の言」2022年2月10日]
* [https://enzai-koisikawa.com/ 小石川えん罪事件の再審を支援する会 公式ホームページ]
* [https://www.sankei.com/article/20220407-5ERWT7MEYNONPFHCGV6C2GQCMM/ 産経新聞「平成14年の84歳女性殺害、再審認めず 東京高裁」(2022年4月7日)] <span id="産経新聞2022"></span>
* [https://www.sankei.com/article/20221214-KDFK7ZDKCFMARI6WIT42N3ZH4A/ 産経新聞「20年前の高齢女性殺害、再審認めず 最高裁、特別抗告を棄却」(2022年12月14日)] <span id="産経新聞2022"></span>
 
 
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