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アルツハイマー型認知症(AD)と同様、DLBに根治方法はないが、理学療法などで症状を改善することはできる<ref name="NHS" />。長く治療薬がなかったが、[[2014年]]、[[ドネペジル]]が進行抑制作用を認められ、世界初の適応薬として認可された<ref name="eizai20140919">{{Cite press release|和書|publisher=エーザイ |title= 「アリセプト®」 日本でレビー小体型認知症に関する効能・効果の承認を取得―世界で初のアルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症治療剤に― |url=http://www.eisai.co.jp/news/news201452.html |date=2014-09-19}}</ref>。
 
== 歴史 ==
[[ジェームズ・パーキンソン]]が[[パーキンソン病]]では認知機能は障害されないと記載したこともありパーキンソン病の精神症状、認知機能が注目されるようになったのは1970年代からである。[[レビー小体]]とはドイツの神経学者[[フレデリック・レビー]]によってパーキンソン病変の[[脳幹]]で発見され名付けられた[[封入体]]である。当時は[[レビー小体]]は大脳皮質には出現しないか、出現しても稀で少数であるというのが通説であった。1970年代後半でもパーキンソン病の認知症の大部分はアルツハイマー型認知症の合併であると報告されている。
 
しかし[[小阪憲司]]が1976年以降に認知症とパーキンソン症候群を主症状とし、レビー小体が脳幹の他に大脳皮質や扁桃核にも多数出現する症例を相次いて報告した<ref>{{cite journal|author=Kosaka K, Oyanagi S, Matsushita M, and Hori A.|title=Presenile dementia with Alzheimer-, Pick- and Lewy-body changes|journal=Acta Neuropathol|volume=36|issue=|pages=221-233|year=1976|PMID=188300}}</ref>。その後同様の報告が日本で次々と報告されたが欧米ではあまり報告されなかった。小坂は1980年に20剖検例を用いて[[レビー小体病]](Lewy body disease)を提唱した<ref>小阪憲司, 松下正明, 小柳新策, Mehraein P: Lewy 小体病の臨床病理学的研究. 精神経誌 1980; 82: 292-311</ref>。また1984年に11剖検例を用いてびまん性レビー小体病(diffuse Lewy body disease)を提唱した<ref>Clin Neuropathol. 1984 Sep-Oct;3(5):185-92. PMID 6094067</ref>。この時に欧米ではびまん性レビー小体病が見逃されている可能性を強調していた。1985年以降、欧米でもびまん性レビー小体病の報告が相次いで認められるようになった。小坂はレビー小体病をレビー小体の分布から脳幹型、移行型、びまん型に分類し、脳幹型がパーキンソン病であり、びまん型がびまん性レビー小体病とした。またびまん性レビー小体病を種々の程度アルツハイマー型認知症の病理所見を伴う通常型と伴わない純粋型に分類するべきであり両者は発症年齢も臨床像も異なると述べた<ref>J Neurol. 1990 Jun;237(3):197-204. PMID 2196340</ref>。
 
1995年にイギリスで第1回国際ワークショップが開催され、名称をレビー小体型認知症と総称することとし、臨床診断基準と病理診断基準が提唱された。その結果は1996年のNeurology誌に掲載された<ref>Neurology. 1996 Nov;47(5):1113-24. PMID 8909416</ref>。この臨床診断基準により臨床診断が可能になり欧米ではアルツハイマー型認知症に次ぐ2番目に多い認知症であることがわかった。またレビー小体の主な構成成分が[[αシヌクレイン]]蛋白であることがあきらかになり免疫染色で病理診断が容易になった。1998年にオランダで第2回国際ワークショプ<ref>Neurology. 1999 Sep 22;53(5):902-5. PMID 10496243</ref>、2003年にイギリスで第3回国際ワークショップ<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref>が開かれそれぞれで臨床診断基準や病理診断基準の改訂が行われた。2003年のワークショップの結果は2006年のNeurology誌に掲載された<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref>。この新しい病理基準ではレビー病理や[[アルツハイマー型認知症|AD]]病理の相対的割合を考慮したものであり、これらの病理が臨床症候群にどの程度関与するかのlikelihoodという考え方を提案した。2006年には第4回国際ワークショップを日本で行った。2013年に発行したDSM-5ではNCDLBとNCDPDというレビー小体型認知症(DLB)と[[認知症#パーキンソンPDD|認知症を伴うパーキンソン病]](PDD)に相当する病名が誕生した。2015年のフォートローダデールで開催された国際DLBカンファレンスで診断基準の改定が議論された<ref>Neurology. 2017 Jul 4;89(1):88-100. PMID 28592453</ref>。
 
DLBとPDDの関係に関しては第1回国際ワークショップから言及されている<ref>Neurology. 1996 Nov;47(5):1113-24. PMID 8909416</ref>。臨床的にはパーキンソン症候群から認知症発現まで1年未満ならばDLBと診断するが1年以上であればPDDと診断するone-year-ruleが記載された。2006年の改定された臨床・病理診断基準ガイドラインではDLBとPDDは臨床経過の相違と[[レボドパ|levodopa]]の反応性の相違の他は認知機能障害のプロフィール、注意障害、精神症状、睡眠障害、自律神経症状、抗精神病薬に対する感受性の亢進、[[パーキンソン症候群]]のタイプと重症度、コリンエステラーゼ阻害薬の効果などの臨床症状の多くの部分で共通していることを指摘している。病理学的にもDLBとPDDではレビー病理の分布と程度、AD病理の程度においては差が認められるもののPD、PDD、DLBには連続性がみられ、剖検からはDLBとPDDはほとんど同じで区別できない。
 
PDDとDLBの間には本質的な違いは見いだせず、Lewy小体病(LBD)のうち、運動障害が先行したものはPDD、認知障害が先行したものはDLBであると考えられる。
 
== 病理 ==
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=== レビー小体病とアミロイド ===
レビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病の区別に関して論争がある<ref>BMC Med. 2018 Mar 6;16(1):34. PMID 29510692</ref><ref>J Neural Transm (Vienna). 2018 Apr;125(4):615-650. PMID 29222591</ref>。レビー小体型認知症29例と認知症を伴うパーキンソン病28例の剖検例で臨床・病理学的な検討が行われた<ref>Neurology. 2006 Dec 12;67(11):1931-4. PMID 17159096</ref>。レビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病ではレビー病理と[[神経原線維変化]]の程度に有意差が認められなかった一方で、CERAD分類を用いた大脳内アミロイド沈着の程度に相違がある。認知症を伴うパーキンソン病では57%にアミロイド沈着を認めないかscarceに分類されたのに対して、レビー小体型認知症では87%でmoderateあるいはabundantに分類された。レビー小体型認知症は認知症を伴うパーキンソン病と比較して脳幹部、小脳におけるアミロイド沈着の程度が高く、脳内アミロイド沈着の総量が多い<ref>Neurosci Lett. 2010 Dec 3;486(1):19-23. PMID 20851165</ref>。レビー小体型認知症か認知症を伴うパーキンソン病を決定する過程で脳内アミロイド沈着が関与しているという仮説がある。認知症を伴うパーキンソン病はパーキンソン病と比較して大脳皮質のレビー病理が広範囲に及び、レビー病理が認知機能障害と関連していることが報告されている。さらに大脳皮質のアミロイド沈着の量と辺縁系皮質におけるαシヌクレインの量はパーキンソン病に比較して認知症を伴うパーキンソン病で有意に多くアミロイドとαシヌクレインの蓄積量の間に相関関係が報告されている<ref>Parkinsonism Relat Disord. 2009 Dec:15 Suppl 3:S1-5. PMID 20082965</ref>。大脳皮質のアミロイド沈着のうちびまん性老人斑が特にαシヌクレインの蓄積に関与することが報告されている<ref>Acta Neuropathol. 2008 Apr;115(4):417-25. PMID 18185940</ref>。これらの結果はアミロイド沈着をみとめられる症例では大脳皮質におけるαシヌクレインの蓄積量が増大するという促進効果に関する既報告を支持している<ref>Neurobiol Aging. 2005 Aug-Sep;26(8):1183-92. PMID 15917102</ref>。パーキンソン病では病期を通じて脳内アミロイド沈着は少なく大脳皮質へのレビー病理の広がりが限定されるのに対して、認知症を伴うパーキンソン病では黒質ドパミン神経細胞の脱落がパーキンソニズムを呈する閾値に達した後に大脳皮質にアミロイド沈着が生じ、レビー病理が進行して認知機能障害をきたすことが推察される。一方、レビー小体型認知症では黒質ドパミン神経細胞の脱落が閾値に達する前に大脳皮質にアミロイド沈着が生じ、レビー病理が促進されて認知機能障害をきたすと考えられる。発症前のレビー病理の広がりの多様性に加えて、アミロイド沈着の有無により病変の進展が修飾されることによりレビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病の臨床亜型が生じるという仮説がある。
 
== 疫学 ==
レビー小体型認知症の発症年齢は60~80歳代の初老期と老年期に多い。性差は少ないがやや男性に多い。多くは孤発性であり家族歴を持つものは稀である。60歳代以上では認知機能障害が先行ないしパーキンソン症候群と同時に発症する狭義のDLBの形をとることが多いがPDDも少なくない。40歳以下の発症では原則としてはPDDの形をとる。頻度は不明であるが認知症の中では10~30%という報告が多い。精神神経学雑誌では有病率は0 - 5%、認知症に占める割合は 0 - 30.5%と報告されている<ref>{{Cite journal|和書|author=小田原俊成 |title=レビー小体型認知症は日本でも患者数が多いか? |url=https://search.jamas.or.jp/link/ui/2009129615 |journal=精神神經學雜誌 |issn=00332658 |publisher=日本精神神経学会 |year=2009 |month=jan |volume=111 |issue=1 |pages=37-42 |naid=10026305973}} {{要購読}}</ref>。
 
アメリカの高齢者を対象とした疫学研究では65歳以上の高齢者の34%にパーキンソニズムが認められ、加齢とともに頻度が増加していく<ref>N Engl J Med. 1996 Jan 11;334(2):71-6. PMID 8531961</ref>。85歳以上では52.4%にパーキンソニズムが認められた。
 
== 臨床症状 ==
2017年の第4回レビー小体型認知症コンソーシアムによるレビー小体型認知症の臨床診断基準<ref>Neurology. 2017 Jul 4;89(1):88-100. PMID 28592453</ref>に記載された必須症状と中核的特徴、支持的特徴を中心に述べる。
2003年の第3回国際ワークショップの改訂臨床診断基準ガイドライン<ref>{{cite journal |author=McKeith IG, Dickson DW, Lowe J, Emre M, O'Brien JT, Feldman H, Cummings J, Duda JE, Lippa C, Perry EK, Aarsland D, Arai H, Ballard CG, Boeve B, Burn DJ, Costa D, Del Ser T, Dubois B, Galasko D, Gauthier S, Goetz CG, Gomez-Tortosa E, Halliday G, Hansen LA, Hardy J, Iwatsubo T, Kalaria RN, Kaufer D, Kenny RA, Korczyn A, Kosaka K, Lee VM, Lees A, Litvan I, Londos E, Lopez OL, Minoshima S, Mizuno Y, Molina JA, Mukaetova-Ladinska EB, Pasquier F, Perry RH, Schulz JB, Trojanowski JQ, Yamada M |title=Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: third report of the DLB Consortium |journal=Neurology |volume=65 |issue=12 |pages=1863-72 |year=2005 |pmid=16237129 |doi=10.1212/01.wnl.0000187889.17253.b1 |url=}}</ref>がよく用いられる(臨床診断基準は2017年に改訂)。この診断基準では必須症状と中核症状、示唆症状、支持症状、除外項目に分かれ、probable DLB、possible DLBといった基準が存在する。それぞれの項目で述べられる臨床症状に関して述べる。
 
=== 必須症状 ===
DLBの必須症状は社会、日常生活機能に障害をもたらす程度に進行する認知機能障害と定義される。認知機能障害は[[記憶障害]]で始まることが多いが、DLBでは[[注意障害]]や視空間障害、実行機能障害なども生じやすい<ref>J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001 Feb;70(2):157-64. PMID 11160462</ref><ref>Br J Psychiatry. 1997 Feb:170:156-8. PMID 9093505</ref>
 
;記憶障害
: DLBの[[記憶障害]]は初期には記銘や保持に比べて想起の障害が目立つとされている<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref>。記憶障害はADと比べると軽度とされている。しかし進行するとADと同様に記憶障害や見当識障害、健忘失語などが出現し両者の区別は難しくなる<ref>Neurology. 2006 Dec 12;67(11):1935-41. PMID 17159097</ref>
 
;他の認知機能障害
: DLBの認知機能障害は記憶障害の他に、初期から[[注意障害]]、視空間障害、構成障害、実行機能障害などの前頭葉・頭頂葉機能障害に由来する症状を伴うのが特徴である。初期で記憶障害が軽度の場合は[[長谷川式認知症スケール]](HDS<ref>J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001 Feb;70(2):157-R)やMMSEでは比較的高い点数をしめすが[[ウェクスラー成人知能検査|ウェクスラー式知能検査]]など詳細な検査を行うと認知機能障害が明らかになる。簡便な検査では[[:en:Trail64. MakingPMID Test|Trail11160462</ref><ref>Dement MakingGeriatr Test]]や[[Cogn Disord. 2003;16(4):en:Stroop229-37. effect|StroopPMID Test]]などでも初期から成績が不良になるという報告もある14512718</ref>
 
初期で記憶障害が軽度の場合は[[長谷川式認知症スケール]](HDS-R)やMMSEでは比較的高い点数をしめすが[[ウェクスラー成人知能検査]]など詳細な検査を行うと認知機能障害が明らかになる。簡便な検査では[[:en:Trail Making Test|Trail Making Test]]や[[:en:Stroop effect|Stroop Test]]などでも初期から成績が不良になるという報告もある。
=== 中核症状 ===
DLBの中核症状には認知機能の動揺、[[幻覚|幻視]]、パーキンソン症候群の3点があげられている。特に幻視やパーキンソン症候群はADの初期には認められないため鑑別に有効である。
 
=== 中核的特徴 ===
;認知機能の動揺(fluctuationg cognition)
注意や覚醒レベルの顕著な変化を伴う認知機能の変動、具体的で詳細な内容の繰り返し出現する[[幻覚|幻視]]、[[レム睡眠行動障害]]、特発性パーキンソニズム(寡動、安静時振戦、筋強剛のうち1つ以上)がDLBの中核的特徴とされている。特に幻視やパーキンソニズムはADの初期には認められないため鑑別に有効である。
: 認知機能の動揺はDLBでは高い頻度で認められる。認知機能の動揺は初期に目立つことが多く、比較的急性に起こり、数分から数時間の日内変動あるいは数週から数か月におよぶ変動が見られることもある。これは注意、覚醒レベルの変動と関連していると考えられる。
;[[幻視]]
: 繰り返し現れる幻視はDLBの臨床症状の中で最も特徴的である。典型的には反復性で、具体的で詳細な内容のものであり人物や小動物が家の中に入ってくると表現されることが多い。DLBの幻視が[[パレイドリア]](木が人間に見えたり、壁の染みが顔に見えたりと、対象物が別のものに見える現象である。対象物が木や染みであり、それぞれ人間や顔ではないと理解しているが一度そう思うと、どうしても人間や顔に思えてしまう)と連続性があるという仮説もある。
;パーキンソン症候群
: [[パーキンソン症候群]]はDLBの中核症状のひとつであり診断の時点で25 - 50%に認められるとされている。DLBに必須ではなくほとんどみられない場合もある。パーキンソン症候群が初発のDLBの場合はPDと同様に初期から安静時振戦が認められる典型的な経過をとることが多い。寡動や対称性の筋固縮が主体で、振戦がみられても安静時振戦は目立たず動作時振戦や[[ミオクローヌス]]が時に認められるような例もある。進行すると姿勢反射障害や歩行障害が出現し、注意障害とあいまって転倒事故などの危険性が増加する。末期になって四肢、体幹の筋固縮が急速に進行する例や垂直性の[[眼球運動障害]]を認めることがあり[[進行性核上性麻痺]]との鑑別が問題になることもある。認知機能障害が専攻する新皮質型では初期は下肢の脱力と易転倒性がみられる程度で進行しても寡動と筋固縮のみで安静時振戦は末期まで認められないことも多い。
 
;注意や覚醒レベルの顕著な変化を伴う認知機能の変動
上記2点が該当すればprobable DLBと、1点該当すればpossible DLBと診断する。
認知機能の動揺(fluctuationg cognition)のことである。認知機能の動揺はDLBでは高い頻度で認められる<ref>J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1989 Jun;52(6):709-17. PMID 2545827</ref><ref>Am J Psychiatry. 1999 Jul;156(7):1039-45. PMID 10401449</ref>。認知機能の動揺は初期に目立つことが多く、比較的急性に起こり、数分から数時間の日内変動あるいは数週から数か月におよぶ変動が見られることもある。これは注意、覚醒レベルの変動と関連していると考えられる<ref>Neurology. 2002 Dec 10;59(11):1714-20. PMID 12473758</ref>。
 
;具体的で詳細な内容の繰り返し出現する幻視
=== 示唆症状 ===
繰り返し現れる幻視はDLBの臨床症状の中で最も特徴的である。典型的には反復性で、具体的で詳細な内容のものであり人物や小動物が家の中に入ってくると表現されることが多い<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref>。DLBの幻視が[[パレイドリア]](木が人間に見えたり、壁の染みが顔に見えたりと、対象物が別のものに見える現象である。対象物が木や染みであり、それぞれ人間や顔ではないと理解しているが一度そう思うと、どうしても人間や顔に思えてしまう)と連続性があるという仮説もある。
; レム睡眠行動障害(2017年より中核症状となった)
: DLBでは[[レム睡眠行動障害]]がかなりの頻度でみられ示唆症状のひとつである。レム睡眠期に出現するべき骨格筋緊張の抑制を欠くために異常なレム睡眠が生じる。その結果、生々しくぞっとするような夢とともに夢内容に伴う精神活動が行動面に表出され、寝言、大声で叫ぶ、寝具をまさぐるなど夢幻様行動やベッドから飛び出す、暴力などの異常行動を示す。本人には睡眠中におこったようなエピソードの記憶はない。確定診断には[[睡眠ポリグラフ検査|ポリソムノグラフィー]]が必要である。
; 抗精神病薬に対する過敏性
: DLB患者は少量の抗精神病薬投与に対してもパーキンソン症候群の急激な出現や増悪、[[嚥下障害]]、過鎮静、[[意識障害]]、[[悪性症候群]]などの過敏性を示す。このような過敏性を示すのは30 - 50%程度とされている。
 
;レム睡眠行動障害
=== 支持症状 ===
DLBでは[[レム睡眠行動障害]]がかなりの頻度でみられ中核的特徴のひとつである<ref>Ann N Y Acad Sci. 2010 Jan:1184:15-54. PMID 20146689</ref>。レム睡眠期に出現するべき骨格筋緊張の抑制を欠くために異常なレム睡眠が生じる。その結果、生々しくぞっとするような夢とともに夢内容に伴う精神活動が行動面に表出され、寝言、大声で叫ぶ、寝具をまさぐるなど夢幻様行動やベッドから飛び出す、暴力などの異常行動を示す。本人には睡眠中におこったようなエピソードの記憶はない。確定診断にはポリソムノグラフィーが必要である。
; 嗅覚障害
 
: {{節スタブ}}
;特発性パーキンソニズム(寡動、安静時振戦、筋強剛のうち1つ以上)
; 便秘(3日以上続くいわゆる頑固な便秘)
特発性パーキンソニズムはDLBの中核症状のひとつであり診断の時点で25 - 50%に認められるとされている<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref>。DLBに必須ではなくほとんどみられない場合もある<ref>J Neurol. 1990 Jun;237(3):197-204. PMID 2196340</ref>。[[パーキンソン症候群|パーキンソニズム]]が初発のDLBの場合はPDと同様に初期から安静時振戦が認められる典型的な経過をとることが多い。寡動や対称性の筋固縮が主体で、振戦がみられても安静時振戦は目立たず動作時振戦や[[ミオクローヌス]]が時に認められるような例もある<ref>Mov Disord. 2003 Aug;18(8):884-9. PMID 12889077</ref>。進行すると姿勢反射障害や歩行障害が出現し、注意障害とあいまって転倒事故などの危険性が増加する<ref>Eur J Neurol. 2000 Jan;7(1):77-9. PMID 10809918</ref>。末期になって四肢、体幹の筋固縮が急速に進行する例や垂直性の[[眼球運動障害]]を認めることがあり[[進行性核上性麻痺]]との鑑別が問題になることもある<ref>Neurol Res. 2003 Jul;25(5):533-7. PMID 12866204</ref><ref>Neurol Sci. 2005 Dec;26(5):358-61. PMID 16388374</ref>。認知機能障害が先行する新皮質型では初期は下肢の脱力と易転倒性がみられる程度で進行しても寡動と筋固縮のみで安静時振戦は末期まで認められないことも多い。
: アルツハイマー病との鑑別に上記のレム睡眠行動異常、嗅覚障害、便秘が有用との報告がある<ref>{{Cite journal |author=Chiba, Yuhei; Fujishiro, Hiroshige; Iseki, Eizo; Ota, Kazumi; Kasanuki, Koji; Hirayasu, Yoshio; Satoa, Kiyoshi |year=2012 |url=https://doi.org/10.1159/000339363 |title=Retrospective survey of prodromal symptoms in dementia with Lewy bodies: comparison with Alzheimer’s disease |journal=Dementia and geriatric cognitive disorders |volume=33 |issue=4 |pages=273-281 |publisher=S. Karger AG Basel, Switzerland |doi=10.1159/000339363}}</ref>。
 
; 繰り返される転倒や失神、一過性の意識障害
=== 支持的特徴 ===
: 繰り返される転倒は姿勢、歩行、バランスの困難や注意障害、視覚認知障害などによって生じ、特にパーキンソン症候群の強いDLB患者で起こりやすい。失神に関しては脳幹部や自律神経系の機能異常によって生じる迷走神経反射障害によって生じる可能性も示唆されている。いずれにせよこれらの症状はDLBの支持症状であるが、他の認知症でも起こりえる。
抗精神病薬に対する過敏性、姿勢の不安定さ、繰り返す転倒、失神、原因不明の意識障害、高度な自律神経障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁など)、過眠、嗅覚低下、幻視以外の幻覚、系統化された[[妄想]]、アパシー、不安、抑うつがDLBの支持的特徴とされている。
; 自律神経症状
 
: {{節スタブ}}
;抗精神病薬に対する過敏性
; 幻視以外の幻覚、妄想
DLB患者は少量の[[抗精神病薬]]投与に対してもパーキンソニズムの急激な出現や増悪、嚥下障害、過鎮静、意識障害、[[悪性症候群]]などの過敏性を示す<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref><ref>Drug Saf. 2002;25(7):511-23. PMID 12093309</ref>。このような過敏性を示すのは30 - 50%程度とされている<ref>BMJ. 1992 Sep 19;305(6855):673-8. PMID 1356550</ref><ref>Lancet. 1998 Apr 4;351(9108):1032-3. PMID 9546516</ref>。
: {{節スタブ}}
 
; 抑うつ
;姿勢の不安定さ、繰り返す転倒、失神、原因不明の意識障害
: DLBにおける抑うつはADよりも頻度が高い。DLBと診断される前の前駆段階からうつ状態が高率に認められる。当初うつ病と診断されたものの、その後の病気の進行などに伴いDLBに特徴的な症状が現れ、うつ病が実はDLBであったという例もみられる。特に初期のDLBでは注意すべき症状である。
繰り返される転倒は姿勢、歩行、バランスの困難や注意障害、視覚認知障害などによって生じ、特にパーキンソン症候群の強いDLB患者で起こりやすい。失神に関しては脳幹部や自律神経系の機能異常によって生じる迷走神経反射障害によって生じる可能性も示唆されている。いずれにせよこれらの症状はDLBの支持症状であるが、他の認知症でも起こりえる。
 
;高度な自律神経障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁など)
 
;抑うつ
DLBにおける抑うつはADよりも頻度が高い。DLBと診断される前の前駆段階からうつ状態が高率に認められる。当初うつ病と診断されたものの、その後の病気の進行などに伴いDLBに特徴的な症状が現れ、うつ病が実はDLBであったという例もみられる。特に初期のDLBでは注意すべき症状である。
 
== 検査 ==
2017年の第4回レビー小体型認知症コンソーシアムによるレビー小体型認知症の臨床診断基準<ref>Neurology. 2017 Jul 4;89(1):88-100. PMID 28592453</ref>に記載された指標的バイオマーカー、支持的バイオマーカーを中心に述べる。
 
;指標的バイオマーカー
大脳基底核でのドパミントランスポーター取り込み低下、MIBG心筋シンチグラフィーにおける取り込み低下、睡眠ポリグラフ検査(PSG)で筋活動低下を伴わないレム睡眠を確認がDLBの指標的バイオマーカーとされる。
 
;支持的バイオマーカー
CT/MRIで内側側頭葉が比較的保たれている、PET/SPECTにおける後頭葉を含む全般的脳血流代謝の低下、FDG-PETでの帯状回島兆候(cingulate island sign)、脳波での後部領域徐波化がDLBの支持的バイオマーカーである。
 
=== 神経心理学的検査 ===
DLBでは記憶障害がアルツハイマー型認知症に比較して目立たない一方で[[注意障害]]、[[視空間機能障害]]、[[構成障害]]がアルツハイマー型認知症より目立ち、より多くの介助が必要となる。
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; [[:en:Dopamine transporter|DAT]]イメージング
: イオフルパン(<sup>123</sup>I)(商品名:ダットスキャン静注)を用いた[[シナプス]]前[[ドパミン]]トランスポーター(presynaptic dopamine transporter、DAT)のSPECTイメージングでは、[[線条体]]の取り込みの低下が認められる。
; [[:en:Iobenguane|MIBG]][[シンチグラフィ]]ー
; [[:en:Iobenguane|MIBG]][[シンチグラフィ]]ー<ref>[http://www.hosp.ncgm.go.jp/s037/130/060/scinti_09.html お探しのページは見つかりません。] {{404|date=2024-08}}</ref><ref>[http://www.hosp.ncgm.go.jp/s037/130/050/scinti_05.html お探しのページは見つかりません。] {{404|date=2024-08}}</ref>
: ヨード123標識MIBG([[メタヨードベンジルグアニジン]])はguanethidineのアナログで[[アドレナリン]]性前シナプス後神経終末より取り込まれ[[交感神経]]イメージングに用いる物質として確立している。レビー小体型認知症・パーキンソン病では、神経の活性低下を示し、H/M比の低下やwashout rateの亢進で評価される。
 
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; [[睡眠ポリグラフ検査]]
: ポリソムノグラフィーとも呼ばれる。αシヌクレオパチーと呼ばれるレビー小体型認知症、パーキンソン病、[[多系統萎縮症]]といった一群の疾患で病理診断と98%で一致したとの報告がある<ref>{{Cite journal |author=Boeve, BF; Silber, MH; Ferman, TJ; Lin, SC; Benarroch, EE; Schmeichel, AM; Ahlskog, JE; Caselli, RJ; Jacobson, S; Sabbagh, M; others |year=2013 |url=https://doi.org/10.1016/j.sleep.2012.10.015 |title=Clinicopathologic correlations in 172 cases of rapid eye movement sleep behavior disorder with or without a coexisting neurologic disorder |journal=Sleep medicine |volume=14 |issue=8 |pages=754-762 |publisher=Elsevier |doi=10.1016/j.sleep.2012.10.015}}</ref>。
 
== 診断 ==
2017年の第4回レビー小体型認知症コンソーシアムによるレビー小体型認知症の臨床診断基準がよく用いられる<ref>Neurology. 2017 Jul 4;89(1):88-100. PMID 28592453</ref>。
この診断基準では必須症状と中核的特徴、支持的特徴、指標的バイオマーカー、支持的バイオマーカーがある。必須症状を認めたうえで、中核的臨床特徴のうち2つ、あるいは中核的臨床特徴1つと指標的バイオマーカー1つ以上が確認されればprobable レビー小体型認知症(ほぼ確実にDLB)と診断される。中核的臨床特徴1つのみ、あるいは指標的バイオマーカー1つ以上のみ(中核的臨床特徴なし)の場合はpossible レビー小体型認知症(DLB疑い)と診断する。レビー小体型認知症らしくない特徴として、局所性神経症状や脳画像で脳血管障害が明らかに存在するとき、臨床像を部分的・全体的に説明しうる他の身体疾患、脳疾患が存在するとき、認知症の進行期にはじめてパーキンソニズムが出現したときの3項目があげられている<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref>。
 
== 経過 ==
レビー小体型認知症の臨床経過や予後はアルツハイマー型認知症に比べて多様である。PDやPDDではなく狭義のDLBの臨床経過は典型的には前駆期、初期、中期、後期に分かれる。早期診断を行うには器質障害があきらかではない腰痛、大腿筋肉痛、頻回の失神、就寝中の叫び声、高齢初発のうつ、幻視などの訴えがあった場合にDLBを疑い検査をすることが重要である。
 
; 前駆期
: 前駆期に抑うつ、嗅覚異常、便秘などの自律神経症状、[[レム睡眠行動障害]]などの非運動症状が出現するのは[[パーキンソン病]]と同様である<ref>Arch Neurol. 2010 Jul;67(7):798-801. PMID 20625084</ref><ref>Mov Disord. 2010:25 Suppl 1:S89-93. PMID 20187248</ref>。特に老年期にうつ病が遷延する場合はDLBへの移行を考える必要がある。これらの既往がある認知症ではDLBを想定する。またせん妄もDLBを疑うエピソードである(DLBの25%、ADの7%でせん妄のエピソードがある)。前駆症状を早期に見出すことが早期診断では重要となる。
; 初期
: 初期には必須症状である認知機能障害が出現する。患者は忘れっぽくなったという自覚はあるがMMSEやHDS-Rなどのスクリーニング検査の結果は保たれている。時に記憶障害よりも注意障害や構成障害、視空間障害や実行機能障害が目立つことがあるのも特徴的である。幻視、認知機能の動揺、パーキンソニズムなどがこの時期から現れる場合もある。
; 中期
: 認知機能障害はAD病理が通常型もしくはAD型の場合は進行が速いが純粋型の場合は緩徐に進行する。認知機能の動揺は初期に比べて目立たなくなる。認知機能障害の進行に伴って幻視の自覚が失われ幻視から妄想などに反転し行動化しやすくなる。
; 後期
: 後期になると認知機能障害はDLBとADで大きな差はなくなる<ref>Neurology. 2006 Dec 12;67(11):1935-41. PMID 17159097</ref>。しかしパーキンソニズムの影響でDLBの方が実際よりも高度に見えることが多い。最終的には寝たきりとなり様々な合併症を併発するようになり呼吸器疾患や循環器疾患などで死亡する。
; 予後
: DLBの平均死亡年齢は68~92歳であり平均罹病期間は3.3~7.3年の幅でありばらつきが多い。全体としては平均罹病期間はADよりも短い。発症から1、2年のうちに急速に症状が悪化して死に至る例もある。
 
=== 診断予後 ===
DLBの経過や予後は不明な点が多い<ref>Lancet Neurol. 2017 May;16(5):390-398. PMID 28342649</ref>。DLBの平均死亡年齢は68~92歳<ref>Int J Geriatr Psychiatry. 1997 Mar;12(3):301-6. PMID 9152712</ref><ref>J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 1998 Summer;10(3):267-79. PMID 9706534</ref><ref>Clin Neuropathol. 1998 Jul-Aug;17(4):204-9. PMID 9707335</ref><ref>Neuropathology. 2000 Mar;20(1):1-7. PMID 10935431</ref><ref>Neuropathol Appl Neurobiol. 2001 Aug;27(4):314-25. PMID 11532162</ref><ref>J Neurol Sci. 2002 Apr 15;196(1-2):63-9 PMID 11959158</ref>であり平均罹病期間は3.3~7.3年の幅でありばらつきが多い<ref>J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 1998 Summer;10(3):267-79. PMID 9706534</ref><ref>Neuropathology. 2000 Mar;20(1):1-7. PMID 10935431</ref><ref>J Neurol Sci. 2002 Apr 15;196(1-2):63-9 PMID 11959158</ref><ref>J Neurol Sci. 1990 Feb;95(2):119-39. PMID 2157823</ref>。全体としては平均罹病期間はADよりも短い<ref>Neurology. 2006 Dec 12;67(11):1935-41. PMID 17159097</ref><ref>J Neurol Sci. 1990 Feb;95(2):119-39. PMID 2157823</ref>。発症から1、2年のうちに急速に症状が悪化して死に至る例もある<ref>Ann Neurol. 2008 Jul;64(1):97-108. PMID 18668637</ref>。
Lewy小体型認知症(DLB)の臨床診断基準改訂版(第3回DLB国際ワークショップ)<ref>{{Cite |和書|author=日本神経学会 |title=認知症疾患治療ガイドライン2010 |date=2010-10 |publisher=医学書院 |isbn=978-4-260-01094-8 |loc=Chapt.7 |url=http://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/sinkei_degl_2010_08.pdf |format=PDF }}</ref>による診断基準やDSM-5によって診断される。おおむね以下の通りである。
 
=== 臨床亜系 ===
* 進行性の認知機能低下をみとめる(記憶障害は病初期には必ずしも起こらない)。
レビー小体型認知症の臨床亜型はクラスター分析の研究で下記の3つに分類される<ref>J Alzheimers Dis. 2018;64(2):505-513. PMID 29889064</ref>。認知症優位型、精神症状優位型、パーキンソニズム優位型である。また稀であるが[[急速進行性認知症]]として発症することがある<ref>Ann Neurol. 2008 Jul;64(1):97-108. PMID 18668637</ref>。
* 注意や覚醒レベルの顕著な変動、幻視、パーキンソン病様の症状(手のふるえ、歩行障害など)を認めやすい。
* 画像診断では、脳血流シンチグラフィやMIBG心筋シンチグラフィが有用である。
* 脳血流シンチグラフィにおいて、後頭葉の血流低下を認める。
* MIBG心筋シンチグラフィにおいて、後期像にて心臓への集積低下を認める。
* 神経心理検査において、他の項目に比べ、図形描写が困難である。
 
;認知症優位型
== 臨床診断基準(2017年改訂) ==
認知症優位型は初期症状として認知機能障害が目立ち、診断までの期間が長い傾向がある。精神症状優位型やパーキンソニズム優位型より進行も緩除である。
=== 中心的特徴 ===
* 進行性の認知機能低下により生活に支障をきたす
 
=== 中核的特徴 ===
* 認知機能の変動
* 繰り返し出現する具体的な幻視
* 誘因のないパーキンソン症状
* レム睡眠行動障害
 
;精神症状優位型
=== 指標的バイオマーカー ===
幻視や妄想などの精神症状が早期から顕著で発症年齢が高い傾向がある。
* 大脳基底核でドパミントランスポーター取り込み低下([[:en:Dopamine transporter|DAT]]イメージング)
* MIBG心筋シンチグラフィで取り込み低下([[:en:Iobenguane|MIBG]][[シンチグラフィ]]ー)
* ポリソムノグラフィにて筋活動の低下を伴わないレム睡眠
 
;パーキンソニズム優位型
=== Probable DLB(ほぼ確実にDLB) ===
パーキンソニズムが早期から現れ、認知症の発症も比較的早い。
*『中心的特徴』+『中核的特徴2つ以上』
*『中心的特徴』+『中核的特徴1つ』+『指標的バイオマーカー1つ以上』
 
;急速進行性認知症
=== PossibleDLB(DLB疑い) ===
*『中心的特徴』+『中核的特徴1つ』
*『中心的特徴』+『指標的バイオマーカー1つ以上』
 
==治療 ==
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[[レボドパ|levodopa]]などを用いる。ドパミンアゴニストやレボドパは日中過眠を悪化させる。
 
== 疫学トピックス ==
=== 鑑別疾患 ===
レビー小体型認知症の発症年齢は60~80歳代の初老期と老年期に多い。性差は少ないがやや男性に多い。多くは孤発性であり家族歴を持つものは稀である。60歳代以上では認知機能障害が先行ないしパーキンソン症候群と同時に発症する狭義のDLBの形をとることが多いがPDDも少なくない。40歳以下の発症では原則としてはPDDの形をとる。頻度は不明であるが認知症の中では10~30%という報告が多い。精神神経学雑誌では有病率は0 - 5%、認知症に占める割合は 0 - 30.5%と報告されている<ref>{{Cite journal|和書|author=小田原俊成 |title=レビー小体型認知症は日本でも患者数が多いか? |url=https://search.jamas.or.jp/link/ui/2009129615 |journal=精神神經學雜誌 |issn=00332658 |publisher=日本精神神経学会 |year=2009 |month=jan |volume=111 |issue=1 |pages=37-42 |naid=10026305973}} {{要購読}}</ref>。
病理診断ではレビー小体型認知症であるが臨床診断がそれ以外となる場合が報告されている<ref>Neuropathology. 2020 Feb;40(1):30-39. PMID 31498507</ref>。[[アルツハイマー病]]、[[進行性核上性麻痺]]<ref>Neurol Res. 2003 Jul;25(5):533-7. PMID 12866204</ref>、大脳脳皮質基底症候群<ref>Neurology. 2018 Jul 17;91(3):e268-e279. PMID 29898972</ref>、[[多系統萎縮症]]<ref>Neurology. 2015 Aug 4;85(5):404-12. PMID 26138942</ref>、[[前頭側頭葉変性症]]<ref>Clin Neuropathol. 2017 Jan/Feb;36 (2017)(1):23-30. PMID 27737532</ref>、[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]<ref>Neurology. 2000 Nov 14;55(9):1401-4. PMID 11087793</ref><ref>J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001 Jul;71(1):33-9. PMID 11413259</ref><ref>Parkinsonism Relat Disord. 2019 Jun:63:162-168. PMID 30777654</ref><ref>J Neurol. 2004 Mar;251(3):298-304. PMID 15015009</ref>、脳血管障害、[[本態性振戦]]などが鑑別疾患となる。垂直注視麻痺を認め[[進行性核上性麻痺]]と臨床診断されたが病理診断がレビー小体型認知症であった報告例では中脳被蓋にレビー小体が認められた<ref>Neurol Res. 2003 Jul;25(5):533-7. PMID 12866204</ref>。
 
=== レビー小体病との関連 ===
== 歴史 ==
[[ジェーム・パーキンソン]][[パーキンソン病]]では[[認知|認知機能]]は障害されないと記載したこともあり1970年代までパーキンソン病の精神症状、認知機能障害にはあまり注目されるようにったのは1970年代からである。[[レビー小体]]とはドイツ神経学者[[フレデリック・レビー]]後半よってパーキンソン病患者認知症大部分は[[脳幹アルツハイマー病]]で発見され名付けの合併と考えられてき[[封入体]]である<ref>Neurology. 1979 Sep;29(9 Pt 1):1209-14. PMID 573401</ref><ref>Ann Neurol. 1980 Apr;7(4):329-35. PMID 7377758</ref>当時は[[レビー小体]]は大脳皮質には出現ない、出現ても稀で少数であるというのが通説であった。1970年代後半でも実際にはパーキンソン病は経過中にしばしば認知症の大部分を伴い、多くアルツハイマキンソニズムの発症後10年以上してから認知症の合併であるを示すこ報告されているが明らかになった<ref>Arch Neurol. 2003 Mar;60(3):387-92. PMID 12633150</ref><ref>Lancet Neurol. 2003 Apr;2(4):229-37. PMID 12849211</ref>
 
[[パーキンソン病]]における認知症の頻度は、臨床的にはメタ解析で約30%から40%とされ<ref>J Geriatr Psychiatry Neurol. 1988 Jan;1(1):24-36. PMID 2908099</ref><ref>Mov Disord. 2005 Oct;20(10):1255-63. PMID 16041803</ref>剖検例の報告では約50%とされている。高齢のパーキンソン病患者が増えてさらに多くなり、発症から10年以上経過したパーキンソン病患者の約70%が認知症を発症するという報告もある。
しかし[[小阪憲司]]が1976年以降に認知症とパーキンソン症候群を主症状とし、レビー小体が脳幹の他に大脳皮質や扁桃核にも多数出現する症例を相次いて報告した<ref>{{cite journal|author=Kosaka K, Oyanagi S, Matsushita M, and Hori A.|title=Presenile dementia with Alzheimer-, Pick- and Lewy-body changes|journal=Acta Neuropathol|volume=36|issue=|pages=221-233|year=1976|PMID=188300}}</ref>。その後同様の報告が日本で次々と報告されたが欧米ではあまり報告されなかった。小坂は1980年に20剖検例を用いて[[レビー小体病]](Lewy body disease)を提唱した。また1984年に11剖検例を用いてびまん性レビー小体病(diffuse Lewy body disease)を提唱した。この時に欧米ではびまん性レビー小体病が見逃されている可能性を強調していた。1985年以降、欧米でもびまん性レビー小体病の報告が相次いで認められるようになった。小坂はレビー小体病をレビー小体の分布から脳幹型、移行型、びまん型に分類し、脳幹型がパーキンソン病であり、びまん型がびまん性レビー小体病とした。またびまん性レビー小体病を種々の程度アルツハイマー型認知症の病理所見を伴う通常型と伴わない純粋型に分類するべきであり両者は発症年齢も臨床像も異なると述べた。
 
1996年のレビー小体型認知症の臨床・病理診断基準ガイドライン<ref>Neurology. 1996 Nov;47(5):1113-24. PMID 8909416</ref>では、臨床的にはパーキンソニズムから認知症発現まで1年未満ではレビー小体型認知症と診断するが、1年以上であればパーキンソン病認知症(Parkinson's disease with dementia、PDD、認知症を伴うパーキンソン病と記載されることもある)と診断しておくのがよいと記載されている。これを'''one-year rule'''という。レビー小体型認知症とパーキンソン病認知症は臨床経過の相違とおそらくL-DOPA反応性の相違の他は、認知機能障害のプロフィール、[[注意障害]]、精神症状、[[睡眠障害]]、自律神経症状、抗精神病薬に対する感受性の亢進、パーキンソニズムのタイプや重症度、[[アセチルコリンエステラーゼ阻害剤|コリンエステラーゼ阻害薬]]の効果などの臨床症状の多くの部分で共通している<ref>Neurology. 2005 Dec 27;65(12):1863-72. PMID 16237129</ref>。
1995年にイギリスで第1回国際ワークショップが開催され、名称をレビー小体型認知症と総称することとし、臨床診断基準と病理診断基準が提唱された。その結果は1996年のNeurology誌に掲載された。この臨床診断基準により臨床診断が可能になり欧米ではアルツハイマー型認知症に次ぐ2番目に多い認知症であることがわかった。またレビー小体の主な構成成分が[[αシヌクレイン]]蛋白であることがあきらかになり免疫染色で病理診断が容易になった。1998年にオランダで第2回国際ワークショプ、2003年にイギリスで第3回国際ワークショップが開かれそれぞれで臨床診断基準や病理診断基準の改訂が行われた。2003年のワークショップの結果は2006年のNeurology誌に掲載された。この新しい病理基準ではレビー病理や[[アルツハイマー型認知症|AD]]病理の相対的割合を考慮したものであり、これらの病理が臨床症候群にどの程度関与するかのlikelihoodという考え方を提案した。2006年には第4回国際ワークショップを日本で行った。2013年に発行したDSM-5ではNCDLBとNCDPDというレビー小体型認知症(DLB)と[[認知症#パーキンソンPDD|認知症を伴うパーキンソン病]](PDD)に相当する病名が誕生した。
 
病理学的にはレビー小体型認知症とパーキンソン病認知症ではレビー病理の分布と程度、アルツハイマー病理の程度において差がみられるという報告が多いものの、パーキンソン病、パーキンソン病認知症、レビー小体型認知症の間には連続性がみられ、剖検からはレビー小体型認知症とパーキンソン病認知症はほとんど同じで区別できないとしている。このことからパーキンソン病、パーキンソン病認知症、レビー小体型認知症を含めてレビー小体病と総称することを推奨している。パーキンソン病認知症の臨床診断基準としてEmreらにより作成されたもの<ref>Mov Disord. 2007 Sep 15;22(12):1689-707. PMID 17542011</ref>が使われることが多いが、基本的にはレビー小体型認知症の診断基準<ref>Neurology. 2017 Jul 4;89(1):88-100. PMID 28592453</ref>と共通している。
DLBとPDDの関係に関しては第1回国際ワークショップから言及されている。臨床的にはパーキンソン症候群から認知症発現まで1年未満ならばDLBと診断するが1年以上であればPDDと診断するone-year-ruleが記載された。2006年の改定された臨床・病理診断基準ガイドラインではDLBとPDDは臨床経過の相違と[[レボドパ|levodopa]]の反応性の相違の他は認知機能障害のプロフィール、注意障害、精神症状、睡眠障害、自律神経症状、抗精神病薬に対する感受性の亢進、[[パーキンソン症候群]]のタイプと重症度、コリンエステラーゼ阻害薬の効果などの臨床症状の多くの部分で共通していることを指摘している。病理学的にもDLBとPDDではレビー病理の分布と程度、AD病理の程度においては差が認められるもののPD、PDD、DLBには連続性がみられ、剖検からはDLBとPDDはほとんど同じで区別できない。
 
PDDとDLBの間には本質的な違いは見いだせず、Lewy小体病(LBD)のうち、運動障害が先行したものはPDD、認知障害が先行したものはDLBであると考えられる。
 
== トピックス ==
=== 鑑別疾患 ===
病理診断ではレビー小体型認知症であるが臨床診断がそれ以外となる場合が報告されている<ref>Neuropathology. 2020 Feb;40(1):30-39. PMID 31498507</ref>。[[アルツハイマー病]]、[[進行性核上性麻痺]]<ref>Neurol Res. 2003 Jul;25(5):533-7. PMID 12866204</ref>、大脳脳皮質基底症候群<ref>Neurology. 2018 Jul 17;91(3):e268-e279. PMID 29898972</ref>、[[多系統萎縮症]]<ref>Neurology. 2015 Aug 4;85(5):404-12. PMID 26138942</ref>、[[前頭側頭葉変性症]]<ref>Clin Neuropathol. 2017 Jan/Feb;36 (2017)(1):23-30. PMID 27737532</ref>、[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]<ref>Neurology. 2000 Nov 14;55(9):1401-4. PMID 11087793</ref><ref>J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2001 Jul;71(1):33-9. PMID 11413259</ref><ref>Parkinsonism Relat Disord. 2019 Jun:63:162-168. PMID 30777654</ref><ref>J Neurol. 2004 Mar;251(3):298-304. PMID 15015009</ref>、脳血管障害、[[本態性振戦]]などが鑑別疾患となる。垂直注視麻麻痺を認め[[進行性核上性麻痺]]と臨床診断されたが病理診断がレビー小体型認知症であった報告例では中脳被蓋にレビー小体が認められた<ref>Neurol Res. 2003 Jul;25(5):533-7. PMID 12866204</ref>。
 
== 脚注 ==
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[[Category:認知症]]
[[Category:原因不明の病気]]
[[Category:脳神経疾患]]