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[[Image:World_Inflation_rate_2007.PNG|thumb|420px|<div style="float:left; margin-right:20px; vertical-align:top; white-space:nowrap;">紫色:デフレ状態<br />紺色:0 - 2%<br />水色:2 - 5%<br />緑色:5 -10%</div><div style="float:left; margin-right:0px; vertical-align:top; white-space:nowrap;">黄緑色:10-15%<br />橙色:15%-25%<br />赤色:25%以上<br />([[アメリカ中央情報局|CIA]]調べ、調査年度は国ごとに異なる)</div>]]
'''デフレーション'''({{Lang-en-short|deflation}})とは、[[物価]]が持続的に下落していく[[経済現象]]<ref>[http://www.nomura.co.jp/terms/japan/te/deflation.html デフレーション|証券用語解説集|野村證券]</ref>であり、つまり、モノに対して、貨幣の価値が上がっていく状態<ref>【SMBC日興證券】[https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/te/J0112.html 初めてでもわかりやすい用語集]2021年10月9日閲覧</ref>となる。略して'''デフレ'''と呼ぶ(日本語では'''経済収縮'''<ref>「デフレーション」(deflation)とは「収縮、縮んでいく」という意味である(小塩隆士『高校生のための経済学入門』筑摩書房〈ちくま新書〉、2002年、137頁。竹中平蔵『竹中先生、経済ってなんですか?』ナレッジフォア、2008年、68頁。)。</ref>、'''通貨収縮'''〈つうかしゅうしゅく〉<ref>{{Cite Kotobank |word=通貨収縮 |encyclopedia=精選版 日本国語大辞典 |hash=#E7.B2.BE.E9.81.B8.E7.89.88.20.E6.97.A5.E6.9C.AC.E5.9B.BD.E8.AA.9E.E5.A4.A7.E8.BE.9E.E5.85.B8 |access-date=2024-06-16}}</ref>とも)。対義語には物価が持続的に上昇していく現象を指す[[インフレーション]]({{Lang-en-short|inflation}})がある。
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'''デフレーション'''({{Lang-en-short|Deflation}})とは、[[物価]]が'''持続的に'''下落していく[[経済]]現象を指す<ref>[http://www.nomura.co.jp/terms/japan/te/deflation.html デフレーション|証券用語解説集|野村證券]</ref>。略して'''デフレ'''とも呼ぶ。日本語では'''通貨収縮'''。対義語に物価が持続的に上昇していく現象を指す[[インフレーション]] ({{Lang-en-short|Inflation}}) がある。
'''[[#ディスインフレーション|ディスインフレーション]]'''については、下部に記載。
 
{{See2|日本のデフレーションについては、[[日本のデフレーション]]の項、[[#ディスインフレーション|ディスインフレーション]]については、下部を}}経済全体で見た[[需要と供給]]のバランスが崩れること、すなわち[[総需要]]が[[潜在産出量]]を下回ることが主たる原因である。貨幣的要因([[マネーサプライ]]減少)も[[産出量ギャップ]]をもたらしデフレへつながる。物価の下落は同時に[[貨幣]]価値の上昇も意味する<ref>大和総研『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』日本実業出版社・第4版、2002年、107頁。</ref>。なお、株式・債券・不動産・エネルギーなど、資産価格の下落は通常デフレーションの概念に含まない(参考:[[物価]])。
[[経済学者]]の[[吉川洋]]は、[[2002年]]に「デフレは解決すべき問題であるということは、経済学者・エコノミストで全員一致している」と指摘している<ref name="rieti2004128">[http://www.rieti.go.jp/users/iio-jun/discussion/06.html 第6回「財政再建やデフレ脱却などマクロ経済管理とミクロ面での構造改革とを両立させる選択肢」]RIETI 2004年1月28日</ref>。
 
19世紀の[[産業革命]]の進展期においては、デフレは恒常的な[[通貨]]問題であり、[[金本位制]]の退蔵([[グレシャムの法則]])に見られる貨幣選好やインフレ抑止のための不胎化政策、技術革新による供給能力の飛躍的な進展がデフレをもたらしていた。[[ケインズ経済学]]や[[管理通貨制度]]が普及した後は[[インフレーション]]に比して圧倒的に少ない。[[ジョン・メイナード・ケインズ]]は、[[ハイパーインフレーション]]を除けば、インフレよりもデフレの方が害が大きいと述べている。その理由は世界経済が低迷している中で、富裕層に損をさせるよりも経済的弱者の失業を促進させる方が経済へのダメージが大きいからである<ref>「[http://www.nikkeibp.co.jp/article/mon/20110209/82413/?ST=life&P=1 革命スローガンは、自由・平等・インフレ 青木健太郎 ]」日経BPネット2010年11月14日 </ref>。
== 概要 ==
経済全体で見た[[需要]]と[[供給]]のバランスが崩れること、すなわち[[総需要]]が[[総供給]]を下回ることが主たる原因である。貨幣的要因([[マネーサプライ]]減少)も需給ギャップをもたらしデフレへつながる。物価の下落は同時に[[貨幣]]価値の上昇も意味する。なお、株式や債券、不動産など資産価格の下落は通常デフレーションの概念に含まない(参考:[[物価]])。
 
== 定義 ==
[[19世紀]]の[[産業革命]]の進展期においてはデフレは恒常的な通貨問題であり、金本位の退蔵([[グレシャムの法則]])に見られる貨幣選好や[[金本位制#不況レジームとしての国際金本位制(金の足かせ)|インフレ抑止のための不胎化政策]]、技術革新による供給能力の飛躍的な進展がデフレをもたらしていた。[[ケインズ政策]]や[[管理通貨制度]]が普及した後は[[インフレーション]]に比して圧倒的に少ない。[[ジョン・メイナード・ケインズ]]は、[[ハイパーインフレ]]を除けば、インフレよりもデフレの方が害が大きいと述べている。その理由は世界経済が低迷している中で、富裕層に損をさせるよりも経済的弱者の失業を促進させる方が経済へのダメージが大きいからである<ref>[http://www.nikkeibp.co.jp/article/mon/20110209/82413/?ST=life&P=1 革命スローガンは、自由・平等・インフレ] 青木健太郎 日経BPネット 2010年11月14日 </ref>。
[[経済学]]で言うデフレとは、経済全体の需要・供給の不均衡によって一般的な物価水準、財・サービスの平均価格が下落していく現象を指す<ref>田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』朝日新聞出版、2010年、58頁。</ref>。端的にデフレとは、物価の下落と需要の縮小が同時に進行する状態である<ref name="50n0daigimon27">森永卓郎『日本経済50の大疑問』講談社〈講談社現代新書〉、2002年、27頁。</ref>。デフレは、貨幣・経済の収縮現象と捉えたほうが理解しやすい<ref>円居総一『原発に頼らなくても日本は成長できる』ダイヤモンド社、2011年、152頁。</ref>。
 
[[経済協力開発機構]](OECD)によればデフレは「'''一般物価'''水準の継続的下落」と定義されている<ref>[http://stats.oecd.org/glossary/detail.asp?ID=3019] </ref>。[[国際通貨基金]](IMF)や[[内閣府]]は「2年以上の継続的物価下落」をデフレと便宜的に定義してデフレ認定を行なっている<ref name="wiredvision">「[https://archive.wiredvision.co.jp/blog/iida/200802/200802020013.html インフレになるとデフレになるの怪]」ワイアードビジョン アーカイブ2008年2月2日</ref><ref name="synodos2011726">「[http://synodos.jp/faq/1718 デフレと金融政策に関する9つの論点 片岡剛士]」SYNODOS -シノドス-2011年7月26日</ref>。一時的な物価下落をデフレと呼ぶ識者もよく見られるがOECDの定義やIMF・内閣府の基準からすると誤用である。
=== デフレの定義 ===
[[経済協力開発機構]](OECD)によればデフレは「'''一般物価'''水準の継続的下落」と定義されている<ref>[http://stats.oecd.org/glossary/detail.asp?ID=3019] </ref>。[[国際通貨基金|IMF]]や[[内閣府]]は'''2年以上の継続的物価下落'''をデフレと便宜的に定義してデフレ認定を行なっている<ref name="synodos2011726">[http://synodos.jp/faq/1718 デフレと金融政策に関する9つの論点 片岡剛士]SYNODOS -シノドス- 2011年7月26日</ref>。一時的な物価下落をデフレと呼ぶ識者もよく見られるがOECDの定義やIMF・内閣府の基準からすると誤用である。
 
日本では旧[[経済企画庁]](内閣府)が「物価の下落を伴った景気の低迷」をデフレの定義としていたが、2001年3月より「持続的に物価が下落している状態」と定義を変更した<ref>第一勧銀総合研究所編著『基本用語からはじめる日本経済』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、99頁。</ref>。
経済学者の[[岩田規久男]]は著書『デフレの経済学』で「'''相対価格'''の変化と絶対価格の変化とを区別することが重要である。平均的な価格である物価が相対価格の変化によって影響を受ける理由はない」と指摘している<ref>[http://shuchi.php.co.jp/article/545 消費者の懐を温める方法]PHPビジネスオンライン 衆知 2008年9月7日</ref>。経済学者の[[高橋洋一 (経済学者)|高橋洋一]]は「ミクロ(個別価格/相対価格)とマクロ(一般物価)の混同は経済学者の議論の場でも時々見られるが、ミクロの個別価格の平均としてマクロの物価があると思い込むのは短絡的である」と指摘している<ref>[http://diamond.jp/articles/-/10728 日本のデフレは人口減少が原因なのか 人口増減と「物価」は実は関係がない]ダイヤモンドオンライン 2011年1月13日</ref>。
 
「デフレ=不況の別称」という定義を持ち出される事が多いが、このような定義を用いるのは誤りであり、「物価水準は下がり続けているが(景気はいいので)デフレではない」「インフレによって消費が減少しデフレになる」と言及されることがあるが、IMF・内閣府流の公式用語法に従う者からするとこれらの言及は誤りである<ref name="wiredvision" />。
メディアで「食のデフレ」などと言った表現がなされる場合があるが<ref>[http://shuchi.php.co.jp/article/726 ここまで深刻「食のデフレ」]PHPビジネスオンライン 衆知 2009年8月17日</ref>、デフレとは相対価格(個別価格)ではなく一般物価水準(または総合物価)の下落を指しているので本来の意味からすれば誤用である。
 
=== 一般物価と相対価格 ===
== 影響 ==
消費者物価とは、様々な消費財・サービスの価格をそれらの財・サービスに対する支出の割合で加重平均した価格である<ref name="sukkiri215">岩田規久男『スッキリ!日本経済入門-現代社会を読み解く15の法則』日本経済新聞社、2003年、215頁。</ref>。消費財の一部の価格が下落しても、他の消費財・サービスの価格が上昇すれば、消費者物価は上昇することもある<ref name="sukkiri215" />。
デフレの弊害は現金の価値が上がりすぎて、モノやサービスや、それに関わる人の価値が下がり過ぎていることにある<ref>[http://shuchi.php.co.jp/article/1495 最先端を行く「リフレ・レジーム」〔1〕]PHPビジネスオンライン 衆知 2013年6月20日</ref>。
 
経済学者の[[岩田規久男]]は著書『デフレの経済学』で「'''相対価格'''の変化と絶対価格の変化とを区別することが重要である。平均的な価格である物価が相対価格の変化によって影響を受ける理由はない」と指摘している<ref>「[http://shuchi.php.co.jp/article/545 消費者の懐を温める方法]」PHPビジネスオンライン 衆知2008年9月7日</ref>。全体('''一般物価''')は個(相対価格)の単なる足し合わせではなく、すべての市場の相対価格が同時に上昇することは算術的にありえない<ref>日本経済新聞社編著『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、34頁。</ref>。
個々人では、デフレによって好影響が悪影響を上回る者、あるいはその逆の者が存在する。一方で、社会全体では一般に悪影響が大きい。
 
メディアで「食のデフレ」などと言った表現がなされる場合があるが<ref>「[http://shuchi.php.co.jp/article/726 ここまで深刻「食のデフレ」]」PHPビジネスオンライン 衆知2009年8月17日</ref>、デフレとは相対価格(個別価格)ではなく一般物価水準(または総合物価)の下落を指しているので本来の意味からすれば誤用である。
デフレ下では、所得が抑制されるため、選択の幅が限定され一人勝ちを生みやすい<ref>[http://www.data-max.co.jp/2013/06/03/akb48_is_02.html アベノミクスでAKB48は沈む?(2)]NetIB-NEWS ネットアイビーニュース 2013年6月3日</ref>。
 
[[白川方明]]元日銀総裁は「デフレには様々な定義があり、一概には定まらない」と指摘している<ref>田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』朝日新聞出版、2010年、29頁。</ref>。
物価の下落は、実質的な返済負担増となる('''デットデフレーション'''({{Lang-en-short|Debt Deflation}})<ref name="diamond20081224">[http://diamond.jp/articles/-/1739 米コロンビア大学交換教授として赴任 ニューヨークで出会った経済学者たち]ダイヤモンド・オンライン 2008年12月24日</ref>。そのため、借り手である債務者から貸し手である債権者への富の再配分が発生する。物価下落によって実質金利が上昇する。なお、たとえば1万円で買えるものの量が増えるから一見メリットがあるように見えることは、実際にはその1万円を稼ぐこと自体が困難になるため、デフレで有利になるとは言えない。
 
経済ジャーナリストの[[田村秀男]]は、後述するように([[日本のデフレーション#対策についての議論]]参照)、デフレを物価下落に限定せず、賃金・所得が物価下落を上回る速度で継続的に下がることと定義すべきだと主張している<ref>「デフレは死に至る病」産経新聞平成21年 (2009) 4月12日朝刊【日曜経済講座】編集委員・田村秀男</ref>。田村は「デフレは雇用にとって悪だ」と断じたジョン・メイナード・ケインズ<ref>ケインズは「貨幣価値変動の社会的帰結」(1923年)で「物価下落の原因をなすデフレーションは、企業者が損失を回避するために生産を制限するようになるから、労働者と企業にとって窮乏化をもたらし、したがって、雇用にとって悪である」(東洋経済新報社刊ケインズ全集9「説得論集」P86-87)と述べている。</ref>の見解を参考にしている<ref>産経エクスプレス紙2014年5月21日付け 田村秀男の国際政治経済学入門「デフレ呼ぶ増税値上げ」</ref>。
 
== 影響 ==
個々人では、デフレによって好影響が悪影響を上回る者、あるいはその逆の者が存在する。
 
デフレの弊害は現金の価値が上がりすぎて、財やサービスの価値が下がり過ぎていることにある<ref>「[http://shuchi.php.co.jp/article/1495 最先端を行く「リフレ・[[レジーム]]」〔1〕]」PHPビジネスオンライン 衆知2013年6月20日</ref>。デフレとはカネを持つことへの執着である<ref>田中秀臣『経済論戦の読み方』講談社〈講談社新書〉、2004年、32頁。</ref>。
デフレは名目的には低い金利に見えても、お金の借り手にとっての負担はデフレの分だけ重くなる<ref name="asahi2012612" />。この場合の借り手には、日本政府も含まれる<ref name="asahi2012612" />。デフレの状況は税収が上がらないので[[財政再建]]にとっては大きなマイナス要因である<ref name="rieti2004128" />。
 
アメリカデフレが悪化すると政府へ[[連邦準備制度理事会]](FRB)信任が失われる[[ジャネット・は、ンフン]]副議長は「日本名目所得、名目[[国内総生産]](GDP)は20年前よ悪化と同様であ若干低い。これは注目すべき点で日本インフレもデフレもそあらゆ論理は異な問題根源の、統治への信任の喪失なってる」と指摘しているう点では同じ影響力を持つ<ref>[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MKR5IY6K510901.html 米FRB副議長:本経済新聞社編著『マネーデフレ脱却のための緩和政策適切]Bloomberg 2013経済学』日本経済新聞社〈日経文庫〉、20044月5日、86頁。</ref>。経済学者の[[深尾光洋]]は「デフレを放置することは、日本政府の信用の失墜を放置するということである」と指摘している<ref name="rieti20031225">[httphttps://www.rieti.go.jp/users/iio-jun/discussion/05.html 第5回「デフレの解消を至上課題として、直接それを解決する方策」]RIETI 2003」RIETI2003年12月25日</ref>。
 
=== メリットを受ける人 ===
物価下落により'''[[実質金利]]'''(実質利回り、([[名目金利]]-'''期待インフレ率''')が上昇する、すなわち同額の名目利子の受け取りであっても実質価値が上昇する。また、デフレの局面では物価下落を織り込んだ金利が形成されるため、市中金利は低下する。そのため、国債などの[[債券]]を保有している者は、(高利回り)債券の価格が上昇して利益となる。
 
名目額('''名目賃金''')が固定された収入がある者も、物価の下落('''実質賃金'''の上昇)により実質的な生活水準が向上する<ref name="hotwiredjapan1">[httphttps://web-beta.archive.org/web/20051202135509/http://hotwired.goo.ne.jp/altbiz/noguchi/021106/index.html 野口旭の「ケイザイを斬る! 第1回 人々はなぜデフレを好むのか]HotWired Japan ALT BIZ(2005年12月2日時点のインターネット・アーカイブ)</ref><ref>[http://www.ewoman.co.jp/business/morinaga/04.html 不況の原因:森永卓郎が語る]イー・ウーマン(ewoman)</ref>。デフレ下では、所得が抑制されるため、選択の幅が限定され一人勝ちを生みやすい<ref>「[https://www.data-max.co.jp/2013/06/03/akb48_is_02.html アベノミクスでAKB48は沈む?(2)]」NetIB-NEWS ネットアイビーニュース2013年6月3日</ref>。
 
経済学者の[[中澤正彦]]は「デフレは椅子取りゲーム」と表現し、「正規雇用という安定した『椅子』に座り収入がある人にとって、物価が安くなって歓迎すべき状態になっている」と指摘している<ref name="asahi2012612" />。
 
=== デメリットを受ける人 ===
物価の下落は、実質的な返済負担増となる('''デットデフレーション'''({{Lang-en-short|Debt Deflation}})<ref name="diamond20081224">「[https://diamond.jp/articles/-/1739 米コロンビア大学交換教授として赴任 ニューヨークで出会った経済学者たち]」ダイヤモンド・オンライン2008年12月24日</ref>。そのため、借り手である債務者から貸し手である債権者への富の再配分が発生する。物価下落によって'''[[実質金利]]'''が上昇する。なお、たとえば1万円で買えるものの量が増えるから一見メリットがあるように見えることは、実際にはその1万円を稼ぐこと自体が困難になるため、デフレで有利になるとは言えない。
物価下落は名目値の硬直性と衝突して企業収益を停滞させ、国民の雇用と所得を減退させる<ref>岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、91頁。</ref>。
 
デフレは名目的には低い金利に見えても、お金の借り手にとっての負担はデフレの分だけ重くなる<ref name="asahi2012612" />(負債の名目固定性<ref>上念司『デフレと円高の何が「悪」か』光文社〈光文社新書〉、2010年、41頁。</ref>)。住宅ローンなどで債務を抱える者は、物価の下落によって実質的な債務が増大する<ref name="diamond20081224" />。この場合の借り手には、政府も含まれる<ref name="asahi2012612" />。デフレによって年金・[[失業給付]]などの長期的な制度は崩壊の危機にさらされる<ref name="economist54">田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著『エコノミスト・ミシュラン』太田出版、2003年、54頁。</ref>。デフレの状況は税収が上がらないので[[財政再建]]にとっては大きなマイナス要因である。
住宅ローンなどで債務を抱える者は、物価の下落によって実質的な債務が増大する<ref name="diamond20081224" />。
 
また、物価下落は名目値の硬直性と衝突して企業収益を停滞させ、国民の雇用と所得を減退させる<ref>岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社、 2004年、91頁。</ref>。現在と将来の所得が変わらなければ、デフレのほうがたくさんモノが買えるため良いが、所得は物価の変動によって影響を受ける。さらに企業の倒産・失業、預金・生命保険の安全性、将来の[[年金]]などがデフレによって悪影響を受ける<ref>岩田規久男『スッキリ!日本経済入門-現代社会を読み解く15の法則』日本経済新聞社、2003年、216頁。</ref>。物価が下落しても失業によって所得が無くなれば実質所得はゼロとなり、生活が困窮する<ref>岩田規久男『日本経済にいま何が起きているのか』東洋経済新報社、2005年、40頁。</ref>。
名目金利の低下により、市中変動型の債権(普通預金など)の利子収入は減少する。
 
また、名目金利の低下により、市中変動型の債権(普通預金など)の利子収入は減少する。
== デフレと経済活動停滞の因果関係 ==
貨幣的需要の拡大であるインフレーションにおいて、すべての産業の生産が拡大するのは、'''[[貨幣錯覚]]'''が起きるからである<ref>日本経済新聞社編著 『経済学をつくった巨人たち―先駆者の理論・時代・思想』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、226頁。</ref>。
 
== 経済活動停滞の因果関係 ==
経済学者の[[アーヴィング・フィッシャー]]は[[景気循環]]が一般物価水準の騰落によって引き起こされると考え、物価の騰落は所得分配に不公正な影響を与えるため防止すべき「社会悪」だと述べている<ref>日本経済新聞社編著 『経済学をつくった巨人たち―先駆者の理論・時代・思想』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、186頁。</ref>。物価の下落は貨幣残高(預金など)実質価値を高め、消費を刺激するとの考え([[ピグー効果]])に対し、フィッシャーは物価の下落は負債の実質価値を高め、倒産を通して不況を悪化させると反論した<ref name="kyojin187">日本経済新聞社編著 『経済学をつくった巨人たち―先駆者の理論・時代・思想』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、187頁。</ref>。
[[デヴィッド・リカード]]は貨幣的要因が生産・雇用という実物要因に影響を与えると認識していた<ref>日本経済新聞社編著『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、249頁。</ref>。貨幣的需要の拡大であるインフレーションにおいて、すべての産業の生産が拡大するのは、'''[[貨幣錯覚]]'''が起きるからである<ref>日本経済新聞社編著『経済学をつくった巨人たち―先駆者の理論・時代・思想』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、226頁。</ref>。一方で貨幣の量は短期的には生産・雇用に影響を与えるが、長期的に物価にしか影響を与えないという説もある([[貨幣数量説]])<ref>日本経済新聞社編著『マネーの経済学』日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、89頁。</ref>。
 
デフレの最大の問題は、インフレと違い経済の成長循環を止めてしまうことにある<ref>円居総一『原発に頼らなくても日本は成長できる』ダイヤモンド社、2011年、143頁。</ref>。
物価の下落は債権者に益するが、債権者の消費性向に比べ債務者の消費性向の方が平均的に高いため、名目値で見ても物価の下落は[[有効需要]]にマイナスの影響を与える<ref name="kyojin187" />。債務デフレによる不況をバランス・シート不況と呼ぶ<ref>岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、73頁。</ref>。
 
経済学者の[[アーヴィング・フィッシャー]]は[[景気循環]]が一般物価水準の騰落によって引き起こされると考え、物価の騰落は所得分配に不公正な影響を与えるため防止すべき「社会悪」だと述べている<ref>日本経済新聞社編著『経済学をつくった巨人たち―先駆者の理論・時代・思想』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、186頁。</ref>。物価の下落は貨幣残高(預金など)実質価値を高め、消費を刺激するとの考え([[ピグー効果]])に対し、フィッシャーは物価の下落は負債の実質価値を高め、倒産を通して不況を悪化させると反論した<ref name="kyojin187">日本経済新聞社編著『経済学をつくった巨人たち-先駆者の理論・時代・思想』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、187頁。</ref>。
デフレが不況を伴うことが多い理由として次の三つが挙げられる<ref>日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、156-157頁。</ref>。
 
[[ケインズ経済学]]では、'''賃金の下方硬直性'''を前提に、貨幣数量の変化が実質GDPに影響を与える、つまり物価の持続的下落と実質GDPの持続的下落という現象が同時に起きることを提示している。その後の実証研究の積み重ねによって10年以上の長期でない限り、ケインズ的見解が成立することがコンセンサスとなっている。また、[[ニュー・ケインジアン]]も長期では貨幣の中立性を認めている<ref>円居総一『原発に頼らなくても日本は成長できる』ダイヤモンド社、2011年、151-152頁。</ref>。
#名目賃金の下方硬直性。
#名目金利の下方硬直性。
#資産デフレ。
 
デフレが不況を伴うことが多い理由として、
デフレ不況は人々の気持ちをリスクから遠ざけるため、デフレ不況下では人々は新しいことにチャレンジせずに、安全策を取る傾向にある<ref>[http://www.data-max.co.jp/2013/06/05/akb48_is_04.html アベノミクスでAKB48は沈む?(4)]NetIB-NEWS ネットアイビーニュース 2013年6月5日</ref>。デフレは企業も消費者もリスクを避けがちになり、消費や投資も伸びない悪循環で経済の活力がどんどん落ちる<ref>[http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20130307/CK2013030702000164.html リフレ政策 評価 田中秀臣・上武大教授 「アベノミクス」支持]東京新聞 群馬(TOKYO Web)2013年3月7日</ref>。
#名目賃金の下方硬直性
#名目金利の下方硬直性
#[[資産デフレ]]
 
の三つ点が挙げられる<ref>日本経済新聞社編著『やさしい経済学』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、156-157頁。</ref>。
[[中野剛志]]はデフレは「物価が将来下がるかもしれない」、「貨幣価値が将来上がるかもしれない」という心理的影響を与え、誰も投資や借金をしなくなる。これは資本主義の心肺停止状態であり、[[資本主義]]を望むならば、デフレだけは回避しなければならないとしている。経済構造の産業化が進み高度化すれば、信用制度がなくては大きな投資ができないとしている。資本というものは昔からあったが、産業革命が進むほど[[市場経済]]の資本主義の度合いが大きくなる。つまり、[[実体経済]]と金融経済のうちの金融の部分が大きくなるが、デフレはその動きを停止させるとしている<ref>中野剛志 『グローバル恐慌の真相』69-70頁。</ref>。また中野はデフレは給与水準・[[生活水準]]の悪化、投資を含む需要不足という点から怖ろしい経済現象であるとしている。その理由として、給与水準・生活水準の悪化は現在の人間の心理や幸福感を著しく傷つけ、投資を含む需要不足は自分の国や共同体、家族のために今は抑制して将来に向けて投資する、未来のことを考えて生きるという非常に人間らしいことができなくなるためであるとしている<ref>中野剛志 『グローバル恐慌の真相』 78-80頁。</ref>。
 
デフレは[[マクロ経済学]]の環境だけでなく、同時にミクロレベルの企業・家計にまで深刻なダメージを与える<ref>田中秀臣・安達誠司『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、136頁。</ref>。[[田中秀臣]]、[[安達誠司]]は「デフレは経済全体の景況が悪いということである。少なくとも企業業績が悪化する可能性が、マイルドなインフレよりも数段も大きい」と指摘している<ref>田中秀臣・安達誠司『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、150頁。</ref>。
岩田規久男は「デフレの最大の問題は(物価下落の継続で)モノに比べてお金の価値が上がった結果、企業がお金を使わずにため込んでいること<ref>[http://web.archive.org/web/20130501170414/http://mainichi.jp/select/news/20130216k0000m020099000c.html 岩田規久男教授:日銀の国債購入不可欠 物価目標達成で]毎日jp(毎日新聞) 2013年2月15日(2013年5月1日時点のインターネット・アーカイブ)</ref>」「(デフレである)現在では日本の企業までもが家計のように金融資産を運用する<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL050HD_V00C13A3000000/ 岩田規久男氏、日本「企業が家計のように資産運用」 所信表明]日本経済新聞 2013年3月5日</ref>」「デフレである限り企業が巨額の余剰資金を抱えたままにしていることで設備投資や消費などが動き出さないといった状況から抜け出せない<ref>[http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPTYE90H01I20130118 インタビュー:政府・日銀共同文書、法的裏付けに日銀法改正を=岩田教授]Reuters 2013年1月18日</ref>」と述べている。また岩田は「(日本の)少子化、非正規社員の増加、企業倒産の増加、国の税収が増えないことなどは、デフレや円高で不況が続いたのが原因。日本の自殺者が3万人台になっている状況も、このことと無関係ではない。実証研究したところによると、自殺の一定割合以上は経済的要因が原因だとわかっている」と述べている<ref>[http://diamond.jp/articles/-/32697 【特別インタビュー】岩田規久男・学習院大学教授 「日銀は2%インフレ目標にコミットすべし。わが金融政策のすべてを語ろう」]ダイヤモンド・オンライン 2013年3月1日</ref>。
 
物価の下落が、家計の所得・資産の購買力を高め、消費支出を促すという考え方があるが、物価の下落は、家計の消費支出に大きな悪影響を及ぼす<ref>みずほ総合研究所編著『3時間でわかる日本経済-ポイント解説』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、25頁。</ref>。物価の下落は、家計の購買力を高めると同時に、失業増加・賃金削減を通じて個人消費を押し下げる<ref name="3jikan26">みずほ総合研究所編著『3時間でわかる日本経済-ポイント解説』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、26頁。</ref>。また、デフレ期待が蔓延している場合、家計は不要不急の支出を先延ばしする<ref name="3jikan26" />。さらに、デフレ期待は先行きの債務返済負担が大きくなることを意味するため、消費を抑制し債務返済を早める動きにつながる<ref name="3jikan26" />。
深尾光洋は「デフレを止めることによって企業部門の再生が可能になる。売り上げが増えるので、借金が返せるようになるということである。そしてさらに、財政についても引き締めが可能になる。つまり金融政策で緩和ぎみにすれば財政は引き締められ、財政の再建が可能になる。デフレを止めるということが金融再生および財政再建の必要条件になる」と指摘している<ref name="rieti20031225" />。
 
物価の下落は債権者に益するが、債権者の消費性向に比べ債務者の消費性向の方が平均的に高いため、名目値で見ても物価の下落は[[有効需要]]にマイナスの影響を与える<ref name="kyojin187" />。債務デフレによる不況を「バランス・シート不況」と呼ぶ<ref>岩田規久男『日本経済を学ぶ』筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、73頁。</ref>。負債デフレは、借り手から貸し手への資産の再配分を促し、投資を減少させる<ref>田中秀臣『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』講談社〈講談社BIZ〉、2006年、134頁。</ref>。
=== 実質金利と賃金・失業 ===
通常、名目金利はゼロ未満になり得ないので、デフレが継続し期待インフレ率がマイナスになると実質金利が高止まりしてしまう。また、名目賃金には下方に硬直性があるため('''賃金の下方硬直性''')、[[完全雇用]]の達成に十分なほど下落することは難しく、デフレ下では実質賃金も高止まりしてしまう。実質金利の高止まりは設備投資を抑制し、実質賃金の高止まりは雇用を抑制してしまう。このように、デフレ期待はそれ自体が企業や家計の貯蓄や投資行動といった将来予測を通じて経済活動に直接悪影響を及ぼす。
 
年1-2%のデフレに陥ると、人件費は事実上5%前後増加する<ref>田中秀臣 『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』 NHK出版〈生活人新書〉、2009年、85頁。</ref>。デフレ不況下では、経営者側にコスト削減の[[インセンティブ (経済学)|インセンティブ]]が強く働く<ref name="koyo90">田中秀臣 『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』 NHK出版〈生活人新書〉、2009年、90頁。</ref>。名目賃金が一定で労働時間が増えれば、時間当たりの名目賃金は減少する<ref name="koyo90" />。デフレ不況によって起こる企業のリストラ要求に対して、既存正社員は組合などを通じて交渉力を発揮し、自分たちの待遇を悪化させるよりも新卒採用を縮小させることを企業に要求する。このことが「名目賃金の下方硬直性」を生み出す。既存正社員の既得権が強まると同時に、膨大な失業者、[[非正規雇用]]が生み出される<ref>田中秀臣『経済政策を歴史に学ぶ』ソフトバンククリエイティブ〈ソフトバンク新書〉、2006年、23-24頁。</ref>。経済学者の[[ポール・クルーグマン]]は「国は企業ではない」という持論を根拠に「ビジネスリーダーは、しばしば非常に悪い経済的なアドバイスを送る」と批判しており、経済の低迷に対処するために国を企業に見立てて賃金などの支出をカットすれば、需要の低迷というデフレの問題を悪化させるだけだと主張している<ref>「[http://newsphere.jp/economy/20141104-3/ クルーグマン教授、日銀追加緩和を「強く支持」 世界のビジネスリーダーの懸念を一蹴]」ニュースフィア2014年11月4日</ref>。
デフレは実質金利と実質賃金の高騰を生み、企業収益を圧迫する<ref name="showakyoko70">[[岩田規久男]]編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、38-39頁。</ref>。その結果、企業活動は停滞し、[[失業]]は増大する<ref name="showakyoko70" />。デフレ下でも労働者の名目賃金は急に下げにくいので、企業はリストラを進め、非正規雇用や失業が増える<ref name="asahi2012612">[http://web.archive.org/web/20120613003708/http://www.asahi.com/edu/news/TKY201206120300.html 「日本のデフレの真実と克服する方法」 京大・中澤准教授が講演]朝日新聞デジタル 2012年6月12日(2012年6月13日時点の[[インターネット・アーカイブ]])</ref>。マイルドなインフレ状態なら社員の昇給に経営者はさほど苦労せずに済むが、デフレに陥ると人件費は事実上増加してしまい経営者にとって大きな負担となり、リストラを敢行したり雇用システムそのものを見直しせざるを得なくなる<ref>[[田中秀臣]] 『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』NHK出版〈生活人新書〉、2009年、85頁。</ref>。
 
デフレ不況は人々の気持ちをリスクから遠ざけるため、デフレ不況下では人々は新しいことにチャレンジせずに、安全策を取る傾向にある<ref>「[https://www.data-max.co.jp/2013/06/05/akb48_is_04.html アベノミクスでAKB48は沈む?(4)]」NetIB-NEWS ネットアイビーニュース2013年6月5日</ref>。デフレは企業も消費者もリスクを避けがちになり、消費や投資も伸びない悪循環で経済の活力がどんどん落ちる<ref>「[http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20130307/CK2013030702000164.html リフレ政策 評価 田中秀臣・上武大教授 「アベノミクス」支持]」東京新聞 群馬(TOKYO Web)2013年3月7日</ref>。経済がデフレの状態になると、成長産業・潜在的に成長が期待される産業への移行という[[産業構造の転換]]が阻害される<ref>円居総一『原発に頼らなくても日本は成長できる』ダイヤモンド社、2011年、144頁。</ref>。デフレ脱却は、[[ブラック企業]]潰しに大きな役割を果たす<ref>「[http://shuchi.php.co.jp/article/2120 高橋洋一・ブラック企業も減る!アベノミクスの効果とは]」PHPビジネスオンライン 衆知2014年11月26日</ref>。
民間の給料が上がらないことや雇用不安、若者の就職難などはデフレの弊害が大きい<ref>[http://web.archive.org/web/20120518160317/http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20120516/ecn1205161848008-n1.htm 経済・マネー 日銀が日本をつぶす!“高給”総裁はデフレ&円高がお好き?]ZAKZAK 2012年5月16日(2012年5月18日時点のインターネット・アーカイブ)</ref>。
 
評論家の[[中野剛志]]はデフレは「物価が将来下がるかもしれない」、「貨幣価値が将来上がるかもしれない」という心理的影響を与え、誰も投資や借金をしなくなる。これは[[資本主義]]の心肺停止状態であり、資本主義を望むならば、デフレだけは回避しなければならないとしている。経済構造の産業化が進み高度化すれば、信用制度がなくては大きな投資ができないとしている。資本というものは昔からあったが、産業革命が進むほど[[市場経済]]の資本主義の度合いが大きくなる。つまり、[[実体経済]]と金融経済のうちの金融の部分が大きくなるが、デフレはその動きを停止させるとしている<ref>中野剛志 『グローバル恐慌の真相』69-70頁。</ref>。また中野はデフレは給与水準・[[生活水準]]の悪化、投資を含む需要不足という点から怖ろしい経済現象であるとしている。その理由として、給与水準・生活水準の悪化は現在の人間の心理や幸福感を著しく傷つけ、投資を含む需要不足は自分の国や共同体、家族のために今は抑制して将来に向けて投資する、未来のことを考えて生きるという非常に人間らしいことができなくなるためであるとしている<ref>中野剛志 『グローバル恐慌の真相』 78-80頁。</ref>。また中野は、「デフレは貨幣現象であり、デフレの原因は貨幣供給の不足である。そして貨幣供給の不足の原因は資金需要の不足である。すなわちデフレの原因は資金需要の不足である」と述べている<ref>「[http://chokumaga.com/magazine/free/152/16/ ちょくマガ 中野剛志「岩田喜久男先生の理論を徹底的に批判する!-なぜ、金融政策はデフレを止められなかったか」]」ちょく論2014年12月26日</ref>。
 
岩田規久男は「デフレの最大の問題は(物価下落の継続で)モノに比べてお金の価値が上がった結果、企業がお金を使わずにため込んでいることである<ref>「[https://web.archive.org/web/20130501170414/http://mainichi.jp/select/news/20130216k0000m020099000c.html 岩田規久男教授:日銀の国債購入不可欠 物価目標達成で]」毎日jp(毎日新聞)2013年2月15日(2013年5月1日時点のインターネット・アーカイブ)</ref>」「デフレである限り企業が巨額の余剰資金を抱えたままにしていることで設備投資・消費などが動き出さないといった状況から抜け出せない<ref>「[http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPTYE90H01I20130118/ インタビュー:政府・日銀共同文書、法的裏付けに日銀法改正を=岩田教授]」Reuters2013年1月18日</ref>」と述べている。
 
経済学者の[[深尾光洋]]は「デフレを止めることによって企業部門の再生が可能になる。売り上げが増えるので、借金が返せるようになるということである。そしてさらに、財政についても引き締めが可能になる。つまり金融政策で緩和ぎみにすれば財政は引き締められ、財政の再建が可能になる。デフレを止めるということが金融再生および財政再建の必要条件になる」と指摘している<ref name="rieti20031225" />。
 
一方で、白川方明は物価下落が起点となって景気を押し下げる可能性は小さいとしている<ref>田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』朝日新聞出版、2010年、28頁。</ref>。また経済学者の[[清水啓典]]は「仮に貨幣が長期的に経済を活性化させるのであれば、各国は貨幣を増やすだけで経済を成長させることができることになるので、貧困が解消できることになる」と懐疑的である<ref>日本経済新聞社編著『マネーの経済学』日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、91頁。</ref>。
 
=== 実質金利と実質賃金 ===
名目金利の低下する速度以上の物価の下落が発生している局面では、実質金利が上昇し投資活動が低下する<ref name="yasashii155">日本経済新聞社編著『やさしい経済学』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、155頁。</ref>。これが経済活動を停滞させる要因となり、賃金の下落や失業([[フィリップス曲線]]を参照)を生む<ref name="hotwiredjapan1" />。
 
デフレは実質金利と実質賃金の高騰を生み、企業収益を圧迫する<ref name="showakyoko70">[[岩田規久男]]編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社、 2004年、38-39頁。</ref>。その結果、企業活動は停滞し、[[失業]]は増大する<ref name="showakyoko70" />。デフレ下でも労働者の名目賃金は急に下げにくいので、企業はリストラを進め、非正規雇用や失業が増える<ref name="asahi2012612">「[https://web.archive.org/web/20120613003708/http://www.asahi.com/edu/news/TKY201206120300.html 「日本のデフレの真実と克服する方法」 京大・中澤准教授が講演]」朝日新聞デジタル2012年6月12日(2012年6月13日時点の[[インターネットアーカイブ]])</ref>。マイルドなインフレ状態なら社員の昇給に経営者はさほど苦労せずに済むが、デフレに陥ると人件費は事実上増加してしまい経営者にとって大きな負担となり、リストラを敢行したり雇用システムそのものを見直しせざるを得なくなる<ref>[[田中秀臣]]『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』NHK出版〈生活人新書〉、2009年、85頁。</ref>。
 
民間の給料が上がらないことや雇用不安、若者の就職難などはデフレの弊害が大きい<ref>「[https://web.archive.org/web/20120518160317/http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20120516/ecn1205161848008-n1.htm 経済・マネー 日銀が日本をつぶす!“高給”総裁はデフレ&円高がお好き?]」ZAKZAK2012年5月16日(2012年5月18日時点のインターネット・アーカイブ)</ref>。
 
=== デフレギャップ ===
{{Main|[[産出量ギャップ]]}}
 
デフレギャップ(Deflationary gap)は、実際の需要が現実の供給力を下回り、
 
:総供給>総需要
 
の状態となったその差(乖離、ギャップ)のこと。「マイナスの需給ギャップ」や「GDPギャップ」とも言う<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.epa.or.jp/esp/09s/09s10.pdf | title=GDPギャップの概念について||format=PDF |publisher=社団法人経済企画協会|work=内閣府政策統括官付参事官 野村彰宏|accessdate=2012-01-04}}</ref>。デフレギャップの増大は商品の在庫の増大や[[雇用]]の減少([[失業者]]増大)とも関係し、デフレが継続する要因となる。デフレギャップを解消するには、需要を増やすか供給を減らす必要があるが、市場において供給システムが出来上がっているケースで供給を減らすことは容易ではない。一般に政府が減税、[[金融緩和]]政策、政府支出を増大させるなどを行い需要を喚起する政策が取られる。国によっては[[兵役]]で雇用を創出する場合もある。日本ではこのギャップの数値は、内閣府のレポートに「需給ギャップ」として発表される
 
デフレ・ギャップが恒常的に存在することで、失業の増加、物価水準の下落、成長率の減少が続く<ref name="keizaironsen82">田中秀臣『経済論戦の読み方』講談社〈講談社新書〉、2004年、82頁。</ref>。デフレギャップを解消するには、需要を増やすか供給を減らす必要があるが、市場において供給システムが出来上がっているケースで供給を減らすことは容易ではない。一般に政府が減税、[[量的金融緩和政策]]、政府支出を増大させるなどを行い需要を喚起する政策が取られる。国によっては兵役で雇用を創出する場合もある。日本ではこのギャップの数値は、内閣府のレポートに「需給ギャップ」として発表される。
他の事情が一定の場合、総需要が減少すると物価が下落し、GDPは減少する<ref name="macro26">岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、26頁。</ref>。総需要が拡大すると物価が上昇し、GDPは拡大する<ref name="macro26" />。
 
他の事情が一定の場合、総需要が減少すると物価が下落し、GDPは減少する<ref name="macro26">岩田規久男『マクロ経済学を学ぶ』筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、26頁。</ref>。総需要が拡大すると物価が上昇し、GDPは拡大する<ref name="macro26" />。総需要も総供給の増加に追いつくように増加しなければ、需要不足から不況となり、需要不足が大きくなっていくとデフレ不況に陥る<ref>岩田規久男『スッキリ!日本経済入門-現代社会を読み解く15の法則』日本経済新聞社、2003年、236頁。</ref>。「デフレ不況」とは、総需要の減少によってデフレ・ギャップが拡大することで、失業・物価下落が生じている状態である<ref>田中秀臣『日本型サラリーマンは復活する』日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、181頁。</ref>。総需要の不足、デフレ・ギャップが解消されない限り、どれだけ潜在成長率を高めてもデフレも不況も解消できない<ref>田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』朝日新聞出版、2010年、175頁。</ref>。
日本は過去10年間、GDPギャップがマイナス傾向で需要が不足していたため、それがデフレの大きな要因になってきたと言われる<ref name="diamond20131111">[http://diamond.jp/articles/-/44203 伊藤元重の新・日本経済「創造的破壊」論 「賃金上昇」→「デフレ脱却」という好循環を実現できる成長戦略とは?]ダイヤモンド・オンライン 2013年11月11日</ref>。ただし、物価はGDPギャップだけで決まるわけではなく、マネーサプライなどの[[金融政策]]の動きも重要である<ref name="diamond20131111" />。よってGDPギャップだけで物価の動きを論ずるべきではないが、重要な指標であることは間違いない<ref name="diamond20131111" />。
 
社会全体の総需要は、[[財政政策]][[金融政策]]によって変化させることができる([[ケインズ経済学|ケインズ・モデル]])<ref>岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、26頁。</ref>。田中秀臣は「デフレ・ギャップが存在すれば、需要を喚起する政策を行い、失業の解消を図る必要がある」と指摘している<ref name="keizaironsen82" />。総需要を完全雇用総供給に一致させる=GDPギャップをゼロにするということは、失業率を[[自然失業率]]に近づけインフレ率を適正な水準に安定させるということであり、[[経済政策]]の目的である<ref>野口旭『ゼロからわかる経済の基礎』講談社〈講談社現代新書〉、2002年、180頁。</ref>。
 
総需要を[[完全雇用]]総供給に一致させる=GDPギャップをゼロにするということは、失業率を[[自然失業率]]に近づけインフレ率を適正な水準に安定させるということであり、[[マクロ経済政策]]の目的である<ref>野口旭 『ゼロからわかる経済の基礎』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、180頁。</ref>。
 
=== デフレスパイラル ===
名目金利の低下する速度以上の物価の下落が発生している局面では、実質金利が上昇し投資活動が低下する<ref name="yasashii155">日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、155頁。</ref>。これが経済活動を停滞させる要因となり、賃金の下落や失業([[フィリップス曲線]]を参照)<ref name="hotwiredjapan1" />、ひいては消費支出の減少とさらなる企業活動の停滞をもたらす要因となる。
 
物価の下落→企業収益の圧迫→企業の経費節約→需要不足→更なる物価の下落→更なる企業収益の圧迫→[[設備投資]]の抑制→リストラなどによる雇用の減少(失業の増加)→家計の所得の減少(購買力の低下)→消費の減少
 
以上のような一連の経済縮小により、物価の下落と景気の悪化の循環がとどまることなく進むことを「'''デフレスパイラル'''」と呼ぶ<ref name="yasashii155" />。
 
[[GDPデフレーター]]が下落する一方で、実質GDP増加している場合はデフレであるがデフレスパイラルではない<ref>大和総研『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』日本実業出版社・第4版、2002年、97頁。</ref>。
{{see also|大恐慌}}
{{see also|世界恐慌}}
 
==== 日本のデフレスパイラル化について下での成長 ====
経済学者の[[若田部昌澄]]は「通常はデフレと不況はセットになっている」と指摘している<ref>田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著『エコノミスト・ミシュラン』太田出版、2003年、50頁。</ref>。経済学者の[[野口旭]]は「デフレは本来その国が持っている潜在成長率や適正な失業率の水準から、その国を遠ざける」と指摘している<ref name="economist54" />。中澤正彦は「デフレは、好況と不況を繰り返しながら成長していくという経済に対し自動調整機能が効かない状態である。その意味ではハイパーインフレと遠戚関係にあるともいえる」と指摘している<ref name="asahi2012612" />。
経済学者の[[池尾和人]]は「今(2002年)のデフレというのは、過去のデフレとは違い、スパイラル化していない。すぐ1930年代の経験に話が飛んで、1930年代のときのデフレはどうやって克服したとか言うが違う<ref name="rieti2003922">[http://www.rieti.go.jp/users/iio-jun/discussion/03.html 第3回「深刻さを前提に、漸進的に構造改革を進め、諸問題を総合的に解決する選択肢」]RIETI 2003年9月22日</ref>」「戦前の[[世界恐慌]]時のデフレは確かに大問題だった。今(2010年)は二つの点が違う。第1に、相対価格が非常に大きく動いている。平均値はマイナス1%程度だが、30%も下落している商品もあれば、上昇している商品もある。戦前は、一律に低下した。第2は、当時のデフレは物価の下落率が2ケタ以上の異常事態だった。だが、現在は1%程度の下落が続き、スパイラルに加速しているわけではない<ref name="diamond2010105">[http://diamond.jp/articles/-/9613 池尾和人 慶應義塾大学教授 日銀に“政治的判断”を押し付けるな]ダイヤモンド・オンライン 2010年10月5日</ref>」と指摘している。
 
岩田規久男は「実際にインフレはGDPの拡大、デフレはGDPの縮小を伴うことが多い。インフレは好景気と結びつきやすく、デフレは不景気に結びつきやすい。しかし必ずしもインフレと好景気、デフレと不景気が結びつくわけではない<ref>岩田規久男『マクロ経済学を学ぶ』筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、28頁。</ref>」「デフレ下で[[景気循環]]がなくなるわけではない<ref name="#1">岩田規久男『日本経済にいま何が起きているのか』東洋経済新報社、2005年、187頁。</ref>」と指摘している。岩田は「長期的には物価が下落すると、人々・企業の購買力は増大し、それに伴って消費などの総需要が拡大することにより実質GDPは拡大していく」と指摘している<ref>岩田規久男『マクロ経済学を学ぶ』筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、60-61頁。</ref>。岩田は「デフレとデフレ予想とは区別する必要がある。マクロ経済のパフォーマンスに影響を与えるのは、デフレ予想である」と指摘している<ref name="#1"/>。
経済学者の[[齊藤誠]]は「デフレは続いているが、年率1.1%程度の軽微なものだ」と述べている<ref>[http://diamond.jp/articles/-/9740 齊藤 誠 一橋大学大学院経済学研究科教授 低生産性・高コスト構造を自覚せよ]ダイヤモンド・オンライン 2010年10月18日</ref>。経済学者の[[塩沢由典]]は「マイナス1パーセント程度の物価下落は、物価安定というべきもので『デフレーション』の原義から逸脱している」と述べている<ref>塩沢由典(2013)『今よりマシな日本社会をどう作れるか』編集グループSURE.</ref>。
 
大和総研は「物価の下落率が同じであっても、需要の減少によって生じるによる場合と、生産性向上による供給サイドの要因によって生じる場合と意味合いが異なってくる」と指摘している<ref>大和総研『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』日本実業出版社・第4版、2002年、94頁。</ref>。
経済学者の[[浜田宏一]]は「デフレ状況の中では、デフレ率が変わらなくても過剰設備・失業率が増えていくという関係がある」と指摘している<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8BQ04C20121227 インタビュー:日銀は無制限緩和を、物価目標2─3%が適切=浜田宏一教授]Reuters 2012年[[12月28日]]</ref>。
 
経済学者の[[浜田宏一]]は「本当に価格が伸縮的な経済であれば、[[リアルビジネスサイクル理論]]が言うとおり、デフレでも問題はないが、現実は賃金・物価は硬直的であるため、デフレ下では実質賃金が上がってしまう。つまり企業のコストが上がってしまうため、雇用・生産を抑えてしまう」と指摘している<ref>田中秀臣編著『日本経済は復活するか』藤原書店、2013年、51-52頁。</ref>。
経済学者の[[伊藤隆敏]]は「現在(2012年)はデフレスパイラルの状態に陥っている。物価が下落しているので、賃金は下がり、投資も増えないため、成長率も上がらない。そのためデフレ予想から脱却できず、物価が下落するという悪循環になっている」と指摘している<ref name="reuters20121214">[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8BD01420121214?pageNumber=1 インタビュー:日銀は極端な国債購入拡大回避を=伊藤・東大大学院教授]Reuters 2012年12月14日</ref>。
 
経済学者の[[飯田泰之]]は「インフレのほうが、デフレ下の景気回復よりもっとよくなる」と指摘している<ref>勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之『日本経済復活 一番かんたんな方法』光文社〈光文社新書〉、2010年、194頁。</ref>。
経済学者の[[片岡剛士]]は「日本の物価上昇率は[[GDPデフレーター]]でみて平均1%程度のマイナスとなっている。この事実からデフレが大した問題ではないと主張するのは早計である。平均1%の物価下落でも、積もり積もればその効果は大きい。1年間で一気に数十パーセントの物価下落が生じれば、雇用環境にも大きな影響が生じるため人々が経済危機だと認識するのは容易である。日本の問題は、平均して年1%程度のデフレが15年超つづくことで、経済停滞が長期化してしまっていることにある。悪化した雇用環境や円高基調で進む[[為替レート]]といった現象も、この年1%程度のデフレが長期化した結果であることを十分に認識しておくべきである」と指摘している<ref name="synodos2011726" />。
 
==== デフレ下での成長歴史 ====
経済アナリストの[[中原圭介]]は「世界経済を歴史的観点から眺めていくと、インフレで不況のときもあれば、デフレで好況のときもあったということがわかります。実際に、ある貴重な研究論文において、デフレ期の9割で経済は成長しており、不況期の7割はデフレではなくインフレであったという、れっきとした事実が証明されている」と述べている。この論文とはミネアポリス連邦準備銀行のアンドリュー・アトキンソンとパトリック・J・キホーの2人のエコノミストが2004年1月に発表した論文「デフレと不況は実証的に関連するのか?<ref>[https://www.minneapolisfed.org/research/sr/sr331.pdf 原題:Deflation and Depression: Is There an Empirical Link?]ミネアポリス連邦準備銀行</ref>」で、過去100年間以上の世界各国のデータを集め、デフレの時期、インフレの時期、好況の時期、不況の時期の4つの事象に分けてプロットし分析したもので、大恐慌の時期の5年を除くと、デフレの事例全体の89%で経済はプラス成長、インフレの事例全体の96%で経済はプラス成長、また全体で不況の事例のうちインフレであったのが72%、デフレであったのが28%であり、物価上昇率と不況との間には明確な関連性を云々できるほどのつながりはないという結論に拠るものです(大恐慌の時期の5年でも主要16カ国すべてでデフレを経験したものの、そのうち8カ国が「デフレ」と「不況」を同時に経験し、残りの8カ国はデフレだけを経験)。<ref>「[https://toyokeizai.net/articles/-/65656?page=2 デフレになると、本当に不況が来るのか]」東洋経済オンライン2015年04月08日</ref>
日本の'''名目GDP'''が伸びない原因はデフレであり、名目GDP成長率は'''実質GDP'''成長率とインフレ率を足したものである(名目GDP成長率=実質GDP成長率+インフレ率)が、日本は2011年現在毎年1パーセントのデフレが続いているため実質GDP成長率が1パーセントあっても差し引きはゼロである(実質GDP成長率1%+インフレ率-1%=名目GDP成長率0%)<ref>「ダイヤモンドZAi」5月号、2011年、169頁 - 170頁</ref>。高橋洋一は「デフレから脱却しインフレに転じれば名目GDPは成長する」と指摘している<ref>[http://webdacapo.magazineworld.jp/top/feature/78399/ 消費増税はなぜダメなのか?高橋洋一 緊急インタビュー]ダカーポ 2012年4月2日</ref>。
 
[[第二次世界大戦]]以降、物価・賃金は恒常的に上昇したが、それ以前は上昇・下落を頻繁に繰り返していた<ref name="boj2001628">「[http://www.boj.or.jp/announcements/release_2001/spri02c.htm/ 物価に関する研究会・議事要旨(第2回)]」日本銀行 Bank of Japan2001年6月28日</ref>。物価・賃金に下方硬直性はなく、デフレは珍しいことではなかった<ref name="boj2001628" />。1873年から1896年までイギリス、ドイツ、フランス、アメリカなどの国はデフレ下で実質経済成長率がプラスであった<ref>田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著『エコノミスト・ミシュラン』太田出版、2003年、48頁。</ref>。19世紀のイギリスには、物価が安定していた「ヴィクトリア均衡」と呼ばれる時期がある<ref name="boj2001628" />。
中澤正彦は「デフレは、好況と不況を繰り返しながら成長していくという経済に対し自動調整機能が効かない状態。その意味ではハイパーインフレと遠戚関係にあるともいえる」と指摘している<ref name="asahi2012612" />。
 
若田部昌澄は「『ヴィクトリア均衡』の時代は、それほどいい状態ではなかったことも事実である。イギリスは大不況ではなかったがかなり停滞し、資本の海外流出と移民の大量発生が起きている。デフレが起こらなければ技術革新が起きていた時代であったため、本来もっと成長ができたはずである。その証拠は同時期の日本であり、この時期にデフレではなかった日本が経験したのは『企業勃興』と呼ばれるような爆発的好況である」と指摘している<ref>田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著『エコノミスト・ミシュラン』太田出版、2003年、53頁。</ref>。また若田部は「19世紀後半はデフレだからという理由で給料が切り下げられる時代だった。そのおかげで、デフレ下でも経済成長が維持できたというひとつの考え方がある」と指摘している<ref>若田部昌澄・栗原裕一郎『本当の経済の話をしよう』筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、194頁。</ref>。ちなみにヴィクトリア均衡は、金産出量の増大によって終息している<ref>田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著『エコノミスト・ミシュラン』太田出版、2003年、152頁。</ref>。
経済学者の[[岡田靖]]は「デフレは経済を著しくぜい弱なものとすることは、過去10年以上の日本の実験で明らかである」と述べている<ref>[http://jp.reuters.com/article/idJPnTK004249620071102?pageNumber=1 COLUMN-〔インサイト〕4─5%の名目成長率目標、マクロ政策に大きな柔軟性=エコノミスト・岡田靖]Reuters 2007年11月2日</ref>。
 
[[高橋洋一 (経済学者)|高橋洋一]]は「デフレの大きな弊害は、賃金などに下方硬直性があるため実質賃金が割高になって、失業が発生することである。ただ、第二次世界大戦前には、組合運動も盛んでなかったため、賃金の下方硬直性もあまりなかった。現在(2014年)ほど失業問題が重要視されていなかったこともあり、デフレでも実質経済成長した期間は多い」と指摘している<ref>「[https://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140719/dms1407191000002-n1.htm 政治・社会 【日本の解き方】徘徊する「良いデフレ」の亡霊 日本の深刻事例なぜかスルー (1/2ページ)]」ZAKZAK2014年7月19日</ref>。
岩田規久男は「実際にインフレはGDPの拡大、デフレはGDPの縮小を伴うことが多い。インフレは好景気と結びつきやすく、デフレは不景気に結びつきやすい。しかし必ずしもインフレと好景気、デフレと不景気が結びつくわけではない」と指摘している<ref>岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、28頁。</ref>。岩田は「長期的には物価が下落すると、人々・企業の購買力は増大し、それに伴って消費などの総需要が拡大することにより実質GDPは拡大していく」と指摘している<ref>岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、60-61頁。</ref>。
 
ナチス登場以前のドイツは、家賃を含め名目賃金をどんどん切り下げた。そういったデフレ政策によって国民は塗炭の苦しみを味わい、結果ナチスの台頭を許してしまったとされる<ref>田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著『エコノミスト・ミシュラン』太田出版、2003年、120頁。</ref>。アメリカでは、大恐慌時に生まれた第二次世界大戦後の[[ベビーブーマー]]世代の親世代の人々は、非常にリスクを回避するという調査結果が出ており、その傾向は景気が良くなっても変わらず一生続いたとされている<ref>麻木久仁子・田村秀男・田中秀臣『日本建替論 〔100兆円の余剰資金を動員せよ!〕』藤原書店、2012年、48頁。</ref>。
池尾和人は「デフレで経済の調子が悪いは、原因と症状を取り違えた表現だ<ref name="toyokeizai2012125">[http://toyokeizai.net/articles/-/11991 財政ファイナンスをやってはいけない]東洋経済オンライン 2012年12月5日</ref>」「因果関係としては、経済の悪化、需要の弱さを反映して、デフレが起こる。デフレが経済を悪化させるフィードバックはあって、経済が好転するきっかけがつかみにくい状況をつくり出してはいるが、副作用的なものと見るべきだ。だから、マイルドなデフレのまま景気が回復することも起きる。その実証例が、2003年(の日本)だった<ref name="diamond2010105" />」と指摘している。
 
経済学者の[[池尾和人]]は「『デフレで経済の調子が悪い』というのは、原因と症状を取り違えた表現である<ref>「[https://toyokeizai.net/articles/-/11991 財政ファイナンスをやってはいけない]」東洋経済オンライン2012年12月5日</ref>」「因果関係としては、経済の悪化、需要の弱さを反映して、デフレが起こる。デフレが経済を悪化させるフィードバックはあって、経済が好転するきっかけがつかみにくい状況をつくり出してはいるが、副作用的なものと見るべきである。だから、マイルドなデフレのまま景気が回復することも起きる。その実証例が、2003年(の日本)だった<ref>「[https://diamond.jp/articles/-/9613 池尾和人 慶應義塾大学教授 日銀に“政治的判断”を押し付けるな]」ダイヤモンド・オンライン2010年10月5日</ref>」と指摘している。
「日本はデフレが続いているにもかかわらず2002年からは景気が回復した、だからデフレは景気とは関係がない」という議論があるが、若田部昌澄は「日本がデフレに陥っていた1990年代にも2回程度の景気回復があったが、そのたびに景気回復が頓挫した。原因には、2000年8月の[[速水優]][[日本銀行]]総裁による[[ゼロ金利政策]]解除といった政策の失敗もある。デフレの下での景気回復はきわめて脆弱であり、現在(2008年)の景気回復はほとんど枕詞のように『実感なき』と呼ばれるほど勢いが弱い。デフレの下では給料などの名目値が伸び悩むから実感に乏しい」と指摘している<ref name="php200858">[http://shuchi.php.co.jp/article/563 日銀新総裁はゼロ金利に復帰を]PHPビジネスオンライン 衆知 2008年5月8日</ref>。
 
経済学者の[[岡田靖]]は「デフレは経済を著しくぜい弱なものとすることは、過去10年以上の日本の実験で明らかである」と述べている<ref>「[http://jp.reuters.com/article/idJPnTK004249620071102 COLUMN-〔インサイト〕4-5%の名目成長率目標、マクロ政策に大きな柔軟性=エコノミスト・岡田靖]」Reuters 2007年11月2日</ref>。
経済学者の[[田中秀臣]]は「日本の景気は、2003-2006年末まで景気回復基調だったといわれているが、その水準はずっと低いままだった。外需によって、輸出産業を中心に企業収益は改善したが、名目賃金はまったく伸びず所得は頭打ちだった。名目GDPの成長率が伸びない限り、所得水準も上がらない」と指摘している<ref>田中秀臣『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』NHK出版〈生活人新書〉、2009年、18-19頁。</ref>。
 
== 対策 ==
元日銀審議委員の[[中原伸之]]は「実質GDP成長率1-2%、名目GDP成長率3-4%の状況が2-3年続いて、初めてデフレ脱却といえる。好不況の循環の中での一時的な景気回復と、デフレ脱却を混同してはならない」と指摘している<ref>[http://mainichi.jp/select/news/20130830ddm004070047000c.html 論点:4月消費増税、是か非か]毎日jp(毎日新聞)2013年8月30日</ref>。
経済学者の[[ハイマン・ミンスキー]]はデフレを抑止する機能として、
#中央銀行の機能
#政府支出
の2つを挙げている<ref>中野剛志『[[レジーム・チェンジ]]-恐慌を突破する逆転の発想』NHK出版〈NHK出版新書〉、2012年、147頁。</ref>。
 
デフレは'''貨幣的現象'''であると考えられているので<ref>[「[http://www.sbbit.jp/article/cont1/22302 【田中秀臣氏インタビュー】日本をデフレから救うのは、凡庸だが最良の処方箋の「リフレ政策」]」ソフトバンク ビジネス+IT2010年9月10日</ref><ref name="bloomberg201334">「[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MJ4JJS6JTSEG01.html 岩田・日銀副総裁候補:物価目標のマジック、予想インフレ上昇で円安]」Bloomberg2013年3月4日</ref><ref>「[http://www.nira.or.jp/president/review/entry/n130410_701.html デフレ脱却のための政策を問う]」NIRA 総合開発研究機構2013年4月</ref>、通常は[[金融政策]]によって対処される。
経済学者の[[タイラー・コーエン]]は、日本の長期停滞が貨幣的要因によるものとは思えない、19世紀末はデフレでも経済成長していたと指摘している<ref>若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、135頁。</ref>。経済学者の[[若田部昌澄]]は「19世紀後半はデフレだからという理由で給料が切り下げられる時代だった。そのおかげで、デフレ下でも経済成長が維持できたというひとつの考え方がある」と指摘している<ref>若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、194頁。</ref>。
 
== '''対策 ==の例'''
* [[量的金融緩和政策]]、[[信用緩和]](質的金融緩和政策)
; デフレーション対策の例
** [[政策金利]]の引き下げ
* [[量的緩和]]、[[信用緩和]]
** 時間軸政策や非伝統金融政策([[インフレターゲット]])などによる期待への働きかけ<ref>「[http://www.ewoman.co.jp/business/morinaga/02.html 不況の原因:森永卓郎が語る]」イー・ウーマン(ewoman)</ref>
:* [[政策金利]]や[[公定歩合]]の引き下げ
** 中央銀行による国債オペや株式やETF等の購入
:* 時間軸政策やターゲット政策([[インフレターゲット]])などによる期待への働きかけ<ref>[http://www.ewoman.co.jp/business/morinaga/02.html 不況の原因:森永卓郎が語る]イー・ウーマン(ewoman)</ref>
* 通貨高の是正
:* 中央銀行による国債オペや株式ETF等の買い入れ
* 通貨高の是正<ref name="rieti2004128" />
** 外国為替相場への介入
* 金融機関に対する政府保証や資本注入
* [[累進課税]]制度など税制による自動的な減税効果景気調整([[ビルト・イン・スタビライザー]])
:** 期限付きの減税措置<ref name="reuters20121214">「[https://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8BD01420121214/ インタビュー:日銀は極端な国債購入拡大回避を=伊藤・東大大学院教授]」Reuters2012年12月14日</ref>
* 一時的な財政出動政策<ref name="reuters20121214" />による総需給産出量ギャップの改善
:** 政府保証や政府買い取り制度(金融資産、穀物・原油など基幹資源など)
:** 家計への財政を通じた所得補填
* 現金・預金・国債など政府が保障するすべての金融資産に対しての課税<ref name="rieti20031225" />
など
* [[政府紙幣]]の発行
 
貨幣供給量の増大による総需要の増大が総供給の増加を上回る状態が継続すると、持続的な物価上昇(インフレ)が始まるが、逆に貨幣供給量の持続的な減少による超過供給の状態が継続すると、持続的な物価下落(デフレ)が始まる<ref>岩田規久男『経済学を学ぶ』筑摩書房〈ちくま新書〉、1994年、196-197頁。</ref>。需給ギャップによる説明と貨幣による説明は、相反するものではなく、貨幣が不足しているということは、モノが余って需給ギャップがあることを別の言い方で説明しているだけである<ref>若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』光文社〈光文社新書〉、2012年、164頁。</ref>。浜田宏一は「貨幣と財・サービスは分離されているので、貨幣政策によって財・サービスの向上は図れないという理論があるが、[[リーマン・ショック]]後の世界は、貨幣と財・サービスとが切り離せないことを示した」と指摘している<ref>「[https://gendai.media/articles/-/35170 経済の死角 ぶちぬき大特集アベクロでGO! アベクロ・バブルの教祖新たな「お告げ」 浜田宏一登場「株高と円安私にはここまで見えている」]」現代ビジネス2013年[[3月18日]]</ref>。
=== 対策についての議論 ===
{{see also|マンデルフレミングモデル}}
 
一方で、池尾和人は「インフレを起こすだけでよいなら話は簡単であり、貨幣を発行して政府支出を賄う政策を実施すれば可能だろう。しかし経済政策の目標は国民の経済的な満足度を高めることである。そういう手段でインフレを達成しても本当に改善したことにはならない」と述べている<ref>「[https://web.archive.org/web/20100820143511/http://www.47news.jp/47topics/e/170063.php 【中央銀行企画】④高望みはいけない 政治は日銀に責任転嫁]」47NEWS(よんななニュース)2010年8月13日</ref>。
デフレは[[貨幣数量説|貨幣的現象]]であると考えられているので<ref>[http://www.sbbit.jp/article/cont1/22302 【田中秀臣氏インタビュー】日本をデフレから救うのは、凡庸だが最良の処方箋の「リフレ政策」] ソフトバンク ビジネス+IT 2010年9月10日</ref><ref name="bloomberg201334">[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MJ4JJS6JTSEG01.html 岩田・日銀副総裁候補:物価目標のマジック、予想インフレ上昇で円安]Bloomberg 2013年3月4日</ref><ref name="nira20134">[http://www.nira.or.jp/president/review/entry/n130410_701.html デフレ脱却のための政策を問う]NIRA 総合開発研究機構 2013年4月</ref>、通常は金融政策によって対処される。貨幣供給量の増大による総需要の増大が総供給の増加を上回る状態が継続すると、持続的な物価上昇(インフレーション)が始まるが、逆に貨幣供給量の持続的な減少による超過供給の状態が継続すると、持続的な物価下落(デフレーション)が始まる<ref>岩田規久男 『経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1994年、196-197頁。</ref>。経済学者の[[星岳雄]]は「デフレは金融政策で解決できる問題だ」と指摘している<ref name="nira20134" />。
 
[[ベン・バーナンキ]]は「デフレを事前に予測することは不可能であり、デフレ・リスクがあればインフレ・リスクを恐れず、従来の枠組みを超えた政策で対応すべきである」と指摘している<ref>田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』朝日新聞出版、2010年、99-100頁。</ref>。田中秀臣は「物価水準が2年間下落し続けるのを待ってから、デフレ対策をやるというのいうでは本末転倒な話となる」と指摘している<ref>田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著『エコノミスト・ミシュラン』太田出版、2003年、51頁。</ref>。
若田部昌澄は「需給ギャップによる説明と貨幣による説明は、相反するものではない。貨幣が不足しているということは、モノが余って需給ギャップがあることを別の言い方で説明しているだけである」と指摘している<ref>若田部昌澄 『もうダマされないための経済学講義』 光文社〈光文社新書〉、2012年、164頁。</ref>。
 
=== インフレ期待 ===
商品価格や賃金の政府統制は物価変動を直接管理する有効な手段であるが、自由市場を通じた財の最適分配をかえって阻害するものとして批判がある{{誰|date=2013年8月}}。
{{see also|人工市場#合理的期待仮説}}
 
'''インフレ期待'''(inflation expectations)とは、人々の物価の先行きへの見込みを指し、人々の間に一様に物価が上がる(下がる)との見込みが広がると、それが人々の行動に反映され、経済活動にも影響すると考えられている<ref name="wsj201137">「[http://jp.wsj.com/ed/finance_eng/110307.html 【WSJで学ぶ金融英語】第60回 インフレ期待]」WSJ.com2011年3月7日</ref>。物価の安定を主な責務とする中央銀行にとっては、インフレ期待をコントロールすることが重要になってくるため、各国中央銀行は常にその動向を追っている<ref name="wsj201137" />。また、インフレ期待は、金融政策への信頼感にも影響されるため、中央銀行への信認の程度を反映するとも言われている<ref name="wsj201137" />。
浜田宏一は「貨幣とモノ・サービスは分離されているので、貨幣政策によってモノ・サービスの向上は図れないという理論がある。だが[[リーマン・ショック]]後の世界は、貨幣とモノ・サービスとが切り離せないことを示した」と指摘している<ref>[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35170 経済の死角 ぶちぬき大特集アベクロでGO! アベクロ・バブルの教祖新たな「お告げ」 浜田宏一登場「株高と円安私にはここまで見えている」]現代ビジネス 2013年[[3月18日]]</ref>。
 
経済学者の[[トーマス・サージェント]]によれば、政府の戦略・[[レジーム]]に変更があれば民間経済主体は必ずそれに対応して、消費率・投資率・ポートフォリオなどを選択するための戦略・ルールを変更するとしている<ref name="syowakyoko30">岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社、 2004年、30頁。</ref>。例えば政策当局が将来的にインフレを許容する行動をとると予想されるか、或いはそれを許容しないと予想されるかで、消費・貯蓄・投資などに関する企業・家計の意思決定は、大きく異なってくる<ref name="syowakyoko30" />。
経済学者の[[ジョセフ・E・スティグリッツ]]は「日本のデフレの原因は、為替の影響が大きかった。円安が続けば、その状況は変わる。現実問題として、アメリカが金融緩和を進めれば、円高になるので、対抗することが必要だ。日銀は日本国債をより積極的に買い入れるなどし、対抗しなければならない」と指摘している<ref name="nhk2013321">[http://archive.is/85hEP 日銀 黒田新体制始動 “物価目標 2%実現を”]NHK Bizプラス 2013年3月21日</ref>。因みに[[為替レート]]と[[インフレ率]]について、明確な一方的因果関係は検出されていない<ref>[[岩田規久男]]編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、207頁。</ref>。
 
予想インフレ率の推計が政策レジームの変化(またはゲームのルールの変化<ref>岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、188頁。</ref>)を検出するために重要な役割を果たす<ref>岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社、 2004年、189頁。</ref>。
池尾和人は「インフレを起こすだけで良いなら話は簡単だ。貨幣を発行して財政支出を賄う政策を実施すれば可能だろう。しかし経済政策の目標は国民の経済的な満足度を高めることのはずだ。そういう手段でインフレを達成しても本当に改善したことにはならない」と述べている<ref name="47news2010813">[http://www.47news.jp/47topics/e/170063.php 【中央銀行企画】④高望みはいけない 政治は日銀に責任転嫁]47NEWS(よんななニュース) 2010年8月13日</ref>。
 
インフレ期待は、人々をマネー自体への投機から、アイデアに対する投機、モノに対する投資に向かわせるとされる<ref>「[https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0370.html 期待形成と社会改革:少子化対策、男女共同参画、雇用制度改革へ意味すること]」RIETI2013年5月21日</ref>。多くの人が抱くデフレ予想をインフレ予想に変えなければ、デフレ脱却はできない<ref name="nikkei201334">「[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL040PK_U3A300C1000000/ 岩田規久男氏「期待実質金利の低下が円安・株高の要因に」]」日経新聞2013年3月4日</ref><ref>岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社、 2004年、281頁。</ref>。岩田規久男「銀行貸出は増える必要はない。デフレ予想がインフレ予想に転換すれば企業がため込んだ[[内部留保]]を使って生産のための投資を始める」と指摘している<ref>「[https://www.nikkei.com/article/DGXNASFL120EN_S3A310C1000000/ 岩田規久男氏、2%「日銀が達成と市場に信用してもらう事重要」]」日経新聞2013年3月12日</ref>。
需給ギャップの解消を円滑とするよう足並みをそろえた財政政策や、潜在成長率を引き上げて金融緩和の効果を高めるような規制緩和政策{{誰|date=2013年8月}}など、その他の政策による補助も有効とされる。
 
経済学者の[[伊藤隆敏]]は「期待が変わらなければ賃金や物価の変化も期待できない。皆がデフレ予測を持っていれば賃金も下がるし、価格も下落する。デフレの自己実現的な期待が生じてしまう」と指摘している<ref>「[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M0HQ960YHQ0X01.html 日本は財政難から3-5年で円安、長期金利3%へ-伊藤隆敏東大教授]」Bloomberg2012年3月7日</ref>。
エコノミストの[[村上尚己]]は「脱デフレを実現するためのベストの経済政策運営は、金融政策・財政政策の双方ともに、総需要を増やす方向で整合的に組み合わせ、運用されることだ」と指摘している<ref name="zai20131028">[http://diamond.jp/articles/-/43687 村上尚己「エコノミックレポート」 アベノミクスの大きな揺らぎ〜「第2の矢」の弱点〜]ザイ・オンライン 2013年10月28日</ref>。
 
ポール・クルーグマンは「一定の条件が満たされればインフレが起こり、望ましい状況がもたらされる。その条件とは『国家の経済は将来的に落ち込まない』『中央銀行が実際に金融緩和を実現に移す』と人々が信じ、期待することである。将来インフレが到来すると確信すれば、手元の資産は目減りが予測されるのでおカネを使う理由が生まれる」と指摘している<ref>「[https://gendai.media/articles/-/37296 経済の死角 【独占インタビュー】ノーベル経済学賞受賞ポール・クルーグマン 日本経済は、そのときどうなるのか]」現代ビジネス2013年10月21日</ref>。
中野剛志は[[カール・ポランニー]]は[[1930年]]代の[[世界恐慌]]を研究した上で『大転換』を執筆し、[[環境]]・自然の破壊・[[労働者]]の破壊・デフレによる生産組織の破壊を防ぐ保護対策を論じたが、そう考えるとデフレ対策も[[保護主義]]であり、生産組織の保護と言えるとしている<ref>中野剛志 『グローバル恐慌の真相』 190-191頁。</ref>。
 
田中秀臣、安達誠司は「デフレ脱却には、デフレ・ギャップの溝を埋めるよりもデフレ予想の転換が重要である」と指摘している<ref>田中秀臣・安達誠司『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、90頁。</ref>。経済学者の[[根岸隆]]は「デフレ期待が強まれば投機的動機による貨幣の需要が増え、中央銀行がいくら貨幣供給量を増やしても金利が下がらず、いわゆる[[流動性の罠]]に陥る」と指摘している<ref>日本経済新聞社編著『マネーの経済学』日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、42頁。</ref>。エコノミストの[[片岡剛士]]は「デフレが続くという予想(デフレ予想)が強固である限り、[[公共事業]]といった[[財政政策]]を行なったとしても、それが呼び水となって民間投資や民間消費が力強く増加することはない。こういった時には、単に[[量的金融緩和政策]]といった形でマネーを供給するのではなく、将来、デフレではなくインフレが生じていくのだという予想(インフレ予想)を形成させることが必要となる。このための手段として有効なのが[[インフレターゲット]]政策で、単なる量的緩和ではなく、インフレターゲットつきの量的緩和が必要となる」と指摘している<ref name="synodos2011726" />。
==== インフレ期待 ====
'''インフレ期待'''(inflation expectations)とは、人々の物価の先行きへの見込みを指し、人々の間に一様に物価が上がる(下がる)との見込みが広がると、それが人々の行動に反映され、経済活動にも影響すると考えられている<ref name="wsj201137">[http://jp.wsj.com/ed/finance_eng/110307.html 【WSJで学ぶ金融英語】第60回 インフレ期待]WSJ.com 2011年3月7日</ref>。物価の安定を主な責務とする中央銀行にとっては、インフレ期待をコントロールすることが重要になってくるため、各国中央銀行は常にその動向を追っている<ref name="wsj201137" />。また、インフレ期待は、金融政策への信頼感にも影響されるため、中央銀行への信認の程度を反映するとも言われている<ref name="wsj201137" />。
 
==== 反論 ====
経済学者の[[トーマス・サージェント]]によれば、政府の戦略・レジームに変更があれば民間経済主体は必ずそれに対応して、消費率・投資率・ポートフォリオなどを選択するための戦略・ルールを変更するとしている<ref name="syowakyoko30">岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、30頁。</ref>。例えば政策当局が将来的にインフレを許容する行動をとると予想されるか、或いはそれを許容しないと予想されるかで、消費・貯蓄・投資などに関する企業・家計の意思決定は、大きく異なってくる<ref name="syowakyoko30" />。
一方期待インフレ政策に対しては反論も見られる。
 
{{see also|インフレターゲット#反論}}
予想インフレ率の推計が政策レジームの変化(またはゲームのルールの変化<ref>岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、188頁。</ref>)を検出するために重要な役割を果たす<ref>岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、189頁。</ref>。
 
ノーベル経済学賞を受賞している米国の経済学者[[ジョセフ・E・スティグリッツ]]は「インフレ・ターゲットが政策手段になると主張する方も一部にいらっしゃいます。インフレ期待を形成させることができるかどうか。私は、インフレ期待を形成することは不可能であり、インフレにだけ焦点を当てるという政策はまちがっていると思います。」と述べている。「私の意見では、金融政策は全てのマクロ経済政策目的を達成するために行われるべきです。例えば、米国における政策目的は雇用・経済成長・物価安定です。」「金融政策の目標はマクロ経済の安定化であり、完全雇用を実現すべきです。これを実現する政策手段が適正な政策手段であります。」と述べ期待インフレを政策目標とすることを批判している。また「銀行のバランスシート上、マネーサプライと信用量が等しいという事実が、この分野における長年にわたる混乱の原因の一つです。回帰分析を行えば、この2つの数字は同じものになってしまうので、何が原動力になっているかを特定することは難しくなってしまいます。我々が主張している理論では、信用供給に焦点を当てた(政府紙幣発行のこと)訳です。例えばベースマネーが増加したとしても、信用供給に直接反映されない訳です。この点こそ日本が抱えている問題の1つなのかもしれません。通貨当局はベースマネーをコントロールしていますが、直接的には信用供給をコントロールしていません。最終的にはこの2つは同じかもしれませんが、何をコントロールしているかという点が重要だと思います。」と述べベースマネーと信用供給(こちらが直接に物価に影響する)を等しく見ることに対して問題を呈している<ref name="#2">[https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1022127/www.mof.go.jp/singikai/kanzegaita/giziroku/gaic150416.htm 関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 最近の国際金融の動向に関する専門部会 (第4回)議事録 平成15年4月16日]</ref>。
経済学者の[[伊藤元重]]は「デフレマインドとは、将来にわたって景気が低迷し物価や賃金が下がり続けるという予想が経済に定着していることを意味する。だから消費も投資も増えず、デフレが続く。現在(2012年)の日本の状況で言えば、経済にデフレマインドが定着しているのが、日本経済がデフレから脱却できない最大の理由である」と指摘している<ref>[http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20121224/334925/ インフレ・ターゲティングはデフレ脱却の特効薬となるのか]nikkei BPnet(日経BPネット) 2012年12月27日</ref>。
 
スティグリッツは「日本の場合のインフレターゲット論の問題点は、それが短期的に間違った変数に注目することであり、コミットメントが信用できるものだとすれば、金融当局は間違った戦略を長期に渡って推進することになる。金融政策は、今現在の[[実質金利]]よりも信用供給の拡大に注目したほうが正しく推測できる」と指摘している。<ref>ジョセフ・E・スティグリッツ『スティグリッツ教授の経済教室-グローバル経済のトピックスを読み解く』ダイヤモンド社、2007年、27-28頁。</ref>。つまり金融政策による期待インフレではなく、信用供給に拠るインフレターゲットを主張している。
岩田規久男は「多くの人が抱くデフレ予想をインフレ予想に変えなければ、デフレ脱却はできない<ref name="nikkei201334">[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL040PK_U3A300C1000000/ 岩田規久男氏「期待実質金利の低下が円安・株高の要因に」]日経新聞 2013年3月4日</ref><ref>岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、281頁。</ref>」「銀行貸し出しは増える必要はない。デフレ予想がインフレ予想に転換すれば企業がため込んだ内部留保を使って生産のための投資を始める<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL120EN_S3A310C1000000/ 岩田規久男氏、2%「日銀が達成と市場に信用してもらう事重要」]日経新聞 2013年3月12日</ref>」と指摘している。
 
=== 金融政策 ===
伊藤隆敏は「期待が変わらなければ賃金や物価の変化も期待できない。皆がデフレ予測を持っていれば賃金も下がるし、価格も下落する。デフレの自己実現的な期待が生じてしまう」と指摘している<ref>[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M0HQ960YHQ0X01.html 日本は財政難から3-5年で円安、長期金利3%へ-伊藤隆敏東大教授]Bloomberg 2012年3月7日</ref>。
 
経済学者の[[ポール・クルーグマン]]は「一定の条件が満たされればインフレが起こり、望ましい状況がもたらされる。その条件とは『国家の経済は将来的に落ち込まない』『中央銀行が実際に金融緩和を実現に移す』と人々が信じ、期待することだ。将来インフレが到来すると確信すれば、手元の資産は目減りが予測されるのでおカネを使う理由が生まれる」と指摘している<ref>[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37296 経済の死角 【独占インタビュー】ノーベル経済学賞受賞ポール・クルーグマン 日本経済は、そのときどうなるのか]現代ビジネス 2013年10月21日</ref>。
 
片岡剛士は「デフレが続くという予想(デフレ予想)が強固である限り、公共投資といった財政支出([[財政政策]])を行なったとしても、それが呼び水となって民間投資や民間消費が力強く増加することはない。こういった時には、たんに量的緩和といった形でマネーを供給するのではなく、将来、デフレではなくインフレが生じていくのだという予想(インフレ予想)を形成させることが必要となる。このための手段として有効なのがインフレターゲット政策で、たんなる量的緩和ではなく、インフレターゲットつきの量的緩和が必要となるわけである」と指摘している<ref name="synodos2011726" />。
 
経済学者の[[浜田宏一]]は、インフレ期待ついて「人々の期待がそのまま実現する社会は存在しない」とした上で「日本銀行の物価目標が達成されなくても、(結果的に)景気がよくなればよい」との見解を示している<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9AE06J20131115 黒田日銀の政策発動期待、消費増税に大きな心配ない=浜田内閣官房参与]Reuters 2013年11月15日</ref>。
 
==== 金融政策 ====
{{see also|量的金融緩和政策#予想インフレ率と実質金利}}
 
岩田規久男は「物価上昇率と貨幣供給の増加率との間には、高い相関関係がある」と指摘している<ref>岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、163頁。</ref>。岩田は「デフレ予想をインフレ予想に転換できるのは金融政策だけである」と主張している<ref name="bloomberg201334" /><ref name="nikkei201334" />。中秀臣は「名目融政策利がゼロ予想に働きかけることを不安視する声もるが、金融政策は基本的に予想に働きかけるってのであり予想中央銀行がマネーサプライ否定す増加させ金融政策はありえない。[[黒田東彦]]総裁就任前の日本銀行は努力を通じて意図インフレ期待を醸成さずにれば、デフレ予想期待働きかけよって高止まりしていた実質金利は低下し、総需要を刺激する」と指摘している<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE95N01G20130624 岩中秀臣『デフレ不況 副総裁インタビュー一問一答]Reuters 2013年6月24大罪』朝新聞出版、2010年、79-80頁。</ref>。
 
岩田高橋洋一は「日銀が[[マネタリーベース]]をインフレ率が安定的に上がるまで増やすことを表明すれば、インフレ予想が生まれる。将来、貸し出しや銀行の証券投資などが増え、それに伴って貨幣供給が増えるだろうと投資家が予想するからである」と述べており<ref>[http://shuchi.php.co.jp/article/1390 岩田規久男 : 増税する前に名目成長率を上げよ]PHPビジネスオンライン 衆知 2013年3月29日</ref>、高橋洋一は「マネタリーベースを増やせばインフレ予想が高まる」と述べている<ref>[httphttps://web.archive.org/web/20130318091515/http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130220/dms1302200708000-n1.htm 【日本の解き方】デフレ論者に共通する矛盾 まったく見苦しい…]ZAKZAK 2013」ZAKZAK2013年2月20日(2013年3月18日時点のインターネット・アーカイブ)</ref>。
 
片岡剛士は「デフレは財と貨幣の相対価格である物価の継続的下落を意味するので、貨幣に影響を与える金融政策なくしてデフレを語ることは不可能である」「デフレ予想が根深い状況の下での金融緩和策の効果は、[[昭和恐慌]]や世界恐慌の経験に照らすと、金融緩和→デフレ予想の払拭→資産価格上昇→資産効果による消費増、[[為替レート]]の円安による輸出増、内部留保を用いた投資増→以上による総需要の増加→将来のデフレ予想ではなく物価の上昇(デフレ脱却)→借り入れ増による金融システムの復活となると考えられる。昭和恐慌や大恐慌からの脱却過程といった成功例においても、金融緩和により即座に貸し出しが進むという状況にはならず、金融緩和の実行から貸し出しが進むまでには、一定の時間的なズレが生じる。金融緩和により、デフレ予想を変え、インフレ予想を早期に形成することが重要である」と指摘している<ref name="synodos2011726" />。
 
==== 反論 ====
池尾和人は「インフレは貨幣膨張によるサポートなしには起こらないが、逆に、金融緩和があれば必ず可能というわけではない。インフレを起こすのは貨幣的要因だけなのかといえば違う」と述べている<ref>[http://toyokeizai.net/articles/-/5910 国際分業の利益実現へ、産業構造の転換が必要--池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授]東洋経済オンライン 2011年3月14日</ref><ref name="rieti2003922" />。
池尾和人は「インフレは貨幣膨張によるサポートなしには起こらないが、金融緩和があれば必ず可能というわけではない。インフレを起こすのは貨幣的要因だけなのかといえば違う」と述べている<ref>「[https://toyokeizai.net/articles/-/5910 国際分業の利益実現へ、産業構造の転換が必要--池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授]」東洋経済オンライン2011年3月14日</ref><ref name="#3">「[https://www.rieti.go.jp/users/iio-jun/discussion/03.html 第3回「深刻さを前提に、漸進的に構造改革を進め、諸問題を総合的に解決する選択肢」]」RIETI2003年9月22日</ref>。
 
==== 財政政策 ====
[[財政政策]]を重視する論者によれば、デフレは需要の不足に原因があり、物価下落の期待が形成されている状態なので、金融緩和政策しても増大したマネーは貯蓄に回ってしまい、国内の投資や消費は増えない。そのため、[[国債]]によってマネーを吸い上げ供給して公共投資事業を行い、需給産出量ギャップを埋める必要がある。[[量的金融緩和政策]][[積極的な財政政策]]とセットでなければ効果的にデフレを克服することはできないとする<ref>[[中野剛志]]『[[レジーム・チェンジ]]』[[NHK出版]]pp.178-189</ref>。
 
デフレ下の財政政策については岩田規久男は「時間稼ぎにはなるが、財政の持続可能性に影響が出るので、長期的には続けられない」と指摘し、金融政策のない財政政策だけでは「金利上昇などの副作用がある」と述べている<ref>「[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL040O7_U3A300C1000000/ 岩田規久男氏「財政政策を効果的にするには金融政策が必要に」]」日経新聞2013年3月4日</ref>。岩田は「デフレが続く限り、政府支出を減らさず、支出の中身を需要を増やす効果がある分野に振り分けるといった考慮が必要となる」と指摘している<ref>岩田規久男『日本経済にいま何が起きているのか』東洋経済新報社、2005年、151頁。</ref>。
中野剛志はインフレ抑制のための金利の引き上げは効果的であるが、デフレ解消のための金利の引き下げは効果は乏しいとしている。貨幣価値が上がるデフレでは、経済合理的に考えて、誰も消費や投資をしないという状況になり、民間の力だけでデフレを脱却することは不可能ということになるため、民間以外に消費や投資をする主体である政府が必要となり、政府が金融緩和と同時に財政出動を行うべきであるとしている。日本人によるデフレの認識不足を指摘しており、1990年代-2000年代に本格的な財政出動どころか十分な金融緩和すら行われなかったことをその例証として挙げている。財政出動は効果がなかったという議論を否定しており、その例証として[[小渕政権]]と[[麻生政権]]の財政出動が景気悪化を食い止め、財政収支の改善をもたらしたことを挙げている。しかし、それらの政権はともに政治的アクシデントで財政出動が十分に行われなかったとしている<ref>中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』62-63頁。</ref>。
 
エコノミストの[[村上尚己]]は「デフレと流動性の罠においては、政府による公共事業拡大は総需要を増やすプラスの効果がある。それが[[乗数効果]]をともなって経済全体の押し上げに波及することが、理論上期待される。政府による公共事業は、主に建設セクターに景気回復効果が集中する問題がある。公共事業が、雇用を含め経済全体を刺激する効果は限られている。そう考えると、脱デフレを後押しするためには、減税や社会保険料削減がより有効な対応かもしれない」と指摘している<ref>「[http://diamond.jp/articles/-/43687 村上尚己「エコノミックレポート」 アベノミクスの大きな揺らぎ〜「第2の矢」の弱点〜]」ザイ・オンライン2013年10月28日</ref>
なお中野は「日本は財政危機なので、公共投資は増やしてはいけない」という議論は全く間違いであるとしている。日本は国債を全て自国通貨建てで発行し、その保有者はほぼ日本人で占められている以上、経常収支黒字国なのであり、そのような国が過去に財政破綻した例はない。また、金利の上昇がどうしても懸念されるならば、日本銀行が国債を買い取ればよいとし、ハイパーインフレなども極端な非常時にしか起きないので杞憂であるとしている<ref>中野剛志 『TPP亡国論』 158-161頁。</ref>。
 
=== 賃金の引き上げ ===
デフレ下の財政出動については岩田規久男は「時間稼ぎにはなるが、財政の持続可能性に影響が出るので、長期的には続けられない」と指摘し、金融緩和のない財政出動だけでは「金利上昇などの副作用がある」と述べている<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL040O7_U3A300C1000000/ 岩田規久男氏「財政出動を効果的にするには金融緩和が必要に」]日経新聞 2013年3月4日</ref>。
経済学者の[[伊藤元重]]は「持続的な物価上昇が実現するためには、賃金の上昇がカギとなる。賃金が上昇していくことで、それが物価にも反映される。そうした連鎖が生まれて、初めてデフレからの完全な脱却が可能となる。ただし、賃金はあくまでも民間企業・[[労働市場]]が決めるものである。企業の行動だけに過度に期待してはいけない。賃金を引き上げるためには、雇用を拡大させなければならない。雇用が拡大し、労働市場の需給が締まれば、賃金を引き上げざるをえなくなる。賃金上昇では労働市場における需給ギャップが大きな鍵を握る」と指摘している<ref>「[https://diamond.jp/articles/-/44203 伊藤元重の新・日本経済「創造的破壊」論 「賃金上昇」→「デフレ脱却」という好循環を実現できる成長戦略とは?]」ダイヤモンド・オンライン2013年11月11日</ref>。
 
若田部昌澄は「デフレで実質賃金が上がっている状態で、さらに[[最低賃金]]を引き上げると、企業は雇用に慎重になる。最低賃金の引き上げが、デフレ不況を解消するほどの需要にならず、悪い効果を与える可能性が高い」と指摘している<ref>若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』光文社〈光文社新書〉、2012年、202頁。</ref>。
田中秀臣は「財政政策には二つの問題点がある。第1に最大で40兆円、最小でも20兆円以上にも達する総需要の不足に対して、通常の財政政策には限界がある。第2に日本の場合、『[[リカードの等価命題]]』が働いて財政政策の[[乗数効果]]が下がってしまい、政策効果が限定されてしまう。また財政支出を拡大することで、経済に占める政府部門の割合が高まると、経済全体の非効率性をもたらすという問題もある。つまり、財政政策だけではだめで、必ず金融政策と組み合わせてやらなければならない」と指摘している<ref>田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、241-242頁。</ref>。
 
インフレのときには物価以上に賃金が上がるケースが多い<ref>野口旭『「経済のしくみ」がすんなりわかる講座』ナツメ社、2003年、94頁。</ref>。インフレと賃金の上昇は同時には起きず、賃金の上昇が少し遅れるというタイムラグが一般的である<ref>野口旭『「経済のしくみ」がすんなりわかる講座』ナツメ社、2003年、95頁。</ref>。
深尾光洋は「財政政策は、効果がゼロではないが、[[公共投資]]をやった場合でも、用地買収の費用を引いて、乗数を掛けるとケインズ乗数はせいぜい1.4から1.5ぐらい。そうすると、需給ギャップが6%とすると30兆円の財政支出を現状から20兆円増やして、そこで少なくとも横ばいにする。そして、その水準を維持していく必要がある。これは無理だし、むしろ財政の破綻のリスクを高める」と指摘している<ref name="rieti20031225" />。
 
名目賃金とインフレーションが同じ速さで同時に上昇すると、実質賃金が上昇しなくなり、いったん増加した労働供給量が減少に転じ、統計的に失業率が上昇する<ref>岩田規久男『マクロ経済学を学ぶ』筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、167頁。</ref>。浜田宏一は「インフレ期待が高まると、雇用増加の機会を失う場合もある。労働者が将来のインフレを見込んで賃上げを要求した結果、実際のインフレ時に名目賃金も上昇することで、実質賃金は変化しない。一方で、労働者がインフレを期待せずに賃上げを要求しなければ、企業はインフレによる実質賃金の低下に成功し、雇用を増やせる」と指摘している<ref name="php20131213">「[http://shuchi.php.co.jp/article/1729 岩田日銀副総裁 2%のインフレ目標を達成する覚悟<質疑応答編>]」PHPビジネスオンライン 衆知2013年12月13日</ref>。経済学者の[[原田泰]]は「失業率が下がっていけば、いずれ賃金は上がる。しかし、雇用が伸びる前に賃金を上げては、かえって雇用の伸びを妨げることになりかねない」と指摘している<ref>[https://wedge.ismedia.jp/articles/-/2631?page=1 政府が企業に賃上げ要請 何かがおかしい]WEDGE Infinity(ウェッジ) 2013年3月6日</ref>。田中秀臣は「デフレから脱却すると、実質賃金は当初低下することにより企業側の採用コストが低下し、失業率が低下していく。やがて雇用状況が改善していくと、人手不足などの現象が起き、その後は実質賃金が上昇に転じていく」と指摘している<ref>「[https://biz-journal.jp/journalism/post_6508.html 日銀、なぜ“予想外”追加金融緩和?消費増税で急激な経済悪化、政府に投げられたボール]」ビジネスジャーナル2014年11月2日</ref>。岩田規久男は「インフレ予想が高まり需給ギャップが改善すれば、企業は需要の増加に対応し、実質賃金を引き上げてでも雇用と生産を拡大させていく」と指摘している<ref name="php20131213" />。
村上尚己は「デフレと[[流動性の罠]]においては、政府による公共投資拡大は総需要を増やすプラスの効果がある。それが乗数効果をともなって経済全体の押し上げに波及することが、理論上期待される。政府による公共投資は、主に建設セクターに景気回復効果が集中する問題がある。公共投資が、雇用を含め経済全体を刺激する効果は限られている。そう考えると、脱デフレを後押しするためには、減税や社会保険料削減がより有効な対応かもしれない」と指摘している<ref name="zai20131028" />。
 
池尾和人は「賃金の名目収入を下げるということについて抵抗感があるし、それが維持されているから緩やかなデフレが続いているということがある。それを考えると、緩やかなデフレの下で名目賃金を止めておくとすると、その緩やかなデフレに見合うだけの労働生産性の上昇が全く発生していないと、それは経済全体としては辛くなる。そういう意味で、マイルドなインフレの状況のほうが経済調整がやりやすいから、そういう状況がコストなしに実現できるのであればその方がいい」と指摘している<ref name="#3"/>。
;グローバル・インバランスの是正
{{see also|国際収支統計#学者の見解}}
 
{{see also|日本のデフレーション#賃金の下落|リフレーション#失業と賃金について|スタグフレーション#物価と賃金のスパイラル}}
中野剛志は、日本はデフレを悪化させずに輸入を増やし、'''グローバル・インバランス'''(世界的な経常収支不均衡)を是正すべきだとしている。まず、内需拡大により、デフレを克服し、経済を回復させ、成長軌道に乗せる。そうすると賃金や[[国民所得]]は上昇し、物価も上昇に転じて緩やかなインフレになる。こうして国民の購買力が高まると、輸入が増える。このようにデフレを脱却し、緩やかなインフレで成長していけば、デフレにならずに輸入を増やすことが可能であるとしている<ref>中野剛志 『TPP亡国論』 154-155頁。</ref>。
 
=== 政府紙幣発行 ===
中野は内需を拡大し、デフレを克服する方法としては、デフレになると、民間だけの力だけでは需要を拡大して経済を成長させることはほぼ不可能となる。また、単なる予算のばらまき、[[法人税]]減税では、国民も企業も貯蓄するばかりで、投資や消費は行わないので、需要は拡大しない。そのため、経済合理性を無視してでもお金を使える政府による公共投資で需要を創出すべきであるとしている。公共投資が需要と供給のギャップを埋め、需給がバランスして、物価の下落が止まる。そうすれば、企業は銀行からお金を借りて投資するようになり、消費者も支出する方が合理的になる、こうして、民間が投資や消費を増やして需要を拡大するようになったらデフレは終息し、経済は成長し始める。そうすれば政府の公共投資は減らしてもよくなり、政府は需要を拡大しすぎてインフレを引き起こさないように注意しなければならないとしている。この政府の役割の重要性が十分に理解されないので、日本は未だにデフレを脱却できないとしている<ref>中野剛志 『TPP亡国論』 155-157頁。</ref>。
米国の経済学者ジョセフ・E・スティグリッツは2003年4月に行われた財務省での「関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会」に於いて日本をデフレからインフレへの転換させる政策に政府紙幣の発行を提言している。この方法は債務ファイナンスに比べて多くの利点があることを指摘、信用供給か貨幣かという点については、通貨当局はベースマネーをコントロールしているが、直接的には信用供給をコントロールしていない、何をコントロールしているかという点が重要だと述べ、またインフレ期待を形成することは不可能であり、インフレにだけ焦点を当てるという政策はまちがっているのではないか、金融政策は全てのマクロ経済政策目的を達成するために行われるべきだとも述べている<ref name="#2"/>。
 
=== そのほか ===
若田部昌澄は「インフレ・デフレと経常収支の黒字・赤字は関係が無い。日本は1980年代はインフレだったが経常収支は黒字だった。インフレ・デフレを決めるのに需要は関係するが、内需にこだわる必要は無い」と指摘している<ref>若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、164頁。</ref>。
経済学者の[[宮尾龍蔵]]は「インフレ誘導による過剰債務企業への援助は、利潤を生まない非効率企業の整理・淘汰を先送りする。デフレ脱却に必要なのは、企業の過剰供給の解消という[[サプライサイド経済学|サプライサイド政策]]である」と指摘している<ref>田中秀臣・安達誠司『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、112頁。</ref>。
 
== 歴史 ==
== 日本のデフレの原因について ==
{{see also|日本のデフレーション}}
{{Notice|この節は学術上に論争のある記事を扱っています。}}
 
古代中国の歴史書『[[漢書]]』には、デフレが民の生活を阻害したことが記されている<ref name="economist54" />。
=== 大恐慌時のデフレ不況 ===
[[世界恐慌]]の原因は世界各国が[[金本位制]]への復帰に固執したことにある<ref name="showakyoko66">[[岩田規久男]]編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、66頁。</ref>。日本は政策担当者たちが旧平価による復帰に固執したことによって、デフレ政策を意図的に選択し、デフレ不況を追求した<ref name="showakyoko66" />。
 
19世紀末、金本位制の影響でアメリカは年平均1.5%のデフレであった<ref>若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』光文社〈光文社新書〉、2012年、158頁。</ref>。その後、南アフリカで金鉱が発掘され金の生産量が増大したことや[[金本位制]]が導入されたことなどの結果、1896年にアメリカのデフレは止まった<ref>若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』光文社〈光文社新書〉、2012年、159-160頁。</ref>。
=== 平成のデフレ不況 ===
[[Image:消費者物価指数.png|thumb|250px|right|1989年以降の日本の消費者物価指数の推移。]]
[[Image:GDPDeflator01.png|thumb|250px|right|1995年から2008年の日本のGDPデフレーター前年同四半期増加率(%)。]]
1990年後半以降、日本の金融機関は公的資金の投入を受けながら、不良債権の圧縮と経営基盤の強化に努めたが、その影響は信用収縮による長期デフレという形でマクロ経済に波及した<ref>[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35635 安達誠司「講座: ビジネスに役立つ世界経済」 【第2回】 〜欧州はいまでも債務危機なのか?〜]現代ビジネス 2013年5月2日</ref>。[[GDPデフレーター]]という総合的な物価指標で見た場合1997年の消費税引き上げという特殊要因を除けば日本のデフレは1994年第3四半期から続いている<ref name="syowakyoko190">岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、 2004年、190頁。</ref>。デフレ現象が現実に起こった国は第二次世界大戦後においては、1990年代以降の日本以外にない<ref name="syowakyoko190" />。日本の長期デフレの原因をめぐっては専門家ごとに様々な説が唱えられており、デフレが始まって16年以上も経つにもかかわらずにコンセンサスが得られていない。
 
[[第一次世界大戦]]後、金本位制に復帰した国のほとんどがデフレ不況に直面した<ref>田中秀臣『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』講談社〈講談社BIZ〉、2006年、138頁。</ref>。
2012年4月21日、ワシントンで行われたフランス銀行主催のパネルディスカッションで、日本銀行の[[白川方明]]総裁は日本について「人々が将来の財政状況への不安から支出を抑制し、そのことが低成長と緩やかなデフレの一因になっている」と述べている<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE83L00O20120422 際限ない国債買い入れ、制御不能なインフレ招く=日銀総裁]Reuters 2012年4月22日</ref>。
 
ベン・バーナンキの研究では、金本位制に復帰していなかった、或いはいち早く1931年までに離脱したスペイン、オーストリア、ニュージーランドは物価の下落は軽微で回復が早かった<ref>若田部昌澄・栗原裕一郎『本当の経済の話をしよう』筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、197頁。</ref>。1931年に離脱した日本、イギリス、ドイツも比較的ダメージは軽微であった<ref name="hontonokeizai198">若田部昌澄・栗原裕一郎『本当の経済の話をしよう』筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、197頁。</ref>。1932年から1935年まで離脱が遅れたアメリカ、イタリア、ベルギー、ルーマニアはデフレが長く続き、特にアメリカはデフレが4年間収束しなかった<ref name="hontonokeizai198" />。1936年まで離脱しなかったフランス、オランダ、ポーランドは不安定な社会状況であった<ref name="hontonokeizai198" />。
2012年6月4日、白川総裁は都内の講演で「少子高齢化とグローバル化という構造変化への対応が遅れていることが、低成長、ひいてはデフレの基本的な原因」と指摘している<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE85303P20120604 さらにアグレッシブな国債買い入れ、金利反転上昇の可能性=日銀総裁]ロイター 2012年6月4日</ref>。池尾和人も同様の指摘をしている<ref name="toyokeizai2012125" />。
 
世界恐慌下のアメリカにおいては、当初、財政均衡主義が主流だったため、[[ビルト・イン・スタビライザー]]の効果が低下し、デフレスパイラルに陥った。設備投資はほぼ壊滅的に減少し、失業率が25パーセントにのぼった。GDPデフレーターで、1929年から4年間で25%下落しており、14年後の1943年に1929年当時の水準に戻った<ref>麻木久仁子・田村秀男・田中秀臣『日本建替論 〔100兆円の余剰資金を動員せよ!〕』藤原書店、2012年、210頁。</ref>。
経済学者の[[齊藤誠]]はデフレの原因について「資源価格の上昇と国際競争力の低下による海外への所得流出にある」とし「金融政策で克服するのは難しい」と述べている<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE93404P20130405 インタビュー:日銀緩和、正気の沙汰と思えない=斉藤誠・一橋大教授]Reuters 2013年4月5日</ref>。
 
1932年、オーストリアの[[ヴェルグル]]で、デフレ対策として[[地域通貨]]が導入され画期的効果をあげた<ref>日本経済新聞社編 『マネーの経済学』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、211頁。</ref>(後に中央通貨令により禁止された<ref>日本経済新聞社編著『マネーの経済学』日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、212頁。</ref>)。
1997年から始まった日本の金融危機について、FRBが研究を行ってきたことは広く知られており、危機が訪れたとき、デフレ阻止に向けて急速な金融緩和を行うべきであるという結論は、[[インターネット・バブル]]崩壊と「世界デフレ」の危機に関しては予期した以上の成果へ結びついた<ref>[http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPnTK020158220081022 COLUMN-〔インサイト〕世界的金融危機、日本の教訓は生かされているか=エコノミスト 岡田氏]Reuters 2008年10月22日</ref>。FRBは[[2002年]]7月に「デフレ防止策について1990年代の日本の経験の教訓」というFRBスタッフによるディスカッションペーパー<ref>Preventing Deflation: Lessons from Japan’s Experience in the 1990s[http://www.federalreserve.gov/pubs/ifdp/2002/729/ifdp729.pdf]</ref>を公表し、そのなかで日銀が[[阪神・淡路大震災]]後も金融スタンスを変えなかったことや、[[1997年]]に[[消費税]]を増税したことに言及し、財政構造改革の政策スタンスを転換し所得・消費税等を引き下げることにより経済を刺激できた可能性について言及している<ref>P.38-P.39</ref>。経済学者の[[田中秀臣]]などはこの論文を引用し1990年代のこれらの政策態度により日本は完全な長期停滞に突入したと論じる<ref name="sinsaikyoukou">田中秀臣・[[上念司]]『震災恐慌!』宝島社、2011年、61-62頁。</ref>。
 
1936年の夏以降、インフレを懸念した[[連邦準備制度]](FRB)は金融引き締めを決意し実行したが、これが失敗に終わり、再びアメリカはデフレ不況に戻る<ref>「[http://shuchi.php.co.jp/article/710 危ない与謝野発言]」PHPビジネスオンライン 衆知2009年7月10日</ref>。大恐慌時代のフランスは、イギリスや日本をはじめ各国が金本位制から離脱していったにもかかわらず、長期的に金本位制に固執し、[[フラン (通貨)|フラン]]の価値を維持しようとしたため、アメリカよりも長くデフレ不況が続き、社会は深刻な分断状態に陥った<ref>「[http://shuchi.php.co.jp/article/757 歴史を誤認する藤井大臣]」PHPビジネスオンライン 衆知2009年11月10日</ref>。
経済学者の[[松尾匡]]は「[[民主党 (日本 1998-)|民主党]]政権の財政削減、紙幣発行の引き締め、官僚批判、規制緩和、コミュニティやNPOによる公財政の身代わり、エコロジー志向といった路線の姿勢は、人々がモノやサービスを買おうとする力を停滞させ、デフレ不況を深刻化させた。倒産や失業や不安定な雇用に苦しむたくさんの人々の期待を裏切った」と指摘している<ref>[http://synodos.jp/economy/5973 「小さな政府」という誤解:連載『リスク・責任・決定、そして自由!』]SYNODOS -シノドス- 2013年10月24日 </ref>。
 
アメリカの2001年10-12月期のGDPデフレーターは、約50年ぶりにマイナスとなった<ref name="50n0daigimon27" />。
岩田規久男は「2011年3月現在の日本経済はデフレの状態にあるが、デフレの最中の増税によって内需が減少すれば、一層のデフレになる」と指摘している<ref>[http://www.chikumashobo.co.jp/new_chikuma/sp_shinsai/04.html 緊急寄稿 震災からの経済復興 これから何をすべきか]webちくま</ref>。
 
2007年の[[チャド]]の消費者物価上昇率は、-8.8%となった<ref>原田泰・大和総研『新社会人に効く日本経済入門』毎日新聞社〈毎日ビジネスブックス〉、2009年、137頁。</ref>。
{{see also|消費税#経済への影響}}
 
2009年、ハイパーインフレーション国家だった[[ジンバブエ]]がデフレーションに転じた。2009年1月の消費者物価指数は前月と比べて2.3%下落し、翌2月も前月比3.1%の下落となった。
==== 日銀理論 ====
経済学者の[[ポール・クルーグマン]]は「日本銀行は、『デフレは悪くない』『デフレは中央銀行の力が及ばない要因によって引き起こされた』と訴える報告書・声明を出す傾向にあった。これこそが、日本のデフレからの脱却を妨げるものだった」と指摘している<ref name="php20131022">[http://shuchi.php.co.jp/article/1656 ポール・クルーグマン ― アベノミクスが日本経済を復活させる!]PHPビジネスオンライン 衆知 2013年10月22日</ref>。
 
2014年1月16日、[[国際通貨基金]](IMF)の[[クリスティーヌ・ラガルド]]専務理事は、ワシントン市内で講演し、日米欧などの先進国経済について「多くの国でインフレ率が中央銀行の目標を下回っており、デフレのリスクが高まっている」と指摘した<ref name="nikkei2014116">「[https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM16014_W4A110C1EB1000/ IMF専務理事「多くの国でデフレの恐れ強まる」]日本経済新聞 2014年1月16日</ref><ref name="reuters2014116">[https://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJEA0E02I20140115/ 世界経済は今年成長加速へ、デフレリスク高まっている=IMF専務理事]」Reuters2014年1月16日</ref>。また、先進国でデフレが現実となれば「回復には壊滅的な打撃となる」と強調し、「デフレを断固として退治する必要がある」と警戒を呼びかけた<ref name="nikkei2014116" /><ref name="reuters2014116" />。
[[原田泰]]は日銀の理論について「これまで日銀は、銀行貸出が伸びない限り金融政策には効果がないので実体経済には何も起きない。[[ゼロ金利政策|金利がゼロ]]になったら金融政策は何もできない。物価は金融政策では決まらない。何も起きないからとどんどん[[量的緩和]]を進めていくと日本銀行のバランスシートが悪化し、円が暴落する。日本銀行のバランスシートの拡大は通貨の信認を揺るがす。一度インフレになったら止めることは出来ずハイパーインフレになる。デフレは、中国から安価な製品が流入してくるからである。人口や成長力などの実体経済によってインフレ率が決まる等々と唱えてきた」と述べている<ref>[http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2581 日銀総裁はなぜもっと早く辞任しなかった?]WEDGE Infinity(ウェッジ) 2013年3月18日</ref>。
 
2014年11月時点で、ギリシャでは1年8カ月にわたりデフレ状況が続いている<ref>「[https://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0T056120141110/ 10月のギリシャCPI、下落幅が拡大 デフレ状況続く]」Reuters2014年11月10日</ref>。
高橋洋一は「『物価は金融政策では決まらない』を基本とした『日銀理論』は、その変形バージョンがたくさんある。これらは金融政策無効論とデフレ責任転換論である」と述べている<ref>[http://web.archive.org/web/20130328130117/http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130328/dms1303280714002-n1.htm 【日本の解き方】アベノミクスに3つの死角 日銀理論、アソウノミクス、官僚に注意]ZAKZAK 2013年3月28日(2013年3月28日時点のインターネット・アーカイブ)</ref>。
 
2015年1月7日、[[欧州連合]](EU)統計局は、ユーロ圏の2014年12月の消費者物価指数(速報値)が前年同月比で0.2%下落したと発表した<ref>「[https://web.archive.org/web/20150710093014/http://www.47news.jp/CN/201501/CN2015010701001482.html ユーロ圏物価0・2%下落 12月、原油安でデフレ濃厚]」47NEWS(よんななニュース) 共同通信2015年1月7日</ref><ref>「[https://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPKBN0KG0TK20150107/ ユーロ圏インフレ、12月速報は前年比-0.2%で09年以来のマイナス]」Reuters2015年1月7日</ref>。
==== 日本銀行の責任について ====
高橋洋一は「普通の国の金融政策は、物価上昇率を1-3%にするのが当たり前だ。言い換えれば、金融政策でGDPギャップを埋めている。GDPギャップがあるうちは、デフレになるからだ」と述べている<ref name="gendai201018">[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/60 高橋洋一「ニュースの深層」 なぜ日本経済だけが一人負けなのか 鳩山政権は日銀に「デフレターゲット」を捨てさせろ]現代ビジネス 2010年1月8日</ref>。
 
== 関連用語 ==
池尾和人は「望ましい水準を実現できていない日本銀行には、責任がある。なぜ達成できていないか、誠実に説明しなければならない義務がある」と述べている<ref name="diamond2010105" /><ref name="47news2010813" />。
 
=== ディスインフレーション ===
経済学者の[[片岡剛士]]は「デフレからの脱却にもっとも大きな影響を及ぼすのは、中央銀行の金融政策である<ref>[http://synodos.jp/economy/902 日銀総裁と経済パフォーマンス 片岡剛士]SYNODOS -シノドス- 2010年7月11日</ref>」「15年にわたりデフレに陥っており、このデフレには日銀による金融政策運営の問題が大きいと考えている<ref>[http://web.archive.org/web/20110425135402/http://synodos.livedoor.biz/archives/1740927.html 復興債の日銀直接引き受けで長期金利は上昇するか?]SYNODOS JOURNAL 2011年4月20日(2011年4月25日時点のインターネット・アーカイブ)</ref>」と指摘している。
 
経済学者の[[浅田統一郎]]は「日本のデフレ不況の主要な原因は、20年間に渡って続いた、日本銀行による極度に消極的な金融政策である」と指摘している<ref name="yomiurionkine">[http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20121220.htm 研究 安倍新政権の金融政策の経済学的根拠について]Chuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2012年12月20日</ref>。エコノミストの[[飯塚尚己]]は「日本経済がデフレ下にあるのは、日銀の政策が繰り返し失敗に終わった結果だ」と指摘している<ref>[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LL2E1D0YHQ0X01.html 最重要ポストにある白川日銀総裁、視線は緩和策に潜むバブルに]Bloomberg 2011年5月13日</ref>。経済学者の[[岡田靖]]・[[飯田泰之]]は1991年以降の日銀の不十分な金融緩和策政策が、長期に及ぶ債務デフレとデフレ予想の定着をもたらしたと結論づけている<ref>岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、79頁。</ref>。
 
星岳雄は「日本銀行は、世界金融危機後、他の先進国の中央銀行のように、思い切った量的金融緩和を行ってこなかった。量的緩和を行った時にも『デフレは金融政策で解決できる問題ではない』と言い続けた。結果、将来の期待に影響を与えることができず、金融政策の効果を自ら減退させてしまった」と指摘している<ref name="nira20134" />。
 
若田部昌澄は「日銀は[[消費者物価指数]]上昇率0%あるいはデフレを目標として金融政策を運営しているのではないかという疑いさえある」と指摘している<ref name="php200858" /><ref>[http://shuchi.php.co.jp/article/769 デフレは2011年まで続く?]PHPビジネスオンライン 衆知 2009年12月10日</ref>。高橋洋一は「日銀は『[[インフレターゲット|インフレ目標]]』ならず『デフレ目標』を持っているのかとさえ思えてくる<ref>[http://www.j-cast.com/2010/02/25060919.html 高橋洋一の民主党ウォッチ 日銀に軽んじられた菅財務相 でもインフレ目標悪くない]J-CASTニュース 2010年2月25日</ref>」「日銀は2000年以降、物価上昇率をマイナス1-0%に運営してきた。この実績を見る限り、酷いデフレにならないように、しかしデフレ脱却はしないように、日銀は『デフレ・ターゲット』をしてきたといっていい<ref name="gendai201018" />」と指摘している。
 
2011年9月7日、白川日銀総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で「日銀の[[マネタリーベース]]の対[[国内総生産]](GDP)比は24.6%に達しており、米[[連邦準備理事会]](FRB)の17.4%や[[欧州中央銀行]](ECB)の11.5%を上回っている」とし、金融緩和が足りないとの批判について「明らかに事実に反している」と反論している<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL070DM_X00C11A9000000/ 金融政策批判「明らかに事実に反する」 日銀総裁会見]日本経済新聞 2011年9月7日</ref><ref>[http://www.j-cast.com/2011/09/08106685.html 金融政策「ちゃんとやってる」 白川日銀総裁、政財界の批判に反論]J-CASTニュース 2011年9月8日</ref><ref name="gendai2011912">[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/19197 高橋洋一「ニュースの深層」 あえて「失言辞任」に異論を唱える。なぜ新聞、テレビは自分たちが知っているはずの「鉢呂発言」の事実を報じないのか 本来、失言よりも問うべきは政策だ]現代ビジネス 2011年9月12日</ref>。
 
それに対し高橋洋一は「日本は現金決済取引が多いので、以前からマネタリーベースの対GDP比は、カード決済などで現金をあまり使わない欧米より高かった。問題はマネタリーベースの対GDP比の『水準』ではなく『変化』である。マネタリーベースの対GDP比の変化でみても、日本の金融緩和は足りない」と指摘している<ref name="gendai2011912" />。
 
浜田宏一は「日本は現金社会なので、ベースマネーの比率が多いのは当たり前。対GDP比での議論はまったく意味がない」と指摘している<ref>[http://toyokeizai.net/articles/-/12839 「白川総裁は誠実だったが、国民を苦しめた」 浜田宏一 イェール大学名誉教授独占インタビュー]東洋経済オンライン 2013年2月8日</ref>。
 
経済学者の[[本田悦朗]]は、日本が15年間デフレから脱却できなかった原因は「日銀のみならず、[[財務省]]にもある」としつつ、最大の要因は「日銀の政策目標が明確でなかったこと」と総括している<ref>[http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE99M04I20131023 日銀は追加緩和でMBS買入れを=本田内閣官房参与]Reuters 2013年10月23日</ref>。
 
==== 為替との関係 ====
経済学者の[[ジョセフ・E・スティグリッツ]]は「日本のデフレの原因は、為替の影響が大きかった。円安が続けば、その状況は変わる。現実問題として、アメリカが金融緩和を進めれば、円高になるので、対抗することが必要だ」と指摘している<ref name="nhk2013321" />。
 
==== バランスシート不況論 ====
{{main|リチャード・クー#バランスシート不況}}
 
1990年代初めに、資産デフレをきっかけとした債務デフレによるGDPギャップの拡大が起きたため、景気の悪化とともに、その後の長期経済停滞をもたらしたとする説<ref name="nihonkeizai227">岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、227頁。</ref>。
 
岩田規久男は「債務デフレだけでは経済の長期停滞は起きない。長期停滞の原因は、将来もデフレが続くという『デフレ予想の定着』にある」と指摘している<ref name="nihonkeizai227" />。
 
==== 構造デフレ論 ====
デフレは貨幣的な現象ではなく構造的な現象であって、金融政策では克服できない<ref>[http://web.archive.org/web/20040630185943/http://hotwired.goo.ne.jp/altbiz/noguchi/040119/index.html 野口旭の「ケイザイを斬る!」 第7回 政策批判の過去と現在]HotWired Japan ALT BIZ(2004年6月30日時点のアーカイブ)</ref>。デフレの原因は、合理化やグローバル化の進展によってもたらされている、構造的な供給過剰だからであるという説<ref>[http://web.archive.org/web/20040630190413/http://hotwired.goo.ne.jp/altbiz/noguchi/040316/index.html 野口旭の「ケイザイを斬る!」 第8回 開かれた社会とその宿命]HotWired Japan ALT BIZ(2004年6月30日時点のアーカイブ)</ref>。
 
経済学者の[[野口悠紀雄]]は「日本とアメリカの物価動向は、大きく違う。日本はデフレになったが、アメリカはならなかった。問題は、雇用の受け皿だ。アメリカでは製造業より生産性が高いサービス業が引き受けたのに対して、日本では製造業より生産性が低いサービス業が引き受けたのだ。ここに大きな違いがある」と指摘している<ref>[http://toyokeizai.net/articles/-/5196 (第35回)なぜ日本だけがデフレになるのか]東洋経済オンライン 2010年10月18日</ref>。
 
[[福井俊彦]]元日本銀行総裁は「デフレの背景には金融政策の対象である貨幣的現象以外に世界経済、日本経済それぞれの構造変化という側面もある。ひとつの手段(金融政策)で対応できるとは考えづらい」と述べている<ref>『朝日新聞』朝刊、2003年1月17日。</ref><ref name="hotwiredjapan2">[http://web-beta.archive.org/web/20051202135532/http://hotwired.goo.ne.jp/altbiz/noguchi/030204/index.html 野口旭の「ケイザイを斬る! 」 第2回 「構造」なる思考の罠]HotWired Japan ALT BIZ(2005年12月2日時点のアーカイブ)</ref>。
 
経済学者の[[榊原英資]]は[[グローバリゼーション]]と技術革新を背景として生じているような『構造的デフレ』に対しては、財政・金融政策は無力であると主張している<ref>『中央公論』2002年7月号</ref><ref name="hotwiredjapan2" />。
 
中野剛志は[[エマニュエル・トッド]]の指摘を引用し、2000年代のグローバル化で先進国の労働分配率が下落しており、グローバル化がデフレ圧力になるとしている。日本がデフレになった決定的な原因は、[[橋本政権]]の時の緊縮財政や[[消費税]]増税であるとしているが、グローバル化の下で日本以外ではデフレ圧力が顕著に見られない原因は、借金をしてまで消費を続けていたためであるとしている。特にアメリカは、モノ、ヒト、カネのグローバル化によってデフレ圧力があったのを、2000年代は金融化で隠していたものの、住宅バブルの崩壊以降はデフレの危機に陥っているとしている<ref>中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 40-42頁。</ref>。中野は1990年代になり、アメリカの新自由主義の影響を受けた構造改革派が主流になり、高コスト構造の是正を目指すべきという議論が広まっていったが、デフレが始まる最悪のタイミングであったとしている。グローバル化の時代だから国際競争力が必要である、新興国の低賃金労働者に勝つために日本も低賃金にならないといけない、だからデフレでいいということになり、デフレ現象はグローバル化と整合的であったとしている<ref>中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 63-64頁。</ref>。
 
経済学者の[[野口旭]]は「デフレの原因とは、あくまでもデフレ・ギャップすなわち『総供給と総需要の差』であるから、総供給の変化だけを見ても、一般物価がどう動くは分からない。たとえば、総供給の拡大と同程度あるいはそれ以上に総需要が拡大すれば、デフレはまったく起こらない。つまり、仮に総供給がどう変動しようとも、マクロ政策によって総需要さえ調整できれば、需給ギャップを縮小させることは常に可能である」と指摘している<ref name="hotwiredjapan2" />。
 
高橋洋一は「企業の生産性を上げることは出来ても、国全体として生産性を上げることは難しい。国の生産性を上げる方策があれば、世界中で貧困国などなくなる。生産性とデフレに関係性はない 」と指摘している<ref>[http://www.fng-net.co.jp/itv/2012/121126.html 2012年インタビュー]FNホールディング</ref>。
 
池尾和人は「円安になるということは、生活水準を落とすことだというのは認識しておく必要はある。インフレになるということも購買力が失われて、資産の実質価値が失われることだと認識しておくべきだ。だから、雇用そのものが失われてしまうより、少し購買力が失われるほうがいいだろう」と指摘している<ref name="rieti2003922" />。
 
;聖域なき構造改革
池尾和人は「需給ギャップの解消のために、今(2002年)の日本の産業構造というのは、潜在的な需要構造とミスマッチを起こしている部分が非常に多い。全体としては超過供給という形になっているが、目に見えない超過需要がいっぱいある。需給ギャップを調整するために産業構造調整が必要だ」と指摘している<ref name="rieti2003922" />。
 
中野剛志は[[構造改革]]とは、[[規制緩和]]、自由化、民営化、緊縮財政などによって新規参入者を増やし、自由競争を促し、産業の生産性を向上させようという政策であるが、こうした政策はいわゆる[[新自由主義]]という理念に基づく政策であり、1970年代の終わりから1980年代にかけてアメリカの[[レーガン]]大統領やイギリスの[[サッチャー]]首相が推進し、1990年代以降の日本の[[聖域なき構造改革]]も同様であったとしている<ref>中野剛志 『TPP亡国論』 130-131頁。</ref>。しかし、1970年代の終わりから1980年代の[[欧米]]はデフレよりインフレが問題であった。インフレはデフレと逆で、貨幣価値が自然と下がっていく。賃金労働者が多い[[中産階級]]は、現金をもっているとその価値が下がっていくため、中産階級の没落が懸念された。つまり、インフレで生じる階級格差の問題が当時は心配されていたとしている。これに対して1990年代の日本はバブル崩壊後の不況でデフレが懸念される状況にあったにもかかわらず、新自由主義的な構造改革を断行した結果、10年以上もデフレから脱却できないという事態に陥ったとしている。デフレは資本主義の心肺停止状態であり、経済そのものが失速していく。そのため、人工心臓を付けてでも、生き返らせなければならない。その人工心臓が政府の財政出動であり、政府が心肺停止した民間に代わって経済活動を行い蘇生させなければならないとしている<ref>中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 71頁。</ref>。
 
経済学者の[[星岳雄]]は「構造改革による生産性向上が必要であるとの考えには賛成するが、それだけではデフレの解消につながらない。むしろ、デフレではあってもデフレスパイラルには陥らなかった原因は、国内産業の生産性が上昇しなかったからだという皮肉な現実もある。構造改革が成功すると、総需要がさらに不足する可能性もある。マクロ的な拡張政策とミクロ的な生産性の上昇を促す政策の両者が必要だ」と指摘している<ref>[http://diamond.jp/articles/-/9695 星 岳雄 カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 日銀は非伝統的金融政策に踏み込め]ダイヤモンド・オンライン 2010年10月13日</ref>。
 
経済学者の[[野口旭]]は「構造改革の目的とは経済の効率化であり、マクロ経済政策の目的とは、マクロ経済の安定化である。政府による政策の目的・手段の割り当てをとり違えてはならない」と指摘している<ref>野口旭 『ゼロからわかる経済の基礎』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、189頁。</ref>。
 
岩田規久男は「政府がデフレ下で、財政支出の大幅なカットや増税によって、財政構造改革を強行すればデフレや失業率は悪化し、マクロ経済は不安定になる。1997年の[[橋本内閣]]はその典型的な例である」と指摘している<ref>岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、229頁。</ref>。
 
{{see also|サプライサイド経済学|聖域なき構造改革}}
 
==== 輸入デフレ論 ====
日本のデフレは、[[中国]]を初めとした[[新興国]]からの安価な輸入品の増加によって引き起こされたとする説<ref name="hotwiredjapan2" /><ref>[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34650 浜田宏一教授が圧勝した野口悠紀夫氏との議論!アベノミクス実現で「1ドル=120円、日経平均1万6000円」も見えてくる]現代ビジネス 2013年1月21日</ref>。中国を中心とするアジア諸国の工業化が急速に進んだ結果、これらの国々からの廉価な製品が流入しそれが日本の物価を押し下げる原因であるとしている<ref>[http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/economic-review/200307/page2.html グローバルデフレが教えてくれること]富士通総研 2003年7月</ref>。
 
{{main|輸入デフレ論}}
 
==== ITによるコスト削減について ====
根津利三郎は「ITによるコスト削減は先進各国共通。むしろ設備投資に占める情報関連投資の割合の低さから、日本ではIT活用によるコスト削減は他の国よりも遅れている」と指摘している<ref name="fujitsusoken">[http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/201008/2010-8-3.html 米国は日本のようなデフレにはならない]富士通総研 2010年8月13日</ref>。
 
==== 人口減少デフレ論 ====
{{see also|藻谷浩介#『デフレの正体』}}
 
[[藻谷浩介]]は日本のように高度に発展した社会では高齢化の進行が[[耐久消費財|耐久財]]分野での有効需要の減少をもたらしデフレの要因となっており、従来型の金融政策ではなく高齢者世代から若年者世代への所得の移転を税制などにより促すことが必要であると論じる。一方で民間の論調は人口減少デフレ論には懐疑的である。ダイヤモンドZAi2011年5月号は「2011年現在韓国、ロシア、東欧諸国は人口が減っているが、名目GDPは成長を続けている」と論じている<ref>「ダイヤモンドZAi」5月号、2011年、169頁 - 170頁</ref>。
 
内閣府『平成23年度経済財政白書』で、生産年齢人口の減少がデフレの原因であるか否かを検証している<ref name="synodos2011726" />。各国比較を行なってみると、生産年齢人口の減少と物価下落が併存している国は日本だけという結果が得られている<ref name="synodos2011726" />。一方で、将来の生産年齢人口の減少は、期待形成を通じて将来の物価動向や成長率を押し下げるという可能性が指摘されている<ref name="synodos2011726" />。
 
2010年11月4日、白川日銀総裁は、都内で講演し、「労働力人口の減少が日本経済にボディーブローのように効いている」と指摘。人口減少に伴う成長率の低下が、「長期の需要低迷やデフレの原因となっている」と述べた<ref>[http://jp.wsj.com/Japan/Economy/node_143963 成長力低下への対応必要=生産性向上が日本の課題―日銀総裁]ウォール・ストリート・ジャーナル 2010年11月4日</ref>。また2012年5月30日白川総裁は、日銀金融研究所主催のコンファレンスで、日本の人口動態の変化が成長率に影響しているとの見解を示した。白川総裁は、「2000年代の10年間について先進24カ国(OECDに1990年代までに加盟した高所得国の内1990年代以降の生産年齢人口と、[[GDPデフレーター]]が利用可能な24カ国<ref>[http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/ko120530a.htm/ 人口動態の変化とマクロ経済パフォーマンス ―日本の経験から―]日本銀行 2012年5月30日</ref>)の人口増加率とインフレ率を比較すると、両者の間に正の相関が観察されるようになっている。マネーの増加率とインフレ率の相関が先進国で近年弱まってきていることと対照的だ」と述べ、「将来起こる成長率の低下を先取りする形で、需要が減少し、物価が下落する一因となった」と述べた<ref>[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M4T8YH6KLVR601.html 白川日銀総裁:日本の人口動態の変化が成長率に影響]ブルームバーグ 2012年5月30日</ref>。
 
白川のレポートについて高橋洋一は「OECD加盟国34ヵ国のうちスロバキア(2000年12月14日加盟。)、チリ(2010年5月7日加盟。)、スロベニア(2010年7月21日加盟。)、イスラエル(2010年9月7日加盟。)、エストニア(2010年12月9日加盟。)は除かれている。これらの国は人口減少もしくは人口増加率が大きくないにもかかわらず、インフレ率が高い国だ。これらを除くと、見かけ上は人口増加率とインフレ率が相関をもっているように数字操作ができる。さらに5ヵ国を除いているが、これらがどのような国なのか、資料からは分からない<ref>[http://diamond.jp/articles/-/24356 高橋洋一の俗論を撃つ! 野田政権誕生1年 民主党政権のパフォーマンス総点検]ダイヤモンド・オンライン 2012年9月6日</ref>」「過去のデータを散布図にしても、人口減少によってデフレになるというデータはない<ref>[http://www.j-cast.com/2010/10/14078201.html 高橋洋一の民主党ウォッチ 「人口減少でデフレになった」 本当かどうかデータから検証する]J-CASTニュース 2010年10月14日</ref><ref name="yomiurionkine" />」「人口減少は日銀には手が出せない分野だからデフレや名目GDPの低迷は日銀の責任でないという言い訳<ref name="j-cast2012112">[http://www.j-cast.com/2012/01/12118635.html 高橋洋一の民主党ウォッチ 民主党の経済政策では「自殺減らない」 デフレと「日銀の責任」から目そらすな]J-CASTニュース 2012年1月12日</ref>」と指摘している。
 
高橋は「世界各国のデータを調べても、人口減少の国は20か国近くあるが、日本だけがデフレで名目GDPの伸びは日本が世界最低<ref name="j-cast2012112" />」「世界のデータを見ても、一般物価増減については、人口増減とはまったく関係がなく、通貨量と関係がある<ref>[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2224 白川日銀総裁「WSJインタビュー」のお粗末な中身 日銀の海外広報も失敗に終わった]現代ビジネス ニュースの真相 2011年03月09日</ref>」「デフレや名目GDPの低迷はマネーの伸び率をコントロールしている中央銀行の責任<ref name="j-cast2012112" />」と指摘している。
 
岩田規久男は「デフレの原因として、生産年齢人口が減っているからだという説があるが、生産年齢人口が減っているのは日本だけではない。白川総裁は生産性が低いことをデフレの理由に挙げているが、日本よりも低い国はいくらでもある。デフレなのは日本だけだ。貨幣以外がデフレの原因だという説は、データを国際比較すれば、破綻する」と指摘している<ref>[http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/396d5a486965f76dffd92e2c8e5208ec/ 4%のインフレ目標でデフレ脱却の姿勢示せ――岩田規久男・学習院大学経済学部教授] 東洋経済 [[2011年]][[2月10日]]</ref>。
 
ポール・クルーグマンは「日本経済における大きな問題は少子高齢化にあり、その結果が投資需要を縮小させ、実体経済に多大な影響をもたらす。しかし、そうした条件下の経済では必然的にデフレになるという考え方は間違いだ」と指摘している<ref name="php20131022" />。
 
浜田宏一は「経済成長のために、人口増は絶対必要である。しかし、『人口減がデフレの要因である』と言ったまともな経済学者はいないが、日本ではそれが盛んになって、日銀の白川方明総裁までそれに乗って喋っていた状態である」と述べている<ref>[http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1301/21/news023.html 株高円安は日銀の不熱心さを露呈させた――浜田宏一氏が語る金融政策のあり方 (1/4)]Business Media 誠 2013年1月21日</ref>。浜田は「人口がデフレの要因であるというのは、理論的にも実証的にも根拠がない<ref>[http://www.rieti.go.jp/jp/special/p_a_w/016.html 日本銀行を後戻りさせてはならない]RIETI 2012年6月</ref><ref name="gendai2013120">[http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34617 浜田宏一「人口構成がデフレの要因だという日銀の愚かな責任逃れ」 『アメリカは日本経済の復活を知っている』より第3回]現代ビジネス 2013年1月20日</ref>」「もちろん人口は成長の要因にはなるが、実質生産に人口・生産年齢人口が影響するのは当たり前のことである。しかし、貨幣的現象である物価・デフレに人口が効くというのは、経済の解剖学である『国民所得会計』、経済の生理学である『金融論』から見ても、まったく的外れな議論だ<ref name="gendai2013120" />」と述べている。
 
片岡剛士は「世界と比較しても、デフレと人口減少が併存している国をみつけることは難しい<ref>[http://www.sbbit.jp/article/cont1/25096 【片岡剛士氏インタビュー】円高・デフレは自然現象ではない! 無謬性の罠にはまらないための経済知識 『円のゆくえを問いなおす』著者 片岡剛士氏インタビュー]ソフトバンク ビジネス+IT 2012年7月4日</ref>」「デフレは、総需要が総供給を下回る、もしくは支出のスピードが供給のスピードを下回ることから生じる。人口減少は、中長期的な成長力(供給力)を低下させるため、インフレ要因であってデフレ要因ではない。人口減少がデフレに繋がるという議論は『人口減少により国内市場が縮小する』という認識によるのものだろう。もし人口が減り国内市場が縮小するとの見通しが高まれば、企業は海外に進出して国内需要減少分を輸出で補おうとするはずである。さらに、少子高齢化が進む未来にあっては、市場構造が現在とは異なるだろう。高齢者が増えれば、高齢者のニーズを反映した商品を供給しようと市場は変化するはずだ。産業構造は変化していくため、現状の産業構造にもとづいて国内市場の縮小を論じることは意味がない<ref>[http://synodos.jp/economy/1480 少子高齢化は経済にどのような影響を及ぼすのか 片岡剛士]SYNODOS -シノドス- 2010年8月18日</ref>」と指摘している。
 
[[イングランド銀行]](英中央銀行)金融政策委員会(MPC)元委員の[[アダム・ポーゼン]]氏は「日銀はデフレの原因は人口構成などの要素によるものでインフレを創出させようとするのは無意味だと考えているが、それは自滅的な予言だ」と述べた<ref>[http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MEV0OS6TTDSC01.html 日銀はデフレ終息にもっと行動を-元イングランド銀ポーゼン氏]Bloomberg 2012年12月11日</ref>。
 
==== 賃金の下落 ====
[[国税庁]]の統計によると、民間企業の年収は1997年の467万3000円をピークに下落し、2011年は409万円となっている<ref>[http://mainichi.jp/select/news/20130519mog00m020003000c.html 読みトク!経済:月給はなぜ上がりにくいの?]毎日jp(毎日新聞) 2013年5月19日</ref>。[[黒田東彦]]日本銀行総裁は物価と賃金の関係について「大まかに見れば、物価と賃金はシンクロ(同期)して動いている」と述べている<ref>[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE92R03K20130328 期待インフレ率引き上げによる実質利下げで物価2%達成へ=黒田総裁]Reuters 2013年3月28日</ref>。
 
エコノミストの[[高橋進 (経済学者)|高橋進]]はデフレの原因は「リストラや非正規雇用を増やし、賃金が下がったことにある」と指摘し「個々の企業がよかれと思ったことが経済全体には大きなマイナスだった」と述べている<ref name="yomiuri20131018">[http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20131018-OYT1T00037.htm デフレ脱却へ「賃上げ認識、共有必要」高橋進氏]YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2013年10月18日</ref>。根津利三郎は「デフレが日本特有の現象である以上、原因も日本特有のものがあるはずである。それは日本でのみ賃金が傾向的に下がり続けていることだ。賃金が下がれば、勤労者は購買力を失う。そのため企業は価格を下げて販売量を維持しようとする。価格が下がれば生産性の向上がない限りコストを下げるため賃金のカットが避けられない。こうしてデフレと賃金下落のスパイラルが続いているのが日本の現状だ」と指摘している<ref name="fujitsusoken" />。
 
榊原英資は「賃金が下がり続けた原因は(低賃金の国と競争する)グローバリゼーションだ。世界と競争する企業は賃金を上げろと言われても上げられない」と述べている<ref name="yomiuri20131018" />。
 
経済学者の[[吉川洋]]は「デフレはマネーではなく、賃金で決まる」と述べている<ref name="diamond2013321">[http://diamond.jp/articles/-/33559 高橋洋一の俗論を撃つ! 「日銀理論」の背景にある「貨幣数量理論は成り立たない」を検証する]ダイヤモンド・オンライン 2013年3月21日</ref>。それについて高橋洋一は「マネーがデフレと賃金を決める」と反論している<ref name="diamond2013321" />。
 
インフレのときには物価以上に賃金が上がるケースが多い<ref>野口旭 『「経済のしくみ」がすんなりわかる講座』 ナツメ社、2003年、94頁。</ref>。若田部昌澄は「賃金が上がらないと物価は上がらないというのは定説であり、物価だけ先に上がるというのは考えにくい」と指摘している<ref>[http://synodos.jp/economy/5221 いろいろ変わっちゃったから、もう一度本当の経済の話をしよう――『本当の経済の話をしよう』刊行一周年記念]SYNODOS -シノドス- 2013年8月15日</ref>。若田部は「デフレで実質賃金が上がっている状態で、さらに最低賃金を引き上げると、企業は雇用に慎重になる。最低賃金の引き上げが、デフレ不況を解消するほどの需要にならず、悪い効果を与える可能性が高い」と指摘している<ref>若田部昌澄 『もうダマされないための経済学講義』 光文社〈光文社新書〉、2012年、202頁。</ref>。
 
インフレと賃金の上昇は同時には起きず、賃金の上昇が少し遅れるというタイムラグが一般的である<ref>野口旭 『「経済のしくみ」がすんなりわかる講座』 ナツメ社、2003年、95頁。</ref>。名目賃金とインフレーションが同じ速さで同時に上昇すると、実質賃金が上昇しなくなり、いったん増加した労働供給量が減少に転じ、統計的に失業率が上昇する<ref>岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、167頁。</ref>。
 
浜田宏一は「インフレ期待が高まると、雇用増加の機会を失う場合もある。労働者が将来のインフレを見込んで賃上げを要求した結果、実際のインフレ時に名目賃金も上昇することで、実質賃金は変化しない。一方で、労働者がインフレを期待せずに賃上げを要求しなければ、企業はインフレによる実質賃金の低下に成功し、雇用を増やせる」と指摘している<ref name="php20131213">[http://shuchi.php.co.jp/article/1729 岩田日銀副総裁 2%のインフレ目標を達成する覚悟<質疑応答編>]PHPビジネスオンライン 衆知 2013年12月13日</ref>。
 
原田泰は「(2007年の)日本経済が良い要因は雇用の拡大である。雇用が増えたのは賃金上昇を抑えたからだ。賃金が上がらずに雇用が増えたのはジレンマだが、仕方がない。賃金を上げれば、失業率が高かった元に戻ってしまう。2002年までの『[[失われた10年]]』の間は、景気が悪いのに賃金が上がり続けた<ref>[http://www.chunichi.co.jp/article/konwakai/list/CK2007051802017139.html 【中日懇話会】第386回 賃金上昇抑制が効果 大和総研・原田泰チーフエコノミスト 格差対策慎重に]中日新聞(CHUNICHI Web) 2007年5月</ref>」「失業率が下がっていけば、いずれ賃金は上がる。しかし、雇用が伸びる前に賃金を上げては、かえって雇用の伸びを妨げることになりかねない<ref>[http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2631?page=1 政府が企業に賃上げ要請 何かがおかしい]WEDGE Infinity(ウェッジ) 2013年3月6日</ref>」と指摘している。
 
岩田規久男は「インフレ予想が高まり需給ギャップが改善すれば、企業は需要の増加に対応し、実質賃金を引き上げてでも雇用と生産を拡大させていく」と指摘している<ref name="php20131213" />。
 
池尾和人は「賃金の名目収入を下げるということについて抵抗感があるし、それが維持されているから緩やかなデフレが続いているということがある。それを考えると、緩やかなデフレの下で名目賃金を止めておくとすると、その緩やかなデフレに見合うだけの労働生産性の上昇が全く発生していないと、それは経済全体としては辛くなる。そういう意味で、マイルドなインフレーションの状況のほうが経済調整がやりやすいから、そういう状況がコストなしに実現できるのであればその方がいい」と指摘している<ref name="rieti2003922" />。
 
{{see also|リフレーション#失業と賃金について|スタグフレーション#物価賃金スパイラル}}
 
== デフレの歴史 ==
{{see also|日本の経済史}}
 
[[1880年代]]前半に大蔵卿([[1885年]]([[明治]]18年)の内閣制度発足に伴い、大蔵大臣)の[[松方正義]]が緊縮財政を行い、それまで濫発されていた[[不換紙幣]]を償却し、日本銀行を設立して[[銀本位制]]を実現させた。この緊縮財政の結果、デフレ不況となった([[松方デフレ]])。
 
19世紀末、金本位制の影響でアメリカは年平均1.5%のデフレであった<ref>若田部昌澄 『もうダマされないための経済学講義』 光文社〈光文社新書〉、2012年、158頁。</ref>。その後、南アフリカで金鉱が発掘され金の生産量が増大したことや[[金為替本位制]]が導入されたことなどの結果、1896年にデフレは止まった<ref>若田部昌澄 『もうダマされないための経済学講義』 光文社〈光文社新書〉、2012年、159-160頁。</ref>。
 
[[濱口雄幸]]首相と[[井上準之助]]蔵相が緊縮財政を行い、[[1930年]]に円切り上げ(円高)となる旧平価で[[金本位制]]に復帰し(いわゆる[[金解禁]])、デフレ不況となった。[[昭和恐慌]]期の年間の物価下落率は10%を超えた<ref>岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、229頁。</ref>。
 
[[ベン・バーナンキ]]の研究では、金本位制に復帰していなかった、或いはいち早く1931年までに離脱したスペイン、オーストリア、ニュージーランドは物価の下落は軽微で回復が早かった<ref>若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、197頁。</ref>。1931年に離脱した日本、イギリス、ドイツも比較的ダメージは軽微であった<ref name="hontonokeizai198">若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、197頁。</ref>。1932年から1935年まで離脱が遅れたアメリカ、イタリア、ベルギー、ルーマニアはデフレが長く続き、特にアメリカはデフレが4年間収束しなかった<ref name="hontonokeizai198" />。1936年まで離脱しなかったフランス、オランダ、ポーランドは不安定な社会状況であった<ref name="hontonokeizai198" />。
 
世界恐慌下の[[アメリカ合衆国]]においては、当初、財政均衡主義が主流だったため、[[ビルト・イン・スタビライザー]]の効果が低下し、デフレスパイラルに陥った。設備投資はほぼ壊滅的とも言えるほど減少し、失業率が25パーセントにのぼった。
 
1936年の夏以降、インフレを懸念したFRBは金融の引き締めを決意し実行したが、これが失敗に終わり、再びアメリカはデフレ不況に戻る<ref>[http://shuchi.php.co.jp/article/710 危ない与謝野発言]PHPビジネスオンライン 衆知 2009年7月10日</ref>。大恐慌時代のフランスは、イギリスや日本をはじめ各国が金本位制から離脱していったにもかかわらず、長期的に金本位制に固執し、[[フラン (通貨)|フラン]]の価値を維持しようとしたため、アメリカよりも長くデフレ不況が続き、社会は深刻な分断状態に陥った<ref>[http://shuchi.php.co.jp/article/757 歴史を誤認する藤井大臣]PHPビジネスオンライン 衆知 2009年11月10日</ref>。
 
[[第二次世界大戦]]後、[[1949年]]に超均衡予算を中心とする[[ドッジ・ライン]]が実施されて、デフレ不況(ドッジデフレ・[[安定恐慌]])が起こった。
 
急激な利上げと総量規制による貸出の制限でマネーサプライの伸びがマイナスになるほどの引締め政策で[[バブル経済]]が崩壊した[[1992年]]以降、ディスインフレーション(物価上昇率の低下)の傾向を示すようになり、[[1997年]](平成9年)の消費税等の増税・歳出削減などの緊縮財政により消費者物価上昇率がマイナスになり、デフレの様相を呈するようになった。同年に発生した[[アジア通貨危機]]や、これに続いた日本の金融危機も原因として挙げられている。日銀による[[2000年]]のゼロ金利政策解除や[[2001年]]の国債30兆円枠による緊縮財政、民営化、規制緩和などの誤った[[経済政策]]により、デフレがさらに激しくなった。
 
[[1990年代]]から[[21世紀]]初頭に日本において見られた資産価格のデフレーションは、主に中央銀行(日本銀行)の金融引き締めがその原因の一つであったと考えられており、1990年代以降の日本の経済停滞(いわゆる「[[失われた10年]]・[[失われた20年]]」)の相当部分は、日銀の金融引き締めに端を発した資産デフレに責任があるとする向きもある。
 
デフレ期待を解消し停滞を打破するために量的緩和が開始された。この政策には、ゼロ金利の長期化が予想されることで中長期の金利を低下させる時間軸効果があるとされる。名目金利は0パーセントまでしか下げられず、デフレ下ではそれ以上の金融緩和ができない([[流動性の罠]])とされるが、インフレ期待などを通じた間接的な効果があるかどうかについては、様々な議論がある。
 
[[2006年]]では、[[2002年]]からの緩やかな景気回復により消費者物価指数ベースでのデフレ終了が見込まれ量的緩和が解除された。しかし、生鮮食品と石油関連価格を除いた実体的な物価を表す[[コアコアCPI]]を見ると、日本はまだデフレ傾向にあったため、翌年の[[2007年]]から景気の転換局面に入ってしまった<ref name="sinsaikyoukou"/>。
 
そして[[2008年]]の[[世界金融危機 (2007年-)|世界金融危機]]とそれに伴う不況により、デフレスパイラルは日本のみならず世界規模での再来が懸念されている。日本以外の国の中央銀行は、総需要を増加させるために自国の市場に大量の資金を投入したが、日銀は金融緩和余地の少なさを理由に量的緩和をほとんど行わなかったため、[[コアコアCPI]]は0%を下回り、その後約-1.5%まで下がった<ref name="sinsaikyoukou"/>。[[2009年]]11月の日本政府の[[月例経済報告]]において「緩やかなデフレ状況にある」と3年5ヶ月ぶりにデフレを認めた<ref>{{Cite news
|author =
|url = http://www.jiji.com/jc/c?k=20091120006444
|title = 政府、デフレを公式宣言=景気下押しを警戒-11月月例経済報告
|newspaper = 時事通信
|publisher = 時事通信
|date = 2009-11-20
|accessdate = 2009-11-20
}}{{リンク切れ|date=2011年6月}}</ref>。
 
ハイパーインフレーション国家だった[[ジンバブエ]]が[[2009年]]にデフレーションに転じた。2009年1月の消費者物価指数は前月と比べて2.3%下落し、翌2月も前月比3.1%の下落となった。
 
[[2014年]][[1月16日]]、[[国際通貨基金]](IMF)の[[クリスティーヌ・ラガルド]]専務理事は、ワシントン市内で講演し、日米欧などの先進国経済について「多くの国でインフレ率が中央銀行の目標を下回っており、デフレのリスクが高まっている」と指摘した<ref name="nikkei2014116">[http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM16014_W4A110C1EB1000/ IMF専務理事「多くの国でデフレの恐れ強まる」]日本経済新聞 2014年1月16日</ref><ref name="reuters2014116">[http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJEA0E02I20140115 世界経済は今年成長加速へ、デフレリスク高まっている=IMF専務理事]Reuters 2014年1月16日</ref>。また、先進国でデフレが現実となれば「回復には壊滅的な打撃となる」と強調し、「デフレを断固として退治する必要がある」と警戒を呼びかけた<ref name="nikkei2014116" /><ref name="reuters2014116" />。
 
== ディスインフレーション ==
物価上昇率(インフレ率)が低下すること、即ち、物価は上昇しているが大きく上昇しなくなることは'''ディスインフレーション''' (disinflation) 、略してディスインフレであって、デフレではない。デフレーションは物価上昇率(インフレ率)がマイナスになることである。
 
=== リフレーション ===
[[リフレーション]] (reflation・略称'''リフレ''') は過剰設備の解消にって物価下落率が縮小し物価上昇率が0以上に向かうことである。
 
== 参考文献 ==
*[http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2820064 世界デフレは三度来る 上] 著:[[竹森俊平]] 出版:[[講談社]] 刊行:[[2006年]]
*[http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2820072 世界デフレは三度来る 下] 著:[[竹森俊平]] 出版:[[講談社]] 刊行:[[2006年]]
*{{PDFlink|[http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk21-1-1.pdf 物価と景気変動に関する歴史的考察]}} {{ja icon}} [[北村行伸]] [http://www.imes.boj.or.jp/research/kinyu.html 金融研究] 第21巻第1号 [[2002年]][[3月]]
**{{PDFlink|[http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/01-J-25.pdf 物価と景気変動に関する歴史的考察]}} {{ja icon}} [[北村行伸]] [http://www.imes.boj.or.jp/research/kinyu.html 金融研究] 第21巻第1号 [[2002年]][[3月]](IMES DISCUSSION PAPER SERIES)
*[http://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2013/0227/topics_016.pdf デフレ脱却の意義を説明する。] - 内閣府 2013年2月27日
*[[篠原総一]]「[http://www.econ-edu.net/activity/ws/Prof.Shiohara%20Edo.pdf 経済を通して学ぶ歴史 〜江戸時代の経済政策〜]」経済教育ネットワーク
 
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references/>
 
== 参考文献 ==
{{参照方法|date=2025年4月}}
*[https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000208155 世界デフレは三度来る 上] 著:[[竹森俊平]] 出版:[[講談社]] 刊行:[[2006年]]
*[https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000208156 世界デフレは三度来る 下] 著:[[竹森俊平]] 出版:[[講談社]] 刊行:[[2006年]]
 
== 関連項目 ==
*[[日本のデフレーション]]
*[[インフレーション]]
*[[資産デフレ]]
*[[良いデフレ論争]] - 同じ金額の貨幣でより多くのものを買えるようになるデフレーションが景気([[経済成長率]])の拡大を伴うという意見もある。これを良性と悪性とに分類しようとする議論があった。
*[[スタグフレーション]]
*[[輸入デフレ論]] - '''輸入デフレ論'''も'''良いデフレ論'''も相対価格(個別価格)と一般物価を混同した初歩的な誤りである。
*[[円高不況]]
*[[リフレーション]]
 
== 外部リンク ==
*{{PDFlink|[http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk21-1-1.pdf 物価と景気変動に関する歴史的考察]}} {{ja icon}} [[北村行伸]] [http://www.imes.boj.or.jp/research/kinyu.html 金融研究] 第21巻第1号 [[2002年]][[3月]]
*{{PDFlink|[http://www.riksbank.se/upload/Dokument_riksbank/Kat_publicerat/Rutor_IR/IR03_3_box4.pdf Deflation - an outline of the problems]}} {{en icon}} 『デフレーション - 問題の概観』 ([[スウェーデン国立銀行]])
**{{PDFlink|[http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/01-J-25.pdf 物価と景気変動に関する歴史的考察]}} {{ja icon}} [[北村行伸]] [http://www.imes.boj.or.jp/research/kinyu.html 金融研究] 第21巻第1号 [[2002年]][[3月]](IMES DISCUSSION PAPER SERIES)
**[http://wiki.livedoor.jp/reflation/d/%a5%b9%a5%a6%a5%a7%a1%bc%a5%c7%a5%f3%b9%f1%ce%a9%b6%e4%b9%d4%a1%d6%a5%c7%a5%d5%a5%ec%a1%a7%cc%e4%c2%ea%a4%ce%b3%b5%b4%d1%a1%d7 スウェーデン国立銀行「デフレ:問題の概観」] {{ja icon}} 上記の翻訳(一部分のみ)
 
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