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{{Law}}
{{更新|date=2019年7月|民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による変更点(2020年(令和2年)4月1日施行予定)}}
'''意思主義'''(いししゅぎ)とは、[[民法]]上の立法主義に関する法用語の一つで、'''[[意思表示]]における意思主義''''''[[物権変動]]における意思主義'''があ」、二つの意味に分けている。
 
== 意思表示における意思主義 ==
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意思表示における'''意思主義'''とは、[[法律行為]]の際に表示行為から合理的に推測される[[効果意思]]と内心の真実の効果意思とが一致しない場合に、内心の効果意思に従うとする立法上または解釈上の立場または手法をいう。表示行為から合理的に推測される効果意思に従う'''表示主義'''に対置される。
 
[[私法]]に関するすべての[[立法]]と[[解釈]]において意思主義と表示主義の調和は重要な問題である。本来、法律行為は内心の意思の表示にほかならないと考えられ、内心の意欲こそが法律行為の有効性の要件と考えられた<ref name="kawashima166">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 166 |year= 1965}}</ref>。意思主義を徹底することは、自らの意思によらずして義務を負わないとする[[私的自治の原則]]からは望ましい。しかし、[[資本主義|資本主義経済]]の基礎となる商品流通が頻繁になるにしたがって相手方ないし一般取引社会の信頼の保護が必要となった<ref name="kawashima166"/>。
 
元来、近代私法は社会秩序の基礎となる社会の期待の保護を任務としている<ref name="kawashima167">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 167 |year= 1965}}</ref>。一般に経済行為において表示主義が強く妥当するとされ、特に取引の安全が重視される商事の立法と解釈において顕著である。他方、[[私有財産制]]を基礎とする[[近代法]]のもとではそのコロラリーとして個人の意思決定の自由の保障が要請される<ref name="kawashima167"/>。表示主義の貫徹は、相手方の信頼を保護し取引の円滑・安全には資するが、ときに人の望まない法律関係の形成を認めることとなる。[[身分行為]]について意思主義が強く妥当するものとされる。
 
=== 日本の民法 ===
==== 意思の欠缺 ====
表示された効果意思に対応する内心の意思が欠ける場合を'''[[意思の欠缺]]'''という<ref name="kawashima267">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 267 |year= 1965}}</ref>。日本民法がならったドイツ民法第一草案の基本的構成では、意思が欠缺する場合、法律行為の要素に欠缺があることから法律行為は[[無効]]とされる<ref name="kawashima267"/>。ただし、心裡留保の場合には内心の意思は欠缺しているが、表意者はそのことを知って意思表示を行っており、意思表示に対する相手方の信頼を保護すべきことから原則として効力を妨げられないものとされている<ref name="kawashima268">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 268 |year= 1965}}</ref>。
*心裡留保
**意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない([[b:民法第93条|民法第93条]]本文)。内心の意思は欠缺しているが、表意者はそのことを知って意思表示を行っており、意思表示に対する相手方の信頼を保護すべきだからである<ref name="kawashima268"/>。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする(民法93条但書)。表意者の真意を知り、又は知ることができた相手方を保護する必要はないからである<ref name="kawashima268"/>。
**なお、親族法上の法律行為([[結婚|婚姻]][[養子縁組]]など)には真にその意思がなければ法的拘束力を認めるべきではないから民法93条の適用はない<ref name="kawashima270">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 270 |year= 1965}}</ref>。
*虚偽表示
**相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする([[b:民法94条|民法第94条]]1項)。当事者は意思表示が外観上の存在であることに合意しているためである<ref name="kawashima278">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 278 |year= 1965}}</ref>
**前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(民法94条2項)。有効な法律行為としての外観を有する社会的事実に対する信頼を保護するためである<ref name="kawashima282">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 282 |year= 1965}}</ref>
*錯誤
**意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする([[b:民法第95条|民法第95条]]本文)。民法95条は表意者保護のための規定であることから無効主張は原則として錯誤者とその承継人のみに限られる<ref name="kawashima296">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 296 |year= 1965}}</ref>。「錯誤」について従来の通説は意思の表示内容と内心の意思の不一致を表意者が知らず、この意思の欠缺によって無効とされるとしていたが、錯誤の多くは内心の意思の成立過程に瑕疵がある場合であるという批判もある<ref name="kawashima283">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 283 |year= 1965}}</ref>。なお、[[ドイツ民法]]では錯誤の法的効果を無効ではなく取り消すことができるものとしている<ref name="kawashima296"/>。
**意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない(民法95条)。
**錯誤無効は、表意者に[[重過失|重大な過失]]があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない(民法95条但書)。重大な過失のあった表意者のために意思表示の有効性を信じた相手方や第三者が犠牲になることを防止するためである<ref name="kawashima295">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 295 |year= 1965}}</ref>。
 
==== 瑕疵ある意思表示 ====
内心の意思の成立過程に[[瑕疵]]がある場合を'''意思の瑕疵'''という<ref name="kawashima267"/>。このような意思表示を'''[[瑕疵ある意思表示]]'''という。日本民法がならったドイツ民法第一草案の基本的構成では、意思に瑕疵がある場合、法律行為の要素はともかく存在しており、法律行為は一応有効としつつ取消しによって無効に転換され得るものとしている<ref name="kawashima267"/>。
*詐欺又は強迫による意思表示
**詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる([[b:民法96条|民法第96条]]1項)。
**相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる(民法96条2項)。
**前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない(民法96条3項)。
 
なお、強迫によって意思決定の自由が完全に奪われていたような場合には内心の意思を欠くため無効である<ref name="kawashima305">{{Cite book |和書 |author= 川島 武宜 |title= 民法総則 |publisher= 有斐閣 |page= 305 |year= 1965}}</ref>。
 
== 物権変動における意思主義 ==
=== 意思主義と形式主義 ===
[[物権変動]]における'''意思主義'''とは、物権変動は原因行為([[売買|売買契約]]等)とともに発生するのを原則とし物権変動のために一定の形式を備えることを要しないとする立法例<ref name="suzuki115">{{Cite book |和書 |author=鈴木禄彌 |title= 物権法講義 5訂版 |publisher=創文社 |page= 115 |year= 2007}}</ref>。[[フランス法]]で採用されている<ref name="suzuki115"/>。
 
この意思主義に対して、物権変動そのものは原因行為(売買契約等)から独立した物権行為すなわち物権的合意及び[[登記]]によって生じるとする立法例を'''形式主義'''(登記主義)という<ref name="suzuki115"/>。[[ドイツ法]]で採用されている<ref name="suzuki115"/>。
 
=== 日本の民法 ===
日本の[[b:民法第176条|民法176条]]は「物権の設定及び移転は、当事者の[[意思表示]]のみによって、その効力を生ずる」と定めており、この規定は意思主義に立ったものと一般に理解されている<ref name="suzuki116">{{Cite book |和書 |author=鈴木禄彌 |title= 物権法講義 5訂版 |publisher=創文社 |page= 116 |year= 2007}}</ref>。
 
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*[[法律行為]]
*[[意思表示]]
*[[意思の欠缺]]
*[[瑕疵ある意思表示]]
*[[物権変動]]
 
== 外部リンク ==
[[Category:日本の法律行為法|いししゆき]]
* {{Kotobank|意思主義・表示主義}}
[[Category:日本の物権法|いししゆき]]
 
{{デフォルトソート:いししゆき}}
[[Category:日本の法律行為法|いししゆき]]
[[Category:日本の物権法|いししゆき]]