「播種性血管内凝固症候群」の版間の差分

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| Name = 播種性血管内凝固症候群 (DIC)

'''播種性血管内凝固症候群'''（はしゅせい けっかんない ぎょうこ しょうこうぐん、[[英語|英]]''' disseminated intravascular coagulation：DIC'''）は、本来、出血箇所のみで生じるべき[[血液凝固]]反応が、全身の[[血管]]内で無秩序に起こる症候群である。

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{{出典の明記|date=2013年3月}}

'''播種性血管内凝固症候群'''（はしゅせい けっかんない ぎょうこ しょうこうぐん、{{lang-en-short|disseminated intravascular coagulation, '''DIC'''}}）は、本来出血箇所のみで生じるべき[[凝固・線溶系|血液凝固反応]]が、全身の[[血管]]内で無秩序に起こる[[症候群]]である。早期診断と早期治療が求められる重篤な状態で、治療が遅れれば死に至ることも少なくない。'''汎発性血管内凝固症候群'''（はんぱつせい- ）とも言う。また、こうした全身で無秩序に起こる血液凝固が[[血小板]]を消耗することにより出血箇所での血液凝固が阻害されることを、'''消費性凝固障害'''（しょうひせい ぎょうこ しょうがい、英: {{en|consumption coagulopathy}}）と言う。

素早い発見と対処が求められる重篤な状態である。

== 病態 ==

全身血管内における持続性の著しい凝固活性化により微小[[血栓]]が多発し、進行すると微小循環障害による臓器障害をきたすとともに、[[凝固因子]]・血小板が使い果たされる（微小血栓の材料として消費される。医学的には消費性凝固障害と言う）ため、[[出血]]症状が出現する。凝固活性化とともに、線溶活性化（血栓を溶かそうとする生体の反応）もみられる。血を止めるための血栓（止血血栓）が、過剰な線溶により溶解することも出血の原因となる。しばしば重篤な出血症状、血圧低下（ショック）がみられる。

ごく初期には全身の血管内で無秩序に起こる異常な[[凝固亢進]]状態により、播種性の微小[[血栓]]を生じ、進行すると凝固因子・[[血小板]]を使い果たすため逆に出血症状が前面に現れてくる。

===凝固活性化の機序===

症状としては、先に述べた微小血栓による循環不全（多いのは[[腎臓|腎]]機能低下、[[呼吸]]不全）、凝固因子・血小板減少による出血症状（[[粘膜]]出血、止血不良、[[脳出血]]など）が挙げられる。一般的に進行が極めて早く、早期発見と速やかな治療開始が必要。

; [[敗血症]]

:[[内毒素|エンドトキシン]]や[[サイトカイン]]の作用により、単球/マクロファージや[[血管内皮]]からの組織因子(tissue factor: TF,かつては組織トロンボプラスチンと言われた）発現が亢進し、また、血管内皮における凝固阻止物質であるトロンボモジュリンの発現が低下するために、凝固活性化をきたす。一方、線溶阻止物質である[[プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1|プラスミノゲンアクチベーターインヒビター]](PAI)の発現が亢進するため、生じた微小血栓は溶解しにくく、臓器障害をきたしやすい。

; [[悪性腫瘍|癌]]、[[急性白血病]]

:がん細胞や白血病細胞に発現した組織因子により、凝固活性化をきたす。

== 原因分類 ==

* 急性DICと慢性DIC：DICの経過により分類。急性DICは、敗血症、外傷、急性白血病、常位胎盤早期剥離に合併した場合など、慢性DICは、腹部大動脈瘤、固形癌に合併した場合など。

[[妊娠]]や[[敗血症]]、[[悪性腫瘍]]など様々な[[生体ストレス]]が原因になりうる。

* 代償性DICと非代償性DIC：代償性DICでは、止血因子である血小板や凝固因子が血栓の材料として消費されているものの、骨髄からの血小板産生や肝臓からの凝固因子産生が十分であるため、血中止血因子濃度（活性）の低下がみられない病態を意味する（いわば、止血因子が動的平状態にあり維持されている）。消費性凝固障害を伴う（血中止血因子の低下をきたす）と非代償性DIC。

* 顕性DIC(overt DIC)と非顕性DIC(non-overt DIC)：DICの臨床症状（出血症状及び臓器症状）がみられると顕性DIC。

* 線溶抑制型DIC、線溶均衡型DIC、線溶亢進型DIC：

*# 線溶抑制型DIC：線溶阻止因子PAIの上昇により、線溶抑制状態にあるDIC。多発した微小血栓が溶解されにくく微小循環障害に伴う臓器障害をきたしやすい。臓器障害はしばしば重症化するのに対して、出血症状は意外とみられにくい。敗血症に合併したDICに代表される。

*# 線溶均衡型DIC：凝固活性化にみあった線溶活性化がみられ、進行例を除いて、出血症状、臓器症状ともにみられにくい。固形癌に合併したDICに代表される。

*# 線溶亢進型DIC：凝固活性化にみあった以上の著しい線溶活性化がみられ、出血症状はしばしば重症化するが、臓器症状はほとんどみられない。急性前骨髄球性白血病や腹部大動脈瘤の進行例に合併したDICに代表される。

== 検査 臨床==

=== 基礎疾患等 ===

* [[妊娠]]合併症（胎盤性組織因子の血管侵入、常位胎盤早期剥離、羊水塞栓など）

* [[敗血症]]（グラム陰性桿菌の感染症）

* [[ウイルス]]感染症（[[エボラ出血熱]]、[[デング熱]]、[[重症熱性血小板減少症候群]]、[[インフルエンザ脳症]]、[[麻疹]]など）

* [[悪性腫瘍]]（膵・胆系腫瘍、組織因子の血管内漏出）

* 急性白血病（白血病細胞内の組織因子）

* 外傷、熱傷、凍傷、銃創、ヘビ咬傷、膠原病（血管炎合併）

* 肝臓疾患（肝硬変、劇症肝炎）、膵臓疾患（急性膵炎）

* [[熱中症]]（[[サウナ]]や[[岩盤浴]]での過度な脱水<ref>沢本圭悟、文屋尚史、米田斉史 ほか、「[https://doi.org/10.3893/jjaam.20.221 岩盤浴入浴中に3度熱中症を発症した1例]」『日本救急医学会雑誌』 2009年 20巻 4号 p.221-225, {{DOI|10.3893/jjaam.20.221}}, 日本救急医学会</ref>）

様々な[[生体ストレス]]が原因になりうる。

=== 症状 ===

初期症状は、「あおあざ（青痣）ができやすい」、[[鼻血]]、歯ぐきの出血、[[血尿]]、鮮血便（[[下血]]）、「目（[[結膜]]）の出血」などの出血症状に加えて、[[意識障害]]、[[動悸]]、息切れ、尿が出なくなる、[[黄疸]]など。

典型例では、微小血栓による循環不全（[[腎不全]]、[[肺塞栓]]による[[呼吸困難]]・[[チアノーゼ]]、[[ショック]]など）、凝固因子・血小板減少や線溶活性化による出血症状（[[粘膜]]出血、止血不良、[[脳出血]]、[[皮下出血]]、[[吐血]]など）、中枢神経症状（意識障害、[[痙攣]]、[[昏睡]]）、臓器虚血（[[多臓器不全]]）がみられる。

=== 検査 ===

* [[血液検査]]

** [[フィブリノゲン]]（Fibrinogen）(fibrinogen)低下 : 血管内で無秩序に起こる異常な[[凝固亢進]]状態により、凝固因子の一つであるフィブリノゲンが消費されて、低下する。

** 血小板数低下：消費されて低下する。

** [[血液学#検査|プロトロンビン時間]]延長 : 凝固因子を使い果たしてしまうのでプロトロンビン時間が延長する。

** [[プロトロンビン時間]]延長 : 凝固因子の消費を反映。ただし、肝不全やビタミンK欠乏症の合併でも延長する。

** アンチトロンビン (=antithrombin)

** [[アンチトロンビン]] (=antithrombin)活性低下：ただし、急性白血病に合併したDICではほとんど低下することはない。また、肝不全の合併でも低下する。

** [[D-ダイマー]](=D-dimer)

** [[D-ダイマー]](=D-dimer)上昇：微小血栓溶解を反映。

** [[FDP]](=fibrin degradation products)

** フィブリン／フィブリノーゲン分解産物(=fibrin/fibrinogen degradation products)上昇：微小血栓溶解を反映。ただし、D-ダイマーとは異なり、フィブリノゲン分解も反映。

** TAT (=thrombin anti-thrombin complex)

** TAT (=thrombin antithrombin complex)上昇：凝固活性化のマーカー。DICでは必ず上昇する。

** PIC (=plasmin α2-plasmin inhibitor complex)上昇：線溶活性化のマーカー。DICの基礎疾患により上昇度は異なる。[[急性白血病]]では上昇しやすいが、敗血症では上昇しにくい。

* [[末梢血塗沫標本]]

** 破砕赤血球出現 : ただし、破砕赤血球はDICに特徴的という訳ではない。むしろ、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群などで特徴的である。

** 破砕赤血球出現 : 網細血管内皮に異状な凝固槐が出来て、血管の内側へ向けてトゲが出た状態になる。そこを本来ぎりぎりのスペースで通過する赤血球は、棘でボロボロに壊れてしまう。壊れた赤血球を破砕赤血球と言う。

{{Bleeding worksheet}}

=== 診断 ===

DIC 診断については、[[厚生省]]の診断基準（前川ら、1988年）を用いて行う。急性期DIC診断基準も公表されているが、血液疾患には適応できない。

=== 治療 ===

治療はまず第一に基礎疾患の治療である。DICの本態は生体内における著しい凝固活性化であるため、それを阻止するために、血を固まりにくくする抗凝固薬（[[ヘパリン]]など）の投与を行う。ヘパリンの作用は[[アンチトロンビン]](AT)を介しているため、AT活性の低下した症例に対しては、AT濃縮製剤（アンスロビンP、ノイアート、ノンスロン）を併用する。合成プロテアーゼインヒビター(メシル酸ガベキサート、[http://www.3nai.jp/weblog/entry/23766.html メシル酸ナファモスタット]）が使用されることもある。ウリナスタチンは保険非適用だが併用されることもある。また2008年5月には遺伝子組み換え型の[[トロンボモジュリン]]が製剤化され臨床での使用が可能となった[http://www.3nai.jp/weblog/entry/23820.html （リコモジュリン）]。

血小板数が低下した症例に対しては濃厚血小板の輸血、凝固因子が低下した症例に対しては新鮮凍結血漿の輸注が行われることもある（補充療法）。

[[急性骨髄性白血病#M3|急性前骨髄球性白血病 (APL)]] ではDICはほぼ必発である。APLの分化誘導治療薬である[[トレチノイン|ATRA]]は、APLに合併したDICに対しても有効であり、しばしばAPLの改善よりも早くDICをコントロールすることができる。

=== 禁忌治療 ===

線溶が抑制された状態にあるDIC（敗血症に合併したDICなど）に対しては、抗線溶療法は臓器障害を悪化させるため禁忌である。悪性腫瘍に合併したDICにおいても、抗線溶療法による突然死（[[血栓症]]）の報告がある。APLにATRAを使用している場合も、抗線溶療法による突然死（血栓症）の報告がある。

線溶活性化が著しく出血のコントロールに難渋する場合にのみ、ヘパリン併用下における抗線溶療法が出血のコントロールに有効である場合があるが、その使用方法には充分な注意が必要である（不適切な使用により臓器障害を悪化させる可能性がある）。

== 診断 ==

DIC 診断については、[[厚生省]]の診断基準（安部ら、1988年）を用いて行う。

== 治療出典 ==

* {{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f25.pdf 重篤副作用疾患別対応マニュアル 播種性血管内凝固]}} [[厚生労働省]] 2007年

治療はまず第一に基礎疾患の治療である。DICに対しては、もともとの病態が凝固亢進による多発微小血栓であるため、主症状は出血であるにもかかわらず、血を固まりにくくする薬剤（[[ヘパリン]]）の投与が教科書的である。ヘパリンの作用には[[アンチトロンビン]](AT)という物質が不可欠であり、ATも消費されている場合には同時に投与を行う。さらに燃えている凝固因子の火を消すために蛋白分解酵素阻害剤(メシル酸ガベキサート、メシル酸ナファモスタットが代表的。ウリナスタチンは保険適応外だが使用されることもある)も併用される。

* [https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%e3%83%97%e3%83%ad%e3%83%95%e3%82%a7%e3%83%83%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%8a%e3%83%ab/11-%e8%a1%80%e6%b6%b2%e5%ad%a6%e3%81%8a%e3%82%88%e3%81%b3%e8%85%ab%e7%98%8d%e5%ad%a6/%e5%87%9d%e5%9b%ba%e9%9a%9c%e5%ae%b3/%e6%92%ad%e7%a8%ae%e6%80%a7%e8%a1%80%e7%ae%a1%e5%86%85%e5%87%9d%e5%9b%ba%e7%97%87%e5%80%99%e7%be%a4-dic 播種性血管内凝固症候群] メルクマニュアル

== 脚注 ==

枯渇した血小板やその他の凝固因子（[[フィブリノゲン]]など）の補充のため、血小板または凍結血漿[[輸血]]を行う事もあるが、燃えている火に油を注ぐ事になるので、その適応には慎重な検討が必要である。

{{Reflist}}

== 関連項目 ==

急性前骨髄性[[白血病]](APL)ではDICを合併することが多いが、アンチトロンビンIIIは正常であることが多いため注意を要する。

* [[血小板]]

== 外部リンク ==

* [https://web.archive.org/web/20081019230925/http://www.jsth.org/index.html 日本血栓止血学会]

* [http://www.medic.mie-u.ac.jp/th-center/index.html 血栓症・止血異常症診療センター]

* [http://www.medic.mie-u.ac.jp/labomed/DIC/index.html 日本DIC研究会]

* [https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/tp1122-1.html 厚労省重篤副作用疾患別対応マニュアル（DICを含む）]

* [https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/13-血液の病気/血液凝固障害による出血/播種性血管内凝固症候群-（dic） 播種性血管内凝固症候群 （DIC）] MSDマニュアル家庭版

* [http://www.3nai.jp/weblog/entry/22585.html DICの病型分類の図（2008年改訂版）]

{{血液疾患}}

[[category:症候|はしゆせいけつかんないきようこしようこうくん]]

[[category:血液疾患|はしゆせいけつかんないきようこしようこうくん]]

{{Normdaten}}

[[en:Disseminated_intravascular_coagulation]]

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[[no:Disseminert_intravaskulær_koagulasjon]]

[[Category:症候]]

[[Category:血液疾患]]

[[Category:凝固・線溶系]]

[[Category:救急疾患]]