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{{Otheruses}}
{{redirect|ティーレックス|アニメスタジオ|ティーレックス (アニメスタジオ)}}
{{出典の明記|date=2013年7月}}
{{生物分類表
|名称 = ティラノサウルス
|fossil_range = [[中生代]][[白亜紀]]末期, {{Fossil range|6872.7|66}}
|画像 = [[ファイル:StanTyrannosaurus theRex Trex at Manchester MuseumHolotype.jpg|260px]]
|画像キャプション = ティラノサウルス・レックスの全身[[模式標本]](CM 9380)の復元骨格化石標本「スタン」(マンチェスタ。[[カネギー自然史博物館、標本番号:BHI 3033)]]。
|地質時代 = [[中生代]][[白亜紀]]末期<br>([[マーストリヒチアン]])
|status = fossil
|地質時代 = 約6,800万- 約6,600万年前<br />([[中生代]][[白亜紀]]末期の[[マストリヒシアン]])
|省略 = 爬虫綱
|綱階級なし = <small>(未整理)</small>真正爬虫類 {{sname||Eureptilia}}
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|目 = [[竜盤類|竜盤目]] {{sname||Saurischia}}
|亜目 = [[獣脚類|獣脚亜目]] {{sname||Theropoda}}
|亜目階級なし = [[アヴェロストラ|鳥吻類]] {{sname||Averostra}}
|下目 = [[テタヌラ類|テタヌラ下目]] {{sname||Tetanurae}}
|下目階級なし = <small>(未整理)</small>[[コエルロサウルス類]] {{sname||Coelurosauria}}
|上科 = [[絶滅|†]] [[ティラノサウルス上科]] {{sname||Tyrannosauroidea}}
|科 = [[ティラノサウルス科]] {{sname||Tyrannosauridae}}
|亜科 = [[ティラノサウルス亜科]] {{sname||Tyrannosaurinae}}
|族 = [[ティラノサウルス族]] {{sname||Tyrannosaurini}}
|属 = '''ティラノサウルス属''' {{snamei||Tyrannosaurus}}
|学名 = '''''Tyrannosaurus'''''<br /><small>{{AUY|[[ヘンリー・フェアフィールド・オズボーン|Osborn]]|1905}}</small>
|下位分類名 = [[種 (分類学)|種]]
|下位分類 =
*''T. imperator''?
*''T. mcraeensis''?
*''T. regina''?
*''T. rex''([[タイプ (分類学)|模式種]])
|シノニム = <center>本文を参照 [[#シノニム|*]]
|タイプ模式種 = ''{{snamei||Tyrannosaurus rex'' <small>Osborn, 1905</small>}}
}}
|和名 = '''ティラノサウルス'''
'''ティラノサウルス'''([[学名]]:''[[:en:Genus|genus]]'' '''''Tyrannosaurus''''')は、約7,270万 - 約6,600万年前([[中生代]][[白亜紀]]末期[[マーストリヒチアン]])の[[北アメリカ大陸]](<small>画像資料</small><ref group=注>約6,500万年前([[K-T境界]]上)の大陸配置図([http://jan.ucc.nau.edu/~rcb7/65moll.jpg#65moll K-T (65Ma)])。この時までの一時期をティラノサウルスは左上の大陸で生きていた。- [http://jan.ucc.nau.edu/~rcb7/mollglobe.html#mollglobe Mollewide Plate Tectonic Maps - Dr. Ron Blakey]{{リンク切れ|date=2020-12-20}}</ref>)に生息していた[[肉食]][[恐竜]]。大型[[獣脚類]]の1[[属 (分類学)|属]]である。
|英名 = Tyrannosaurus
|亜科=[[ティラノサウルス亜科]]{{sname||Tyrannosaurinae}}}}
 
最大全長は約13メートル、最大体重は約9トンと<ref name=最大体重・ナショジオ版>{{Cite web|和書|title=史上最大のティラノサウルスと判明、約9トン |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/032800189/ |publisher=[[ナショナル・ジオグラフィック協会]] |date=2019-03-28 |accessdate=2020-07-20}}</ref>、現在まで報告されている[[獣脚類]]の中で史上最大級の体格を誇る種の一つに数えられており、[[中生代]]最後の地質区分とされるマーストリヒチアン最末期の約400万年間にかけて北米ララミディア大陸に生息していた。そして[[K-Pg境界]]を境に絶滅している。
'''ティラノサウルス'''([[学名]]:''[[:en:Genus|genus]]'' '''''Tyrannosaurus''''')は、約6,800万- 約6,600万年前([[中生代]][[白亜紀]]末期[[マストリヒシアン]])の[[北アメリカ大陸]](<small>画像資料</small><ref group=注>約6,500万年前([[K-T境界]]上)の大陸配置図([http://jan.ucc.nau.edu/~rcb7/65moll.jpg#65moll K-T (65Ma)])。この時までの一時期をティラノサウルスは左上の大陸で生きていた。- [http://jan.ucc.nau.edu/~rcb7/mollglobe.html#mollglobe Mollewide Plate Tectonic Maps - Dr. Ron Blakey]{{出典無効|date=2020-07-19|title=リンク先不正。}}</ref>)に生息していた[[肉食]][[恐竜]]。大型[[獣脚類]]の1[[属 (分類学)|属]]である。他に'''ティランノサウルス'''、'''チラノサウルス'''、'''タイラノサウルス'''など数多くある呼称については第一項にて詳しく述べる。
 
非常に名高く、最も有名な恐竜とされ<ref name="Bakker">{{cite book2 |df=ja |last= Bakker |first= Robert|authorlink=ロバート・T・バッカー |editor= Fiffer S |title= Tyrannosaurus Sue|year= 2000|publisher=W. H. Freeman & Company|___location= New York|isbn= 0-7167-4017-6 |pages=xi–xiv |chapter= Prologue}}</ref><ref> Lowell Dingus and Mark Norell, ''Barnum Brown: The Man who discovered Tyrannosaurs rex, (Los Angeles: University of California Press, 2010, pg 94) </ref>、『[[ジュラシック・パーク]]』等の恐竜をテーマにした各種の創作作品において頻繁に登場する<ref>{{Cite web|和書|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7826/ |title=T・レックス、映画と実際の姿の違い |publisher=ナショナルジオグラフィック協会 |website=[[ナショナルジオグラフィック (雑誌)|ナショナルジオグラフィック]] |date=2013-04-10 |accessdate=2021-04-29 |author= Brian Switek}}</ref>。一方でその生態には未解明な部分も多く、新説の多様さも相まって議論が絶えない恐竜でもある<ref>{{Cite news ja |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3131112 |title=T・レックス、羽毛ではなくうろこに覆われていた 最新研究 |publisher=[[フランス通信社|AFPBB news]] |date=2017-06-07 |accessdate=2020-08-22}}</ref>。また、恐竜時代終焉の象徴として滅びの代名詞にも度々引用される。
最大全長は約13メートル、最大体重は約9トンと<ref name=最大体重・ナショジオ版>{{Cite web|title=史上最大のティラノサウルスと判明、約9トン |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/032800189/ |publisher=[[ナショナル・ジオグラフィック協会]] |date=2019-03-28 |accessdate=2020-07-20}}</ref>、現在まで報告されている[[獣脚類]]の中で史上最大級の体格を誇る種の一つに数えられており<ref group=注>本種の他に[[タルボサウルス]]、[[ギガノトサウルス]]、[[カルカロドントサウルス]]、[[スピノサウルス]]などが史上最大級とされているが、その多くは全長が長いだけであり、体重はティラノサウルスに遠く及ばない</ref>、[[中生代]]最後の地質区分とされる[[マーストリヒチアン]]最末期の約200万年間にかけて北米ララミディア[[大陸]]に生息していた。そして[[K-Pg境界]]を境に絶滅している。
 
''Tyrannosaurus'' という名称は特に断りのない場合は[[学名|属名]]を指す。''Tyrannosaurus'' [[属 (分類学)|属]]の[[種 (分類学)|種]]として広く認められているのは現在のところ ''Tyrannosaurus rex'' のみである。
非常に名高い恐竜で『[[ジュラシック・パーク]]』等の恐竜をテーマにした各種の創作作品においては、脅威の象徴または最強の恐竜として描かれることが多く、恐竜ファンから高い人気を誇っている。一方で知名度の高さに反し、その生態には未解明な部分も多く、新説の多様さも相まって議論が絶えない恐竜でもある<ref>{{Cite news |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3131112 |title=T・レックス、羽毛ではなくうろこに覆われていた 最新研究 |publisher=[[フランス通信社|AFPBB news]] |date=2017-06-07 |accessdate=2020-08-22}}</ref>。また恐竜時代終焉の象徴として滅びの代名詞にも度々引用される(詳しくは「関連項目」を参照)。
 
== 呼称 ==
''Tyrannosaurus'' という名称は特に断りのない場合は[[学名|属名]]を指す。''Tyrannosaurus'' [[属 (分類学)|属]]の[[種 (分類学)|種]]として広く認められているのは現在のところ ''Tyrannosaurus rex'' のみである(“命名”の項を参照)。
 
== 呼称/表記 ==
[[ファイル:AMNH theropod.jpg|thumb|right|アメリカ自然史博物館に展示されている頭骨]]
属名の ''Tyrannosaurus'' は、{{lang-grc|[[wikt:elen:τύραννος|τύραννος]]}} (テュランノス)「暴君<ref group=注>「暴君」は近代的な語義。本来のギリシア語の意味については[[僭主]]を参照のこと。</ref>」 + {{lang|grc|[[wikt:en:σαῦρος|σαῦρος]]}} (サウロス)「とかげ蜥蜴」ないし「[[爬虫類]]」の合成語で、「暴君とかげ」や「暴君竜」といった意味になる。本属に代表する '''''Tyrannosaurus rex''''' の名は一般にも広く通用している。種小名の ''rex'' は[[ラテン語]]で「王」の意<ref name=記載論文>{{Cite journal2 |df=ja |author=Osborn, H. F. (|year=1905). "|title=Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs". |journal=Bulletin of the AMNH. |volume=21 (|issue=14): |pages=259–265. hdl|url=https:2246/1464/hdl. Retrieved October 6, 2008handle.net/2246/1464}}{{フリーアクセス}}</ref>。
 
恐竜を含む古生物は[[観葉植物]]や現生[[動物]]と同様、[[ラテン語]]の学名を呼称として通用するのが慣例となっており、本種「ティラノサウルス」も例外ではない。属名の「ティラノサウルス」のみ、もしくは小説/映画『[[ジュラシックパーク]]』のヒットに伴い米国から日本へと普及した愛称的略号「T.レックス」が慣用されている<ref name=JWF公式サイト>恐竜図鑑丨『ジュラシック・ワールド/炎の王国』</ref>{{出典無効|date=2020-07-19 |title=https://www.jurassicworld.jp/books/tyrannosaurus-rex.htmlにそのような事実は記されていない。別の出典を用意すべき。}}。
 
恐竜を含む古生物は観葉植物や現生動物と同様、[[ラテン語]]の学名を呼称として通用するのが慣例となっており、ティラノサウルスも例外ではない。属名の「ティラノサウルス」のみ、もしくは「T.レックス」が慣用されている。
※詳しくは[[ジュラシックパーク]]の項を参照されたし。
 
日本語の表音表記には揺らぎが多く、最も一般的な「ティラノサウルス」のほか、nの重なりに重きを置いた「ティランノサウルス」、「チラノサウルス」、「チランノサウルス」、「チラノザウルス」、「チランノザウルス」、「タイラノサウルス」、「テュランノサウルス」などがある。2020年現在では前者2つが主流(りわけ1つ目)であるもののして[[群馬県立自然史博物館]]は一貫して「ティランノサウルス」表記をしている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.gmnh.pref.gunma.jp/musetheque/detail/111534?&searchType=1&Item1_3=%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%8E |title=ティランノサウルス・レックス(動刻)|accessdate=2020-12-19 |publisher=[[群馬県立自然史博物館(監修)「古生物ミステリー」シリーズ、]]}}</ref><ref>{{Cite book ja |title=[[リアルサイズ古生物図鑑など]] 中生代編 |pages=248-251 |date=2019-08-03 |publisher=[[技術評論社]] |author=土屋健|authorlink=土屋健 (サイエンスライター) |others=群馬県立自然史博物館(監修)|isbn=978-4-297-10656-0}}</ref>。また先述のように「暴君竜」という漢訳もあり、以前ほど盛んではないものの現在もを採いられている。[[中国呼称に関しては英]]も混乱があり、{{lang|zh|暴龍}}tie−RAN−oh−saw−rus「tye−RAN−uh−SAW−rus」など発音表記に差がある<ref>{{unicodeCite book ja |baolong}};date=2004-02-23|title= バォロン)あ新・恐竜論 地球の忘れものを理解すいは「{{lang|zhauthor1=ヒサクニヒコ|霸王龍}}」({{unicodeauthorlink1=ヒサクニヒコ |bawanglongpublisher= PHP研究所 |page=50 |isbn= 978-4-569-63334-3}}; バワンロン)と呼ぶ</ref>
 
== 発見と研究の歴史 ==
[[ファイル:Trex skull.png|thumb|200px|実化石を含むカーネギー自然史博物館のティラノサウルスの模式標本であるが、一部に誤った復元がなされており、2003年から再構成のための作業が開始されている<ref>[http://www.carnegiemnh.org/dinosaurs/paleolab/rex1.htm Rebuilding T .Rex] - [http://www.carnegiemnh.org/ カーネギー自然史博物館のサイト]のトピック。</ref>{{出典無効リンク切れ|date=2020-07-19 |title=リンク先不正。年12月}}]]
1874年、[[コロラド州]]で33センチの歯が数本発見された<ref name=ニュートン2024>{{Cite book|和書|date=2024-02-20 |title= Newton大図鑑シリーズ 恐竜と古生物 306種大図鑑 プレミアム・特別版 |author=カール・メリング、林昭次(訳)|publisher= ニュートンプレス |page=346−347 |isbn= 978-4315527773}}</ref>。1890年、[[ワイオミング州]]で頭骨のパーツが発見された<ref name=ニュートン2024/>。
1892年、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[古生物学者]][[エドワード・ドリンカー・コープ]]は後にティラノサウルスのものと同一視される[[脊椎]]の一部を発見し、'''マノスポンディルス・ギガス'''(''Manospondylus gigas'')と名付けた。2つ目の化石は1900年に[[ワイオミング州]]で[[アメリカ自然史博物館]]の[[学芸員]]であった[[バーナム・ブラウン]]によって発見された。この標本はコープに師事していた[[ヘンリー・フェアフィールド・オズボーン]]によって1905年に'''ディナモサウルス・インペリオスス'''(''Dynamosaurus imperiosus'')と名付けられた。三つ目の化石も1902年にブラウンによって[[モンタナ州]]で発見され、オズボーンによりティラノサウルス・レックスとして記載された。ディナモサウルスとティラノサウルスはオズボーンが1905年に発表した同じ[[論文]]の中で記載・命名されている。翌1906年にオズボーンは両者が実は同種であったとして統一したが、その際ディナモサウルスではなくティラノサウルスが有効名とされたのは、たまたま論文中で先に書かれていたのがティラノサウルスであったためである。1900年に発見された元ディナモサウルスは[[イギリス]]の[[ロンドン自然史博物館]]に、1902年に発見されたティラノサウルスの[[タイプ (分類学)|模式標本]]は現在、米国は[[ペンシルベニア州]][[ピッツバーグ]]にある[[カーネギー自然史博物館]]にて保管されている。
1892年、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[古生物学者]][[エドワード・ドリンカー・コープ]]は後にティラノサウルスのものと同一視される[[脊椎]]の一部を発見し、'''マノスポンディルス・ギガス'''(''Manospondylus gigas'')と名付けた。1900年には[[アメリカ自然史博物館]]の[[学芸員]]であった[[バーナム・ブラウン]]が2つ目の化石をワイオミング州] で発見した。この標本はコープに師事していた[[ヘンリー・フェアフィールド・オズボーン]]によって1905年に'''ディナモサウルス・インペリオスス'''(''Dynamosaurus imperiosus'')と名付けられた。ブラウンは1902年に[[モンタナ州]]で3つ目の化石も発見し、同年の夏にオズボーンによりティラノサウルス・レックスとして記載された<ref name=百周年>{{Cite journal ja |title=Tyrannosaurus rex 発見百周年 |author1=[[真鍋真]] |author2=樽創 |date=2002-09-20 |accessdate=2020-12-19 |journal=化石 |publisher=[[日本古生物学会]] |volume=72 |pages=45-47 |doi=10.14825/kaseki.72.0_45 |url=https://doi.org/10.14825/kaseki.72.0_45}}</ref>。ディナモサウルスとティラノサウルスはオズボーンが1905年に発表した同じ論文の中で記載・命名された。翌1906年にオズボーンは両者が実は同種であったとしてティラノサウルス・レックスに統一したが、その際ディナモサウルスではなくティラノサウルスが有効名とされたのは、たまたま論文中で先に書かれていたのがティラノサウルスであった<ref>{{Cite journal2 |df=ja |author=Osborn, H.F |year=1906 |url=https://hdl.handle.net/2246/1473 |title=''Tyrannosaurus'', Upper Cretaceous carnivorous dinosaur (second communication) |journal=Bulletin of the AMNH|volume=22 |pages=281}}{{フリーアクセス}}</ref>ためである。1900年に発見された元ディナモサウルスは[[イギリス]]の[[ロンドン自然史博物館]]に、1902年に発見されたティラノサウルスの[[タイプ (分類学)|模式標本]]は現在、米国は[[ペンシルベニア州]][[ピッツバーグ]]にある[[カーネギー自然史博物館]]にて保管されている。
 
なお、1917年にオズボーンはマノスポンディルスとティラノサウルスに共通する特徴を見出し、それ以後は両者が同一視されるようになった。ただし発見されていたマノスポンディルスは一例のみで、標本はきわめて部分的であったため、オズボーン自身はそれらが同一種であると結論付けたわけではない(後述するように、この時点でもし同一種と認められていたならば「ティラノサウルス」の代わりに「マノスポンディルス」が有効な名前になっていたはずである)。
 
[[ファイル:Field fg05.jpg|thumb|left|230px|フィールド自然史博物館にて展示されているスー]]
1990年8月12日、[[サウスダコタ州]]で非常に保存状態のいティラノサウルスの全身骨格化石が発見された。この標本は発見者の{{仮リンク|スーザン・ヘンドリクソン([[:|en:|Sue Hendrickson|Susan Hendrickson]]}})にちなんで「'''[[スー (ティラノサウルス)|スー]]'''('''Sue''')と名付けられた。しかしスーの標本は発掘者のピーター・ラーソン博士と地主とのあいだで所有権をめぐる裁判に発展、[[連邦捜査局]]強引な方法でピーター・ラーソン博士保有していたスーの骨格を押収した。その後国が一時保管した後、スーは[[オークション]]により日本円にして約10億円という高額で落札されたことでも話題を呼んだ。現在、米国[[イリノイ州]]の[[シカゴ|シカゴ市]]にある[[フィールド自然史博物館]]にて展示されている(標本番号:FMNH PR2081)。
 
1996年、[[ティラノサウルス科]]の恐竜のものと考えられる歯の化石が[[日本]]で初めて[[福井県]]で発見された。これは白亜紀前期の地層からの発見であり、[[華人民共和|中国]]でも世界最古のティラノサウルス科の化石が土されることからティラノサウルス科の[[アジア]]起源説も主張されている<ref>{{Cite news ja |title=<中国暴竜>ティラノサウルス類の起源は東アジア、北米移住説覆す―地質科学院|newspaper=[[Record China]]|date=2009-10-06|accessdate=2020-07-19|url=https://www.recordchina.co.jp/b35936-s0-c30-d0000.html}}</ref>。
 
2000年6月、米国[[サウスダコタ州]]のかつてマノスポンディルスが発見された場所から、ティラノサウルスの化石が発掘された。この化石は1892年に発見された化石と同一個体のもの(掘り残し)と考えられ、マノスポンディルスとティラノサウルスが同一種であることが実際に確認されることとなったが、そこでコープの命名した「マノスポンディルス・ギガス」という名前の方に優先権があるのではないかという論争が生じた。しかし、2000年1月1日に発効された[[国際動物命名規約]]第4版<ref>[https://web.archive.org/web/20050108003319/http://homepage3.nifty.com/cxj11255/meimei/ 動物命名法解説]</ref>{{リンク切れ|date=2020年712月}}</ref>に定められた規定により、[[動物命名法国際審議会]]が強権を発動して学名 ''Tyrannosaurus'' を「保全名」としたため、名称の交代が行われることはなかった<ref>[http://www.iczn.org/Palaeontology.htm ICZN : Palaeontology & Biostratigraphy]</ref>{{出典無効リンク切れ|date=2020-07-19 |title=リンク先不正年12月}}。
 
2007年4月、[[ノースカロライナ州立大学]]などの研究チームは、ティラノサウルスの骨の[[タンパク質]]を分析した結果、[[遺伝子]]アミノ酸配列的に[[ニワトリ]]に近いという結果を得たと発表した<ref>{{Cite web |title=鳥と恐竜は近縁、6800万年前の化石から証拠発見 - 米国 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/2210620 |website=www.afpbb.com |date=2007-04-13 |access-date=2023-10-27 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=利用案内・情報 ≫ ホットニュース ≫ 2009-05-15 :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo |url=https://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001242347625173&p=4 |website=www.kahaku.go.jp |access-date=2023-10-27}}</ref><ref>{{Cite web |title=鳥と恐竜を結び付けたティラノサウルスのタンパク質 |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/23/ |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |access-date=2023-10-27 |language=ja}}</ref>
 
2025年6月、北海道大の小林快次教授らの研究グループは、体重約500キロ未満の中間型のティラノサウルスが数百万年単位でアジアと北米を行き来する中で、体重約1トン以上に大型化する方向へ進化したとの研究結果をまとめた。従来は北米のみで大型化していったと考えられており、小林は「進化の過程がすっきり説明できるようになった」としている。英科学誌ネイチャーに発表した<ref>[https://www.tokyo-np.co.jp/article/411122 東京新聞2025年6月12日「アジアと北米行き来し進化 ティラノ巨大化巡り北大」]</ref>。
2009年、[[ハト]]に寄生する[[トリコモナス類|トリコモナス]]の古代菌種が、ティラノサウルスの命を奪っていた可能性があると発表された<ref>Wolff, E. D., Salisbury, S. W., Horner, J. R., & Varricchio, D. J. (2009). [http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0007288 Common avian infection plagued the tyrant dinosaurs.] ''PLoS One'', 4(9), e7288. ,2009年9月30日 掲載</ref>。この研究結果はシカゴ・[[フィールド自然史博物館]]のティラノサウルス「スー」の化石のあごの骨にあいた穴から判明した。鳥類がトリコモナスに感染した場合、クチバシや消化管の炎症によって餌を飲み込むことや呼吸が困難になることが報告されているが、「スー」の場合も同じような症状で餓死した可能性を研究チームは示唆している。またこの感染症の痕跡が同じティラノサウルス科の[[アルバートサウルス]]と[[ダスプレトサウルス]]の化石からも発見されており、トリコモナスによる感染症がかなり昔から存在していたと考えられるとともに、鳥類が恐竜から進化したという可能性をさらに強める証拠となった。
 
== 系統分類 ==
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* ''Dynamosaurus'' <small>{{AUY|[[ヘンリー・フェアフィールド・オズボーン|Osborn]]|1905}}</small> ディナモサウルス
* ? {{snamei||Nanotyrannus}} <small>[[ロバート・T・バッカー|Bakker]], Williams<!--控え:Michael Williams--> et [[:en:Philip J. Currie|Currie]], 1988</small> [[ナノティラヌス]]
::ティラノサウルス属の幼体とされているが、極めて近縁の別属である可能性が残る。{{Refnest|group="注"|ニック・ロングリッチは2024年にナノティラヌスはティラノサウルスと別属の成体であるとした<ref> {{Cite web |title=New research shows 'juvenile' T. rex fossils are a distinct species of small tyrannosaur |url=https://phys.org/news/2024-01-juvenile-rex-fossils-distinct-species.html |website=phys.org |access-date=2024-01-04 |language=en |first=University of |last=Bath}}</ref><ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Longrich|first=Nicholas R.|last2=Saitta|first2=Evan T.|date=March 2024|title=Taxonomic Status of Nanotyrannus lancensis (Dinosauria: Tyrannosauroidea)—A Distinct Taxon of Small-Bodied Tyrannosaur|url=https://www.mdpi.com/2813-6284/2/1/1|journal=Fossil Studies|volume=2|issue=1|pages=1–65|language=en|doi=10.3390/fossils2010001|issn=2813-6284}}</ref>が、複数の研究者が反論している<ref name=":8"> {{Cite web |title=Nanotyrannus vs. T. rex saga continues: Controversial study 'doesn't settle the question at all' |url=https://www.livescience.com/animals/dinosaurs/nanotyrannus-vs-t-rex-saga-continues-controversial-study-doesnt-settle-the-question-at-all |website=livescience.com |date=2024-01-03 |access-date=2024-01-04 |language=en |first=Sascha Pare |last=published}} </ref>。}}
::ティラノサウルス属の幼体とされているが、極めて近縁の別属である可能性が残る。
* ''Dinotyrannus'' <small>[[:en:George Olshevsky|Olshevsky]], 1995</small> ディノティラヌス
* ''Stygivenator'' <small>Olshevsky, 1995</small> スティギヴェナトル(スティギウェナトール)
 
=== 分類学的位置付け ===
[[ファイル:Tarbosaurus080eueTarbosaurus MPC-D 100 60 skull (3).jpg|thumb|200px|ティラノサウルスの近縁種であるタルボサウルスの頭骨]]
*[[恐竜|恐竜類]] [[:en:dinosaur|dinosauria]]
**[[竜盤類]] {{sname||Saurischia}}
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*******† [[ティラノサウルス科]] {{sname||Tyrannosauridae}}
********† [[ティラノサウルス亜科]] {{sname||Tyrannosaurinae}}
*********† '''[[ティラノサウルス族]] {{snameisname||TyrannosaurusTyrannosaurini}}'''
**********† '''ティラノサウルス属 {{snamei||Tyrannosaurus}}'''
 
以下の系統図は、Vorisらによって実行された2020年の系統解析に基づく<ref name="Voris2020">{{Cite journal2 |df=ja |last1=Voris |first1=Jared T. |last2=Therrien |first2=Francois |last3=Zelenitzky |first3=Darla K. |last4=Brown |first4=Caleb M. |year=2020 |title=A new tyrannosaurine (Theropoda:Tyrannosauridae) from the Campanian Foremost Formation of Alberta, Canada, provides insight into the evolution and biogeography of tyrannosaurids |journal=[[Cretaceous Research]] |volume=110 |pages=104388 |doi=10.1016/j.cretres.2020.104388|s2cid=213838772 }}</ref>。
 
{{clade
|label1=[[エウティラノサウルス類]]
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|1=[[ドリプトサウルス]]
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=== ティラノサウルスの類縁種 ===
ティラノサウルス属として現時点で広く認められているのは ''rex'' 種のみである。ただし、[[タルボサウルス]]を'''ティラノサウルス・バタール'''(''T. bataar'')として、また、[[ダスプレトサウルス]]を'''ティラノサウルス・トロスス'''(''T. torosus'')としてティラノサウルス属に含める主張もある。特に[[モンゴル国|モンゴル]]で発見された[[タルボサウルス]]はその大きさと形態がティラノサウルスによく似ているため、ティラノサウルスそのものではないかとも言われるが、実際にはタルボサウルスのほうが前肢の比率が小さい。古生物学関連の科学雑誌『{{仮リンク|アクタ・パレオントロジカ・ポロニカ(Acta|en|Acta Palaeontologica Polonica)Polonica}}』の記事(外部リンク参照)によれば、[[フィリップ・カリー([[:en:Philip J. Currie|en]]、ジュン・フルム(Jřrn H. Hurum)、{{仮リンク|カロル・サバト([[:|en:|Karol Sabath|en]])}}は、系統解析をもとにタルボサウルスとティラノサウルスは別属と考えるべきであるとしている。ただし、この差異は生息していた環境の違いによるものであって両者は同属であるという説も根強く、決着は未だ付いていない。現在のところ、ダスプレトサウルスとタルボサウルスは比較的近年発見された[[ナノティラヌス]]とともに[[ティラノサウルス亜科]]に分類されている。なお、[[ティラノサウルス科]]には他に[[アルバートサウルス]]や[[ゴルゴサウルス]]が属している。
 
== 古生物学 ==
[[ファイル:Tyrannosaurus skeleton.jpg|サムネイル|直立型の骨格図]]
=== 姿勢 ===
直立から水平型への変遷については、[[恐竜#姿勢・歩行]]も参照。
[[File:Feathered Tyrannosaurus model.jpg|thumb|right|200px|ティラノサウルス羽毛説に基づく模型([[ポーランド]])]]
ティラノサウルスの姿勢は、当初はいわゆる「'''[[ゴジラ (架空の怪獣)|ゴジラ]]型'''」([[カンガルー]]が2足で立ち上がったときの形)と考えられていたが、[[生体力学]]的研究の結果、尻尾を地面に付けず、体をほぼ水平に延ばした姿勢であったとされるようになった。尻尾は体重の支えとはならないが、体のバランスをとるための重要な役割(姿勢制御や動作制御)を担ったと推測されている([[恐竜#姿勢・歩行]]も参照)。
* 画像-1:従来の説に基づき尻尾を引きずったゴジラ型で描かれた想像図。1919年、{{仮リンク|チャールズ・ナイト|en|Charles R. Knight}}筆(この画像では尻尾を地面に付けてはいない)。
* 画像-2:近年の姿勢に関する研究に基づいて作られた生態再現模型。前後に均衡のとれた体形となっている。
<gallery>
File:T. rex old posture.jpg|画像-1:ゴジラ型
File:Senckenberganlage (DerHexer) 2012-05-11 04.jpg|画像-2:バランス型
</gallery>
 
=== 感覚 ===
ティラノサウルスの五感は判明している限りではどれも非常に発達していた。ウィットマーらは、視覚・聴覚・嗅覚など神経系の証拠からティラノサウルス科恐竜には獲物を素早く追うポテンシャルがあったと指摘し、目・頭・首を活用して獲物を捕らえる動物として復元している<ref name=恐竜学入門/>。
 
; 視覚
: 鳥類やワニとの比較、そして視野をはじめとする頭部の再現(視野の再現など)から導き出された研究によると、ティラノサウルスは同じ[[コエルロサウルス類]]の[[ダスプレトサウルス]]や[[ヴェロキラプトル]]、[[トロオドン科]]のように現生の[[猛禽類]]と等しい45〜60°の両眼視野を確保していた。この値は現生のワニや[[カルノサウルス類]]よりも明らかに広い<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Binocular vision in theropod dinosaurs( |year=2006 |author=Kent A Stevens: |doi=10.1671/0272-4634(2006)26[321:BVITD]2.0.CO;2 |journal=Journal of Vertebrate Paleontology |volume=26 |issue=2 |url=https://www.researchgate.net/publication/228671730_Binocular_vision_in_theropod_dinosaurs}}</ref>。視物質を3〜4種持っていたと考えられ、色を見分ける能力が高かったとされる<ref> https://www.edu.city.kyoto.jp/science/about/0212tyranno.pdf</ref>。
; 聴覚
: 脳と内耳の研究からは、ティラノサウルス科恐竜は現在の[[ワニ]]類ないし[[アフリカゾウ]]のように[[低周波音]]を中心とした幅広い周波数の音を聴き取ることに長けていたことが示されており、聴力はティラノサウルス科恐竜に取って並外れて重要な感覚であった<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=New Insights Into the Brain, Braincase, and Ear Region of Tyrannosaurs (Dinosauria, Theropoda), with Implications for Sensory Organization and Behavior |author1=Lawrence M. Witmer |author2=Ryan C. Ridgely |date=2009-08-26 |url=https://doi.org/10.1002/ar.20983 |doi=10.1002/ar.20983|journal=The Anatomical Record |volume=292 |issue=9}}{{フリーアクセス}}</ref><ref name=恐竜学入門>{{Cite book|和書 ja |title=恐竜学入門 ─かたち・生態・絶滅─|author1=デイヴィッド・E・ファストヴスキー|authorlink1=:de:David Fastovsky|author2=デイヴィッド・B・ウェイシャンペル|authorlink2=:en:David B. Weishampel|translator = 藤原慎一・松本涼子|others=[[真鍋真]]監訳|edition=第2|origdateorig-date=2015-01-31|date=2018-05-25|pages=p.&nbsp;185 - 190|publisher=[[東京化学同人]]|___location=[[東京都]][[文京区]][[千石 (文京区)|千石]]3丁目36-7|id={{全国書誌番号|22535495}}、{{ASIN|4807908561}}|isbn=978-4-8079-0856-1|ncid=BB17901360|oclc=904989280|asin=4807908561}}</ref>。またウズベキスタンで発見された[[ティムルレンギア]]という近縁属も優れた内耳を持っていたことが示唆されている<ref>『完全解剖ティラノサウルス』2016,NHK出版</ref>。
; 嗅覚
: [[ディロング]]からティラノサウルスに至るまで大小様々なティラノサウルス上科の脳(<ref group=注>正確には型取りしたエンドキャスト)。</ref>を調べたところ、基盤的なティラノサウルス上科は嗅覚が比較的発達していなかった一方、派生的なティラノサウルス科は頭抜けて嗅覚が鋭かったことが分かっている<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Evolutionary disparity in the endoneurocranial configuration between small and gigantic tyrannosauroids( |author1=Martin Kundrát |author2=Xing Xu |author3=Martina Hančová |author4=Andrej Gajdoš |author5=Yu Guo |author6=Defeng Chen |year=2018 |journal=Historical Biology |volume=32 |issue=5 |pages=620-634 |url=https://doi.org/10.1080/08912963.2018).1518442 |doi=10.1080/08912963.2018.1518442 }}</ref>。また[[コエルロサウルス類]]において比較したところ、ティラノサウルス科恐竜は原始的な[[鳥類]]やドロマエオサウルス科と同様に優れた嗅覚を持っていたことが判明しており、一方で[[トロオドン科]]や派生的な鳥類は嗅覚の面で前者3グループに劣っていた。この事は彼らの生態の違いを色濃く示唆していると言える<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Olfactory acuity in theropods: palaeobiological and evolutionary implications (|author1=Darla K Zelenitsky |author2=François Therrien |author3=Yoshitsugu Kobayashi |date=2008-10-28 |url=https:2009)//doi.org/10.1098/rspb.2008.1075 |doi=10.1098/rspb.2008.1075 |journal=Proceedings of the Royal Society B |volume=276 |issue=1657}}{{フリーアクセス}}</ref>。現生生物の嗅覚受容体遺伝子のデータベースをティラノサウルスに適用した研究では、嗅覚受容体遺伝子を620から645個程度持っていたとされている<ref>{{Cite web |title=ティラノサウルス、驚きの嗅覚 全恐竜のトップクラス |url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46601770W9A620C1000000/ |website=日本経済新聞 |date=2019-07-08 |access-date=2024-12-21 |language=ja}}</ref>。
; 触覚
: 近縁の[[ダスプレトサウルス|ダスプレトサウルス・ホルネリ]](以下''D. horneri'')の研究によると、ティラノサウルス科には現生の[[クロコダイル]]が顎に備えるものに似た圧力センサーがあった可能性が高い。この圧力センサーについて考えうる用途として、攻撃時の微調整や巣作り、子育てなどが''D. horneri''の研究では提示されている<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=A new tyrannosaur with evidence for anagenesis and crocodile-like facial sensory system |author1=Thomas D. Carr |author2=David J Varricchio |author3=Jayc C Sedlmayr |author4=Eric M Roberts |author5=Jason R Moore |year=2017 |doi=10.1038/srep44942 |url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28358353/ |journal=Scientific Reports |volume=7}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/040300122/ |title=ティラノサウルスはこんな顔だった、最新報告 |publisher=ナショナル・ジオグラフィック協会 |accessdate=2020-07-20 |date=2017-04-04}}</ref>。
(Thomas D. Carr:2017)</ref><ref>{{Cite web|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/040300122/ |title=ティラノサウルスはこんな顔だった、最新報告 |publisher=ナショナル・ジオグラフィック協会 |accessdate=2020-07-20 |date=2017-04-04}}</ref>。
; 味覚
: 他の4つと違って化石証拠の残りにくい味覚だが、タルボサウルスの脳の研究からは発達した味覚を持っていたことが示されている<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=A new study of the brain of the predatory dinosaur Tarbosaurus bataar (Theropoda, Tyrannosauridae)(SV |author1=S.V. Saveliev,: |author2=V. R. Alifanov |year=2007) |journal=Paleontological Journal |volume=41 |pages=281–289 |url=https://doi.org/10.1134/S0031030107030070 |doi=10.1134/S0031030107030070}}</ref>。なお、同研究ではティラノサウルスとタルボサウルスの属差についても言及がある。
 
=== 体温・体表 ===
<!-- 一形態によりません。ヒトにも(体毛の濃い原人から薄い現代人、色素の濃い黒人から薄い白人まで)20万年の年代・地域の差異があり、同様の視点で200万年生息の当生物には多様性があります。安易な削除・上書きをせず加筆願います。 -->
 
=== 体温・羽毛 ===
[[File:Baby T-rex 0496.JPG|upright|240px|thumb|羽に覆われた幼いティラノサウルスの想像図]]
; 体温
ティラノサウルスが[[鳥類]]のような[[恒温動物]]であったか、一般的な[[爬虫類]]と同じく[[変温動物]]であったかについて、決定的な結論は出ていないが([[恐竜恒温説]]も参照)、彼らは[[羽毛恐竜]]として知られる[[コエルロサウルス類]]の一種で、鳥類とも比較的近縁であることや活動的と思われる骨格構造などから、ある程度の体温を維持できる中温性であった可能性は高い<ref name=恐竜の教科書/>。羽毛があったか否かについては1990年代中頃から議論の的となっている。[[ティラノサウルス上科]]の最も原始的な種([[ディロング]])に羽毛の痕跡が発見されていることから、少なくとも幼体には羽毛が生えていたのではないかと考えられるようになってきている<ref>「21世紀こども百科 恐竜館」(著)北村雄一(監修)[[真鍋真]](出版)小学館(発行)2007年7月11日 P100-101</ref>。こちらの説では、体の大きさで体温を保てるようになる成体は羽毛を持たないとされており、実際ワイレックスなどの研究から、成体のティラノサウルスの体表は(少なくとも部分的には)粒の細かい鱗で覆われていたことが判明している<ref>Tyrannosauroid integument reveals conflicting patterns of gigantism and feather evolution(Phil R. Bell:2017)</ref>。
: ティラノサウルスが[[鳥類]]のような[[恒温動物]]であったか、一般的な[[爬虫類]]と同じく[[変温動物]]であったかについて、決定的な結論は出ていないが([[恐竜恒温説]]も参照)、彼らは[[羽毛恐竜]]として知られる[[コエルロサウルス類]]の一種で、鳥類とも比較的近縁であることや活動的と思われる骨格構造などから、ある程度の体温を維持できる中温性であった可能性は高い<ref name=恐竜の教科書/>。
; 体表
: 羽毛があったか否かについては1990年代中頃から議論の的となっている。[[ティラノサウルス上科]]の最も原始的な種([[ディロング]])に羽毛の痕跡が発見されていることから、少なくとも幼体には羽毛が生えていたのではないかと考えられるようになってきている<ref>{{Cite book ja |title=21世紀こども百科 恐竜館 |author=北村雄一 |others=[[真鍋真]](監修)|publisher=[[小学館]] |date=2007-07-11 |pages=100-101 |isbn=978-4092212510}}</ref>。こちらの説では、体の大きさで体温を保てるようになる成体は羽毛を持たないとされており、実際ワイレックスなどの研究から、成体のティラノサウルスの体表は(少なくとも部分的には{{Refnest|group="注"|体表要素が知られていることは、必ずしも一様な外皮で覆われていたことを意味しない<ref>{{Cite web |title=Feathers for Tyrannosaurs |url=https://www.nationalgeographic.com/science/article/feathers-for-tyrannosaurs |website=Science |date=2013-12-16 |access-date=2024-12-21 |language=en}}</ref>。}})粒の細かい鱗で覆われていたことが判明している<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Tyrannosauroid integument reveals conflicting patterns of gigantism and feather evolution |author1=Phil R. Bell |author2=Nicolás E. Campione |author3=W. Scott Persons |author4=Philip J. Currie |author5=Peter L. Larson |author6=Darren H. Tanke |author7=Robert T. Bakker|date=2017-06-07 |url=https://doi.org/10.1098/rsbl.2017.0092 |doi=10.1098/rsbl.2017.0092 |journal=Biology Letters |volume=13}}{{フリーアクセス}}</ref>。このように、幼少期は羽毛を持ち成長に伴って鱗肌になっていくと描写されることがあるが、この変化は化石証拠があるものではなく未だ想像の域を出ない<ref>{{Cite book ja |author1=川上和人|year=2013 |title= 鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー) |publisher=技術評論社 |page=76 |isbn= 978-4774155654}}</ref>。また、かつては皮膚をなめらかにするため、或いは共喰いを防ぐために強い臭いを発する体脂を分泌していたともされていた<ref name=":2">{{Cite book ja |author1=鹿間時夫 |year=1979 |title=古脊椎動物図鑑 |publisher=朝倉書店 |page=64 |isbn=978-4254162226}}</ref><ref name=":0" />。
; 体色
:ティラノサウルスの色はわかっていないが、アンドレア・カウは植生や色覚から、ティラノサウルスは暗色斑や不規則な帯を伴う暗い緑色をしていたと推測している<ref> {{Cite web2 |df=ja |title=Theropoda: Tyrannosaurus era verde |url=https://theropoda.blogspot.com/2023/12/tyrannosaurus-era-verde.html |website=Theropoda |date=2023-12-13 |access-date=2024-01-11 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。
 
=== 成長 ===
[[File:Ontogram of Tyrannosaurus rex.png|thumb|300px|ティラノサウルスの頭蓋骨の成長段階を示す図]]
ティラノサウルスを代表とする[[ティラノサウルス科]]は成体と幼体〜亜成体における身体的特徴の差異が大きかったことで知られている<ref name=恐竜の教科書/>。小型のティラノサウルス科恐竜とされていた[[ナノティラヌス]]の頭蓋骨には、幼体に特徴的な線維骨構造や頭骨の未癒合などの特徴が見られ、1999年にトーマス・カーがティラノサウルスの幼体であると主張した。ナノティラヌスは華奢でナイフ状の尖った歯を有しており、頑強な体格と太い歯を持つ成体のティラノサウルスと全く形態が異なる。このことから、幼体や亜成体のティラノサウルスは成体とは異なる生態的地位に立っていたことになる<ref name=恐竜の教科書/>。全長6メートル前後の亜成体、通称“ジェーン”などは、[[オルニトミモサウリア]]に匹敵する程の俊足(時速50km)を誇り、[[アケロラプトル]]や[[パキケファロサウルス]]のような小型〜中型恐竜などを襲っていた可能性が高い<ref>[https://era.library.ualberta.ca/items/19b93ddc-a4b9-4807-9d19-90d21648dfff Possible evidence of gregarious behavior in tyrannosaurids]</ref>。また時には大型の[[ハドロサウルス科]]へも狩りの矛先を向けていたとされ、とあるハドロサウルス科の化石には亜成体の歯型が明確に残されていた<ref>{{Cite journal|url=https://peerj.com/articles/6573/?utm_source=TrendMD&utm_campaign=PeerJ_TrendMD_0&utm_medium=TrendMD |title=Feeding traces attributable to juvenile Tyrannosaurus rex offer insight into ontogenetic dietary trends |author1=Joseph E. Peterson |author2=Karsen N. Daus |date=2019-03-04 |jounarl={{仮リンク|PeerJ|en|PeerJ}}}}</ref>。この事は、傍目から見れば貧弱そうな顎と歯を持つ亜成体であっても、見かけ以上の咬合力(噛む力)を持っていた事を示している。
ティラノサウルスを代表とする[[ティラノサウルス科]]は成体と幼体〜亜成体における身体的特徴の差異が大きかったことで知られている<ref name=恐竜の教科書/>。ティラノサウルスの場合、幼体と成体の間で1800以上の差異が見られる<ref name=":8" />。小型のティラノサウルス科恐竜とされていた[[ナノティラヌス]]の頭蓋骨には、幼体に特徴的な線維骨構造や頭骨の未癒合などの特徴が見られ、1999年にトーマス・カーがティラノサウルスの幼体であると主張した。ナノティラヌスは華奢でナイフ状の尖った歯を有しており、頑強な体格と太い歯を持つ成体のティラノサウルスと全く形態が異なる。このことから、幼体や亜成体のティラノサウルスは成体とは異なる生態的地位に立っていたことになる<ref name=恐竜の教科書/>。全長6メートル前後の亜成体、通称「ジェーン」などは、[[オルニトミモサウリア]]に匹敵する程の俊足(50km/h)を誇り、[[アケロラプトル]]や[[パキケファロサウルス]]のような小型‐中型恐竜などを襲っていた可能性が高い<ref>{{Cite journal2 |df=ja |url=https://doi.org/10.7939/R3348GX03 |title=Possible evidence of gregarious behavior in tyrannosaurids |doi=10.7939/R3348GX03 |author=Currie, P. J. |year=1998 |journal=Gaia |volume=15 |pages=271-277}}</ref>。また、時には大型の[[ハドロサウルス科]]も狩りの対象になっていたとされ、とあるハドロサウルス科の化石には亜成体の歯型が明確に残されていた<ref>{{Cite journal2 |df=ja |url=https://peerj.com/articles/6573/?utm_source=TrendMD&utm_campaign=PeerJ_TrendMD_0&utm_medium=TrendMD |title=Feeding traces attributable to juvenile Tyrannosaurus rex offer insight into ontogenetic dietary trends |author1=Joseph E. Peterson |author2=Karsen N. Daus |date=2019-03-04 |journal={{仮リンク|PeerJ|en|PeerJ}}}}</ref>。このことは、傍目から見れば貧弱そうな顎と歯を持つ亜成体であっても、見かけ以上の咬合力を持っていた事を示している。
[[Image:Tyrantgraph.png|thumb|300px|ティラノサウルス科の成長曲線を示すグラフ。黒色がティラノサウルス。Erickson ''et al.'' 2004 に基づく]]
7体のティラノサウルスを対象とした2004年の研究によると、ティラノサウルスの成長速度は10代で加速し、20平均して1日あたり2キログラム強<ref name=成長期/>{{Refnest|group=注|2011年には平均して1日あたり5キログラムのペースで増量したとする研究も発表された<ref>{{Cite web|和書|title=ティラノサウルス、これまでの想像より食欲旺盛=研究 |url=https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-23619720111013 |accessdate=2020-12-19 |date=2011-10-13 |publisher=[[ロイター]]}}</ref>。}}のペースで体重が増大していた。16‐22歳に達するまでに完全な成体の体サイズに至り、それから成長が停止したと考えられている<ref name=bbclifespan>{{Cite web |url=https://www.sciencefocus.com/planet-earth/dinosaur-lifespan |title=Live fast, die young: How dinosaurs lived viciously short lives |access-date=2024-02-23 |website=www.sciencefocus.com |language=en}}</ref>。また、完全に成長した後で長生きすることはなく、同研究のティラノサウルス個体のうち3体は成長が停止した2,3年後に死亡していた。2019年2月時点で研究されたティラノサウルス個体のうち最高齢個体は28 - 29歳と推定されている<ref name=恐竜の教科書/>。2023年時点では、27‐30歳で大抵は死亡していたと考えれている<ref name=bbclifespan/>。
 
なお、著しい成長期においても常に一定のペースで成長していたわけではないことが示されている。アメリカ合衆国[[イリノイ州]]の{{仮リンク|バーピー自然史博物館|en|Burpee Museum of Natural History}}が所蔵する2体の亜成体標本(うち1体は「ジェーン」)の骨のミネラルの偏りから、ティラノサウルスは温暖期に急成長し、寒冷期に3 - 6か月程度成長が止まっていたことが示唆されている。これは食料の少ない時期に備えた生存戦略の1つであり、ティラノサウルスの環境適応に繋がっている可能性がある<ref name=成長期>{{Cite web|和書|title=成長期のティラノサウルス発見 新種論争に決着か |date=2020-02-01 |publisher=[[日本経済新聞社]]・日経BP |accessdate=2020-12-19 |author=Michael Greshko |website=Nikkei Style |url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54698040S0A120C2000000/}}</ref>。
 
=== 走行速度 ===
<!-- 走行速度の分類は仮に提唱年順としておく。補足年によって順を変えない。 -->
[[ファイル:Philmont_Scout_Ranch_Tyrannosaurus_footprint.jpg|thumb|200px|left|ティラノサウルスの足跡化石]]
ティラノサウルスの歩行・走行速度については未だ論争中である。その最大の原因は、彼らの速さを示す足跡化石が見つかっていないことにある。足跡化石そのものは発見されてはいるが、歩幅がわからないのである。加えて、走るのには不利な巨体を持ちながら、足の速い恐竜の特徴である[[アークトメタターサル]]を併せ持っていることが挙げられる。なお、ティラノサウルスのアークトメタターサルを研究し、その論文の執筆を行ったエリック・スニベリー(Eric Snively)とアンソニー・ラッセル(Anthony P. Russell)は、ティラノサウルスがアークトメタターサルを持たない大型獣脚類と比べて遥かに機敏であることを立証しないが、ほのめかしている。このような事情があるため、下は18[[km/h]]から上は70km/hまで実に様々な走行速度説が提示されており、とりわけ約20 - 40k/mhの間に収まる値が多い。以下に現在の代表的な説を紹介する。
 
[[ファイル:Philmont_Scout_Ranch_Tyrannosaurus_footprint.jpg|thumb|200px|left|ティラノサウルスの足跡化石]]
;速度40 - 50km/h説
ティラノサウルスの歩行・走行速度については未だ論争中である。その最大の原因は、彼らの速さを示す足跡化石が見つかっていないことにある。足跡化石そのものは発見されてはいるが、歩幅が分からないのである。加えて、走るのには不利な巨体を持ちながら、足の速い恐竜の特徴である[[アークトメタターサル]]を併せ持っていることが挙げられる。なお、ティラノサウルスのアークトメタターサルを研究し、その論文の執筆を行ったエリック・スニベリー(Eric Snively)とアンソニー・ラッセル(Anthony P. Russell)は、ティラノサウルスがアークトメタターサルを持たない大型獣脚類と比べて遥かに機敏であることを立証しないが、ほのめかしている。このような事情があるため、下は15km/hから上は70km/hまで実に様々な走行速度説が提示されており、とりわけ約20 - 40km/hの間に収まる値が多い。以下に現在の代表的な説を紹介する。    
:ティラノサウルスは含気骨化した恐竜であり、鳥類と同様の[[気嚢]]を具えていたとされる。そのため、研究者によっては現在考えられているより軽量である3 - 4tの体重を主張している{{要出典|date=2019年8月}}。もし体重が3 - 4tであれば、40 - 50km/hが妥当だと言われている。近年では[[マジュンガサウルス]]をはじめ気嚢の痕跡を残す獣脚類の骨格が複数発掘されている。恐竜全体、少なくとも[[竜盤類]]に分類される[[獣脚類]]や[[竜脚類]]が気嚢を備えていたという学説は大幅に強化されている<ref>Basic avian pulmonary design and flow-through ventilation in non-avian theropod dinosaurs</ref>
;速度15 - 20km/h説
:[[1982年]]提唱。主に哺乳類における速度・歩幅・体格の関係から、足跡と比較解剖学の知見に基づいて51属の恐竜の走行速度が求められている。ティラノサウルスを含む大型の二足歩行の獣脚類は15 - 20km/hが最高速度であったとされる<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Speeds and gaits of dinosaurs |url=https://doi.org/10.1016/0031-0182(82)90005-0 |author=Richard A.Thulborn |doi=10.1016/0031-0182(82)90005-0 |date=1982-01-21 |journal=Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology |volume=38 |issue=3-4 |pages=227-256}}</ref>。
;速度36km/h説
:[[1995年]]提唱。MOR 555(「ワンケル・レックス」)と呼ばれる体重6トンとされる個体を用いた研究が行われた。その結果、成体のティラノサウルスが20m/s(72km/h)で走った場合に転倒すると命に関わる大怪我をすることが示された。そのため最高10m/s(36km/h)で走っていたと推測されている<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Body mass, bone “strength indicator,” and cursorial potential of Tyrannosaurus rex |author1=James O Farlow |author2=Matt B Smith |author3=John M Robinson |year=1995 |journal=Journal of Vertebrate Paleontology |volume=15 |issue=4 |pages=713-725 |url=https://doi.org/10.1080/02724634.1995.10011257 |doi=10.1080/02724634.1995.10011257}}</ref>。また、神奈川大学の宇佐見義之は、ティラノサウルスの腰から下の筋骨格モデルを作製して仮想空間で数千万回の走行シミュレーションと衝撃耐久シミュレーションを行い、約51km/hを超えると衝撃に脚が耐えられないと判明したことから、現実的には時速36km/h程度で走ることができたであろうと主張した<ref name=神奈川/>。
;走行は困難であるという説
:[[1999年]]提唱。{{仮リンク|ドナルド・ヘンダーソン([[:|en:|Donald Henderson|en]])}}[[アロサウルス]]とティラノサウルスの3D骨格モデルを作成して[[シミュレーション|コンピュータ・シミュレーション]]を行った結果、ティラノサウルスの歩幅はそれほど広くなく、18km/h程度が限界という結果を得たと1999年に発表した。
:さらに[[2002年]]、ジョン・ハッチンソン(John Hutchinson)とマリアノ・ガルシア(Mariano Garcia)ティラノサウルスは生体工学的に走ることができないと発表した。ハッチンソン彼らはティラノサウルスが体重に対して後肢の関節を支えて走行するために必要とする筋肉量を計算したが、その結果は走行が極めて困難であることを示しており<ref name=恐竜博2019/>{{Refnest|group=">"|走行運動は脚の垂直方向に大きな荷重をかけ、人間の場合は体重の2.5倍ほどの荷重が立脚相中期にかかるとされている。もし、体重6t6トンのティラノサウルスの脚にその2.5倍の荷重がかかるとすると、左右の脚にそれぞれ体重の約40%<ref name=恐竜博2019/>、合計で86%ほどの筋肉が必要になると論文中には述べられている。筋肉量は各[[関節]]にかかる[[トルク]]と関節から推定されるモーメントアームから計算されている。必要となる片足の筋肉の内訳は、股関節伸展筋が体重の15%、膝関節伸展筋が4%、足首関節伸展筋が15%、屈指筋が9%であり、合計43%必要であると算定されている。そのような筋肉量はありえないので、ティラノサウルスは走れないと結論付けられた。ただし、現生の[[ダチョウ]]のような大型陸鳥では筋肉と腱などの連動性が下肢の筋肉量を小さく抑えるのに役立っているが、ティラノサウルスの筋肉の弾性要素と腱の連動性については不確定要素が多かったため、上のハッチンソンの計算では無視されている。</ref>}}、妥当な最高速度をフルード数から求められる歩行速度限界である18km/h前後とした。なお、この研究でモデル(標本番号:MOR 555)MOR 555 の体重を6t6トンと仮定している<ref name=百周年/>。食用に改良されたニワトリをコンピューター・シミュレーションのモデルとするのに問題があるとの指摘もある。
;速度40 - 50km/h説
;長距離歩行適性説
:ティラノサウルスは含気骨化した恐竜であり、鳥類と同様の[[気嚢]]を具えていたとされる。{{要出典範囲|そのため、研究者によっては現在考えられているより軽量である3 - 4トンの体重を主張している。もし体重が3 - 4トンであれば、40 - 50km/hが妥当と言われている。|date=2020年12月}}近年では[[マジュンガサウルス]]をはじめ気嚢の痕跡を残す獣脚類の骨格が複数発掘されている。恐竜の中でも、[[竜盤類]]に分類される[[獣脚類]]や[[竜脚類]]が気嚢を備えていたという仮説は多くの証拠から支持されている<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Basic avian pulmonary design and flow-through ventilation in non-avian theropod dinosaurs |author1=Patrick M O'Connor |author2=Leon P A M Claessens |doi=10.1038/nature03716 |journal=Nature |year=2005 |url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16015329/}}</ref>。
:四肢骨の長さの比率を分析した結果、ティラノサウルスの後肢は高速疾走に向いた形態から長距離歩行に適した形態へ進化する傾向があり、あまり速くはなかったという説がある。歩幅と体軸の回転性を追求した疾走型生物の場合、四肢骨は大腿部(もも)に対して下腿部(脛から足先)の方が圧倒的に長い。しかしティラノサウルスは、大腿と膝下の差が縮まりつつあった(成体の比率は約1:1.2)。そうした変化は大型化するに従って脛の成長が鈍化する事で発生したらしい。この事実から、ティラノサウルスは疾走型から長距離歩行型に移行していったと説明される。その推定速度は15 - 34km/hであるが、それでも[[トリケラトプス]]や[[トロサウルス]]等の[[角竜類|角竜]]を追いかけるのには十分であったのではないかと論じられている<ref name=マラソン>{{Cite web|url=https://www.mcgill.ca/channels/channels/news/t-rex-was-champion-walker-super-efficient-lower-speeds-322130 |title=T. rex was a champion walker, super-efficient at lower speeds |date=2020-05-13 |publisher=McGill |accessdate=2020-07-19}}</ref>。また近年の研究では角竜の前足は走行に適していないことが判明している。
:一方でティラノサウルスは大型恐竜の中では下腿部の比率が大きい恐竜の一種でもある(アロサウルスなどを含む[[カルノサウルス類]]と比べると明らかに比率は上回っている)。これはティラノサウルスの中足骨が他の大型肉食恐竜よりずっと長いからである。また、現生するいくつかの捕食動物より下腿部の比率は大きい([[ライオン]]を上回り、[[ウマ]]よりやや劣る)。なお、生物は進化の過程で大型化するにつれ[[異形生長]](アロメトリックグロウ)するため、必ずしも四肢骨の比率変化が疾走型から長距離歩行型への移行と結び付くわけではない。
;速度30km/h前後説
:[[2007年]]提唱。マンチェスター大学]]のビル・セラース(Bill Sellers)はティラノサウルスの筋骨格のコンピュータ・モデルを作成し、走行のシミュレーションを行った。その結果、体重6t6トンのティラノサウルスは28km/hで速度で走行できるという結果を得たとした<ref name=神奈川>{{Cite news|和書 ja |title=ティラノサウルスは俊足? 生体力学で迫る恐竜の走り |newspaper=[[日本経済新聞]] |date=2019-07-27 |accessdate=2020-07-20 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47761780V20C19A7000000/}}</ref>(セラースは2007年の論文発表前にシミュレーション結果をWEB上に公開している<ref>{{Cite web|url=http://homepage.mac.com/wis/ASL/Projects/Tyrannosaurus/index.html |archiveurl=https://web.archive.org/web/20051215132807/http://homepage.mac.com/wis/ASL/Projects/Tyrannosaurus/index.html |accessdate=2020-07-20 |archivedate=2005-12-25 |author=Bill Sellers |title=Tyrannosaurus Simulation}}</ref><ref group=注>簡単なティラノサウルスの筋骨格モデルを作成した結果、体重6トンのティラノサウルスは最高25 - 54km/hで走れると書かれている。ムービーで公開されているモデルは38.5km/h(10.7m/s)である。</ref>)。また、ティラノサウルス以外にも3種類の現生動物とアロサウルス、[[ディロフォサウルス]]、[[ヴェロキラプトル]]、[[コンプソグナトゥス]]の最高速度を算定したが、現生種の算定速度は実際のものと一致した。また、アロサウルスのモデルでも発見された足跡化石に一致する歩幅と速度が算定されている。これは現在最も中立的な説の一つであり、筋肉量、速筋・遅筋の割合、筋力などのパラメータはどれも推測される範囲の中間値を使っている。またなお、2002年にハッチンソンらが発表した鈍足説と違い、筋肉の弾性要素や収縮速度及び速筋や遅筋などがモデルとして考慮されている。算定された速度は29km/hであるが、前述のようにパラメータが中間的であるため、これより速い可能性も遅い可能性もありえる。論文中には、速筋の割合や筋肉量によってどのように最高速度が変化するかのグラフが記載されており、それによると最低値で20km/h、最高値で50km/hである。
:また[[2015年]]には、やはり時速30km/hほどの走行が可能であったとする論文が発表されている<ref name=vsハドロ/>。[[神奈川大学]]の[[宇佐見義之]]は、ティラノサウルスの腰から下の筋骨格モデルを作製して仮想空間で数千万回の走行シミュレーションと衝撃耐久シミュレーションを行い、約51km/hを超えると衝撃に脚が耐えられないと判明したことから、現実的には時速36km/h程度で走ることができただろうと彼は主張した<ref name=神奈川/>。
:時速30km/h前後という数値は、以前考えられていたよりもティラノサウルスの走行性能が他の大型獣脚類(例[[カルカロドントサウルス科]]のような他の大型獣脚類に匹敵しうる事も示している。さらに時速30km/hという値は、獲物とされる[[エドモントサウルス]]を追跡するにも十分であった<ref name=vsハドロ>[{{Cite journal2 |df=ja |journal=Cretaceous Research |volume=61 |pages=1-4 |url=https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0195667115301452 |title=A tyrannosaur trackway at Glenrock, Lance Formation (Maastrichtian), Wyoming (2015)]|year=2016 |author1=Sean D.Smith |author2=W. Scott Persons IV |author3=Lida Xingc}}</ref>。
;長距離歩行適性説(速度15 - 34km/h)
:[[2020年]]提唱。四肢骨の長さの比率を分析した結果、ティラノサウルスの後肢は高速疾走に向いた形態からエネルギー効率を重視した長距離歩行に適した形態へ進化する傾向があり、あまり速くはなかったという説がある。歩幅と体軸の回転性を追求した疾走型生物の場合、四肢骨は大腿部(もも)に対して下腿部(脛から足先)の方が圧倒的に長い。しかしティラノサウルスは、大腿と膝下の差が縮まりつつあった(成体の比率は約1:1.2)。そうした変化は大型化するに従って脛の成長が鈍化する事で発生したらしい。この事実から、ティラノサウルスは疾走型から長距離歩行型に移行していったと説明される。その推定速度は15 - 34km/hであるが、それでも[[トリケラトプス]]や[[トロサウルス]]等の[[角竜類|角竜]]を追いかけるのには十分であったのではないかと論じられている<ref name=マラソン>{{Cite web|url=https://www.mcgill.ca/channels/channels/news/t-rex-was-champion-walker-super-efficient-lower-speeds-322130 |title=T. rex was a champion walker, super-efficient at lower speeds |date=2020-05-13 |publisher=[[マギル大学]] |accessdate=2020-07-19}}</ref>。また、近年{{いつ|date=2020年12月}}の研究では角竜の前足は走行に適していないことが判明している。
:一方でティラノサウルスは中足骨が他の大型肉食恐竜よりずっと長いため、大型恐竜の中では下腿部の比率が大きい恐竜の一つでもあり<ref group=注>アロサウルスなどを含む[[カルノサウルス類]]と比べると明らかに比率は上回っている。</ref>、現生するいくつかの捕食動物よりも大きい<ref group=注>[[ライオン]]を上回り、[[ウマ]]よりやや劣る。</ref>。なお、生物は進化の過程で大型化するにつれ[[異形生長]]するため、必ずしも四肢骨の比率変化が疾走型から長距離歩行型への移行と結び付くわけではない。
 
=== 食性 ===
白亜紀後期マーストリヒチアン最末期の数百万年に生息したティラノサウルスは、'''非常に強力な当時の陸上生態系の[[頂点捕食者]]'''であり、1億年以上に渡った捕食者。2010年にデビッド・ホーン獲物の[[軍拡競争渡部真人]]おけが発表した論文によ一つと、ティラノサウルスは食事完成形だ際にも骨を噛み砕きながら肉を飲み込んでいたのではなく、肉を骨から剥ぎ取て摂食していというそれまた、飲み込む際に最強の植物現生鳥類やワニも採用している慣性摂恐竜と名高法を用[[トリケ、剥ぎ取った肉を空中に放り投げて咥え直していた。2007年の研究では50キログトプス]]と関係肉塊首の筋肉を使っも明らか約4.5メートル以上投げることがきたとされている<ref>The Coevolution of Tyrannosaurus & Its Prey: Could Tyrannosaurus Chase Down &name="共食いも" Kill a Triceratops for Lunch?(S. Randolph May:2014)</ref>。
 
;腐肉食説
==== 腐肉食説とその議論 ====
現在では概ね否的されているが、かつてはティラノサウルスなどの大型獣脚類は[[腐肉食動物]](スカベンジャー)だと考えられていた時期もあった。古くは[[ローレンス・ランべ]]が1917年に提唱し、その根拠は大型獣脚類の歯があまり摩耗していなかった事にある<ref name=ランべ>The Cretaceous Theropodous dinosaur Gorgosaurus(L.M. Lambe:1917)</ref>。<ref group=注>なお説の発端はティラノサウルスではなく近縁の[[ゴルゴサウルス]]である</ref>、最近では米国人古生物学者[[ジャック・ホーナー]]のスカベンジャー(scavenger、[[腐肉食者]])説が有名である。ただし、この説は一般向けの出版物やテレビ番組<ref group=注>「[[新説 Tレックス]]」(制作:ディスカバリーチャンネル)など</ref>などでよく取り上げられるものの、ホーナー自身一報たりと論文にしておらず、'''学説としてティラノサウルス腐肉専門説なるものは存在しない'''。これらの説では下記のような主張をもってティラノサウルスを腐肉食専門であったと断じている。
現在では概ね否定されているが、かつてはティラノサウルスなどの大型獣脚類は[[腐肉食動物]](スカベンジャー)と考えられていた時期もあった。古くは[[ローレンス・ランベ]]が1917年に提唱し、その根拠は大型獣脚類の歯があまり摩耗していなかった事にある<ref name=ランベ>{{Cite journal2 |df=ja |title=The Cretaceous Theropodous dinosaur Gorgosaurus |author=L.M. Lambe |date=1917-01-01 |publisher=Geological Survey of Canada |journal=Memoir 100 |url=https://doi.org/10.4095/101672 |doi=10.4095/101672}}{{オープンアクセス}}</ref><ref group=注>なお説の発端はティラノサウルスではなく近縁の[[ゴルゴサウルス]]である。</ref>。最近{{いつ|date=2020年12月}}では米国人古生物学者[[ジャック・ホーナー]]のスカベンジャー説が有名であるが、この説は一般向けの出版物やテレビ番組<ref group="注">『[[新説・T-レックス]]』(ディスカバリーチャンネル制作)など。</ref>などでよく取り上げられるものの、ホーナー自身一報たりと論文にしておらず、'''学説としてティラノサウルス腐肉専門説なるものは存在しない'''。
*獣脚類の歯に摩耗があまり確認されていない<ref name=恐竜学入門/><ref name=ランべ>The Cretaceous Theropodous dinosaur Gorgosaurus(L.M. Lambe:1917)</ref>。
 
*極度に[[退化]]した前肢は、[[草食動物|草食]]恐竜を襲撃するには明らかに不利である<ref name=恐竜学入門/>。
以下、ティラノサウルス腐肉食説とその反論を記す。
*発達した嗅覚は[[ハゲワシ]]や[[コンドル]]のような腐肉食動物の特徴である<ref>Snyder, Noel F. R. & Helen Snyder (2006). Raptors of North America: Natural History and Conservation. Voyageur Press. p. 40. ISBN 0-7603-2582-0.</ref>。
{| class="wikitable" border="1" style=font-size:small
*大きな体躯は他の肉食動物を獲物を取り合うのに有利だった<ref group=注>現生の大型肉食獣のライオンは、地域によっては獲物の半数以上をハイエナから強奪している</ref><ref>Creel, S.; Spong, G.; Creel, N. (2001). "Interspecific competition and the population biology of extinction-prone carnivores". In Gittleman, J. L.; Funk, S. M.; Macdonald, D. W.; Wayne, R. K. (eds.). Carnivore Conservation (1st ed.). Cambridge University Press. pp. 35−60. ISBN 978-0-521-66232-1.</ref>。
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! 腐肉食派の意見 !! それに対する反論
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| style="width:50%" | 獣脚類の歯に摩耗があまり確認されていない<ref name=恐竜学入門/><ref name=ランベ/>。|| style="width:50%" | 獣脚類の歯に摩耗が確認されていないという前提は既に成立しておらず、ティラノサウルスを含め全ての大型獣脚類の歯で摩耗が確認されている。また、現生動物ではスカンベンジャーとハンターのいずれも歯に摩耗が見られる<ref name=恐竜学入門/>。
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| 極度に[[退化]]した前肢は、[[草食動物|草食]]恐竜を襲撃するには明らかに不利である<ref name=恐竜学入門/>。|| 前肢を使用せずとも大きな顎と歯を上手く利用すれば狩りは可能である<ref name=恐竜学入門/>。
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| 発達した嗅覚は[[ハゲワシ]]や[[コンドル]]のような腐肉食動物の特徴である<ref>Snyder, Noel F. R. & Helen Snyder (2006). Raptors of North America: Natural History and Conservation. Voyageur Press. p. 40. ISBN 0-7603-2582-0.</ref>。|| ・新鮮な肉を探す際にこそ鋭い嗅覚が必要であった<ref name=恐竜の生態/><ref name=腐肉食議論/>。<br>・ティラノサウルスは聴覚や視覚も卓越しており、嗅覚も感覚の1つとして駆使しながら獲物を追跡するポテンシャルがある<ref name=恐竜学入門/>。<br>・嗅覚の用途が餌の確保だけであったとは限らず、種や性別の判断に用いられた可能性がある<ref name=百周年/><ref name=腐肉食議論/>。
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| 大きな体躯は他の肉食動物を獲物を取り合うのに有利であった<ref>Creel, S.; Spong, G.; Creel, N. (2001). "Interspecific competition and the population biology of extinction-prone carnivores". In Gittleman, J. L.; Funk, S. M.; Macdonald, D. W.; Wayne, R. K. (eds.). Carnivore Conservation (1st ed.). Cambridge University Press. pp. 35−60. ISBN 978-0-521-66232-1.</ref>。|| ティラノサウルスの巨体および10代の頃の急激な成長期を腐肉のみで賄えるとは考えにくい。
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| 歯の形状が[[ハイエナ]]のように骨を噛み砕くのに適しており、骨の中に残った[[骨髄]]を摂取することも可能であった。|| そもそもハイエナはライオンよりも優秀なハンターであり<ref>Tyrants of the Cenozoic: Evolution of Bone-Crushing Hyenas and Dogs – YouTube</ref>、骨を噛み砕くことのできる歯はスカベンジャーに限ったものではない<ref name=恐竜の生態/>。
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| 当時の温暖な環境は今とは比べるまでもなく草食動物に快適でその数が多かったため、ティラノサウルスは腐肉に困らなかった。|| 化石の数から見積もられる草食恐竜と肉食恐竜の比率は、現在の自然界のものと大差は無い。
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| ティラノサウルスは遅速で機敏さに欠けるため、素早い草食恐竜を追いかけることは不可能であった。|| 走行速度については上記の通り諸説あるが、ティラノサウルスと同時代の植物食恐竜である[[トリケラトプス]]や[[エドモントサウルス]]は大腿部に対する下腿部の比率が小さいことから俊足の動物ではなかったと見られており、仮に走行速度が18km/h程度であっても狩りに支障はなかった<ref name=百周年/>。
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| 体サイズに対して目が小さく、遠方の獲物を発見できない<ref name=恐竜の生態>{{Cite book ja |author=キム・ドユン |others=渡辺麻土香(訳)|title=マンガで学ぶ 恐竜の生態 |publisher=[[マイナビ出版]] |isbn=978-4-8399-7105-2 |date=2020-05-27 |pages=31-58}}</ref>。|| 実際には絶対的なサイズも相対的なサイズも共に大きかった<ref name=腐肉食議論>{{Cite journal2 |df=ja |title=Intra-guild competition and its implications for one of the biggest terrestrial predators, ''Tyrannosaurus rex'' |url=https://doi.org/10.1098/rspb.2010.2497 |doi=10.1098/rspb.2010.2497 |date=2011-01-26 |author1=Chris Carbone |author2=Samuel T. Turvey |author3=Jon Bielby |volume=278 |issue=1718 |pages=2682-2690 |journal=Proc. R. Soc. B.}}{{オープンアクセス}}</ref>。眼球の直径は陸上動物では最大の13センチメートル程度で、ヒトはおろか[[猛禽類]]を超える視力があった。また、他の肉食恐竜よりも両眼球の視野の重複が大きく、立体視により獲物との距離を推し量ることができた<ref name=恐竜の生態/>。
|}
 
さらに、ティラノサウルスが積極的に捕食を行っていたことを支持する証拠・論拠も多数存在している。
 
まず[[エドモントサウルス]]や[[トリケラトプス]]の化石には、ティラノサウルスに噛み付かれた後も生存し、治癒していたことを示すものが発見されている。これはティラノサウルスが生きた獲物を襲うという事実があった証拠と見なすことができる<ref>{{Cite journal2 |df=ja |url=https://doi.org/10.1073/pnas.1216534110 |title=Physical evidence of predatory behavior in ''Tyrannosaurus rex'' |journal=PNAS |author1=Robert A. DePalma II |author2=David A. Burnham |author3=Larry D. Martin |author4=Bruce M. Rothschild |author5=Peter L. Larson |date=2013-07-30 |volume=30 |issue=31 |doi=10.1073/pnas.1216534110}}</ref><ref>{{Cite report2 |df=ja |url=https://www.researchgate.net/publication/290310286_Paleopathology_in_Late_Cretaceous_Hadrosauridae_from_Alberta_Canada |title=Paleopathology in Late Cretaceous Hadrosauridae from Alberta, Canada |date=January 2014 |author1=Darren Tanke |author2=Bruce Rothschild}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7638/ |archiveurl=https://web.archive.org/web/20160730145312/https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7638/ |date=2013-03-01 |archivedate=2016-07-30 |accessdate=2020-12-19 |publisher=ナショナルジオグラフィック協会 |author=Ker Than |title=T・レックスから逃れたカモノハシ恐竜}}</ref>。また、とあるハドロサウルス科の椎骨にはティラノサウルスの折れた歯が食い込んで発見されており、これはティラノサウルスが生きた獲物を襲って交戦した直接の証拠の1つでもある<ref>{{Cite news ja |url=https://www.afpbb.com/articles/-/2956076 |title=T・レックスは生きた獲物を捕食、研究 |date=2013-07-06 |accessdate=2020-11-27 |agency=[[フランス通信社]] |author=Kerry Sheridan}}</ref>。なお、捕食対象は植物食恐竜のみに留まらなかった可能性があり、本種同士が共食いをしていた痕跡を残す化石も発見されている<ref name=共食いも>{{Cite web|和書|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/111000316/ |title=T・レックスのメニュー拝見、ときには共食いも |publisher=ナショナルジオグラフィック協会 |accessdate=2020-12-19 |date=2015-11-11 |author=Brian Switek}}</ref>。
*歯の形状が[[ハイエナ]]のように骨を噛み砕くのに適しており、骨の中に残った[[骨髄]]を摂取することも可能であった。
*当時の温暖な環境は今とは比べるまでもなく草食動物に快適でその数が多かったため、ティラノサウルスは腐肉に困らなかった。
*ティラノサウルスは遅速で機敏さに欠けるため、素早い草食恐竜を追いかけることは不可能であった(“後ろ脚”を参照)。
 
それと本種は、当時の食物連鎖における頂点捕食者を担っていたが、決して天下無敵の存在ではなく、''Lee rex''と呼ばれる個体からは、獲物のトリケラトプスの角によって反撃を受けたと思しき外傷の痕跡が報告されている<ref>『TATE MUSEUM’S “LEE REX” GETS A NEW HOME(GALLERY)』
ただしこれらの主張に対しては数多の問題点が指摘されている。まず獣脚類の歯に摩耗が確認されていないという前提は既に成立しておらず、ティラノサウルスを含め全ての大型獣脚類の歯で摩耗が確認されている<ref name=恐竜学入門/>。また、前肢を使用せずとも大きな顎と歯を上手く利用すれば狩りは可能で<ref name=恐竜学入門/>、発達した嗅覚や骨を噛み砕ける歯も活動的な捕食者であった事を否定する材料にはならない。そもそも、ハイエナはライオンよりも優秀な肉食動物である<ref>Tyrants of the Cenozoic: Evolution of Bone-Crushing Hyenas and Dogs – YouTube</ref>。また、化石の数から見積もられる草食恐竜と肉食恐竜の比率は現在の自然界のものと大差は無い。走行速度については諸説あるが、スカベンジャー説の論拠には反駁されやすいものが多い。
https://oilcity.news/community/science/2017/05/31/tate-museums-lee-rex-gets-new-home-gallery/
(OIL CITY NEWs:2017)</ref>。
 
さらに、ティラノサウルスが積極的に狩猟を行っていたことを支持する証拠・論拠も多数存在している。まず[[エドモントサウルス]]や[[トリケラトプス]]の化石には、ティラノサウルスに噛み付かれた後も生存し、治癒していたことを示すものが発見されている<ref>[https://www.pnas.org/content/110/31/12560.short Physical evidence of predatory behavior in Tyrannosaurus rex]</ref><ref>[https://www.researchgate.net/profile/Bruce_Rothschild2/publication/290310286_Paleopathology_in_Late_Cretaceous_Hadrosauridae_from_Alberta_Canada/links/574dd1b308ae8bc5d15bf6a8.pdf Paleopathology in Late Cretaceous Hadrosauridae from Alberta, Canada with comments on a putative Tyrannosaurus bite injury on an Edmontosaurus tail]</ref>。これは、本種が生きた獲物を襲うという事実があった証拠と見ることができる。また、当時の北アメリカに存在した恐竜のうち角竜は全体の約8割を占めていたようで、[[生態系]]のバランスを保つためには相応の捕食動物がいたはずであると推論されるが、1トン以上の体重を持ち、トリケラトプスやエドモントサウルスのような大型植物食恐竜を襲撃することのできた恐竜は今のところティラノサウルスしか発見されていない<ref group=注>[[ダコタラプトル]]は鉤爪こそ大きいものの、体格は華奢であり、そもそも全長5メートル弱であった</ref>。なお大型角竜の化石だけでなく、本種同士が共食いをしていた痕跡を残す化石も発見されており<ref>T・レックスのメニュー拝見、ときには共食いも(日経ナショナルジオグラフィック:2015)</ref>、近年発見されたこれらの証拠は、ティラノサウルスが凶暴な捕食者であった可能性を高く示している。さらにティラノサウルスは成長期に非常に早いスピードで成長し<ref group=注>17歳ごろには1日で体重が1-2キロも増えたらしい</ref>、[[代謝|高代謝]]であったとされるため、腐肉のみでそれを維持できるとは考えにくい。近縁種の研究によれば、鋭い嗅覚も夜間や森の中での狩猟において真価を発揮したのではないかと考えられている<ref>Fiorillo, A. R.; Tykoski, R. S. (2014). Dodson, Peter. ed. “A Diminutive New Tyrannosaur from the Top of the World”. PLoS ONE 9 (3): e91287. doi:10.1371/journal.pone.0091287. PMC: 3951350. PMID 24621577.</ref>。これらを根拠として現時点での総合的な推測としては、大多数の現生の肉食動物と同様に、腐肉があれば利用したスカベンジャーであると同時に獰猛なプレデターであったと仮定されるケースが多い。また本種が残した思しき巨大な糞化石([[コプロライト]])が見つかっており、内部には餌食になった植物食恐竜の骨片が大量に含まれていた。これは本種の顎の力が強大であることを示すと共に、消化にかける時間がワニのような爬虫類よりもく、むしろ哺乳類や鳥類に近い消化器官を持っていた事を示唆している<ref>{{Cite journaljournal2 |df=ja |title=A king-size theropod coprolite |url=https://www.researchgate.net/publication/232796267_A_king-size_theropod_coprolite |doi=10.1038/31461 |journal=[[ネイチャー|Nature]] |volume=393 |issue=6686 |pages=680-682 |yaeryear=1998 |author1=Karen Chin |author2=Tim Tokaryk |author3=Gregory M. Erickson |author4=Lewis C. Calk}}</ref>。
 
状況証拠としては、当時の北アメリカの生態系の構成が挙げられる。当時の北アメリカに存在した恐竜のうち角竜は全体の約8割を占めていたようで、[[生態系]]のバランスを保つためには相応の捕食動物がいたはずであると推論されるが、1トン以上の体重を持ち、トリケラトプスやエドモントサウルスのような大型植物食恐竜を襲撃することのできた恐竜は今のところティラノサウルスしか発見されていない<ref name=恐竜の生態/><ref group=注>[[ダコタラプトル]]は鉤爪こそ大きいものの、体格は華奢であり、そもそも全長5メートル弱であった。</ref>。また、死亡した植物食恐竜だけを摂食するにしてはティラノサウルスの個体数が多すぎるという問題もある<ref name=恐竜の生態/>。
もっとも、肉食動物の多くが捕食と腐食の両方を行っており、それは肉食恐竜も同様であったと考えられる。こうした数多の研究から、相手が植物食性動物であれ、自らよりも小型の動物食性動物であれ、死骸であれ、ティラノサウルスや他の多くの肉食性獣脚類は、種ごとの細かな割合こそ不明なれど、概ね狩りと死体漁りの両方を行っていたと考えられている<ref name=恐竜学入門/><ref>[https://www.cambridge.org/core/journals/the-paleontological-society-papers/article/fossil-record-of-predation-in-dinosaurs/36C4DFE7898BBCBACAFA6010C3F72E8A The fossil record of predation in dinosaurs (2002)]</ref>。
 
これらに基づく現時点での総合的な推測としては、大多数の現生の肉食動物と同様に、腐肉があれば利用したスカベンジャーであると同時に獰猛なプレデターであったと仮定されるケースが多い。現生の肉食動物の多くが捕食と腐食の両方を行っており、それは肉食恐竜も同様であったと考えられる。こうした数多の研究から、相手が植物食性動物であれ、自らよりも小型の動物食性動物であれ、死骸であれ、ティラノサウルスや他の多くの肉食性獣脚類は、種ごとの細かな割合こそ不明なれど、概ね狩りと死体漁りの両方を行っていたと考えられている<ref name=恐竜学入門/><ref name=恐竜の生態/>。
とあるハドロサウルス科の椎骨には、ティラノサウルスの歯が食い込んでおり、生きた獲物を襲った直接の証拠の1つでもある<ref>T・レックスは生きた獲物を捕食、研究
2013年7月16日 12:41 
発信地:ワシントンD.C./米国 [ 北米 米国 ]</ref>。
 
=== 体格 ===
[[ファイルFile:LongestHell theropodsCreek Formation Fauna.svgpng|thumb|290px|left|ヒト巨大な獣脚類白亜紀末スケール北米の恐竜との大きさ比較。<br />ティラノサウルスは赤茶色。]]
[[ファイルFile:TyrannosaurusLongest specimenstheropods.svg|thumb|300px290px|left|人ヒト様々巨大獣脚類のスケール比較。<br />ティラノサウルス標本の大きさ比較は青色。]]
[[File:Tyrannosaurus specimens.svg|thumb|300px|left|ヒトと様々なティラノサウルス標本の大きさ比較]]
骨格標本から推定される成体の[[体長]]は約11 - 13[[メートル|m]]、頭骨長は約1.5[[メートル|m]]で、その体重は概ね6 - 9[[トン|t]]と推測されている(体重に関しては異説も多く最低3tから最大14tまで幅がある)。発見されているティラノサウルスの[[化石]]はそれほど多くはなく、2001年の時点では20体程度であり、そのうち完全なものは3体のみである。
骨格標本から推定される成体の全長は約11 - 13メートル、頭骨長は約1.5メートルで、その体重は概ね6 - 9トンと推測されている<ref name=百周年/><ref name=最大体重・ナショジオ版/><ref group=注>体重に関しては異説も多く最低3トンから最大14トンまで幅がある。</ref>。2024年のジョーダン・マロンとデイビッド・ホーンによる研究によれば、最大のティラノサウルスは既知の最大の標本より体重が70パーセント重く全長が25パーセント大きく成長した可能性があり、全長15メートル体重15トンに達した可能性があるという<ref>{{Cite journal|last=Mallon|first=Jordan C.|last2=Hone|first2=David W. E.|date=2024-07|title=Estimation of maximum body size in fossil species: A case study using Tyrannosaurus rex|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.11658|journal=Ecology and Evolution|volume=14|issue=7|language=en|doi=10.1002/ece3.11658|issn=2045-7758|pmc=PMC11267449|pmid=39050661}}</ref><ref>{{Cite web |title=ティラノサウルス、もっと大きかった? カナダ・英の研究者「体重は推定の70%増、体長は25%長い」:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/DA3S16020172.html |website=朝日新聞デジタル |date=2024-08-27 |access-date=2024-11-20 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=ティラノサウルス、もっと巨大だった? 計算すると体重7割増しに:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASS8631H2S86PLBJ006M.html |website=朝日新聞デジタル |date=2024-08-10 |access-date=2024-11-20 |language=ja}}</ref>。
 
発見されているティラノサウルスの[[化石]]はそれほど多くはなく、2001年の時点では20体程度であり、そのうち完全なものは3体のみである。
当時の北米生態系には、ティラノサウルスに並ぶ肉食性の大型獣脚類は存在していなかった。これはジュラ紀に[[アロサウルス]]、[[ケラトサウルス]]、[[トルボサウルス]]などが共存したのとは対照的である。また前述のようにティラノサウルスの亜成体は非常に敏捷であり、かつ寿命における亜成体の時期がかなり長いため、本種のみが当時の生態系の中〜大型肉食恐竜のニッチを占める、一種の[[寡占]]化が起きていた<ref>Growing up Tyrannosaurus rex: Osteohistology refutes the pygmy “Nanotyrannus” and supports ontogenetic niche partitioning in juvenile Tyrannosaurus(Holly N. Woodward:2020)</ref>。
 
当時の北米生態系には、ティラノサウルスに並ぶ肉食性の大型獣脚類は存在していなかった。これはジュラ紀に[[アロサウルス]]、[[ケラトサウルス]]、[[トルボサウルス]]などが共存したのとは対照的である。また、前述のようにティラノサウルスの亜成体は非常に敏捷であり、かつ寿命における亜成体の時期がかなり長いため、本種のみが当時の生態系の中〜大型肉食恐竜のニッチを占める、一種の[[寡占]]化が起きていた<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Growing up Tyrannosaurus rex: Osteohistology refutes the pygmy “Nanotyrannus” and supports ontogenetic niche partitioning in juvenile Tyrannosaurus |author1=Holly N. Woodward |author2=Katie Tremaine |author3=Scott A. Williams |author4=Lindsay E. Zanno |author5=John R. Horner |author6=Nathan Myhrvold |date=2020-01-01 |volume=6 |issue=1 |doi=10.1126/sciadv.aax6250 |journal=Science Advances |url=https://advances.sciencemag.org/content/6/1/eaax6250.full}}</ref>。
 
=== 病理 ===
;病気
多くのティラノサウルスの顎の化石には無数の病変の痕跡が残されている。当初この病変は別のティラノサウルスの個体に襲われた負傷だと考えられていたが、後の研究で、[[ニワトリ]]や[[シチメンチョウ]]などの現生鳥類の顎に見られる病原性原虫トリコモナス・ガリナエによる病変に酷似していることが明らかになった。トリコモナス・ガリナエは顎の骨を変形・破壊する生態を持ち、同様の生態を持つ生物にティラノサウルスが苦しめられていたことが示唆されている<ref name=恐竜学入門/>。
:多くのティラノサウルスの顎の化石には無数の病変の痕跡が残されている。当初この病変は別のティラノサウルスの個体に襲われた負傷と考えられていたが、「スー」の下顎の骨に開いた穴の研究から、[[トリコモナス類|トリコモナス]]に類縁の種が影響したと2009年に発表された。トリコモナス・ガナリエは[[ニワトリ]]、[[ハト]]、[[シチメンチョウ]]、[[ハヤブサ]]などの多くの現生鳥類の顎に見られる寄生性原虫であり、寄生すると宿主の顎の骨を消費して変形や損傷をもたらし、餌の嚥下や呼吸までもを困難にする。「スー」の場合も同じような症状で餓死した可能性を研究チームは示唆している。同様の生態の生物にティラノサウルスが苦しめられていたことが示唆されている。また、この感染症の痕跡が同じティラノサウルス科の[[アルバートサウルス]]と[[ダスプレトサウルス]]の化石からも発見されており、トリコモナスによる感染症がかなり昔から存在していたと考えられるとともに、鳥類が恐竜から進化したという可能性をさらに強める証拠となった<ref name=恐竜学入門/><ref>{{Cite journal2 |df=ja |author1=Wolff, E. D |author2=Salisbury, S. W |author3=Horner, J. R |author4=Varricchio, D. J |date=2009-09-30 |url=https://doi.org/10.1371/journal.pone.0007288 |title=Common avian infection plagued the tyrant dinosaurs |journal=[[PLOS ONE]]}}{{オープンアクセス}}</ref><ref> {{Cite web ja |author=石田雅彦 |title=「恐竜」も新型コロナのような「呼吸器感染症」にかかっていた |url=https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ec132cc12d63b490d628c1c24bf508acf205903d |website=Yahoo!ニュース - エキスパート |access-date=2023-09-01 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web|和書|title=無敵のT・レックスは寄生虫に負けた? |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/1747/ |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |access-date=2023-09-01 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web|和書|title=Tレックス最大の敵は寄生虫だった?米豪研究 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/2648322 |website=www.afpbb.com |date=2009-10-01 |access-date=2023-09-01 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web2 |df=ja |title=Theropoda: CSI - Hell Creek: Chi uccise Sue? |url=https://theropoda.blogspot.com/2009/09/csi-hell-creek-chi-uccise-sue.html |website=Theropoda |date=2009-09-29 |access-date=2023-10-11 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。2022年には、トリコモナスの痕と解釈された穴は感染症ではなく外傷とみなすのが妥当ではないかという指摘がされた<ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Rothschild|first=Bruce|last2=O'Connor|first2=Jingmai|last3=Lozado|first3=María Cecilia|date=2022-12-01|title=Closer examination does not support infection as cause for enigmatic Tyrannosaurus rex mandibular pathologies|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667122002178|journal=Cretaceous Research|volume=140|pages=105353|doi=10.1016/j.cretres.2022.105353|issn=0195-6671}}</ref>。
;外傷
:スタンやペックズ・レックスなどの標本には同じティラノサウルスに噛まれたと見られる傷が見られる<ref>{{Cite web|url=http://www.nmnaturalhistory.org/node/262|title=All About Stan |publisher=ニューメキシコ自然史科学博物館 |accessdate=2023-10-31 |archivedate=2019-04-04 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190404012811/http://www.nmnaturalhistory.org/node/262}}</ref><ref>{{cite web|last=Miller |first=Jared |url=http://www.greatfallstribune.com/news/stories/20040507/localnews/370710.html |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110629115519/http://www.greatfallstribune.com/news/stories/20040507/localnews/370710.html |title=Finger bone, details give dino display its edge |publisher=Greatfallstribune.com |date=2004-05-07 |accessdate=2023-10-31 |archivedate=2011-06-29}}</ref>。[[ワイレックス]]と呼ばれる標本は尾が欠損しているが、これは共食いによるものの可能性があるとされることがある<ref> {{Cite web |title=ギガ恐竜展2017‐地球の絶対王者のなぞ‐ 写真特集:時事ドットコム |url=https://www.jiji.com/jc/d4?p=ggd715&d=d4_ank |website=時事ドットコム |access-date=2023-11-20 |language=ja}}</ref>。一方でこの解釈には異論もあり、アンドレア・カウによれば化石化の際に物理的に損傷したか、死後スカベンジャーによって失われた可能性が高いという<ref name=ワイレックス>{{Cite web |title=Theropoda: "Wyrex", il Tyrannosaurus con la coda mozza |url=https://theropoda.blogspot.com/2024/11/wyrex-il-tyrannosaurus-con-la-coda-mozza.html?m=1 |website=Theropoda |date=11 novembre 2024 |access-date=2024-11-19 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。
 
=== 性差 ===
かつては尻尾の付け根にある[[血道弓]]と呼ばれる骨の位置からオス・メスを判断できると考えられ<ref>{{Cite book ja |date=2008-06-10 |title=小学館の図鑑NEO 恐竜 |publisher=小学館|page=52−53 |isbn= 9784092172111}}</ref><ref group=注>メスは卵を通すために血道弓が短いと考えられていた。</ref>、例えば「スー」はメスと判断されてきた。しかし、今では根拠とされていた血道弓の配置が全く異なることが判明し、「スー」をメスと断定する根拠は失われてしまった<ref name=全百科/>。
 
骨盤で見分けることができるという説があり、その説ではスタンは骨盤が狭いことから雄であるとされる<ref>{{Cite web|url=https://paleontologyworld.com/dinosaurs-%E2%80%93-species-encycolpedia-curiosities/stan-tyrannosaurus-rex|title=Stan the Tyrannosaurus rex|last=nandi|date=2 January 2018|website=Paleontology World|accessdate=2023年10月31日}}</ref>。
雌個体の方が全体的な体型ががっしりしているとする説があり、具体的にはバッキーと呼ばれる標本などが該当すると主張する研究者もいるが、万人に受け入れられている説とは言い難い<ref>{{cite web|title=Unearthing T.Rex|url=http://www.unearthingtrex.com/pages/rex_traits.html|publisher=Black Hills Institute|accessdate=2023年10月31日}}</ref>。
 
Bレックスと呼ばれる標本の大腿骨から骨髄骨が発見されており、現生鳥類では産卵を控えた雌に見られる特徴であることからBレックスは雌個体であったと考えられている<ref> {{Cite web |title=Today's Word Search: The accidental discovery of the chicken's ancestor - the T-rex |url=https://gulfnews.com/games/play/todays-word-search-the-accidental-discovery-of-the-chickens-ancestor---the-t-rex-1.1624208048363 |website=Gulf News |access-date=2023-10-31 |language=en |first=Sanya Nayeem, Games |last=Editor}}</ref><ref>{{Cite journal2 |df=ja |last=Schweitzer|first=Mary Higby|last2=Zheng|first2=Wenxia|last3=Zanno|first3=Lindsay|last4=Werning|first4=Sarah|last5=Sugiyama|first5=Toshie|date=2016-03-15|title=Chemistry supports the identification of gender-specific reproductive tissue in Tyrannosaurus rex|url=https://www.nature.com/articles/srep23099|journal=Scientific Reports|language=en|volume=6|issue=1|pages=23099|doi=10.1038/srep23099|issn=2045-2322}}</ref><ref>{{Cite web |title=恐竜における骨髄骨の存在を化学的に証明しました {{!}} 研究成果 {{!}} ニュース |url=https://www.niigata-u.ac.jp/news/2016/16007/ |website=新潟大学 |access-date=2023-10-31 |language=ja}}</ref><ref>https://jscience.jp/files/docs/119987.pdf</ref><ref>{{Cite web |title=恐竜のオスとメスの違いはわかるの?|恐竜・古生物 Q&A|FPDM: 福井県立恐竜博物館 |url=https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/faq/r02047.html |website=FPDM: 福井県立恐竜博物館 |access-date=2023-10-31 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web |title=利用案内・情報 ≫ ホットニュース ≫ 2009-05-15 :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo |url=https://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001242347625173&p=3 |website=www.kahaku.go.jp |access-date=2023-11-02}}</ref><ref> {{Cite news2 |df=ja |title=Pregnant T-rex discovery sheds light on evolution of egg-laying |url=https://www.abc.net.au/news/science/2016-03-16/pregnant-t-rex-discovery-sheds-light-on-evolution-of-egg-laying/7251466 |work=ABC News |date=2016-03-16 |access-date=2023-11-02 |language=en-AU}}</ref>。
 
== 形態 ==
=== 頭部 ===
[[ファイル:Suskit and t-rex skulls.png|サムネイル|頭骨]]
ティラノサウルスの上下の[[顎]]には鋭い歯が多数並んでいるが、他の肉食恐竜と比べると大きい上に分厚く、最大で30[[センチメートル|cm]]にも達する。また、餌食となったとみられる恐竜の骨の多くが噛み砕かれていたことから驚異的な咬合力<ref group=注>上下の顎の咬み合わせの力をいう。</ref>を持っていたと考えられ、その力は少なくとも3トン、最大8トンに達したと推定される。これらの事からティラノサウルスは獲物に対し、他の肉食恐竜のように噛み付いて切り裂いたり、出血死を狙う方法は用いず、短時間で仕留めていたと考えられている。
頭部は大きく、頭骨長は全長との比較で13%<ref name=土屋2015>{{Cite book|和書|date=2015-07-15 |title=生物ミステリーPRO 三畳紀の生物 |author=[[土屋健 (サイエンスライター)|土屋健]] |publisher=[[技術評論社]] |page=97−99 |isbn=978-4-7741-7405-1}}</ref>、胴長との比較で47%に達する<ref>{{Cite book ja |date=1999-09-29 |title= カラー版 恐竜たちの地球 |publisher=岩波新書 |author=富田 幸光 |page=137 |isbn= 978-4004306375}}</ref>。頭骨は筋肉がつくと500キログラムにもなった<ref>{{Cite web |title=「【朝日新聞記事から】ティラノ、脳の遺産 脳囲む骨、日本初公開 」asahi.com : 朝日新聞社 - 「恐竜博2011」 - ニュース |url=https://www.asahi.com/event/kyoryu2011/topics/AIC201108030014.html |website=www.asahi.com |access-date=2023-10-26}}</ref><ref name=":12">{{Cite web |title=恐竜の頭部は空気で満たされていた |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/727/?ST=m_news |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |access-date=2024-12-18 |language=ja}}</ref>。
小林快次は、頭部形態に関して[[サウロスクス]]との収斂を示唆している<ref name=土屋2015/><ref name=土屋2021>{{Cite book|和書|date=2021-07-28 |title=地球生命 水際の興亡史 |author=[[土屋健 (サイエンスライター)|土屋健]] |publisher=[[技術評論社]] |page=100−101 |isbn=978-4-297-12232-4}}</ref>。
 
;顎と歯
:多くの獣脚類は[[顎]]の関節が外れやすく、獲物を飲み込むのに都合良くなっていたが、ティラノサウルスにはこの構造は見られない<ref>{{Cite book ja |author1=ジャン=ギィ・ミシャール |year=1992 |title=恐竜のすべて (「知の再発見」双書) |publisher=創元社 |page=103 |isbn=9784422210650}}</ref>。ティラノサウルスの上下の顎には鋭い歯が多数並んでいるが、他の肉食恐竜と比べると大きい上に分厚く、最大で30センチメートルにも達する。また、餌食となったとみられる恐竜の骨の多くが噛み砕かれていたことから、驚異的な咬合力<ref group="注">上下の顎の咬み合わせの力をいう。</ref>を持っていたと考えられている。推定方法によって多少の誤差は見受けられるものの、[[グレゴリー・エリクソン]]らの研究によると約8500 - 35000[[ニュートン (単位)|ニュートン]]<ref>{{Cite journal2 |df=ja |url=https://doi.org/10.1038/s41598-017-02161-w |title=The Biomechanics Behind Extreme Osteophagy in Tyrannosaurus rex |author1=Gignac, P.M |author2=Erickson, G.M |journal=Sci Rep 7 |date=2017-05-17 |doi=10.1038/s41598-017-02161-w}}</ref>、[[カール・ベイツ]]らの研究によると35000 - 57000ニュートンに達したとされた<ref name="共食いも" /><ref name="刷新">{{Cite web|和書|url=https://www2.nhk.or.jp/archives/articles/?id=C0010780|title=刷新される恐竜像と私たち~21世紀の恐竜番組~ |publisher=[[日本放送協会|NHK]] |accessdate=2020-12-19}}</ref>。この数値は現生の大型[[クロコダイル]]や他の獣脚類([[ギガノトサウルス]]など)を軽く凌駕していた。このような強力な咬合力では頭骨に莫大な負荷が掛かるが、ティラノサウルスの頭骨は40以上のパーツに分かれた上にそれぞれのパーツに数ミリメートルほどの間隙があり、この仕組みで負荷を分散させている<ref name="刷新" />。このように骨に少し可動域があることで衝撃を分散させていたが、これらの可動性は最小限で、噛みついた際に口蓋はほとんど動かず高い咬合力を実現していた<ref> {{Cite web |title=車も砕けるティラノサウルスの顎の力 仕組みを解明 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50504790S9A001C1000000/ |website=日本経済新聞 |date=2019-10-14 |access-date=2024-12-09 |language=ja}}</ref>。エミリー・レイフィールドらによる有限要素解析法(EFA)を用いた力学的研究では、発生する応力に頭骨が耐えられることが示された<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Ecological and evolutionary implications of dinosaur feeding behaviour |author1=Paul M.Barrett |author2=Emily J.Rayfield |year=2006 |journal=Trends in Ecology & Evolution |volume=21 |issue=4 |pages=217-224 |doi=10.1016/j.tree.2006.01.002 |url=https://doi.org/10.1016/j.tree.2006.01.002}}</ref><ref name="恐竜の教科書">{{Cite book ja |title=恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎|author1=ダレン・ナイシュ|authorlink1=ダレン・ナイシュ|author2=ポール・バレット|translator = 吉田三知世|others=[[小林快次]]・久保田克博・千葉謙太郎・田中康平監訳|edition=第1|date=2019-02-20|pages=141-147|publisher=[[創元社]]|___location=[[大阪府]][[大阪市]][[中央区 (大阪市)|中央区]]淡路町4-3-6|isbn=978-4-422-43028-7}}</ref>。これらのことから、ティラノサウルスは獲物に対し、他の肉食恐竜のように獲物の皮膚を切り裂いて出血死を狙う方法は用いず、短時間で仕留めていたと考えられている<ref name="共食いも" />。
 
[[ファイル:B-rex teeth.jpg|thumb|200px|left|upright|ティラノサウルスの歯]]
歯は大きく円錐形で頑丈な歯根をもち<ref name=":11">{{Cite web |title=歯のかみ合わせ悪いT・レックス、なぜ骨を粉々にできた? 研究 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3128675?cx_amp=all&act=all |website=www.afpbb.com |date=2017-05-18 |access-date=2024-12-18 |language=ja}}</ref>、尖り、縁にナイフ状の鋸歯をもつ<ref>{{Cite web |title=驚きの研究!絶滅した生きものが何を食べていたかどうやってわかるの? |url=https://cocreco.kodansha.co.jp/move/news/repo/nVfsm |website=講談社の動く図鑑MOVE|講談社 |access-date=2024-12-18}}</ref>。ティラノサウルスは各部位によって僅かながら歯の分化が進んでいたとされる<ref name="異歯性">{{Cite journal2 |df=ja |last=Brochu|first=Christopher A.|date=2003-01-14|title=Osteology of Tyrannosaurus rex: Insights from a Nearly Complete Skeleton and High-Resolution Computed Tomographic Analysis of the Skull|url=https://www.jstor.org/stable/3889334|journal=Memoir. Society of Vertebrate Paleontology|volume=7|doi=10.2307/3889334|jstor=3889334|access-date=2023-11-19|archive-date=2022-10-11|archive-url=https://web.archive.org/web/20221011142034/https://www.jstor.org/stable/3889334|url-status=live}}</ref><ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Smith|first=Joshua B.|date=2005-12-30|title=Heterodonty in Tyrannosaurus rex: implications for the taxonomic and systematic utility of theropod dentitions|url=http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1671/0272-4634%282005%29025%5B0865%3AHITRIF%5D2.0.CO%3B2|journal=Journal of Vertebrate Paleontology|volume=25|issue=4|pages=865–887|language=en|doi=10.1671/0272-4634(2005)025[0865:HITRIF]2.0.CO;2|issn=0272-4634}}</ref>。特に[[門歯]]は断面が特徴的なD字型をしており、ティラノサウルス類を見分ける上での指標になっている。前上顎歯数は4、上顎歯はティラノサウルス類ではティラノサウルス・レックスが最も少なく11本。下顎歯も''T.rex''が最少の11本である。
ティラノサウルスは各部位によって僅かながら歯の分化が進んでいたとされる。特に[[門歯]]は断面が特徴的なD字型をしており、ティラノサウルス類を見分ける上での指標になっている。前上顎歯数は4、上顎歯はティラノサウルス類ではティラノサウルス・レックスが最も少なく11本。下顎歯も''T.rex''が最少の11本である。[[頭蓋]]は同じ大きさの他の獣脚類に比べて明らかに幅広であり、特に後眼窩部の張り出しが著しい。吻部も丸みを帯びた広い形になっている。
 
生きている間、歯は何度でも生え変わった<ref name=異歯性/><ref>{{Cite book ja |author1=クリストファー・ロイド |year=2012 |title=[[137億年の物語]]:宇宙が始まってから今日までの全歴史 |publisher=文藝春秋 |page=68 |isbn=978-4163742007}}</ref>。摩耗に伴い数年ごとに生え変わったと考えられている<ref name=":11" />。
ティラノサウルスの生物学的特徴は数多存在する。だが、中でも異彩を放ち、本種を本種足らしめているのが、その圧倒的な咬合力(噛む力)である。推定方法によって多少の誤差は見受けられるものの、本種の咬合力は、陸上生命史どころか地球上の生命史においてもトップクラスの数値を叩き出している。例えば[[グレゴリー・エリクソン]]らの研究によると、約8500 - 35000ニュートンと推定されている<ref>{{Cite journal|url=https://doi.org/10.1038/s41598-017-02161-w |title=The Biomechanics Behind Extreme Osteophagy in Tyrannosaurus rex |author1=Gignac, P.M |author2=Erickson, G.M |journal=Sci Rep 7 |date=2017-05-17 |doi=10.1038/s41598-017-02161-w}}</ref>。この数値は現生の大型[[クロコダイル]]や他の獣脚類([[ギガノトサウルス]]など)を軽く凌駕していた。エミリー・レイフィールドらによる有限要素解析法(EFA)を用いた力学的研究では、ティラノサウルスの頭骨は獲物などの骨を噛み砕いた際に発生する応力に耐えられることが示された<ref>Ecological and evolutionary implications of dinosaur feeding behaviour
 
(Paul M Barrett:2006)</ref><ref name=恐竜の教科書>{{Cite book|和書|title=恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎|author1=ダレン・ナイシュ|authorlink1=ダレン・ナイシュ|author2=ポール・バレット|translator = 吉田三知世|others=[[小林快次]]・久保田克博・千葉謙太郎・田中康平監訳|edition=第1版|date=2019-02-20|pages=p.&nbsp;141 - 147|publisher=[[創元社]]|___location=[[大阪府]][[大阪市]][[中央区 (大阪市)|中央区]]淡路町4-3-6|isbn=978-4-422-43028-7}}</ref>。
William L. Ablerの行ったティラノサウルスの歯で肉を切る実験では、鋸歯部分に肉の断片が引っかかる結果となっており、腐敗性細菌が繁殖することで、ティラノサウルスの噛みつきを受けた獲物に致命的な感染症を負わせたかもしれない<ref>{{Cite web |title=獲物を襲った巨大な歯 - 日経サイエンス |url=https://www.nikkei-science.com/page/magazine/9912/emono.html |website=www.nikkei-science.com |date=1999-11-01 |access-date=2024-06-02 |language=ja}}</ref>。
 
下顎の神経血管系は非常に複雑で、優れた触覚感度を持つワニに匹敵する<ref> {{Cite web |title=Tyrannosaurs softies with offspring, killer instinct with prey {{!}} The Asahi Shimbun: Breaking News, Japan News and Analysis |url=https://www.asahi.com/ajw/articles/14431234 |website=The Asahi Shimbun |access-date=2023-10-26 |language=en}}</ref><ref> {{Cite web |title=T-Rex may have used lower jaw as tactile sensor: researchers |url=https://english.kyodonews.net/articles/-/28183 |website=Kyodo News+ |access-date=2023-10-26 |first=KYODO |last=NEWS}}</ref><ref name=":6"> {{Cite web |title=ティラノサウルス、甘がみして子ども運んだ?…あご先に高感度の触覚センサー |url=https://www.yomiuri.co.jp/science/20210824-OYT1T50050/ |website=読売新聞オンライン |date=2021-08-24 |access-date=2023-10-26 |language=ja}}</ref>。枝分かれの程度はトリケラトプスの神経の約4倍に達する<ref name=":13">{{Cite web |title=触覚センサー? 下顎神経発達 ティラノサウルス 県立大准教授ら解明:日刊県民福井Web |url=https://www.chunichi.co.jp/article/316931 |website=中日新聞Web |access-date=2024-12-21 |language=ja}}</ref>。一方で、ワニとは異なり血管神経管を占める分厚い神経組織がないため、吻部の感度はワニほど高くなかった可能性がある<ref>{{Cite web |title=Tyrannosaurus rex’s Jaw Tip May Have Played Essential Role as Sensitive Tactile Sensor {{!}} Sci.News |url=https://www.sci.news/paleontology/tyrannosaurus-rexs-jaw-tactile-sensor-09986.html#google_vignette |website=Sci.News: Breaking Science News |date=2021-08-23 |access-date=2024-12-21 |language=en-US |first=News |last=Staff}}</ref>。
 
舌骨は短く、ワニ類と類似していることから舌は口底部に固定されていた可能性がある<ref>{{Cite web |title=T・レックスは舌を突き出せなかった? 研究 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3179434 |website=www.afpbb.com |date=2018-06-21 |access-date=2023-10-31 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=Why T Rex couldn't stick out its tongue |url=https://www.nationalgeographic.com/animals/article/dinosaur-trex-tongue-alligator-spd |website=Animals |date=2018-06-20 |access-date=2024-12-21 |language=en}}</ref>。
;頭蓋と脳
:[[頭蓋]]は同じ大きさの他の獣脚類に比べて明らかに幅広であり、特に後眼窩部の張り出しが著しい。吻部も丸みを帯びた広い形になっている。頭骨内部には気腔があり、約18%の軽量化がされている<ref name=":12" />。背側側頭窓には血管と脂肪を含んだ組織があり、温度を調節し脳を守るのに役立ったと考えられている<ref> {{Cite web|和書|title=ティラノ頭骨の謎の穴に新説、頭を冷やす仕組みか |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/090600520/ |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |access-date=2023-10-05 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Holliday|first=Casey M.|last2=Porter|first2=William Ruger|last3=Vliet|first3=Kent A.|last4=Witmer|first4=Lawrence M.|date=April 2020|title=The Frontoparietal Fossa and Dorsotemporal Fenestra of Archosaurs and Their Significance for Interpretations of Vascular and Muscular Anatomy in Dinosaurs|url=https://anatomypubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ar.24218|journal=The Anatomical Record|volume=303|issue=4|pages=1060–1074|language=en|doi=10.1002/ar.24218|issn=1932-8486}}</ref>。CTスキャンを用いた復元によれば、ティラノサウルスの脳はサル類や鳥類と異なり皮質の拡張がほとんどなく、長い筒状だった<ref>{{Cite web |title=Canny as a crocodile but dumber than a baboon — new research ponders T. rex's brain power |url=https://www.latimes.com/science/story/2024-04-29/t-rex-was-not-as-smart-as-primates-new-study-finds |website=Los Angeles Times |date=2024-04-29 |access-date=2024-12-21 |language=en-US}}</ref>。ワニに基づく研究によれば、脳は頭蓋内体積の約30パーセントを占める<ref name=":10">{{Cite web |title=Dinosaur Brain Science Is Revealing the Senses of T. rex and Its Prey |url=https://www.scientificamerican.com/article/how-did-dinosaurs-see-smell-hear-and-move/ |website=Scientific American |date=2024-09-01 |access-date=2024-12-05 |language=en |first=Amy M. Balanoff, Daniel T. |last=Ksepka}}</ref>。推定される脳の重量は424gで、既知の恐竜で最大の脳を持つ<ref> {{Cite web |title=人間の脳よりも大きい脳を持つ恐竜はいるの?|恐竜・古生物 Q&A|FPDM: 福井県立恐竜博物館 |url=https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/faq/r02042.html |website=FPDM: 福井県立恐竜博物館 |access-date=2023-10-26 |language=ja}}</ref>。脳の神経細胞の数はサルの仲間に匹敵していたとする説がある<ref name=":10" /><ref> https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.06.20.496834v1</ref><ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Herculano‐Houzel|first=Suzana|date=June 2023|title=Theropod dinosaurs had primate‐like numbers of telencephalic neurons|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cne.25453|journal=Journal of Comparative Neurology|volume=531|issue=9|pages=962–974|language=en|doi=10.1002/cne.25453|issn=0021-9967}}</ref>が、この数値は再検討では10分の1程度とされた<ref> https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.01.10.575006v2</ref>。脳領域は認知機能よりも嗅覚などの感覚を司る機能が多く占めている<ref name=":10" />。
:
;眼
: 眼窩は他のどのティラノサウルス類よりも正面を向いている<ref>{{cite book ja |editor=マイケル・J・ベントン他 |year=2010 |title=生物の進化大図鑑 |page=322−323 |isbn=978-4-309-25238-4}}</ref>。鍵穴型の眼窩を持ち目は小さかった。この鍵穴型の眼窩は、咬合時に眼窩後の硬い部分へと圧力を分散させ頭蓋骨の受ける負荷を軽減する効果があった<ref> {{Cite web |title=霸王龙和近亲用大眼睛换取大咬力—新闻—科学网 |url=https://news.sciencenet.cn/htmlnews/2022/8/484252.shtm |website=news.sciencenet.cn |access-date=2023-10-26}}</ref><ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Lautenschlager|first=Stephan|date=2022-08-11|title=Functional and ecomorphological evolution of orbit shape in mesozoic archosaurs is driven by body size and diet|url=https://www.nature.com/articles/s42003-022-03706-0|journal=Communications Biology|volume=5|issue=1|pages=1–11|language=en|doi=10.1038/s42003-022-03706-0|issn=2399-3642}}</ref><ref> {{Cite web |title=古生物学:ティラノサウルス・レックスとその近縁種は大きな目の代わりに強い咬合力を得た {{!}} Communications Biology {{!}} Nature Portfolio |url=https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/14176 |website=www.natureasia.com |access-date=2023-11-01 |language=ja}}</ref>。眼球は鍵状の眼窩のうち、上側の窪みに収められていた<ref> {{Cite web2 |df=ja |title=Theropoda: L'occhio dei dinosauri |url=https://theropoda.blogspot.com/2021/09/locchio-dei-dinosauri.html |website=Theropoda |date=2021-09-26 |access-date=2023-11-01 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。現生陸生脊椎動物の目の形態の傾向を適用すると、ティラノサウルスは円形の瞳孔を持っていたと考えられる<ref> {{Cite web2 |df=ja |title=Theropoda: La pupilla dei dinosauri |url=https://theropoda.blogspot.com/2021/09/la-pupilla-dei-dinosauri.html |website=Theropoda |date=2021-09-26 |access-date=2023-10-11 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。視野などは「視覚」の節を参照。
:
;軟組織
:頭蓋骨に対する歯の長さや神経血管孔の形態を現生のワニやトカゲと比較した研究では、トカゲのものに似た唇が存在していた可能性が高いと結論づけられている<ref> {{Cite web|和書|title=歯むき出しの肉食恐竜、間違い? ティラノサウルス「唇に覆われていた」研究成果:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/DA3S15615111.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2023-04-19 |access-date=2023-09-01 |language=ja}} </ref><ref> {{Cite web|和書|title=ティラノサウルスに「唇」があった可能性、なぜ唇が重要なのか |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/040300163/ |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |access-date=2023-09-01 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web|和書|title=歯は隠れていた? T・レックスに「唇」あった可能性 米研究 |url=https://www.afpbb.com/articles/-/3458041 |website=www.afpbb.com |date=2023-03-31 |access-date=2023-09-01 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web|和書|title=歯むき出しのティラノサウルス間違い? 恐竜映画のイメージ覆す研究:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASR4D741VR4DOXIE005.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2023-04-13 |access-date=2023-09-01 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Cullen|first=Thomas M.|last2=Larson|first2=Derek W.|last3=Witton|first3=Mark P.|last4=Scott|first4=Diane|last5=Maho|first5=Tea|last6=Brink|first6=Kirstin S.|last7=Evans|first7=David C.|last8=Reisz|first8=Robert|date=2023-03-31|title=Theropod dinosaur facial reconstruction and the importance of soft tissues in paleobiology|url=https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo7877|journal=Science|volume=379|issue=6639|pages=1348–1352|language=en|doi=10.1126/science.abo7877|issn=0036-8075}}</ref><ref> {{Cite web|和書|title=ティラノサウルスの顔が変わる? {{!}} Nature ダイジェスト {{!}} Nature Portfolio |url=https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v20/n7/%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%A1%94%E3%81%8C%E5%A4%89%E3%82%8F%E3%82%8B%EF%BC%9F/121463 |website=www.natureasia.com |access-date=2023-10-05 |language=ja}}</ref>。鼻から目にかけて、頭部の上部に角質の覆いがあったと考えられている<ref name=":1" />。ケネス・カーペンターは著書において、ティラノサウルスには喉袋があり、摂餌や求愛に役立ったとしている<ref>{{cite book |last=Carpenter |first=K. |editor-last1=Currie |editor-first1=P.J. |editor-last2=Padian |editor-first2=K. |title=Encyclopedia of Dinosaurs |publisher=Academic Press |___location=San Diego, CA |date=1997 |pages=766–768 |chapter=Tyrannosauridae |isbn=978-0-12-226810-6 }}</ref><ref>{{cite book |last=Carpenter |first=K. |date=1999 |title=Eggs, Nests, and Baby Dinosaurs: A Look at Dinosaur Reproduction |___location=Bloomington, IN |publisher=Indiana University Press |pages=60–61 |isbn=0-253-33497-7}}</ref>が、喉袋と解釈される構造のある標本は一般的にはタルボサウルス属とされる種のものである<ref> {{Cite web |title=The anecdotal Tarbosaurus throat skin |url=https://incertaesedisblog.wordpress.com/2019/10/06/the-anecdotal-tarbosaurus-throat-skin/ |website=Incertae Sedis |date=2019-10-06 |access-date=2023-10-16 |language=en}}</ref><ref>{{Cite book|和書 |date= 2023/1/14 |title= ナショナル ジオグラフィック 世界一美しい恐竜図鑑 |author= ライリー・ブラック |publisher= 日経ナショナル ジオグラフィック |page=91 |isbn= 9784863135550}}</ref>。
 
=== 胴体 ===
胴体は頑丈なつくりをしている<ref>{{Cite book|和書 |date=2010-04-22 |title=新ポケット版学研の図鑑「恐竜・大昔の生き物」 |publisher=学研プラス |page=145 |isbn=978-4-05-203212-7}}</ref>。
[[脊椎骨]]数は、[[頚椎]]:10、[[胴椎]]:13(ただし、第13胴椎は僅かに仙椎的に変化している)、[[仙椎]]:5、[[尾椎]]:35-44。頚椎、胴椎といくつかの仙椎は側腹腔([[:en:pleurocoel|pleurocoel]])を生じ、椎体にはcamellate構造がある。つまり、[[含気化]]([[:en:pneumatization|pneumatization]])が進んでいるのである。
[[脊椎骨]]数は、[[頚椎]]:10、[[胴椎]]:13(ただし、第13胴椎は僅かに仙椎的に変化している)、[[仙椎]]:5、[[尾椎]]:35-44。頚椎、胴椎といくつかの仙椎は側腹腔(pleurocoel)を生じ、椎体にはcamellate構造がある。つまり、[[含気化]]が進んでいるのである。
 
首は短いが柔軟で、獲物の肉を捻り切ることに適している<ref>{{Cite book|和書 |date=1990-10-01 |title= 恐竜 (ビジュアル博物館) |author=デビッド・ノーマン、アンジェラ・ミルナー |publisher= 同朋舎出版 |page= 14 |isbn= 978-4810409000}}</ref>。頸椎の棘突起は頑丈で、靭帯の付着点であった<ref name=":3">{{Cite book|和書 |author= 日本古生物学会 |year= 2010 |title= 古生物学辞典 |publisher=朝倉書店 |isbn= 978-4254162653 |page=229}}</ref>。
 
肋骨は長大で、首を動かす筋肉が付着していた<ref name=":3" />。腹部には腹肋骨が存在する<ref name=":2" /><ref name=":3" />。
 
他の[[テタヌラ類]]同様、[[恥骨]]の遠位部が前後に長く伸びるが(ピュービックブーツ(pubic boot)と呼ばれる)、ティラノサウルスの仲間はこれが特に巨大である。
 
文献によっては皮骨板があったとしているものもある<ref name=":2" />が、これはディナモサウルスとして記載された標本に[[アンキロサウルス]]のものと思われる皮骨板が混入していたことに由来する<ref>{{Cite web |title=Tyrannosauroidea |url=https://www.theropoddatabase.com/Tyrannosauroidea.html |website=www.theropoddatabase.com |access-date=2023-11-01}}</ref>。
 
=== 四肢 ===
;前肢
体の大きさに比して前肢は異常に小さく、指が2本あるのみで、用途は未だにはっきりとしていない。ただし、その大きさのわりにはかなり大きな力を出せたことがわかってきている<ref group=注>片手で200kgのピアノを持ち上げられるとされる。</ref>。逆に頭部は非常に大きく、それを前肢の代わりに上手く活かしていたのではないかと考えられている。また、進化の過程で体の前方が重くなったため、前肢を短く軽くすることでバランスを取ったとする見解もある。
:体の大きさに比して前肢は異常に小さく(長さは人の腕と同程度<ref>{{Cite book|和書 |date=2007-10-22 |title= 小学館の図鑑NEO 大むかしの生物 |publisher=小学館|page=111 |isbn=978-4092172128}}</ref>)、用途は未だにはっきりとしていない。ただし、その大きさのわりにはかなり大きな力を出せたことがわかってきている。逆に頭部は非常に大きく、それを前肢の代わりに上手く活かしていたのではないかと考えられている。また、進化の過程で体の前方が重くなったため、前肢を短く軽くすることでバランスを取ったとする見解もある<ref> {{Cite web|和書|title=No.393 展示紹介 ティラノサウルス|富山市科学博物館 Toyama Science Museum |url=https://www.tsm.toyama.toyama.jp/?tid=100174 |website=www.tsm.toyama.toyama.jp |access-date=2023-09-02}}</ref>。近年では前肢の用途として攻撃に用いた<ref> {{Cite web|和書|title=実は凶器? ティラノサウルスの短すぎる腕に新説 |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/110700434/ |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |access-date=2023-09-01 |language=ja}}</ref>、短い理由として集団で死骸を漁る際に噛まれない為<ref> {{Cite web |title=Why tyrannosaurid forelimbs were so short:
An integrative hypothesis - Acta Palaeontologica Polonica |url=https://www.app.pan.pl/article/item/app009212021.html |website=www.app.pan.pl |access-date=2023-09-01 |language=en}}</ref>などの説が出ているが、未だ結論は出ていない。
指は2本。幼体には第3指が存在するが、成長に伴って第3中手骨と癒合する<ref name=":1">{{Cite book|和書|year=2023|title= ディノペディア Dinopedia: 恐竜好きのためのイラスト大百科 |author1= G. Masukawa |publisher= 誠文堂新光社 |page=28-29 |isbn= 978-4416623510}}</ref>。第3指は、付け根が前肢全体を横向きに回転させる筋肉の付着点となっていた<ref>{{Cite web|url=https://blog.hmns.org/2012/05/wyrexs-fancy-footwork-and-tender-hands-get-to-know-this-tyrannosaurs-softer-side/ |title=WYREX’S FANCY FOOTWORK AND TENDER HANDS: GET TO KNOW THIS TYRANNOSAUR’S SOFTER SIDE |accessdate=2021-05-27 |date=2012-05-09 |publisher={{仮リンク|ヒューストン自然科学博物館|en|Houston Museum of Natural Science}} |website=BEYOND BONES |author=Bob Bakker }}</ref>。この前肢は、小さいながらものを掴むことのできる構造であった<ref>{{Cite book|和書 |author= 益富 寿之助, 濱田 隆士 |year= 1966 |title= 原色化石図鑑 (保育社の原色図鑑 48)(第15刷) |publisher=保育社 |isbn= 978-4586300488 |page=133}}</ref>。
;後肢
:体重を支えるために太く頑丈なつくりをしていた<ref name=":3" />。指は4本で、前向きに3本、後ろ向きに1本生えている<ref name=":3" />。ティラノサウルスとその類縁種([[ティラノサウルス上科]])は、足の速い[[オルニトミモサウルス類]]<ref group="注">[[ダチョウ]]に似た恐竜群。</ref>と共通の特徴である[[アークトメタターサル]]を有していた。アークトメタターサルとは、第三[[中足骨]]が、第二・第四中足骨によって挟み込まれ、上端が押し潰される形態のことを指す<ref name="百周年" /><ref group="注">メタターサル〈metatarsal〉は中足骨のこと。</ref>。{{いつ範囲|近年の研究|date=2017年1月}}によると、第三[[指骨]]および中足骨に負荷が加わると[[靭帯]]の働きにより第二、第四中足骨が中央にまとめられ、負荷の方向を一直線にすることで俊敏性を増すのに役立っていたと考えられている。また、靭帯の損傷も防げたのではないかと推測される。このアークトメタターサルはオルニトミモサウルス類との共通先祖から受け継いだ[[形質]]と思われていたが、それを持たないティラノサウルスの先祖種の発見から、現在では[[収斂進化]]によるものとされている。
 
最重量級のティラノサウルスとされる「スコッティ」の推定体重は、[[大腿骨]]の周囲長から推定されている<ref group=注>これはティラノサウルスに限った話ではなく、二足歩行の動物であればこの手法が通用する。</ref>。周囲長は「スコッティ」が590ミリメートル、「スー」が580ミリメートル、「スタン」が505ミリメートルである<ref name=恐竜博2019>{{Cite book|和書|title=恐竜博2019 THE DINOSAUR EXPO |author=真鍋真 |coauthors=對比地孝亘、ダニエル・L・ブリンクマン、ヒシグシャフ・ツォクバートルイ・ユンナム、[[小林快次]]、ツォクトバートル・チンゾリグ、田中康平、今井拓哉、ダーラ・ゼレニスキー、フランソワ・テリエン、グレゴリー・ファンストン、[[石垣忍 (古生物学者)|石垣忍]]、西村智弘、[[佐藤たまき]]、[[小西卓哉]]、新村龍也、小原正顕、小松俊文、タイラー・R・ライソン、イアン・ミラー、フェルナンド・E・ノバス |editor=坂田智佐子 |publisher=[[日本放送協会|NHK]]、NHKプロモーション、[[朝日新聞社]] |year=2019 |pages=146-147}}</ref>。
ティラノサウルスとその類縁種([[ティラノサウルス上科]])は、足の速い[[オルニトミモサウルス類]]([[ダチョウ]]に似た恐竜群)と共通の特徴である[[アークトメタターサル]]を有していた。アークトメタターサルとは、第三[[中足骨]]が、第二、第四中足骨によって挟み込まれ、上端が押しつぶされる形態のことを指す(メタターサル〈metatarsal〉は中足骨のこと)。{{いつ範囲|近年の研究|date=2017年1月}}によると、第三[[指骨]]および中足骨に負荷が加わると[[靭帯]]の働きにより第二、第四中足骨が中央にまとめられ、負荷の方向を一直線にすることで俊敏性を増すのに役立っていたと考えられている。また靭帯の損傷も防げたのではないかと推測される。このアークトメタターサルはオルニトミモサウルス類との共通先祖から受け継いだ[[形質]]と思われていたが、それを持たないティラノサウルスの先祖種の発見から現在では[[収斂進化]]によるものとされている。
 
この後肢を用いて、現生の猛禽類のように獲物を掴んだり引き裂いたりした<ref>{{Cite book|author1=アラン・チャーリッグ |year=1987 |title= 恐竜は生きている―新しい恐竜の見方 (自然誌選書) |publisher=どうぶつ社 |page=130 |isbn= 978-4886222305}}</ref>、あるいは獲物を蹴転がした<ref name=":0">{{Cite book|和書 |date=1987-01-20 |title=図解 恐竜はどんな生物だったか その素顔と生活をさぐる |author=福田芳生 |publisher=[[講談社]] |page= 87-88 |isbn=9784061326750}}</ref><ref>{{Cite book|和書|date=2002-11-30 |title= 原色ワイド図鑑 恐竜 [2002]改訂新版 |author=小畠郁生|publisher=学研研究社|page=171 |isbn= 9784051521301}}</ref>など、狩りの際積極的に攻撃に用いたとする意見も存在する。
 
=== 尾椎 ===
最大40個の椎骨で構成され、大きく重かった<ref name=ニュートン2024/>。尻尾は[[テタヌラ]]に共通した細長く、内部の骨が絡み合った細長い構造をしていた。そのため、より基的な獣脚類である[[ケラトサウルス]]よりも柔軟性(グネグネとした動きは不可能)は失われていたが、それでも撓るような動きは可能であった<ref name=全百科>{{Cite book|和書|title=ティラノサウルス全百科」(著) |author=北村雄一(監修) |others=[[真鍋真]](出版)(監修)|publisher=[[小学館(発行)]] |date=2005年5月-05-10 P78|pages=78-79,96-97}}</ref>
 
ティラノサウルスは恐竜の中でも特に[[尾大腿筋肉]]が発達していた。尾大腿筋肉とは[[大腿骨]]から尻尾の付け根にかけて伸びる太い筋肉であり、ティラノサウルスが走る際の主電源、言わばエンジンのような役割を果たしていたと考えられている。そのため[[アロサウルス]]のような他の大型獣脚類に比べ、ティラノサウルスは強い脚力を持っていたと考えられている<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Lower rotational inertia and larger leg muscles indicate more rapid turns in tyrannosaurids than in other large theropods |author1=Eric Snively |author2=Haley O’Brien |author3=Donald M. Henderson |author4=Heinrich Mallison |author5=Lara A. Surring |author6=Michael E. Burns |author7=Thomas R. Holtz, Jr |author8=Anthony P. Russell |author9=Lawrence M. Witmer |author10=Philip J. Currie |author11=Scott A. Hartman |author12=John R. Cotton |doi=10.7717/peerj.6432 |url=https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6387760/ |date=2019-02-21 |journal=[[PeerJ]]}}{{フリーアクセス}}</ref>。
かつては尻尾の付け根にある[[血道弓]]と呼ばれる骨の位置から、オス・メスを判断できると考えられ、例えば"FMNH PR-2081"(スー)はメスだと判断されてきた。しかし今では根拠とされていた血道弓の配置が全く異なることが判明し、スーをメスと断定する根拠は失われてしまった<ref>「ティラノサウルス全百科」(著)北村雄一(監修)[[真鍋真]](出版)小学館(発行)2005年5月10日 P96-97</ref>
 
ティラノサウルスは恐竜の中でも特に[[尾大腿筋肉]]が発達していた。尾大腿筋肉とは[[大腿骨]](太もも)から尻尾の付け根にかけて伸びる太い筋肉であり、ティラノサウルスが走る際の主電源、言わばエンジンのような役割を果たしていたと考えられている。そのため[[アロサウルス]]のような他の大型獣脚類に比べ、ティラノサウルスは強い脚力を持っていたと考えられている<ref>Lower rotational inertia and larger leg muscles indicate more rapid turns in tyrannosaurids than in other large theropods(Eric Snively:2019)</ref>。
 
== 生態 ==
;注意事項
先に述べておくが古生物の行動は実物を観察できないため、どうしても不確定な部分が発生する。そのため生態の項の多くは可能性の範疇であることを忘れてはならない。
 
=== 狩り ===
ティラノサウルスの主要な獲物の一つであるトリケラトプスを襲うにあたり、もっとも合理的なのは相手の側面を攻撃することであるとする意見がある<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=The biomechanics of a plausible hunting strategy for Tyrannosaurus rex |author1=David A Krauss |author2=J.M. Robinson |year=2013 |journal=Tyrannosaurid Paleobiology |pages=251-264 |url=https://www.researchgate.net/publication/289279025_The_biomechanics_of_a_plausible_hunting_strategy_for_Tyrannosaurus_rex}}</ref><ref>{{Cite book|和書|title=ティラノサウルスはすごい |author=土屋健|authorlink=土屋健 (サイエンスライター) |date=2015-06-19 |others=[[小林快次]](監修) |publisher=[[文藝春秋]]}}生態の項</ref>。事実、トリケラトプスの角は仲間内でさえ骨に少なからず傷を残す威力であり<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Evidence of combat in Triceratops |author1=Andrew A Farke |author2=Ewan D. S. Wolff |author3=Darren H. Tanke |date=2009-01-28 |journal=[[PLOS ONE]] |url=https://doi.org/10.1371/journal.pone.0004252 |doi=10.1371/journal.pone.0004252}}{{オープンアクセス}}</ref><ref> Tanke, D. H.; Farke, A. A. (2006). “Bone resorption, bone lesions, and extracranial fenestrae in ceratopsid dinosaurs: a preliminary assessment”. In Carpenter, K.. Horns and Beaks: Ceratopsian and Ornithopod Dinosaurs. Bloomington: Indiana University Press. pp. 319–347. ISBN 978-0-253-34817-3</ref><ref>{{cite journal2 |df=ja | last1 = Farlow | first1 = J. O. | last2 = Dodson | first2 = P. | year = 1975 | title = The behavioral significance of frill and horn morphology in ceratopsian dinosaurs | journal = Evolution | volume = 29 | issue = 2| pages = 353–361 | doi=10.2307/2407222| pmid = 28555861 | jstor = 2407222 }}</ref><ref>{{cite book|last=Martin|first= A. J.|date=2006|title= Introduction to the Study of Dinosaurs|edition= Second|___location= Oxford|publisher= Blackwell Publishing|pages= 299–300|isbn=978-1-4051-3413-2}}</ref> 、これを避けるためには側面を突くのが手っ取り早い。また、側面攻撃の利点は、その手早さだけでなく、短い前腕をも効果的に(補助的な役割で)使えたことにある。
 
群れを作って狩りをしていた可能性がある(生態>社会性も参照)<ref> {{Cite web |title=Tyrannosaurus Rex 'hunted in packs' |url=https://www.telegraph.co.uk/news/science/dinosaurs/8589113/Tyrannosaurus-Rex-hunted-in-packs.html |website=The Telegraph |date=2011-06-22 |access-date=2023-11-20 |language=en}}</ref>が、本属を含め獣脚類が群れを作って狩りをした明確な証拠はなく、あくまで仮説である点に注意が必要である<ref> {{Cite web2 |df=ja |title=Theropoda: Miti e Leggende Post-moderne sui Theropodi Mesozoici - Terza Parte: L'ossessione della Caccia di Gruppo, e le sue alternative (molto più) plausibili |url=https://theropoda.blogspot.com/2009/05/miti-e-leggende-post-moderne-sui_26.html |website=Theropoda |date=2009-05-26 |access-date=2023-11-20 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。また、脳の研究では、計画的・社会的な狩りはできない可能性があるとされる<ref name=":10" />。
 
=== 遊び ===
絶滅動物としては非常に珍しいことに、ティラノサウルスは時たま遊んでいた可能性が指摘されている。というも餌根拠として、捕されたと思しきわれる[[ケラトプス科]]の骨に不自然な噛み傷が多数残されていたからである。絶滅動物である以上ティラノサウルスが本当に遊んでいたのかは判断がつかないところではあるが、ティラノサウルスのような上位の捕食者には少なからず時間的な余裕があることや、ティラノサウルスの脳が大きいこと、現生の鳥類やワニが複雑な行動をする事から考えると、ティラノサウルスも日々の生活において何らかの娯楽を求めていたのかもしれない<ref name=暴君の遊び>{{Cite journal2 |df=ja |title=Unexpected behavior in the Cretaceous: tooth-marked bones attributable to tyrannosaur play. A|author=Rothschild, commentBruce byM E|year=2015 |pages=325-334 |doi=10.1080/03949370.2014.928655 Snively|url=https://doi.org/10.1080/03949370.2014.928655 |journal=Ethology Ecology & T.Evolution Samman(Eric|volume=27 Snively|issue=3}}</ref><ref> {{Cite web |title={{Lang|zh-TW|雷克斯霸王龙 凶残之外也懂幽默?}} |url=https://www.bbc.com/ukchina/simp/vert_earth/2015)/11/151105_vert_earth_did-dinosaurs-like-to-play |website=BBC 英伦网 |date=2015-11-05 |access-date=2023-10-26 |language=zh-hans}}</ref>
絶滅動物である以上ティラノサウルスが本当に遊んでいたのかは判断がつかないところではあるが、ティラノサウルスのような上位の捕食者は少なからず時間的な余裕がある事やティラノサウルスの脳が大きいこと、現生の鳥類やワニが複雑な行動をする事から考えると、ティラノサウルスも日々の生活において何らかの娯楽を求めていたのかもしれない<ref name=暴君の遊び>Unexpected behavior in the Cretaceous: tooth-marked bones attributable to tyrannosaur play. A comment by E. Snively & T. Samman(Eric Snively:2015)</ref>。
 
=== 食性(嗜好) ===
噛み跡の偏りから、ティラノサウルスがトリケラトプスの首の背側の筋肉を好んで食べていた可能性が指摘されている<ref>{{Cite web|title=Life, and death, of Triceratops: Fossilized tooth marks shed light on T.Rex's gruesome hunting practices |publisher=[[Phys.org]] |accessdate=2020-12-19 |date=2012-10-29 |author=Bob Yirka |url=https://phys.org/news/2012-10-life-death-triceratops-fossilized-tooth.html}}</ref>。その発達した頭部を支えるため、トリケラトプスの首には強健な筋肉を蓄えており、この「ネック」と呼ばれる部位は噛みごたえと味の濃さが魅力で、これが正しいとするなら、ティラノサウルスはかなりのグルメであったようである<ref>{{Cite book|和書|title=化石ドラマチック |pages=53-55 |author=土屋健|authorlink=土屋健 (サイエンスライター) |others=[[柴原暁彦]](監修)、[[ツク之助]](絵)|publisher=イースト・プレス |date=2020-05-19 |isbn=9784781618807}}</ref>。また、1990年にアメリカで発掘された化石から骨が丸く溶けている箇所が確認されたことから[[痛風]]であを患ていたとみられているがこれは赤身肉と内臓肉を多く食していたためと考えられている<ref>{{Cite journal2 |df=ja |title=Tyrannosaurs suffered from gout」( |journal=[[ネイチャー|Nature)]] |author1=Bruce M Rothschild, |author2=Darren Tanke, |author3=Ken Carpenter |date=1997-05-22 |doi=10.1038/387357a0 |volume=387|url=https://www.academia.edu/227036/Tyrannosaurs_suffered_from_gout}}{{オープンアクセス}}</ref><ref>{{Cite book |和書 |author=フジテレビトリビア普及委員会 |year=2004 |title=トリビアの泉〜へぇの本〜 6 |publisher=講談社 |isbn=978-4063527117 |pages={{要ページ番号|date=2020年12月}}}}</ref>。
 
=== 水泳 ===
体の大きさを有利に使うために浅瀬で狩りを行ったとする仮説に基づき生体力学モデルを用いて行われた推定では、成体のティラノサウルスは水中では小型の獲物より速く動くことができたとされている<ref> {{Cite web |url=https://academic.oup.com/crawlprevention/governor?content=%2fzoolinnean%2farticle-abstract%2f198%2f1%2f202%2f7153107 |website=academic.oup.com |access-date=2023-10-09 |title=Tyrannosaurus rex runs again: a theoretical analysis of the hypothesis that full-grown large theropods had a locomotory advantage to hunt in a shallow-water environment}}</ref>。このようにティラノサウルスは不安定ながら脚で水を蹴り泳ぐことができたと考えられ、一方水中に潜伏して獲物を追うことはできなかったと考えられている<ref>{{Cite web|title=Tレックスは泳げたのか? 映画の描写はどこまで本当か科学で検証|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/25/073100425/|website=natgeo.nikkeibp.co.jp|access-date=2025-08-20|language=ja}}</ref>。
 
=== 社会性 ===
ティラノサウルスは以前は[[トラ]]などの現生肉食動物の様に単独で行動していたと考えられていた。しかし近年では、家族または同種族の様々な世代で集団を構成し、社会生活を営んでいたのではないかとする意見もある<ref name=恐竜学入門/><ref name=子供>[{{Cite journal2 |df=ja |url=https://era.library.ualberta.ca/items/19b93ddc-a4b9-4807-9d19-90d21648dfff |title=Possible evidence of gregarious behavior in tyrannosaurids] |author=Currie, P. J. |year=1998 |issn=0871-5424 |doi=10.7939/R3348GX03 |journal=Gaia |issue=15 |pages=271-277}}</ref>。この説は、[[アルバートサウルス]]など大型獣脚類でも集団化石が見つかっていることや(例→[[アルバートサウルス]]や[[マプサウルス]])、後ろ脚の骨歩行困難と思われるほどの[[骨折]]があるにも関わらず、それが治癒した形跡のあるを示す個体が発見され、狩りができない期間に仲間が餌を運んでいた可能性があることに基づく推論である。[[DINO A LIVE]]などではこの説に基づきティラノサウルスの親離れが描かれている。
 
ブラックヒルズ地質学研究所はスタン標本が生前、家族と共に過ごしていた可能性を示唆している<ref>{{Cite web|url=https://www.bhigr.com/pages/info/info_stan.htm|title=BHI/Fossils & Minerals/Dinosaurs and Birds/STAN T. rex|website=bhigr.com|accessdate=2023年10月31日}}</ref>。雌が雄よりも大きかったとする説に基づいて、家族内の雌が群れのリーダーであったとする説もある<ref>{{Cite book|和書|author1=講談社 |year=1998 |title=小学生の大疑問100パ-ト2 (NHK週刊こどもニュース―図解版スペシャル) |publisher=講談社 |page=64−65 |isbn=978-4062085656}}</ref>。
=== 親子による狩り説 ===
;初出・メディア展開
この説は[[フィリップ・カリー]]がティラノサウルスの生体的特徴や近縁種の集団化石から推測した話が元になっている。なおカリーの推測は、[[トーマス・ホルツ]]の書いた『ホルツ博士の最新恐竜事典』でも確認でき<ref>トーマス・R・ホルツ、ルイス・V・レイ『ホルツ博士の最新恐竜辞典』小畠郁生(監訳)、朝倉書店、2010年。ISBN 978-4-254-16263-9。カルノサウルスの項</ref>、とりわけNHKが恐竜特番を組む際に採用することが多い<ref>『恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い』NHK「恐竜」プロジェクト編、2006年 NHK出版</ref><ref>『恐竜絶滅 ほ乳類の戦い 』NHK「ポスト恐竜」プロジェクト編、2010年 NHK出版</ref>。他には[[ディスカバリーチャンネル]]の[[恐竜再生]]でも取り上げられている。
 
また、亜成体の頭蓋骨に残された「捕食や殺傷を目的としない攻撃によってつけられたと考えられる治癒した傷」の痕跡から、亜成体は成長段階の近い個体からなる階層を持つグループを形成しており、上位のものが下位のものに対して致死的ではない噛みつきを行うことで階層が維持されていたとする説もある<ref> Peterson J.E., Henderson M.D., Scherer R.P., & Vittore C.P., 2009 - Face Biting on a Juvenile Tyrannosaurid and Behavioral Implications. Palaios 24:780-784.</ref><ref> {{Cite web |title=Theropoda: Gerarchia e violenza nell'infanzia di _Tyrannosaurus_ |url=https://theropoda.blogspot.com/2009/11/gerarchia-e-violenza-nellinfanzia-di.html |website=Theropoda |date=2009-11-30 |access-date=2023-10-11 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。
;説の前提・概要
この説は前述の鈍足説などを前提とし、成体の走行能力を10-15km/hと獲物であるトリケラトプスやエドモントサウルスよりもティラノサウルスの走行能力が低かったとする前提に基づく<ref>Speeds and gaits of dinosaurs</ref>。
 
顎の神経に関する研究に関連して、ヒトの握手のように親愛を示すために顎を接触させた可能性が言及された<ref name=":13" />。
ティラノサウルスの[[咬合力]]は3t以上と非常に強力で<ref>The Biomechanics Behind Extreme Osteophagy in Tyrannosaurus rex</ref>
<ref group=注>咬合力については諸説あるが、巨大な[[板皮類]]である[[ダンクルオステウス]]や[[首長竜]]に属する[[クロノサウルス]]はより強かった可能性が高い。前者は5,300kg、後者は2,000 - 3,000kgあったと推定されている([http://ameblo.jp/oldworld/entry-10020829898.html#KawasakiSatoshi アゴ最強伝説]および[http://ameblo.jp/oldworld/entry-11182339156.html アゴ最強伝説2])。<!-- 個人ブログは出典としてまずいのでは--></ref>)現在の地球で最も強い咬合力の持ち主である[[ワニ]]の記録(1トン)をしのぎ、[[貨物自動車|トラック]]や[[鉄格子]]をも砕いてしまう強さである。しかし成体のティラノサウルスは鈍足であると考えられるため、簡単には獲物に接近戦できない。そこで、小型かつ軽量なため機敏な動作ができる子供が獲物を親の元まで追い立てたところで親が仕留めていたのではないか、との説明がなされている。
 
=== 産卵と子育て ===
;問題点
硬い卵を産む現生鳥類同様に骨髄骨が見られるが、ティラノサウルスの卵が硬かったのか柔らかかったのかは未だ不明である<ref name=":7"> {{Cite web |title=「ハヤブサの目を持つ男」小林快次が「ティラノ研究は標本がカギ」と主張するワケ(小林 快次) |url=https://gendai.media/articles/-/114303 |website=ブルーバックス {{!}} 講談社 |access-date=2023-11-02 |language=ja}}</ref>。
*実際には獲物の大型植物食恐竜のほうが鈍足だったこと。なおエドモントサウルスについては時速30km前後と成体のティラノサウルスと互角の敏捷性があったらしい<ref>「Hadrosaurs」 - GoogleBooks</ref>。
 
*せいぜい体重1トンの亜成体が体重4-5トンを軽く超える大型恐竜を脅せるのか?
ティラノサウルス属を含むティラノサウルス類4種の生存曲線から、鳥のように熱心に子育てをするのではなく爬虫類のような様式であったと考えられている<ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Griebeler|first=Eva M.|editor-last=Angielczyk|editor-first=Kenneth|date=November 2021|title=Dinosaurian survivorship schedules revisited: new insights from an age‐structured population model|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pala.12576|journal=Palaeontology|volume=64|issue=6|pages=839–854|language=en|doi=10.1111/pala.12576|issn=0031-0239}}</ref>。
ただし最近では亜成体の咬合力が従来の予想以上であった可能性がある<ref name=亜成体の狩り>{{Cite journal|url=https://peerj.com/articles/6573/?utm_source=TrendMD&utm_campaign=PeerJ_TrendMD_0&utm_medium=TrendMD |title=Feeding traces attributable to juvenile Tyrannosaurus rex offer insight into ontogenetic dietary trends |author1=Joseph E. Peterson |author2=Karsen N. Daus |date=2019-03-04 |jounarl={{仮リンク|PeerJ|en|PeerJ}}}}</ref>。
 
田中康平は、植物のマウントを作り発酵熱で卵を温めたという説を唱えている<ref name=":7" />。
 
ティラノサウルスは下顎に無数の神経が走っていることがわかっており(形態>頭部>顎と歯も参照)、感覚が鋭敏であったと推測されることから、子供に顎で触れてコミュニケーションをとったり顎で子供を運搬したりした可能性も示唆されている<ref name=":6" /><ref> {{Cite web |title=「素顔は優しい?」“最強”ティラノサウルス、最新研究で見えてきた“ちょっと意外な”子育て説(植田 和貴) @gendai_biz |url=https://gendai.media/articles/-/86218 |website=現代ビジネス |date=2021-08-15 |access-date=2023-10-26 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web |title=ティラノの下顎「触覚センサー」 福井県立大研が発表:中日新聞Web |url=https://www.chunichi.co.jp/article/316804 |website=中日新聞Web |access-date=2023-10-26 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web |title=ティラノサウルスの顎先は高感度の触覚センサーだった可能性を明らかにしました|恐竜博物館の調査研究|FPDM: 福井県立恐竜博物館 |url=https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/research/2021Tyranno/ |website=www.dinosaur.pref.fukui.jp |access-date=2023-10-26}}</ref>。
 
=== 親子による狩り説 ===
この説は[[フィリップ・カリー]]がティラノサウルスの生体的特徴や近縁種の集団化石から推測した話を元に、ティラノサウルスが親子で狩りをしていたとする説がある<ref>{{Cite web |title=刷新される恐竜像と私たち~21世紀の恐竜番組~|番組|NHKアーカイブス |url=https://www2.nhk.or.jp/archives/articles/?id=C0010780 |website=刷新される恐竜像と私たち~21世紀の恐竜番組~|番組|NHKアーカイブス |access-date=2024-01-26 |language=ja |last=NHK}}</ref>。なお、カリーの推測は、[[トーマス・ホルツ]]の書いた『ホルツ博士の最新恐竜事典』でも確認でき<ref>{{Cite book|和書|author1=トーマス・R・ホルツ |author2=ルイス・V・レイ |title=ホルツ博士の最新恐竜辞典 |others=小畠郁生(監訳)|publisher=朝倉書店 |year=2010 |isbn=978-4-254-16263-9}}カルノサウルスの項。</ref>、とりわけ[[日本放送協会|NHK]]が恐竜特番を組む際に採用することが多い<ref>{{Cite book|和書|title=[[恐竜vsほ乳類|恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い]] |author=NHK「恐竜」プロジェクト |year=2006 |publisher=NHK出版 |isbn=978-4-478-86054-0 |pages={{要ページ番号|date=2020年12月}}}}</ref><ref>{{Cite book|和書|title=[[恐竜絶滅 ほ乳類の戦い]] |author=NHK「ポスト恐竜」プロジェクト |year=2010 |publisher=NHK出版 |isbn=978-4-478-01386-1 |pages={{要ページ番号|date=2020年12月}}}}</ref>。他には[[ディスカバリーチャンネル]]の『[[恐竜再生]]』でも取り上げられている。
 
この説は前述の鈍足説に基づく。ティラノサウルスの咬合力は非常に強力であるが、成体のティラノサウルスは鈍足であると考えられるため、簡単には獲物に接近できない。そこで、小型かつ軽量なため機敏な動作ができる子供が獲物を親の元まで追い立てたところで親が仕留めていたのではないか、との説明がなされている。
 
この仮説の問題点としては以下のような指摘がある。
*実際には獲物の大型植物食恐竜のほうが鈍足であったこと。なお、エドモントサウルスについては時速30km前後と成体のティラノサウルスと互角の敏捷性があったらしい<ref>「Hadrosaurs」 - GoogleBooks</ref>。
*体重4-5トンを軽く超える大型恐竜を脅す役割を体重1トン程度の亜成体が担っている{{Refnest|group="注"|ただし亜成体の咬合力が従来の予想を上回るものであった可能性も指摘されている。上記「成長」の節を参照。}}。
*群れに子供がいて初めて成り立つ狩猟方法であること。
*脳神経の研究によれば、サルの仲間のような計画的・社会的な狩猟はできない可能性がある(形態>頭部>頭蓋と脳、生態>狩りも参照)<ref name=":10" />。
言わずもがな、この戦術は亜成体の協力があって初めて成立するものである。
 
=== その他の可能性行動する時間帯 ===
ティラノサウルスは優れた嗅覚や視覚を持つことから、多くの恐竜と異なり現代の[[ライオン]]のように昼夜問わず狩りをしていた可能性が高く<ref>『[[ダーウィンが来た!]] シリーズ よみがえれ!恐竜(1)史上最強 ティラノサウルスの真実』2017/1/14 NHK総合</ref>、むしろ[[夜行性]]の側面が強かったという考えを示す研究者もいる<ref>『[[地球ドラマチック]]』2023/7/15放送回</ref>。一方で、近縁種の強膜輪に基づいて、夜間では活動するのに十分な光を集めることができなかったとする意見もある<ref name=":10" />。
*狂乱索餌
:大量の獲物(もしくは死体)によって一帯の肉食動物が自然と集結し、貪るように獲物へ向かっていく行動(詳しくは[[狂乱索餌]]を参照)。これに近い行動ならば、群れの存在と集団での狩りを説明できるかもしれない{{要出典|date=2020年7月}}。
 
== 化石の評価 ==
かつて1997年10月4日にシカゴの[[フィールド自然史博物館]]に展示されている[[スー (ティラノサウルス)|スー]]と呼称される個体が当時836万ドル(2020年現在の価値では1350万ドル、日本円で1014円)もの高値で落札され、化石史上最も高額とされていたが、2020年10月6日は[[ブラックヒルズ地質学研究所]]の[[スタン (ティラノサウルス)|スタン]]が3180万ドル(日本円で約33億円)で落札額がそ、最高額超え更新した<ref>Christie’s{{Cite Sells ‘Stan’ the Tweb|和書|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/101400601/ rex|title=33億円で落札のティラノ全身化石、今後の研究に懸念も For $|accessdate=2020-11-27.5M |date=2020-10-06 |publisher=[[ナショナルジオグラフィック協会]]}}</ref>。
 
2012年5月、アメリカのオークションにティラノサウルスの骨格化石が出品され105万ドルで落札されている。ただし、この標本は[[モンゴル]]から密輸されたことが明らかになり、後日差し押さえを受けている(この化石はティラノサウルスではなく、タルボサウルスとされることもある種のものである。記事ではティラノサウルスと紹介している)<ref>{{Cite news|和書 ja |url=httphttps://www.afpbb.com/articlearticles/disaster-accidents-crime/crime/2887001/?pid=9191381 |title=8000万円で落札のティラノサウルス化石、密輸理由に差し押さえ |agency=[[フランス通信社]] |date=2012-06-29 |accessdate=2020-07-19 |newspaper=BB NEWS}}</ref><ref> {{Cite news ja |title=ティラノ骨格化石が8000万円で落札、モンゴル政府は提訴 |url=https://jp.reuters.com/article/tk0809594-dinosaur-auction-mongolian-idJPTYE84L01320120522/ |work=Reuters |date=2012-05-22 |access-date=2023-10-05 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=タルボサウルス解説 - 神流町恐竜センター - 2ページ |url=https://dino-nakasato.org/dinocenter-ouchimuseum/%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9%E8%A7%A3%E8%AA%AC/2/ |website=dino-nakasato.org |access-date=2023-10-26}}</ref>。
 
このようにティラノサウルスは商業的取引が盛んであるが、販売は科学の手を離れることを意味し批判も多い。トーマス・カーによれば、2020年10月時点で研究に利用可能な信頼できる標本が57体、商業的・私的に保存されている標本が43体であるという<ref> {{Cite web |title=Tyrannosauroidea central: Tyrannosaurus rex: 115 Years Old & Royally F***ed |url=https://tyrannosauroideacentral.blogspot.com/2020/10/tyrannosaurus-rex-115-years-old-royally.html |website=Tyrannosauroidea central |date=2020-10-14 |access-date=2023-11-01 |first=Thomas |last=Carr}}</ref><ref> {{Cite web |title=Tyrannosauroidea central: WHEN MUSEUMS BUY TYRANNOSAURS |url=https://tyrannosauroideacentral.blogspot.com/2020/11/when-museums-buy-tyrannosaurs.html |website=Tyrannosauroidea central |date=2020-11-27 |access-date=2023-11-01 |first=Thomas |last=Carr}}</ref>。カーはまた、2025年に受理された論文の中で、商業的な利益を優先しなければ、標本数が61体から141体にまで増える可能性があると述べている<ref>{{Cite journal|last=Carr|first=Thomas D.|date=2025-04-10|title=Tyrannosaurus rex: An endangered species|url=https://palaeo-electronica.org/content/2025/5499-t-rex-endangered-species|journal=Palaeontologia Electronica|volume=28|issue=1|pages=1–27|language=English|doi=10.26879/1337|issn=1094-8074}}</ref>。
 
== ''T.rex'' のほかのティラノサウルス ==
これまでにティラノサウルスは'''''T.rex'''''一種しか認められていなかったが、2020年代以降複数の種が記載された。
===reginaとimperator===
2022年、アメリカの[[グレゴリー・ポール]]氏による37体の化石の分析によると、[[歯]]と[[大腿骨]]の違いなどから、'''''T.regina'''''(女王という意味)と'''''T.imperator'''''(皇帝という意味)の2種類を発見したと発表し、命名した<ref> {{Cite web|和書|title=ティラノサウルスは実は3種いた、新たな論文が物議、議論白熱 |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/030300096/ |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |access-date=2023-09-01 |language=ja}} </ref><ref> {{Cite web|和書|title=ティラノサウルスは3種いた? 新説発表 王に加え皇帝、女王も:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASQ383QDXQ34ULBJ00N.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2022-03-08 |access-date=2023-09-01 |language=ja}} </ref><ref> {{Cite web|和書|title=33億円のティラノサウルスは新種か 恐竜化石の新説めぐり疑問も:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASQ4X65P0Q46ULBH005.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2022-04-28 |access-date=2023-09-01 |language=ja}} </ref><ref> {{Cite web |title=Tyrannosaurus remains hint at two possible species distinct from T. rex {{!}}
Springer — International Publisher |url=https://www.springer.com/gp/about-springer/media/research-news/all-english-research-news/tyrannosaurus-remains-hint-at-two-possible-species-distinct-from/20183526] |website=www.springer.com |access-date=2023-09-01 |language=en}} </ref><ref> {{Cite news2 |df=ja |title=They Want to Break T. Rex Into 3 Species. Other Paleontologists Aren’t Pleased. |url=https://www.nytimes.com/2022/02/28/science/tyrannosaurus-rex-species.html |work=The New York Times |date=2022-03-01 |access-date=2023-09-01 |issn=0362-4331 |language=en-US |first=Asher |last=Elbein}} </ref><ref> {{Cite news2 |df=ja |title=Tyrannosaurus rex may have been three species, scientists say |url=https://www.theguardian.com/science/2022/mar/01/tyrannosaurus-rex-may-have-been-three-species-scientists-say |work=The Guardian |date=2022-03-01 |access-date=2023-09-01 |issn=0261-3077 |language=en-GB |first=Nicola |last=Davis }}</ref> {{Refnest|group="注"|属名と種小名両方の文法形式は、男性形、女性形、中性形のいずれかで統一される必要があるが、Tyrannosaurusが男性形なのに対してreginaは女性形であり適切ではない<ref> {{Cite web |title=Theropoda: La Trinità di Tyrannosaurus |url=https://theropoda.blogspot.com/2022/03/la-trinita-di-tyrannosaurus.html |website=Theropoda |date=2022-03-01 |access-date=2023-10-11 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>}}。
 
しかし、この程度の違いは一つの種の中でも見ることができるという意見もある。カーセッジ大学の研究チームは、差は小さく、これらの種小名は無効でティラノサウルスには'''''T.rex'''''一種のみとした<ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Carr|first=Thomas D.|last2=Napoli|first2=James G.|last3=Brusatte|first3=Stephen L.|last4=Holtz|first4=Thomas R.|last5=Hone|first5=David W. E.|last6=Williamson|first6=Thomas E.|last7=Zanno|first7=Lindsay E.|date=2022-09-01|title=Insufficient Evidence for Multiple Species of Tyrannosaurus in the Latest Cretaceous of North America: A Comment on “The Tyrant Lizard King, Queen and Emperor: Multiple Lines of Morphological and Stratigraphic Evidence Support Subtle Evolution and Probable Speciation Within the North American Genus Tyrannosaurus”|url=https://doi.org/10.1007/s11692-022-09573-1|journal=Evolutionary Biology|volume=49|issue=3|pages=327–341|language=en|doi=10.1007/s11692-022-09573-1|issn=1934-2845}} </ref><ref> https://www.amnh.org/explore/news-blogs/research-posts/t-rex-one-species</ref><ref>{{Cite book|和書|title= も〜っと! 恐竜・古生物ビフォーアフター |pages=29-33 |author=土屋健|authorlink=土屋健 (サイエンスライター) |others=群馬県立自然史博物館(監修)、[[ツク之助]](絵)|publisher=イースト・プレス |date=2023-06-20 |isbn= 978-4781622101}}</ref><ref> {{Cite web |title='Bold theory' that Tyrannosaurus rex is 3 species gets stomped to pieces |url=https://www.livescience.com/tyrannosaurus-rex-is-one-species |website=livescience.com |date=2022-07-25 |access-date=2024-01-04 |language=en |first=Laura Geggel last |last=updated}}</ref>。イタリアの古脊椎動物学者アンドレア・カウも自身のブログにおいて、骨が堅牢か虚弱か、切歯状の歯が1本か2本かの2つの解剖学的特徴のみに基づいていることを述べ、堅牢・虚弱の明確な区別がなく、恐竜の歯は成長によって変動しやすい点から種を区別するのに十分でないと指摘した<ref>{{Cite web |title=Theropoda: Tyrannosaurus rex, Tyrannosaurus rex, Tyrannosaurus rex |url=https://theropoda.blogspot.com/2022/03/tyrannosaurus-rex-tyrannosaurus-rex.html |website=Theropoda |date=2022-03-02 |access-date=2023-10-11 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。
 
2025年、グレゴリー・ポールは後眼窩骨突起と体格などに基づきティラノサウルス属3種説を再び提唱した<ref>{{Cite journal|last=Paul|first=Gregory S.|date=2025-06-30|title=A presentation of the current data on the exceptionally diverse non-tyrannosaurid eutyrannosaur and tyrannosaurini genera and species of western North America during the end cretaceous North American interchange|url=https://mapress.com/mz/article/view/mesozoic.2.2.1|journal=Mesozoic|volume=2|issue=2|pages=085–138|language=en|doi=10.11646/mesozoic.2.2.1|issn=3021-1867}}</ref>。
 
一方、同年のトーマス・カーによる研究では、これらを系統的に異なる三つの分類群とすることはできないとした<ref name=":14" />。
===mcraeensis===
[[ファイル:Tyrannosaurus mcraeensis (skull reconstruction).png|サムネイル|''T.mcraeensis''の骨格図]]
[[ファイル:Tyrannosaurus mcraeensis JF.png|サムネイル|''T.mcraeensis''の復元図]]
2024年には、ニック・ロングリッチらによって'''''T. mcraeensis'''''が記載された<ref> {{Cite journal2 |df=ja |last=Dalman|first=Sebastian G.|last2=Loewen|first2=Mark A.|last3=Pyron|first3=R. Alexander|last4=Jasinski|first4=Steven E.|last5=Malinzak|first5=D. Edward|last6=Lucas|first6=Spencer G.|last7=Fiorillo|first7=Anthony R.|last8=Currie|first8=Philip J.|last9=Longrich|first9=Nicholas R.|date=2024-01-11|title=A giant tyrannosaur from the Campanian–Maastrichtian of southern North America and the evolution of tyrannosaurid gigantism|url=https://www.nature.com/articles/s41598-023-47011-0|journal=Scientific Reports|volume=13|issue=1|pages=22124|language=en|doi=10.1038/s41598-023-47011-0|issn=2045-2322}} </ref><ref name=":9"> {{Cite web |title=Tyrannosaurus mcraeensis a New Tyrannosaurus Species |url=https://blog.everythingdinosaur.com/blog/_archives/2024/01/11/a-new-tyrannosaurus-species-is-described.html |website=blog.everythingdinosaur.com |date=2024-01-11 |access-date=2024-01-11 |language=en-US |last=Mike}}</ref>。''rex''より古い時代から得られたもので、大きさは同程度とされる<ref name=":9" /><ref> {{Cite web |title=「最強」ティラノサウルス・レックスの親戚? 新種化石、米国で発見:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASS1D5S9WS1CPLBJ009.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2024-01-12 |access-date=2024-01-26 |language=ja}}</ref>。''T.mcraeensis''は''T.rex''と比べ顎が細く、眼窩後の隆起が顕著でないとされる<ref>{{Cite web |title=New dinosaur discovery may be the closest relative to Tyrannosaurus rex, scientists say |url=https://abcnews.go.com/US/new-dinosaur-discovery-closest-relative-tyrannosaurus-rex-scientists/story?id=106223261 |website=ABC News |access-date=2024-01-12 |language=en |first=A. B. C. |last=News}}</ref><ref>{{Cite web |title=New species of giant Tyrannosaurus predates T. rex by 6 million years |url=https://newatlas.com/biology/tyrannosaurus-t-rex-mcraeensis-new-species/ |website=New Atlas |date=2024-01-15 |access-date=2024-01-29 |language=en-US}}</ref>。記載時点で最も''T. rex''に近縁な種とされるが、''T. rex''の直接の祖先である可能性は低い<ref name=":9" />。一方で独自の種とする見解には異論もあり、2025年のカンクウルウの記載論文においては、''T.mcraeensis''は''T. rex''の亜成体に過ぎないと見なされた<ref>{{Cite journal|last=Voris|first=Jared T.|last2=Zelenitsky|first2=Darla K.|last3=Kobayashi|first3=Yoshitsugu|last4=Modesto|first4=Sean P.|last5=Therrien|first5=François|last6=Tsutsumi|first6=Hiroki|last7=Chinzorig|first7=Tsogtbaatar|last8=Tsogtbaatar|first8=Khishigjav|date=2025-06-11|title=A new Mongolian tyrannosauroid and the evolution of Eutyrannosauria|url=https://www.nature.com/articles/s41586-025-08964-6|journal=Nature|pages=1–7|language=en|doi=10.1038/s41586-025-08964-6|issn=1476-4687}}</ref>。同年、トーマス・カーも独自の種とする根拠に説得力がないと述べた<ref name=":14">{{Cite journal|last=Carr|first=Thomas D.|date=2025-12-31|title=Observations on the skull of the type specimen of Tyrannosaurus rex Osborn, 1905|url=https://doi.org/10.1080/27669645.2025.2539638|journal=All Earth|volume=37|issue=1|pages=1–66|doi=10.1080/27669645.2025.2539638}}</ref>。
 
== 大衆文化におけるティラノサウルス ==
[[ティラノサウルスを主題とする作品一覧]]も参照。
 
2020年代には米国発祥とされる<ref> {{Cite web |title=ティラノサウルスだらけのレースが競馬場で開催される アメリカ(アフロ) |url=https://news.yahoo.co.jp/articles/35b4fdfa2ade1e651d71ae85d412ff9a5d3a7ca8 |website=Yahoo!ニュース |access-date=2023-10-23 |language=ja}} </ref><ref name=":4"> {{Cite web |title=さいたま・見沼たんぼでティラノサウルスレース開催へ 浦和エリア初 |url=https://urawa.keizai.biz/headline/840/ |website=浦和経済新聞 |access-date=2023-10-23}}</ref><ref name=":5"> {{Cite web |title=ティラノサウルス“150人”海岸を全力ダッシュ! たつので「おそらく」兵庫初、人気着ぐるみレース |url=https://www.kobe-np.co.jp/news/seiban/202310/0016894175.shtml |website=神戸新聞NEXT |date=2023-10-08 |access-date=2023-10-23 |language=Japanese}}</ref><ref> {{Cite web |title=米国発祥のティラノサウルスレース 国内でもじわり、40ほどの大会:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASR5K5QFDR5DOXIE013.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2023-05-17 |access-date=2023-10-24 |language=ja}}</ref>、「ティラノサウルスの着ぐるみ着用の徒競走大会」([[ティラノサウルスレース]])が、日本各地でブームとなった<ref name=":4" /><ref name=":5" /><ref> {{Cite web |title=”恐竜”激走 着ぐるみまとう「ティラノサウルスレース」「丹波竜の里」で初開催/兵庫・丹波市(丹波新聞) |url=https://news.yahoo.co.jp/articles/9d179a13b84498d5a688d31e5f415a437697f2d5 |website=Yahoo!ニュース |access-date=2023-10-23 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web |title=鰺ヶ沢町でティラノサウルスレース|NHK 青森県のニュース |url=https://web.archive.org/web/20231023015300/https://www3.nhk.or.jp/lnews/aomori/20231022/6080020899.html |website=NHK NEWS WEB |access-date=2023-10-23 |last=日本放送協会}}</ref><ref> {{Cite web |title=60匹のティラノサウルス、朱雀門前を全力疾走 奈良・平城宮跡公園:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASRBH6VB5RBHPOMB00G.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2023-10-15 |access-date=2023-10-23 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web |title=恐竜“ティラノサウルス” 着ぐるみでレース 秋田 三種町|NHK 秋田県のニュース |url=https://web.archive.org/web/20231016010600/https://www3.nhk.or.jp/lnews/akita/20231015/6010019313.html |website=NHK NEWS WEB |access-date=2023-10-23 |last=日本放送協会}}</ref><ref> {{Cite web |title=一度走れば誰もがハマる?ティラノサウルスレース、ブームの予感:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASR596DPYR4SPTIB001.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2023-05-17 |access-date=2023-10-24 |language=ja}}</ref><ref> {{Cite web |title=走るティラノサウルス、浜辺を全力で! 海外発祥の人気レース、尼寺のツイッター担当が企画 たつの |url=https://www.kobe-np.co.jp/news/seiban/202305/0016332798.shtml |website=神戸新聞NEXT |date=2023-05-10 |access-date=2023-10-24 |language=Japanese}}</ref><ref> {{Cite web |title=ティラノレース、四国で拡大 観光・イベント連動で誘客 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC267680W3A920C2000000/ |website=日本経済新聞 |date=2023-09-28 |access-date=2023-10-24 |language=ja}}</ref>。
 
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
 
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|230em}}
 
== 関連項目 ==
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{{Wiktionary|en:Tyrannosaurus rex}}
{{Wikibookslang|en|Wikijunior:Dinosaurs/Tyrannosaurus|Wikijunior:<br />Dinosaurs/Tyrannosaurus}}
* [[スー (ティラノサウルス)]]
* [[ティラノサウルスの標本]]
* [[恐竜]]
* [[恐竜の一覧]]
* [[ティラノサウルス科]]
* [[ダスプレトティラノサウルスレース]]
* [[タルボサウルス]]
* [[ナノティラヌス]]
* [[アルバートサウルス]]
* [[ゴルゴサウルス]]
* [[ラプトレックス]]
* [[シャモティラヌス]]
* [[絶滅した動物一覧#白亜紀]]
;ティラノサウルスを題材とした事物(名称のみのものも含む)
* [[ティラノサウルス (小惑星)]]
275 ⟶ 430行目:
**:[http://www.dino-pantheon.com/backyard/news/20030703tarbovst-rex.html (和訳)アジアと北アメリカ産の大型獣脚類:Tarbosaurus bataar とTyrannosaurus rex 頭蓋の比較 7.03.03]
 
{{Dinosaur-stub獣脚類}}
{{Normdaten}}
 
{{Taxonbar|from1=Q14332}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:ていらのさうるす}}
[[Category:ティラノサウルス|*]]
[[Category:ティラノサウルス科]]
[[Category:ティラノサウルス亜科]]
[[Category:北アメリカの恐竜]]
[[Category:マーストリヒチアンの生物]]
[[Category:アメリカ合衆国産の化石]]
[[Category:カナダ産の化石]]
[[Category:1905年に記載された化石分類群]]