「小酒井不木」の版間の差分

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{{Infobox 作家

{{No footnotes|date=2017年8月}}

[[File:Kosakai Fuboku.jpg|thumb|200px|name=小酒井 不木]]

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{{読み仮名_ruby不使用|'''小酒井 不木'''|こさかい ふぼく|本名：{{読み仮名_ruby不使用|'''小酒井 光次'''|こさかい みつじ}}}}、1890年10月8日 - 1929年4月1日）は、[[日本]]の[[医学|医学者]]、[[随筆家]]、[[翻訳|翻訳家]]、[[推理作家]]、[[犯罪]]研究家<ref>[[鮎川哲也]]『怪奇探偵小説集』1（[[双葉文庫|双葉ポケット文庫]]、1983年）p.42、「死体蠟燭」著者紹介。</ref>。別名「鳥井零水」。

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|education=医学博士

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'''小酒井 不木'''（こさかい ふぼく、[[1890年]][[10月8日]] - [[1929年]][[4月1日]]）は、[[日本]]の[[医学|医学者]]・[[随筆家]]・[[翻訳|翻訳家]]・[[推理作家]]・[[犯罪]]研究家<ref>[[鮎川哲也]]『怪奇探偵小説集 1』[[双葉文庫|双葉ポケット文庫]]、1983年、p.42、「死体蠟燭」著者紹介。</ref>。別名は鳥井零水。

医学者としては[[生理学]]・[[血清学]]の研究で業績を上げた。また、1921年（大正10年）から8年間に渡って探偵小説などの文筆活動を行った。[[江戸川乱歩]]のデビュー作である『[[二銭銅貨]]』は、不木が推薦したことで世に出た作品である<ref>『愛知の文学碑』愛知県郷土資料刊行会、1979年、pp.232-235</ref>。医師で[[順天堂大学]]名誉教授の[[小酒井望]]は長男。

==来歴==

[[愛知県]][[海部郡 (愛知県)|海部郡]][[蟹江町|新蟹江村]]（現・[[蟹江町]]）に生まれる。1903年4月、[[愛知県立旭丘高等学校|愛知県立第一中学校]]に入学。1908年、[[第三高等学校 (旧制)|第三高等学校]]に入学。1911年、[[東京大学|東京帝国大学]]東京大学大学院医学系研究科・医学部|医学部に入学。1914年12月、東京帝国大学大学院に入り、[[生理学]]・[[血清学]]を専攻。1915年1月、25歳で[[愛知県立明和高等学校#旧制愛知県立第一高等女学校|愛知県立第一高等女学校]]の女教師である鶴見久枝と結婚。12月に[[肺炎]]を病み、[[片瀬海岸]]や森が崎に転地療養する。

== 経歴 ==

1916年前年の発病から半年後に快癒し、再び研究に従事。1917年12月、27歳で[[東北帝国大学]]医学部[[衛生学]]助教授に任じられる。[[文部省]]より衛生学研究のため海外留学を命じられ、渡英する。1919年、長男・望が生まれる。渡英後、[[ロンドン]]で[[喀血]]に襲われ、[[ブライトン]]海岸に転地療養。小康を得ていったんロンドンに戻る。

[[File:Fuboku Kosakai birthplace monument ac.jpg|thumb|left|小酒井不木生誕地碑]]

=== 幼少期・青年時代 ===

1920年、春に[[フランス]]の[[パリ]]に渡る。再び喀血し、[[南仏]]で療養。小康を得て帰国。11月に[[神戸港|神戸]]に帰国。10月に東北帝国大学医学部衛生学教授就任の辞令を受けているが、病のため任地に赴けず、長男を親元に預け、愛知県[[津島市]]の妻の実家で静養する。

1890年（明治23年）10月8日、[[愛知県]][[海東郡]][[蟹江町|新蟹江村]]（現・[[海部郡 (愛知県)|海部郡]][[蟹江町]]大字[[蟹江新田]]）の地主の家の長男として生まれた<ref name="広報かにえ583号">{{Cite journal |url=https://www.town.kanie.aichi.jp/img/pdf/koho_kanie_tokushu_2020_03.pdf |title=特集 小酒井不木生誕130年 |journal=広報かにえ |publisher=蟹江町 |volume= |issue=583 |date=2020-03 |accessdate=2021-04-22}}</ref>。本名は小酒井光次（こさかいみつじ）。父親は小酒井半兵衛であり、村長や郡会議員も務めた人物である<ref name="広報かにえ583号"/>。生誕地は[[名古屋]]で生後まもなく父方に引き取られ、産みの母の顔は知らずに育った<ref>{{Cite book|和書|author=三田村博史 |title=東海の文学風土記 |publisher=中日新聞社 |date=2015 |page=39 |isbn=}}</ref><ref name=愛知県教育振興会1959,p87>{{Cite book|和書|author=愛知県小中学校長会 |title=新郷土に輝く人々下巻 |publisher=愛知県教育振興会 |date=1959 |page=87 |isbn=}}</ref>。

1895年（明治28年）には新蟹江尋常小学校（現・[[蟹江町立新蟹江小学校]]）に入学<ref name="広報かにえ583号"/>。幼少の頃から新蟹江尋常小学校に遊びに行っており、一般的な就学年齢より2年早い4歳6か月で入学している<ref name="広報かにえ583号"/>。1899年（明治32年）には蟹江尋常高等小学校（現・[[蟹江町立蟹江小学校]]）に入学し、1902年（明治35年）に高等小学校を修業した<ref name="広報かにえ583号"/>。1902年（明治35年）には愛知県立第一中学校（現・[[愛知県立旭丘高等学校]]）に入学し、1907年（明治40年）に中学校を卒業した。体育以外の課目は常に最高点を取る聡明な子どもだった<ref name=愛知県教育振興会1959,p87/>。1907年（明治40年）には[[第三高等学校 (旧制) |第三高等学校]]（現・[[京都大学]]）に入学し、1910年（明治43年）に第三高等学校を卒業した<ref name="広報かにえ583号"/>。1911年（明治44年）には[[東京大学|東京帝国大学]]医科大学（現・東京大学医学部）に入学<ref name="広報かにえ583号"/>。在学中の1911年（明治44年）には京都日出新聞に処女小説『あら浪』を連載している<ref name="広報かにえ583号"/>。

1921年、医学博士の学位を取得する。『[[東京日日新聞]]』に『学者気質』を連載するが、篇中にあった「探偵小説」の一項が、前年創刊された探偵雑誌『[[新青年 (日本)|新青年]]』（[[博文館]]）編集長[[森下雨村]]の目に留った。森下は不木に手紙を書き、不木も「喜んで寄稿し、今後腰を入れて探偵文学に力を注ぎたい」と返書。

=== 医学者として ===

以後、研究の傍ら随筆、海外探偵小説の翻訳と、八面六臂の活躍で当時の探偵小説普及に大きく貢献する。12月に『学者気質』を刊行。この年31歳。

1914年（大正3年）には東京帝国大学医科大学を卒業し、同年12月には東京帝国大学大学院に入学して[[生理学]]・[[血清学]]を専攻した<ref name=愛知県教育振興会1959,p87/>。生理学の教授は[[永井潜]]、血清学の教授は[[三田定則]]だった<ref name="長山1991">長山靖生「万有博士の20年代 医学、犯罪学、探偵小説、そして諸学の新しい波」（小酒井不木『殺人論』国書刊行会、1991年より）</ref>。三田は犯罪学の権威でもあり、不木や同窓生らはのちに『犯罪学雑誌』の創刊に尽力している<ref name="長山1991"/>。25歳だった1915年（大正4年）1月、[[愛知県立明和高等学校#第一高等女学校・第一女子高等学校|愛知県立第一高等女学校]]（現・[[愛知県立明和高等学校]]）の教師である鶴見久枝と結婚した<ref name=愛知県教育振興会1959,p88/>。久枝は[[海部郡 (愛知県)|海部郡]][[神守村]]（現・[[津島市]]）の地主の娘である。同年には『生命神秘論』を発表しているが、機械論が全盛の生理学会において現象そのものとしての人間をとらえようとした点が重要である<ref name="長山1991"/>。不木と同様に医学と文学の双方で活躍した人物としては、医師であり探偵小説家でもある[[正木不如丘]]、皮膚科教授であり詩人でもある[[木下杢太郎]]などがいる<ref name="長山1991"/>。

1922年東北帝国大学を退職。静養に努める。『毒及毒殺の研究』を連載。1923年の[[関東大震災]]後の10月、親子三人で愛知県[[名古屋市]][[中区 (名古屋市)|中区]][[御器所|御器所町]]に新築転居。文筆に専念。『殺人論』『西洋犯罪探偵譚』の執筆、[[スウェーデン]]の大衆小説作家[[:sv:Samuel A. Duse|サミュエル・オーギュスト・ドゥーゼ]]の『夜の冒険』を翻訳連載。『犯罪と探偵』を刊行。

1915年（大正4年）12月には[[肺炎]]を病み、[[片瀬海岸]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.kanabun.or.jp/material-data/chronological-table/chronological-table-05/ |title=神奈川近代文学年表　大正元年～15年 |publisher =神奈川近代文学館 |accessdate=2025-06-29}}</ref>や森が崎に転地療養している。1916年（大正5年）前年の発病から半年後に快癒し、再び研究に従事。1917年（大正6年）12月、27歳で[[東北帝国大学]]医学部[[衛生学]]助教授に任じられる<ref name=愛知県教育振興会1959,p88/>。[[文部省]]より衛生学研究のため海外留学を命じられ、アメリカ・イギリス・フランスに派遣されることとなり、まずは[[春洋丸]]で横浜を出港、アメリカに向かった<ref name=愛知県教育振興会1959,p88/>。1年余りの滞米期間中に血清の研究をすすめ、[[野口英世]]ほか諸外国の医学研究者らと交流<ref name=愛知県教育振興会1959,p88>{{Cite book|和書|author=愛知県小中学校長会 |title=新郷土に輝く人々下巻 |publisher=愛知県教育振興会 |date=1959 |page=88 |isbn=}}</ref><ref name=愛知県教育振興会1959,p89>{{Cite book|和書|author=愛知県小中学校長会 |title=新郷土に輝く人々下巻 |publisher=愛知県教育振興会 |date=1959 |page=89 |isbn=}}</ref>。

1924年12月『[[子供の科学]]』で少年探偵小説『紅色ダイヤ』連載開始。『西洋医談』『科学探偵』『殺人論』を刊行。1925年に創作活動を始め、『呪はれの家』<ref>不木はこの『呪はれの家』を「処女作」と呼んでいる</ref>のほか『画家の罪?』『按摩』『虚実の証拠』『遺伝』『手術』などを発表、『犯罪文学研究』を連載。10月より結成された大衆文芸作家の同人「二十一日会」に参加。『三面座談』『近代犯罪研究』『趣味の探偵談』を刊行。1926年、『人工心臓』『恋愛曲線』『[[メデューサ]]の首』などを発表。『闘病術』『少年科学探偵』『犯罪文学研究』を刊行。長女生まれる。1927年、『疑問の黒枠』を連載。1928年1月、自宅隣地に研究室を建て、血清学の研究を始める。『恋魔怪曲』『好色破邪顕正』を連載。1929年4月1日未明、39歳（[[数え年]]40歳）で[[急性]]肺炎のため死去。不木の死はラジオや新聞で大々的に報じられ、4月4日の葬儀には多数の参会者が詰めかけた。

1919年（大正8年）、長男・望が生まれる。この年、渡英するが、激務と気候の変化で同年6月に肺を病み、[[喀血]]した<ref name=愛知県教育振興会1959,p90>{{Cite book|和書|author=愛知県小中学校長会 |title=新郷土に輝く人々下巻 |publisher=愛知県教育振興会 |date=1959 |page=90 |isbn=}}</ref>。[[ブライトン]]海岸に転地療養。小康を得ていったんロンドンに戻った。

同年5月に『闘争』が発表され、翌年10月にかけて『小酒井不木全集』（全17巻）が[[改造社]]から出版された。

1920年（大正9年）、春に[[フランス]]の[[パリ]]に渡った<ref name=愛知県教育振興会1959,p90/>。再び喀血し、[[南仏]]で療養。小康を得て11月に[[神戸港|神戸]]に帰国する<ref name=愛知県教育振興会1959,p90/>。10月に東北帝国大学医学部衛生学教授就任の辞令を受け、翌1921年（大正10年）には[[博士（医学）|医学博士]]の学位を取得した<ref name=愛知県教育振興会1959,p90/>。しかし、病のため任地の仙台に赴くことはできないまま、大学教授の職を辞すこととした<ref name=愛知県教育振興会1959,p90/>。長男を親元に預け、愛知県[[津島市]]の妻の実家で静養した。

長男の[[小酒井望]]は医師で、[[順天堂大学]]名誉教授。

『[[東京日日新聞]]』に『学者気質』を連載するが、篇中にあった「探偵小説」の一項が、前年創刊された探偵雑誌『[[新青年 (日本)|新青年]]』（[[博文館]]）編集長[[森下雨村]]の目に留った。森下は不木に手紙を書き、不木も「喜んで寄稿し、今後腰を入れて探偵文学に力を注ぎたい」と返書。1924年（大正13年）には木下杢太郎が[[愛知医科大学]]皮膚科学教授となり、[[名古屋市]]において不木と木下を中心とした一種のサロンが形成された<ref name="長山1991"/>。

==人物==

=== 随筆家・探偵小説家として ===

不木は医学研究の傍らで、随筆の執筆や海外探偵小説の翻訳などを行って探偵小説の普及に貢献した。31歳だった1915年（大正4年）12月には『学者気質』を刊行。1922年（大正11年）に東北帝国大学を退職。静養に努める。『毒及毒殺の研究』を連載。1923年（大正12年）の[[関東大震災]]後の10月、親子三人で愛知県[[名古屋市]][[中区 (名古屋市)|中区]][[御器所|御器所町]]（現・愛知県名古屋市[[昭和区]][[鶴舞 (名古屋市)|鶴舞]]四丁目５番13号<ref>名古屋市教育委員会『名古屋の史跡と文化財』名古屋市教育委員会、1990年、247ページ</ref>）に新築転居。文筆に専念。『殺人論』『西洋犯罪探偵譚』の執筆、[[スウェーデン]]の大衆小説作家[[:sv:Samuel A. Duse|サミュエル・オーギュスト・ドゥーゼ]]の『夜の冒険』を翻訳連載。『犯罪と探偵』を刊行。

1924年（大正13年）12月、『[[子供の科学]]』で少年探偵小説『紅色ダイヤ』連載開始。『西洋医談』『科学探偵』『殺人論』を刊行。1925年（大正14年）には創作活動を始め、『呪はれの家』{{Efn|不木はこの『呪はれの家』を「処女作」と呼んでいる。}}のほか『画家の罪?』『按摩』『虚実の証拠』『遺伝』『手術』などを発表、『犯罪文学研究』を連載。10月より結成された大衆文芸作家の同人「二十一日会」に参加。『三面座談』『近代犯罪研究』『趣味の探偵談』を刊行。1926年（大正15年）、『人工心臓』『恋愛曲線』『[[メデューサ]]の首』などを発表。『闘病術』『少年科学探偵』『犯罪文学研究』を刊行。長女生まれる。1927年（昭和2年）、『疑問の黒枠』を連載。1928年（昭和3年）1月、自宅隣地に研究室を建て、血清学の研究を始める。『恋魔怪曲』『好色破邪顕正』を連載。

最晩年には、[[江戸川乱歩]]、[[国枝史郎]]、[[長谷川伸]]、[[土師清二]]（のち[[平山蘆江]]も）を語らって小説合作組合「耽綺社」を結成。『空中紳士』など6篇を5人または6人で合作した。

1929年（昭和4年）3月27日に[[急性肺炎]]を起こして自宅で療養していたが、4月1日に死去した<ref name="朝日新聞19290402B">「探偵小説の小酒井不木博士逝く 急性肺炎を起して」『朝日新聞』1929年4月2日東京夕刊、2ページ</ref><ref>『出版年鑑 昭和5年版』東京堂、1930年、p.17。</ref>。39歳没（数え40歳没）。不木の死はラジオや新聞で大々的に報じられ、4月4日の葬儀には多数の参会者が詰めかけた。絶筆の『抱きつく瀕死者』は『文芸倶楽部』1929年6月号に発表された<ref name="朝日新聞19290402B"/>。1930年（昭和5年）10月にかけて『小酒井不木全集』（全17巻）が[[改造社]]から出版された。

{{Quotation|博士は私の恩人で私の処女作『二銭銅貨』が新青年に載るとき賛辞を頂いたのが縁となり一昨年暮れ博士が中心となって起した耽綺社の同人になった訳である、昨日博士から手紙を頂いたばかりで余り突然の悲報にうそではないかと思った次第だ|不木の訃報に寄せて、江戸川乱歩<ref name="朝日新聞19290402A">「ぞっとする陰惨味 江戸川乱歩氏談」『朝日新聞』1929年4月2日東京夕刊、2ページ</ref>}}

== 人物 ==

翻訳家、随筆家、探偵作家の他に、[[サイエンス・フィクション|SF]]の先駆者とも言われる。[[東北帝国大学]][[教授]]であり、[[医学博士]]でもある。当時、[[生理学]]の世界的な権威だった。帝大医学部の一年先輩に[[正木不如丘]]がいる。長男・望によると、生活は真夜中過ぎから暁方まで執筆し、昼頃まで寝るという夜型だった。

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『新青年』に発表した作品群は医学に取材し、人体破壊のテーマが多く、陰惨さが濃いものとなっている。不木はフランスの作家モーリス・ルヴェルを愛好していて、冷酷な作風が似通っている。不木は「自分の作品が一部の人々に不快な感じを与えるのは、（人物の）取り扱い方があまりに冷たいからで、科学的なものの見方に訓練された結果、作中の人物に同情が持てないからだ」と語っている。

大正15年に[[甲賀三郎 (作家)|甲賀三郎]]は「単純にトリックの面白さを追求した探偵小説」を「'''本格'''」と呼称した。[[平林初之輔]]は、[[江戸川乱歩]]をはじめ不木や[[横溝正史]]、[[城昌幸]]は「精神病理的、変態心理的側面の探索に興味を持ち、異常な世界を構築しているから」と「'''不健全派'''」と呼んだが、のちにこれは同じく甲賀によって「'''変格'''」との名が当てられ、小酒井不木もこの「変格派作家」の一人に位置づけられた。

===小酒井不木 江戸川乱歩と横溝正史の関係 ===

[[江戸川乱歩]]が『[[二銭銅貨]]』を[[森下雨村]]に送った際に、雨村は不木にその判定を求め、不木がこれを絶賛し、「本邦初の探偵作家江戸川乱歩」を誕生たらしめたのは有名な話である。4歳上の不木は終世、乱歩を擁護し激励し続けた。乱歩出現後の日本探偵文壇を飛躍させるため、雨村は不木に、自分たちも筆を執ろうと声をかけ、大正13年から『子供の科学』で少年探偵小説『紅色ダイヤ』の連載を始めている。

『二銭銅貨』を激奨したしたことをきっかけに1923年（大正12年）7月1日から不木の没する1929年（昭和4年）4月1日の2日前まで往復書簡で交流を交わした<ref>{{Cite book|和書|author=浜田雄介 |title=子不語の夢江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集 |publisher=皓星社 |date=2004 |page= |isbn=}}</ref>。

1924年（大正13年）、乱歩は『心理試験』の原稿を不木に送り「私が果たして探偵小説家として一人前になれるかどうかを、先生に御判断願ひ度いのです」と専業作家として自立することが可能かと尋ねた<ref>{{Cite book|和書|author=浜田雄介 |title=子不語の夢江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集 |publisher=皓星社 |date=2004 |page=25 |isbn=}}</ref>。

不木は1927年（昭和2年）には合作組合・耽綺社を結成し当時スランプに陥っていた乱歩を勧誘した<ref>{{Cite book|和書|author=浜田雄介 |title=子不語の夢江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集 |publisher=皓星社 |date=2004 |page= 223|isbn=}}</ref>。

乱歩は、不木の没後には、不木全集の発行に貢献した<ref>{{Cite book|和書|author=新保博久、山前譲 |title=江戸川乱歩日本探偵小説事典 |publisher=河出書房新社 |date=1996-10-25 |page=186 |isbn=}}</ref>。

33回忌には不木の墓の隣に乱歩揮毫の「不木碑」を建ち、現在は不木の出身地蟹江町歴史民俗資料館に移設されている<ref>{{Cite web |url=https://www.town.kanie.aichi.jp/site/kosakaifuboku/huboku.html |title=蟹江町出身の探偵小説家　小酒井不木（こさかいふぼく）の生涯と足跡 |publisher =蟹江町 |date=2023-12-11 |accessdate=2025-03-23}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www.town.kanie.aichi.jp/uploaded/attachment/14629.pdf |title=蟹江町出身の探偵小説家小酒井不木をご存知ですか？ |format=PDF |publisher =愛知県蟹江町 |date=2021-01-01 |accessdate=2025-03-23}}</ref>

。

=== 森下雨村との関係 ===

=== 横溝正史との関係 ===

乱歩出現後の日本探偵文壇を飛躍させるため、雨村は不木に、自分たちも筆を執ろうと声をかけ、大正13年から『子供の科学』で少年探偵小説『紅色ダイヤ』の連載を始めている。

[[横溝正史]]によると不木は「温厚にして篤実、几帳面なお人柄」で、「当時の『新青年』の編集長、[[森下雨村]]にとっても、「もっと畏敬すべき存在だったに違いない」と述べている。したがって雨村が『新青年』で『二銭銅貨』を発表するにあたって、不木に推薦文を求め、乱歩の処女作に箔をつけようとしたのも当然の配慮とし、「ここにおいて乱歩は兄事すべき恰好の人物を得て、それ以来乱歩は先生（不木）をもって、つねにおのれの精神的支柱としていたようである」と語っている。

41 ⟶ 99行目:

不木の「謹厳にして端麗なその温顔」は、ひとたび笑うとなんともいえぬ愛嬌のある顔になり、その笑いが終わるともとの謹厳な顔にかえる、その変化が実にクッキリとして、「こちらをヒヤリとさせるようなものがそこにあった」という。このとき不木に「横溝君は乱歩君みたいな人に可愛がられて仕合わせですね」と言われた横溝は、「先見の明もさることながら、先生は私みたいな無名の書生っぽにむかっても、そういう丁重な口のきき方をなさるのだった」と、その人となりを述懐している<ref>「不如丘と不木」（[[横溝正史]]、『医家芸術』、昭和48年2月）</ref>。

=== 合作組合「耽綺社」 ===

==作品リスト==

昭和2年11月、新派の喜多村緑郎から探偵劇の創作をもちかけられた<ref name=sundaymainichi>「耽綺社座談会」（『サンデー毎日』昭和4年2月3日）</ref>小酒井不木が國枝史郎に合作組合結成のアイディアを持ちかけ、不木が江戸川乱歩を、國枝が土師清二を勧誘し、さらに長谷川伸も加えた五名で合作組合「耽綺社」が結成された<ref>『子不語の夢』（皓星社）小酒井不木書簡昭和2年11月2日付</ref>。後に平山蘆江が加わり六名となる。「耽綺社」と命名したのは不木で、かつて滝沢馬琴が主宰していた「耽奇会」の名が由来である<ref name=sundaymainichi />。

4桁の数字は刊行年。

===著書===

合作の方法は、まず不木が物語の核となるいくつかのアイディアを提供し、それを基に数名の社員が意見を出し合ってプロットを組み立て、最後に代表の社員一名が執筆を担当した<ref>土師清二「耽綺社打明け話」（『大阪朝日新聞』昭和4年2月3日）</ref>。代表作である長編「飛機睥睨」（単行本化に際し『空中紳士』に改題）では江戸川乱歩が執筆を担当している。

*『生命神秘論』小酒井光次 洛陽堂 1915

*『西洋医談 附・不木軒随筆』小酒井光次 克誠堂書店 1924

会合は持病で旅行が出来ない不木のために毎回名古屋の料亭寸楽園で開催された。中心となって会の進行や宴席の準備を整えたのは不木であったという<ref>長谷川伸「耽綺社の指導者」（『サンデー毎日』昭和4年4月14日）</ref>。

*『学者気質』洛陽堂 1921

*『科学探偵』[[春陽堂]] 1924

耽綺社によって製作された作品は以下の通り。

*『三面座談』京文社 1925

*『趣味の探偵談』黎明社 1925

*「残されたる一人」（劇脚本・昭和3年1月上演<ref name=AA12321845_16_11>[https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/record/22002/files/AA12321845_16_11.pdf 後藤隆基「大正末期から昭和初期における探偵小説と演劇の交差」]（立教大学学術リポジトリ）</ref>・『サンデー毎日』昭和2年12月18日）

*『小酒井不木少年科学探偵集 1 少年科学探偵』文苑閣 1926

*『死の接吻』聚英閣 1926

*「飛機睥睨」（『新青年』昭和3年1月号～9月号）

*『稀有の犯罪』[[大日本雄弁会]] 1927

*『疑問の黒枠』波屋書房(世界探偵文芸叢書) 1927 [[河出文庫]] 2017

*「ジヤズ結婚曲」（劇脚本・昭和3年3月上演<ref name=AA12321845_16_11 />・『週刊朝日』昭和3年3月11日・3月18日）

*『闘病問答』春陽堂 1927

*『慢性病治療術』日本心霊学会 1927

*「南方の秘宝」（映画原作・昭和3年7月公開<ref>「日本映画情報システム」（現在公開停止）</ref>・『名古屋新聞』昭和3年7月1日～8月10日）

*『医談女談』[[人文書院]] 1928

*『タナトプシス』内観社 1928

*「無貧清風」（劇脚本<ref name=AA12321845_16_11 />・昭和3年8月上演）

*「白頭の巨人」（『サンデー毎日』昭和3年10月21日～12月16日）

*「意外な告白」（『サンデー毎日』昭和4年3月20日）

耽綺社は昭和4年4月1日に小酒井不木が没すると、同年の「非常警戒」（映画脚本・昭和4年12月公開）の製作を最後に自然消滅した。

=== 『新青年』 ===

== 評価・受容 ==

=== 評価 ===

探偵小説で有名な不木であるが、SF界での評価が高いことも注目すべき点である。SF作家である柴野拓美が1960年（昭和35年）の「SFマガジン」10号の「日本SF史雑論」で、不木の「人工心臓」「恋愛曲線」を取り上げ、日本人初の純SFと呼べるものが生まれたと述べている<ref name=博文館新社/>。また、横田順彌は「日本SFこてん古典」において、不木は日本のガーンズバックになり得ると評価している<ref name=博文館新社>監修:天瀬裕康、長山靖生『叢書新青年小酒井不木』博文館新社、293ページ</ref>。

=== 影響 ===

=== 現代の受容 ===

== 関連する施設 ==

小酒井不木の出身地である愛知県に記念碑や居宅跡などの関連施設がある。

「蟹江町歴史民俗資料館」では、不木が実際に使っていた机や直筆原稿などが展示されている。施設内に江戸川乱歩の揮毫による「不木碑」がある。「小酒井不木生誕地碑」では、蟹江町図書館の東側にある。なお、揮毫は浮木の小学校の後輩にあたる黒川紀章。「蟹江町図書館」では、蟹江文庫にて現代語訳版・小酒井不木作品集を読むことができる（館内閲覧のみ）。「小酒井不木生家跡」は、蟹江町図書館から１kmほど南に所在する<ref>{{Cite web |url=https://www.town.kanie.aichi.jp/site/kosakaifuboku/ |title=町出身探偵小説家　小酒井不木について |publisher = |accessdate=2025-03-23}}</ref>。

「小酒井不木宅跡」は、名古屋市昭和区鶴舞に所在。昭和区の鶴舞公園・古墳コースの目的地の一つになっている<ref>{{Cite web |url=https://www.city.nagoya.jp/showa/category/107-2-4-5-0-0-0-0-0-0.html |title=昭和区：史跡散策路　鶴舞公園・古墳コース |publisher = |accessdate=2025-03-23}}</ref>。

== 作品リスト ==

年月表示及び4桁の数字は刊行年（月）。

以下の出典は<ref>長山靖生編「小酒井不木著書目録」（小酒井不木『人工心臓』国書刊行会、1994年9月、pp.318-330）</ref>及び<ref>{{Cite web |url=http://fuboku.o.oo7.jp/list.html |title=著作目録・著書目録 |publisher =Mole la mort |accessdate=2025-03-23}}</ref>による。

=== 著書 ===

*『生命神秘論』小酒井光次名義 洛陽堂 1915年6月

*『過敏性』[[南江堂書店|南山堂書店]] 1921年2月

*『学者気質』洛陽堂 1921年12月

*『犯罪と探偵』[[博文館]] 1923年6月

*『西洋医談 附・不木軒随筆』小酒井光次名義 克誠堂書店 1924年7月

*『科学探偵』春陽堂 1924年8月

*『殺人論』京文社 1924年9月

*『三面座談』京文社 1925年3月

*『近代犯罪研究』春陽堂 1925年5月

*『趣味の探偵談』黎明社 1925年11月

*『死の接吻』聚英閣(探偵名作叢書　第1集) 1926年5月

*『学者気質』春陽堂 1926年6月

*『闘病術』春陽堂 1926年8月

*『恋愛曲線』春陽堂(創作探偵小説集　5) 1926年11月

*『少年科学探偵』文苑閣(小酒井不木少年科学探偵集 1) 1926年12月<ref>{{Cite web |title=少年科学探偵 (小酒井不木少年科学探偵集 ; 1) {{!}} NDLサーチ {{!}} 国立国会図書館 |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000808568#bib |website=国立国会図書館サーチ（NDLサーチ） |access-date=2025-04-10 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=『少年科学探偵』序 |url=https://www.aozora.gr.jp/cards/000262/files/48074_40209.html |website=www.aozora.gr.jp |access-date=2025-04-10 |language=ja |last=小酒井不木}}</ref>

*『犯罪文学研究』春陽堂 1926年12月

*『慢性病治療術』日本心霊学会 1927年3月

*『慢性病治療術』[[人文書院]] 1927年4月

*『稀有の犯罪』[[大日本雄弁会]] 1927年6月

*『疑問の黒枠』波屋書房(世界探偵文芸叢書　7) 1927年7月

*『不木探偵談』サンデー・ニュース社(探偵趣味叢書　5） 1927年8月

*『闘病問答』春陽堂 1927年8月

*『小酒井不木集』[[平凡社]](現代大衆文学全集　7) 1928年3月

*『タナトプシス』内観社 1928年6月

=== 没後刊 ===

*『'''小酒井不木全集'''』全17巻 [[改造社]] 1929

*『医談女談』[[人文書院]] 1928

*『実験遺伝学概説』小酒井光次 [[春秋社]] 1929

*『<mark>少年科学探偵</mark>集』 (少年冒険小説全集 ; 3) [[平凡社]] 1930年

*『恋愛曲線』春陽堂(日本小説文庫) 1932

*『少年科學探偵』(春陽堂少年文庫 ; 152) 春陽堂 1932年12月<ref>{{Cite web |title=少年科學探偵 (春陽堂少年文庫 ; 152) {{!}} NDLサーチ {{!}} 国立国会図書館 |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I025880314 |website=国立国会図書館サーチ（NDLサーチ） |access-date=2025-04-10 |language=ja}}</ref>

*『'''小酒井不木探偵小説全集'''』全8巻 [[本の友社]] 1992

*『人工心臓』[[国書刊行会]]( 探偵クラブ) 1994

*『小酒井不木』[[博文館]]新社( 叢書『新青年』) 1994

*『大雷雨夜の殺人 他8編』([[春陽文庫)]] 1995

*『小酒井不木集』[[リブリオ出版]](くらしっくミステリーワールド) 1997

*『怪奇探偵小説名作集1 小酒井不木集』 [[ちくま文庫]] 2002

*『小酒井不木探偵小説選』[[論創社]] 2004<ref>{{Cite web |title=小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書 ; 8) {{!}} NDLサーチ {{!}} 国立国会図書館 |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007436905 |website=国立国会図書館サーチ（NDLサーチ） |access-date=2025-04-10 |language=ja}}</ref>

*『小酒井不木探偵小説選』[[論創社]] 2004

*『少年科学探偵』真珠書院(パール文庫) 2013

*『小酒井不木探偵小説選Ⅱ』論創社 2017年11月　阿部崇編<ref>{{Cite web |title=小酒井不木探偵小説選 2 (論創ミステリ叢書 ; 109) {{!}} NDLサーチ {{!}} 国立国会図書館 |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I028597474#bib |website=国立国会図書館サーチ（NDLサーチ） |access-date=2025-04-10 |language=ja}}</ref>

*『小酒井不木探偵小説選Ⅱ』[[論創社]] 2017

*『疑問の黒枠』[[河出文庫]] 2017

*『[[森下雨村]]　小酒井不木』[[光文社文庫]] ミステリー・レガシー 2019

=== 研究書 ===

*『殺人論』京文社 1924

*『近代犯罪研究』春陽堂 1925

*『犯罪文学研究』春陽堂 1927

*『毒及毒殺の研究』改造社 1929

*『子不語の夢　[[江戸川乱歩]] 小酒井不木往復書簡集』皓星社 2004

=== 翻訳 ===

*Arther F.Coca『過敏性』小酒井光次訳 南山堂書店 1921

*ベートスン『[[メンデル]]の遺伝原理 附・実験遺伝学概論』世界大思想全集第38巻 春秋社 1928

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*『[[スミルノ博士の日記]]』（原作:[[:sv:Samuel A. Duse|サミュエル・オーギュスト・ドゥーゼ]]）

== 脚注 ==

{{脚注ヘルプ}}

<references/>

=== 注釈 ===

{{Notelist}}

=== 出典 ===

{{Reflist}}

== 参考文献 ==

*『日本探偵小説全集1 [[黒岩涙香]]・小酒井不木・[[甲賀三郎 (作家)|甲賀三郎]]集』（[[創元推理文庫]]）

==外部リンク 関連項目 ==

* [[日本の小説家一覧]]

* [[推理作家一覧]]

* [[古城武司]] - 『少年科学探偵』のコミカライズ版を執筆した。

== 外部リンク ==

*{{青空文庫著作者|262|小酒井 不木}}

*[httphttps://fuboku.osakura.oo7ne.jp/ 奈落の井戸：小酒井不木研究サイト]

*[https://www.town.kanie.aichi.jp/site/kanie-bunko/ 蟹江文庫：－現代語訳版・小酒井不木作品集－]　 [[蟹江町]]が古書の現代語訳を行い小酒井不木小説集として開設したサイト

*[https://doi.org/10.15088/00001326 小酒井不木研究:医学と文学との領域横断性] - [[愛知県立大学]]学術[[リポジトリ]]-トップページ

* {{Cite journal|和書|author=山口俊雄, 橋本明 |date=2012-03 |url=https://doi.org/10.15088/00001326 |title=小酒井不木研究 : 医学と文学との領域横断性 |journal=愛知県立大学文字文化財研究所年報 |ISSN=1884-8958 |publisher=愛知県立大学文字文化財研究所 |volume=5 |pages=1-15 |doi=10.15088/00001326 |naid=120005335477 |CRID=1390853649507928320}}

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{{DEFAULTSORT:こさかい ふほく}}

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