「下水処理場」の版間の差分
削除された内容 追加された内容
編集の要約なし タグ: モバイル編集 モバイルウェブ編集 |
一部リンクの修正 |
||
(11人の利用者による、間の12版が非表示) | |||
1行目:
[[ファイル:Matsuyama Central Sewage Treatment Center 20250529.jpg|thumb|270px|下水処理場の例。松山市下水道中央浄化センター([[愛媛県]][[松山市]])。]]
[[File:Mikawashima Water Reclamation Center Aerial Photograph.jpg|thumb|270px|下水処理場の例。[[三河島水再生センター]]([[東京都]][[荒川区]])。<br/>{{国土航空写真}}(1989年撮影)]]
'''下水処理場'''(げすいしょりじょう)とは、[[下水道]]の[[水|汚水]]を[[水処理|浄化]]し、[[川|河川]]、[[湖|湖沼]]または[[海]]へ[[放流]]する[[施設]]のことである。日本の[[下水道法]]では、「'''終末処理場'''」と
== 概要 ==
20行目:
しかしながら、今もなお、下水道整備が追いついていない都市近郊の河川で、垂れ流される汚水に含まれる有機物が溶存酸素を消費し尽くした結果、酸欠状態に陥り・水中生物の死滅・腐敗による水利障害・悪臭による住環境破壊などの被害が生じている{{要出典|date=2011年1月}}。
日本では[[1922年]](大正11年)[[3月26日]]、東京市[[三河島町]]に作られた三河島汚水処分工場(現三河島水再生センター)が稼働を開始<ref>{{Cite web |url=https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/business/b4/guide/sise-list/03-02/index.html |title=旧三河島汚水処分場喞筒(ポンプ)場施設 |publisher=東京都 |date=2022年 |accessdate=2023-01-15}}</ref>。同国初の近代的な下水処理場となった。
== 水処理施設 ==
40 ⟶ 42行目:
反応タンクで処理された活性汚泥の分離を行い、澄んだ処理水にする{{Sfn|下水道経営管理実務研究会|2006|p=222}}。
===
施設内で使用する水のためのものと、後述する、高度処理の一環として設置されているものがある{{Sfn|下水道経営管理実務研究会|2006|p=222}}。
=== 消毒施設 ===
放流する水を滅菌し、安全性を確保するための施設。[[塩素]]消毒が一般的であるほか、[[紫外線]]消毒・[[オゾン]]消毒といった消毒方法や、[[二酸化塩素]]や[[臭素]]系などの薬剤による消毒、膜で細菌を
=== 高度処理施設 ===
主に処理水の活用や放流先の環境保全(特に[[閉鎖性水域]]([[湖沼]]、閉鎖性の[[湾]]など)における[[富栄養]]化対策を主眼とすることが多い)を目的として、二次処理に付加し浄化を行うための施設。当然に相応の費用が求められるため普及は捗らなかったが、[[2003年]]の下水道法改正で促進される見通しとなった。
方法としては、反応タンクの処理方式の改良、
下水道の高度処理は京阪神地区に水道水を供給する[[琵琶湖]]を擁する[[滋賀県]]で、琵琶湖に排水される[[生活排水]]の中の窒素リンが原因で[[赤潮]]や[[アオコ]]などの[[プランクトン]]が大量発生。その対策として「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例(琵琶湖条例)」と共に下水道整備と高度処理設備の設置が進められ、現在では琵琶湖に注ぐ下水道はすべて高度処理が施されている<ref>
== 下水処理場での水処理 ==
65 ⟶ 67行目:
==== 浮遊生物法 ====
水を[[曝気]]・エアレーションにより[[酸素]]を溶解させ、同時に攪拌混合するエアレーションタンクを設け、その中に主に[[好気性微生物]]を浮遊滞留させて汚水を処理する方式。活性汚泥法と酸化池に分類される。このうち、活性汚泥法には次の方法がある{{Sfn|松井|1992|pp=158-162}}。
;標準活性汚泥法
:基本となる方式で、汚水を6~8時間程度滞留させてその間に浄化する。
108 ⟶ 110行目:
=== 消毒 ===
{{出典の明記|section=1|date=2011年2月}}
処理水質への要求水準は多様だが、衛生的観点からは[[病原体]]の含まれないことは特に重要であり、消毒設備が設けられる。[[消毒]]とは人体への感染危険性を低減するもので、医学的・生物学的意味での[[殺菌|滅菌]]とは異なる。病原体とは一部の細菌、ウイルス、原生生物や[[寄生虫]]などを指すが、中には消毒の難易度が高いものもある。
消毒効果を計る指標として[[大腸菌]]群が用いられる{{Sfn|松井|1992|p=165}}。培養と検出が容易で普遍的な[[腸内細菌]]であることを利用し、消化器系病原菌の残存を間接的に検出する。
====塩素消毒====
次亜塩素酸による酸化および酵素反応の阻害による。次亜塩素酸は不安定なので固形塩素([[次亜塩素酸カルシウム]]や[[トリクロロイソシアヌル酸|トリクロロイソシアヌール酸]]の製剤)、[[次亜塩素酸ナトリウム]]、液化[[塩素]]、などを水に溶解させて生じさせる。これらの使い分けは主に施設規模に依り、後のものほど大規模処理向きである。
次亜塩素酸はpH7.5程度を境に消毒力が急減する(約100分の1)性質を持つほかアンモニアと反応して[[クロラミン]]に変化するため、処理水質の悪化などでアンモニア態窒素が大量に残留すると、影響が大きい。
また、細菌に対しては数mg/L以下でも効果を発揮するが、ウイルスを消毒するには200mg/L程度必要とされ、下水処理場の[[塩素消毒]]レベルでは事実上効果がない。これはウイルスは阻害されるべき酵素反応を行っていないため、生物学的に消毒(いわば毒殺)することが出来ず、化学的な酸化力により分解することで消毒するしかないためである。
139 ⟶ 141行目:
;窒素・リン除去
:通常、高度処理とは、[[窒素]]及び[[リン]]の除去を目的とした処理の事を言う。これは、生物反応槽内に、2種類以上の嫌気・無酸素・好気的な状態をつくりだすことで、[[好気性菌]]や通性[[嫌気性菌]]等の微生物を利用して、窒素やリンの除去を行う処理方法である。代表的な処理方法として、リン除去には、嫌気・好気法(AO法)。窒素除去には、循環式[[硝化作用|硝化]][[脱窒]]法(無酸素・好気法)。窒素・リン除去には嫌気・無酸素・好気法(A2O法)が行われる。
:また、生物処理によるリン除去が上手く行かなかった時に備えて、生物反応槽の最終部にポリ[[塩化アルミニウム]](PAC)等の無機[[凝集剤]]を添加し、[[リン酸]]を凝集沈殿処理することもある。
::(公共下水道においては、下水中に窒素分が多いため[[#標準活性汚泥法]]の反応槽では[[硝化]]が進み最終沈殿池で硝酸濃度が高くなる。すると最終沈殿池で[[脱窒
;濾過施設
147 ⟶ 149行目:
;オゾン酸化+生物活性炭
:主に[[化学的酸素要求量|COD]]や[[色度]]除去を目的とする。[[オゾン]]の酸化力により生物処理が困難な難分解性有機物を低分子化し、後段の生物[[活性炭]](BAC)により生物処理と吸着除去を行う、比較的新しい方式で浄水場でも利用される。
なお、[[都市下水]]においては、窒素分が多量に含まれていることから[[硝化]]を進めるようとすると処理水に多量の硝酸性窒素が含まれることになり沈殿槽において脱窒(硝酸→亜硝酸→窒素ガス)が起き、ガスが汚泥に付着浮上し固液分離に困難を生ずる。このため硝化を抑制する運転(低汚泥濃度・低酸素濃度)が行われるが、これもまた[[糸状菌]]の最適条件となり沈殿槽で[[バルキング]]と呼ばれる汚泥の膨化を招き固液分離に困難を生ずる。また硝化を抑制すると窒素分を[[アンモニア]]の状態で放流することになり極端な[[生物化学的酸素要求量|BOD]]の上昇を招く。従って、都市下水道においては脱窒は必須の事項である。反応槽において脱窒を行っていない処理場では常に沈殿槽での脱窒による汚泥浮上とバルキングを繰り返し放流水質は常に悪い。
182 ⟶ 184行目:
脱水は、濃縮汚泥に無機凝結剤又は高分子凝集剤を添加し、脱水機で行われる。汚泥脱水の機構はまず、水中に分散している微細な固形物粒子([[コロイド]]化していると考えられる)の表面[[電荷]]を中和し、凝集性を改善したのち高分子の糸で絡め集めフロックとする事からはじまる。フロックの大きさ強度は汚泥脱水機の方式により異なるため、適切な薬剤と添加率を選び、フロックの大きさ強度を調整するためと汚泥との混合状態を均質化するため適度な撹拌方法を選んでいる。濃縮汚泥にフロックを形成させたのち、遠心力や、濾過・圧搾力などを利用した脱水機で水分を分離する。その方法には下記のものなどがある。
;真空
:濾布(ろふ:濾過用の布製フィルタ)と減圧用真空ポンプにより水分を吸引除去する、古典的方法。
;遠心脱水機(デカンター)
191 ⟶ 193行目:
:比較的新しい方式で、小型化無人化などを特長とする。多数の金属円盤を重ねたものを濾布に替えて使用する。
;スクリュープレス
:円筒スクリーン内のスクリュー部に汚泥を投入し、内体積を減少しながらスクリューで送り込み脱水する方法。脱水された汚泥は排出口より排出され、分離水は円筒スクリーン全体から排出し汚泥脱水を行う。
=== 乾燥 ===
228 ⟶ 229行目:
基本的には、下水汚泥は[[産業廃棄物]]として、焼却するかしないかの違いはあるものの、埋立処分されることが多い。すなわち「ごみ」となるため、各地の下水処理場では、[[#汚泥の減量化|先述のとおり]]、可能な限り減量する努力がなされている。汚泥処理方式により、発生する汚泥の性状や量も異なるため、課題も様々であるのが現状である。
一方で、「ごみ」の減量化のため再利用もなされており、焼却されて[[肥料]]、[[セメント]]原料に使用されるほか、圧力を加えて成型し、[[煉瓦]]などに加工されることもある。例えば、[[京都府]]南部の一部の地域では、汚泥から生成された煉瓦を、道路工事で歩道の部分に敷き詰めることも行われている<ref>
なお、汚泥に含まれる[[リン]]を資源として活用する試みがある<ref>[https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000036.html 下水道におけるリン資源化検討会] - 国土交通省</ref>。岐阜市の下水処理場ではリンの回収設備が設置され、回収されたリンを利用して肥料が生産されている。
240 ⟶ 241行目:
屎尿を多く含む都市下水本来の色は黄色である。しかし、多くの下水処理場で流入汚水の腐敗・白濁がみられる。多くの処理場で調整槽を設けて汚水を腐敗させ、ガスの発生によるフロック浮上を攪拌機で沈降させる等している。
===浄化による水産物への影響 ===
下水道浄化能力向上による水質改善は喜ばしい事である。しかし「水質改善=逆説的に水質の栄養分減少」による水産物の収穫減少が2019年6月に[[毎日放送]]により報じられ、兵庫県においては海水中の窒素濃度の下限を0.2gとする下限規制を検討する事となった。
また、近年の[[大阪湾]]で[[アサリ]]などの二枚貝に[[貝毒]]が広がっているのは、水質の改善が原因との報道もある
== その他 ==
258行目:
=== 主な下水処理場 ===
2006年度現在で日本には1500ほどの下水処理場が稼働している。対象地域の特色に合わせ、様々な設計・運営が工夫されている<ref>
* 日本最大 [[東京都下水道局]][[森ヶ崎水再生センター]][http://www.gesui.metro.tokyo.jp/odekake/syorijyo/03_11.htm] 処理能力:1,540,000[[立方メートル|m<sup>3</sup>]]/日(標準活性汚泥法)
* 日本最小 和歌山県不動谷浄化センター[https://www.town.koya.wakayama.jp/kurashi/suido/264.html] 計画処理水量:50m<sup>3</sup>/日(土壌被覆型礫間接触酸化法)
* 日本最初 [[東京都下水道局]]三河島汚水処分工場(現
== 脚注 ==
|