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明治13年刑法
 
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{{混同|尊厳死}}
{{殺人}}
 
'''尊属殺'''(そんぞくさつ、{{lang-en-short|parricide}})は、[[祖父母]]・[[両親]]・[[おじ]]・[[おば]]など、[[親族#親族の範囲|親等]]上 父母と同列以上にある血族([[尊属]])を[[殺人|殺害]]すること。
 
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=== 中国法 ===
中国の[[律令制|律令制度]]でも、重罰規定が設けられていた<ref name="murai" />。[[唐]]の[[律令]]における尊属殺人は、[[皇帝]]に対する反逆罪と同様とされた(十虐)。
 
[[中華民国]]刑法でも、重罰規定が設けられている。1928年刑法により、通常の殺人罪では死刑、無期または10年以上の懲役とされていたのに対し、直系尊属殺人罪は死刑のみ、傍系尊属殺人罪は無期懲役と死刑のみ、とそれぞれされていた。
 
1934年、中華民国刑法は全改され、傍系尊属殺人罪が削除され、直系尊属殺人罪の刑は無期懲役と死刑に改められた。2019年の一部改正により、直系尊属殺人罪の刑は「通常の殺人罪の刑の二分の一を加重する」に改められた。2023年現在でも、その重罰規定が設けられている。
 
[[中華人民共和国刑法]]では、1979年刑法が成立して以来、2023年現在でも、重罰規定が設けられていない。
 
=== 大陸法 ===
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== 日本における尊属殺 ==
=== 尊属加重規定の沿革 ===
かつて[[日本]]では、1880年(明治13年)発布の刑法で、子孫による祖父母・父母に対する殺人には[[死刑]]を科していた(第362条)<ref>[[:s:刑法 (明治13年太政官布告第36号)|刑法(明治13年太政官布告第36号)]]、[[ウィキソース]]。</ref>。
 
[[1908年]]制定の[[刑法 (日本)|明治刑法]]により、自己または配偶者の直系尊属を殺した者について、通常の[[殺人罪 (日本)|殺人罪]](刑法第199条<ref>人ヲ殺シタル者ハ、死刑又ハ無期若クハ三年以上ノ懲役ニ処ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)とは別に尊属殺人罪([[刑法]]第200条<ref>自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)を設けていた。通常の殺人罪では3年以上 - 無期の懲役または[[日本における死刑|死刑]]とされているのに対し、尊属殺人罪は[[懲役#無期懲役|無期懲役]]または死刑のみと、刑罰の下限が高くより重いものになっていた。
 
日本の尊属殺重罰規定については、フランス刑法に由来するという説と、中国の律令からの伝統にならって儒教的道徳観に基づいて制定されたとする説とがある<ref name="murai" />。
 
なお刑法では尊属殺人罪のほかに尊属傷害致死罪(刑法第205条2項<ref>自己又ハ配偶者ノ直系尊属ニ対シテ犯シタルトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)・尊属遺棄罪(刑法第218条2項<ref name="#1">自己又ハ配偶者ノ直系尊属ニ対シテ犯シタルトキハ六月以上七年以下ノ懲役ニ処ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)・尊属逮捕監禁罪(刑法第220条2項<ref name="#1"/>)という特別の条文を置いて通常の殺人罪・[[傷害致死罪]](刑法第205条<ref>身体傷害ニ因リ人ヲ死ニ致シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)・[[遺棄罪]](刑法第218条<ref>老者、幼者、不具者又ハ病者ヲ保護ス可キ責任アル者之ヲ遺棄シ又ハ其生存ニ必要ナル保護ヲ為ササルトキハ三月以上五年以下ノ懲役ニ処ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)・[[逮捕監禁罪]](刑法第220条<ref>不法ニ人ヲ逮捕又ハ監禁シタル者ハ三月以上五年以下ノ懲役ニ処ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)よりも刑を加重していた('''尊属加重規定''')。
 
[[1963年]]([[昭和]]38年)、法制審議会刑事法特別部会が決定した「[[改正刑法草案]]」では、一般殺人罪の規定のみが置かれ、尊属加重規定は定められなかった<ref name="S48" />。
 
この明治刑法は、[[大日本帝国憲法]]から[[日本国憲法]]に変わった後も効力を保っていたが、[[1973年]]([[昭和]]48年)[[4月4日]]に、[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]で[[石田和外 (裁判官)|石田和外]]([[大法廷]]裁判長)により、こうした過度の加重規定は日本国憲法下では[[違憲]]判決|違憲であると[[違憲判決]]の[[確定判決]]が下され、それ以降は適用されなくなり、1995年([[平成]]7年)の改正刑法で正式に削除された。
{{See also|尊属殺重罰規定違憲判決}}
 
=== 尊属加重規定の削除 ===
[[尊属殺重罰規定違憲判決]]が下された1968年の[[栃木実父殺し事件]]は、実父からの長年の[[性的虐待]]に堪えかねて殺害に及んだ事案であり、[[被告人]]に特に酌量すべき事情があったが、尊属殺人罪を規定した刑法第200条を適用するならば、最大に減刑(刑法第39条2項<ref>心神耗弱者ノ行為ハ其刑ヲ減軽ス(平成7年法律第91号による改正前)</ref>の[[心耗弱]]を理由とする[[量刑|必要的減軽]]<ref>[[法定減軽]](法律上の減軽)</ref>により68条第2号<ref name="pc68">法律ニ依リ刑ヲ減軽ス可キ一個又ハ数個ノ原由アルトキハ左ノ例ニ依ル(1号省略)<br />2号 無期ノ懲役又ハ禁錮ヲ減軽ス可キトキハ七年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮トス<br />3号 有期ノ懲役又ハ禁錮ヲ減軽ス可キトキハ其刑期ノ二分ノ一ヲ減ス<br />(以下省略)(平成7年法律第91号による改正前)</ref>を適用した後、67条<ref>法律ニ依リ刑ヲ加重又ハ減軽スル場合ト雖モ仍ホ酌量減軽ヲ為スコトヲ得(平成7年法律第91号による改正前)</ref>によりこれに加えて66条<ref>犯罪ノ情状憫諒ス可キモノハ酌量シテ其刑ヲ減軽ヲ為スコトヲ得(平成7年法律第91号による改正前)</ref>に従い情状を考慮して[[量刑|任意的減軽]]<ref>[[酌量減軽]](裁判上の減軽)</ref>により68条第3号<ref name="pc68"/>を適用)しても懲役3年6月となり、[[執行猶予]]を付すことができない(刑法第25条<ref> 左ニ記載シタル者三年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ五十万円以下ノ罰金ノ言渡ヲ受ケタルトキハ情状ニ因リ裁判確定ノ日ヨリ一年以上五年以下ノ期間内其執行ヲ猶予スルコトヲ得(以下省略)(平成7年法律第91号による改正前)</ref>)。
 
この点を問題として、[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]は尊属殺の重罰規定を[[違憲判決]]としたのである。この判決の多数意見(15人中8人)は、尊属殺人罪の規定を置くことは[[合憲]]であるが、[[執行猶予]]が付けられないほどの重罰規定は、[[法の下の平等]]([[日本国憲法第14条]]1項)に違反すると判断した。少数意見(6人)は、尊属加重罪そのものを違憲とした。
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* [[一家四人死刑事件]](1914年)
* [[山本老事件]](1928年)
* [[津山事件三十人殺し]](1938年)<ref>犯人の都井睦雄は、最初に祖母を殺害した。</ref>
* [[死刑制度合憲判決|広島の母妹殺し事件]](1946年)
* [[志和堀村両親殺害事件]](1948年)
* [[青森県新和村一家7人殺害事件]](1959年)
* [[岩槻一家7人殺害事件]](1959年)
* [[泊母子殺人事件]](1962年)
* [[チャールズ・ホイットマン]](1966年、アメリカ合衆国
* [[栃木実父殺し事件]](1968年)
* [[エドマンド・ケンパー]](1973年、アメリカ合衆国)
* [[市原両親殺害事件]](1974年)
* [[神奈川金属バット両親殺害事件]](1980年)
* [[斎藤勇東大名誉教授惨殺事件]](1982年)
* {{仮リンク|ハンガーフォード銃乱射事件|en|Hungerford massacre}} (1987年)
* [[目黒区中学生家族3人殺害事件]](1988年)<ref>[http://id.nii.ac.jp/1074/00000572/ 家庭内暴力の一考察]庄司ユリ子、相愛女子短期大学研究論集,36,107-127 (1989-03) </ref>
* {{仮リンク|メネンデス兄弟事件|en|Lyle and Erik Menendez}}(1989年)
* [[山村新治郎 (11代目)]]殺人事件(1992年)
* [[森安秀光|森安秀光九段]][[森安九段刺殺事件|刺殺事件]](1993年)
* [[岡山金属バット母親殺害事件]](2000年)
* [[山口母親殺害事件]](2000年)<ref>後に、大阪姉妹殺害事件を起こした。</ref>
75 ⟶ 87行目:
* [[河内長野市家族殺傷事件]](2003年)
* [[井上治典]]殺人事件(2005年)
* [[河井智康]]殺人事件(2006年)
* [[会津若松母親殺害事件]](2007年)
* [[京田辺警察官殺害事件]] (2007年)
* [[サンディフック小学校銃乱射事件]](2012年、アメリカ合衆国)
* [[南幌町家族殺害事件]](2014年)
* [[神戸市北区5人殺傷事件]](2017年)
* [[滋賀医科大学生母親殺害事件]](2018年)
 
かつては[[東北地方]]に親殺しが多かった<ref name=tanaka>『もうひとつの昭和史』田中義郎他、辺境社、1977年、p256</ref>。例えば昭和30年代の5年間(1959-1964年)の東北三県(青森、岩手、秋田)の普通殺人と尊属殺人の発生比は全国平均の2倍以上であった<ref name=tanaka/>。岩手県警によると、貧しさと家長・姑の強すぎる権力による家庭内の緊張と葛藤の末の悲劇とみられるが、過疎化とともに減少した<ref name=tanaka/>。尊属殺人は殺し方が残虐になるという過去の犯罪例から、殺人事件の捜査において親族が取り調べを受けた事件もあった<ref>[https://dl.ndl.go.jp/pid/1077127/1/331 四和村の実父殺し]東奥年鑑 昭和9年、p574</ref>。
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* [[日本国憲法第14条#関連訴訟・判例]]
 
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:そんそくさつ}}
[[Category:殺人]]