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{{Otheruses|[[ブナ科]][[コナラ属]]の植物|「櫟」と書くイチイ|イチイ|「橡」と書くトチノキ|トチノキ}}
{{Redirect|椚|その他}}
{{生物分類表
|色 = lightgreen
|名称 = クヌギ
|画像 = [[画像:Quercus acutissima.jpg|300px]]
|status = LC
|status_ref = <ref>Carrero, C. (2019) ''Quercus acutissima''. The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T194048A2295121. {{doi|10.2305/IUCN.UK.2019-1.RLTS.T194048A2295121.en}}</ref>
|界 = [[植物|植物界]] [[:w:Plantae|Plantae]]
|門階級なし = [[被子植物]] {{Sname||Angiosperms}}
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|科 = [[ブナ科]] [[:w:Fagaceae|Fagaceae]]
|属 = [[コナラ属]] ''[[:w:Quercus|Quercus]]''
|亜属 = Subg. ''Cerris''
|節 = Sect. ''Cerris''
|種 = '''クヌギ''' ''[[:w:Quercus acutissima|Q. acutissima]]''
|学名 = {{Snamei||Quercus acutissima}} {{AU|Carruth.}} {{small|([[1862年|1862]])}}<ref name="YList">{{YList|id=2175|taxon=Quercus acutissima Carruth. クヌギ(標準)|accessdate=2021-06-12}}</ref>
|和名 = クヌギ
}}
'''クヌギ'''(櫟{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=100}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}・椚{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}・橡{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}<!--・椚木-->、[[学名]]: {{snamei|Quercus acutissima}})は、[[ブナ科]][[コナラ属]]の[[落葉
==
[[日本]]を含む[[アジア]]北東部に分布する{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}。日本では主に[[本州]]、[[四国]]、[[九州]]の各地に広く分布し、一部は[[北海道]]南部にもある{{sfn|辻井達一|1995|p=124}}。[[沖縄]]の一部でも植栽可能である{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。低山地や平地で[[照葉樹林]]に混成して生え、特に[[関東平野]]では[[コナラ]]や[[アカシデ]]などとともに、[[雑木林]]を構成する代表的な樹種としても知られる{{sfn|辻井達一|1995|p=124}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=133}}。また、薪炭目的の伐採によって、この種などの落葉樹が優先する森林が成立する場合があり、往々にして[[里山]]と呼ぶのはこのような林であることが多い。また、これを薪炭用材として人為的に植えられた物も多い。▼
また、このようにいわゆる里山の代表的な構成と認められて来たために、近年の広葉樹の植樹の際に選ばれることが多い。しかし、元来その分布は日本の中ではやや北に位置するものである。▼
== 特徴 ==▼
[[画像:台場クヌギの林.jpg|代替文=台場クヌギの林|thumb|台場クヌギの林]]▼
[[落葉]][[広葉樹]]{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。[[高木|大高木]]で{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}、樹高は15[[メートル]] (m) ほどになる{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=100}}。萌芽力が強く、生長すると広大な樹冠を形成する{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。幹は直立するが、里山などの雑木林では伐採による更新で[[株立ち]]が多い{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。[[樹皮]]は暗い灰褐色から黒褐色、厚い[[コルク]]状で縦に深く不規則な割れ目が生じる{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。樹皮の見た目は、同属の[[コナラ]]よりもゴツゴツした印象を与える{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。一年枝は褐色や淡褐色で、無毛または少し毛がある{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。
[[葉]]は[[互生]]し、7 - 15[[センチメートル]] (cm) の長楕円状の披針形で、葉の左右は不整形で、[[葉縁]]には2[[ミリメートル]] (mm) ほどある針状の[[鋸歯]]が並ぶ{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=100}}。[[葉身]]は薄いが硬く、濃緑色で表面にはつやがある{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。葉は[[クリ]]に非常によく似た印象で、見分けがつきにくいが{{sfn|山﨑誠子|2019|p=133}}、クヌギの鋸歯の先は針のように尖っている{{sfn|亀田龍吉|2014|p=93}}。新緑・[[紅葉]]が美しく、紅葉期の葉色は緑色から黄変して、すぐに茶褐色へと変色する{{sfn|林将之|2008|p=20}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=133}}。紅葉後に完全な枯葉になっても[[離層]]が形成されないため枝からなかなか落ちず、冬も枝についていることがある{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。これは同属の[[カシワ]]と同様である。
花期は春から晩春にかけて(4 - 5月ごろ)で{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}、雌雄別の[[裸子植物|風媒花]]である。[[雄花]]は黄褐色の10 cmほど[[雄花序]]が穂状になって垂れ下がり、小さな花をつける{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。雌花は、上部の葉の付根に非常に小さい赤っぽい花をつける。雌花は受粉すると果実を付ける。
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果期は翌年の秋{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=100}}。[[果実]]は[[堅果]]で、他のブナ科の樹木の実とともに[[ドングリ]]とよばれ親しまれている{{sfn|正木覚|2012|p=53}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。ドングリの中では直径が約2 cmと大きく、ほぼ球形で、基部半分は椀型の[[殻斗果|殻斗]]につつまれている{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=100}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。殻斗の回りには線状の[[鱗片]]([[総苞片]])が、密に線状になってたくさんつく{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=100}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。この鱗片は細く尖って反り返った棘状であり、この種の特徴でもある。ドングリは結実した翌年の秋に成熟する{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。実は[[渋み|渋味]]が強いため、そのままでは食用にならない。
[[冬芽]]は枝に互生し、枝先には[[頂芽]]と頂生[[側芽]]が1 - 3個のつく{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。長卵形で多数の芽鱗に包まれており、芽鱗の縁に毛がある{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。葉痕は半円形で、[[維管束]]痕は多数見える{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。[[コナラ]]は春の芽吹きが銀灰色であるのに対して、クヌギは黄褐色で見分けやすい{{sfn|亀田龍吉|2014|p=93}}。
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Kunugi juhi.JPG|表皮
Quercus acutissima BW-1237024.jpg|葉と実
Quercus acutissima12.jpg|雄[[花序]]
Quercus acutissima nuts 02 by Line1.JPG|実([[ドングリ]])
Dead leaves of sawtooth oak remain on branches even in winter.jpg|冬も枝に残った枯れ葉
</gallery>
==
他のブナ科樹木と同じく、[[菌類]]と樹木の[[根]]が共生して[[菌根]]を形成している。樹木にとっては菌根を形成することによって菌類が作り出す有機酸や[[抗生物質]]による栄養分の吸収促進や病原微生物の駆除等の利点があり、菌類にとっては樹木の[[光合成]]で合成された産物の一部を分けてもらうことができるという相利共生の関係があると考えられている。菌類の子実体は人間がキノコとして認識できる大きさに育つものが多く、中には食用にできるものもある。土壌中には菌根から菌糸を通して、同種他個体や他種植物に繋がる広大なネットワークが存在すると考えられている<ref>谷口武士 (2011) 菌根菌との相互作用が作り出す森林の種多様性(<特集>菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性). 日本生態学会誌61(3), pp. 311 - 318. {{doi|10.18960/seitai.61.3_311}}</ref><ref>深澤遊・九石太樹・清和研二 (2013) 境界の地下はどうなっているのか : 菌根菌群集と実生更新との関係(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る). 日本生態学会誌63(2), p239-249. {{doi|10.18960/seitai.63.2_239}}</ref><ref name="岡部(1994)">岡部宏秋,(1994) 外生菌根菌の生活様式(共生土壌菌類と植物の生育). 土と微生物24, pp. 15 - 24.{{doi|10.18946/jssm.44.0_15}}</ref><ref>菊地淳一 (1999) 森林生態系における外生菌根の生態と応用 (<特集>生態系における菌根共生). 日本生態学会誌49(2), pp. 133 - 138. {{doi|10.18960/seitai.49.2_133}}</ref><ref>宝月岱造 (2010)外生菌根菌ネットワークの構造と機能(特別講演). 土と微生物64(2), pp. 57 - 63. {{doi|10.18946/jssm.64.2_57}}</ref><ref>東樹宏和. (2015) 土壌真菌群集と植物のネットワーク解析 : 土壌管理への展望. 土と微生物69(1), p7-9. {{doi|10.18946/jssm.69.1_7}}</ref>。アカマツ苗木に感染した菌根では全部の部分の成長を促進するのではなく、地下部の成長は促進するが地上部の成長はむしろ抑制するという報告<ref>立石貴浩・高津文人・行武秀雄・和田英太郎 (2001) アカマツ(''Pinus densiflora'')の種子サイズがチチアワタケ(''Suillus granulatus'')による菌根形成と実生の初期成長に及ぼす影響. 土と微生物55(1) pp. 45 - 51. {{doi|10.18946/jssm.55.1_45}}</ref>がある。外生菌根性の樹種に[[スギ]]や[[ニセアカシア]]の混生や[[窒素]]過多の富栄養状態になると菌根に影響を与えるという報告がある<ref>谷口武士・玉井重信・山中典和・二井一禎(2004)ニセアカシア林内におけるクロマツ実生の天然更新について クロマツ実生の菌根と生存率の評価. 第115回日本林学会大会セッションID: C01.{{doi|10.11519/jfs.115.0.C01.0}}</ref><ref name="岡部(1994)"/><ref>喜多智靖(2011)異なる下層植生の海岸クロマツ林内でのクロマツ菌根の出現頻度. 樹木医学研究15(4), pp.155-158. {{doi|10.18938/treeforesthealth.15.4_155}}</ref><ref>崎尾均 編 (2009) ニセアカシアの生態学 : 外来樹の歴史・利用・生態とその管理. 文一総合出版, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000010080903}}</ref><ref>[[伊豆田猛]] 編 (2006) 植物と環境ストレス. [[コロナ社 (出版社)|コロナ社]], 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000008210538}}</ref>。
クヌギは幹の一部から[[樹液]]がしみ出ていることがある。クヌギの樹液は、[[カブトムシ]]や[[クワガタムシ|クワガタ]]などの[[甲虫類]]や[[チョウ]]、[[スズメバチ|オオスズメバチ]]などの好物で、これら昆虫が樹液を求めて集まる{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。樹液は以前は[[シロスジカミキリ]]が産卵のために傷つけた所から沁み出すことが多いとされ、現在もほとんどの一般向け書籍でそう書かれていることが多いが、近年の研究で主として[[ボクトウガ]]の幼虫が材に穿孔した孔の出入り口周辺を常に加工し続けることで永続的に樹液を滲出させ、集まる[[アブ]]や[[ガ]]のような軟弱な[[昆虫]]、[[ダニ]]などを[[捕食]]していることが明らかになった。▼
▲
[[ウラナミアカシジミ]]という蝶の幼虫はクヌギの若葉を食べて成長する。またクヌギは、[[ヤママユガ]]、[[クスサン]]、[[オオミズアオ]]のような、[[ヤママユガ科]]の幼虫の食樹の一つである。そのため[[昆虫採集]]家は採集する種にもよるがこの木を見ると立ち止まって幹、枝、葉、さらには根元まで一通り確認して昆虫を探すことが多い。また、[[オオクワガタ]]などクヌギを主な活動拠点とする昆虫を探すために、それらの名産地において[[マニア]]が何時間もクヌギを見張っている光景が見られることも珍しくない。▼
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[[日本]]を含む[[アジア]]北東部に分布する{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}。日本では主に[[本州]](岩手・山形県以南<ref>{{Cite web |title=クヌギ |url=https://www1.ous.ac.jp/garden/hada/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/fagaceae/kunugi/kunugi.htm |website=www1.ous.ac.jp |access-date=2025-08-10}}</ref>)、[[四国]]、[[九州]]([[屋久島]]以北<ref>{{Cite web |title=Forest Notes {{!}} 各地の森について 屋久島 {{!}} JVCケンウッド |url=https://www.forestnotes.jp/forest_info/yakushima.html |website=www.forestnotes.jp |access-date=2025-04-17}}</ref>)の各地に広く分布し、一部は[[北海道]]南部に(植栽により<ref>{{Cite web |title=大阪市立自然史博物館 質問コーナー |url=https://www2.omnh.jp/scripts/faqbbs.exe?threadN=31#:~:text=%E3%82%AF%E3%83%8C%E3%82%AE%E3%80%81%E3%82%A2%E3%83%99%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%81%AF%E6%9C%AC%E5%B7%9E%E5%8C%97%E9%83%A8,%E3%81%97%E3%80%81%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82 |website=www2.omnh.jp |access-date=2025-04-17}}</ref>)分布する{{sfn|辻井達一|1995|p=124}}。
植栽適期は12 - 3月、または6月 - 7月、10 - 11月とされるが、移植は難しい{{sfn|正木覚|2012|p=53}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。剪定は3 - 4月に行う{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。施肥は行う必要がない{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。伐採しても切り株から[[萌芽更新]]が発生し、再び数年後には樹勢を回復する{{sfn|辻井達一|1995|p=125}}。持続的な利用が可能な[[里山]]の樹木の一つで、農村に住む人々に利用されてきた。庭木に1本立ちで植えられることもあるが、よほど広いところでない限り植えない方が賢明だという意見もある{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。▼
▲また、このようにいわゆる里山の代表的な構成と認められて来たために、近年の広葉樹の植樹の際に選ばれることが多い。しかし、元来その分布は日本の中ではやや北に位置するものである。
材質は硬く、材は建築材や器具材、家具材、車両、[[船舶]]に使われるほか、伐採しても萌芽再生力により繰り返し収穫できるところが重宝されて[[薪]]や[[薪炭]]、[[シイタケ]]の原木栽培の榾木(ほだぎ)として用いられる{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。落葉は[[腐植土|腐葉土]]として作物の[[肥料]]に利用される。クヌギは成長が早く植林から10年ほどで木材として利用でき、木材生産には効率がよいとされてきた{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。病気も少なく、手入れをしなくても育つので人気があったが、もっぱら薪や炭用の利用が多かったため、その後はだんだんと植える人も減っていった{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。▼
== 人間との関係 ==
実は爪楊枝を刺して[[独楽]]にするなど子供の玩具として利用される{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。また、[[縄文時代]]の遺跡からクヌギの実が[[土器]]などともに発掘されたことから、[[灰汁]]抜きをして食べたと考えられている。▼
=== 燃料 ===
薪炭材としては落葉ブナ科樹木、いわゆるナラ類の中でも別格で非常に評価が高い。特に[[木炭]]に加工される場合、殆ど[[黒炭]]に加工される。燃焼時のにおいが少なく、火持ちがいいことの他にも、断面に菊の花の模様が現れ見た目もよく「菊炭」などと呼ばれ茶の湯用の高級木炭である。[[大阪府]]北部の[[能勢町|能勢]]・[[池田市|池田]]地域が代表的な産地であったことから産地を採って「池田炭」とも呼ばれる。別名「一庫炭」とも呼ばれる。
=== 木材 ===
樹皮やドングリの殻は、'''つるばみ染め'''(橡染め)の[[染料]]として用いられる{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。つるばみ染めは、実の煮汁をそのまま使うと黄褐色が得られ、[[灰汁]]を[[媒染剤]]とすると黄色が強くなってこれがツルバミ色とよんでいる{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。さらに媒染材に鉄を加えると、染め上がりは黒から紺色になる{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。▼
▲材質は硬く、材は建築材や器具材、家具材、車両、[[船舶]]に使われるほか、伐採しても萌芽再生力により繰り返し収穫できるところが重宝されて
=== 食用・薬用 ===
養蚕では、屋内で[[蚕]]を飼育する家蚕(かさん)が行われる以前から、野外でクヌギの葉に[[ヤママユガ]](天蚕)を付けて飼育する方法が行われていた。▼
▲
▲飼料としても利用できる。養蚕では、屋内で[[蚕]]を飼育する家蚕(かさん)が行われる以前から、野外でクヌギの葉に[[ヤママユガ]](天蚕)を付けて飼育する方法が行われていた。
樹皮は'''樸樕'''(ボクソク)という[[生薬]]であり<ref>治療学編集部編、大塚恭男監修「和漢生薬事典」『治療学』1983年、10巻、Suppl.、p162(なお、近縁植物の[[ナラ]]、[[カシ]]の樹皮も樸樕という)</ref>、十味敗毒湯<ref>[https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/024/index_50.shtml ツムラ十味敗毒湯 第二類医薬品](2016年6月29日閲覧)</ref>、治打撲一方(ヂダボクイッポウ)<ref>{{PDFlink|[http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00005275.pdf 「ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)」添付文書2013年3月改訂第5版]|286 [[キビバイト|KiB]]}}、日本医薬情報センター(2016年6月29日閲覧)</ref>といった[[漢方薬]]に配合される。
=== 防災・風致 ===
[[中華人民共和国]][[四川省]]では、標高3,500 mを超える地域にクヌギ林が成立しており、[[マツタケ]]林として利用されている<ref>{{Cite web |date=2018-08-16 |url= http://jp.xinhuanet.com/2018-08/16/c_137394632.htm|title=マツタケ収穫記 四川省雅江県 |publisher= 新華社|accessdate=2018-08-25}}</ref>。▼
▲植栽適期は12 - 3月、または6月 - 7月、10 - 11月とされるが、移植は難しい{{sfn|正木覚|2012|p=53}}{{sfn|山﨑誠子|2019|p=132}}。剪定は3 - 4月に行う{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。施肥は行う必要がない{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。伐採しても切り株から[[萌芽更新]]が発生し、再び数年後には樹勢を回復する{{sfn|辻井達一|1995|p=125}}。持続的な利用が可能な[[里山]]の樹木の一つで、農村に住む人々に利用されてきた。庭木に1本立ちで植えられることもあるが、よほど広いところでない限り植えない方が賢明だという意見もある{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。
=== その他 ===
実は爪楊枝を刺して[[独楽]]にするなど子供の玩具として利用される{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。
▲樹皮やドングリの殻は、'''つるばみ染め'''(橡染め)の[[染料]]として用いられる{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=143}}。つるばみ染めは、実の煮汁をそのまま使うと黄褐色が得られ、[[灰汁]]を[[媒染剤]]とすると黄色が強くなってこれがツルバミ色とよんでいる{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。さらに媒染材に鉄を加えると、染め上がりは黒から紺色になる{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。
▲[[中華人民共和国]][[四川省]]では、標高3,500 mを超える地域にクヌギ林が成立しており、[[マツタケ]]林として利用されている<ref>{{Cite web
==== 虫の集まる木 ====
▲クヌギは幹の一部から[[樹液]]がしみ出ていることがある。クヌギの樹液は、[[カブトムシ]]や[[クワガタムシ|クワガタ]]などの[[甲虫類]]や[[チョウ]]、[[スズメバチ|オオスズメバチ]]などの好物で、これら昆虫が樹液を求めて集まる{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}{{sfn|正木覚|2012|p=53}}。樹液は以前は[[シロスジカミキリ]]が産卵のために傷つけた所から沁み出すことが多いとされ、現在もほとんどの一般向け書籍でそう書かれていることが多いが、近年の研究で主として[[ボクトウガ]]の幼虫が材に穿孔した孔の出入り口周辺を常に加工し続けることで永続的に樹液を滲出させ、集まる[[アブ]]や[[ガ]]のような軟弱な[[昆虫]]、[[ダニ]]などを[[捕食]]していることが明らかになった。
▲[[ウラナミアカシジミ]]という蝶の幼虫はクヌギの若葉を食べて成長する。またクヌギは、[[ヤママユガ]]、[[クスサン]]、[[オオミズアオ]]のような、[[ヤママユガ科]]の幼虫の食樹の一つである。そのため[[昆虫採集]]家は採集する種にもよるがこの木を見ると立ち止まって幹、枝、葉、さらには根元まで一通り確認して昆虫を探すことが多い。また、[[オオクワガタ]]などクヌギを主な活動拠点とする昆虫を探すために、それらの名産地において[[マニア]]が何時間もクヌギを見張っている光景が見られることも珍しくない。
=== 文学 ===
* [[万葉集]](巻十八)
** 紅は うつろうものぞ 橡の なれにし衣に なおしかめやも([[大伴家持]])
===
クヌギの由来は「国の木」という説もあるほど、一般的で庶民生活に根付いた樹木であった。
==== 著名なクヌギ ====
* 鞍掛のクヌギ - 熊本県[[産山村]]。根元に乳房のようなふくらみがあり、触ると乳の出が良くなるといわれる。熊本県指定の文化財
以下の自治体の木として指定されている。都道府県の木としての指定は無く、市町村の木としての指定数も身近な樹木である割には少ない。
* 静岡県 - [[伊豆市]]<ref>[https://www.city.izu.shizuoka.jp/soshiki/1005/3/1/264.html 市章・木・花・鳥] 伊豆市役所企画財政課秘書室 2025年8月15日閲覧</ref>
* 福岡県 - [[大牟田市]]<ref>[https://www.city.omuta.lg.jp/kiji0034392/index.html 大牟田市の市の木・市の花] 大牟田市役所企画総務部総務課 2025年8月15日閲覧</ref>
* 大分県 - [[九重町]]<ref>[https://www.town.kokonoe.oita.jp/docs/2016121300033 町民憲章] 九重町役場 2025年8月15日閲覧</ref>
* 愛媛県 - [[砥部町]]<ref>[https://www.town.tobe.ehime.jp/soshikikarasagasu/sougou/512.html 町の概要] 砥部町役場 2025年8月15日閲覧</ref>
* 宮崎県 - [[諸塚村]]<ref>[https://www.vill.morotsuka.miyazaki.jp/soshiki/1002/2/93.html 諸塚村の木・花・鳥] 諸塚村役場企画創生課 2025年8月15日閲覧</ref>
== 分類学上の位置づけ ==
コナラ属内の分類は従来形態的特徴に基づき、殻斗の模様が鱗状のものをコナラ亜属(Subgen. ''Quercus'')、環状のものをアカガシ亜属(Subgen. ''Cyclobalanopsis'')と分けられてきたが、遺伝子的な系統に基づく他の分類が幾つか提唱されている<ref>Paul S. Manos, Jeff J. Doyle, Kevin C. Nixon (1999) Phylogeny, Biogeography, and Processes of Molecular Differentiation in ''Quercus'' Subgenus ''Quercus'' (Fagaceae). Molecular Phylogenetics and Evolution 12(3): 333-349. {{doi|10.1006/mpev.1999.0614}}</ref>。[[総説論文|総説]]にDenk et al.(2017)がある<ref>Thomas Denk, Guido W. Grimm, Paul S. Manos, Min Deng & Andrew L. Hipp (2017) An Updated Infrageneric Classification of the Oaks: Review of Previous Taxonomic Schemes and Synthesis of Evolutionary Patterns. Oaks Physiological Ecology. Exploring the Functional Diversity of Genus ''Quercus'' L. p.13-38. {{doi|10.1007/978-3-319-69099-5_2}}</ref>。
Denk et al.(2017)において[[アベマキ]]と共に''Cerris''亜属の''Cerris''節に入れられている。節単位は異なるが、同亜属には[[アラカシ]]、[[シラカシ]]などのカシ類、また樫とは付くが少し異質の[[ウバメガシ]]なども入る。落葉ブナ科樹木ということで所謂「ナラ類」に入れられることがあるが、近いと思われてきた[[コナラ]]、[[ミズナラ]]、[[カシワ]]は''Quercus''亜属に入るために、クヌギとは亜属単位で異なり遠縁であるという。
標準和名クヌギの由来は諸説あり、「クニギ(国の木)」説、「クノギ(食の木)」説、「クリニキ(栗似木)」説などある<ref>{{Cite book|和書 |author=木村陽二郎監修 |year=1988 |title=図説草木辞苑 |publisher=柏書房 |isbn=4-7601-0351-1}}</ref>{{sfn|亀田龍吉|2014|p=93}}{{sfn|辻井達一|1995|p=124}}{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=231}}。「クニギ」は西日本を中心に方言名でもよく見られく<ref name="倉田悟(1963)">倉田悟 (1963) 日本主要樹木名方言集. 地球出版, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000001050277}} (デジタルコレクション有)</ref><ref name="日本樹木名方言集(1916)">農商務省山林局 編 (1916) 日本樹木名方言集. 大日本山林会, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000000904366}} (デジタルコレクション有)</ref><ref>高知営林局 編 (1936) 四国樹木名方言集. 高知営林局, 高知. {{国立国会図書館書誌ID|000000716186}} (デジタルコレクション有)</ref>。「クノギ」や「ドングリ」が食用になることを示した名前も全国的に多い。
古名は'''つるばみ'''といい<ref>{{Cite journal|和書 |author=小林文子、金成俊ほか |year=2005 |title=樸樕と土骨皮の来歴 |journal=漢方の臨床 |volume=52 |issue=4 |pages=p.p.613-626}}</ref>、古くは『[[万葉集]]』に記されたという{{sfn|辻井達一|1995|p=126}}。
方言名は多数あり、前述の「クニギ」、「クノギ」の他に全国的に「ドングリ」、「ドングリノキ」などと呼ばれる。東海地方ではクヌギを「トチ」、[[アベマキ]]を「ワタドチ」、[[トチノキ]]を「ホンドチ」と呼び分ける<ref name="倉田悟(1963)"/><ref name="静岡県樹木名方言集(1983)">野口英昭 (1983) 静岡県樹木名方言集. 静岡県林業会議所, 静岡. {{国立国会図書館書誌ID|000001608463}} (デジタルコレクション有)</ref>。アベマキとの比較混同の名前は中国地方に多く、「アベノキ」、「ワタノキ」「メクヌギ」「メク」「マキ」「ヒメマキ」などが見られる。ワタはコルク層の厚さに、「メクヌギ」はこれがアベマキほど厚くないことに因んでいると見られ、アベマキはオクヌギ(雄クヌギ)と呼ぶ地域がある<ref name="倉田悟(1963)"/>。樹皮をとらえた名前としては「チチン」「チリメン」なども見られる。木材が硬いことを示すとみられる「カシ」「カタギ」「カナギ」「カッチングリ」「カナマキ」などは九州を除く各地に見られる<ref name="倉田悟(1963)"/><ref>農林省山林局 編 (1932) 樹種名方言集. 農林省山林局, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000000904043}} (デジタルコレクション有)</ref>。西日本のブナ科樹木によく見られる「ハハソ」「ホーソ」系の名前は比較的少ない。静岡にはこれ系と見られる「ボーチョ」「ボーボー」があるという><ref name="静岡県樹木名方言集(1983)"/>。「ジタンボウ」「ジタングリ」(関東甲信)、「ドーダ」(壱岐・対馬)、「ヒヨグリ」「ヒヨグンノキ」(山口・熊本)、「ツーラ」(宮崎)ほか由来のよくわからないものも多数ある<ref name="倉田悟(1963)"/>。
[[漢字]]では[[名字]]などを含め、[[櫟 (曖昧さ回避)|櫟]]、椚、[[橡 (曖昧さ回避)|橡]]、櫪、栩、椡、㓛刀、功刀、あるいは柞(ははそ)などいくつかの字をもっている{{sfn|辻井達一|1995|p=124}}。「橡」が読み方によってクヌギを指すか、トチノキを指すかは異なるが前述のように方言がすでに似ている地方がある。[[中国]]名は「麻櫟」と書く<ref name="YList"/>。
== 出典 ==
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* {{Cite book|和書|author =鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|title =樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種|date=2014-10-10|publisher =[[誠文堂新光社]]|series=ネイチャーウォチングガイドブック|isbn=978-4-416-61438-9|page =143|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =[[辻井達一]]|title =日本の樹木|date =1995-04-25|publisher =[[中央公論社]]|series =[[中公新書]]|isbn =4-12-101238-0|pages =124 - 126|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =西田尚道監修 学習研究社編|title =日本の樹木|date=2009-08-04|publisher =[[学習研究社]]|series=増補改訂
* {{Cite book|和書|author=林将之|title=紅葉ハンドブック|publisher=[[文一総合出版]]|date=2008-09-27|page=|ISBN=978-4-8299-0187-8|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =平野隆久監修 永岡書店編|title =樹木ガイドブック|date=1997-05-10|publisher =[[永岡書店]]|isbn=4-522-21557-6|page =231|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=正木覚 |title=ナチュラルガーデン樹木図鑑|publisher=[[講談社]] |date=2012-04-26 |pages=53 |isbn=978-4-06-217528-9 |ref=harv }}
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* [[木の一覧]]
== 外部リンク ==
* [https://db.kahaku.go.jp/webmuseum 標本・資料統合データベース > 植物研究部 > 維管束植物(標本)] [[国立科学博物館]]。押葉・押花標本等を公開。
* [https://www.forestry.jp 日本森林学会] 論文誌「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjfs/-char/ja 日本森林学会誌]」を発行しており、前身の「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjfs1953/-char/ja 日本林学会誌]」などと共に本項で多数参考にしている。他に一般向けの総説誌として「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjsk/-char/ja 森林科学]」、英文誌の「Journal of Forest Research」がある。和文誌は[[J-STAGE]]で無料公開されている([[オープンアクセス]])。
* [https://www.jwrs.org 日本木材学会] 論文誌「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwrs/-char/ja 木材学会誌]」を発行している。論文はJ-STAGEで無料公開されている。
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