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{{Pathnav|麻酔|区域麻酔}}[[ファイル:Type_of_anesthesia.png|サムネイル|麻酔法の分類。局所麻酔薬と全身麻酔薬は作用点が異なる。]]
{{Infobox medical intervention
| Name = 局所麻酔
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| OPS301 =
| OtherCodes =
|image=|image_size=}}
'''局所麻酔'''(
狭義の局所麻酔は、[[表面麻酔]]と'''浸潤麻酔'''([[局所麻酔#浸潤麻酔|後述]])の
▲'''局所麻酔([[英語|英]]: {{Lang|en|Local anesthesia}}'''、[[ドイツ語|独]]: '''{{Lang|de|Lokalanästhesie}})'''とは、身体の特定部位の感覚を消失させる技術であり<ref>[http://medical-dictionary.thefreedictionary.com/local+anesthesia thefreedictionary.com > local anesthesia] In turn citing: Mosby's Medical Dictionary, 8th edition. Copyright 2009</ref>、一般に局所鎮痛、すなわち痛みに対する局所的な感受性消失を誘発することを目的とする。しかし、その他の感覚も影響を受ける可能性がある。これにより、患者は苦痛を軽減した状態で手術や[[歯学|歯科]]治療を受けることができる。[[帝王切開]]など多くの状況において、[[全身麻酔]]よりも安全であり、したがって優れている<ref name="anest">{{Cite journal |author1=Sukhminder Jit Singh Bajwa |author2=Ashish Kulshrestha |title=Anaesthesia for laparoscopic surgery: General vs regional anaesthesia |date=2016 |journal=J Minim Access Surg |volume=12 |issue=1 |pages=4–9 |doi=10.4103/0972-9941.169952 |pmid=26917912|pmc=4746973 }}</ref>。'''{{仮リンク|意識消失|en|Unconsciousness}}'''を伴わずに、[[麻酔薬]]が作用している部位のみを除痛する[[麻酔]]の方法である。
広義の局所麻酔には、[[神経ブロック]](Nerve block、
▲狭義の局所麻酔は、[[表面麻酔]]と'''浸潤麻酔'''([[局所麻酔#浸潤麻酔|後述]])の事を指す。これに対して、意識消失を伴う麻酔は[[全身麻酔]]という。局所麻酔は、主に、[[侵襲|侵襲性]]の低い[[手術]]や簡単な縫合などの救急処置などの際に行われる。局所麻酔を行うための麻酔薬を総称して[[局所麻酔薬]]というものの、局所麻酔薬は、局所麻酔の目的だけではなく、手術時の[[全身麻酔薬]]と併用する事により、手術後の鎮痛目的にも用いられる。局所麻酔は「局'''部'''麻酔」や「部分麻酔」と表記されることも多いが、「麻酔科学用語集」には記載が無く、[[医学用語]]の表記としては正しいとはいえない<ref>{{Cite book|和書 |title=麻酔科学用語集 |date=2018-05-01 |publisher=公益社団法人日本麻酔科学会 |edition=第5版 |url=https://anesth.or.jp/files/pdf/glossary.pdf}}</ref>。略称の'''局麻'''が臨床において用いられることはある<ref>{{Cite web |title=局麻 :医療・ケア 用語集 {{!}}ディアケア |url=https://www.almediaweb.jp/glossary/1018.html |website=www.almediaweb.jp |access-date=2023-07-02 |language=ja}}</ref>。
▲広義の局所麻酔には、[[神経ブロック]](Nerve block、又は'''伝達麻酔'''(''Conduction anesthesia)''が含まれる。神経ブロックは、局所麻酔薬の注入部位を神経叢などの太い神経周囲とすることにより、足や腕など、より大きな部分の麻酔を可能とするものである。神経ブロックの概念には、[[硬膜外麻酔]]や[[脊髄くも膜下麻酔]]を含む[[脊髄幹ブロック]]が含まれることがある<ref>{{Cite book |title=Portable Pathophysiology |publisher=Lippincott Williams & Wilkins |year=2006 |isbn=9781582554556 |url=https://books.google.com/books?id=w7O9c78uQU0C&pg=PA149 |page=149}}</ref>。これらを総称して、'''区域麻酔'''({{Lang-en-short|regional anesthesia or regional block}})と呼ぶ<ref>{{Cite web |title=Regional Anesthesia |url=https://www.bcm.edu/healthcare/specialties/anesthesia/regional-anesthesia |website=Baylor College of Medicine |access-date=2023-05-19 |language=en}}</ref><ref>{{Cite web |title=Regional anesthesia for surgery |url=https://www.asra.com/patient-information/regional-anesthesia |website=The American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine (ASRA) |access-date=2023-05-19 |language=en}}</ref>。実際には、局所麻酔、区域麻酔、伝達麻酔という用語はしばしば互いに混同して使用される。
局所麻酔には、処置の最中に発生した何かしらの身体の変化に患者自身が気付くこと、全身麻酔薬が作用した場合には時に失われる[[自発呼吸]]も保たれること、意識消失に使用する全身麻酔薬が使用しづらい状況でも手術を行うことが可能([[妊娠]]中の患者など)などの利点がある。
しかし、局所麻酔によって除痛ができていても、身体に[[侵襲]]が加わっている点に変わりはない。また、術中に患者にとって不利益な精神症状が出てくる可能性は否定できない。そのため状況に応じて[[鎮静]]が必要とされる場合もある
{{Seealso|鎮静|処置時の鎮静・鎮痛}}
==目的==
{{出典の明記| date = 2023年6月| section = 1}}
{{Main|局所麻酔薬}}
局所麻酔薬は、可逆的な局所麻酔と{{仮リンク|侵害受容|en|nociception|redirect=1}}の消失を引き起こす薬剤である<ref>{{Cite journal|last=Lemke|first=Kip A.|last2=Dawson|first2=Susan D.|date=2000-07-01|title=Local and Regional Anesthesia|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S019556160870010X|journal=Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice|volume=30|issue=4|pages=839–857|language=en|doi=10.1016/S0195-5616(08)70010-X|issn=0195-5616}}</ref>。特定の神経経路に使用すると([[神経ブロック|神経ブロッ]]ク)、[[鎮痛]]([[痛覚]]の消失)や[[運動麻痺|麻痺]](筋力の消失)などの効果が得られる。臨床用局所麻酔薬は、[[アミド型]]局所麻酔薬と[[エステル型]]局所麻酔薬の2種類に分類される。合成局所麻酔薬は[[コカイン]]と化学構造的に類似している。コカインとの主な違いは、[[薬物乱用|乱用]]の可能性がないこと<ref>{{Cite journal|last=Ruetsch|first=Yvan A.|last2=Boni|first2=Thomas|last3=Borgeat|first3=Alain|title=From Cocaine to Ropivacaine: The History of Local Anesthetic Drugs|url=https://www.eurekaselect.com/article/26557|journal=Current Topics in Medicinal Chemistry|volume=1|issue=3|pages=175–182|language=en|doi=10.2174/1568026013395335}}</ref>、交感神経アドレナリン系に作用しないこと、すなわち[[高血圧]]や局所[[血管収縮]]を起こしにくいことである。他の麻酔と異なり、局所麻酔は意識を失わないため、短時間の外科処置に使用することができる。ただし、医師は処置を行う前に、[[無菌]]環境を整えておく必要がある。
局所麻酔の第一の目的は、神経({{仮リンク|求心性神経繊維|en|Afferent nerve fiber|redirect=1}})の痛みを伝える機能を遮断(ブロック)して痛みをなくすことである。ある種の[[A線維]]の機能を遮断することで、感覚([[触覚]]と[[振動覚]]、これも求心性線維)を消失させる。運動(遠心性)神経線維もブロックされることがあり、支配領域の筋肉は能動的に動かすことは不可能となる。
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浸潤麻酔は、麻酔をかけたい組織に局所麻酔薬を[[浸潤]]させるもので、[[表面麻酔]]と浸潤麻酔をあわせて(狭義の)局所麻酔という。浸潤麻酔では、局所麻酔薬を手術部位の組織に直接注入する<ref>{{仮リンク|Paul Diepgen|de|Paul Diepgen|label=Paul Diepgen}}, {{仮リンク|Heinz Goerke|de|Heinz Goerke|label=Heinz Goerke}}: ''{{仮リンク|ルートヴィヒ・アショフ|de|Ludwig Aschoff|label=ルートヴィヒ・アショフ(Ludwig Aschoff)|redirect=1}}/Diepgen/Goerke: Kurze Übersichtstabelle zur Geschichte der Medizin.'' 7., neubearbeitete Auflage. Springer, Berlin/Göttingen/Heidelberg 1960, S. 58.</ref>。その効果は、敏感な[[自由神経終末]]と末端神経路の遮断に基づく。しかし、浸潤麻酔は手術する組織の性質も変化させるため、比較的大量の局所麻酔薬が必要となる。他に、意識下に太めの末梢ラインや中心静脈ラインを確保する際や、硬膜外麻酔や脊椎麻酔で硬膜外針や脊椎針の刺入前に細めの注射針で痛覚を取る際や、小さな部位の切開・縫合手術などに用いる。麻酔薬としては[[リドカイン]]、[[メピバカイン]]、[[プロカイン]]を用いる。
==== 浸潤麻酔のバリエーション ====
'''フィールドブロック'''('''周囲浸潤麻酔''')は、麻酔をかけたい部位
経切開(または経創)カテーテル麻酔では、切開または創傷から挿入した多孔カテーテルを、切開または創傷を閉じる際に内側から横に並べて、切開または創傷に沿って局所麻酔薬を持続的に投与する<ref>{{Cite journal|date=July 2003|title=Concept for postoperative analgesia after pedicled TRAM flaps: continuous wound instillation with 0.2% ropivacaine via multilumen catheters. A report of two cases|journal=British Journal of Plastic Surgery|volume=56|issue=5|pages=478–483|DOI=10.1016/S0007-1226(03)00180-2|PMID=12890461}}</ref>。
=== '''区域麻酔''' ===▼
末梢神経幹の伝達麻酔([[神経ブロック|末梢神経ブロック]])または[[脊髄]]に近い神経根の伝達麻酔([[脊髄くも膜下麻酔]]や[[硬膜外麻酔]]などの脊髄に近い局所麻酔)を''{{仮リンク|区域麻酔|de|Regionalanästhesie|redirect=1}}''と呼ぶ。また、[[静脈内区域麻酔]]<ref>H. Orth, I. Kis: ''Schmerzbekämpfung und Narkose.'' In: Franz Xaver Sailer, Friedrich Wilhelm Gierhake (Hrsg.): ''Chirurgie historisch gesehen. Anfang – Entwicklung – Differenzierung.'' Dustri-Verlag, Deisenhofen bei München 1973, ISBN 3-87185-021-7, S. 1–32, hier: S. 20.</ref>もあり、これは局所麻酔薬を腕(または脚)の[[駆血帯|駆血]]後の[[静脈]]に注射し、そこから神経管や神経終末に拡散させることで、当該四肢の麻酔を可能にするものである▼
==== 神経ブロック ====▼
末梢神経束の周辺に局所麻酔薬を注入して、疼痛刺激の神経伝達をブロックする方法である。[[ペインクリニック]]や周術期の鎮痛目的で行われる。麻酔薬としては、[[リドカイン]]、[[メピバカイン]]、[[ロピバカイン]]を用いる事が多い。手術を行う目的部位の知覚を支配する神経を同定してブロックを行う事で、部位を限局した痛覚鈍麻が得られる。▼
特に上肢の知覚を支配する腕神経叢に対してブロックを行う腕神経叢ブロックは広く行われており、侵襲の程度が大きくなければ、全身麻酔を行わず、腕神経叢ブロック単独で上肢の手術を行うことも可能である。▼
解剖学上の神経走行を捉えるランドマーク法に端を発し、登場した当時は確実性にやや乏しい点もあった。その後、神経を微弱な電流で刺激して筋収縮を確認する方法で、神経局在を把握して行う神経電気刺激法が発達したために普及した。さらに近年は[[超音波検査]]装置を利用し神経を同定する、超音波ガイド下神経ブロックが行われるようになった<ref>[http://journals.lww.com/rapm/Abstract/2000/11000/Ultrasound_Guided_Infraclavicular_Brachial_Plexus.9.aspx Ultrasound-Guided Infraclavicular Brachial Plexus Block: An Alternative Technique to Anatomical Landmark-Guided Approaches.] Ootaki C,Hayashi H,Amano M. Reg Anes Pain Med 25:600–604,2000</ref>。 [[硬膜外麻酔]]、[[脊椎麻酔]]が利用できない症例(適応外症例:血液の[[凝固]]機能の異常がある、もしくは[[抗凝固薬]]・[[抗血小板薬]]を使用中もしくは使用予定)に対しても活用することが出来、周術期における疼痛管理として[[麻酔科学]]領域におけるトピックになっている。▼
==== 脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔) ====▼
{{Main|脊髄くも膜下麻酔}}▼
局所麻酔薬をくも膜下腔に投与する方法で行う麻酔である。麻酔薬としては、[[プロカイン]]、[[テトラカイン]]、[[リドカイン]]、ジブカイン、[[ブピバカイン]]が用いられてきた。日本では他の製剤が次々と販売終了となったことから、ほぼ、[[ブピバカイン]]しか選択肢がない。主に下腹部や下肢の手術に用いられる。▼
硬膜外麻酔との比較として少量の麻酔薬で効果が現れ、手技的にも容易であるという点が挙げられる。しかし硬膜外麻酔と比べて麻酔可能部位が制限されること(臍上部周辺の手術が限界であり、上腹部~胸部の手術は困難)、持続的投与ができないなどの欠点がある。▼
==== 硬膜外麻酔 ====▼
{{Main|硬膜外麻酔}}▼
局所麻酔薬を硬膜外腔に投与する方法で行う麻酔である。エピ([[epi]])あるいはエピドラ(epidural)と略される場合もある。麻酔薬としては[[リドカイン]]、[[メピバカイン]]、[[ブピバカイン]]、[[ロピバカイン]]、[[レボブピバカイン]]などが用いられる。▼
[[硬膜外腔]]への穿刺部位を変えることで目的とする区域のみに限定して除痛を行う事が可能なため、脊髄くも膜下麻酔では困難な胸部や上腹部の手術にも用いることができる。さらに注入カテーテルを硬膜外腔に留置して局所麻酔薬を追加することによって、より長時間除痛を行う事も可能で、胸部・腹部・下肢手術が可能である。▼
硬膜外麻酔は全身麻酔と併用することで全身麻酔に必要な鎮痛薬の使用量を減ずることも可能である。欠点としては、手技的にやや難しいこと、脊髄くも膜下麻酔に比べて多くの局所麻酔薬が必要となるので[[局所麻酔#合併症|局所麻酔薬中毒]]がやや起こり易い事が挙げられる。▼
==== 靭帯内浸潤 ====
'''靭帯内浸潤'''は、歯根膜注入または靭帯内注入
# 単歯の麻酔
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# 全身的な健康問題の存在<ref>{{Cite journal|date=June 2003|title=The key to profound local anesthesia: neuroanatomy|journal=Journal of the American Dental Association|volume=134|issue=6|pages=753–760|DOI=10.14219/jada.archive.2003.0262|PMID=12839412}}</ref>
歯科患者はより少ない軟組織麻酔を好み、歯科医師はルーチンの修復処置のための従来の下歯槽神経ブロック(INAB)の投与を減らすことを目的としているため、ILIの利用は増加すると予想される<ref>{{Cite web |title=Intraligamentary Injections in Dentistry |url=https://www.dentalacademyofce.com/courses/3580%2FPDF%2F1807cei_Boynes_web.pdf |publisher=Dental Academy of Continuing Education |date=
注入方法
INABに対するILIの利点:迅速な効果発現(30秒以内)、[[局所麻酔薬]]の投与必要量が少
欠点: 一時的な歯周組織損傷のリスク、リスクの高い集団に対する
===== 手技の詳細
* 歯肉組織の治癒を助けるために、手術前にすべての[[歯垢|プラーク]]と[[歯石]]を除去することが望ましい。
* 注入前に、0.2%[[クロルヘキシジン]]溶液で歯肉溝を消毒する<ref>{{Cite journal|date=March 1983|title=Intraligamentary anesthesia: a clinical study|journal=The Journal of Prosthetic Dentistry|volume=49|issue=3|pages=337–339|DOI=10.1016/0022-3913(83)90273-1|PMID=6573480}}</ref>。
* ILI投与の前に軟組織麻酔の投与が推奨される。これは、患者の快適性を高めるのに役立つ。
* 針のゲージは、通常、27ゲージの短針または30ゲージの超短針が使用される
* 針は、単根歯の場合は中根または遠位根の長軸に沿って30度の角度で、多根歯の場合は中根および遠位根に挿入される。歯根にベベルの向けると、針の先端への前進を容易にする<ref name=":5">{{Cite journal|date=January 1999|title=How to overcome failed local anaesthesia|journal=British Dental Journal|volume=186|issue=1|pages=15–20|DOI=10.1038/sj.bdj.4800006|PMID=10028738}}</ref>。
* 針が根と顎骨の間に到達すると、大きな抵抗が生じる。
* 麻酔薬の注入は、1根または1部位あたり0.2mLで、20秒以上かけて行うことが推奨される。
* 麻酔を成功させるためには、麻酔薬を加圧して投与する必要がある。また、溝から口腔内に麻酔薬が漏れないようにする必要がある。
* 溶液を完全に沈着させるために、最低でも
* 組織の白化が観察され、[[血管収縮薬|血管収縮剤]]が使用されている場合は、より顕著になることがある。これは、組織への血流が一時的に阻害されることによって起こる<ref name=":5" />。
===== 注射器 =====
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===== 注意点 =====
* ILIは、活動性の[[歯周病]]の炎症がある患者には推奨されない。
* 5mm以上の[[歯根膜]]の喪失がある歯牙部位には、ILIを実施すべきではない。
▲末梢神経幹の伝達麻酔([[神経ブロック|末梢神経ブロック]])または[[脊髄]]に近い神経根の伝達麻酔([[脊髄くも膜下麻酔]]や[[硬膜外麻酔]]などの脊髄に近い局所麻酔)を''
▲==== 神経ブロック ====
{{multiple image|align=right|direction=vertical|width=180|image1=Fermoral nerve block.jpg|caption1=超音波ガイド下神経ブロック|image2=Liquor bei Spinalanaesthesie.JPG|caption2=脊髄くも膜下麻酔}}{{Main|神経ブロック}}
▲末梢神経束の周辺に局所麻酔薬を注入して、疼痛刺激の神経伝達をブロックする方法である。[[ペインクリニック]]や周術期の鎮痛目的で行われる。麻酔薬としては、[[リドカイン]]、[[メピバカイン]]、[[ロピバカイン]]を用いる
▲特に上肢の知覚を支配する腕神経叢に対してブロックを行う腕神経叢ブロックは広く行われており、侵襲の程度が大きくなければ、全身麻酔を行わず、腕神経叢ブロック単独で上肢の手術を行うことも可能である。
▲解剖学上の神経走行を捉えるランドマーク法に端を発し、登場した当時は確実性にやや乏しい点もあった。その後、神経を微弱な電流で刺激して筋収縮を確認する方法で、神経局在を把握して行う神経電気刺激法が発達したために普及した。さらに近年は[[超音波検査]]装置を利用し神経を同定する、超音波ガイド下神経ブロックが行われるようになった<ref>[http://journals.lww.com/rapm/Abstract/2000/11000/Ultrasound_Guided_Infraclavicular_Brachial_Plexus.9.aspx Ultrasound-Guided Infraclavicular Brachial Plexus Block: An Alternative Technique to Anatomical Landmark-Guided Approaches.] Ootaki C,Hayashi H,Amano M. Reg Anes Pain Med 25:600–604,2000</ref>。 [[硬膜外麻酔]]、[[脊椎麻酔]]が利用できない症例(適応外症例:血液の[[凝固]]機能の異常がある、もしくは[[抗凝固薬]]・[[抗血小板薬]]を使用中もしくは使用予定)に対しても活用することが出来、周術期における疼痛管理として[[麻酔科学]]領域におけるトピックになっている。
▲==== 脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔) ====
▲{{Main|脊髄くも膜下麻酔}}
▲局所麻酔薬をくも膜下腔に投与する方法で行う麻酔である。麻酔薬としては、[[プロカイン]]、[[テトラカイン]]、[[リドカイン]]、ジブカイン、[[ブピバカイン]]が用いられてきた。日本では他の製剤が次々と販売終了となったことから、ほぼ、[[ブピバカイン]]しか選択肢がない。主に下腹部や下肢の手術に用いられる。
▲硬膜外麻酔との比較として少量の麻酔薬で効果が現れ、手技的にも容易であるという点が挙げられる。しかし硬膜外麻酔と比べて麻酔可能部位が制限されること(臍上部周辺の手術が限界であり、上腹部
▲局所麻酔薬を硬膜外腔に投与する方法で行う麻酔である。エピ([[epi]])あるいはエピドラ(epidural)と略される場合もある。麻酔薬としては[[リドカイン]]、[[メピバカイン]]、[[ブピバカイン]]、[[ロピバカイン]]、[[レボブピバカイン]]などが用いられる。
▲[[硬膜外腔]]への穿刺部位を変えることで目的とする区域のみに限定して除痛を行う
▲硬膜外麻酔は全身麻酔と併用することで全身麻酔に必要な鎮痛薬の使用量を減ずることも可能である。欠点としては、手技的にやや難しいこと、脊髄くも膜下麻酔に比べて多くの局所麻酔薬が必要となるので[[局所麻酔#合併症|局所麻酔薬中毒]]がやや起こり
== 適応 ==
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* [[歯学|歯科]](詰め物、クラウン、根管などの修復手術時の表面麻酔、浸潤麻酔、または靭帯内麻酔<ref name=":3">{{Cite journal|date=September 2011|title=JAMA patient page. Local anesthesia|journal=JAMA|volume=306|issue=12|pages=1395|DOI=10.1001/jama.306.12.1395|PMID=21954483}}</ref>、抜歯、および抜歯や手術時の局所神経ブロック)。
* {{仮リンク|足病学|en|Podiatry}}(皮膚、爪剥離、母斑切除、外反母趾切除、ハンマートゥ修復<ref name=":3" />その他様々な足病学的処置)
* {{仮リンク|眼科手術|en|Eye surgery}}(白内障手術や他の眼科処置中の[[表面麻酔薬]]による表面麻酔や{{仮リンク|球後麻酔|en|retrobulbar block}}<ref name=":3" />)耳鼻咽喉科手術、[[耳鼻咽喉科学|頭頚部外科]](浸潤麻酔、術野ブロック、
* 肩及び腕の手術([[腕神経叢ブロック]]
* 肺の手術([[硬膜外麻酔]]併用全身麻酔)
* {{仮リンク|腹部手術|en|Abdominal surgery}}([[硬膜外麻酔]]/[[脊髄くも膜下麻酔]]、腹部手術の際に全身麻酔と併用することが多い<ref name=":3" />)
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[[心臓ペースメーカー|ペースメーカー]]や[[植込み型除細動器]]などの埋込医療機器、化学療法の薬剤注入用ポート、血液透析用アクセスカテーテルなどの挿入時にも局所麻酔を使用する<ref name=":3" />。
[[リドカイン]]/[[プリロカイン]](EMLA)の形態の表面麻酔は、[[採血法|採血]]
また、[[気管支鏡]]検査(下気道の可視化)や[[膀胱鏡]]検査(膀胱内壁の可視化)などの[[内視鏡]]検査にも表面麻酔が有効である。
180 ⟶ 166行目:
下歯槽神経ブロックの副作用には、緊張感、こぶしの握りしめ、うめき声などがある<ref name="worldcat.org">{{Cite book |title=Successful local anesthesia for restorative dentistry and endodontics |date=12 September 2014 |isbn=9780867156157 |___location=Chicago |oclc=892911544}}</ref>。
軟組織麻酔の持続時間は、歯髄麻酔よりも長く、しばしば飲食や会話
=== 危険性 ===
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=== 回復 ===
末梢神経ブロック後の永久的な神経損傷はまれである。症状は、数週間以内に消失する可能性が高い。影響を受けた人の大部分
損傷後、最長で18ヵ月間、症状が改善し続けることがある。
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=== 局所麻酔薬中毒 ===
近年は局所麻酔薬の全身毒性('''Local Anesthetic Systemic Toxicity: LAST)'''と表記されることが多い。局所麻酔薬そのものの毒性によって起こる全身症状で、
; {{Main|局所麻酔薬中毒}}
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=== 寒冷麻酔 ===
{{仮リンク|ドミニク・ジャン・ラレー|de|Dominique Jean Larrey|redirect=1}}(1766-1842)はフランスの[[軍医]]で、[[ナポレオン・ボナパルト]]の「[[大陸軍 (フランス)|大陸軍]]」の外科医であり、彼の個人的な主治医でもあった。ラレーは、寒冷による局所麻酔効果(
=== コカの発見と応用 ===
[[ペルー]]では、古代インカ人が{{仮リンク|コカ (栽培植物)|en|Coca|label=コカ}}の葉を覚醒作用に加えて局所麻酔薬として使用していたとされる<ref name="Boca Raton">{{Cite news |title=Cocaine's use: From the Incas to the U.S. |url=https://news.google.com/newspapers?nid=1291&dat=19850404&id=0B1UAAAAIBAJ&pg=6387,881236 |access-date=2 February 2014 |newspaper=Boca Raton News |date=4 April 1985}}</ref>。奴隷の支払いにも使用されており、スペイン人がコカの葉を噛むことの効果に気づいて利用し、その後のインカ文明の滅亡に一役買ったと考えられている<ref name="Boca Raton" />。
[[ファイル:Carl Coller.jpg|サムネイル|カール・コラー]]
局所麻酔の臨床応用は、[[精神科医|精神分析医]][[ジークムント・フロイト]](1856-1939)、{{仮リンク|カール・コラー (眼科医)|en|Karl Koller (ophthalmologist)|label=眼科医カール・コラー|redirect=1|de|Carl Koller}}(1857-1944)、レオポルド・コニヒシュタイン(1850-1942)ら[[ウィーン学派 (医学)|ウィーン学派]]が発明したとされている。コラーは、後の[[ジークムント・フロイト|フロイト]]との共同研究において、[[コカイン]]を味わうと舌が麻酔されることを認識し、1884年にこれを報告した<ref>[[:de:Vorlage:Literatur]]<!-- {{Literatur |Autor=Guido Kluxen |Titel=Sigmund Freud: Über Coca Versäumte Entdeckung |Sammelwerk=[[Deutsches Ärzteblatt]] |Band=88 |Nummer=45 |Verlag=Deutscher Ärzte-Verlag |Datum=1991-11-07 |Seiten=A-3870 |Online=https://www.aerzteblatt.de/archiv/101251/Sigmund-Freud-Ueber-Coca-Versaeumte-Entdeckung}} --></ref>。彼らは、動物実験や人体実験に導入する前に、口腔粘膜での「自己実験」によって、コカインを用いた局所麻酔を導入したのである。動物実験が成功した後、1884年に初めてヒトの{{仮リンク|眼科手術|de|Augenoperation|redirect=1}}にコカインを使用した<ref>C. Koller: ''Vorläufige Mittheilung über locale Anästhesirung am Auge.'' Beilageheft zu den Klinischen Wochenblättern für Augenheilkunde, 1884, 22, S. 60–63</ref>。コカイン溶液を眼球に垂らし、眼球の[[角膜]]を麻酔した([[表面麻酔]])。こうしてコラーは局所麻酔の父とみなされるようになった。彼はこれを局所麻酔({{Lang|de|locale Anästhesirung}})と呼んだ。
=== 神経ブロックの発展 ===
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[[静脈内区域麻酔|静脈内局所麻酔]]は、1908年に{{仮リンク|アウグスト・ビーア|en|August Bier}}によって初めて報告された。この方法は現在でも使用されており、[[プリロカイン]]のような全身毒性の低い薬剤を使用した場合には、安全である。
[[脊髄くも膜下麻酔]]は1885年に初めて行われたが、臨床に導入されたのは1899年で、アウグスト・ビーアが自ら臨床実験を行い、麻酔効果だけでなく、典型的な副作用である穿刺後頭痛を観察したときであった。数年のうちに、脊髄くも膜下麻酔は手術麻酔に広く使用されるようになり、安全で効果的な技術として受け入れられるようになった。現在ではペンシル型(先端鋭利で
仙骨からのアプローチによる[[硬膜外麻酔]]は20世紀初頭から知られていたが、腰椎からの注入による明確な手技が開発されたのは1921年、{{仮リンク|フィデル・パ
=== 合成局所麻酔薬の開発 ===
コカインは毒性が高かっため、より毒性が低く、中毒性の低い代替薬の探索により、1903年に[[エステル型]]局所麻酔薬である{{仮リンク|ストバイン|en|Amylocaine}}が、1904年に[[プロカイン]]が開発されるに至った。その後、
=== 現代日本の状況 ===
日本では、1986年に日本局所麻酔学会が設立されたが、会員数と発表演題数の減少傾向に歯止めがかからず2007年に解散となった<ref name=":6">{{Cite web
==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist}}
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==参考文献==
* {{Citebook|和書 |title=歯科麻酔学 |date=2019-02-20 |year=2019 |publisher=医歯薬出版株式会社 |isbn=9784263458297 |edition=8 |ref=harv |last=福島 |first=和昭}}
* {{Citebook|和書 |title=臨床麻酔学全書 |date= |year=2002 |publisher=真興交易(株)医書出版部 |isbn=978-4-88003-687-8 |edition= |ref=harv |last=花岡 |first=一雄|volume=上|author3=真下 節|author4=福田和彦}}
* Heinrich Braub: ''Die Lokalanästhesie, ihre wissenschaftlichen Grundlagen und praktische Anwendung.'' Leipzig 1914.
* Dieter Gross: ''Therapeutische Lokalanästhesie. Grundlagen – Klinik – Technik. Ein neuraltherapeutisches Praktikum.'' 3., unveränderte Auflage. Hippokrates, Stuttgart 1985, ISBN 3-7773-0727-0.
* 『麻酔科必修マニュアル』槙田浩史 編. 羊土社, 2006.6 ISBN 4897063442
* 『STEP 麻酔科』高野義人 監修 海馬書房 2004 (Step series)、ISBN 4907704275
==外部リンク==
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