「おおすみ型輸送艦 (2代)」の版間の差分

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'''おおすみ型輸送艦'''(おおすみがたゆそうかん、{{Lang-en|''Ōsumi''-class tank landing ship}})は、[[海上自衛隊]]が運用する[[輸送艦]]の艦級{{Sfn|朝雲新聞社|2006|pp=260-261}}。英語呼称と艦種記号では[[戦車揚陸艦]]('''LST''')とされているが、同様の艦船は、他国[[海軍]]においては[[ドック型揚陸艦|ドック型輸送揚陸艦(LPD)]]などに分類されている。おおすみ型輸送艦には、1番艦 [[おおすみ (輸送艦・2代)|おおすみ]] 、2番艦[[しもきた (輸送艦・2代)|しもきた]] 、3番艦[[くにさき (輸送艦)|くにさき]] がある。おおすみ型1隻の建造費は272億円前後とされる{{Sfn|江畑|2001}}。
 
艦内後部[[ウェルドック]]には2隻の輸送用[[ホバークラフト]]を搭載しており、大きな船体と見通しの良い全通飛行甲板のおかげで[[ヘリコプター]]の発着も容易であることから、従来の輸送艦よりも輸送・揚陸能力が向上した。[[陸上自衛隊]]の部隊であれば330名の1個[[普通科 (陸上自衛隊)|普通科]]中隊[[戦闘団#陸上自衛隊のケース|戦闘群]]と装備品を搭載でき、民間人輸送時には約1,000名の乗艦が可能。また優れた医療機能も備えている。
 
== 来歴 ==
海上自衛隊の輸送・揚陸艦艇部隊は、[[1955年]](昭和30年)、[[日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定|MSA協定]]に基づいて[[アメリカ海軍]]より供与された汎用揚陸艇(LCU)6隻、機動揚陸艇(LCM)29隻によって舟艇隊を設置したことを端緒とする。続いて[[1961年]](昭和36年)には、やはりMSA協定に基づき、アメリカ海軍の[[LST-1級戦車揚陸艦]]3隻の供与を受け、初代おおすみ型揚陸艦([[1971年]]に輸送艦に改称)として、[[第1輸送隊]]を編成した。その後、さらに国産の[[あつみ型輸送艦|1,500トン型(45LST)]]3隻を地方隊向けに、[[みうら型輸送艦|2,000トン型(47LST)]]3隻を第1輸送隊向けに建造・配備して、海上作戦輸送能力を整備してきた{{Sfn|長田|1994}}。この'''海上作戦輸送'''は、海外への侵攻に直結する''海上輸送''とは区別されており、日本国内に敵が侵攻してきた場合を想定して、'''敵の支配地域やその近傍に陸上自衛隊などの部隊を輸送するもの'''である{{Sfn|香田|2012}}。
 
最初期計画では、1,500トン型(45LST)の代艦として{{Sfn|朝雲新聞社|2006|pp=260-261}}、3,500トン型輸送艦が計画されていた<ref>{{Cite journal|和書|author=日野景一|year=1989|month=11|title=海上自衛隊の新型輸送艦はどんなフネ?|journal=世界の艦船|issue=414|pages=90-91|publisher=海人社}}</ref>。その後、[[1987年|昭和62年]]度から[[1989年|平成元年]]度にかけて、従来のLSTと同様のビーチング方式で、速力16ノット以上、基準排水量5,500トン、ヘリコプターの発着艦機能を保有する輸送艦の要求が計画されたが、これは実現しなかった。また平成2年度計画艦として、基準排水量約9,000トン、速力22ノットで50トン型LCACを2隻搭載する輸送艦も検討されたが、こちらも実現しなかった{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=§12 国産システム艦の近代化進む/03中防計画艦の建造}}。
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上甲板(第1甲板)は、艦首錨甲板を除いてほぼ全長にわたる全通飛行甲板となっており、艦橋構造物は右舷側に寄せたアイランド型とされている。電波[[ステルス性]]を高めるため、艦体、艦橋構造物ともに傾斜をつけ、なるべく凹凸を減らした平面で構成されている。また海上自衛隊として初めて、マストをトラス構造から筒型構造に変更した{{Sfn|海上幕僚監部|2003|loc=§12 国産システム艦の近代化進む/03中防計画艦の建造}}。
 
上甲板(第1甲板)のうち、艦橋構造物より後方は[[ヘリコプター甲板]]、それより前方は[[車両]]・資材用の甲板として使用する。ヘリコプター甲板の下、第4甲板後部には長さ60メートル×幅15メートルの[[ウェルドック]]があり、ここに搭載された各種舟艇は、艦尾にある下ヒンジ式の扉から直接海上に出入りさせることができる。諸外国の場合、この規模の[[ドック型揚陸艦]]では船体前部に大型の上部構造物を作り、ここに[[格納庫|ヘリコプター格納庫]]を設置する例がほとんどであり、全通飛行甲板にしたことでかえって航空機運用能力を損なっていると批判する意見もあった{{Sfn|宇垣|2004}}。しかし

本型の場合、上述の通り陸上自衛隊の輸送ヘリコプターによる揚陸が重視されたことから、飛行甲板長を最大化するとともに、艦上での飛行作業に不慣れな陸上自衛隊のパイロットの安全を確保するため、艦上で「最大の障害物」である艦橋構造物を右側に除けるように配置した結果として、空母に似た全通飛行甲板船型となったものであった{{Sfn|香田|2019}}。また来るべきDDH後継艦(現在の[[ひゅうが型護衛艦|ひゅうが型(16DDH)]]・[[いずも型護衛艦|いずも型(22DDH)]])を意識したものともなった{{Sfn|香田|2009}}。
 
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おおすみ型では艦内に2機を搭載する[[LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇|エアクッション艇1号型]]([[エア・クッション型揚陸艇]]、LCAC)を使用して揚陸を行う。ビーチングでは揚陸に利用できる海岸が世界の[[海岸|海岸線]]の15%ほどだったのに対して、ホバークラフトによる揚陸では世界の海岸線の70%程度が利用できるとされる{{Sfn|朝雲新聞社|2006|pp=260-261}}。また、従来用いられてきた上陸用舟艇(LCM)の設計を踏襲した[[交通船2121号型|交通船2150号型]]も搭載できるが、こちらは普段は呉基地での港内支援任務に従事している。
 
舟艇に車両を搭載する場合は、第4甲板前部の車両甲板から直接に自走して乗り込む。資材の搬入、搬出は艦橋構造物、煙突横に設置されたクレーン(力量15トン)で行うこともできる。LCACや[[AAV7]]を運用する場合は艦尾門扉を開くだけでよいが、交通船などの在来型舟艇を運用する場合は、バラストタンクに注水して艦尾を下げることで、ドックに海水を導く必要がある。船体姿勢制御のための[[バラスト水]]は、約1,300-3,000トン搭載できる{{Sfn|技術研究本部|2002|p=97}}。ただし現状では、バラスト・ポンプの能力不足のため、艦尾側水深を2.4メートル程度とするためには、注水に約1.5時間を要する{{Sfn|佐々木|2014}}{{Efn2|なお[[アメリカ海軍]]の[[ホイッドビー・アイランド級ドック型揚陸艦]]では、本型の約2.2倍の大きさのウェルドックに対して、漲排水のため12,860トンのバラスト水を搭載し、漲水は15分、排水は30分で行えるとされており、漲水時の水深は、艦首側では1.8メートル、艦尾側では3.0メートルとなる{{Sfn|Wertheim|2013|pp=867-869}}。}}。
 
LCACは大量の兵員や重火器等を搬入する能力が低いこと{{Sfn|中矢|2012}}、また同規模の[[アメリカ海軍]]ドック型揚陸艦がLCACを3隻搭載しているのに対して本型の搭載数は2隻であることから、従来のLSTが揚陸艦としての機能に重点をおいていたのに対し、本型では輸送艦としての機能に重点をおいているとも指摘されている{{Sfn|長田|1994}}。
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ヘリコプター用の格納庫やエレベーターはなく、固有の搭載機は持たない。必要に応じて[[陸上自衛隊]]の輸送ヘリコプターを搭載、運用するとされており、航行しながらヘリコプターを発着艦させる機動揚陸戦ではなく、漂泊ないし錨泊状態での海上作戦輸送方式が前提とされた{{Sfn|香田|2009}}。
 
[[ヘリコプター甲板]]には、[[CH-47 (航空機)|CH-47輸送ヘリコプター]]の駐機スポット・発着スポット各1個が設定されている。甲板にはアメリカ海軍の[[航空母艦]]([[ニミッツ級航空母艦|ニミッツ級]])や[[強襲揚陸艦]]([[タラワ級強襲揚陸艦|タラワ級]]、[[ワスプ級強襲揚陸艦|ワスプ級]])、[[ひゅうが型護衛艦|ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦]]と同じ滑り止め材(MS-440G)が施されている<ref>{{Cite journal|和書|journal=Jウィング|year=2009|month=7|page=57|publisher=[[イカロス出版]]}}</ref>。前甲板の車両用エレベータ(力量20トン)は、H-60系ヘリコプターの揚降に対応しており、第4甲板の車両甲板を[[格納庫|航空機格納庫]]として転用することができる{{Sfn|佐々木|2012}}。この場合、ローターブレードを全て取り外す必要があるため、エレベータでの揚降状態と飛行可能状態との間の転換には相当の時間を要する。[[2004年]]に3番艦「くにさき」が[[スマトラ島沖地震 (2004年)|スマトラ沖地震]]被災地への[[人道援助]]活動のため、3番艦「くにさき」が陸上自衛隊のヘリコプター5機を搭載し派遣された際は、[[UH-60J (航空機)|UH-60JA]]はブレードをはずして第4甲板の車両甲板に収容されたものの、[[CH-47 (航空機)|CH-47JA]]は防錆シート等で梱包されて上甲板に搭載された。また、航空機整備能力持たないため、UH-60JAの整備は[[しらね型護衛艦|しらね型ヘリコプター搭載護衛艦]]「[[くらま (護衛艦)|くらま]]」で行い、陸上自衛隊のCH-47については、派遣期間中、点検以外の整備はできなかった。
 
1番艦「おおすみ」には、外洋航海やヘリ離着艦時の安定性を向上させる[[フィンスタビライザー]](横揺れ防止装置)が、政治的判断から装備されず、2番艦からの装備となった。後に、平成18年度防衛庁予算において、国際緊急援助活動に対応するための大型輸送艦の改修費としてスタビライザー取り付け改修費用が予算化され、同時に航空燃料の容量も増大される。就役当初にはなかった[[戦術航法装置|戦術航法システム(TACAN)]]も搭載された。
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「しもきた」は[[テロ対策特別措置法]]に基づき、[[タイ王国陸軍]]工兵部隊と[[建設機械|建設用重機]]を[[アフガニスタン]]近縁の[[インド洋]]沿岸へ輸送しており、「くにさき」も、2004年末に発生した[[スマトラ島沖地震 (2004年)|スマトラ沖地震]]被災地への[[人道援助]]活動の為、[[国際緊急援助隊の派遣に関する法律|国際緊急援助隊派遣法]]に基づき護衛艦「くらま」、[[補給艦]]「[[ときわ (補給艦)|ときわ]]」とともに派遣された。援助物資のほか、[[CH-47 (航空機)|CH-47JA]] 3機、[[UH-60J (航空機)#UH-60JA 多用途ヘリコプター|UH-60JA]] 2機を輸送し、海上基地としても利用された。
 
[[2011年]]の[[東日本大震災]]に対する災害派遣においても、その輸送・揚陸能力を活かして出動している。艦が直接接岸しての物資陸揚げのほか、港湾施設が使用不能となった地域ではLCACによる揚陸も行われた。また車両甲板に[[入浴]]設備を設置しての入浴支援や健康調査など、多彩な支援活動が行われた<ref>{{Cite web|和書|author=チャンネルNippon|url=http://www.jpsn.org/interview/sdf/254/|title=東日本大震災出動指揮官インタビュー(3) - 「“海上からの救援”― 出来る範囲で創意工夫を」|accessdate=2013-09-02}}</ref>。
 
[[2024年]]に発生した[[能登半島地震 (2024年)|能登半島地震]]においては、[[能登半島地震 (2024年)#地殻変動|海底の隆起]]によりほぼ全ての港に船舶が接岸不可能となったため、本機のLCACによるビーチング機能を活用して港湾機能や道路などの復旧作業用に土木機械を上陸させた
<ref>{{Cite press release
| title = 令和6年能登半島地震に係る災害派遣
| publisher = [[防衛省]][[統合幕僚監部]]
| date = 2024-01-01
| url = https://www.mod.go.jp/js/activity/domestic/2024notohantou.html
| accessdate = 2024-04-30
}}</ref>。
 
== 同型艦 ==