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『正史実伝いろは文庫』では仲垣玄蔵(史実の赤埴源蔵)は浪人により困窮しているにもかかわらず、兄の芝多伊左衛門から貰った衣類を酒代に変えてしまうような男で、伊左衛門の内儀や下女からは嫌われていた。討ち入り前日、仲垣は酒気を帯びて兄の家を訪ねるも、兄は外出しており兄の妻も癪気だとして会わない。そこで仲垣は兄への土産の徳利を下女に差出し、「西国に仕官が叶って暇乞いにきた。今後死ぬことがあっても恩は忘れない」という伝言を泣きながら言って帰った。翌日、兄・伊左衛門の使いの者が討ち入りから引き上げる仲垣と会い、形見の品を受け取る。仲垣の徳利は伊左衛門の家の家宝になった。
[[ファイル:Iroha-bunko_nakagaki-genzou.png|サムネイル|『正史実伝いろは文庫』第十五回垣玄蔵の挿絵<ref>{{Cite web|title=『正史実伝いろは文庫』第十五回|website=国立国会図書館デジタルコレクション|url=https://dl.ndl.go.jp/pid/877754/1/60|access-date=2025-09-18}}</ref><ref group="注">挿絵では「中がき源蔵」となっているが、本文中では「仲垣玄蔵」</ref>]]
吉田弥生は上述の『正史実伝いろは文庫』の記述や明治期の講釈の速記を本作と比べる事で本作における黙阿弥のオリジナルな部分を推測している<ref name=":3">[[仮名手本硯高島#吉田(2004)|吉田(2004)]] p175-180</ref>。まず黙阿弥は中垣が兄の家に入るとき足の泥を畳にこすり付ける場面を付け加えることで、中垣の無粋でこだわらない性格を演出した<ref name=":3" />。また講釈では仲垣は討ち入り前日に兄の家を訪れていたが、黙阿弥はこれを討ち入り当日に変更する事で緊迫感を演出している。講釈では仲垣は周囲からよく評価されていないのに対し、本作の中垣は義姉からあたたかく迎え入れられるという独自の脚色が施されている<ref name=":3" />。この変更により、中垣があたたかく迎えられる場所を断ち切って忠義のために命を捨てる事を演出している。またこれにより黙阿弥が創造した人物・与之助を兄に見立てて中垣が酒を飲む行為に意味を持たせている<ref name=":3" />。さらに元服曽我の「人は一代、名は末代」という謡いを入れる事で、討ち入りを控えた中垣の心情をわかりやすく表現した<ref name=":3" />。