「カール・マルクス」の版間の差分
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マルクスの最大の功績は、ドイツで成立したヘーゲル哲学、殊にその論理学の核をなしていた弁証法と、イギリスに展開したデイヴィッド・リカードゥを筆頭とする古典派経済学の諸成果、そして何よりもヨーロッパにおける産業と商業の興隆を背景として成熟しつつあった唯物論と近代科学という、当時人類最良の知的財産を最大限かつ批判的に活用し
一方で、マルクスといえば社会主義、共産主義というイメージも根強いが、社会主義、共産主義という思潮は、フランス革命以降のヨーロッパ全体の経済興隆の中で生まれたものであったが、その思想的基盤は、社会の現状に対する不満、矛盾への怒り、そして、フランス革命に起源を持つ人間理性による理想社会の実現への傾倒であり、マルクスの登場以前から時代的思潮としてヨーロッパに広く存在したものである。マルクスは、当時の社会の矛盾の解決を目指すという点で従来の社会主義、共産主義の思潮の流れを継承したといえる一方、彼自身の旺盛な科学的探究心を以って当時最先端の科学の到達を積極的に吸収し、社会の現状の告発、矛盾の解決についての理想主義的な解決の提示にとどまった先行者たちに対して、現実的な、政策的な、系統的・体系的な解決の処方箋を提示したという点で、彼は従来の社会主義、共産主義の思潮とは決定的に異なる思想を展開したといえる。彼自身は、このような自らの思想の形成の歴史的意義、その発展過程の本質を、社会主義の思想的基盤を空想から科学に置き換える歴史的事業であると捉えているが、この自己認識はすでに彼自身が思想的巨人であることを示している。
マルクスが、社会主義の思想的基盤を空想から科学に置き換える歴史的事業を推進する上で最も重視したことは、社会の現状の分析とそれに基づく歴史認識の再構成であったが、その成果は彼の主著『資本論』に結実している。この著作の最大の成果は、従来の社会主義、共産主義の思潮が発生する社会的原因ともなった社会の諸矛盾の発生のメカニズムを、現状の分析と総合という方法で一貫して理論展開し、同時代の人々が「市民社会」「ブルジョア社会」と呼びならわしていた現代社会を根底において規定しているものとして「資本」を概念規定するとともに、資本に基づく現代の経済を資本主義的生産様式と定義づけ、「資本主義」概念を確立したことである。歴史認識を再構成する上で、従来の思想家のように様々な推測、推論、空想などに依存せず、終始一貫して分析と総合という認識方法を貫徹している点で、マルクスの思想は科学的な社会思想または科学的な歴史観ということができ、この点が思想的基盤を空想から科学に置き換えるという思想的作業の核心である。
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