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+ 日本の窮奇と中国の窮奇の関連、高知の魔風「鞭」
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人を切る魔風は、[[中部地方|中部]]・[[近畿地方]]やその他の地方にも伝えられる。特に雪国地方にこの言い伝えが多く、旋風そのものを「かまいたち」と呼ぶ地方もある。寒風の吹く折などに、転んで足に切り傷のような傷を受けるものをこの怪とする。信越地方では、かまいたちは悪神の仕業であるといい、[[暦]]を踏むとこの災いに会うという俗信がある。[[越後七不思議]]の一つにも数えられる。[[東北地方]]ではかまいたちによる傷を負った際には、古い暦を黒焼きにして傷口につけると治るともいわれた<ref name="youkaijiten">{{Cite book|和書|author=[[村上健司]]編著|title=妖怪事典|year=2000|publisher=[[毎日新聞社]]|isbn=978-4-09-404702-8|pages=115頁}}</ref>。[[飛騨国|飛騨]]の[[丹生川]]流域では、この悪神は3人連れで、最初の神が人を倒し、次の神が刃物で切り、三番目の神が薬をつけていくため出血がなく、また痛まないのを特色とするのだと伝えられる。この三神は親子、兄弟のイタチであると考える地方もある。[[奈良県]]吉野郡地方でも、人の目に見えないかまいたちに噛まれると、転倒し、血も出ないのに肉が大きく口を開くという。
 
[[愛知県]]東部では[[管狐|飯綱]]とも呼ばれ、かつて飯綱使いが弟子に飯綱の封じ方を教えなかったため、逃げた飯綱が生き血を吸うために旋風に乗って人を襲うのだという<ref name="youkaijiten"/>。かまいたちによる傷で出血がないのは、血を吸われたためともいう<ref name="gensousekai">{{Cite book|和書|author=[[多田克己]]|title=幻想世界の住人たち IV 日本編|year=1990|publisher=[[新紀元社]]|series=Truth in fantasy|isbn=978-4-915146-44-2|pages=212-213頁}}</ref>。また[[北陸地方]]の奇談集『北越奇談』では、かまいたちは鬼神の刃に触れたためにできる傷とされている<ref name="youkaijiten"/>。[[高知県]]や[[徳島県]]山間部など[[西日本]]では、これらの怪異に遭うことを「野鎌(のがま)に切られる」といい、草切り鎌が野原に置き忘れられた末に妖怪化したものの仕業といい<ref name="zukan">{{Cite book|和書|author=[[京極夏彦]]・多田克己編著|title=妖怪図巻|year=2000|publisher=[[国書刊行会]]|isbn=978-4-336-04187-6|pages=181-182頁}}</ref>、鎌の[[怨霊]]が変じた[[付喪神]](器物が化けた妖怪)ともいわれる<ref name="shokoku" />。[[徳島県]][[祖谷渓|祖谷地方]]では、葬式の穴堀などに使った鎌や[[鍬]]は墓場に7日間置いてから持って帰らないと野鎌に化けるといい、野鎌に遭った際には「仏の左の下のおみあしの下の、くろたけの刈り株なり、痛うはなかれ、はやくろうたが、生え来さる」と呪文を唱えるという<ref>{{Cite book|和書|title=妖怪事典|pages=263頁}}</ref>。[[東日本]]では[[カマキリ]]や[[カミキリムシ]]の[[亡霊]]の仕業ともいわれた<ref name="kyoka">{{Cite book|和書|author=京極夏彦・多田克己編著|title=妖怪画本 狂歌百物語|edition=|year=2008|publisher=国書刊行会|isbn=978-4-3360-5055-7|pages=294頁}}</ref>。[[西国]]ではかまいたちを風鎌(かざかま)といって人の肌を削ぐものだといい、削がれたばかりのときには痛みがないが、しばらくしてから耐え難い痛みと出血を生じ、古い暦を懐に入れるとこれを防ぐことができるという<ref name="obake">{{Cite book|和書|author=千葉幹夫|title=妖怪お化け雑学事典|year=1991|publisher=[[講談社]]|isbn=978-4-06-205172-9|pages=52-53頁}}</ref>。[[江戸時代]]の尾張藩士・[[三好想山]]の随筆『想山著聞奇集』によれば、かまいたちでできた傷は最初は痛みも出血もないが、後に激痛と大出血を生じ、傷口から骨が見えることもあり、死に至る危険性すらあるという<ref name="youkaijiten">{{Cite book|和書|author=[[村上健司]]編著|title=妖怪事典|year=2000|publisher=[[毎日新聞社]]|isbn=978-4-09-404702-8|pages=114-115頁}}</ref>。この傷は下半身に負うことが多いため、かまいたちは1尺(約30センチメートル)ほどしか飛び上がれないとの記述もある<ref name="youkaijiten" />。また同じく三好想山によれば、かまいたちは雨上がりの水溜りに住んでいるもので、水溜りで遊んでいる者や川を渡っているものがかまいたちに遭ったという<ref name="obake" />。また野外ではなく屋内での体験談もあり、江戸の[[四谷]]で便所で用を足そうとした女性や、[[牛込]]で下駄を履こうとしていた男性がかまいたちに遭った話もある<ref name="obake" />。[[青梅市|青梅]]では、ある女が恋人を別の女に奪われ、怨みをこめて自分の髪を切ったところ、その髪がかまいたちとなって恋敵の首をばっさり切り落としたという話がある<ref>{{Cite book|和書|author=[[山口敏太郎]]|title=江戸武蔵野妖怪図鑑|year=2002|publisher=けやき出版|isbn=978-4-87751-168-5|pages=81頁}}</ref>。このように各地に伝承されるかまいたちは、現象自体は同じだが、その正体についての説明は一様ではない<ref name="youkaijiten"/>。
 
江戸期の『[[古今百物語評判]]』によれば「都がたの人または名字なる侍にはこの災ひなく候。」とある。鎌鼬にあったなら、これに慣れた薬師がいるので薬を求めて塗れば治り、死ぬことはない。北は陰で寒いので物を弱らす。北国は寒いので粛殺の気が集まり風は激しく気は冷たい。それを借りて山谷の魑魅がなす仕業と言われている。都の人などがこの傷を受けないのは邪気は正気に勝てぬと言う道理にかなったことだと言う。
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=== その他 ===
[[武蔵国|武蔵]]地方・[[神奈川県]]で「'''鎌風'''(カマカゼ)」、[[静岡県]]で「'''アクゼンカゼ'''」と呼ばれる。また、性質を異にするが、「'''堤馬風'''(ダイバカゼ)」と呼ばれる、人間を殺傷する魔風の伝承が存在する地方もある。[[山口県]]豊浦郡でいう「'''ヤマミサキ'''」は、深山に出る怪で、人の生首の形をして落ち葉の上を車のように飛んだりする魔風である。人がその風に会うと大熱を起こすと言われ、[[萩市]]相島では、その正体は死後に行き場のない、風になってさまよっている亡霊であるという。また崖で死んだ人や難破者は、死後8日目までヤマミサキになるという。高知の[[幡多郡]]昭和村(現・[[四万十町]])ではこのヤマミサキを「'''リョウゲ'''」と呼び<ref>{{Cite book|和書|title=妖怪事典|pages=353頁}}</ref>、不慮の事故にあって死んだ者の霊とされ、これに行きあうことをリョウゲ憑きと呼んでいる<ref>『妖怪事典』{{Cite 353頁。</ref><ref>『book|和書|title=妖怪事典|pages=364-365頁}}</ref>。[[奄美大島]]では、[[盆]]近くに墓道などで、生温かい風が掠めて悪寒がし、家に帰って着物を脱いでみると、身体のどこかに斑紋が出来ていることがあるという。間もなく高熱が出て、[[ユタ]]に祓いをしてもらわなければならないとされる。[[高知県]][[高岡郡]]黒岩村(現・[[越知町]])では前述の野鎌に類する魔風を「'''ムチ'''(鞭)」というが<ref>{{Cite book|和書|author=民俗学研究所編|title=綜合日本民俗語彙|edition=改訂版|year=1977|publisher=[[平凡社]]|volume=第4巻|pages=1561頁}}</ref>、これは[[鞭]]を振り回すような風が田の上に吹くことをいい、これにあたると病気になるという<ref name="murakami327">{{Cite book|和書|title=妖怪事典|pages=327頁}}</ref>。[[土佐郡]][[土佐山村]](現・[[高知市]])では、ムチは夜道を行く者の連れている牛馬を取り殺すといい、牛馬に目隠しをしてこれを防ぐという<ref name="murakami327" />
 
== 中国の窮奇(きゅうき) ==
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前足の付け根に[[翼]]を持った[[トラ]]の姿をしており、空を飛ぶ。ひねくれた性格をしており、人が喧嘩していると正しいことを言っている方を食べ、悪人がいると獣を捕まえてその者に贈るという。[[山海経]]の「海内北経」では人食いの翼をもったトラと説明しているが、「西山経」四の巻では、[[ハリネズミ]]の毛が生えた[[ウシ|牛]]と説明している。
 
思想書『[[淮南子]]』では、「窮奇は広莫風(こうばくふう)を吹き起こす」とあり、[[風神]]の一種とみなされたことや、かつての日本の知識人が、中国にいるものは日本にもいると考えられたことから、中国の窮奇と日本の窮奇が同一視されたと考えられている<ref name="zukan" />。
 
== かまいたちの登場する作品 ==
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*[[中国の妖怪一覧]]
*[[四凶]]
 
{{四神}}
 
== 外部リンク ==
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*[http://www.nichibun.ac.jp/youkaidb/ikai/report.html#e084 異界の杜 カマイタチ存疑]
*[http://www.nacsj.or.jp/shippo/rdb/rdb03.html RDB妖怪版・かまいたち(鎌鼬、窮奇、構太刀)]
 
{{四神}}
 
{{DEFAULTSORT:かまいたち}}