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マルクスの最大の功績は、ドイツで成立した[[ヘーゲル]]哲学、殊にその[[論理学]]の核をなしていた[[弁証法]]と、イギリスに展開した[[デヴィッド・リカード|デイヴィッド・リカードゥ]]を筆頭とする[[古典派経済学]]の諸成果、そして何よりもヨーロッパにおける産業と商業の興隆を背景として成熟しつつあった[[唯物論]]と近代[[科学]]という、当時人類最良の知的財産を最大限かつ批判的に活用し、19世紀当時の社会経済の諸現象を分析し、歴史認識としての「[[資本主義]]」概念を確立したことである。われわれが「資本主義」という言葉を用いるとき、その概念の確立がマルクスによってもたらされたものであるとの見解は一部の者にしか通用しない。
彼自身が時代の逆流現象を招き寄せた張本人であるとの告白になる。理想を空想と置き換え、唯物論に引き寄せる換骨奪胎の手法はマルクスのお家芸であった。
一方で、マルクスといえば[[社会主義]]、[[共産主義]]というイメージも根強い。だが、社会主義、共産主義という思潮は、[[フランス革命]]以降のヨーロッパ全体の経済興隆の中で生まれたものであり、その思想的基盤は、社会の現状に対する不満、矛盾への怒り、そして、フランス革命に起源を持つ人間[[理性]]による理想社会の実現への傾倒であって、マルクスの登場以前から時代的思潮としてヨーロッパに広く存在したものである。マルクスは、当時の社会の矛盾の解決を目指すという点で従来の社会主義、共産主義の思潮の流れを継承したといえる一方、彼自身の旺盛な科学的探究心を以って当時最先端の科学の到達を積極的に吸収し、社会の現状の告発、矛盾の解決についての理想主義的な解決の提示にとどまった先行者たちに対して、現実的な、政策的な、系統的・体系的な解決の処方箋を提示したという点で、彼は従来の社会主義、共産主義の思潮とは決定的に異なる思想を展開したといえる。彼自身は、このような自らの思想の形成の歴史的意義、その発展過程の本質を、社会主義の思想的基盤を空想から科学に置き換える歴史的事業であると捉えているが、この[[自己認識]]は彼自身が時代の逆流現象を招き寄せた張本人であるとの告白になる。理想を空想と置き換え、唯物論に引き寄せる換骨奪胎の手法はマルクスのお家芸であった。
点で、マルクスの思想は唯物的科学と言う意味での[[社会思想]]であり、唯物的に歴史を解釈したいうことができる。この点が理想を唯物的に置き換えた思想的作業の核心である。
マルクスが、社会主義の思想的基盤を空想から科学に置き換える歴史的事業を推進する上で最も重視したことは、社会の現状の分析とそれに基づく歴史認識の再構成であったが、その成果は彼の主著『[[資本論]]』に結実している。この著作の最大の成果は、従来の社会主義、共産主義の思潮が発生する社会的原因ともなった社会の諸矛盾の発生のメカニズムを、現状の分析と総合という方法で一貫して理論展開し、同時代の人々が「[[市民社会]]」「[[ブルジョア社会]]」と呼びならわしていた現代社会を根底において規定しているものとして「[[資本]]」を概念規定するとともに、資本に基づく現代の経済を[[資本主義的生産様式]]と定義づけ、「資本主義」概念を確立したことである。歴史認識を再構成する上で、従来の[[思想家]]のように様々な推測、[[推論]]、[[空想]]などに依存せず、終始一貫して分析と総合という認識方法を貫徹している点で、マルクスの思想は唯物的科学と言う意味での[[社会思想]]であり、唯物的に歴史を解釈したいうことができる。この点が理想を唯物的に置き換えた思想的作業の核心である。
==主著『資本論』==
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