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『'''蒼茫の大地、滅ぶ'''』(そうぼう-だいち、ほろ-)は、[[日本]]の[[小説家]][[西村寿行]]が著した長編パニック・[[サスペンス]]小説である。[[田辺節雄]]により[[漫画]]化もされている。
 
== 概要 ==
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飛蝗群は[[岩手県]]へと南下し始める。さらに[[盛岡市]]内に東京からの[[暴走族]]グループが侵入して[[強姦|婦女暴行]]の限りを尽くし、市民も食糧を強奪し始めパニックが広がり、守備隊がかろうじて押さえ込む。8月には青森県内の金融機関は閉鎖され、[[北上市]]などでは金融機関の焼き討ちが起きて、まだ蝗害を免れている[[秋田県]]から[[新潟県]]にまで[[取り付け騒ぎ]]が広がり、[[インフレーション|インフレ]]の恐れも出てくる。政府は野上の[[暗殺]]を図って刺客を送り込むも、守備隊に妨害され失敗。[[衆議院]]の地方[[行政委員会]]では、東北選出の与党[[国会議員|議員]]が東北六県知事会への非常時[[大権]]の付与を訴えたが、そのさなかに野上は委員会に喚問される。彼は個人の[[人権|基本的人権]]と同様に地方の自治体の[[自治権]]を国が奪うことはできないと語り、[[国税]]の政策によって[[地方交付税|国庫補助金]]に頼らざるを得ない地方自治体の財源の問題を指摘する。
 
飛蝗禍は[[宮城県]]、[[福島県]]へ南下していき、望みの綱であった秋田県、[[山形県]]の穀倉地帯にもついに群れが向かい始めた。野菜は全滅し、食料品を強奪する[[暴動]]が起こる。失業者が増加し、女性の身柄が買われ彼女と共に家を捨てて去る一家が少なくない。強盗団が暗躍し放火が繰り返される。恐慌が関東にも広がり、9月には株価が大暴落して[[証券取引所]]も閉鎖される。さらに[[円 (通貨)|円]]の価値も下がっていった。[[閣議]]において政府が決定したのは、被災地にわずか6,000億円の救済費を割り当てることと、[[公共投資]]によって日本経済を立て直すということであった。9月末には飛蝗は[[交尾]]をし[[卵|産卵]]のため一塊になって飛び立つが、風によって広がり、[[奥羽山脈]]を中心に広範囲に下りてしまう。それは卵塊を掘り出して殲滅するのが困難になったことを意味した。そのころには[[草本]]類は食い尽くされ、農地は真っ黒な[[糞]]で覆われていた。東北地方では食糧の入手が困難となり、[[飼料]]も買えず[[家畜]]を手放し、さらに[[失業]]や農業収入の途絶により生活に困窮し、多くの人々が郷里を捨てて東京などへ出て行く。
 
冬が過ぎ春になると、農作物が育ち始めた畑に飛蝗の幼虫が現れる。人々はこれらが成虫にならないうちにと殺し続けた。しかし5月には再び飛蝗が群れをなして飛び始める。6月には人々の間に[[暴動]]が広がる。救援物資を満載した列車が転覆し、人々が争って物資を強奪すると、国道が渋滞で戻ることもできないうちに飛蝗の大群が近づき人間を襲って物資を食べ尽くす。ついには東北地方から60万以上の人々が難民となって徒歩で東京へ避難し始めるが、途中の[[栃木県]]等で女性達は[[売春]]をして家族の食糧や現金を得、男達は地元の女性を強姦する。難民による掠奪も起こり、栃木県と[[埼玉県]]は県内への宿泊も滞在も拒否する声明を出す。さらに[[茨城県]]、[[群馬県]]、そして目的地の東京都も難民受け入れを拒否した。6月下旬にはすでに都内にいる60万の難民が暴動を起こし始める。[[荒川 (関東)|荒川]]の[[新荒川大橋]]付近では、都内に入り込もうとする難民が機動隊と衝突する。
 
6月25日、野上は5県知事と共に[[IBC岩手放送|岩手放送]]会館のスタジオに入る。野上がマイクを通して、東北を去った150万人の難民に、そして東北中の人々に語りかける。……[[戊辰戦争]]では[[奥羽越列藩同盟|奥羽越大同盟]]を結んで戦うも、農民の協力が得られず、敗れて中央政府の隷属となった東北諸[[藩]]。山林を[[日本の国有林|国有林]]にされ都会で低賃金で働かざるを得なくなった農民達。東北出身者は郷里で食えるからと[[解雇]]される差別。[[人身売買|身売り]]、娘売り。最上婆ァと呼ばれる子買い。[[満州国|満州]]への[[満蒙開拓移民|移民]]。やがて東北地方に工場が建てられ経済が成長した半面、[[稲作]]は[[減反政策|減反]]が命ぜられ酪農家は輸入飼料を買う。もう中央政府に幻想を抱いてはならない。我々は日本国から[[独立]]する。故郷に戻れば食糧を保証する。若者は最寄りの守備隊へ加わるように……。東京都の手前で足止めされていた難民がラジオでこれを聞き、北へ戻り始める。