「角運動量の合成」の版間の差分
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量子力学において'''角運動量の合成'''とは、別々の[[角運動量]]の[[固有状態]]から全角運動量の固有状態を作ること
例えば1つの粒子の場合、[[軌道角運動量]]と[[スピン角運動量]]との間には[[スピン軌道相互作用]]とよばれる相互作用が存在し、完全な物理的描像はスピン-軌道の合成を含まなければならない。
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==一般論==
[[角運動量保存の法則]]は、系に外力が働かない場合は系の全角運動量は一定の大きさと方向を持つというというものである。[[角運動量]]は以下の2つの場合、保存量(時間に依存しない量)となる。
どちらの場合でも角運動量演算子は系の[[ハミルトニアン]]と[[交換関係|交換]]する。[[不確定性原理]]より、これは角運動量とエネルギー(ハミルトニアンの固有値)が同時にある定まった値を持ちうることを意味する。
このような2つの場合は古典力学に由来している。3つめの保存する角運動量として、[[スピン]]と関連するような、古典力学では記述できないものがある。しかし、角運動量の合成はスピンにおいても適応できる。
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角運動量の合成の適用は、相互作用がなく角運動量が保存するような系どうしの間に相互作用があるような場合に有用である。系間の相互作用によって系の球対称性は壊されるが、全系の角運動量は保存量のままである。このことはシュレディンガー方程式を解くにあたって有用となる。
例として、ヘリウム原子内の1,2という電子を考える。もし電子-電子間相互作用が無く、電子-核相互作用のみがある場合、2つの電子は互いに独立に核のまわりを回転し、エネルギーは変わらない。つまり、演算子'''l'''(1)も'''l'''(2)も保存する。しかし電子間距離''d'' (1, 2)に依存する電子-電子相互作用が生まれると、2つの電子の同時で等しい回転だけが''d'' (1, 2)についての不変量を残す。そのような場合'''l'''(1) も '''l'''(2)も一般的には保存量ではなく、'''L''' = '''l'''(1) + '''l'''(2)が保存量となる。与えられた'''l'''(1) と '''l'''(2)の固有状態について、'''L'''(保存量)の固有状態を構築することを''電子1と2の角運動量の合成''と言う。
量子力学において、1つの量子系を記述する異なる[[ヒルベルト空間]]の角運動量でも合成することができる。例えば、[[スピン]]と[[軌道角運動量]]の合成などがある。
このことを少し言い方を変えると、それぞれの系を記述する[[量子状態]]の[[テンソル積]]から成る[[基底]]で、構成系(2つの水素原子や2つの電子のようなサブユニットからなるものなど)の量子状態を拡張したことになる。系の状態は、角運動量演算子(とその任意の''z'' 軸成分)の固有状態として選ばれていると仮定する。よって系は量子数''l'' , ''m'' の組によって正確に記述される([[角運動量]]を参照)。系の間に相互作用がある場合、全ハミルトニアンは系のみに作用する角運動量演算子とは交換しない項を含んでいる。しかし、それらの項は全角運動量演算子とは交換する。ハミルトニアン内の交換しない相互作用の項は、角運動量の合成を必要とするため、''角運動量カップリング項''と呼ぶことがある。
==スピンと軌道の合成==
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===LS結合===
軽い原子(一般的に''Z'' < 30)では、電子スピン'''s'''<sub>''i''</sub> は互いに相互作用しているので、結合して全スピン角運動量'''S'''を作る。同じことが軌道角運動量'''ℓ'''<sub>''i''</sub> でも起こり、全軌道角運動量'''L'''を作る。量子数'''L'''と'''S'''の間の相互作用は「'''[[ヘンリー・ノリス・ラッセル|ラッセル]]–サンダーズ結合'''」または「'''LS結合'''」と呼ばれる。この場合、'''S'''と'''L'''は結合して全角運動量'''J'''を作る。
:<math>\mathbf J = \mathbf L + \mathbf S, \, </math>
ここで
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===jj結合===
重い原子の場合、上記とは状況が異なる。原子核の電荷がより大きい原子では、スピン軌道相互作用がスピン-スピン相互作用や軌道-軌道相互作用と同程度かそれ以上に大きくなることがある。この場合、それぞれの軌道角運動量'''ℓ'''<sub>''i''</sub> は、対応する個々のスピン角運動量'''s'''<sub>''i''</sub> と結合し、個々の全角運動量'''j'''<sub>''i''</sub> を作る傾向がある。'''j'''<sub>''i''</sub> は足し合わされて全角運動量'''J'''を作る。
:<math>\mathbf J = \sum_i \mathbf j_i = \sum_i (\boldsymbol{\ell}_i + \mathbf{s}_i).</math>
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