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en:Plutonium 04:59, 1 July 2006より翻訳
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==特性==
人類の利用の観点で重要な同位体はPu-239(核兵器と原子炉燃料に適)およびPu-238(原子力電池に適)である。
 
同位体Pu-240は、Pu-239が中性子に照射されると発生するが、これは非常に容易に自発核分裂を起こす。
プルトニウムは金属状態では銀色だが、酸化された状態では黄褐色となる。金属プルトニウムは温度が上がると収縮する。また、低対称性構造を有するので、時間経過と共に次第に脆くなる。
Pu-240そのものはほとんど役に立たないが、核兵器で使用されるプルトニウム中での不純物として重大な役割を果たす。
 
Pu-240は自発核分裂により中性子をランダムに放出するので、ある希望の瞬間に正確に連鎖反応を始めることを難しくする。
アルファ粒子の放出による熱のため、ある程度の量のプルトニウムは触ると暖かい。大きい量では水を沸騰させることもできる。
こうしてその爆弾の信頼度および出力を減少させる。
 
水溶液中では5種類のイオン価数を有する:
 
* III価……Pu<sup>3+</sup>(青紫色)
* IV価……Pu<sup>4+</sup>(黄褐色)
* VI価……PuO<sub>2</sub><sup>2+</sup>。(ピンク、オレンジ色)
* V価……PuO<sub>2</sub><sup>+</sup>。(ピンク色と考えられている。V価のイオンは溶液中では不安定で、Pu<sup>4+</sup>とPuO<sub>2</sub><sup>+</sup>に[[不均化反応]]する。さらにそのPu<sup>4+</sup>はPuO<sub>2</sub><sup>+</sup>をPuO<sub>2</sub><sup>2+</sup>に酸化し、自身はPu<sup>3+</sup>になる。こうしてプルトニウムの水溶液は時間が経過するとPu<sup>3+</sup>とPuO<sub>2</sub><sup>2+</sup>の混合物に変化する傾向がある。)
* VII価……PuO<sub>5</sub><sup>2-</sup>(暗赤色)VII価のイオンは稀であり極端に酸化性雰囲気下でのみ生成する。
 
註:ここで示したプルトニウム溶液の色は、酸化状態のほか[[陰イオン]]にも依存する。陰イオンの種類によりプルトニウムの錯体形成の度合いが変わるため。
 
 
==利用==
 
同位体<sup>239</sup>Puは、核分裂の起きやすさと合成の容易さのため、現代の核兵器における主要な核分裂性物質である。
反射体のない球状プルトニウムの臨界量は16kgだが、中性子を反射するタンパーを用いると核兵器中のプルトニウムピットは10kg(直径10cmの球に相当)まで減らすことができる。
1kgのプルトニウムが完全に反応したとすると、20キロトンのTNT相当の爆発を生むことができる。
 
プルトニウムは放射線兵器の製造や(特に致命的ではないが)毒物としても利用されうる。
 
同位体<sup>238</sup>Puは半減期87年のアルファ放射体である。これらの特性により、人間の寿命程度のタイムスケールで直接保守することなく機能する必要がある機器の電力源に適している。そのため、宇宙探査機ガリレオやカッシーニの電源として同位体電池に持ちいられた。同様の技術が、アポロ月面探査計画における地震実験にも用いられた。
 
<sup>238</sup>Puは人工心臓の[[ペースメーカー]]の電源にも用いられ、手術を繰り返すリスクを避けるのに役立っていた。近年ではほとんどが誘導電流で充電可能な[[リチウム電池]]に置き換わってきているが、2003年時点では50から100個程度のプルトニウム電源のペースメーカーが患者に埋め込まれている。
(訳註:日本では放射性同位体の規制のためプルトニウム電源のペースメーカーは使用されていない)
 
Pu-239の中に1%の不純物としてPu-240が含まれると、ガンバレル型核兵器の中で分裂連鎖反応が受容しがたいほど早く始まり、その材料がほとんど核分裂しない間にその兵器をばらばらに吹き飛ばしてしまうだろう。
Pu-240の混入が避けられないことが、プルトニウム武器ではインプロージョン方式の設計にしなければならない理由である。
理論的には100%純粋なPu-239ならばガンバレル型装置を構築することができるかもしれないが、このレベルの純度は現実には達成し得ないほど困難である。
Pu-240の混入は兵器設計家にとってはメリットでもありデメリットでもあった。
混入問題のためにインプロージョン技術を開発する必要が生じ、マンハッタン・プロジェクトに遅れと障害をもたらした一方で、同じくその障害は現在では核拡散に対する障壁になったのである。
Pu-239の同位対比が約90%を越えるプルトニウムは兵器級プルトニウムと呼ばれ、一方、一般的な商用原子炉から得られたプルトニウムは少なくとも20%のPu-240を含んでおり、原子炉級プルトニウムと呼ばれる。
 
== 環境中のプルトニウム ==
 
大部分のプルトニウムは人工的に合成されるが、極めてわずかな痕跡量のプルトニウムがウラン鉱石中に自然に発生する。
これらは、<sup>238</sup>U原子核が中性子を捕獲して<sup>239</sup>になり、その後二回のベータ崩壊により<sup>239</sup>Puになる。
この過程は原子炉中でプルトニウムを生産するのと同様である。
 
<sup>244</sup>Puの痕跡が、超新星爆発から太陽系の誕生以来残っている。
この核種の半減期が相当に長い(8千万年)からである。
 
1972年に[[ガボン共和国]]オクロにある[[原子炉#オクロの天然原子炉|天然原子炉]]で比較的高濃度の天然プルトニウムが発見された。
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いったん高温で焼き締めた二酸化プルトニウムは硝酸にも難溶となるが、フッ酸を加えると溶ける。[8]
 
 
==化合物==
 
プルトニウムは酸素と容易に反応し、PuO、PuO<sub>2</sub>を産する。
また、その中間の酸化物も生成する。
また、ハロゲンとも反応し、PuX<sub>3</sub>の形の化合物を作る。
Xはフッ素、塩素、臭素またはよう素である。
PuF<sub>4</sub>およびPuF<sub>6</sub>も見られる。
PuOCl、PuOBrおよびPuOIのようなオキシハライドも見られる。
 
炭素と反応してPuC、窒素と反応してPuN、またケイ素と反応してPuSi<sub>2</sub>を形成する。
 
プルトニウムは他のアクチニド元素と同様、二酸化プルトニル(PuO<sub>2</sub>)を形成するが、
自然環境中では炭酸など酸素を含む[[錯イオン]](OH<sup>-</sup>、NO<sub>2</sub><sup>-</sup>、NO<sub>3</sub><sup>-</sup>およびSO<sub>4</sub><sup>2-</sup>)と電荷のある[[錯体]]を作る。
こうしてできた錯体は土との親和性が低く容易に移動する:
*PuO<sub>2</sub>(CO<sub>3</sub>)<sup>2-</sup>
*PuO<sub>2</sub>(CO<sub>3</sub>)<sub>2</sub><sup>4-</sup>
*PuO<sub>2</sub>(CO<sub>3</sub>)<sub>3</sub><sup>6-</sup>
 
強い硝酸酸性溶液を中和して作ったPuO<sub>2</sub>は、錯体にならないPuO<sub>2</sub>[[重合体]]を生成しやすい。
プルトニウムはまた価数が3、4、5、6価の間で変化しやすい。
ある溶液のなかでこれら全ての価数で平衡して存在することも珍しくない。
 
 
==同素体==
 
常圧下でもプルトニウムはさまざまな[[同素体]]を持つ。
これらの同素体は、結晶構造や密度が大きく異なる。
α相とδ相では密度は25%以上も違うのだ。
 
さまざまな同素体を持つということが、プルトニウムの機械加工を非常に難しいものにしている。
相が非常に容易に変わってしまうからである。
このような複雑な相変化をする理由は完全には解明されていない。
最近の研究では、相変化の精密なコンピュータモデルに着目している。
 
兵器への利用においては、相の安定性を増し作業性と取り扱いを容易にする狙いで、プルトニウムはしばしばほかの金属と合金にして用いられる。
例えば、δ相に数パーセントのガリウムを加えるなど。
核分裂兵器においては、プルトニウムのコアを爆縮するための爆発の衝撃波も相変化の原因になる。
このとき通常のδ相からより密度の高いα相に変化するので、超臨界を達成するのに大いに助けになる。
 
 
==同位体==
 
人類の利用の観点で重要な同位体はPu-239(核兵器と原子炉燃料に適)およびPu-238(原子力電池に適)である。
同位体Pu-240は、Pu-239が中性子に照射されると発生するが、これは非常に容易に自発核分裂を起こす。
Pu-240そのものはほとんど役に立たないが、核兵器で使用されるプルトニウム中での不純物として重大な役割を果たす。
Pu-240は自発核分裂により中性子をランダムに放出するので、ある希望の瞬間に正確に連鎖反応を始めることを難しくする。
こうしてその爆弾の信頼度および出力を減少させる。
 
Pu-239の中に1%の不純物としてPu-240が含まれると、ガンバレル型核兵器の中で分裂連鎖反応が受容しがたいほど早く始まり、その材料がほとんど核分裂しない間にその兵器をばらばらに吹き飛ばしてしまうだろう。
Pu-240の混入が避けられないことが、プルトニウム武器ではインプロージョン方式の設計にしなければならない理由である。
理論的には100%純粋なPu-239ならばガンバレル型装置を構築することができるかもしれないが、このレベルの純度は現実には達成し得ないほど困難である。
Pu-240の混入は兵器設計家にとってはメリットでもありデメリットでもあった。
混入問題のためにインプロージョン技術を開発する必要が生じ、マンハッタン・プロジェクトに遅れと障害をもたらした一方で、同じくその障害は現在では核拡散に対する障壁になったのである。
Pu-239の同位対比が約90%を越えるプルトニウムは兵器級プルトニウムと呼ばれ、一方、一般的な商用原子炉から得られたプルトニウムは少なくとも20%のPu-240を含んでおり、原子炉級プルトニウムと呼ばれる。
 
 
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化学毒性が現れるであろう量よりも少ない量でも放射線のために死亡すると予想されるため、化学毒性だけを取り出した評価は無い。
化学毒性については、ウランと同様に[[腎臓]]への障害が予想され、その大きさは鉛と同程度と推定される。
(鉛はプルトニウムよりも人類に馴染みのある元素だが相当に有害な物質でもある。詳しくは[[鉛]]または[[四アルキエチル鉛]]を見よ。)
また、[[ランタニド元素]]とアクチニド元素の同じ順番にある元素は互いに似ている傾向があることから、プルトニウムはランタニドで同じ順番にあるサマリウムと似ていると考えられている。
 
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== 規制 ==
 
日本では、プルトニウムの全ての同位体は ''[[核燃料物質核原料物質及び原子炉の規制に関する法律]]'' で、その保管、取り扱いを厳しく規制されているとともに、 ''[[外国為替法]]'' の中で国際規制物資として輸出入が規制されている。
 
=== 保障措置と核物質防護 ===
 
== 歴史 ==
[[1940年]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の化学者[[シーボーグ]]によって発見された。原子番号92の[[ウラン]]、93の[[ネプツニウム]]がそれぞれ[[太陽系]]の[[惑星]]の[[天王星]]、[[海王星]]にちなんで命名されていたため、これに倣って当時海王星の次の惑星と考えられていた[[冥王星]] (Pluto)から命名された。
 
最初はウォルター・ラッセルによって存在が予想されていたが、ウラン-238に中性子を照射してプルトニウムとネプツニウムを合成することは、1940年に二つのチームが互いに独立に予想した:カリフォルニア大学バークレー放射線研究所のエドウィン・M・マクミランとフィリップ・アベルソン、そしてケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のノーマン・フェザーとイーゴン・ブレッチャーだった。偶然にも、両チームともが、外惑星の並びに似せて、ウランに続く同じ名前を提案していた。
プルトニウムは発見のわずか5年後、[[第二次世界大戦]]末の[[1945年]]、[[原子爆弾]]として[[長崎市]]に投下された。
 
最初に合成・分離したのは1941年2月23日、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の化学者[[シーボーグ|グレン・T・シーボーグ]]博士、エドウィン・M・マクミラン、J・W・ケネディー、およびA・C・ワールで、バークレーの60インチ[[サイクロトロン]]を使ってウランに[[重水素]]を衝突させる方法による。
この発見は戦時下だったため秘匿された。
原子番号92の[[ウラン]]、93の[[ネプツニウム]]がそれぞれ[[太陽系]]の[[惑星]]の[[天王星]]、[[海王星]]にちなんで命名されていたため、これに倣って当時海王星の次の惑星と考えられていた[[冥王星]] (Pluto)から命名された。
シーボーグは冗談で元素記号にPuの文字を選んだが、特に問題にならずに周期表に採用された。
[[マンハッタン計画]]で、最初のプルトニウム生産炉が[[オークリッジ]]に建設された。後にプルトニウム生産のための大型の炉がワシントン州[[ハンフォード]]に建造されたが、このプルトニウムは最初の原子爆弾に使用され、ニューメキシコ州ホワイトサンドのトリニティー実験場で核実験に使われた。
また、ここのプルトニウムがプルトニウムの発見からわずか5年後、[[第二次世界大戦]]末の[[1945年]]、[[原子爆弾]]として[[長崎市]]に投下された。
 
[[冷戦]]時代を通じて、ソビエト連邦とアメリカ合衆国の双方で厖大な量のプルトニウムの備蓄が蓄積された。
1982年までに推定30万キログラムのプルトニウムが蓄積していた。
冷戦の終了とともに、こうしたプルトニウムの備蓄が、核拡散の恐れの焦点となった。
2002年にアメリカ合衆国エネルギー省は、同国防省から34メートルトンの余剰の兵器級プルトニウムの所有権を譲り受けた。
2003年初頭の時点で、合衆国内にあるいくつかの原子力発電所において、プルトニウムの在庫を焼却する手段として濃縮ウラン燃料からMOX燃料へ転換することを検討している。
 
プルトニウムが発見されてから数年の間、その生物学的・物理的特性はほとんど知られていなかった。
そこで、合衆国政府およびその代理として活動する私的組織によって一連の放射線人体実験が行われた。
第二次世界大戦の間から戦後に渡り、マンハッタン計画やその他の核兵器研究プロジェクト
に従事した科学者が、実験動物や人体へのプルトニウムの影響を調べる研究を行った。
人体に関しては、末期患者あるいは高齢や慢性病のため余命10年未満の入院患者に対し、(典型的には)5マイクログラムのプルトニウムを含む溶液を注射することにより実施された。
この注射は、こうした患者の[[インフォームドコンセント]]無しに行われた。
 
 
== 関連項目 ==