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{{short description|Condition of low level of magnesium in the body}}
{{Infobox medical condition (new)
| name = 低マグネシウム血症
| synonyms = マグネシウム欠乏症
| image = Mg-TableImage.svg
| caption = [[マグネシウム]]
| pronounce =
| field = [[腎臓内科]]
| symptoms = [[振戦]]、 [[意識障害]]、 [[痙攣]]、筋力低下、筋痙攣、振戦、[[テタニー]]
| complications = [[不整脈]]・[[心停止]] , [[低カルシウム血症]] , [[低カリウム血症]]
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| types =
| causes = [[アルコール依存症]], 摂取不足、腸管からの吸収不良・喪失, 尿への喪失、薬剤
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| diagnosis = 血中濃度 < 1.8 mg/dL
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'''低マグネシウム血症'''(ていマグネシウムけっしょう)とは、血中、ひいては体内のマグネシウム量の低下による[[電解質]]異常である。マグネシウムは、酵素活性維持、神経筋刺激伝導・収縮、骨形成など、生命の維持に重要な機能をもっている。低マグネシウム血症は、摂取不足、薬剤、等、さまざまな原因でおこり、特に入院患者では頻繁に見られる病態である。低カルシウム血症、低カリウム血症、低リン血症と合併することが多い。筋力低下、筋痙攣、振戦、テタニー、不整脈、血管収縮、などの症状が知られているが、低マグネシウム血症に特異的な症状はない。血清マグネシウム濃度はルーチンには測定されない場合も多く、見逃されやすいので注意を要する。
 
== マグネシウムの生体内機能 ==
[[マグネシウム]]は、体内では、[[ナトリウム]]、[[カリウム]]、[[カルシウム]]についで多い陽イオンであり<ref name="haneda"/>、細胞内のエネルギー産生、多数の酵素活性の維持([[アデノシン三リン酸]]の関与する酵素反応すべて、各種の[[キナーゼ]]に関わる反応)、神経筋興奮性、[[細胞膜]]の透過性、[[イオンチャンネル]]の制御、[[ミトコンドリア]]機能、細胞増殖、[[アポトーシス]]、免疫、などに関わる<ref name="pham">[https://doi.org/10.2147/IJNRD.S42054 Hypomagnesemia: a clinical perspective.] International Journal of Nephrology and Renovascular Disease 2014:7 p.219-230, {{doi|10.2147/IJNRD.S42054}}, PMID 24966690.</ref>。
細胞内のエネルギー産生、多数の酵素活性の維持([[アデノシン三リン酸]]の関与する酵素反応すべて、各種の[[キナーゼ]]に関わる反応)、神経筋興奮性、[[細胞膜]]の透過性、[[イオンチャンネル]]の制御、[[ミトコンドリア]]機能、細胞増殖、[[アポトーシス]]、免疫、などに関わる<ref name="pham">[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4062555/ Hypomagnesemia: a clinical perspective. International Journal of Nephrology and Renovascular Disease 2014:7 219–230.]</ref>。
 
なお、血中カルシウム濃度は、主に[[副甲状腺ホルモン]]で調節されているが、それに対応する、血中マグネシウム濃度を特異的に調節するホルモンは存在しない。
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== マグネシウムの生体内分布と存在様式 ==
体内のマグネシウムは、成人体内には20〜28 g- 28g 程度存在し、その大部分は骨に含まれ、骨が貯蔵臓器となっている<ref name="haneda"/>。
{|class="wikitable"
|-
!マグネシウムの存在部位
!比率<ref name="haneda">[https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/88/7/88_7_1201/_pdf 「マグネシウム代謝異常」. {{Cite journal|和書|author=羽根田俊, 長谷部直幸, 菊池健次郎 |title=診断の進め方 4.マグネシウム代謝異常 |journal=日本内科学会雑誌 |issn=00215384 |publisher=日本内科学会 |year=1999; |month=jul |volume=88( |issue=7): |pages=1201-1205 |naid=10005009066 |doi=10.]2169/naika.88.1201 |url=https://doi.org/10.2169/naika.88.1201}}</ref>
|-
!骨
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|}
 
マグネシウムはほとんどが骨と細胞内に存在し、血液を含む細胞外液には1%1%が存在するのみである。血清マグネシウム濃度は体内マグネシウム量を正確には反映しない。
 
血中のマグネシウムの存在形態は下記の通りである<ref name="haneda"/>。
* 約55%がイオン化マグネシウム(臨床的にはイオン化マグネシウムが重要であるが、日常の検査では測定できない)。
* 約14%が重炭酸・リン酸・クエン酸などと複合しているマグネシウム塩。
* 約30%が[[アルブミン]]と結合している。
 
血中のマグネシウムのうち、生理的に重要なのはイオン化マグネシウムであるが、通常は総マグネシウム濃度が測定される。
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== 診断 ==
低マグネシウム血症は、血中のマグネシウムが正常下限値未満の状態である。広く共用される基準範囲は確立されていないが、健常人血清マグネシウム下限は、1.8 mg/dL<ref name="isozaki">{{Cite journal|和書|author=磯崎泰介, 菱田明 |title=マグネシウム・微量元素の代謝異常 |journal=日本内科学会雑誌 |issn=00215384 |publisher=日本内科学会 |year=2006 |month=may |volume=95 |issue=5 |pages=846-852 |naid=10018198864 |doi=10.2169/naika.95.846 |url=https://doi.org/10.2169/naika.95.846}}</ref><ref name="ctcae">[http://www.jcog.jp/doctor/tool/JCOG_kyouyoukijunnchi-CTCAE_50.pdf 共用基準範囲対応CTCAE Grade定義(2019/3/2更新)]</ref>、ないしは、1.7 mg/dL<ref name="databook">「臨床検査データブック2021-2022」.医学書院. 高久史麿 監修. 2021年1月15日発行.ISBN 978-4-260-04287-1</ref><ref name="kon">「今日の臨床検査2021-2022」. 櫻林郁之介 監修. 南江堂 2021年5月. ISBN 978-4-524-22803-4.</ref>とされる。なお、小児と成人は大差ない。
低マグネシウム血症は、血中のマグネシウムが正常下限値未満の状態である。広く共用される基準範囲は確立されていないが、
健常人血清マグネシウム下限は、1.8 mg/dL<ref name="isozaki">[https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/5/95_5_846/_pdf 「マグネシウム・微量元素の代謝異常」. 日本内科学会雑誌 2006; 95(5):846-852.]</ref><ref name="ctcae">[http://www.jcog.jp/doctor/tool/JCOG_kyouyoukijunnchi-CTCAE_50.pdf 共用基準範囲対応CTCAE Grade定義(2019/3/2更新)]</ref>
、ないしは、1.7 mg/dL<ref name="databook">「臨床検査データブック2021-2022」.医学書院. 高久史麿 監修. 2021年1月15日発行.ISBN 978-4-260-04287-1</ref>
<ref name="kon">「今日の臨床検査2021-2022」. 櫻林郁之介 監修. 南江堂 2021年5月. ISBN 978-4-524-22803-4.</ref>とされる。なお、小児と成人は大差ない。
 
ただし、下限値を下回ってもただちに症状が出るわけではない。症状がでるのは 1.2 mg/dL以下である<ref name="pham"/>。
 
{|class="wikitable"
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|- valign="top"
|基準範囲下限は<br/>1.8 mg/dLとする
|<1 < 1.8-1.2 mg/dL
|<1 < 1.2-0.9 mg/dL
|<0 < 0.9-0.7 mg/dL
|<0 < 0.7 mg/dL<br/>生命を脅かす
|}
 
なお、マグネシウム濃度は、mg/dL以外の単位が使用されることがあり、換算式は下記である。
 
: マグネシウム(Mg)(Mg) 1.5 mEq/L = 0.75 mmol/L = 18 mg/L = 1.8 mg/dL
 
; 同時に行うべき検査
血中マグネシウム低値を認めたときは、病態を評価するために、血中カリウム、血中カルシウム、血中リン、クレアチニンを始めとする腎機能検査、血糖、心電図、などを検査する必要がある。
 
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血中のマグネシウム濃度そのものが測定されないことも多いが、下表ではかなり多い病態であると報告されている。
{|class="wikitable"
!colspan="2"|低マグネシウム血症の頻度<ref name="Gragossian">[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK500003/ Hypomagnesemia. Alin Gragossian; Khalid Bashir; Rotem Friede. 2021, StatPearls Publishing LLC.] Bookshelf ID: NBK500003 {{PMID|29763179}}</ref>
|-
!一般人口
128 ⟶ 124行目:
!神経・筋
|
* 人格変化、[[抑うつ]]、[[せん妄]]、[[失語症状]]、[[意識障害]]、[[痙攣]]、[[昏睡]]<ref>{{Cite journal|和書|author=橋詰直孝 |title=6.マグネシウム代謝異常 |journal=日本内科学会雑誌 |issn=00215384 |publisher=日本内科学会 |year=1997 |month=oct |volume=86 |issue=10 |pages=1857-1861 |naid=10005231181 |doi=10.2169/naika.86.1857 |url=https://doi.org/10.2169/naika.86.1857}}</ref>
* 筋力低下、[[振戦]]、垂直眼振
* [[テタニー]]、筋痙攣
* [[嚥下障害]]
* 発汗、顔面紅潮
|-
!心血管系
|
* 心電図異常(低カリウム血症の心電図異常と酷似)
* 上室性不整脈、心室性不整脈、[[トルサード・ド・ポワント]]
* [[心室頻拍]]
* [[心房細動]]
* [[ジギタリス]]に対する感受性の増加
 
; 慢性のマグネシウム欠乏の場合
* 糖代謝異常
* [[高血圧]]
* [[動脈硬化]]
* [[骨粗鬆症]]
* 冠動脈攣縮
* [[虚血性心疾患]]
* [[喘息]]
* [[偏頭痛]]
|-
! 電解質異常
|
* [[低カルシウム血症]]
** [[副甲状腺ホルモン]](PTH)分泌阻害、および、骨への副甲状腺ホルモン作用阻害のため
* [[低カリウム血症]](低マグネシウム血症の40 - 60%に合併)
** 腎 [[集合管]]からのカリウム排泄促進のため
|}
 
181 ⟶ 177行目:
|valign="top"|
 
* [[プロトンポンプ阻害薬]]の長期投与
* [[吸収不良症候群]]、小腸切除後、[[炎症性腸疾患]]
* 急性の下痢、慢性の下痢
* 腸内リン結合薬(アルミニウム、炭酸カルシウム)
 
|-
202 ⟶ 198行目:
|-
 
!  2次性の腎からのマグネシウム喪失
|valign="top"|
*薬剤
211 ⟶ 207行目:
 
*細胞外液量増大
* [[高カルシウム血症]]
* [[低リン血症]]
* 原発性[[副甲状腺機能亢進症]]
* 原発性[[アルドステロン]]症
 
|-
220 ⟶ 216行目:
!その他のマグネシウム喪失
|valign="top"|
* [[授乳]]によるマグネシウム喪失
* [[急性膵炎]]により、脂肪織にカルシウムやマグネシウム取り込み
|-
 
!細胞内や[[骨]]へのマグネシウム移行
|valign="top"|
* [[甲状腺機能亢進症]]
* [[リフィーディング症候群]]<ref group="※">リフィーディング症候群とは、低栄養状態の患者に急激な栄養投与を行うと、細胞内の代謝が亢進し、血中のリン・カリウム・マグネシウムが急速に細胞内に移動して[[低リン血症]]・[[低カリウム血症]]・低マグネシウム血症、等が生じるものである。</ref>
* [[ハングリーボーン症候群]]<ref group="※">[[副甲状腺機能亢進症]]の切除術後などで、骨が貪欲にカルシウムを吸収するため、[[低カルシウム血症]]が持続する病態をハングリーボーン症候群と呼ぶ。</ref>
 
 
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==治療==
無症状、ないし、緊急性がない場合は、経口的に[[酸化マグネシウム]]等の内服を行う。有意の症状がみられたり、経口摂取不可の場合は、経静脈的に[[硫酸マグネシウム]]を投与する<ref name="isozaki"/>
有意の症状がみられたり、経口摂取不可の場合は、経静脈的に[[硫酸マグネシウム]]を投与する<ref name="isozaki"/>。
 
なお、血中マグネシウムは治療によりすぐ改善するが、細胞内のマグネシウム欠乏が補正されるには時間がかかるため、血中レベル正常化後二日間は補充を続けることが推奨されている<ref name="pham"/>。
 
合併する他の電解質異常や、低マグネシウム血症の原因となった病態は確認し、必要ならに応じ治療する必要がある。
 
==予後==
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== 出典 ==
{{Reflist}}
<references />
 
== 関連項目 ==
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* [[マグネシウム]]
* [[臨床検査]]
* [[検査]]
 
 
 
{{DEFAULTSORT:ていまくねしうむけつしよう}}