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{{出典の明記|date=2013年3月21日 (木) 06:25 (UTC)}}
 
'''筆跡鑑定'''(ひっせきかんてい)とは、[[鑑定]]の一種で、複数の[[筆跡]]を比較し、それを書いた筆者が同一人であるか別人であるかを識別するものである。筆跡鑑定を行う人間を「筆跡鑑定人(ひっせきかんていにん)」と呼ぶ。筆跡の鑑定は、筆跡に現れる個人内の恒常性と希少性の存在を識別する事によって成立する。
 
==筆跡鑑定の根拠==
偽造文書の場合は犯人は他人の筆跡を真似ようとし、脅迫状などでは逆に自分の筆跡を悟られまいと「筆跡の偽装」を行がある。筆跡鑑定は筆跡分析でも筆跡学でもなく、[[言語学]]とも異なり、本人の筆跡そのままかごまかしがあるか、次にはっきりした書き癖があるかどうかを見る<ref>[[#ゲンジ2003|ゲンジ2003]]p.140-142。</ref>。
 
===筆跡の個性===
文字は、人が相互に意思を伝達するために定めた記号である。この文字を執筆する際には、起筆から終筆まで、筆記具による書字行動が不可欠となる。このとき、執筆者による運動軌跡が残されて筆跡が生じ書字行動による運動軌跡には執筆者固有の書き癖すなわち筆癖ひつへき)が残り、筆跡上の個性として現れる。この個性は文字のほか単語、文節、文、段落、文章の全般に影響を与えるため'''印象'''として知覚され一般的な解釈として見慣れた筆跡から執筆者を想像することなどが挙げられる。
 
===筆跡の恒常性===
人は文字習得期間から文字を教授した人物や保護者,学などのあらゆる影響を受けながら自身の筆跡の個性を育み個人差はあるものの成人するころより不変的な個性を持つ。同字をいつどこで執筆してもほとんど同じ筆跡になることを'''筆跡の恒常性'''と呼ぶ。
しかし筆跡は常に不変不動のものではない。記載時の客観的条件や心理状態によって、多少の変動は不可避的に生じるから、恒常性と言っても完全に不変不動と言うも恒常であるのではなく、その変動が一個人の筆跡として異同を比較検査した場合、許容の範囲内にあって無視得る程度のものであることを意味している。
また高齢化や疾病・負傷によりそれまで行われていた書字行動に変化が生じ恒常性を保てなくなることがあるため筆跡鑑定の根拠として恒常性を採用する際には比較対照する筆跡の執筆時期が近いことが条件となる。
 
逆に筆跡の変化がおかしい場合(ストレスがかかると筆跡が乱れるのは普通だが、2つの文章のうちストレスのかかる状況で書かれた方がきれいな文だったりするなど)、本来の筆跡が不明であっても偽造を疑われる場合もある<ref>[[#ゲンジ2003|ゲンジ2003]]p.148-149。</ref>。
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; 筆順
: 文字を書く際の順序については、文部科学省による筆順指導の手引によって一定の順序が定められている。しかし、実際には必ずしも手引きに従って万人が同じ筆順で書いているわけではないから、筆跡鑑定の観点では、筆順指導の通りか否かといった見方より比較対照する文字同士が同じ筆順であるか否かといった、文字ごとに固有の特徴を検査することになる。
 
; 点画の構成
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; 文字形態
: 個々の文字における点画の構成や、偏と旁などの構成部位の配置、濁点や半濁点の位置、縦横書式の違い、罫線や枠の有無など、同一条件下における書字行動の際の文字概観によって書き記した個性を発見することができる。
 
; 筆勢
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===目視による特徴点、指摘法(筆者の国語能力に着目するもの)===
文字の点画をつぶさに点検し特徴を指摘する方法で、いわゆる伝統的筆跡鑑定法と呼ばれるもの。鑑定人の勘と経験により、検体筆跡の中から類似や相違する部分を抽出し、その部分から鑑定結果を判断する。
 
===目視による特徴点、分類法(筆者の特徴・用字癖に着目するもの)===
個々の目立つ特徴点だけに捉われず、文章全体としての傾向や性質、特徴などを指摘する方法。伝統的筆跡鑑定法による鑑定人の個人的経験と勘による手法を排除した発展形態。「伝統的筆跡鑑定法」が文字形態の比較検査にて判断する方法に対して、人の書字行動の個性を検査し筆者識別を判断する方法。吉田公一氏の鑑定に代表される科学的解析法。
 
==筆跡鑑定人==
筆跡鑑定人は文字を比較対照して執筆者の異同を判断する者と筆跡を見て性格判断をする者が同じ「筆跡鑑定人」という名称を使用しているため煩雑な状況となっている。本項では前者を取り上げ記述する。
 
=== 筆跡鑑定人の実情 ===
 
: 民間で活動している筆跡鑑定人には公的資格はない。このため筆跡鑑定人は誰しもがいつからでも名乗ることができる。「筆跡鑑定」で検索を掛けると表示される「筆跡鑑定人」の内訳は警察の鑑識係退職者民間の研究者書道に精通した者探偵業者等が挙げられる。
 
==== 警察の鑑識係退職者 ====
 
: 個人または集団で活動し団体に加盟して研究を行う。公務として日々携わっていたため知識や経験は民間業者より必然的に多くなるという見方もあるが刑事事件において毎日のように筆跡鑑定が必要となることはなく誤解されやすい。むしろ民事事件における筆跡鑑定の需要を考慮した際'''経験・知識共に民間業者に及ばない'''と推測する方が現実的である。また'''伝統的筆跡鑑定法'''を主に用いており'''科学的解析法'''や'''数値解析法'''などを併用している業者は少なく実際の鑑定書では警察の鑑識係であったことを強調したり瑞宝章を受勲したことを明記する者テレビ出演を自慢したりする者など筆跡鑑定の本題とは無関係な記述でページ数を稼ぐ現状がある。「警察の鑑識出身」を前面に出す傾向があり自身も民間業者でありながら他の民間業者を低く見る者もいるが鑑定書の内容では民間業者に遠く及ばない者もいるので依頼の際には細心の注意が必要である。
 
==== 民間の研究者 ====
 
: 個人または団体に加盟して研究を行いその検証データなどを筆跡鑑定に応用している者。伝統的筆跡鑑定法や科学的解析法数値解析法など多岐にわたり行い専門分野を持つ。検証内容を機関誌に発表したりホームページ上で公開したりすることで公平性と透明性がある。内情を見ることができるため良心的であるとも言える。ただし営利目的で名ばかりの「研究所」もあるので利用には注意が必要となる。これらの業者はホームページに研究内容が掲載されていないか掲載されていても経験豊富な他所のコピペであるため'''鑑定実績や経験年数の多さまたは研究内容の範囲や考察の深さなどから業者の優劣を見分けることが重要となる。'''
 
==== 書道に精通した者 ====
 
: 書家から書道教室の主催者まで幅広く筆跡鑑定を主な業務とせず依頼があれば鑑定を行う。といった活動が主体。伝統的筆跡鑑定法を中心に行う。
 
==== 探偵業者 ====
 
: 本業が探偵や興信所の者。窓口として開業している者もおり専業ではないため具体的な記述や鑑定内容の公表はない。
 
=== 筆跡鑑定人の選び方 ===
 
: 公的資格の存在しない日本で信頼できる鑑定人を探すことは容易ではない。人生の重要事項を決定することに直結するため筆跡鑑定人を選ぶ際には以下の点を基に慎重に選択するべきである。
:# 裁判所から鑑定委嘱される鑑定人はその技量や知識が公に認められることを裏付けるものであり身元も確かであることから筆跡鑑定人を選ぶ際の第一条件とする。
:# 近隣の鑑定人の中から鑑定所で直接会うことができる鑑定人を選ぶ。'''重要情報を提供する'''という意識を持つことが重要である。
:# 遺言書の財産目録や借用書などを始め思想や宗教などいわゆる'''センシティブ情報も'''筆跡鑑定人にわたることになるため個人情報や企業情報を適切に管理できる者が鑑定人選定の前提となる。近年では個人情報保護士などの資格を持つ鑑定人もいる。ホームページを閲覧する際はプライバシーポリシーなどを事前に確認しておくとよい。
:# 営業年数の長い鑑定所は個人情報や企業情報の取扱に精通し情報漏えい事件などが起きていないことを裏付けるものでもあるため'''営業年数'''と'''依頼実績は'''選定材料の一として加えることができる。
:# 看板やホームページなどの「裁判で勝てる」等の宣伝文句を信用してはいけない。弁護士事務所が「裁判で勝てる」という表記をしないことから異常な表記であると知ることができる。
:# 近年筆跡鑑定「研究所」が乱立しているが実際には研究を行っていない鑑定所があるため,①、①どのような研究を行っているのか。②学会や研究会などで他の研究者に受け入れられているか。③その研究が鑑定に応用されているのか。④独自性の高い研究であるのか。等を確認する必要がある。
:# SEO操作で上位表示されてしまうためネット検索の掲載順位はあてにしない。そもそも筆跡鑑定人の技能や知識能力とは無関係である。
 
==筆跡鑑定に関する団体==
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** 警察関係研究者、民間企業研究者、大学研究者などにより活発な研究及び技術開発が行われている{{要出典|date=2012年10月}}
*[http://jhas.webcrow.jp/ 日本筆跡鑑定協会]
** 民間の鑑定人や研究者法務関係者などにより定期研鑽会が開催され鑑定用語や鑑定手法の構築に活発な議論が行われている。
 
==筆跡鑑定の科学的評価==
 
===米国法廷での科学鑑定の基準===
アメリカ米国の法廷では科学的に問題のある鑑定を判断させるという困難な課題を回避するために「フライ基準」が採用されてきた{{要出典|date=2012年10月}}。被告人フライの刑事裁判の上告審において、[[1923年]]に下された決定で、新規の科学的証拠が、実験レベルやデモンストレーションのレベルを脱して、信頼性のおける実用レベルになっているものであるか否かを判断する基準を定めたもの。その基準として、その特定の分野の科学者すべてから有効として認知された手法であることが必要であるとされた{{要出典|date=2012年10月}}。
 
このフライ基準が長らく科学的信頼性を判断する基準として用いられてきたが{{要出典|date=2012年10月}}、新しい科学的手法の場合には、いくら科学的に信頼性が高いと思われても認められない場合があることから、総合的に考える手法が探られ、新たに{{仮リンク|ドーバート基準|en|Daubert standard}}が採用される様になった{{要出典|date=2012年10月}}。「{{仮リンク|ドーバート対メレル・ダウ製薬|en|Daubert v. Merrell Dow Pharmaceuticals, Inc.}}」の上告審で、[[アメリカ合衆国連邦最高裁判所|アメリカの最高裁判所]]が1993年6月28日に下した判決には、科学的証拠の信頼性(受容性)を判断する新たな基準が提示されていた{{要出典|date=2012年10月}}。
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鑑定の信用性に対する疑問があれば、筆跡鑑定の結果が無効とされることもありうる。科学的筆跡鑑定法においても、比較対照するサンプルの範囲を鑑定人の主観によって選択している以上、その鑑定結果が客観的であるとは言い難いという問題がある。
 
東京高等裁判所は、鑑定人による鑑定結果を採用して遺言を無効と判断した一審判決を覆し、遺言書は有効と判断した<ref>平成14(し)18 再審請求棄却決定に対する異議申立棄却決定に対する特別抗告事件 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/850/057850_hanrei.pdf</ref>。その後の刑事訴訟においても、伝統的筆跡鑑定法を採用して科学的筆跡鑑定法を否定した判例がある<ref>東京高裁平成20年3月27日判決、東京高等裁判所判決時報刑事59巻1~12合併号22頁</ref>がある
 
==出典・脚注==