怒りの葡萄
『怒りの葡萄』(The Grapes of Wrath)は、アメリカ合衆国の作家ジョン・スタインベックによる小説である。初版は1939年。この小説により、スタインベックは1940年にピューリッツァー賞を受賞した。後のノーベル文学賞受賞(1962年)も、主に本作を受賞理由としている。
1930年代にアメリカ中西部で深刻化したダストボウル(土地の荒廃による砂嵐)を背景にしており、砂嵐と農業の機械化・大規模資本主義農業の進展によって居場所をなくした家族の波乱の人生を描く。 また、主人公ジョード家自体が、「オーキー」(Okies )と呼ばれるオクラホマ州出身の小作農民(sharecroppers)であった。当時、大恐慌下において、土地を奪われ、仕事も誇りも失った農民が続出し、社会問題となっていた。このような社会問題も背景となっている。
物語
殺人罪で4年の懲役から実家に戻ったトム・ジョードは、家族がオクラホマ州からカリフォルニア州に移ろうとしていることを知る。説教師ジム・ケイシーとともになんとかカリフォルニア州に移る家族に合流したトムは、家族と共にルート66をたどって苦難の旅の末(途中で祖父母が死に、義弟が逃げ出すなどしたが)、カリフォルニア州にたどり着く。
しかし、(乳と蜜の流れる地)カリフォルニアにさえたどり着けば、もっとましな生活ができると思っていたジョード家の希望は無惨に打ち砕かれる。
カリフォルニアでも、折からの大恐慌の影響・機械化農業のために土地を失った農民は働くところがなく、大土地資本家の経営する農場で日雇い作業をするほかなかった。ジョード家も他の農民達と同じく、ある桃農園で働き始めるが、そこで組合を組織しようと活動していたケイシーが資本家に雇われた警備員達に撲殺されてしまう。その場に居合わせたトムはケイシーを殺した警備員を殴り殺し、追われる身となってしまう。
息子との別離を嘆く母と別れ、トムは活動家として地下に潜る。
解説
(1)本作は、奇数章に作者スタインベックの評論、偶数章にジョード一家の物語を整然と配置した構成を取っている。このような構成を取ることによって、本作は単純な「ジョード一家の物語」という枠を超えて、当時の大恐慌下のアメリカ社会に対する直接的な告発ともなっている。
(2)作者スタインベックはキリスト教文学、とりわけ聖書に決定的な影響を受けた作家である。本作に関しても、ジョード一家が(貧しい)オクラホマから(豊かな)カリフォルニアに脱出同然に移住するところは、旧約聖書「出エジプト記」をモティーフとしていると指摘される。また、物語の最後でママ・ジョードが言う、「先の者が後にまわり、後の者が先頭になる」と。これも新約聖書の一節である。
このように本作は、一見「社会主義小説」とも評される内容であるが(実際、出版当時そのような論評が数多く見られた)、それだけにおさまらない、きわめて深い内容を持つ作品である。
反響
本作品は出版当時、アメリカ全土に絶大な影響を及ぼし、全米で本作をめぐる論争が起こった。『風と共に去りぬ』の次に売れたといわれ、保守層からは目の敵にされ、反論パンフレット「喜びの葡萄」なる珍作まで出版されたと言われている。
発表翌年の1940年にはジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ主演により映画化され、ニューヨーク映画批評家協会賞の作品賞、監督賞、またアカデミー賞の監督賞、助演女優賞(ジェーン・ダーウェル)を受賞している。詳細については『怒りの葡萄 (映画)』を参照。
1995年にはブルース・スプリングスティーンがアルバム"The Ghost of Tom Joad"を発表している。