方向指示器
方向指示器(ほうこうしじき)とは、自動車、オートバイ等に付ける保安部品で、右左折や進路変更の際に、その方向を周囲に示すための装置である。方向を灯火の点滅で示すことから、日本では通常、ウインカー(英語: winker“まばたきするもの”)と言うが、現在英語圏において winker と言うことは稀である。アメリカでは blinker もしくは turn signal 、イギリスでは directional indicator、あるいは単に indicator と表記する。ドイツ語でも以前は Winker と呼んでいたことがある。日本では年配の人を中心に「アポロ」と呼ぶこともある(下記、歴史を参照)。

また、全てのランプを同時に点滅させることでハザードランプとしても使用される[1]。
設置部位によるランプの呼称は、前面のランプをフロントウインカー、側面をサイドマーカー、後面をリアウインカーと呼ぶ。最近の自動車では、ドアミラーにサイドマーカーを装備することが増えているほか(下記、ドアミラーウインカーを参照)、タクシーのように屋根にもランプを装備している例もある。
方向指示器はあくまで保安部品なので、仮に故障したとしても、車両としての走行機能には影響しない。しかし、多くの車両が同時に走行する公道上では、交通安全を確保するため欠くべからざる装備であり、日本を含めほとんどの国において構造・動作・操作に関するルールが定められている(下記、法令、規格を参照)。

歴史
初期の自動車においては、交通絶対量が少なかったこと、またオープンボディが大半であったことなどから、装備としての方向指示器は存在しなかった。進路変更を周囲に伝達する必要がある場合は、馬車時代からの身振りを踏襲した「手信号」による意思表示を用いており、それで充分だったと言える。なお、手信号は現在も法令上認められている。
その後、大量生産の時代を迎えて交通量が爆発的に増大し、交通の円滑性、安全性から進路変更時の合図が重要となり、同時にクローズドボディの普及により、車外に何らかの信号装備が求められるようになった。
1893年、イギリスのJ・B・フリーマンによって文字盤式の方向指示器が発明される、これは車体後部に表示内容を変更できるロール式の掲示板を設置して、手動操作によって「Left」・「Right」の文字表示できるようにしたものであった。
写真は大型車用の汎用品
1900年代初頭には、イギリスのF・フォークナーによって、ボディサイドに装備する矢羽式(やばねしき、または腕木式 = うでぎしきとも)の方向指示器が発明される。この矢羽式は、可動式の表示器を通常はボディサイド(外付けのものは灯体)に収納しており、操作時にアームを車体から突出させて周囲に意思を伝える方式である。矢羽式の方向指示器は、手旗信号を基にしたもので、鉄道用信号機としても、セマフォー式鉄道信号機(Railway semaphore signal )と呼ばれ、世界的に普及している。車ではセマフォー方向指示器(Semaphore turn signal)を略した「セマフォー(Semaphore)」のほか、「トラフィケーター(Trafficator)」と呼ばれている。動作はケーブルを介した手動式か吸気管の負圧を利用したバキューム式であった。
1908年に、イタリアのアルフレード・バラッキーニ(Alfredo Barrachini)がアームの中に電球を入れた物を発表した。当時、電気式ヘッドランプが既に普及しはじめていたため、矢羽を透明樹脂製とし電照式とすることで、夜間でも被視認性の高い方向指示が可能となった。操作はまだケーブルを介した手動式であったが、1918年、イギリスのネーリックモーターシグナル社が、小型モーターを用いた電動式アームで特許を取得した。しかしこのシステムも、ギュスターヴ・ド・ネフ(Gustave de Neef)とモーリス・ボワソン(Maurice Boisson)の二人のフランス人発明家のアイディアによってすぐに時代遅れとなる。彼らは1923年にアームのアクチュエーターを電磁石に置き換え、指示器全てがピラー(柱)に完全に収まる、より小型で簡潔なシステムを発表した。さらに、1927年、ドライバーに作動を通知する車内インジケーターを追加し、その後のスタンダードへとまとめあげたのは、ドイツのマックス・ルール(Max Ruhl)とエルンスト・ノイマン(Ernst Neuman)である(ワイヤー式でインジケーターを持つものも多数ある)。電磁式のメーカーでは、イギリスのルーカス(Lucas)、ドイツのヘラ(Hella)などが代表的である。
日本では乗用車などでの車体内装型は非常に少なく、アポロ工業の製品が外付け型汎用品として市場をほぼ独占した。そのため、アポロ式が矢羽式方向指示器の代名詞となり、さらに車体内装式を含む矢羽式方向指示器の全てが「アポロ」と呼ばれるほど一般的な存在であった。大型トラックやバスでは、小型車で点滅式が主流となった後まで外付け型のアポロ式が使われており、点滅式との併用も見られた。その後アポロ式は点滅式への移行に伴う需要の低迷から急速に衰退し、アポロ工業自体も1964年にサンウエーブ工業に吸収合併されている。
矢羽式実用化後に、バイメタルを応用し、矢羽を廃した点滅灯式方向指示器が考案され、1935年にはイタリアのフィアット1500(Fiat 1500 )や、アメリカのビュイックに採用されている。
矢羽式と点滅式はしばらく共存していたが、点滅式は特に昼間時の視認性の良さと、断線、焼損の懸念のある電磁石や、機械的可動部が排除されたことによる信頼性の高さにより、欧米では比較的すぐに、日本においても1950年代までには主流となっていった。
日本で方向指示器が法定化された際、指示器を持たない既存の車両は、「アポロ」やそのライセンス製品(いずれも矢羽式)などの汎用品を後付けすることで対応した。三輪自動車やバス、トラックなどでは新車においても汎用品を採用する例も見られた。汎用品は多くの車種に対応するため、大・小の二種類が用意されていた。また、矢羽内の表示灯は初期は常時点灯式であったが、後に点滅式も登場した。
1960年代、特にアメリカでは道路交通の過密化、高速化が進み、自車と周囲の安全を確保するため、より多くの情報を伝達する必要が生じた。そのため、方向指示器は、その全て(前後、左右)を同時に点滅させることで停車中であることを知らせるハザードランプとしての機能も併せ持つようになった。日本車でも輸出向けから採用が始まり、全車に普及していった。
また、点滅機構もバイメタルからトランジスタとリレーを用いたものへと代わり、その後も改良が続き、タマ切れ時に点きっぱなしになる欠点を補う、倍速点滅機能も盛り込まれた。
1990年代に入り車両電装品の電子制御化が進むと、方向指示器は外部から視認が容易な位置にあること、また元々、点滅機構を備えることから、盗難アラーム、リモコン操作の確認など、車外から何らかの合図を確認する目的でも使用されることになる。
オートバイでの方向指示器の装備は四輪車よりも遅く、1950年代に矢羽式がオプション装備されたのが始まりで、すぐに点滅式に交代している。
構造
方向指示器は、車外に取り付けられ合図を表示する表示部(ランプ)、車内に取り付けられドライバーが合図操作を行う操作部(レバーまたはスイッチ)、操作に従い表示部の動作を制御する制御部から成り立つ。
表示部
表示部は点滅を行うランプであり、乗用車の場合は車体前部(フロントターンシグナル)、後部(リアターンシグナル)、側面(サイドターンシグナル)の3カ所に装備される。大型車の場合は車体中央部側面にも装備される。オートバイの場合には車体前部側面および車体後部に装備される。
日本の現在の車両保安基準では、方向指示器の灯光の色は橙(とう)色でなくてはならない[2]。ただし、現行の保安基準が施行される以前に登録された車両についてはこの限りになく、また在日米軍の車両については、日本の車両法、道路交通法が適用されないため、前部は車幅灯と兼用、後部はブレーキランプやテールランプとの兼用という車両がある。
取り付け位置も詳細に決められており、まず車体の周囲360度からいずれかのターンシグナルが視認できなくてはならない、さらに個々のターンシグナルの視認範囲が決められており、たとえば右のフロントターンシグナルの場合であれば、ターンシグナル中心を起点とした車体正面方向中心線から、左周り45度から、右回り80度の範囲から視認できなくてはならない。
旧来のランプユニットは金属のプレス品の反射部と電球を保持する口金(ソケット)とを溶接した本体に、ゴム製のガスケット(シール)をはさみ、着色された樹脂レンズをねじ止めする構造であったが、生産台数の増加した現在では、コストダウンのため、樹脂レンズと、やはり樹脂製の反射部兼用ハウジング(本体)は高周波溶着されており、温度変化による内部結露を防ぐブリーザー(呼吸機構)を持つ。また、同じくねじ止めであった車体への取り付け方法も、灯体のボスと車体側のゴム・ブッシュによるハメ込み式へと変わっている。
以前は溶着技術にメーカー間格差があり、特定の車種で溶着不良による内部への浸水がよく見られた。
電球は規格化された口金タイプが使用され、JIS-C7506に規定されるBAタイプ、特にBA15sがよく使われる。このタイプは電球の口金側面に短いピンがあり、ソケットの口金側面に切られたL字型の縦溝にそってまっすぐ挿入した後、電球を捻ってピンを横溝に引っかける(スワン式と呼ばれ、ねじタイプのエジソン式に比べて振動に強い)。電球の極性は中心電極がプラス、口金部がマイナス(アース)で、ソケット底部にはスプリングが内蔵されており、電球を押し返してピンを横溝に圧着させることで電球を固定するのと同時に、アースを確保している。通常ランプユニットは樹脂製のためボディアースは使用できず、カプラー化されたソケットからコードでアース接続されている。
ターンシグナルの電球は一般的に、フロント用が15または21~27W、リア用は21~27W(21、23Wが主流)が使われる。サイド用は小型であり、電球もウエッジタイプと呼ばれる小振り(5Wが主流)のものが使用される。いずれの場合も電球の交換には工具を使わなくてすむように考慮されて設計されている場合が多い。 ただし、近年のコンパクトカーやファミリーカーのクラスの車種では、電球交換の知識と技量を持たないユーザーに触られることを嫌い、点滅しなくなったときには販売店や整備店に相談するよう取扱説明書で指示しているものもある。
2002年頃からLEDの高輝度化に伴い、半永久的な実用性(不点寿命)、視認性向上、消費電力低減などのメリットから方向指示器にLEDを採用する車種が増えている。
普通の車に後付けするための口金タイプなどのLEDランプも発売されているが、中には安価な汎用LEDを用いた商品もあり、光が拡散せずに照射範囲が保安基準を満たさない「粗悪品」もある。電球は消灯している時はフィラメントが冷えており点灯時より抵抗値が低くなっているので、点灯する瞬間に定常電流の10倍近くの大きな電流が流れる(突入電流)が、LEDでは突入電流は発生しない。一見、LEDのほうが突入電流が発生しないため好ましいように思えるが、元々、電球を取り付けるよう設計されている車両では、突入電流を利用して機械式リレーの接点のゴミを焼き切り接点の接触不良を防止するように設計しているので、LEDに交換するとウインカーリレーの接触不良を招き故障に至らしめることがある。また消費電力が極めて小さいことから、装着車両側が認識できずに球切れを表示することもあるので注意が必要である。
アメリカ合衆国におけるターンシグナルの規定は、世界の中でも独特である。アメリカ車およびアメリカ仕様車では、フロントターンシグナルは橙色(アンバー)に規定されているが、車幅灯(スモールランプ、ポジションランプ)と兼用にしていることが多く、その場合は光の増減のみで動作を示す「明滅式」である。リアターンシグナルも、ブレーキランプやテールランプとの兼用型(赤色)の場合が多い。車輌側面への方向指示器の装備義務はない。日本や欧州では、すでに保安適合しないため、これらアメリカ独自の仕様を持った車輌を日本で運行させることは、現行の保安適合措置が施行される以前の旧型車両、もしくは在日米軍の車両やアメリカ大統領専用車両など特殊なケースを除き許容されない。アメリカ仕様車を日本に輸入し販売する際には、車輌側面のウインカーランプや独立した後部ウインカーを増設するなどの保安適合措置が必要となる。
普通はリアターンシグナルは片側一灯ずつ点滅すものが多いが、トヨタ・クラウン、日産・セドリック、三菱・エアロシリーズなどの過去のモデルや、トラック(特にデコトラ)、三菱・チャレンジャーの後期モデルなどでは独特の存在感を出すために、ゴミ収集車や路線バスなどでは路上駐停車の頻度が高いことから二灯以上点滅するものもある。さらに日本のトラックでは「流れる」ように複数のリアターンシグナルが順番に点滅するようにカスタムする者もいるが、これは保安適合措置に違反している。
操作部
ウインカー・スイッチ
方向指示器の操作部は、合図の開始と方向を指定するウインカースイッチが主なものである。初期の車用ウインカースイッチはダッシュボード上に装備されたトグルスイッチ等の電気的スイッチが主流であった。左右(あるいは上下)2方向に接点を有するスイッチがよく使われ、ドライバーは合図の開始と終了を、スイッチON / OFFすることで操作していた。1950年代頃からハンドル操作を阻害しないようにと、ステアリングコラムから延びるスティック状の操作桿(レバー)が主流となりウィンカー・レバーとも呼ばれるようになった。ステアリングコラムに装着されたことによりハンドル操作との連動が容易になり、ハンドルを戻した時に自動的に操作桿が中立位置まで戻り合図がOFFとなるオートキャンセルの装備が進むこととなる。ただし、オートキャンセルはアメリカ車等ではステアリングポストに装備された初期から普及したが、欧州車などでは近年までオートキャンセルを装備しない車種も見られた。
標準的なオートキャンセル付きスイッチの場合、レバーを操作して一定の位置を越えるとクリック感があり、スイッチがON位置で固定されオートキャンセルの待機状態となる。クリック位置を越えずにレバーを保持し続けると、合図は継続するがレバーは固定されず、指を離すとバネの力でレバーは中立位置(OFF位置)まで戻る。レーンチェンジなどの微少なハンドル操作の場合、ハンドル舵角が少ないためにオートキャンセルが作動しない場合が多く、戻し操作を手動で行う必要がある。上記機能はこの戻し操作の手間を大幅に軽減することができるが、初期のオートキャンセルには備わっておらず、この機能の普及初期には「レーンチェンジャー付き」と称したメーカーもあった。
日本車の場合はウインカースイッチと、ヘッドライト等の他の灯火類のスイッチを組み合わせて操作桿としたコンビネーションスイッチが主流である。欧米車においてはヘッドライト等のスイッチがダッシュボードに装備されている場合もあり、ウィンカースイッチ単独の操作桿も見られる。また、まれにダッシュボードから板状の操作スイッチをハンドル付近に延ばす方式(三菱・ギャラン)や、メーターパネルの角にロッカースイッチを装備する方式(シトロエン・BX)なども見られる。
ウインカースイッチの位置は、日本国内で販売される国内メーカーの車では通常ステアリングコラムの右側に装備されているが、日本国外においてはハンドル位置の左右にかかわらず左側に装備される場合が多い。これは、ISOの規格でウインカースイッチの位置が左側と規定されているためである。[3]そのため、日本国内で販売される日本車と、日本国外の左側通行国の中でも特に欧州圏(イギリス・アイルランド・マルタ・キプロス)で販売される右ハンドルの日本車とでは、ウインカースイッチの左右位置が違うという状態になっている。
- イギリスは左側通行だが、現在生産されているイギリス車のウインカーは、右ハンドルにおいてもステアリングコラムの左に装備される。ただし、ISOの規格が登場する以前は右側に装備した車種が大半であった。マニュアルトランスミッション車の割合が高い欧州で右ハンドルの場合、変速操作とウィンカースイッチ操作を同時に行わなければならない機会は多く、現在でも安全上の観点からこのISO規格の見直しが論議されている[4]。
- メルセデス・ベンツの多くの車種では、誤操作防止の観点から、ウインカーとワイパーの操作を一本のレバーに一体化している。このレバーの位置も、かつては「右ハンドル仕様=ステアリングコラムの右側・左ハンドル仕様=左側」であった(モデルW201、W124、W126の時代まで)。しかし、 現在はISOの規格に合わせ左側に統一されている。
- 日本向けの輸入車の一部には、日本国内に合わせ右ハンドル・右側ウインカーを採用している車種がある。(北米生産のGM車(キャデラック、サターンなど)、ヒュンダイ各車など)
オートバイの方向指示器の操作部(ウィンカースイッチ)は、左ハンドルのグリップ付近に左右方向(または上下方向)のスライド式のスイッチが装備されていることが多いが、ハーレーダビッドソンやBMWなどの一部車種では、右および左のグリップ付近にそれぞれ右ウインカーと左ウインカーのスイッチが装備されていることもある。特殊な例としては、ホンダ・スーパーカブが「そば屋の出前持ちが片手で運転できるように」との配慮から、スロットル操作を担う右グリップ側に装備されている。
オートバイは機械的キャンセル機構を作動させるほどのハンドルの回転角がなく、車体をバンクさせる(傾ける)ことによってハンドル操作をせずとも比較的容易に方向を変えられる、という二輪車独特の特性を持つことから、ハンドル連動式のオートキャンセル機能の装備は技術的に難しかった。ただし、カワサキ・Z1-R/Z1R-IIなど、ウインカーが作動してから一定時間経過後に走行距離でOFFとなる時限/距離式のオートキャンセルが装備されたことはある。代わりにオートバイ独自の機構として、プッシュキャンセル式スイッチが開発された。これは左右に動くスライド式スイッチだが、スイッチは指を離すと中立の位置に戻り、さらに中立位置ではスイッチを押し込める(プッシュ)ようになっており、プッシュするとウィンカーの動作が終了するという機構である。プッシュキャンセル式は、はじめ中型以上の排気量区分(400cc超)を中心に普及したが、やがて他の排気量区分へも普及していった。ちなみに前述のハーレーダビッドソンやBMW等での左右独立式のウィンカースイッチも、再度スイッチを押し込むなどの操作でウィンカーの作動を終了するという意味で、変則的なプッシュキャンセル式だといえる。
なおそれ以外の方式としては、1982年にホンダ・CBX400Fインテグラが角度検知センサなどを使用したオートキャンセルを装備したが、当時は動作が安定せず姿を消している。またホンダ・フュージョンでも、右左折終了時に自動でウィンカー作動を終了するオートキャンセル機能を搭載していた。フュージョンのオートキャンセル機能は比較的高精度だったが、ウィンカーを自動終了するだけという機能の単純さに対して掛かるコストが見合わないと、他の車種にまで大きく普及することはなかった。以上の経緯から、オートバイでは現在も手動終了のプッシュキャンセル式が主流であり、より良い方式が開発されない限りは、この状況が変わる様子はない。
ハザード・スイッチ
ハザードランプのスイッチは、ウインカースイッチと別体で用意される。かつて乗用車のハザードランプのスイッチは、ハンドルの後ろ側のステアリングポスト上側など、目立たない場所に小型のものが装備されていることも多かった。今日では、殆どの自動車においてダッシュボード中央や運転席と助手席の間など、運転席と助手席のどちら側からも操作し易い位置に、かつてよりも大き目のものが設置されている。緊急時に備えてエンジンがかかっていない状態でもハザードは作動する。また、一部の車種は急制動時や衝撃を感知したときにも自動的に作動する。
トラック・バスのハザードスイッチはステアリングコラム左側のレバーを、右レバーで言う所の「パッシング」でオン・オフ切換とするものが一般的。 以前はレバーを上へ操作してオン・下へ戻すとオフ(又はこの逆)、レバーを手前に引くと作動する車種もあったが、現状では特に大型車では手前に1段引くと排気ブレーキ、更に手前に引くと排気ブレーキとリターダが作動するパターンが多い。普通車から乗り換えた時(逆のパターンでも)には注意を要する。
オートバイはハザードランプの装備義務は持たない。川崎重工業がいち早くハザードスイッチを装備していたが、オートバイのヘッドライトが常時点灯にされることに伴い、ヘッドライトスイッチを廃した代わりにハザードスイッチを装備させるなどして、近年では全メーカーの250ccクラス以上の国内仕様のオンロード系車種の多くに装備されるようになってきている。また、機能独立したスイッチを装備しない車種にハザードランプを追加する場合は、別体スイッチを装備する場合もあるが、ウインカースイッチを利用して特定操作(例えば右、左、キャンセル、など)によってハザードランプを作動させるようにしたものも存在する。
インジケータ
操作部の、もう一つの装備として、ドライバーやライダーに合図の動作を知らせるインジケータがある。多くの場合、メータパネル上に表示部と同調して点滅するランプが装備され、また、聴覚による動作確認として点滅のクリッカー音が発せられる。インジケータは左右別のランプが装備されるのが一般的だが、欧州車には左右共用のランプを一つだけ装備するものがある。例としてはオペル・コルサ(Bモデルまで)、ルノー・トゥインゴ(初代・現行モデル共に)など一部の欧州製小型車に見られるほか、1990年代前半頃までのフェラーリ各車(348など)にも同様の装備が見られる。オートバイの場合にはメータパネルのスペース上の問題から、左右共用タイプも比較的多くみられた。
動作音はリレーの動作音をそのまま利用する場合が多い。操作部の電子化が進んだ車種では電子合成音を採用することもあるが、(日産・ティーダ、三菱・アウトランダーなど)その場合でもクリッカー音に似せる場合が多い。また、トラックなどの大型車は方向指示を出したときにチャイムやチャイムと「(右または左)へ曲がります」と音声で外の歩行者などに知らせるものもある。一部の路線バス車両では、左の方向指示器を出したときにチャイムが鳴るものがある。これによってバス停にいる乗客に停車を知らせることが出来る。
制御部
制御部の主な機能は、ランプ(表示部)を一定間隔で点滅させることである。点滅の周期は、日本・アメリカの法令では毎分60~120回の一定周期と定められている。また、その他の地域においても、欧州を中心とした標準化委員会において同様の規格が採用されている[5]。
点滅制御は通常リレー(ウインカー・リレー)が使用される。ウインカー各ランプの点滅は安全性の問題から完全に同期する必要があり(点滅時期がずれると、仮現運動知覚apparent motion perceptionにより幻惑されるおそれがある)そのため、各ランプは通常一つのリレーによって制御される。一部の例外としてバッテリーレス仕様のオートバイでは、全てのランプを同時に点灯させるだけの電力を供給できない場合があるので、ランプは前後交互に駆動される仕様となっているものがある。この場合、後方から見た時前後のランプが同時に見えない様に注意が払われている。
ウインカー・リレーは、通電すると接点部分が一定間隔でOFF / ONを繰り返す素子であり、ランプへの給電ラインの途中に接続される。操作部のスイッチによりランプへの通電が開始されると同時にウインカー・リレーは動作を開始し、点滅制御を開始する(ランプへ通電する時は必ず点滅する回路となっている)。
従来ウインカー・リレーはサーモスタットに使用される物と同様のバイメタル方式が使用されてきた。これは温度変化に伴って形状が変化する2種類の金属を貼り合わせたバイメタルと、通電時に発熱するヒータを備えるもので、通電が開始するとバイメタルが変形しON(またはOFF)となり、同時にヒータへの通電が切れ、バイメタルが元の位置に戻る、以後同様の動作を繰り返すことで点滅制御を行う。バイメタルは金属物性を動作原理とするもので、非常に耐久性に富み、特性も極めて変化しにくい(=点滅周期が安定している)ためこの方式は長年主流であった。ただ、ヒータ部については加熱 / 冷却が繰り返されるため安定性の高い金属が採用され、これが部品を比較的高価としていた。
電気回路の発達に伴い、大容量キャパシタ(コンデンサ)を利用した電気式リレー(渦電流式と呼ばれる)も使用されるようになるが、キャパシタ(コンデンサ)の容量劣化による点滅周期の変化が起きやすく、寿命の点ではバイメタル方式の方が優れていた。さらに電子回路の発達によりタイマICなどの半導体素子による制御による電子式リレーが登場する。ウインカー・リレーに使用される半導体制御式リレーは、通常の半導体リレー(電流接点自体も半導体で構成される)と異なり、点滅制御は半導体制御で実施するが、リレー自体は機械式のものを採用している。近年では、リレー自体もパワー半導体に置き換えるものも見られるようになってきている(方向指示器の操作回数が多い路線バスでは、リレーの接点不良による方向指示器の故障を避ける観点から、1980年後半くらいからパワートランジスタ素子で点滅させる無接点タイプが一部の事業者で採用されている)。電子式リレーは点滅精度では最も安定しており、部品単価も抑えられるため、近年にはほとんど電子式リレーが採用されていた。
なお、高度に電子化された現在の自動車においては、車両構成部品点数削減によるコスト低減のために、バイメタル方式や電子式リレーなどを単体で設置するのではなく、室内灯やドアロックなど他のシステムを制御するコンピュータユニットにウィンカー点滅制御を統合することがほとんどになっている。
機械式リレーを採用するもうひとつの理由は、断続時に生じる機械的作動音(メカニカルノイズ)により点滅の動作状態を聴覚的に認識できることである。近年では半導体リレーも用いられるが全くの無作動音化されてしまうので、この場合、機械的作動音を発生させるための発音回路を付加したり、ランプ点滅に寄与しないごく小さな機械式リレーを付加することが行われる。
制御部のもう一つの役割が、ランプの状態監視である。日本、アメリカ、EUの法令、規格では、方向指示器はランプ切れなどのトラブルが発生した場合に、異常をドライバに通知するように定められている[6]
通常、この機能もウインカー・リレーが請け負っている。ウインカー・リレーと各ランプは、それぞれ並列に接続されており、ランプバルブのどれかが切れたとしても他のランプは点灯(点滅)可能である。しかし、バルブが切れることによりウインカー・リレーの負荷が変化し(通常は負荷が減る)、点滅制御の特性を変えるようになっている(バイメタル式であればヒータの発熱量が変化する、電子式であれば時定数抵抗値が変化する、近年の電子式であれば電流検出抵抗により電流値の変化を検出する)。これにより、ウインカーランプの点滅間隔が短く(いわゆるハイフラッシャ状態)なったり、点灯状態にすることで異常をドライバに知らせるようになっている。
なお、近年の電子制御の発達により、イモビライザーに代表される盗難アラーム、遠隔ロックなどのリモコン機能が実装されるようになり、その車両側応答インジケータとして方向指示器が使用される傾向がある(アンサーバック機能)。これらの場合は、それぞれの回路はウインカーリレーとは別体に設置され、ハザードスイッチと同様の出力をウインカーリレーに一定時間与えるようになっており、これにより、これらの回路が故障したとしてもウインカー動作に影響が与えない配慮がされている。また、ハザードのポリシーを更に発展させて、エアバッグなどの安全装備と連動して、事故時に制御部が自動的にハザードを発するオートハザード機能を搭載する車種も増えている。
法令、規格
方向指示器に関する法令、規格は次のようなものがある。
日本
- 道路運送車両法第41条第1項第15号(方向指示器を装備しない自動車(二輪車等含む)の運用禁止)
- 道路運送車両法第44条第1項第9号(方向指示器を装備しない原動機付自転車の運用禁止)
- 道路運送車両の保安基準第41条(自動車・自動二輪車の方向指示器に関する詳細を定める条項)
- 道路運送車両の保安基準第41条の2(補助方向指示器に関する詳細を定める条項)
- 道路運送車両の保安基準第41条の3(非常点滅表示灯に関する詳細を定める条項)
- 道路交通法第53条(車両の進路変更時の合図に関する条項)
- 道路交通法第120条第1項第8号(進路変更時の合図不履行に関する罰則条項)
- 道路交通法第120条第2項(不必要な合図に関する罰則条項)
アメリカ
- Federal Regulations part571 Federal Motor Vehicle Safety Standards No.108 "Lamps, reflectivedevices, and associatedequipment"(方向指示器を含む灯火類に関する法律)
- SAE (Society of Automotive Engineers) Standard J588e"Turn Signal Lamps for Use on Motor Vehicles"(方向指示器の構造規格)
EU
- UNECE Regulations (1958 Agreement and addenda)Addendum 5: Regulation No. 6"UNIFORM PROVISIONS CONCERNING THE APPROVAL OF DIRECTION INDICATORS FOR MOTOR VEHICLES AND THEIR TRAILERS"(方向指示器の構造規定)
- UNECE Regulations (1958 Agreement and addenda) Addendum 47: Regulation No. 48 INSTALLATION OF LIGHTING AND LIGHT-SIGNALLING DEVICES(方向指示器を含む灯火類の実装規定)
様々な用法
日本では、方向指示器は右左折や進路変更の合図[7]、ハザードランプは自車が交通の障害物(=ハザード)となっていることを表示するため(日本では夜間駐停車中の使用も含まれる[8])と定められており、これらが道交法に規定されるハザードランプの本来の使用法である。
しかしながら、方向指示器、ハザードランプを本来の目的以外の様々な合図に使用することも行われている。車両から何らかの合図を発信するには灯火類を使用するのが有効であるが(特に夜間)、前照灯やテールランプなどの灯火装備は本来目的以外の目的に使用するには光量が大きすぎる、操作性が悪いなどの問題があり、これらの条件から方向指示器が使われてきたと考えられる。また、クラクションも車両からの“合図”(ただし、法令上の「合図」ではない)の一つであるが、特に日本では余程重大な警告でない限り使用しない。諸外国ではハザードランプや灯火よりもクラクションを頻繁に使用し、この点は日本独自の慣習であるといえる。
方向指示器の用法
右左折時
実際に交差点に進入・右左折する際の方向指示器の点滅を指す。原則として、右左折時の交差点進入30m手前から開始する。進路変更時の方向指示器とセットになる場合もある。右左折待機中には点滅させず、進入する直前にしか点滅させないのは道交法違反「合図不履行」となる。特に左折時のそれは巻き込み事故の原因ともなり得る。
進路変更時
日本では、右左折時の交差点進入30m手前までに進路変更(車線の左側もしくは右側に車体を寄せる)を完了する。実際の進路変更動作の3秒前に方向指示器を点滅させるのが原則である。あるいは二車線以上の道路で他の車線に移る場合に活用する。この場合、やはり進路変更の約3秒前に方向指示器を点滅させるのが原則である。方向指示器を出さないままの右左折時待機もみられるが、進路無変更のまま、信号が青になる直前後の方向指示器点滅による左折も上記同様「合図不履行」であり、自転車や原動機付自転車、自動二輪等を巻き込む原因ともなり得る。
右左折・進路変更ともに方向指示器は形式的なものと認識したり、また規則どおりの操作は教習中の初心者のようで格好悪いとみなす風潮が多くのドライバーに見られる。例えば、方向指示器の操作をぎりぎりまで履行しない者や、全く点滅させない者も多いが、当然ながら他車両に対し直前までは自車は直進することを示した上で突然左折することになるため、巻き込み事故を誘発しやすい(特に日本の教習所ではこの点は徹底して教習し、運転免許試験でもしばしば減点対象となる)。
駐停車時
走行中、路肩などに駐停車する際は、例えば左側に駐車する場合は左ウインカーを出し、安全確認を行い、緩やかに路肩に寄せる。駐停車中も左ウインカーをつけっぱなしにしている車を見かけるが、これは正しくない。本来、駐停車時のウインカーは「『路肩に寄せる』という意味の合図」であり、停止後は速やかにウインカーを消すべきである。ただし、夜間など自車の存在が他車に認識されにくいような状況の場合、灯火を点灯するべきである。ただし、交差点など右左折の出来る場所では、「ハザードランプ」を点滅させる方が望ましい。
排気ブレーキ使用時
大型、中型車には通常のブレーキの他に、排気を強制的に制限することで強力なエンジンブレーキを発生させる排気ブレーキが装備されている。従来、制動灯はフットブレーキ操作時以外に点灯してはならないものと規定されていたため、排気ブレーキによる制動時は制動灯が点灯しなかったが、排気ブレーキの作動に気付かない普通車等の後続車が追突する事例があった。一部のトラックはアフターパーツで緑色の灯火を後部に取り付けて排気ブレーキ灯としていた(規定灯火類以外の点滅する灯火ということになり、厳密には違法)ものもあったが、そうでない大型車において、排気ブレーキの作動時に方向指示器、あるいはハザードランプを点滅させる用法が見られた。その後、法改正により、排気ブレーキ使用時にも制動灯が点灯してもよいことになり、またそのようなシステムが普及したことから、現在ではこの用法は少なくなっている。
追い越しの意思表示
高速道路走行時などに、先行車に対して追い越しを開始する旨の伝達にはヘッドライトを用いたパッシングが使用されることがある。ところが、追越車線または最も中央車線寄り車線を走行中に低速車に追いつき、追い抜くことが不可能になった場合、さらに道路の中央寄り(左側通行であれば右、右側通行であれば左)の方向指示器を点滅させる用法が見られる。行き場のない側へ車線変更することから転じて、先行車に対し追越進路を塞いでいる旨を伝える意味がある。
パッシングは先行車のドライバーに必要以上のプレッシャーを与えるために威圧感を生じさせない意味(日本ではパッシングを原因としたトラブルもあり、エチケット的意味で)で、また欧州においては一般に追い越しの行われる速度や頻度が日本より高く、また中央分離帯のない対面通行道路が多いため、追い越しをしようとする車とされる車との間でも意思疎通を行う慣行(追いつかれた車両が対向車線寄りの方向指示器を点滅させた場合、対向車・先行車があり「この場所での追い越しするべきではない」との意思を表示する慣行)から一般道・高速道路ともに用いられている。
アメリカにおいては以上のような用法はほとんどみられず、日本においても一般的とはいえない。
譲り合い時の合図
大型車同士がすれ違うことのできない道路で、譲られた車が進行するときに右ウインカーを出す場合は、中央線がない場合(ある場合ならすれ違える)道路中央から大きくはみ出すという意味で使われる。また、高速道路本線第一通行帯の走行車両が加速車線からの車に前方進路を譲り流入を促す場合に、左ウインカーを点滅する場合がある。これは、誤解を招く可能性が非常に高く危険な場合があるが、パッシングよりは誤解を招かないだろう。さらに、高速道路本線第一通行帯を定速走行中の大型車が、自車よりも速い車両に追いつかれた場合、後続車両に追い越しを促す意味で左ウインカーを点滅する場合がある。追いついた後続車両は大型車によって前方視界が塞がれている場合が多く、前車は安全に追い越し可能であるとの意思表示ともいえる。この場合においても追い越し車両は漫然と追い越しをするのではなく、安全確認が求められるのはいうまでもない。
後退(バック進行)時の方向指示
本来、方向指示器は進路を変更する場合に使用しなくてはならない。その意味では後退(バック進行)時に進路変更する場合(車庫入れ、スイッチバック等)にも使用すべきものであるが、リバース時の使用については地域によって扱いが異なる。日本では後述のリバースハザードが使用されることからもあまり厳しく取り扱われない。一方、アメリカでは運転免許取得時の試験で必ず評点対象となる州があるほど全体的に厳しく扱われる[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。。
ハザードランプの用法
リバースハザード
日本独特の用法である。大型車が転回、あるいは車庫入れなどの大きな方向変更する際に周りにバックの意志を明確にする目的でリバースの間ハザードランプを点滅させるもの。ただし、後方に車両などが居る場合は、バック(リバース)を行う前に「ハザードランプ」を点滅させるのが望ましい。こうすれば、「バック(リバース)を行うこと」が伝わるだろう。本用法はバスの方向転換時に使用され始め、徐々に他の大型車にも普及している、現在ではギアをリバースポジションに入れると自動的にハザードランプを点滅させる後付回路が販売されている。しかし、現在の法律ではリバースポジションに入れたときに自動的に点灯(点滅でも)する灯火は後退灯とみなされる為、そのような後付回路を取り付けた場合は保安基準に抵触するので注意が必要である。
また乗用車でも、駐車場等で後退して駐車しようとする際、タクシー等が枝道に後退して方向転換しようとする際などにもこうした用法が見られる。
低速車の警告表示
車両の故障、他車による牽引、もしくは荒天などにより制限速度を大幅に下回る速度や道路維持作業車・除雪車などが低速走行する場合に、周囲の車両に注意を促す意味でハザードランプを点滅させる用法がある。これは危険を周囲に伝えるという意味で、非常事態告知に準ずる用法として推奨されており、アメリカのSAEスタンダードのように明文化[9]されている場合もある。
渋滞最後尾警告
高速道路などの渋滞最後尾についた場合などに、後続車に追突などの注意を促すためハザードランプを点滅させる用法がある。本用法も危険状態を周囲に通知するという意味で使用される。JAFは会員向け機関誌「JAFMATE」でこの使用法について触れており、欧州などでもこの使用法が見られる。点灯時期は、渋滞最後尾につく以前、渋滞発見時点の走行中から点滅を開始することが望ましい。また、NEXCOの一部の支社では「前方の渋滞を見つけたらハザードを焚きましょう」という垂れ幕を出し、本用法を推奨しているところもある。
駐停車時のハザード
路上に駐停車する際に、夜間や緊急時でない場合にもハザードランプを点滅させるもの。左側が他の路上駐車車両等により物陰になる場合には右ウインカーと区別がつかず、発進の合図と混同させるので好ましくないという意見もある[10]。一方ヤマト運輸では、運転手に駐車時にハザードランプを点けるよう指導している[11]。なお、日本やアメリカにおいて、通学通園バス(スクールバス)は、児童、生徒又は幼児の乗降のため停車しているときにハザードランプを点滅させることが法令[12]により義務付けられている。沖縄県の在日米軍基地保有スクールバスではこの慣習が残っていることがある(逆に、一般乗合バスでは「乗降にしばらく時間が掛かるので追い越してもよい」の意思表示の場合もある)。特にアメリカでは、ハザードランプを点滅させて停車しているスクールバスの側方を一般車は通過してはならない(スクールバスが発車するまで待たなければならない)ことになっている(“STOP”と書かれた看板を運転席側から大きく呈示する車両もある)。日本では、右ウインカーを出しているバスの追い越しが禁止されているほか、スクールバスが乗降のためにハザードランプを点滅させて停車しているときにはその側方を通過する際に徐行する義務が課せられている(後方から追い抜く場合だけでなく、反対車線で停車しているスクールバスとすれ違う場合も含む。)。
濃霧走行時の警告表示
山岳部、海岸付近を通る高速道路、一般道を走行中に濃霧にあってしまった場合、「渋滞最後尾警告」と同じく後続車の追突注意を促すためハザードランプを点滅させる用法がある。碓氷峠付近や酷い濃霧状態にある山岳道路ではこの用法がしばしばみられる(視認性確保のため)。
サンキューハザード
通常の走行状態では使用頻度の低いハザードランプを、儀礼の手段として用いるもの。アイコンタクトやジェスチャーによる運転手間のコミュニケーションが好まれず、クラクションを控えめにする日本ではこの用法が特に用いられる。大韓民国でも車線合流で譲られた場合に同様のハザードランプ使用がある。しかしこの用法は世界では特殊であり、非一般的である。
この用法は、他車から進路を譲られた場合などに、感謝する意味で使用する用法が長距離大型車ドライバーなどから普及した。1990年代には自動車会社のテレビCMにて肯定的に紹介されていた時期もある。現在でもプロドライバーが用いることが多い。典型的用法は、渋滞中の本線合流などで、列に入れてもらった車両が、譲ってくれた後方の車両にハザードランプを数回点滅させる。また、右折しようとしている車にパッシングをして、感謝の意でサンキューハザードをされることもある。これが、感謝の合図という意味でサンキューハザードと称される。現在ではかなり普及しているものの、この行為を拡大解釈したドライバーにより、無理な割り込み行為の直前・直後に「免罪符」的に使用する、譲り合いのたびにサンキューハザードをいわば「必死」になって履行する初心者ドライバーが存在する、本来の意味として使用したにかかわらず追突した(された)、などの事例から根強い批判がある。もともとハザードランプは、語意の通り何らかの理由で停車する(している)ことを後続の交通に知らせるための合図であり、非常に重要な意味があるのであって、これを他の目的に使用すると、目的外使用に慣れたドライバーが肝心のときに事態を的確に認識できなくなり、深刻な事態を招くおそれがある、という批判である。なお、「JAF MATE(前述)」誌によれば、この用法は地域によって浸透していないことがあり、他地域の車のサンキューハザードを緊急停車と勘違いして急ブレーキを踏み、事故につながった事例もあるとのことである。サンキューハザード向けの商品として、操作性向上を目的とするハザードスイッチ内蔵のシフトノブや、一定回数(2回や3回)点滅後に自動復帰するスイッチと後付回路が市販されたことがある。
自動車教習所などでも道路状況などを予測することに対して便宜的に「このような使用法もある」程度に教えられるものの、「JAF MATE」と同じく「一つの合図に二つの意味を持たせてはいけない」として本来の使用法である「最後尾警告」もしくは「自車の停止」の意味とドライバーが勘違いして追突事故に至る危険性を指摘しており、本来は推奨されるものではないとしている。
交差点での注意励起
日本以外では、交差点進入の際、単に自車の存在をアピールする目的でハザードランプを点滅させる用法が見られる、この用法はタイ、インドネシア他の東南アジアにおいて信号機などの交通制御インフラが未整備の地域で見られる。当然本来の方向指示器の意味と矛盾するため危険な行為であるが、本用法が使用される地域では方向指示器の使用頻度が低いために重大な混乱を招かないという事情がある。
特記項目
クリアレンズウインカー
クリアレンズウインカーとは、ターンシグナルに透明なレンズカバー(ランプカバー)を使用するものである。
初期において、フロントに装着されるターンシグナルは白色灯であった。アメリカにおいては、1963年から橙色のターンシグナルの使用が始まり、1968年には法制化された。前述のように、日本においても方向指示器の色は橙色と規定されている。このためフロントのターンシグナルには橙に着色した樹脂レンズカバーを使用するのが一般的であるが、橙色の着色球を使用する代わりに樹脂カバーを無着色のものとする手法である。
法令上の方向指示器は発光時の色を規定するもので「消灯時の色は問われない」とする解釈で成り立っているとされる。デザイン上の選択として広く採用されるようになっているが、明光下での視認性では着色した樹脂カバーに劣るという指摘もある。
リア側のクリアレンズウインカーは、ブレーキランプと一体化させたものが多いが、この場合はブレーキランプも保安基準に適合した赤色に点灯させることが必要である。なお、反射板の設計にもよるが着色球の色が若干レンズを通して見える場合が多く、これを嫌う向きもあり、以下の画像のようにクリアレンズとLEDを組み合わせると無灯火状態ではほぼ無色となることから人気となっている。
ちなみに、同様にデザイン面から一部の間でリアコンビネーションランプを全面赤くする改造も広まった(スポコン、東北地方のドリ車など)。この場合、電球を緑色に発光するタイプに取り替えることでオレンジ色の光を得られる。
補助方向指示器
ドアミラーウインカー
ドアミラーウインカーは自動車のドアミラーに方向指示器を内蔵したものであり、安全性の向上に寄与し得る可能性があるとの調査結果がある[1]。日本では、道路運送車両の保安基準の第四十一条の二に規定された補助方向指示器の扱いとなる。車体側面へのウインカーランプ装着義務のないアメリカ(前述)では、後側方からの被視認性を高める目的からアフターマーケットを中心にドアミラーの主として鏡面に装着するシグナルが広まっていた。
市販車での世界初採用は、1998年に登場したメルセデス・ベンツ W220である。これ以降、ヨーロッパや日本の市販車にもドアミラーウインカーを採用するモデルが増加した。
形状が似ているオートバイ用のミラーウィンカーはフロントウィンカーあり車両前方から視認できるよう車両進行方向へ配光されているため、側面方向指示器ではない。
ルーフ(タクシー)ウインカー
タクシーは、急停止や方向転換、乗客の乗降車などでのウインカーやハザードランプの点灯を周囲に認知させる必要性が高い。東京や仙台など、地域によっては屋根の上、あんどん両脇への補助ウインカーの装備が標準化されている。これは日本国外でもしばしばみられ、ニューヨーク市のイエローキャブでも同様である。また、後部の窓にウインカーと連動して「注意」という文字を点滅させる装置を装備した車両もある。
車内ウインカー
一部の路線バスでは車内に「右折」または「左折」あるいは「急ブレーキにご注意」と、ウインカーやブレーキランプと連動して表示する装置を装備して乗客に注意を促している。これらは乗客向けのインジケーターであると解釈することができる。
自動車・オートバイ以外の方向指示器
自動車、オートバイ装備以外の方向指示器としては以下のものがある。
自転車の方向指示器
自転車の一部車種にフラッシャーとも呼ばれる方向指示器が装備されている、使用目的は自動車・オートバイ用のものと同様であるが法律などによる規定が存在しないために、その形状・動作は様々である。かつては自動車のように無色球と橙色のランプカバーを併用したものも少なくなかったが、多くのものは横一列に並べた赤色ランプを発光パターンによって光が流れるように見えるフラッシュアクションを電気制御によって行う。また自転車は搭載電源を持たないために、乾電池を用いる。
自転車の方向指示器は1960年後半から子供用自転車に多く採用されたが、ギミック的な要素が多く実用性に疑問があったこと、また自転車の重量が増加することなどから1990年代にはほとんどが姿を消している。
戦車の方向指示器
戦車に代表される戦闘車両は、多くの国で一般車両の法令、規定適用の例外として扱われており、方向指示器を装備する義務はない。しかしながら近年では、一般道路を走行する場合の周囲への安全を考慮して方向指示器を装備している車両が多い。しかし、これらは法令、規定に沿ったものではなく、あくまで自主的な判断として装備しているもので、一般車両の方向指示器とは異なった実装がされている。一例として、日本の90式戦車の全長であれば、方向指示器は前後のみではなく側面に補助方向指示器が必要とされるが、実際には装備されていない。これらの事情はEU圏の戦車においても同様である。
路面電車の方向指示器
鉄道は他の乗り物と違って線路の上を走るため、これから曲る方向を予告する必要がない。だがかつての鉄道では、ポイントの切り替え操作が手動であったことから、接近してくる車両を見てポイントを切り替える必要があり、特に路面電車では道路上に自動車や他の電車が錯綜する中、通常の鉄道より不規則なダイヤでやって来るところを、転轍(てんてつ)手がポイントを切り替えねばならなかった[13]。
通常の天候であれば、操車塔の窓から電車の方向幕や系統板を見て正確なポイント操作ができるが、悪天候や夜間の場合、転轍手が方向幕や系統板の表示を見落としてしまい、誤ったポイント操作によって異線進入事故を起こすことがあった。こうしたことから、ポイントに接近する路面電車から操車塔へ、どちらに曲がるかの合図をより正確に知らせる必要が生じ、一部の都市・鉄道会社の路面電車では方向指示器を使用することとなった。これはここまでの話でわかる通り、法規で義務付けられているものではないため、各社によって様々な形状や色が存在した。
早い時期に方向指示器を取り付けた路面電車車両としては、1950年から1953年にかけて東急玉川線に投入された80形がある。当時の玉川線は、三軒茶屋交差点において渋谷方面から頻繁にやってくる二子玉川園行き電車と下高井戸行き電車のポイント操作の正確を期すために、80形新造時に正面窓上部両側に方向指示器を取り付けた。その後製造された「タルゴ」こと200形や150形には方向指示器が取り付けられたが、先に登場していた70形以前の車両には取り付けられなかった。
東急玉川線に次いで方向指示器を導入したのは横浜市電で、1953年製造の1150形が方向指示器を取り付けて登場、1958年製造の1600形も当初から方向指示器が取り付けられていた。ただ、この時期にはこの2形式以外に方向指示器の取り付けがなされなかった。
一方、神戸市電ではこれらの事業者とは異なり、500形以降のボギー車全車に方向指示器の取り付け改造を実施して、1958年8月1日から使用を開始した。横浜市電、神戸市電の双方とも中央に矢印を打ち抜いた楕円形のプレス板のカバーを取り付けた方向指示器を使用していたが、神戸市電ではカバーにクロムメッキを施していたのに対し、横浜市電では車体色と同一に塗りつぶしていたほか[14]、取り付け位置も横浜市電では前面窓下、神戸市電では前面裾部と異なっていた[15]。その後、横浜市電では1967年の1100形と1500形のワンマン改造時に方向指示器を取り付けたが、神戸市電とは異なり、1300形や1400形などのツーマン運行のボギー車には最後まで方向指示器の取付工事は実施されなかった。また、横浜・神戸両市電とも多数在籍していた単車は方向指示器の取付対象外であったほか、神戸市電で300・400形といった単車の代替に大阪市電の801・901形を購入した100・200形も方向指示器を取り付けられなかった。これらの事業者以外に方向指示器を使用していた路面電車としては、呉市電が存在した。
しかしその後、1950年ごろに大阪市電で開発された、ポイント前方の架線上にトロリーコンタクターという接点を設けて、通過及び停車位置によってポイントを転換する方式や、京都市電において特許を取得した、軌道回路を利用してポイントの前で電車が通過するタイミングを利用してポイントを転換する方式[16]が開発されたことにより、路面電車のポイント操作も無人化に成功、日本の路面電車からは操車塔が全廃された[17]。こうして方向指示器の役目も終わりを告げた。
神戸市電の廃止後、広島電鉄に譲渡された500形や1100形、1150形には方向指示器が残っていたが、車体色と同一に塗りつぶされて、やがて撤去されてしまった。方向指示器を残したまま営業運転に使われていた最後の路面電車は、東急世田谷線[18]の150形だったが、玉川線廃止→世田谷線内のみの運行となった後も、車体更新によって撤去されるまでの間は、前照灯の点灯とともに方向指示器が点灯された状態であった。世田谷線の車両が全て300系に交換されると、営業線上で方向指示器を装備した路面電車は全廃された。
なお似て非なるものとして、路面電車の正面下部左右に、尾灯以外の灯火を装備している車両が存在する[19]。これは大型自動車のように、道路上における大型通行物の接触注意を喚起しているものであって、方向指示器とは全く関係ない。
飛行機の方向指示器
飛行機の場合、自機の進行方向を機外に表示する装置は、空港の誘導路等を考慮しても存在意義はほとんどないが、操縦席に装備される計器の一つとして、機体の進行方向を地上平面方向360°単位で指示する方向指示器(Directional Gyro)がある。空中を飛行する飛行機は地上走行車両と異なり、進行方向を把握するための目印となるものが著しく少ない(特に高高度飛行時)ため、自機がどちらの方向を向いているのかを把握する計器が必要とされる。飛行機の方向指示器はジャイロ機構を用い、慣性により一方向を指す回転心を内蔵しており、指示器ケース(自機)の回転との差分を北を0°とする360°の角度で表示する。ただし、長時間経過すると誤差が蓄積するため磁気コンパスによる補正機構を備えるものが多い。
なお宇宙船にも同様の計器が添わるが、こちらは地上平面という概念が通用しないため三次元の二軸方向指示器が必要となり、二軸を自由保持する機構の名称からジンバルと呼ばれる事が多い。
出典・脚注
- ^ なおフラッシャーと呼ぶこともあるが、英語のFlasherには「露出狂」「性器を露出する変態」という意味があるので使わないのが無難である。日本語の「ハザードランプ」はHazard FlasherやHazard Indicatorである。
- ^ 道路運送車両の保安基準の細目を定める告示第249条第三項
- ^ ISO 4040 Road vehicles Location of hand controls, indicators and tell-tales in motor vehicles
- ^ 右ハンドル車において左ハンドル車と反対の配置とすることが永続的に認められることになった模様。自動車技術会サイトのgoogle検索
- ^ UNECE (United Nations Economic Commission for Europe:国連欧州経済委員会) Regulations (1958 Agreement and addenda) Addendum 47: Regulation No. 48 Section6.5.9 "Other requirements"
- ^ 日本の法令:国土交通省告示第六百十九号「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」別添40「灯火器及び反射器並びに指示装置の取付装置の装置型式指定基準」4.5.7.2項
アメリカの法令:Federal Regulations part571 "Federal Motor Vehicle Safety" Standards No.108 "Lamps, reflectivedevices, and associatedequipment" Section5.5.6
EUにおける条約:UNECE Regulations (1958 Agreement and addenda) Addendum 47,Regulation No. 48 "INSTALLATION OF LIGHTING AND LIGHT-SIGNALLING DEVICES" Section6.5.8 "Tell-tale" - ^ :道路交通法第53条第一項,道路交通法施行令第21条
- ^ :道路交通法第52条第一項,道路交通法施行令第18条第二項
- ^ SAE Standards 890688 The Interaction of Tun,Hazard and Stop Signals
- ^ 朝日新聞、1993年10月10日、朝刊第5面。
- ^ ヤマト運輸株式会社、CSR報告書2005、12頁、2007年9月25日参照。
- ^ :道路交通法施行令第26条の3第二項
- ^ こうした転轍手の常駐する場所を操車塔と呼び、道路から一段上がった小屋か、一段下がったトーチカのような型をしていた
- ^ 横浜市電でも、1600形の方向指示器カバーは、登場当初はクロムメッキが施されていた
- ^ 神戸市電でも、1150形の一部車両では、前面窓下に方向指示器が取り付けられていた
- ^ 詳細についてはこちらのサイトを参照
- ^ 操車塔そのものはしばらくバックアップ用として残されていた。現在でも車庫ではさすがに有人操作が残っている
- ^ 東急玉川線が一部廃止後、世田谷線と名を変えた
- ^ 特に熊本市電の古い車両は尾灯と一体化され、いかにもウインカーのようなデザインである
関連項目
参考文献
- 荒井 久治 『自動車の発達史〈下〉―ルーツから現代まで』山海堂、1995年、ISBN 4381100689
- 国土交通省自動車交通局技術安全部監修『道路運送車両法の解説』交通総合センター、2003年、ISBN 487497001X
- 林 順信 『玉電が走った街今昔』JTB、1998年
- 長谷川 弘和 『横浜市電の時代』大正出版、1998年
- 河村 かずふさ 「神戸日記」 レイルNo.38 プレス・アイゼンバーン、1999年
外部リンク
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