管啓次郎
概要
明治大学理工学部および大学院理工学研究科新領域創造専攻ディジタルコンテンツ系教授(コンテンツ批評、映像文化論)。他に東京大学、成城大学、立教大学、学習院大学、早稲田大学、名古屋市立大学、神戸大学でカリブ海文学、チカーノ文学、フランス語圏アフリカ文学、アメリカインディアン文学、異文化コミュニケーション論、翻訳文化論、トラヴェル・ライティングといった分野の非常勤講師を務めてきた。
1985年、赤間啓之、鈴木雅雄、前田礼とともに同人誌「Méli-Mélo」を創刊。同誌には後に今福龍太、旦敬介、細川周平、港千尋らが参加した。1987年には雑誌「GS 楽しい知識」のトランスアメリカ特集号を生井英考、伊藤俊治、武邑光裕、石井康史、今福龍太、旦敬介とともに編集。その後ながらくハワイおよびアメリカ合衆国西部各地に住む。カリブ海フランス語文学研究者として「オムニフォン・エグジログラフィ」という概念を提唱し、多言語性と亡命・移住の経験を背景にした世界文学を早くから論じている。
エッセー、批評的散文の書き手としては以下のような評価がある。 英文学者・翻訳家・京都大学教授の若島正は『本は読めないものだから心配するな』をヒュー・ケナー『機械という名の詩神』と並べ「いずれも小さな名著と呼ぶにふさわしい。そして他の誰にも真似できない点で共通している」と論じている[1]。また小説家・批評家・元東京大学教授の松浦寿輝は「管啓次郎は、ここ半世紀ほどの日本文学が所有しえた最高の文章家の一人であるというのがわたしの考えだ」と述べている[2]。さらに小説家・仏文学者・早稲田大学教授の堀江敏幸は「管啓次郎は、批評を紀行にしてしまう思想の一匹狼、もしくは詩的なコヨーテだ」と評している[3]。
2011年の東日本大震災を機に、31名の作家たちのアンソロジー『ろうそくの炎がささやく言葉』を野崎歓とともに編集。さらに小説家の古川日出男、音楽家の小島ケイタニーラブとともに朗読劇『銀河鉄道の夜』を制作し、各地で上演した。この朗読劇には2012年から翻訳家の柴田元幸が加わり、4人体制で春と秋の東北ツアーを行った。2013年、演出家・高山明が主宰するPort Bの演劇プロジェクト「東京ヘテロトピア」にテクスト監修の立場で参加。小野正嗣、温又柔、木村友祐とともに東京のアジア系住民たちの物語を執筆した。また小説家・リービ英雄をめぐるドキュメンタリー『異境の中の故郷』(大川景子監督)をプロデュースした。この活動の全容はドキュメンタリー映画『ほんとうのうた 朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』に記録されている。[4]
2013年、演出家・高山明が主宰するPort Bの演劇プロジェクト「東京ヘテロトピア」にテクスト監修の立場で参加。小野正嗣、温又柔、木村友祐とともに東京のアジア系住民たちの物語を執筆した。また小説家・リービ英雄をめぐるドキュメンタリー『異境の中の故郷』(大川景子監督)をプロデュースした。[5]
詩人としての評価も国際的に高まっており、2010年1月にはスタンフォード大学、2012年8月にはスロヴェニア、2013年9月にはセルビア各地、2014年9月にはアルバニア、10月にはリトアニアで、招待朗読を行っている。
略歴
- 1977年 東海高校卒業、東京大学教養学部文科1類入学
- 1979年 東京大学教養学部教養学科フランス科進学
- 1981年 ジョージ・ウォレス奨学生としてアラバマ州立トロイ大学留学
- 1983年 東京大学卒業、卒業論文はロートレアモン論(フランス語、指導教官は阿部良雄)
- 1984年 ガセイ南米研修基金によりブラジルをはじめ南米各地・カリブ海域に滞在
- 1987年 皇太子奨学金によりハワイ大学人類学科大学院留学
- 1990年 ニューメキシコ大学にて修士号取得(比較文学+文化人類学)
- 1997年 ワシントン大学(シアトル)にて博士論文提出資格取得(比較文学)
- 2000年 明治大学理工学部助教授(英語・フランス語・総合文化)
- 2005年 明治大学理工学部教授
- 2005年 オークランド大学(ニュージーランド)客員教授(比較文学)
- 2008年 明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻ディジタルコンテンツ系教授
- 2011年 『斜線の旅』で第62回読売文学賞(随筆・紀行部門)受賞
著書
- コロンブスの犬 弘文堂 1989 一部は 河出文庫 2011
- 狼が連れだって走る月 筑摩書房 1994 河出文庫 2012
- トロピカル・ゴシップ 混血地帯の旅と思考 青土社 1998
- コヨーテ読書 翻訳・放浪・批評 青土社 2003
- オムニフォン 〈世界の響き〉の詩学 岩波書店 2005
- ホノルル、ブラジル 熱帯作文集 インスクリプト 2006
- 本は読めないものだから心配するな 左右社 2009 新装版 2011
- 斜線の旅 インスクリプト 2009
- Agend'Ars 左右社 2010
- 島の水、島の火 Agend'Ars2 左右社 2011
- 海に降る雨 Agend'Ars3 左右社 2012
- 時制論 Agend'Ars4 左右社 2013
- ストレンジオグラフィ 左右社 2013
- ハワイ、蘭嶼[旅の手帖]左右社 2014
共編著
翻訳
- 知恵の樹 生きている世界はどのようにして生まれるのか ウンベルト・マトゥラーナ,フランシスコ・バレーラ 朝日出版社 1987 のちちくま学芸文庫
- 赤道地帯 ジル・ラプージュ 弘文堂 1988 (ラテンアメリカ・シリーズ)
- ポストモダン通信 こどもたちへの10の手紙 ジャン=フランソワ・リオタール 朝日出版社 1988 「こどもたちに語るポストモダン」ちくま学芸文庫
- コヨーテたち 越境するヒスパニック・アメリカ テッド・コノヴァー 弘文堂 1989
- シンクロニシティ F.D.ピート 朝日出版社 1989 のちサンマーク文庫
- 秘密の動物誌 ジョアン・フォンクベルタ,ペレ・フォルミゲーラ 筑摩書房 1991 のち学芸文庫
- 潜在意識の誘惑 ウィルソン・ブライアン・キイ リブロポート 1992
- リンクスランドへ ゴルフの魂を探して マイクル・バンバーガー 朝日出版社 1994
- 自分をつくりだした生物 ヒトの進化と生態系 ジョナサン・キングドン 青土社 1995
- 世界を食いつくす ジェレミー・マクランシー 筑摩書房 1996
- 川底に ジャメイカ・キンケイド 平凡社 1997 (新しい〈世界文学〉シリーズ)
- トルトゥーガ ルドルフォ・アナーヤ 平凡社 1997 (新しい〈世界文学〉シリーズ)
- ユダヤ人の身体 サンダー・L・ギルマン 青土社 1997
- 生命の樹 あるカリブの家系の物語 マリーズ・コンデ 平凡社 1998
- 闘牛への招待 エリック・バラテ,エリザベト・アルドゥアン=フュジエ 白水社・文庫クセジュ 1998
- スプートニク ジョアン・フォンクベルタ,スプートニク協会 筑摩書房 1999
- <関係>の詩学 エドゥアール・グリッサン インスクリプト・河出書房新社 2000
- パウラ,水泡なすもろき命 イサベル・アジェンデ 国書刊行会 2002
- 燃えるスカートの少女 エイミー・ベンダー 角川書店 2003 のち文庫
- 歌の祭り ル・クレジオ 岩波書店 2005
- 私自身の見えない徴 エイミー・ベンダー 角川書店 2006
- フランス領ポリネシア エマニュエル・ヴィニュロン 白水社 2006 (文庫クセジュ)
- わがままなやつら エイミー・ベンダー 角川書店 2008
- 星の王子さま サン・テグジュペリ 西原理恵子絵 角川文庫、角川つばさ文庫 2011
- チェルノブイリ 家族の帰る場所 フランシスコ・サンチェス 文/ナターシャ・ブストス 絵 朝日出版社 2012
- 名の明かされない女性への手紙ー恋をした星の王子さま サン・テグジュペリ くらしき絵本館 2012
- チーロの歌 アリ・バーグ文/ローレン・ロング絵 クレヨンハウス 2013
脚注
- ^ 毎日新聞「2009年・この3冊」より
- ^ 毎日新聞夕刊、2010年10月26日
- ^ FIGARO japon、2011年2月号