魔法のスターマジカルエミ
魔法のスターマジカルエミ(まほうのスターマジカルエミ)は、日本テレビ(NNN・NNS)系列で1985年6月7日から1986年2月28日まで全38話が放送されたテレビアニメ。
ぴえろ魔法少女シリーズ | ||
通番 | 題名 | 放映期間 |
第2作 | 魔法の妖精 ペルシャ |
1984年7月 ~1985年5月 |
第3作 | 魔法のスター マジカルエミ |
1985年6月 ~1986年2月 |
第4作 | 魔法のアイドル パステルユーミ |
1986年3月 ~1986年8月 |
概要
『魔法の天使クリィミーマミ』、『魔法の妖精ペルシャ』に続く、スタジオぴえろ(現・ぴえろ)制作による「ぴえろ魔法少女シリーズ」の第3弾。安濃高志監督の代表作の一つであり、その演出スタイルが確立した作品でもある。
マジシャン志望の不器用な女の子・香月 舞が、鏡の妖精トポと出会い、魔法で天才マジシャン「マジカルエミ」に変身し、華麗で大胆なマジックと歌でアイドルとして活躍する、というお話。
本作品は完全なオリジナル企画であり、原作は存在しない。基本的な構成は『マミ』の路線に立ち返り、主役の声優も新人歌手が起用されたが、『ペルシャ』の後半から重視されるようになった主人公の内面や周囲の人々の心象風景を、より深く描き出す事になった。
そのため、いわゆる「アニメ的な記号」が極力排除されたのが、本作品の最大の特徴である。つまり主人公と対立する敵やライバルは存在せず、キャラクターの表情や動きをわざと崩したり、心情や状況をセリフで垂れ流す事もほとんどなかった。淡々とした日常の積み重ねによって各キャラクターの成長を描き出し、特に、主人公の舞が魔法を捨てて精神的に自立してゆく過程を描いた、最終3話(第36話~)の完成度は極めて高い。
深い心情表現とていねいで繊細な日常描写で高い評価を得る、安濃高志監督の演出スタイルは本作と終了後に制作されたOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)『蝉時雨』で確立され、各話演出として参加した望月智充にも強い影響を与えた。
ぴえろの「魔法少女シリーズ」は、内容的には本作で完成の域に達した。しかしながら、明確な対立軸もアニメ的な記号も用いないスタイルは、通好みではあったものの、魔法少女アニメとして派手さに欠けた印象はぬぐえず、結果的に第38話で終了する事になった。また、日常を掘り下げて描けば描くほど、非日常的な存在である魔法の意味は失われ、本作では主人公が魔法と決別して自立してゆく結論を導くに至った。加えてこの演出スタイルが当時としては斬新かつ叙情的であった事から、熱狂的なアニメ・ファンの一部はこれ以外の作風を受け容れられなくなっていった。これらの事柄は、シリーズが行き詰まってゆく一因にもなっていった。
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。
ストーリー
香月 舞はマジシャンを夢見る女の子。祖父が主宰するマジック劇団「マジカラット」の手伝いをしているが、なかなかマジシャンとはいかない感じ。こてまり台に引っ越してきた最中、偶然舞は鏡の妖精・トポと出会い、「願いの叶う魔法」をもらった。そして、魔法のブレスレットで天才マジシャン「マジカルエミ」に変身する。魔法で魅せるマジックで観客を魅了し、ステージは大成功する。そして、偶々このステージを見ていたテレビ局のプロデューサーにエミはテレビに出演させられる事に。そのままアイドルデビューさせられてしまう。こうして、普通の小学生とアイドル「マジカルエミ」という忙しい生活が始まる。
魔法
トポの説明では願いがかなう魔法とされ、舞は自分の理想像である天才マジシャンに変身する事を望んだ。呪文の頭を唱えるとブレスレットからバトンが現れ、それを振り回しながら呪文を唱える事でマジカルエミに変身する。
変身後も舞の意識はそのままであり、性格や口調もあまり変わらない。またマジカルエミはあくまでも舞の理想像であって、成長した将来の姿を示すものではない(『蝉時雨』の冒頭でその事が示される)。
変身後はあらゆる効果の魔法を呪文や小道具なしで使う事ができた。マジックの体裁を取っていたため、人前で自由に使う事ができた点が最大の特徴である。
魔法を使う事に対する制約は特になく、変身する姿を他人に見られた場合のペナルティも語られていない。『マミ』や『ペルシャ』にあったような、変身を見られた事によるトラブルもなかった(番組開始前の設定では、弟が変身を目撃するとされていたが、結局そのような話は作られなかった)。しかし、舞が家族に秘密を明かしそうになると、トポが邪魔をした経緯がある。
万能かつ非常に強力な魔法であったが、ゆえに舞は魔法に頼る事に疑問を抱くようになり、最終的にはそれを捨て去って自分の力で一流のマジシャンになる道を選んだ。
スタッフ
- 製作:布川ゆうじ(スタジオぴえろ)
- プロデューサー:堀越徹(日本テレビ)、大野実(読売広告社)
- アシスタントプロデューサー:深草礼子(スタジオぴえろ)
- シリーズ構成:小西川博、渡辺麻実
- 脚本:小西川博、渡辺麻実、塚本裕美子、平野美枝、遠藤明吾、園田英樹、柚木圭、結木圭、立花あずま、富田祐弘
- 監督:安濃高志
- シリーズディレクター:古川順康
- 演出:安濃高志、古川順康、立場良、片山一良、望月智充、古川順康、高山文彦、向後知一、本郷満、小林和彦
- コンテ:安濃高志、森日高、立場良、片山一良、古川順康、望月智充、水田史美、久保多美子、ゆうきしょう、西久保瑞穂、林政行、向後知一、本郷満、高山文彦、遺映龍、小林和彦、鴫野彰
- キャラクターデザイン:岸義之、本山浩司
- 作画監督:岸義之、洞沢由美子、須田裕美子、福島喜晴、加藤鏡子、高倉佳彦、もりやまゆうじ、高岡希一、井上敦子、橋本淳一、垣野内成美
- 美術監督:三浦智
- 撮影監督:杉村重郎
- 音響監督:藤山房延
- 音楽:奥慶一
- 効果:佐々木純一
- 調整:松沢清、久保田隆
- 録音:新坂録音
- 制作デスク:萩野賢
- 文芸/設定進行:青木佐恵子
- 制作/著作:スタジオぴえろ
キャスト
主題歌
- 『不思議色ハピネス』(オープニング)※
- 『あなただけ Dreaming』(エンディング)
(作詞:竜 真知子/作曲・編曲:山川恵津子/唄:小幡洋子)
- ※は、伊藤銀次の編曲による別バージョンが、アルバム『PEARL ISLAND』に収録されている。
サブタイトル
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OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)
- 『艶姿 魔法の三人娘』 (制作:1986年)
- マミ・ペルシャ・エミの「ぴえろ魔法少女シリーズ」のヒロイン3人が温泉旅行に出掛け、TVシリーズを懐古するという作品。新作映像の温泉旅行の部分と、過去3作の名場面を再編集した計30分の構成である。時間が短く、これといって特筆すべき内容もないが、この時代はTVアニメのソフト化はほとんどあり得なかったため、それなりに需要を得る事ができた。
- 『魔法のスター マジカルエミ 蝉時雨』 (制作:1986年)
- TVシリーズのダイジェスト15分とオリジナル45分から成る。オリジナルはTVシリーズの第12話と第13話の間に相当する、夏の4日間を描いた作品。特別大きな事件は起こらず、舞と周辺の人々の日常が淡々と描かれた。全編を通して「昨日と全く同じ今日は訪れない」「かたちあるものはいつかはなくなる」というテーマが設けられ、それはTVシリーズの結論であるところの、舞の精神的な自立=マジカルエミの消失と、舞とトポの別れを強く暗示させるものになった。加えて、バックグラウンドミュージック(BGM)を極限まで制限し代わりに自然の音を多用する事で、叙情感あふれる映像となった。作画水準も極めて高く、「ぴえろ魔法少女シリーズ」が到達した頂点とも言える作品である。
- 『魔女っ子クラブ4人組 A空間からのエイリアンX』 (制作:1987年)
- 『魔法のアイドル パステルユーミ』を参照の事。
- 『魔法のスター マジカルエミ 雲光る』 (制作:2002年)
- 2002年に発売されたDVD-BOX1巻の特典映像として制作された、十数分の短編。安濃高志が再び脚本と監督を務め、舞の弟・岬が誕生する当時の香月家の風景を、『蝉時雨』と同様に淡々と描いている。ただし、TVで舞役を務めた小幡洋子は既に芸能界を引退し、また年齢設定も7才前後と若かった事から、舞の声は声優の久川綾が替わって担当している。
関連書籍
アニメ関連
(stub)
コミック
- 『魔法のスター マジカルエミ』(あらいきよこ著、小学館フラワーコミックス、全3巻)
- 第1巻 昭和60(1985)年9月20日初版 短編2作を含む
- 第2巻 昭和60(1985)年12月20日初版 短編1作を含む
- 第3巻 昭和61(1986)年5月20日初版 短編1作を含む
- アニメと連動したコミック化で、原作ではない。ちゃおに昭和60年5月号より連載され、前年にデビューした漫画家・あらいきよこが担当した。基本設定はアニメの通りだが、ストーリーはほぼオリジナルで、アニメでは突っ込んで描かれる事がなかった舞と将の恋模様を中心に据え、オリジナル・キャラの栗本なぎさ(将の同級生として登場)を交えながら展開した。魔法の存在はアニメ以上に希薄で、エミはあまり登場せず、変身に用いる小道具も登場しない。なお、本作品ではエミは舞の将来の姿とされている。
その他
この作品は、クリィミーマミといった「ぴえろキャラ」の他にも、ぴえろキャラ以外の版権キャラ(主に第11話において、エミがバルタン星人のきぐるみの上半身をかぶって登場した、別名『バルタンエミ』が挙げられる)や内輪ネタが、普通に見ただけではわからないような形で多く登場している事でも知られている。一例を挙げると、もりやまゆうじがもとやま名義で作画監督を務めた第14話では、舞のクラスメイトの中に当時まだ企画段階だったプロジェクトA子のA・B・C子に加えて西島克彦風のキャラまで登場し、また後半の舞が街角を走るシーンでは背景の人物に混じってアニメージュにもりやまが連載していた漫画『とどのつまり』の主要キャラが全員描かれていた。
この他にも、第16話のエミのステージの観客席には監督・キャラデザ・シリーズ構成に加えて担当演出と作画監督風の人物が描き込まれていた。第22話では弟の岬が見るTVアニメとして宇宙家族カールビンソンのおとうさんが完全変形で登場し、第29話では『忍者戦士 飛影』の主役ロボットの飛影と、ザ・ブーム軍の戦闘ロボットのバンクスの3機が堂々と登場し、視聴者の度肝を抜いた。極め付きは第32話の後半で、エミが『南国人魚姫』を歌ったステージの直後のカットで、アイスクリーム店の客に混じって後番組『魔法のアイドル パステルユーミ』の花園ユーミと三沢恭平が色指定まで合わせて堂々と描き込まれていた。細かいものまで含めると、『マジカルエミ』に於けるこのような隠れキャラの描き込みは、それだけで同人誌が1冊出来上がるほどである。