通過標識灯
通過標識灯(つうかひょうしきとう)とは、鉄道列車が優等列車や回送(つまり駅を通過する列車)として走行する際、各駅停車列車との区別を判り易くする為、正面に点灯する白色灯の事。会社によっては「急行灯」とも呼ぶ。
大都市近郊で優等列車を走らせている私鉄に見られるが、国鉄・JRでは行われていない(ただしJR西日本223系電車では2000番台から通過標識灯がつけられている)。これは通過標識灯が法規による義務でなく、各鉄道会社が任意で使用している為である。
取り付け位置などは、同じ標識灯である尾灯に似ており、両機能を一体化させた標識灯も存在するが、その方向や色は両灯で異なる。なお以下の記事において、尾灯と通過標識灯をまとめて説明する場合は「標識灯」、そして「通過標識灯を点灯する」という意味の記述は単に「点灯」と称す。
発祥
世界で初めて鉄道が実用化されたイギリスでは、列車に関する構成が充実すると、早くも列車の種別(普通か急行か、旅客か貨物か)という分化を見せた。駅や信号所にとっては、これらの列車が何の種別で走って来るか、早急に対応する必要があった(本来なら時刻表も作られているが、予定外の列車も運転され、電気を使った通信手段もまだ完全ではなかった)。
そこで先頭の蒸気機関車の、台枠左・中央・右およびボイラー上部に白色円板(夜間は灯火)を設置、これら計4ヶ所の白色標識の有無により、列車を区別した。ただし古い時代なので意味はデジタル(例えば、左に白があったら全て急行など)でなく、アナログ(例えば、こっちとあっちに白があったら各駅停車で臨時の貨物列車など)な分類を表示していた。
日本の鉄道技術はイギリスの鉄道を基本としており、こうした部分が、通過標識灯につながって行ったと考えられる。
標識灯の形状の違い
一種類の標識灯で兼用
昔の鉄道車両では運転室に「赤←→白」の切り替えスイッチを配置、尾灯として使用する時は、白熱灯の前に赤いガラスを配置していた。なおもっと古い時代の車両になるが、宝塚ファミリーランド電車館に展示されていた阪急600形電車は、標識灯の横に赤と黄のレバーがあり、車体の外からレバーを押して赤灯と白灯を切り替える操作を、入館者でも行う事が出来た。
通過標識灯が窓上、尾灯が窓下
標識灯を窓上と窓下に分離する場合、このタイプが殆どである。東急5000系電車 (初代)はこのタイプだったが、長野電鉄2500系電車として譲渡された際は窓下の尾灯を廃止、窓上の通過標識灯を尾灯に転用している。また1980年代から行先・種別・運行番号表示を上部の黒枠にまとめた「額縁スタイル」が登場してからは、通過標識灯は額縁の両端に黄色い縦長長方形として配置される事が多くなった。
通過標識灯が窓下、尾灯が窓上
京王電鉄は3000系・5000系まで前述のタイプと思われがちだが、実は上下逆になっている(ただし1900系や、新造当初の1000系(初代)は窓上一つで標識灯を兼用)。この為正面を見ると窓下が赤く点灯しそうに見えるが、夜間に列車後部を見ると、窓下には何も無く窓上に尾灯が点く為、少し前の小田急や阪急の様な顔に見える。
横二列(並べて設置)
1960年代後半頃から兼用でなく、尾灯と通過標識灯を別々に設置した標識灯が登場した。標識灯のどちらか片方が球切れを起こした時、弊害を最小限に留めておくことも理由の一つだが、一般的な心理効果として、窓下の標識灯は丸型より角型、さらに一灯より横二列の方が精悍さを増す為、乗客から見て格好いいデザインを目指した事も理由と考えられる。この為か、競争やサービスが不可欠なインターアーバン(都市間連絡電車)タイプの私鉄にはこの採用例が多く、関西大手では南海電気鉄道以外の4社全てにこのタイプが存在する。西武701系電車などもこのタイプだが窓上に装備されており、窓下に前照灯がある為、デザイン的に目立たない。
横二列(離して設置)
前述の変形タイプ。例は少なく、阪急電鉄の2200系~7300系と、西日本鉄道の旧性能車程度にしか見られない。
縦二段
近畿日本鉄道(および近鉄から譲渡された三岐鉄道北勢線)に多数見られる。初期は角型二段であり、まるで人間の二重まぶたの様に見えたが、後に上の通過標識灯が丸型・下の尾灯が角型となった。上の前照灯が丸型・下の尾灯が角型という組み合わせなら地下鉄や関東の私鉄によく見られるが、標識灯同士の組み合わせは珍しい。近鉄では優等列車の走らない支線にもこうした二段式標識灯が存在するが、これは近鉄の社内規定で、入換運転時正面に白色灯を点灯する義務がある為である。故に元々標識灯が一段だった車両も、このタイプに改造されたものが多い。なおどの時代や系列がどんなデザインの標識灯だったかは「近畿日本鉄道の車両形式/世代別変遷(高性能車)」を参照。西武ではやはり2000系などがこのタイプだが、窓上のため目立たない。
LEDの採用
LEDの実用域が広がると、鉄道車両については運転室内の機器表示灯→車側灯→標識灯の順に採用が進んだ。日本の鉄道車両におけるLED標識灯の初採用は、東京地下鉄01系電車量産車や、東武鉄道5070系の頃からである可能性が高い(「鉄道ファン (雑誌)」新車ガイドより)。ただしこの2形式は後述もするが、通過標識灯は装備していない。
当初は従来の白熱灯が入っていたスペースに、ただLEDを入れただけだったが、やがて白熱灯には真似出来ないデザインとして、長方形の大型LEDを敷き詰めた、まるで昆虫やロボットの眼を思わせる標識灯が登場した。またLEDは灯具の色そのものを尾灯用と通過標識灯用(黄)で変えられる為、白熱灯の様に赤いフィルタも二つ並べた灯具も必要なくなる為、一種類の標識灯で兼用するタイプがまた増えて来た。
なお京浜急行電鉄では部品の信頼度の観点から、標識灯のLEDを、近年の増備車では再度白熱灯に戻している。
変遷の多い標識灯
上記の複数段落をまとめての説明となるが、京阪電気鉄道と近畿日本鉄道は新車や更新車が出るたび、こうした標識灯の変遷が激しく、標識灯のまとめだけで車両の形態分類が作れる程である。各形式毎の違いについては、鉄道会社の毎項目から各形式を参照の事。
前照灯との兼ね合い
一般的な鉄道車両が前部に点灯する灯火として、通過標識灯の他に、前照灯が存在する。両灯が同時に点灯する場合、位置関係は以下のケースに分類される。
- 前照灯が窓上中央、通過標識灯が窓上両端
- 前照灯が窓上、通過標識灯が窓下
- 前照灯が窓下、通過標識灯が窓上
- 前照灯が窓下、通過標識灯も窓下
4は前述のJR西日本223系2000番台の他、相模鉄道・名古屋鉄道・南海電気鉄道の一部形式などに見られるが、この場合両灯がかなり接近している為、明るさの弱い通過標識灯が見えにくい(灯火としての意味を成しにくい)。京成3500形電車も4のケースだったが、更新で正面スタイルが全く新しくなった際考慮したのか、通過標識灯のみは窓上に移設した。ただし通過標識灯はあくまでもシンボルであり(形骸化しているとも言える)別に見えにくいとからと言って、その鉄道のサービスや安全性が劣っているなどという事は全く無い。
点灯に関する会社毎の違い
この記事の出典は、Wikipedia:信頼できる情報源に合致していないおそれがあります。特に会社毎の違いとの指摘を受けています。 |
全てを紹介する事は困難な為、ここでは大手私鉄を中心に、よく見られるケースや特徴的なケースの一部を説明して行く。
関西の私鉄
関西はその立地条件から、鉄道が高速運転を行う事がよく知られている所であり、故に点灯頻度も高い。
関東と比べ目立つ特徴は、左右片側だけを点灯する事により、列車種別の違いをより細かく表示している点である(例として「近畿日本鉄道/列車種別」を参照)。この為関西で点灯を行う車両の運転台では、左右別々に白色灯のスイッチが存在する。
さらに特徴あるケースとしては、路線により種別と点灯方法の基準が異なる阪急電鉄や、各駅停車でも点灯する南海電気鉄道が挙げられる。これは大阪市内の複々線区間において、同じ会社の路線の普通列車でも途中駅を通過する列車が存在する事が、理由の一つだと考えられる。
関東の私鉄
高速運転を必要とする立地条件がかなり少ない為、関西ほど頻繁な点灯は行わないのが特徴である。例えば
- 夜は点灯するが、昼は点灯しないか
- 駅を通過する区間では点灯するが、各駅停車区間では点灯しないか
についても点灯しない会社が多く、前述した片側点灯を行う会社も存在しない。以下、さらに会社別に解説する。
関東で最も高速運転の必要性がある事から、昼でも点灯する。また支線を各駅停車でも走る列車でも(たとえ運転区間が支線のみで本線に入らなかったとしても)、種別表示の整合上、急行や特急の優等種別のまま走る列車も多いが、こうした列車も常時点灯している。
関東大手ではかなり早くから点灯を殆ど廃止しており、伊勢崎線と日光線の快速以上の列車種別しか点灯しない時代が長く続いた。東武8000系電車は製造当初、屋根上に飛び出す様に通過標識灯が設置されるという、意外にも珍しい形態を持っていたが、8000系を使う種別の点灯廃止に伴い、全て撤去して埋め込まれた(この場所から雨水が入って腐食する事が、廃止の理由の一つであると言う)。
点灯義務は2000年代初頭頃に廃止されている。
浅草線と新宿線で優等運転を行っており、狭いトンネル内で注意を喚起する必要がある為か、しっかり点灯している。
東京地下鉄(東京メトロ)
細則の異なる様々な会社・路線と直通運転している関係上、路線毎に複雑な事情や変遷を簡単に解説する(ここで解説していないメトロ線は、優等運転には関係ない)。またメトロと併せて説明可能な会社・路線も、この項で説明する。
地下鉄線内での快速運転は有名だが、当初より点灯は行っていない。これは点灯義務の無い国鉄・JRにあわせた為と考えられる。
小田急への直通運転が決定した際、営団(今のメトロ)の車両も準急で運転する事が決定した為、営団としては初めての点灯義務が生じた。当時使用されていた営団6000系は通過標識灯を装備していなかった為、正面窓の上部左右内側に通過標識灯(角ばった懐中電灯の様な型)を後付けした。06系は小田急直通後からの新造の為、通過標識灯を内蔵している。だがその後小田急で点灯が廃止された為、営団6000系も後付けの通過標識灯を撤去している。
有楽町線の他社直通は東武東上線から始まったが、東武の事情は前述通りだった為、点灯に関する問題は存在しなかった。営団7000系は西武線直通時の優等運転を考え、種別表示欄の準備工事がされていたが、新造当初の営団6000系同様に通過標識灯は未装備である。07系は前述の06系と同時に殆ど同じ仕様で製造された為、通過標識灯は内蔵していた。だが西武では西武池袋線ヘの直通運転の開始と同時に点灯を廃止した為、07系は(東西線転属車も含めて)営業運転では一度も点灯しないままになっている。
半蔵門線の開業時から東急田園都市線側で快速運転をしていたが、当初は東急の車両だけで運行されており、営団8000系が製造された後も営団車は優等運用に付かなかった為、通過標識灯は未装備だった。その後営団車も優等運用につく事になり、営団8000系の増備車にも通過標識灯が装備されたが、さらにその後東急でも点灯が廃止された。
東急目黒線では急行運転が行われているが、それより前に東急で点灯が廃止された為、点灯は行っていない。
関東ではこうした相次ぐ点灯廃止(ダイヤ改正と同時に廃止する事が多い)に伴い、同一形式でも当初は通過標識灯を装備していたのが、点灯廃止後は通過標識灯を付けずに製造している。なお従来通過標識灯を装備していた車両でも(尾灯と兼用していない限り)通過標識灯の中身が撤去された可能性はあるが、灯具の入っていた外観はそのままの為、確認は困難である。