声優
声優(せいゆう)とは、ラジオドラマ、テレビ、映画、アニメ、テレビゲーム、洋画の吹き替えなどに、主に声だけで出演する俳優のこと。ナレーターとは異なり、登場人物やキャラクターなどのセリフの吹き替えや声充てを行う。
なお、声優名の前にCVと付いている事が有るが、これは「キャラクターボイス(Character Voice)」の略で、そのキャラクターの声を担当する声優で有る事を表す。この言葉は1980年代後半頃に「月刊ニュータイプ」で提唱された造語であるが、その後アニメファンの間に普及した。英語で声優はvoice actorと言う。
俳優と声優
吹き替え、声充てとは本来、劇団俳優らが声のみの出演をする仕事のことであり、便宜上「声の俳優」ということで声優という言葉を使っている。しかし、声優ブームなるものが度々起きることで「声優」という言葉が浸透してそのまま使われるようになった。そのため年配の声優の中には声優という言葉で呼ばれることに困惑する者もいる。
例えばチャールズ・ブロンソンの吹替等で有名なベテラン、大塚周夫は声優という呼称について、別冊アニメージュ『ガンバの冒険』ムック本において、「我々は俳優であり、声による演技をしているのですから、声優という別称で呼ぶのはよくないですね」という旨のコメントを発表しており、声優を俳優と区別する風潮に強い難色を示している。
日本で声優の専業化が進んだ理由は、第一にラジオドラマ全盛期にNHKと民放が自前の放送劇団を組織して専門職を育成したこと、第二にテレビの普及期はソフト不足のため海外製映画、海外ドラマが大量に放送されて声優による吹替の需要が増大したこと、第三にアニメブームにより最初から声優専門の演技者を志望する者が増えたためだと考えられる。
声優の経歴
現在第一線で活躍している声優の経歴を見ると、大別して4つのケースが存在する。
ひとつは、小中学生の頃から大手の劇団等に子役として所属し演技力を養い高校卒業と共に、あるいはそれと前後していきなり第一線で活躍するパターン。古くは池田秀一、中尾隆聖。最近は浪川大輔、飯塚雅弓、渡辺明乃、千葉紗子、南里侑香、名塚佳織などがこれに当たる。
ひとつは、高校、専門、大学卒業後に劇団で舞台役者として活動中にアニメ関係者から見出され、声優として活動するパターン。富野由悠季に見出された朴璐美、白鳥哲、青羽剛、村田秋乃、高橋理恵子やそれとは別に舞台役者から声優に転向した生天目仁美などがこれらに当たる。
ひとつは、高校卒業と同時に後述の専門学校やプロダクション直営の養成所で数年間役者としての勉強をし、見習い期間を経てデビューするパターン。学生時代にアニメを観て声優に憧れこの道を志す人間は大抵このパターン。一般人にとっては最も手の届きやすい方法であるがそれだけ倍率も高い。
ひとつは、元々は別の職に就いていたが転向して声優になるパターン。その中でも元電通マンの永井一郎や元警視庁機動隊所属の若本規夫、あるいは建築学科を卒業してから銀行員を経て声優となった金田朋子のような完全な異種参入組とアイドルから転向した岩男潤子、千葉千恵巳、ヌードもこなすグラビアアイドルから転向した柚木涼香、レポーターだったかかずゆみ、松岡由貴など一応は芸能界に身を置いていた人間に分類される。
最近は俳優・女優・アーティスト業の傍ら声優として活動するケースも少なくはなく、特撮(特に変身ヒーローものではアフレコが必須で、声を当てると言う作業に慣れている人が多い)、俳優などでも活躍した後声優に転向した中田譲治と内田直哉、現在も俳優としても活動している小川輝晃、アーティストは元Changin' My Lifeのmyco、栗林みな実などが声優として活動している。お笑い・落語・講談師方面では、九代目林家正蔵(旧:林家こぶ平)、栗田貫一、ラサール石井、一龍斎貞友、一龍斎春水(麻上洋子)が挙げられる。
アイドル声優
最近では声優の仕事は多岐に渡り、声充て・吹き替えだけでなく着声、CDを出したり写真集を出したりする者もいる。また、自分がパーソナリティーを務めるラジオ番組を持つ場合も多い。このような幅広い活動を行う声優を俗にアイドル声優という。このアイドル声優は林原めぐみが先駆けとなり、國府田マリ子、椎名へきるなどでブームに火がつき、現在に至る。このため、現在の声優は、演技力のほか、ルックスの良さや歌唱力、自分自身が独特のキャラクターを持つことなど、様々な能力が求められるようになっている。
女性声優が20代早々で売れ出す例が多いのは、アイドル声優が若さを重視しているからだと考えられる。一方、男性声優はアイドル声優として売り出されることが少ないので20代で売れる例は少なく、30代になってから売れ出すという例が多い。
ちなみに女優の仲間由紀恵もアイドル時代に声優の仕事をメインとしていてアイドル声優とも言える。ただし、仲間本人とファンは声優としての活動自体を忘れ去りたい過去(黒歴史)としての認識を持つ。
オタク声優
最近ではより強い個性ある声優が求められた結果、「ゲームオタク声優」「アニメオタク声優」「インターネットオタク声優」「ロリータ声優」「コスプレ声優」「軍事オタク声優」などが生まれつつある。 どれもジャンルを確立するほど定着したわけではないが、やたらゲームに詳しかったり、アニメに詳しかったり、コスプレをしたり、鉄道や軍事に詳しかったり、プラモデル制作に命を奉げていたりする。 時には延々とボーイズラブゲームを語ったり、紅茶だけで何時間も話したりする声優もいる。 またこう言った声優はレイヤー上がり(コスプレイヤーを実際にやっていた経験がある声優)であったり、世界最大とも言える同人誌即売会コミックマーケットにサークル参加していた人物が声優をしていたりする。 中には堀江由衣の自室の事など私生活の乱れ具合を披露したり、関智一のように卑猥な単語を連発して夢をぶち壊す事で逆に人気を得ている声優もいる。 ただ、卑猥な単語を連発し過ぎて事務所を追い出された声優もいる。 アイドル声優との違いは、その「はっちゃけぶり」であり、事務所との軋轢をどう回避しているのか疑問に思う程の強烈な個性である。 オタク声優の代表例としては桃井はるこが挙げられる。
ネトゲ廃人声優
オタク声優の派生で、ゲームはゲームでもオンラインゲームに没頭しすぎるという極めて稀なケースも存在する。 主にMMORPGのラグナロクオンラインにその傾向が極めて高い。それがきっかけで管理会社から関連番組への出演を要請されるというその人にとっては嬉しい誤算もある。 代表例は緑川光、植田佳奈が挙げられる。
女性向けゲームと男性声優
男性声優は女性声優に比べ、アイドルとして売り出すには客層が男性中心でファンが掴み辛く また男性声優としての(商売と連動した)振る舞い、商業スタイルが確立されていなかった。
しかし、転機は 1993年のゲーム会社大手コーエーの戦略で訪れる。 当時の副社長 襟川恵子 氏が女性向けのゲームを開発するよう指示。 女性向けの恋愛シミュレーションゲーム開発グループ、[ルビー・パーティー]が結成された。 ルビー・パーティーは「アンジェリーク」、「遥かなる時空の中で」、「金色のコルダ」と言ったヒット作を生み出す。 それに伴い、女性向けゲームに出演する男性声優も商業スタイルが確立。 ゲーム中のキャラを演じながらのライブ音楽、またゲームに連動したアニメ作品と言った形で人気を博す男性声優が出てくる。
この男性声優の活躍と共に、女性向けのアニメ、ゲームも増える。 また最近ではヤオイ方面の作品に進出する男性声優も多い。
エロゲ声優・エロアニメに出演する声優
エロゲ声優とは、アダルトゲーム、18禁アニメで活躍する声優の事である。 現在、アニメの声優として有名な声優の中にはかつてこれらのゲーム、アニメに出演していた人物も居る。 そう言う人物の大半はエロゲ声優の時の芸名とアニメ声優の時の芸名を変えており、 声優のファンも大声でその事を指摘したりはしないことがマナーになっている。
エロゲ、と言うと汚れのイメージがつき、声優事務所もエロゲに参加している事を声優が公言する事はやめるように言っている。 また声優の同意も無く、勝手に芸名が変わってしまうと言う事も多い。 だが最近のエロゲ声優はむしろ開き直る傾向が強く、堂々とエロゲ声優をやっていると宣言し、自らホームページを立ち上げる人も多い。 エロゲ自体の性質もストーリー重視に変化してきて、またエロゲがアニメ化される事も頻繁なことから、むしろエロゲを誇りとすら言う声優も一部だがいる。
なお、エロゲ声優の全てがエロゲに出演している事に肯定的評価をしているわけではないので (仕事上の理由や演技力向上の為にやっている声優もいる)エロゲ声優に接する場合は言動に注意する事。 また明らかに某エロゲ声優の声と一緒なのに、名前を変えて別作品に出演している声優には黙して温かくそれを見守る事が要求される。
プロダクションの得意分野
声優のプロダクションは会社によって得意分野が違っていて、声優の仕事は所属プロダクションの得意分野に左右されることが多い。プロダクションの得意分野を挙げると、アニメはアーツビジョン、アイムエンタープライズ、吹き替え、ボイスオーバーはマウスプロモーション、劇団(文学座、青年座、演劇集団「円」、昴など)、ナレーションは青二プロダクション、シグマ・セブン、NHK製作番組は81プロデュース、CMは大沢事務所とされている。
このため、いくら実力がある声優でも所属プロダクションの得意分野以外の仕事は取りにくいことがある。例えば、吹き替えは実力のある声優が起用されることが多いが、アニメで実力がある声優でも吹き替えの仕事が取りにくいプロダクションに所属していれば吹き替えに起用されることは少なく、逆に実力に乏しい若手声優でも吹き替えの仕事が取りやすいプロダクションに所属していれば吹き替えに起用されることがある。
声優と芸能界
アニメファン・声優ファンは歌手やタレントを「芸能人」と呼んで区別することが多い。声優も芸能人の一種であるが、声優はアニメ、映画の吹き替え中心で独自の発展を遂げたことが区別する理由だと考えられる。声優は地下アイドルやお菓子系アイドル同様一般の芸能人と区別される存在であるといえる。
歌手やタレントは知名度を期待されてアニメや吹き替えで重要な役の声優に起用されることがあるが、演技が下手なことが多いため、実際に声の出演の訓練を受けキャリアを積んだ俳優・声優が軽視されていると批判する意見が多い。特にスタジオジブリ制作のアニメ作品は日本映画トップクラスの観客動員数を誇るだけに、歌手やタレントの声優起用が毎回批判の的になることが多い。
有名芸能人の中には若手の頃の声優の仕事を無かったことにしている人も見られる。
歌手やタレントが知名度を期待されて声優に起用されることがある反面、芸能プロダクションは声優のマネジメントには消極的である。それでも声優ブームに乗って声優のマネジメントに進出した芸能プロダクションも存在し、田辺エージェンシーは小西寛子を所属させたが上手く行かなかった。サンミュージックプロダクションは松本梨香を所属させ、中嶋ミチヨら所属タレントもアニメに出演させたが結局上手く行かず、寺田はるひ、こやまきみこは声優のプロダクションに移籍してしまった。タレント一人二人を声優にしただけでは上手く行かないようである。また、池澤春菜はオスカープロモーションに移籍したが、最近では「声優」と言うより「『フランス語会話』のアシスタント」と言う方が通じやすい。
声優界と芸能界の事務所移籍や扱いについて
芸能人(ここで言う芸能人に声優は含まれない)は、存在その物が商品である為、事務所移籍には厳しい条件、時に契約違反として莫大な制裁金などが発生する。 これと比較し、声優業界は基本的に移籍の制限は厳しく無い。(もちろん一般的に、と言う意味であり例外もある) また移籍したからと言って事務所がアニメの大手スポンサーに圧力をかけて仕事を妨害すると言うような事も無い。 さらにアニメなどでは長年声優をやっているから、などと言う理由では採用されず、作品世界に適合した声や演技力を持つ人物が採用される傾向が強い。 大物声優でも選考オーディションを普通に受けるのが、芸能界とは違うところである。 ただし、視聴率を取りやすい人気声優、アイドル声優は比較的集中的にキャスティングされることもあり、出演作が続くこともある。これによって作品の多さの割に代わり映えのないキャスティングということも多々ある。
日本武道館の声優コンサートの成功、芸能界の驚愕
日本武道館でコンサートをして成功させるには、知名度だけではなく、熱烈なファンの獲得と歌唱力、演技力、人物的魅力など総合的な能力が必要とされ、大物芸能人(ここで言う芸能人に声優は含まれない)でも滅多に成功出来ない。 よって、日本武道館のコンサートで成功させることは大物であると言う事を内外に示す意味も持つ。 20年以上芸能界に在籍する人でも日本武道館でコンサートを成功させるのは難しいと言われたが、 声優椎名へきるの成功は声優界、芸能界の両方に衝撃を与えた。
特に声優界では、この椎名へきるの成功から一気にアイドル声優が次々と誕生し、 次々と日本武道館コンサートで成功させると言う「アイドル声優ブーム」を生み出した。 逆に芸能界では日本武道館コンサートを成功させることは依然として難しく、声優業界に謙虚に学ぼうと言う人から、たかが声優と反発する人まで様々な意味で芸能界に衝撃を与えた。 アイドル声優ブームの絶頂期は過ぎた物の、アイドル声優自体は毎年新しい人物が登場し、むしろその影響力は拡大している。
芸能人のファンと、声優のファンの違い
芸能界では主に芸能人を「高嶺の存在」とすることでファンを得てきたが、声優は芸能人以上に狭い部分をターゲットとするので「身近な存在」とすることでファンを得てきた。しかし、それは熱烈なファンを大量に産むと言う手法として確立し、特にアイドル声優に直接関連する商品(直筆サイン等)は高騰した。またその熱烈なファンの結集が膨大なエネルギーとなり声優の成功へ導かせ、結果として芸能界でさえ難しいと言われた日本武道館コンサートで成功する声優を次々と生み出した。つまり、声優以外の芸能人の人気は浅く広くであり、声優はその範囲の狭さを深さでカバーしていると考えればよい。前出のオタク声優、ネトゲ廃人声優などは、この親近感を与えるための存在であるといえる。
近時の声優の立場など
近年はメディア発達等により舞台公演等に行かなければ見ることが出来なかった素顔の声優たちも比較的一般的なメディアにおいて生の演技やトーク等を見ることが多くなりつつある。しかしアニメファンや吹き替え作品のファンにとっては、本来「影の存在」だった声優が表舞台に姿を見せるようになったことに対して、キャラクターや作品のイメージが壊れる(特にアニメの場合は絵と人間との比較となるため両者間のギャップが大きい場合がほとんど)と感じ、嫌悪感を持つファンも多い。また、声優(特にアイドル声優)の登用に際して演技力が軽視されるようになってきているのではないかと危惧する向きも多い。声優自身が作品の登場人物に扮して、舞台で公演した例としては、セーラームーン、HAPPY☆LESSON、テニスの王子様、HUNTER×HUNTERが上げられる。
現在では従来のように舞台俳優をホームベースとしながら声優も併せてこなす者に比べ、前述のようなアイドル化した声優や本当に声優活動に絞って仕事を行う者も増えてきている。しかし現況ではアニメファン・声優ファンという特定のファン層が確立しているため、若い声優たちはもっぱら彼らを対象とした活動が中心とする傾向にある。また声優は歌手・タレントに比べるとルックス、所属プロダクションの力で劣ることもあり、芸能界やマスコミなどエンタテイメント業界には声優を見下す風潮が一部に残っている。1970年代から1980年代を中心に民放各局で知名度の高い芸能人を映画の吹き替えに起用するケースが多発し、特に日本テレビの「スターウォーズ」では視聴者の不興を得て沈静化、現在ではフジテレビがたまに起用する程度ではあるが、劇場用のファミリーアニメにおいては、1990年代後半からは起用されることが増えて来ている。宮崎駿などはおたく嫌いを表明し、声優を売女と呼び登用しない。一方で押井守は、声で全ての演技を行う声優という職業を非常に尊敬しイノセンスで攻殻機動隊から続けて登場するキャラクターの配役の交代を反対し、交代の話を退けたと言われている。また一般大衆側からも、視覚的に認知しにくい声優という存在はやや縁遠いものであり、声優がメジャーなタレント等と同等の芸能人として一般的に評価されるようになるのは事実上困難な現状である。
世間一般で声優の地位が低い代表的な例として挙げられるのは、レコード店では声優が個人またはユニットで歌う音楽CDのほとんどが「アニメ関連コーナー」に置かれていることである。専業歌手でない芸能人が歌う音楽CDが専業歌手並みに扱われていることに比べると低い扱いであると言わざるをえない。
最近では山寺宏一がTVドラマやバラエティ番組に幅広く出演しており、声優を見下す風潮に対して一石を投じている。
声優稼業の悲惨すぎる実態
声優は儲からない。いや儲かる以前に徒食に窮することが多い。声優には所属事務所からの基本給というものは事実上存在せず、各人の仕事実績によるギャランティ(報酬金)が収入となる。かつては声優の多くが日本俳優連合(日俳連)に所属しており、日俳連は音響制作会社の集合体である音声製作者連盟(音製連)を相手に待遇の改善を申し入れて来た。街頭デモ活動を行うなどして、1973年には報酬の314%アップ、1980年には再放送での利用料の認定を勝ち取って来た。この日俳連による規定で、仕事1作品あたりの報酬は作品のジャンルや放送時間帯、放送回数、ソフト化等による二次利用、そして経験実績等の条件によって受け取る額が算出される方法を取っており、音響制作会社の一方的な言い値で手取りを決定されるということはない(一概には言えないが、日俳連は基本的に土日祝日のゴールデンタイムに放送される番組に最も高いクラスの報酬を設定している)。ただし、これらは日俳連と音製連による協定であり、日俳連に所属しなければこの規定に縛られることはない。例えば、石原裕次郎は映画『わが青春のアルカディア』の出演料が1000万円だったと言われている。また、ゲーム会社は音製連に属していなかったため、この協定よりも遥かに高額な報酬を声優に支払っていた時期がある。このような規定を嫌う製作者側が日俳連に所属しない声優を起用するケースが近年では増えて来ており、現在では日俳連の組織率は低下してきている。
新人声優は1つのアフレコで約1万5千円のギャランティが日俳連規定による相場であり(ジュニア期間等と呼ばれる)、そこから税金や会社に手数料等を引かれるため1ヶ月働いても歩合は6万はもちろん5万にすら届かない。4つ、5つもレギュラーを持っている新人声優などおらず当然のことながら生きていく為にアルバイトによって徒食しなければならない。多くの声優らは自らの技術向上や徒食のため舞台演劇に立つが、これに関して稽古期間や公演期間が当然発生する他、スキルを維持するために1日2時間程度の自主練習が必要である。さらには下記のようにオーディション合格を自分の足で稼がなくてはならず、声優の仕事は突然はいることも多く、その時は当然声優の仕事を優先させなければならない為、アルバイトを長持ちさせることができない。そして声優の給金は仕事のニ・三ヶ月後にでる。当然貯金などもほとんどできないし、運良く東京出身ならば親には文句を言われ続けられる程度で済むが、上京しているならもっと悲惨であることは想像に難しくない。このような普通に生活するということ程度のことが非常に困難であり、いつ生活の破滅が訪れるかわからないような恐怖に悩まされるような悲惨な生活を日々を送っている声優が多くおり、三十代でアルバイトをしている声優など珍しくもなんともないほどである。
このように単純声優で食っていくためには相当な覚悟が必要である。ただし、このような裏話を表に出す声優は滅多にいない。数少ない例外である浅野真澄によれば、主役としてレギュラーを持っていた時期でさえ食事代にも困窮してパンの耳や納豆ご飯だけで凌いでいたそうで、その前には料金未納で電話を止められたこともあったとのことであった。
声優の仕事の取り方であるが、所属事務所を通して配役をあてがわれることは極めて稀である(音響制作会社から声優のマネージメントを声優事務所に任されていると、端役等が事務所マネージャーに一任される場合はある。「協力:○○プロダクション」などとクレジットされているときはそう考えてよい)。通常は各作品の制作プロダクションから声優の事務所庶務に、洋画ビデオ吹替やテナント等のナレーション、アニメーション等各作品の「オーディションのお知らせ」が通達されるのみで、声優はこれらに事務所を通じて応募してオーディションを受験し、合格を取るといった「自らの足で稼いで仕事を取ってくる」ことがほとんどである。洋画の翻訳会社からビデオ化の際の吹替トラック作成に際して指名を受けることもあるが、これは外国俳優の持ち役等を持っている声優などごく一部の例外と言ってよい。従って如何に就労意欲があろうともオーディションで採用されなければ無収入のままであり、声優として稼業するということは、常にオーディションを受け続け、勝ち続けなければ食べることが出来ないという厳しい現実を繰り返すことなのである。
一般人でも名前は知らずとも声は聞いたことのある人が多くいるであろうほどの有名な声優である神谷明でさえ、近時においても新人声優らと一緒に様々な作品のオーディションを受け続けており、配役を得ても、声優として稼働した場合の1本あたりの純ギャランティは現在8万程度である。出演本数等から換算した場合、神谷明の年齢から考えても純粋に声優として稼働した場合は同世代の平均的な年収に達していないことから如何に儲からず厳しい業界であるということが伺える。
そのためベテラン声優は本業の勤務傍ら、経験を活かして音響監督等のスタッフ業に転身する者も多く(現在では千葉繁、三ツ矢雄二等がスタッフ業を主として稼業している)、前述の神谷明も近年は出版会社の役員になる等サイドビジネスをメインとして稼業している状況である。全体を見れば非常に厳しい世界であるが、バラエティ番組のナレーション等で高額の年収を得ている者もおり、実力と運が必要な世界である。しかしアニメのレギュラーといっても放送は週一の30分番組。実労時間を考えれば(役作り等の時間を踏まえても)レギュラー一本で一月の生活うんぬんを語るのも無理な話ではある。実労時間は回を重ねるごとに慣れてくるので短くなるし、各話の台詞の量、役の大小はギャラには関係してこない。つまりほんの一言の出演でも規定の報酬を得ることができ、短時間で終えることができる。日に数本のアフレコ、ナレーションなどの仕事をすることは時間的に可能で、こなした数だけギャラを得ることができるのである。仕事を得ることができれば十二分な報酬を手にすることは普通に可能である。舞台出身のものが声優を始めるのもアフレコや役作りに時間をかけない等、舞台に比べれば比較的簡単に収入を得ることが出来るためでもある。
なおここ数年のアダルト方面、特に女性は偽名を使いアダルトゲームなどの声優として活動する事も多く、その収入はアフレコ一本分の収入の数倍貰えるとされている。しかし、やはりその方面でも役を取るために地道な営業活動が必要であり、アトリエピーチなどアダルト関係を専門に扱う事務所に属する声優、各アダルトPCゲーム会社とのパイプが太いフリーで活動する声優と熾烈な競争に勝たねばならないという現実がある。逆に男性の場合、ボーイズラブの仕事が入り、うまくいけば女性人気を得る事も容易いとされている。櫻井孝宏はかつて自分のラジオ番組で「BLがあったから今の自分がある」との発言を残した。女性に比べ男性は性的メディアに出演する事への抵抗がないことから、多くの男性有名声優がアダルトソフトやボーイズラブの仕事を受けている。むしろ、出ていない男性声優の方が少ないとの見方もある。ただし、多くの男性声優もアダルトについては偽名を使い活動しており、一条和矢のように表の名前で活動するケースは極めて珍しい。
アニメージュは毎年大きな人気投票を行うため、アニメに出演した声優をリストアップするが(本業は歌手やテレビ等をメインにする俳優なども混ざる)そこで示される声優の総数はおよそ1500人弱にのぼる。
声優のメリット
厳しい実態がある声優業界だが、メリットもある。
まず、儲からないと言われる声優だが舞台俳優よりは儲かると言う点。 これは舞台という物の需要が(アニメ等の声優家業に比べ)少ない為、 どうしても儲かる人物が一部の中のさらに一部の人間になってしまうところにある。
次に、私生活においても自由に行動しやすいところがある。テレビ画面に出る芸能人は顔も覚えられるため、人通りの多い場所や人気の場所に行けばあっという間に取り囲まれて身動きが取れなくなってしまう(特にジャニーズ所属のタレントになると外出自体困難らしい)。声優もまたその大部分が舞台演劇に立ち、いわゆる「顔出し」の仕事をしているものの、テレビ等に頻繁に登場する芸能人と比べると、世間一般に対する露出頻度が非常に低いため、アニメファンなど一部の層以外には視覚的に認知されにくい。そのため街頭で取り囲まれるようなことはほとんど無く、自由に行動しやすいメリットがある(ただし、秋葉原などのアニメファンが集中する場所は例外)。
写真週刊誌やワイドショーなどにほとんど取りあげられないというメリットも大きい。芸能人の場合は交際、不倫などスキャンダルによってイメージダウンやマスコミの攻勢によって仕事面でも精神面でも打撃を受けることが多い。これに対して声優の場合はこのように取りあげられることはほとんど無い。実際、過去にスキャンダルとして報道された例は極めて少なく、マスコミに取り囲まれてしつこくプライベートの質問をされることも無いので、その分、精神的には非常に楽と言える。スキャンダルの例として石原絵理子が声優業と平行して別名でAVに出演していた事が発覚した際、東京スポーツで紙面の四分の一を占めるほどの記事となった。
また、声優業界は独立や移籍に対して比較的寛容である。芸能界では一般的に所属事務所を通した活動を行い、そのギャランティからの仲介料がまた事務所の収入となっているのであるが、そのため独立や移籍を敢行すると、事務所を通じて得ていた仕事のルートが寸断されるため活動内容に大きな変化が顕れる。そして独立であるが、例として爆笑問題や鈴木亜美のように独立或いは事務所と軋轢を深めることによって、それまでの「大手事務所経由による仕事の契約」というルートが寸断されてしまい、その後の活動に影響が顕著に現れた芸能人もいる。
そして、芸能界内部には独立に対して冷ややかな反応があるのもまた事実なようで、これは次々と独立を許せば大手プロダクションの経営基盤に影響を及ぼす可能性があるため、安易な独立を好ましく思わないという業界の姿勢があるからという説もある。しかし、声優業界は「オーディションを受けて仕事を得る」という芸能界本来のシステムが未だ主流であり(もっとも声優に限らず一般的な芸能界では本来、オーディションによって俳優を決定するのが基本形であり、現在も多くの作品においてはオーディションによる配役決定という姿勢で作品制作が行われている)、独立や移籍に関しては比較的寛容である(しかし営業活動については事務所という背景が変化するため状況が大きく変わることがある)。実際に林原めぐみ、横山智佐、難波圭一などの人気声優が独立して活動しているが、一般的な芸能人に比較して単体での営業活動基盤が細い声優業界においては、彼らのような状況はほんの極一部の成功者のみ許される選択肢でもある。
専門学校・養成所について
声優を目指すという場合、代々木アニメーション学院のようなアニメーションやマルチメディア関係の専門学校に声優学科を併設する専門学校が数多く存在し、専門学校出身の声優も多い。 また、声優プロダクション直営の声優養成所と呼ばれる組織があり、アーツビジョンの養成組織である日本ナレーション演技研究所や青二プロダクションの養成組織である青二塾などが有名である。声優養成所では、プロの声優が講師となり演技の指導を行う。このような講師の仕事も声優の仕事の一部である。
養成所や専門学校での養成期間は概ね2年から3年であるが、ここで習うのは声優としての訓練ではなく通常の俳優としての演技である。すなわち一般的な俳優と何ら変わらない訓練を積むのである。 これはどのプロダクションにも一貫している見解であるが、素の演技が出来ない者は声の演技などまして出来ないということである。訓練生はまず、一本立ち出来る演劇俳優として徹底的に鍛え上げられるのである。
演技の勉強をしてきた後、プロダクション主催のオーディションに合格するとプロダクションに所属できる。この時点では各所属において「新人」「ジュニア」と呼ばれる見習い期間となる(このジュニア期間については前章「声優稼業の厳しい実態」参照)。そして見習い期間にどれだけオーディションに勝ち残れるかが、正所属や本所属といわれる段階に進めるか否かの分岐路であり、これが順調に進められた者は大手の声優プロダクションに移籍することもある。
逆に言えばこの新人期間にオーディションで仕事を取れない者はこの後遅咲きで伸びるということはほとんどなく、夢を断念して去るか、再び養成所に入所し直して演技力を高めるしかない。
毎年2000人以上いると言われる声優の訓練生だが、実際に生き残ってプロデビューを果たせる者はほんの僅かであり、プロの声優となるには長い期間の下積みが必要な、非常に狭き門といえる。
実際の状況として多くの訓練生の中には、特段可愛い声、特徴ある声、声のバリエーション幅が広く幾つもの年齢層を演じ分けられる人、或いはアイドル声優として売れそうな容姿の女性声優の卵などはかなりの数がおり大して珍しい存在ではなく、これらの能力・技能があるからといって成功に直結したという例はほとんどないのが実態である。ここから頭角を現して生き残れる条件は結局、芝居力・演技力が他の者より優れているか否かである。すなわち養成所時代にどれだけ総合的な演技力が身につけられたかが勝敗を決めることになるのである。そして勝ち残った僅かな者も、前章のようなオーディションを戦い続けなければならない、厳しい人生を歩んでゆくことになる。
ただし、能登麻美子のようにデビュー当時から演技力が向上せずに役の幅が広がりアニメの出演本数が1クール最大7本という極めて珍しいケースも存在する。