ゴールデンカムイ
『ゴールデンカムイ』は、野田サトルによる日本の漫画作品。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2014年38号より連載中。明治末期の北海道を舞台にした作品で、公式からは「冒険(バトル)」と「歴史(ロマン)」と「狩猟(グルメ)」と打ちだされている。アイヌ語研究者の中川裕が作中のアイヌ語監修を務めている。2015年度コミックナタリー大賞・第2位[1]。「このマンガがすごい! 2016」(宝島社)オトコ編・第2位[2]。「マンガ大賞2016」大賞受賞作[3]。
| ゴールデンカムイ | |
|---|---|
| ジャンル | サバイバル、バトル 明治時代(日本史) アイヌ文化 料理・グルメ ストーリー漫画 青年漫画 |
| 漫画 | |
| 作者 | 野田サトル |
| 出版社 | 集英社 |
| 掲載誌 | 週刊ヤングジャンプ |
| レーベル | ヤングジャンプ・コミックス |
| 発表号 | 2014年38号 - 連載中 |
| 巻数 | 既刊7巻(2016年4月現在) |
| テンプレート - ノート | |
あらすじ
日露戦争(明治37年)に従軍した元陸軍兵・杉元佐一は、戦死した親友・寅次の「妻の梅子の眼病を治してやりたい」という願いを叶えるため、一攫千金を夢見て北海道の地を踏み砂金を採っていた。ある日杉本は、アイヌが秘蔵していた八万円(現代の価値にして約8億円)相当の金塊の噂を耳にする。アイヌから金塊を奪った男・のっぺらぼうは、収監された網走刑務所の獄中で、同房の囚人たちの体に全員合わせてひとつとなる入れ墨を彫り、金塊の隠し場所の暗号にしたという。その後その囚人たちが脱獄したという話を聞きつけた杉元は、金塊探しを決意する。
探索行についた杉元は、ヒグマに襲われた窮地をアイヌの少女・アシㇼパに救われる。アシㇼパの狩人としての技量と知識に感服し、さらにアシㇼパの父が金塊を奪われて殺されたことを知った杉元は、自身は親友の願いを叶えるだけの金を手に入れる代わりに、残りの金塊をアイヌの手に戻しアシㇼパの父の仇を討つことを条件に、アシㇼパに金塊探しへの協力を求め、行動を共にすることになる。
入れ墨の手がかりを求めて向かった小樽で、杉元達は入れ墨持ちの囚人の一人を捕らえるが、同じく金塊を狙う陸軍第七師団の尾形百之助によって囚人を射殺され、尾形と戦う。さらに次に捕らえた入れ墨の囚人・白石由竹から、脱獄囚の中に死んだはずの土方歳三であるという噂の老人がいたと聞かされる。その土方歳三もまた、かつての盟友・永倉新八と合流し、元囚人にして不敗の柔道家・牛山辰馬を仲間に加えて、自らの理想を叶えるために金塊を追い求めていた。
杉元は第七師団の谷垣源次郎らの追跡を受けるが、アシㇼパの友である白いエゾオオカミのレタラの加勢で振り切り、アシㇼパのコタン(アイヌの村)に逗留する。アシㇼパのコタンでの平和な境遇を知った杉元は彼女を残して去る。小樽の街で一人聞き込みをしていた杉元が第七師団の鶴見らに捕縛され尋問を受けていると、アシㇼパと白石が駆けつける。協力して危地から脱出した杉元は、改めてアシㇼパと白石と共に金塊獲得を目指すことになる。
登場人物
- 作中での人名のふりがなはすべてカタカナ表記。
主要キャラクター
- 杉元佐一(すぎもと さいち)
- 日露戦争帰りの元陸軍兵士。関東出身。第一師団にいた頃は、驚異的な戦闘力及び回復力、強運から不死身の杉元と恐れ讃えられた。旅順攻囲戦では白襷隊と呼ばれる決死隊の一員として夜間奇襲に参加、死線を潜り抜けボロボロになりながらも生還した。この直後、互いに名を名乗らなかったが谷垣からカネ餅を貰っている。続く二〇三高地でも奮戦した。猫舌。満期除隊後、戦死した親友の寅次の妻の梅子の眼病を治療し、養える分の大金を得るため東京から北海道へ移り砂金採りをしていたが、アイヌの埋蔵金と、その在り処を暗号として入れ墨された脱獄囚たちの話を聞き、金塊探しに乗り出す。その矢先に羆に襲われたところを救ってくれたアイヌの少女・アシㇼパの父が、金塊強奪犯に殺されていたことを知り、金塊探しのための協力しあうことになる。殺人を嫌がるアシㇼパの意向もあり、見つけた刺青の囚人はなるべく殺さず、刺青を描き写して放すことになったが、相手の性情や事情で交戦せざるを得ない状況になることが多く、その結果、囚人が死亡した場合は、皮を剥いで刺青人皮として保管している。
- 戦場で負った夥しい傷跡が顔を含め全身に残っており、鶴見の部下に捕えられた際には顔の傷から身元を割り出された。除隊後も当時の帝国陸軍で制式採用されていた三十年式歩兵銃を所持しているほか、軍帽や弾薬盒などの装備を携行している。かつて、梅子とは想い合う仲だったが、家族たちが相次いで結核に罹患し死亡したことで、自分が彼女を感染させてしまうことを恐れ、父親が亡くなった直後に家に火を放ち、梅子に別れを告げた。同じく梅子を想っていた寅次と縁付くことを奨め、故郷を去っている。
- 戦いの時は非情でタフだが、普段は誠実で飾らず、未知の物事への興味や敬意を臆せずに表せる素直な性格。母熊を喪った小熊の身を案じたり、アシㇼパを戦いに巻き込まぬよう配慮したりと、情も篤い。命の恩人でもあるアシㇼパを相棒として信頼しており、「さん」付けで呼び、彼女をアイヌであることから侮辱したり、危害を加えようとする者がいれば容赦なく攻撃を加える。物語初の料理場面で、アシㇼパにアイヌが食事中に食べ物に感謝するための言葉である「ヒンナ ヒンナ」を教えられてからは、料理に舌鼓を打つたびに「ヒンナ」を連発するようになっている。
- アシㇼパ
- アイヌの12-13歳ほどの少女。作中ではアシリパのリはアイヌ語の小書きリで表記されている。和名は「小蝶辺明日子」。深い青に緑が散った美しい瞳をしており、凛々しい顔立ちの美少女であるが、頻繁に変顔をする。日本語が堪能で、北海道の気候や動植物、アイヌの風習、狩猟、料理に疎い杉元へ色々と教授する。逆に、シサム(和人)の文物については疎く、味噌をオソマ(糞)と勘違いしたため長らく食べなかった。しかし基本的に食い意地が張っているため、初めて味噌を食べたときには「おいしい」と感嘆し、その後の食事シーンで味噌をねだるそぶりを見せる。道中においては同じく見た目が糞に似るカレーの美味しさとのギャップにも衝撃を受けている。土方は瞳の色からロシア人の血が混じっていると推測した。
- 母が出産後まもなく病死し、父から狩猟を教わり育った生い立ちのためか、外向的で遠慮はしない性格。年上の男性に対しても物怖じせず、強さを認めた杉元に対しては率先して仕切りつつ世話も焼く。
- 幼い頃は、病魔が子供に近づかない様に汚い名前で呼ぶアイヌ独特の風習に沿い、エカシオトンプイ(祖父の尻の穴)と呼ばれていた。「アシㇼパ」は「新年」「未来」を意味していおり、名が示すように、アイヌの信仰に関しても信じるか否ではなく自分たちが生きるための技術や経験からの知恵の集大成として受け入れて重んじているなど、現実的かつ合理的な思考をしており、「新しい時代のアイヌの女」を自認している。
- 杉元と出会い、羆から救出したことと、この時点で父は金塊強奪犯に殺されたと思っていたため、彼の金塊探しに協力する。尾形を倒した者を探しに来た谷垣らを振り切った後に、杉元を連れ自分のコタンに戻るも、夜に杉元が一人旅立ったことを知り、レタㇻの力を借りて杉元の行方を追跡、その途中で再会した白石から杉元の情報を得たことから白石にも手伝わせ、拘束されている杉元の救出を成功に導く。
- キロランケからのっぺらぼうが父であるとの情報を得るが信じがたく、直に問いただすために杉元や白石達と共に網走を目指すことになる。途上の日高では、エディー・ダンの元に渡っていたフチの姉の家に代々伝わる宝物である花嫁衣裳を、赤毛の羆を退治したことで買い戻すことに成功、さらに羆との戦いで壊れてしまった弓の代わりに、ある名猟師が愛用していた弓を譲り受けた。
- 白石由竹(しらいし よしたけ)
- 坊主頭に長いもみあげの脱獄囚。関節を自在に脱臼させることのできる特異体質と、油紙に包まれた様々な小道具を歯に結びつけた糸で繋いだまま嚥下して隠し持ち、場に応じて吐き戻して利用するという常識では考えられないような方法でどんな牢獄からも抜け出すことから脱獄王の異名を持つ刺青の囚人の一人。実在の脱獄囚であった白鳥由栄がモデル[2]。
- 小樽の森で杉元達に捕まり、枷を解いて逃亡しようとするも追っ手の杉元共々真冬の川に落下してしまい、低体温症回避として、隠し持っていた火を起こすための実包を提供することを条件に杉元から解放される。しかしこの時に靴下を取り違えて履いていたため、後で杉元の匂いを追って街に来たアシㇼパとレタㇻに潜伏先を嗅ぎつけられてしまう。金塊の分け前を貰うことを条件に杉元救出に協力し、その後も行動を共にする。街で偶然鉢合わせた牛山から執拗な追撃を受けるも、自身はその間隙を縫い逃げ延び、逆に女郎に依頼して手に入れた牛山の靴下を使って、リュウに追跡させ牛山の居所を掴んだが捕縛され、土方らに懐柔を受け密かに協力体制を結ぶ。
- 本作におけるコメディリリーフでドジを踏むことも多く、しばしばアシㇼパらに役立たず扱いされ、作中に登場するあらゆる動物に頭を噛まれたりしているが、いざという時の抜け目のなさや、力では遥かに上の土方や牛山を前にして平然としらばっくれる肝っ玉も持ち合わせる。体の各所に隠した脱獄道具は何度も杉元らの窮地を救い、素手で壁をよじ登り、雪原をモグラのように掘り進んで逃走する人間離れした身体能力を持つ。また真っ先にドジを踏み危機に陥いることで、間接的に杉元一行の全滅を防ぐなど、侮れない男でもある。牛山からは「アホ面だが油断できない妖怪」と評される。
- キロランケ
- アシㇼパの父の古い友人。第47話から登場する。若い時分、共にアムール川流域から小樽へ移り住んだ。日露戦争にも出兵しており、配属された第七師団工兵部隊にいた頃は、馬の管理も任されていた。アシㇼパにのっぺらぼうの正体がアシㇼパの父という情報を告げ、網走監獄へ向かう杉元らと行動を共にする。第七師団にいただけあって戦闘力は高く、道中襲ってきた山賊を杉元と共に簡単に撃退している。また工兵時代の経験から爆薬などの扱いにも明るい。
- 小さい頃から馬に乗っていたため馬が好きで馬の体調や感情に通じている。苫小牧では競馬場にて、ヤクザの親分である馬主から自分の馬を勝たせるよう八百長を指示されるも逃亡した騎手に後ろ姿が似ていたことから、調教師に依頼され競走馬の「烈風」に騎乗した。しかし、八百長に関する馬への扱いの酷さから指示を無視し、1着でゴールしている。
入れ墨を描いた男及び脱獄囚及び同行者
- のっぺらぼう(通称)
- 網走監獄の「第弐拾四房」に収監されている死刑囚で、顔の皮膚が無い状態であるため「のっぺらぼう」と呼ばれている。アイヌが和人に抵抗する軍資金として、秘密裏に金塊を蓄えていたアイヌを殺害して強奪したとされ、金塊を隠した後に、支笏湖で警察に捕まり網走監獄送りにされた。金塊の隠し場所を知ろうとした看守から片足の筋を断たれたが、同房の死刑囚たちの体に入れ墨を刺し、「脱獄に成功した者には金塊の半分をやる」と言いくるめ脱獄をさせた。しかし、描かれた入れ墨は分割された暗号になっており、皮を剥いで全て繋ぎ合わせて解読をする仕様になっているため、脱獄囚達は刺青人皮として最後には殺害される役回りであった。土方はのっぺらぼうがアイヌに扮したパルチザンで、ロシア帝国からの独立を目指し金塊を樺太経由で持ち出そうとしたと推測している。
- キロランケは、のっぺらぼうがアシㇼパの父であると指摘したが、アシㇼパは信じられず確かめることを望んだために、杉元一行は網走監獄に向かうこととなった。
- 後藤(ごとう)
- 網走監獄から脱獄した死刑囚の一人。泥酔して妻子を刺殺したことで服役していた。杉元の金塊探しとアシㇼパとの出会いの切っ掛けとなった男で、川で砂金採りに勤しむ杉元へ、酔いに任せて金塊や脱獄囚の体に描かれた入れ墨について語るが、翌日、話した内容に恐怖を覚えたため杉元の口封じを試みるも反撃され殺害に失敗、山へ逃亡するが羆に捕食される。死後は杉元によって皮膚を剥がされ、刺青人皮となる。
- 土方歳三(ひじかた としぞう)
- 元新撰組副長であった旧幕府の侍。史実では1869年の箱館戦争にて戦死しているが、本作では戦況の悪化した函館から落ち延びていたという設定になっている。銀白色の長髪に顎髭をたくわえた70代の老人として描かれているが、その精神と気力の若々しさから人魚の肉を喰らったといわれる一方、鶴見には「この世に怨みを残した悪霊」と評された。
- かつては網走監獄に政治犯として収監されていた模範囚であったが、刺青について知った屯田兵の一部の者達が死刑囚を強引に移送した際、屯田兵から軍刀を奪い脱獄囚24名を指揮し、屯田兵を全滅させ脱獄を成功させた。作中の描写からのっぺらぼうとは知り合いで、目的が一致している同志として、隠した金塊が噂の千倍であると教えられている。
- 蝦夷共和国の構想を基に蝦夷地を独立させるべく金塊を追うと共に、手始めに第七師団の殲滅を実行するために各地で協力者を集めている。また、周到な計画のもと銀行を襲って多額の現金と強奪すると共に、かつて所持していた愛刀・和泉守兼定を奪還した。
- その後は密かに杉元一行の動向を追いつつ、行く先々で刺青人皮と同士を集めている。
- 牛山辰馬(うしやま たつま)
- かつて10年の間無敗の柔道家として最強の座を独占し、不敗の牛山と呼ばれた男。精力を持て余しており、定期的に女性を抱かないと不安定になり、男女の見境いなく襲ってしまう性情の持ち主。師の妻に欲情し寝とってしまい師の報復に遭うが、逆に師を殺害し10人に重傷を負わせたかどで服役していた。脱獄後は行方をくらましていたが、居場所を掴んだ土方に誘われ同志となった。額に大きめの四角いタコがあり、酔ったアシㇼパに「はんぺん」扱いされている。現役時代は一日10時間を超える鍛錬を欠かさず行い、死人が出るほどの網走監獄での重労働ですら「身体がなまる」と言ってのける程の強靭な肉体を持つ。
- 精力の開放にと街へ出た際に、娼館で鉢合わせた白石を追跡するも第七師団と出くわして会戦したことで逃走されてしまったが、後に自身の居場所を探索してきた白石を取り押さえて、土方と密約させることに成功している。
- 札幌にて杉元一行と遭遇、成り行きで杉元と組み合った際に杉元の強さを気に入り、杉元一行と飲食を共にした際に酔って「男はチンポで選べ」と講義したため、アシㇼパからは「チンポ先生」と呼ばれる。
- 白石由竹(しらいし よしたけ)
- #主要キャラクターの項を参照。
- 二瓶鉄造(にへい てつぞう)
- 今迄に200頭以上の羆を狩り、入山した山の羆を全て仕留めると謳われ、毛皮商人からは「冬眠中の羆も魘される悪夢の熊撃ち」と恐れられる初老の猟師。アイヌ犬のリュウを連れ、当時としては旧式の十八年式単発銃を持ち、「一発で決めねば殺される」との信念から、予備の弾を出さずに羆と勝負する。数年前、猟師を殺し獲物を横取りする輩から自らの獲物を狙われ激高、2人を撲殺・1人の首を折り殺害したため服役していたが、山で死ぬという自身の望みを果たすべく脱獄に加わった。本人は羆より獲物に執着すると語っている。妻と15人の子供とは絶縁状態である。
- 行き倒れていた谷垣を救うも彼の心が未だ彷徨していることを感じ帰郷することを勧めた。猟師魂に掛けて最後のエゾオオカミであるレタㇻを仕留めることを望み、罠を仕掛け谷垣と共にレタㇻを狙うが、自身の入れ墨を目的とする杉元達に妨害され、対戦する。レタㇻがアシㇼパに呼び寄せられることを見抜いており、アシㇼパを捕らえた谷垣がアマッポの矢毒を受け動けなくなった後は、自らアシㇼパを人質とする。見晴らしの良い場所で待ちかまえておびき出されてきたレタㇻに、自らの左腕を噛みつかせて銃口を向けるも、背後からレタㇻのつがいであるメスのエゾオオカミに首を噛み切られてしまい、仕留められずに終わる。しかしながら、充実した勝負の果ての己の最期の有様に満足して死亡した。二瓶の刺青人皮は杉元の手に渡る。口癖は「勃起!!」である。
- 津山(つやま)
- 33人を殺害した死刑囚。鶴見率いる第七師団と戦闘となり、3人の兵を殺害するが、鶴見に殺される。以来、津山の刺青人皮は鶴見が下着代わりに身につけている。本編では既に死亡しており登場しない。
- 辺見和雄(へんみ かずお)
- 見た目は平凡で礼儀正しく人当たりの良い男だが、各地を放浪し、これまでに100人以上を日常感覚で殺害してきた殺人鬼。殺害した相手の背中に「目」という文字を刻み込むのが特徴。子供の頃に巨大な猪に弟を食い殺されてる現場を目撃してしまい、死んでいく弟の虚ろな目を思い出すたび欲情に近い殺人衝動に駆られる。一方で弟が見せた死に抗う姿の煌めきに魅せられてもいて、煌めきを見たいがため殺人を繰り返してきた。自分と同じ殺人者の匂いを杉元に感じ、全身全霊で彼に抗った末に殺害されることを願うようになる。
- 鰊御殿で寝起きし鰊漁に従事する「ヤン衆」と呼ばれる季節労働者として、周囲の目を欺きつつ同じ季節労働者を殺害している。鰊漁の際、乗る船の間近に現れた鯨のため、海へ転落した所を杉元達の乗る船に助けられた。第七師団から杉元を匿おうと鰊御殿へ侵入するがその際被弾し負傷、自分を連れて海岸を逃亡する杉元を背後から狙うが、白石の声に気付いた杉元の反撃により致命傷を受ける。最期は突如レプンカムイ(シャチ)に攫われ、予想だにしなかった壮絶な己の死に様に歓喜しながら水中に没し死亡した。遺骸は杉元の奮闘でシャチから奪還され、刺青人皮となる。
- 家永カノ(いえなが かの)
- 「札幌世界ホテル」の若く妖艶な外見の女将だが、実際には元医者である老人。「最高の自分」に固執し、「身体の不調は、不調な部位と食材動物の同じ部位を食べると治る」という「同物同治」の思想から、患者を殺して血を飲み、さらにそれ以上のことをしていたため囚人となっていた。脱獄しホテルの女将になりすましてからも、自らの身体が持ち合わせていないものを持つ宿泊客が来ると、それを得ようと殺害している。ホテルは隠し通路や仕掛けが数多あり、拷問・殺人用の地下室がある。「同物同治」の効果を確信しており、その身体には効果が現れているかのような様子が見られるが、アシㇼパを狙ったことで怒った杉元からは自己暗示にすぎないと一蹴されている。
- 作中ではまず先に宿泊した牛山の並外れた強さを狙い、時間をおかずに訪れた杉元一行らの宿泊受けた後は、アシㇼパの日本人離れした瞳も狙うようになる。自身に好意を持つ邪魔な白石を罠に嵌め地下室に転落させ拘束するも、正体に勘付かれ最後には脱出され、自身の美貌に欲情した牛山等の行動をホテルの隠し通路を駆使することで翻弄していたが、泥酔した牛山と彼の正体に気付いた杉元がホテルを破壊するような乱闘騒ぎを起こすと対処できなくなり逃亡を試みる。しかし自身が作動させた発火装置の火災が、白石が誤って地下室に落とした爆薬と合わさり大爆発が発生。自身は白石が手投げ弾で崩落させた天井の下敷きとなったが、寸でのところで牛山に救出され、刺青人皮の情報を牛山と白石に明かす。
- 若山輝一郎 (わかやま きいちろう)
- 苫小牧での競馬で八百長を指示していたヤクザの親分。赤毛の羆の兄弟に追われ逃げ込んだ民家でキロランケ達が最初に遭遇した老人。仕込み杖で杉元の銃剣の刃の部分を両断する程の使い手。上半身に倶利伽羅紋々があるため、暗号の刺青は下半身にある。
- 3頭の羆に包囲されるなか、丁半で負けた方が外にある弾薬を取りに行くと杉元らに提案するも、自身が男娼を買っていたことを根にもっていた子分の仲沢によりイカサマが露呈。自らが取りにいく羽目になり弾薬を杉元に投げ渡す。その際、刺青人皮の描かれた囚人ということが判明した。最期は羆に襲われた仲沢を助けるため、車外に飛び降り羆を斃すも、自身も致命傷を負い仲沢と手を握り合いながら死亡した。刺青人皮は杉元らに回収される。
第七師団
大日本帝国陸軍に実在した北海道を本拠とする陸軍師団。かつて屯田兵と呼ばれた組織を前身とした部隊であり、道民からは「北鎮部隊」と呼ばれる。一部では、杉元と同じく金塊を追い求める動きがある。 戦争帰りの兵士が多く、瀕死の重傷であっても反撃を試みたり、不意な襲撃にもすぐに対応するなど個々の戦闘力も高い。
- 尾形百之助(おがた ひゃくのすけ)
- 上等兵。300メートル以内であれば確実に標的の頭を撃ちぬけるという凄腕の狙撃手。兵士としても卓出しており、鶴見をして「敵に回すと非常に厄介」とまで評される程。作中における旅順攻略作戦の参謀長である元第七師団長で、戦後に部下の半数が作戦で命を落としたことに対する周囲からの揶揄と自責の念に駆られ自害したという花沢幸次郎(はなざわ こうじろう)中将とその妾との間の子として誕生した。お婆ちゃん子。杉元と初めて対峙したときの戦闘によって、左右の下頬に縫傷跡が残った。
- 小樽で杉元達を尾行し森で捕縛されていた男を射殺後、杉元と交戦する。白兵戦の最中、杉元が持っていた三十年式歩兵銃のボルトを抜いて使用不可とするなど戦闘能力は高い。右腕を折られて状況の不利を悟り、杉元に目潰しを食らわせてその場から離脱するが、杉元の投げた小銃が頭部を直撃、川へ転落する。救助され一度意識が回復した際、指文字で杉元達の存在を仲間へ伝えている。
- 入院していたが姿をくらまし、浩平と共にアシㇼパのコタンに入り谷垣の前に現れる。自分達が計画している鶴見に対しての反乱を谷垣が鶴見に密告すると誤解し、二階堂を観測手として伴った上で、無関係の村民たちを巻き込むことを避けて村外から谷垣の狙撃を試みたが、谷垣が森に逃亡したと知って追跡する。谷垣の仕掛けた罠に誘い込まれ、谷垣の狙撃により被弾するが、その際自分を捕らえようと現れた鶴見の部隊を次々に狙撃し逃亡する。
- 茨戸(現札幌市北区)に現れた際は馬吉一味に与し土方らと対峙。接近してきた土方指揮する日泥一味の銃撃で被弾するが、最終的には日泥一味の持つ刺青人皮を入手した。その後、土方に自らを用心棒とすることを打診し、行動を共にする。
- 鶴見(つるみ)
- 金塊を手に入れるため脱獄囚を追う陸軍中尉。日露戦争の奉天会戦で砲弾の破片の直撃を受け、頭蓋骨の前面を吹き飛ばされたため、額に固定具を装着している。時折額から膿が出る。本人曰く前頭葉も損傷しているらしく、そのためか感情が激しくなりやすく、エキセントリックな言動が多い。自らの行動を咎めた上官の指を噛みちぎったり、尋問中に突如杉元の頬に竹串を突き刺したりするなど予測できない行動に出ることがある。刺青人皮を着ているため、白石には心中で変態と評されたが、土方は「腹の据わったいい面構え」と評する。装備はボーチャードピストル。実家が裕福な時期があり、ピアノを弾ける。
- 旅順攻囲戦で多大なる犠牲をもって日露戦争に勝利したにも関わらず戦果の薄い結果に終わり、更に花沢中将の自刃を落ち度とされ、第七師団が冷遇されたことによる軍や政府への失望が、独自に刺青人皮を探す動機になっており、上官の和田大尉を探索の邪魔と判断し殺害している。アイヌ埋蔵金でアメリカから最新の武器を仕入れ、第七師団を掌握して北海道に軍事政権を打ち立て、戦友や戦死者遺族の窮状を救うという計画を立ち上げている。情報将校であったこともあり、情報収集や分析力に優れ、アイヌの口伝や伝承から実際の埋蔵金は、「のっぺらぼう」が同房囚人に語った額の千倍(2015年時点の価値で約8千億円)ではないかと推測している。
- 谷垣源次郎(たにがき げんじろう)
- 秋田阿仁のマタギ出身の一等卒。かに座のA型。兄の他フミという妹がいる。
- 第七師団へは、フミが結婚後に惨死したことについて、夫となった賢吉が妹を殺害したと判断し、賢吉が第七師団に入隊したという噂を聞き、仇をとることを目的として自身も入隊している。
- 尾形の情報から仲間と共に杉元達を追跡していたが、アシㇼパの窮地を救うため現れたレタㇻに足を骨折させられたことにより気絶し失敗、その際、レタㇻの美しい毛並みに心惹かれる。行き倒れていた所を二瓶に救助されたのが縁で、彼のレタㇻ狩りに協力する。二瓶が杉元と交戦した際は、アシㇼパを人質とし杉元達を降伏させ、二瓶の指示で離れた場所へ向かうも鹿垣に入ってしまいアマッポによる矢毒を受けたが、アシㇼパにより救命措置が施され、二瓶の死亡後、アシㇼパの主張で手当のためにコタンへ運ばれる。白石が犬の扱い方を訊いた際は服従のさせ方を教授した。
- 怪我が治りきる前に、鶴見中尉への反乱計画に与せず玉井たちを殺したという誤解からコタンに入っていた尾形や浩平と対峙する。誤解したままの尾形らにより村外から狙撃されるも、機転を利かせ住居から脱出、オソマから託された二瓶の単発銃を手に尾形らと決着を付けるべく森へ向かう。羆が捕食する鹿の死骸近くに焚き火をすることで尾形らを誘い込み、羆に襲われる二階堂を救出した尾形の場所を特定し狙撃する。その後、現れた三島から鶴見が尾形らを泳がせていたことを知る。
- 尾形らを撃退後はアイヌのアットゥシの服を着て、コタンに留まって生活をしている。コタンではアシㇼパの祖母の世話になり、会話はアシㇼパの従姉妹のオソマに通訳してもらっている。
- 二階堂浩平(にかいどう こうへい)
- 洋平とは双子の兄弟。一等卒。静岡出身。尾形らと共に鶴見中尉に対して反乱を計画している。蕎麦屋で入れ墨のことを聞いて回る杉元を襲撃し、夜間、拘束した杉元を拷問しようとするも反撃される。再度杉元の殺害を狙った際は見張りを担当した。尾形と共にアシㇼパのコタンに入り谷垣の前に現れ、谷垣を狙撃する際は観測手として尾形を支援する。谷垣の罠に尾形と共に誘い込まれ、朝方その場所を巡回する羆に襲われて頭皮を剥がされる。さらに鶴見の隊に捕縛され、片耳を削がれるという拷問を受けても口を割らなかったが、鶴見から「杉元を殺させてやる」という条件を持ちかけられると、杉元への怨恨と殺意から反乱計画の仲間を売り、鶴見の部下へと戻る。削がれた片耳は、耳穴に紐を通した状態で持ち歩いており、その耳を洋平に見立てて話しかけるという奇癖が生じている。
- 二階堂洋平(にかいどう ようへい)
- 浩平とは双子の兄弟。静岡出身。蕎麦屋で入れ墨のことを聞いて回る杉元を襲撃した。夜間、拘束した杉元を浩平と共に拷問しようとするも反撃される。再度杉元の殺害を狙った際は殺害を担い銃剣で刺殺しようとするが、既に銃剣を抜き取っていた杉元の返り討ちに遭い死亡。死体の腸は杉元が脱出するための偽装工作に利用された。
- 玉井(たまい)
- 伍長。整えられた髭を蓄えた兵士。尾形らと共に鶴見中尉に対して反乱を計画していた。反乱計画同志の野間(のま)や岡田(おかだ)と共に、山中で捕捉した杉元から尾形が重傷を負ったことに関して尋問をしていたところを、巣穴から飛び出してきた羆に襲われる。爪の一撃で顔面をえぐられ、皮膚の殆どが剥がされる致命傷を受けるが、絶命間際に羆に銃弾を浴びせ仕留めて力尽きる。同行していた野間・岡田もこのときの羆との戦闘中に死亡したため、所属師団では別行動を取って生き延びた谷垣を含め行方不明扱いとなる。谷垣を自分らの仲間に加わるよう説得しようとしていたことから、尾形は玉井らが行方不明となった原因を谷垣が返り討ちにしたものと誤解した。
アイヌ
- フチ(アシㇼパの祖母)
- アシㇼパの母方の祖母だが、この場合のフチは個人名ではなく、アイヌ語で「祖母」「婆さん」を意味する一般名詞。日本語を話せず、杉元と会話する際にはアシㇼパが、谷垣と会話するときにはオソマと、2人の孫が通訳している。アシㇼパのことを自分の宝と思っている反面、アイヌの女としての嗜みを身につけようとせず、狩猟などに精を出している様を心配もしており、杉元にアシㇼパを嫁に迎えてもらいたいと語っているが、杉元には伝わっていない。
- 尾形は襲撃の際に「ばあちゃん子の俺に殺させるのか?」とコタン内での襲撃を回避させたり、谷垣は最初は「婆さん」と言っていたが、生活を共にしていく内に「おばあちゃん」と呼んで慕うようになり、出ていくのかと言われた際には涙するなど、年長者としての情愛と人徳がある。
- オソマ(幼名)
- アシㇼパの従妹。マカナックルの娘。かつてのアシㇼパと同じように病魔に魅入られることを防ぐため、「糞」という意味の幼名をつけられている。谷垣が尾形らに狙われた際は、アシㇼパがリュウを安心させるために置いていた二瓶の単発銃を谷垣に託し、窮地を救う。
- 尾形の襲撃後は、慕っているのか谷垣といつもいる描写がある。
- マカナックル
- アシㇼパの母方の叔父。オソマの父。鹿用の罠にかかりそうになった杉元をすんでのところで制止した。先祖のアイヌらが集めた砂金の存在を知っており、川からの恵みを尊んで川を汚さないようにしてきたアイヌの生き方から外れていたものであることから「呪われたもの」と評した。
- インカㇻマッ
- 苫小牧勇払のコタンに現れ居ついた、良く当たると評判の謎の占い師の女性。名の意味は「見る女」。アシㇼパの父を知っている。細顔の美女で、アシㇼパからは「イカッカラ・チロンヌプ(キツネ女)」と呼ばれている。杉元に気がある素振りを見せたり、アシㇼパをやきもきさせる描写がある。
- 白石に苫小牧の競馬場に連れ出され、キロランケが参加したレース以外の馬券を占いで的中させている。アシㇼパのコタンへ赴く前、鶴見から谷垣を利用するよう助言を受けており、谷垣と共にアシㇼパを探す旅に出る。
主要人物及び脱獄囚の関係者
- 寅次(とらじ)
- 杉元の幼馴染である親友。日露戦争で杉元に妻・梅子と子を託し戦死する。
- 梅子(うめこ)
- 杉元の幼馴染で想い人。杉元家が結核で村八分になっても想いを曲げず、駆け落ちすることも辞さぬつもりでいたが、杉元の説得で寅次と結婚し一子授かるも目を患い、未亡人となる。彼女の眼病を治す資金を手に入れるため、杉元は北海道に渡ることになる。
- 永倉新八(ながくら しんぱち)
- かつて新撰組に所属していた老人。死んだ親戚の家や資金、ロシア商人から試供品として入手したウィンチェスターライフルM1892やモシンナガンM1891、モーゼルC96を土方へ提供し、以後行動を共にする。普段は落ち着いた好々爺だが、血の気の多さと新撰組最強と言われた技量は未だ健在であり、複数に囲まれても一切の反撃を許さず切り捨てることができる一流の剣客。
動物
- レタㇻ
- アシㇼパを護る白いエゾオオカミ。「レタㇻ」とはアイヌ語で「白」の意。幼獣の頃に熊に襲われているところをアシㇼパに救われ共に生活していたが、ある晩に聞こえたレタㇻの家族の遠吠えに惹かれ、彼女の下を去った。アシㇼパが危機に陥った際にはどこからともなく現われて彼女を守ろうとする。杉元が鶴見に連行された際には、彼女に付き従って行方を追った。つがいのメスのエゾオオカミとの間に子が4匹いる。
- 19世紀後半には明治政府の方針によりエゾオオカミは害獣指定され、道内全土で徹底的な駆除が行われており、本編当時には既に絶滅していたと考えられていることから、作中では「最後のオオカミ」として二瓶と谷垣から狙われたこともある。
- リュウ
- 二瓶が猟の共として連れていたアイヌ犬。優秀な猟犬だが間の抜けた描写も多い。二瓶の死後は杉元らと同行する。
- フリ
- 出現するとその大きさから太陽が遮られ婦女子が攫われるという、伝説上の巨鳥。積丹半島等北海道各地にフリの伝説がある。劇中、それらしき鳥がアシㇼパの体を持ち上げた。フリカムイも参照。
各編登場人物
- 日泥保(ひどろ たもつ)
- 茨戸にある小規模な鰊場の親方。婿養子。子分であった久寿田馬吉と敵対関係にある。番屋が放火された際、妻から自分には子種が無いこと・千代子の子の本当の父親が新平という真実を聞かされた後、裏切りの報復として妻を撲殺し新平に銃を向けようとするも、尾形に射殺された。
- 日泥新平(ひどろ しんぺい)
- 日泥保の子。当初は悪ぶっていたが、家族への愛情は備えているものの、実際は臆病で野心はない。尾形には「意気地の無い奴」、保には「使えねえ野郎」と蔑まれ、自身も自覚しているが、そのことも踏まえ状況を的確に判断し、愛する者のために駆けまわり、身の丈にあった未来図を描いていることに対して、永倉は「自分たちは臆病者とは言わん」と伝えている。
- 日泥保の妾であり、保の子を孕んでいるとされているが実際は新平の子を身籠っている千代子(チヨコ)が、馬吉に人質にしようと狙われていることを知ると、土方たちに彼女を無事を懇願し、日泥・馬吉一味の抗争終結後、新天地で一からやり直すため千代子と共に茨戸を後にする。
- 久寿田馬吉(くすだ うまきち)
- 元々は日泥保の一の子分であったが、日泥が賭場を新平に譲ったことに激怒し日泥の下を飛び出した。近所に新たに賭場を開き日泥親子と対立する。日泥一味との抗争の際、永倉に江尻の部下と共に斬り伏せられた。
- 日泥の妻
- 日泥一味を取り仕切る女将。一味の中でただ一人、売り込みにきた土方らの強さを察し60円で勧誘した。彼らの実力を感じ取る目や、保に子種が無かったため漁師との間に新平を生んだという豪胆さに土方らに一味の本当の親分と称される。しかし、身内の生命よりも財産を大事にする守銭奴で、馬吉一味との抗争で千代子と刺青人皮の交換時、刺青人皮の偽物を持ちだしていたことを知った永倉に人の情を持ち合わせていないと看破されている。
- 放火された番屋から刺青人皮を運び出そうとするが、真実及び自分に対する裏切りを知った保にこまざらいで撲殺された。
- 山本
- 「山本理髪店」店主。土方や尾形らの髭を剃りつつ町の情勢を教える。以前、借金のかたに刺青人皮を日泥一味に差し出した。千代子を匿うはめになり、抗争に巻き込まれるが生き残る。
- エディー・ダン
- 来日25年になるアメリカ人の牧場経営者。珍しい物の蒐集を趣味としており、フチの姉の家に伝わる代々女性が受け継いできた宝物である幾頭ものアザラシの上質な皮で作った花嫁衣裳の所有者。家永が白石に語った所によれば刺青人皮の囚人(中年の男)が会いに行く相手。
- アシㇼパらが宝物を買い戻しに来た際、当初は自らが買った金額である30円の3倍超の100円での買い取りを吹っ掛け一触即発となるが、牧場に出没する赤毛の羆を退治すれば買値で譲ると提案した。羆と交戦した若山が訪れた時はフォード・Tモデルの試作品とマキシム機関銃を貸し出す。その後、杉元らが羆を退治したことで約束通り花嫁衣裳を引き渡すと共に、夕張にヤクザの刺青とは違った刺青が描かれている人皮があることを教える。
- 仲沢達弥(なかざわ たつや)
- 若山の子分。赤毛の羆の兄弟に追われ逃げ込んだ民家でキロランケ達が二番目に遭遇した男。凄腕の壺振り。
- 若山の男色相手のようで若山が男娼を買ったことを恨んでおり、競馬場の厩務員らの首を若山と杉元らが遭遇した民家に晒したり、丁半の際に杉元らを勝たせるなど当てつけをする。最後は杉元らと共にフォード・Tモデルに乗り込むが、落下する若山の仕込み杖を取ろうと転落。そこを羆に襲われ重傷を負い、自らを救出するため車を降り、羆を斃したものの致命傷を受けた若山と手を握り合いながら死亡する。
- 江渡貝弥作(えどがい やさく)
- 「江渡貝剥製所」代表。奈良出身であったが剥製作りのため北海道に移住した。歪んだ母からの支配を受け育ち、母には剥製制作を一度も褒められたことはなく、理解を示した父を母の命令で殺害させられ、また、そんな父親に似てきたとの理由で去勢される。母が心臓発作により死亡後も母の剥製からの声という形で呪縛を受けていた。動物の剥製のほかに、人間の剥製や人皮や人体部位を素材にした服やオブジェや道具を製作している。
- 珍しい刺青をした炭鉱夫の死体が盗まれた関係で鶴見の訪問を受けた際、彼から自身の制作品を褒められたことで母の声に反抗する。浩平の行動を契機に鶴見から諭され母の剥製に銃弾を浴びせ、その支配から解放された。その後、精巧に作られた偽の刺青人皮作製の協力を依頼され、試行錯誤しながらその製作に入る。また、自身の制作品を認めてくれた鶴見のことを慕うようになっている。
- 青山賢吉
- 谷垣と同郷の彼より1歳年長の男。妻は谷垣の妹・フミ。賢吉の語るところに拠れば、山奥の小屋でフミと慎ましく暮らしていたが彼女が疱瘡にかかってしまい、感染者を出す前に自身を殺し離村してくれるよう頼まれる。賢吉は当初、彼女を見捨てず共に死ぬつもりであったがフミはそれを許さず、賢吉にその後の命の使い道を探すよう諭した。賢吉はフミの望み通り、彼女を刺殺し小屋に火を付け谷垣家に何も伝えず村から離れた。
- 東京へ向かった後は第一師団に入隊し、日露戦争に従軍。203高地での戦闘の際、塹壕から飛び出し、爆弾を体に括り付け突撃してきたロシア兵を引き倒すも、爆発に巻き込まれ致命傷を負う。目は潰れ鼓膜も破れるなか、自身の傍に来た人間(谷垣)に、妻の殺害に至る経緯及び妻の遺族にこの話を伝えてくれるよう懇願する。最期はクルミ入りのカネ餅を口に入れられたことで、自身の話を聞いていたのが谷垣であることを悟り、幾ばく安堵した表情を浮かべて息を引き取った。
制作背景
作者の曽祖父が日露戦争に出兵した屯田兵であったことから、かねてより関連する作品を描きたいという希望を抱いていたところ、前作の『スピナマラダ!』連載終了後に担当編集者から「北海道を舞台にした猟師の作品」をと持ちかけられ、始めは日露戦争帰りの主人公にした「狩猟マンガ」として構想された[4]。しかし狩猟だけでは、ネタ切れが早いと思われたため、北海道の実際の歴史の中から作者が興味を惹かれた「羆害」、「土方歳三」、「脱獄王」、「埋蔵金伝説」、「アイヌ」といった様々な題材を拾い上げて組み入れていき、本作が練り上げられていくことになった[4]。特にアイヌに関しては、これまでのマンガで取り上げられることが少なかったため、読者にとって新鮮であろうと考え、また取材に協力してくれたアイヌの人々から「可哀想なアイヌではなく、強いアイヌ」を描くことを期待されたこともあり、迫害や差別といった暗い背景ではなく、「明るく、おもしろいアイヌ」を描いていけば、読者に受け入れられていくと確信していたという[4]。料理に関する要素が強いことに関しては、作品構想の始めのテーマが狩猟であったこともあり、獲物を生活に活かしていく中で、料理描写は必然と考えられたためとしている[4]。
料理
ゴールデンカムイでは様々な料理(主にアイヌ料理)が登場する。食事前や食事中の際、各キャラクターは多様な表情を見せる。以下、紹介・列挙する。
- チタタㇷ゚
- 「我々が 刻む もの」の意。仕留めたリスやウサギを用いアシㇼパが調理した。本来は生で食すものだが、杉元が食べやすいようにつみれにして、プクサキナ・プクサ・オシロイシメジやエゾマツタケといったキノコを入れたオハウ(汁物)にしている。杉元曰く「肉のつみれ汁」。
- キナオハウ
- 「野菜が沢山入った汁物」の意。杉元がアシㇼパのコタンでフチから振る舞われた。カジカで出汁を取り、大根・ホウレンソウ・人参等の野菜を入れた汁物。出汁をとったカジカは素焼きにされ入っている。杉元曰く「カジカの鍋」。
- カワウソのオハウ
- プクサで臭みを除きブツ切りにしたエゾカワウソの肉と牛蒡や大根等根菜類を入れたオハウ。中でも最も美味とされるのがカワウソの頭の丸ごと煮である。
- にしん蕎麦
- 小樽で杉元が食した蕎麦。ツユは濃い目。
- 串団子
- 小樽の花園公園名物の串団子。
- 桜鍋
- 白石が提案した東京の料理。強奪した鶴見の馬の肉や卵・キャベツ・牛蒡を用いる鍋。なお、アシㇼパはこの時味噌の美味しさに気づくこととなる。
- ニヘイゴハン
- 仕留めた羆を用い二瓶が調理した、羆の心臓焼きと血の腸詰。滋養強壮の効果が高く食すと精力が付く。
- ユㇰオハウ
- プクサキナやプクサを入れた鹿肉のオハウ。
- 鮭のルイベ
- 雪に埋め冷凍保存した鮭。
- ニシン漬
- 白米に身欠きニシン、キャベツ、大根、人参を入れ米麹で発酵させた保存食。杉元達を引き留めるため辺見が提供した。
- 子持ち昆布の串揚げ
- 白石が発見した子持ち昆布を揚げたもの。
- 鯱の竜田揚げ
- 辺見を攫った鯱を使用した竜田揚げ。鯱の脂肪を鍋で煎って油を出し、下味には酒と醤油を用いる。
- イトウの刺し身
- 川で獲ったイトウの刺し身。鯱の竜田揚げの際に余った醤油を用いる。杉元は川のトロ、白石は鮭よりも上品な味と評した。
- イトウの塩焼き
- 川で獲ったイトウを使用した塩焼き。
- ライスカレー
- 水風亭のライスカレー。互いの素性を知らない牛山が杉元に奢った。
- 提供されたカレーはエゾジカのカレーであったが、アシㇼパは「ヒンナ過ぎる」と、相当に気に入っていた。
- 松前漬け
- 数の子に細かく刻んだスルメイカ、コンブを醤油で味付けした北海道の郷土料理。
- お茶漬け
- お米に茶をかけた料理。細かく刻んだ沢庵をのせるのが土方の好みの食べ方。
- アザラシ肉の塩茹で
- アシㇼパの獲ったアザラシを調理したもの。魚と牛肉の中間の味で臭みはない。
- プクサの味噌付け
- 生で食べられる春の食材。柔らかいプクサの新芽は辛いが味噌を付けて食すと絶品。プクサは病気や傷の治癒にも効果がある。
- フキの若葉
- 生で食べられる春の食材。アイヌの子供らがおやつとして食べることもある。食べると口の周りが真っ黒になる。
- イチャニウのオハウ
- 切り身にしたサクラマス、葉を落とし焼いて皮を剥いた蕗の薹の茎を入れた鍋に、フキやプクサを加えて塩で味付けしたオハウ。アシㇼパは春の汁物の中では最も美味しいと評した。
- カネ餅
- 阿仁マタギの携行食。水を加えた米粉に味噌か塩を混ぜ込み、それを葉に包み、蒸し焼きにしたもの。凍りにくく保存がきく。谷垣は隠し味としてクルミを混ぜている。
評価
アイヌ文化を丁寧に描いているとして平取町アイヌ文化情報センターでも人気になっており、アイヌ民族博物館の職員は「文献や資料をよく調べている。文様も細かく描写されており、見応えがある」と評価している[5]。
書誌情報
- 野田サトル 『ゴールデンカムイ』 集英社〈ヤングジャンプ・コミックス〉、既刊7巻(2016年4月19日現在)
- 2015年1月24日発売(1月19日発売[集 1])、ISBN 978-4-08-890082-7
- 2015年2月24日発売(2月19日発売[集 2])、ISBN 978-4-08-890105-3
- 2015年5月24日発売(5月19日発売[集 3])、ISBN 978-4-08-890192-3
- 2015年8月24日発売(8月19日発売[集 4])、ISBN 978-4-08-890240-1
- 2015年12月23日発売(12月18日発売[集 5])、ISBN 978-4-08-890325-5
- 2016年3月23日発売(3月18日発売[集 6])、ISBN 978-4-08-890372-9
- 2016年4月24日第1刷発行(4月19日発売[集 7])、ISBN 978-4-08-890451-1
脚注
出典
- ^ “編集者が選ぶコミックナタリー大賞、今年度の1位は九井諒子「ダンジョン飯」”. コミックナタリー (2015年10月1日). 2015年10月1日閲覧。
- ^ a b “「ゴールデンカムイ」特集 野田サトル×町山智浩対談”. コミックナタリー. 2015年12月18日閲覧。
- ^ “マンガ大賞2016は野田サトルの「ゴールデンカムイ」に決定”. コミックナタリー. 2016年3月29日閲覧。
- ^ a b c d “『ゴールデンカムイ』野田サトルインタビュー ウケないわけない! おもしろさ全部のせの超自信作!”. このマンガがすごい!web/宝島社. 2016年4月1日閲覧。
- ^ マンガ大賞作「ゴールデンカムイ」 忠実描写、アイヌ民族も注目 北海道新聞 2016年4月4日
書誌出典
- ^ “ゴールデンカムイ/1|野田 サトル|ヤングジャンプコミックス|”. 2015年6月15日閲覧。
- ^ “ゴールデンカムイ/2|野田 サトル|ヤングジャンプコミックス|”. 2015年6月15日閲覧。
- ^ “ゴールデンカムイ/3|野田 サトル|ヤングジャンプコミックス|”. 2015年6月15日閲覧。
- ^ “ゴールデンカムイ/4|野田 サトル|ヤングジャンプコミックス|”. 2015年8月9日閲覧。
- ^ “ゴールデンカムイ/5|野田 サトル|ヤングジャンプコミックス|”. 2015年12月18日閲覧。
- ^ “ゴールデンカムイ/6|野田 サトル|ヤングジャンプコミックス|”. 2016年3月18日閲覧。
- ^ “ゴールデンカムイ/7|野田 サトル|ヤングジャンプコミックス|”. 2016年4月19日閲覧。