Care222
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Care222は、産業機械メーカー ウシオ電機株式会社が開発した、エキシマランプと特殊な光学バンドパスフィルタを組み合わせ、
人体に無害な紫外線波長域(200nm-230nm)のみを照射する殺菌用光源。
この呼称は、ウシオ電機のグループ会社 Ushio America,Incにより商標登録されている。
概要
ウシオ電機はCare222を 【人や動物の皮膚や目に安全でありながら、紫外線本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を保持した新しい殺菌用光源】としている。
また、同様の遠紫外線波長による殺菌技術も存在するが、Care222は従来の光源とは異なり人体に無害であり
【常時使用可能な紫外線殺菌技術】をコンセプトとし、有人環境でも空気と環境表面を継続的に除菌することができる。[1]
としている。
殺菌効果
Care222には以下の効果がある。
SARS/MERSコロナウイルスの他、エボラウイルス・インフルエンザウイルス・O-157大腸菌、サルモネラ菌など
基本的に全てのウイルス/菌に対して殺菌できる。[2] ただし、カビ等の大きな細胞組織を持つ対象物は、殺菌に時間を要する。
2020年現在の注目点として、新型コロナウイルスCOVID-19に対する照射実験が進んでおり、米国コロンビア大学などでの検証結果が待たれている。
殺菌の原理
紫外線は波長によって、UV-A 320〜400nm、UV-B 280〜320nm、UV-C 100〜280 nmに大別される。 ※nm=ナノメートル
いずれも太陽光にふくまれる電磁波であるが、UV-AおよびUV-Bはオゾン層を通過し地球上に降り注ぎ、
日焼けやシミ、白内障、皮膚がんなどの弊害があるとされている。
(※紫外線は人体に有害であるが、一方で別の用途としても利用されている。次項【殺菌以外の紫外線利用】で補足)
紫外線波長は短いものほど生体に与える影響が強くなるため、UV-Cは更に強力であるといえる。
しかし、UV-Cはオゾン層で吸収され基本的に地上に到達することはない。[3]
以上の理由から、UV-Cは、UV-A、UV-Bに比べ殺菌能力が高いことが認められており、以前から殺菌用光源として人工的に作られ、
各種の調理室、病院、薬品工場などで無人環境において利用されてきた。[4]
細菌や病原菌の細胞内にあるDNAは、波長260nm付近の紫外線の吸収帯を持っており、この光をウイルスや病原菌に照射すると、
光化学反応によりウイルス/菌の細胞はDNA・RNA組織のらせん構造が破壊され、死滅・不活化する[5][6]
これが紫外線による殺菌、ウイルスの不活化のメカニズムである。
殺菌以外の紫外線利用法
紫外線は人体に有害であるものの、一方で殺菌以外の利用法もある。
紫外線療法(UV-B)
アトピー性皮膚炎などの症状に対し、
医療機関の適切な照射量管理下において紫外線療法として広く利用されている。[7]
この際に用いられる紫外線波長としては、UVA(薬剤と組み合わせたPUVA療法)、
UV-A1(340-400nm)、広帯域UV-B(280-315nm)、ナローバンドUV-B(311nm)、Excimer Laser療法(308nm)などが用いられる。[8]
スギ花粉のアレルゲンを不活化(UV-C 222nm)
222nmの紫外線は、スギ花粉のアレルゲンを効率的に低減することが報告されている。
この論文では、波長がおよそ220nmから260nmの深紫外線を発生する装置を用い、精製スギ花粉抗原Cry j1に照射し、
照射後の抗原抗体反応が起きるアレ ルゲンの濃度の変化によって評価した。[9]
その結果、波長が220nmに近いほどアレルゲンの不活化効果が高く、一般的な紫外光源である水銀紫外線ランプより低い照射量で、
スギ花粉のアレルゲンを不活化できている。
Care222開発の経過と安全性
UV-A、UV-Bに比べ生体に与える影響が強いUV-Cであるが、その中でも低圧水銀ランプが、
殺菌能力の高いUV-C 254nm光を効率よく発光することから殺菌ランプとして長く利用されてきた。
UV-C 254nm殺菌ランプは強い殺菌力を持つ反面、皮膚がんや白内障を生じさせるなど
人体に対して有害性が強いことから、これまでは照射中はヒトが立ち入らない環境でのみ使用されてきた。
しかし近年、環境にやさしく水銀を使わない殺菌ランプとしてウシオ電機が紫外線エキシマ蛍光ランプを開発。
紫外線エキシマ蛍光ランプは、UV-C 254nmよりさらに短い波長であるUV-C 222nm光を照射するランプで、
医療での活用を想定して開発が始まったものである。
そしてこのUV-C 222nm光は、254nm光と遜色ない殺菌能力を有しながら[10]、人体に無害であることが各研究機関で報告された。[11]
(※次項、【有効とする研究報告】参照)
中でも神戸大学院医学研究科では「健常者ボランティアを対象として、222nm UV-C照射器による紫外線照射の安全性を確認し、またその皮膚殺菌作用を検討すること。」を目的として、試験を行い「500mJ/cm2以下の紫外線照射終了後24時間での皮膚紅斑の有無。」を調べたところ、「全ての被験者において222nmUV-Cのすべての照射量で紅斑を認めなかった。 被験者の背中を222 nmのUV-Cを500 mJ/cm2で照射によって、皮膚スワブ培養物中の細菌コロニーの数は有意に減少した。 照射領域で発生したCPD量は、非照射領域のそれよりわずかに高値であった。」という結果が得られている。[12]
222nm光が人体に無害であった大きな理由は、その深達度にある。
通常、皮膚においては、従来の紫外線が皮膚の表皮の基底層という一番下層にまで到達し、細胞のDNAを損傷させてしまうのに対し、
UV-C 222nmは角質細胞層という極めて表層の(垢になる)部分までしか到達しないため、表皮細胞のDNAを損傷させないことが明らかになった。[13]
これには共同研究チームである、米国コロンビア大学放射線研究所所長・デービッド・ブレナー(David Brenner)教授らの開発した
特殊な光学バンドパスフィルタが大きく関与している。
ウシオ電機はこの紫外線エキシマ蛍光ランプと特殊な光学バンドパスフィルタを組み合わせ
「Care222」(日本語では 「ケア ニー ニー ニ」と発音)として発表した。
有効とする研究報告
Care222は、米国コロンビア大学[14][15]、シンガポール国立大学[16][17]、神戸大学大学院医学研究科[18]、広島大学[19]、
島根大学医学部眼科学[20]、弘前大学など国内外の複数の機関が研究を行い、効果を実証している。
特許内容
米国コロンビア大学 (所在地 : 米国ニューヨーク市)は222nmを含む波長で発光する光源と、
その中の有害波長を遮蔽するフィルタを組み合わせ、
人体に無害な紫外線波長域(200nm-230nm)のみを照射する技術について2012年に特許化している。
ウシオ電機はその特許の全世界における独占実施権を有している。[21]
海外との結びつき
ウシオ電機のグループ会社であるUshio America,Incは、北米最大級の照明器具メーカーのアキュイティ・ブランズ社と供給契約を結んだ。[22]
アキュイティ社は自社製品にCare222のモジュールを組み込み、壁や床、ドアノブなどに付着したウイルスや細菌を不活化・殺菌できる製品を開発する。
殺菌に関する今後の課題
影の部分は殺菌ができない。いわゆるシャドウ効果があると言われている。
殺菌効果はランプからの距離に関係し、ランプから離れるほど殺菌線照度が低くなり 殺菌効果は低下する。
(必要殺菌線量=殺菌線照度×照射時間)
ランプの使用状況や使用時間により殺菌線照度が低下するためランプを交換する必要がある。
外部リンク
ウシオ電機株式会社公式[23]
Ushio America,Inc 公式[24]
共同研究者 コロンビア大学 放射線研究所所長 デービッド・ブレナー(David Brenner)教授のTEDにおける講演[25]
脚注・参考資料
- ^ “Care222™とは? | 殺菌 | ウシオの環境衛生”. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “原理 | 殺菌 | ウシオの環境衛生”. 2020年7月19日閲覧。
- ^ 「地球と人間の歴史9 汚染と破壊」p269(週刊朝日百科 動物たちの地球141). 朝日新聞社 . (1994年3月20日発行 エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明))
- ^ 河端俊治 (1961年). “紫外線殺菌灯の食品衛生面への応用とその効果 - JST”. 紫外線殺菌.
- ^ “原理 | 殺菌 | ウシオの環境衛生”. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “Stanley Electronic Components”. Stanley Electronic Components (2019年3月31日). 2020年7月19日閲覧。
- ^ “紫外線療法”. 九州大学医学部. 2020年7月19日閲覧。
- ^ 「PUVA療法」『Wikipedia』2020年7月11日。
- ^ “紫外線の波長によるスギ花粉アレルゲンの 不活化効果の検討”. 環境技術 2019 年 48 巻 6 号 p. 327-333. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “効果 | 殺菌 | ウシオの環境衛生”. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “皮膚がんなどの発症なし 222nm紫外線(UV-C)繰り返し照射の安全性を世界で初めて実証”. Research at Kobe. 神戸大学院医学研究科. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “健常者を対象とした222nm UVC照射の安全性および殺菌作用に関する探索的臨床試験”. 大学病院医療情報ネットワーク. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “安全性 | 殺菌 | ウシオの環境衛生”. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “Far-UVC Light Safely Kills Airborne Coronaviruses” (英語). Columbia University Irving Medical Center. コロンビア大学 (2020年6月24日). 2020年7月19日閲覧。
- ^ “遠UVC光(222 nm)が効率的かつ安全に空中のヒトコロナウイルスを不活化”. Scientific Reports. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “[https://clinicaltrials.gov/ProvidedDocs/68/NCT03526068/Prot_000.pdf 世界初の消毒と治癒に関する人間の概念実証研究 222nm波長の狭帯域紫外線照明の加速機能端末]”. シンガポール国立大学. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “222 nmの波長の狭帯域紫外線照明デバイスの消毒および治癒促進能力に関する概念実証研究”. シンガポール国立大学. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “皮膚がんなどの発症なし 222nm紫外線(UV-C)繰り返し照射の安全性を世界で初めて実証”. Research at Kobe. 神戸大学院医学研究科. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “新型コロナウイルス感染症に対する222nm紫外線を用いた感染対策に関する研究開発”. www.hiroshima-u.ac.jp. 広島大学. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “島根大学医学部眼科学講座”. www.med.shimane-u.ac.jp. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “Care222™とは? | 殺菌 | ウシオの環境衛生”. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “ウシオ電機、人体に安全な紫外線照射部品”. 日本経済新聞 電子版. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “ウシオ電機株式会社”. ウシオ電機株式会社. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “Ushio America, Inc.”. www.ushio.com. 2020年7月19日閲覧。
- ^ “A new weapon in the fight against superbugs”. TED. 2020年7月19日閲覧。