バーチャルボーイ
バーチャルボーイ(VIRTUAL BOY)は、任天堂が発売した3Dゲーム機。横井軍平が発案。略称「VB」。その外見から「赤い眼鏡」とも呼称された。1995年7月21日発売。希望小売価格15,000円。全世界累計出荷台数は77万台[1]。
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開発元 | 任天堂 |
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種別 | 据置型ゲーム機 |
世代 | 第5世代 |
発売日 |
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売上台数 |
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メディア | ロムカセット |
CPU | V810 |
ストレージ | バッテリーバックアップ |
コントローラ入力 | ケーブル |
外部接続 | 通信ポート |
特徴
1992年、任天堂にリフレクションテクノロジー社からLEDを使用したバーチャルディスプレイ技術の「プライベート・アイ」の売り込みがあり、当時、山内溥からバーチャル・リアリティをテーマにした商品開発を提案されていた横井軍平の下で、リフレクションテクノロジー社との共同開発が始まった。この技術は元々、航空機の整備士などが大きく扱いにくい整備マニュアルをヘッドアップディスプレイのように専用ゴーグルに投影して作業を効率化するために利用されていた。
CPUはPC-FXと同じNECのV810を採用している。カスタムチップのV810は20MHzで動作し、浮動小数点演算処理ユニットも搭載している。サウンドはゲームボーイのサウンドとほぼ同じ。波形メモリ音源で、波形を32バイトPCMで変更できる。これを利用して短い声をPCMで発音できた。画面の解像度は384×224でファミリーコンピュータと同程度である。色数は赤色LEDによる単色で、赤~黒の4階調と少ないが、画面の明るさを32段階で調整できる。
このように、同じ頃に開発されていたPlayStationやセガサターンと比較してロースペックとなっている。これは横井がCPUやリアルさなどの最先端を求めた競争から脱却して、ゲームの本質に戻ったものを求めたためである[2]。この思想を受け継いだ岩田聡や宮本茂はのちにニンテンドーDSやWiiを生み出した[3]。なおバーチャルボーイ以前に任天堂はファミコン3Dシステムを発売していたが、表示方式は異なっているので関連性は低い。
遊び方はスタンドに据え付けられたゴーグル型のディスプレイを覗き込むようにして行う。視差の概念を採り入れ、左右の画面に異なる映像を表示させることで立体画面を実現する。テレビに接続せず電池で駆動するが、視界を覆う専用ディスプレイが必要となるため、室内のデスクトップでのプレイが主となる。
なお、バーチャルボーイの名称はコピーライターの糸井重里が名付けたという噂が広まっていたが、『ほぼ日刊イトイ新聞』のコラム「今日のダーリン」2007年7月10日付にて糸井自身が「『ゲームボーイ』と『バーチャルボーイ』のネーミングは、ぼくじゃありません」と否定している。
ハードウェア
十字キーを2つ搭載する。アナログスティックなどを除けば方向キーを2つ搭載した家庭用ゲーム機は他に無い。
バーチャルボーイ内部には、画像の縦解像度と同じ224個の赤色LEDを並べた1本のバーが配置され、対になった鏡が1枚装備されている。LEDバーは、50分の1秒の間に384回の点滅(画像の横解像度と同じ)を繰り返し、鏡は25分の1秒[要出典]の間に一往復の周期で高速に振動する。振動する鏡が、LEDバーの光と同期して光を反射することによって、鏡の上に画像を映し出す。
この投影システムが、右目用と左目用に個別に用意され、左右の目の視差を利用した位置に配置されることによって、立体的な映像を作り出していた。赤色単色ながら、その映像の立体感は画期的だった。また、一部では、赤青緑の3色のLEDを利用すれば、フルカラー画像の再現も可能ではないかと考えられていた。
基本仕様
- CPU:カスタムV810(20MHz)
- RAM:1MB
- SRAM:512KB
- 画面:4階調モノクロ、384×224ドット、画面の明るさを32段階で調整可能。
- サウンド:16ビットステレオ 波形メモリ音源5ch(5チャンネル目はスイープおよび変調可能)+ノイズ1ch[4]
- コントローラー:ボタン6個(Aボタン、Bボタン、STARTボタン、SELECTボタン、Lボタン、Rボタン)、十字キー2個、電源スイッチ、電池ボックス付属
- 通信ポート:これを使用する周辺機器は存在しない。海外版では削除。ゲームボーイのそれよりも一回り大きい。
- 電源:単3電池6本使用。別売りのアダプタを利用すればファミリーコンピュータ・スーパーファミコン共用のACアダプタ(HVC-002)が利用可能。
沿革
評価
PlayStationやセガサターンなど同世代ゲーム機らが市場の話題をさらう中で発売されて国内では15万程度、全世界中累計でも77万[注釈 1]程度と販売台数を伸ばせなかった。
しかし山内はバーチャルボーイに関して、「TVゲームとは異なる娯楽を求める傾向に応えるもの」[8]と述べている。
また、宮本はバーチャルボーイについて以下のように語っている[9]。
- ゲーム機というより、「おもしろいおもちゃ」という位置づけで新しい娯楽にアンテナを張ってる人、ある程度は自由にお金を使って良い人等に売れたら良いとイメージをしていた。
- 「おもしろいおもちゃ」として考えたら5万台でも売れたら大成功だと思う。
- しかし世の中にはゲームボーイの後継機という扱いを受けて、更に任天堂はファミリーコンピュータ的なものとして売り出したため、世間や商業面ではゲームのプラットフォームと言う扱いをされた。
このように、山内・宮本としてはそもそもPlayStationやセガサターンなどのゲーム機と同じ土俵で争うものと捉えてはいなかった。しかし黒字ではあった[10]が、前述の通りあまり売れなかったので、1年程度で製造終了しゲームのプラットフォームとしては失敗[9]であった。
バーチャルボーイは目に対する影響が懸念されたので、アメリカの科学者と確かめたところ目に悪いどころか目にいい結果が出た[11]。
スティーヴン・スピルバーグはバーチャルボーイを見て「すごいマシンだけど、カラーだったらもっといい」と述べていた。
「立体映像のゲーム機」というアイデアは3D映像が普及し始めて一般的なディスプレイを使用して低コストかつフルカラー化や、裸眼での立体視が可能など技術的なレベルが上がり、2011年2月26日発売のニンテンドー3DSで再び登場することとなる。
周辺機器
型番などに見られるVUEは、Virtual Utopia Experienceの略で、バーチャルボーイのコードネームでもある。
型番 | 名称 | 備考 |
---|---|---|
VUE-001 | バーチャルボーイ | 本体 |
VUE-003 | スタンド | 本体を設置するためのスタンド |
VUE-005 | コントローラ | 専用コントローラ |
VUE-006 | カートリッジ | 専用ロムカセット |
VUE-007 | 電池ボックス | コントローラの背面に接続して電力供給するボックス |
VUE-010 | アイシェード | 入射光をカットして視認性を向上させる |
VUE-011 | ACアダプタタップ | ファミリーコンピュータ、スーパーファミコン、バーチャルボーイ共通ACアダプタ(HVC-002)をバーチャルボーイで使用することが可能で電池ボックスとの排他利用である |
VUE-012 | アイシェードホルダー | アイシェードを固定するパーツ |
VUE-014 | ステレオヘッドホン | 本体と同色の赤いステレオヘッドフォン |
不明 | アジャスタブルスタンド | VUE-003の改良版で未発売[12] |
不明 | 通信ケーブル | 絵画版バーチャルボーイでの通信ポート廃止により発売中止 |
ゲームタイトル一覧
- 1995年7月21日 - マリオズテニス(任天堂)
- 7月21日 - ギャラクティックピンボール(任天堂)
- 7月21日 - テレロボクサー(任天堂)
- 7月21日 - レッドアラーム(T&E SOFT)
- 7月21日 - とびだせ!ぱにボン(ハドソン)
- 8月11日 - T&E ヴァーチャルゴルフ(T&E SOFT)
- 8月11日 - バーチャルプロ野球'95(コトブキシステム)
- 8月12日 - バーティカルフォース(ハドソン)
- 8月25日 - V-テトリス(BPS)
- 9月28日 - マリオクラッシュ(任天堂)
- 9月28日 - スペーススカッシュ(ココナッツジャパンエンターテイメント)
- 9月29日 - ジャック・ブラザースの迷路でヒーホー!(アトラス)
- 10月6日 - バーチャルフィッシング(パック・イン・ビデオ)
- 10月13日 - インスマウスの館(アイマックス)
- 12月1日 - バーチャルボーイワリオランド アワゾンの秘宝(任天堂)
- 12月1日 - スペースインベーダー バーチャルコレクション(タイトー)
- 12月8日 - バーチャルLAB(J・ウイング)
- 12月22日 - バーチャルボウリング(アテナ)
- 12月22日 - SDガンダム DIMENSION WAR(バンダイ)
発売中止ソフト(全21タイトル)
- 『湾岸戦線レッドシティ』
- 『ドラえもん のび太のドキドキ!おばけランド』
- 『バーチャルプロ野球'96』
- 『サンディズポイント(仮題)』
- 『スターシード』
- 『プロテウスゾーン』
- 『アウト・オブ・ザ・テスマウント』
- 『Jリーグ 3Dスタジアム』
- 『新日本プロレスリング 激闘伝説』
- 『ヴァーチャルドッジボール』
- 『ポリゴブロック』
- 『バウンド・ハイ!』
- 『G-ZERO』
- 『ナイトランディング』
- 『バーチャルタップ役満』
- 『バーチャルボンバーマン』
- 『ニコちゃんバトル』
- 『ヴァーチャルガンマン』
- 『空とぶヘンリー』
- 『バーチャルブロック』
- 『バーチャルジョッキー』
脚注
注釈
出典
- ^ “世界中で売れなかったゲーム機ワースト10”. GIGAZINE. OSA (2007年5月7日). 2019年12月29日閲覧。
- ^ 横井、牧野 2010.
- ^ a b 井上 2009, p. 213.
- ^ “virtual boy audio spectifications” (英語). Planet Virtual Boy. 2019年12月29日閲覧。
- ^ 「任天堂VRゲーム機 来春発売予定に 11月の初心会で披露予定」『ゲームマシン』(PDF)、第474号(アミューズメント通信社)1994年6月15日、7面。
- ^ 「任天堂が新システム 赤色の立体画像 「バーチャルボーイ」来春発売」『ゲームマシン』(PDF)、第486号(アミューズメント通信社)1994年12月15日、7面。
- ^ 「「バーチャルボーイ」7月に発売延期 価格も1万5千円に値下げ」『ゲームマシン』(PDF)、第486号(アミューズメント通信社)1994年12月15日、7面。
- ^ 「「バーチャルボーイ」を披露した 第6回初心会展 64ビット機は95年8月に紹介」『ゲームマシン』(PDF)、第487号(アミューズメント通信社)1995年1月1日、13面。
- ^ a b “社長が訊く『ニンテンドー3DS』”. 任天堂. 2019年12月29日閲覧。
- ^ 井上 2009.
- ^ 横井、牧野 2010, pp. 169–170.
- ^ Virtual Boy[リンク切れ]
参考文献
- 横井軍平、牧野武文『横井軍平ゲーム館 RETURNS-ゲームボーイを生んだ発想力』フィルムアート社、2010年11月15日。ISBN 978-4-8459-1050-2。OCLC 758607575。
- 井上理『任天堂 驚きを生む方程式』日本経済新聞出版社、2009年5月12日。ISBN 978-4532314637。OCLC 754554152。