助川久蔵
助川久蔵 (すけがわ きゅうぞう、文化10年2月15日 - 明治31年7月20日)は、江戸時代後期から末期の水戸藩士。小十人目附。字は毎之、のちに徳類。姓は「介川」とも。 幕末動乱期を天狗党の一派・本圀寺党の一員として生き延びた。
来歴
常陸国那珂郡大賀村生まれ。助左衛門徳頭を祖父、杢衛門徳満を父、旧姓・鹿島美奈を母とする。若くして士分格となり、文政12年10月、第8代水戸藩主徳川斉脩が早世した際には、水戸への御通棺に17歳の徒士として随行した[1]。 天保11年時点で小十人目附、15石4人扶持[2]。
天狗党の乱
元治元年、水戸藩は大きく天狗党と諸生党の二派に分かれ、幕府や他藩を巻きこんでの内紛状態にあった。いわゆる「天狗党の乱」である[3]。
水戸城にたてこもった諸生党・市川三左衛門らを鎮撫するため、8月4日、水戸へ向かった宍戸藩主・松平頼徳の駕籠脇を、久蔵は務めた。 しかし道中、天狗党の一軍(大発勢)を同行させた頼徳の入場を、市川ら諸生党は拒絶。逆に発砲してきたため、頼徳軍は那珂湊まで退却した。だが、諸生党勢が押し寄せてきたため、これとぶつかり、数日間の戦闘を久蔵も戦うことになる。その後は100名以上での領内廻村を命じられ、各村の鎮撫にあたる中、諸生党の一団とたびたび遭遇し、戦闘を行うことになった[4]。
石名坂の合戦、金沢の合戦
一方、諸生党との争いを避けたい頼徳は対応に苦慮し、多賀郡助川城の城主・山野辺義芸に応援を求めた。これは市川三左衛門の元、水戸城で人質同然となっていた徳川斉昭夫人らを解放させるためでもあった。 義芸は8月23日、百余人を率いて水戸城へ向かう。ところが、市川ら諸生党は那珂川の渡しを押しつぶし、山野辺たちの入城も拒絶。山野辺家の家老・寒河江忠左衛門が説得するも受け入れらず、逆に山野辺軍への攻撃が開始された[5]。
この時、寒河江忠左衛門の長男・寒河江延之進が馬を飛ばして「寺門登一郎ら諸生党が助川城に迫りつつある」と急を告げに来たため、山野辺軍は急遽反転[6]。8月24日、石神外宿まで引き返してきたところで、頼徳軍に参加していた150人余と合流した[7]。
帰路、諸生党との激しい合戦に勝利を収めた石名坂で、久蔵は山野辺義芸への拝謁を許され、金沢の合戦を経て、8月25日、助川城に辿りついた[8]。
助川城脱出
ところが直後、山野辺義芸は幕府から逆賊と見なされてしまう。天狗党と行動を共にしていた頼徳軍と義芸が合流したこと、また、山野辺家がもともと水戸藩改革派の重鎮であったことを理由に、市川三左衛門が幕府の天狗党追討軍総督・田沼意尊と相図った結果だった[9]。
差し向けられた二本松藩・磐城平藩・常陸松岡藩の追討軍に、諸生党の各隊、および動員された各村の人足をくわえた1000余名の大軍によって、助川城は完全包囲される[10]。久蔵は仲間とともに城を脱出。9月8日、久慈郡中染村に至り、敵と接戦するも、食糧は尽きて疲労困憊、みな散り散りになったところを捕縛された。
本圀寺党の帰還
捕縛された大発勢の中には、陣屋預けや寺社預けになって生き延びた者が多いが、頼徳軍から投降した者には処刑された者、獄中死した者が少なくない[11]。 久蔵がなぜ許され、出牢できたかは不明だが、入牢百日余にして帰村を申し渡され、以降は潜伏。慶應元年5月、京都へ赴き、本圀寺党に加わった[12]。
本圀寺党とは京都の本圀寺を宿所にし、当時12歳で御所守衛の任に就いていた徳川昭武とともに、禁中を守衛していた水戸藩兵の一団である。とはいえ、天狗党派閥だったため、諸生党の支配下にある国許からは充分な補給が行われず、その生活は困窮を極めていた[13]。
本圀寺党に、帰国と諸生党の鎮圧が勅旨されたのは、維新成った後の明治元年(1868年)。久蔵は仲間とともに水戸へ帰り、諸生党を奥州白川まで追討した。 同年10月には、水戸城の奪還を企図して再来襲した諸生党と、弘道館戦争を戦い、勝利を収めた。 その後はひとり、大賀村へ帰村。以後は農業に務め、明治31年7月に没した[14]。
婚姻
旧姓・諸澤みよとの間に三男一女を設けた。長男・助川 壽は明治39年、茨城県巡査となったのを皮切りに、大子分署長、松原の各署署長、土浦警察署長、水戸警察署長を歴任した[15][16]。
参考文献
- ^ 『松戸市史 史料編2』(近世諸家文書、1973)
- ^ 長島尉信編「江水御規式帳」(1840年)、『幕末日本と徳川斉昭』(茨城県立歴史館、2008)
- ^ 『水戸市史 中巻五』(水戸市史編纂近現代専門部会、1972)
- ^ 茨城県参事 関 新平宛 国家関係事蹟書(1874)
- ^ 鈴木彰『助川海防城 - 幕末水戸藩の海防策 -』(崑書房、1978)
- ^ 神永敏子『幕末水戸藩士の眠る丘』(風濤社、1997)
- ^ 『助川海防城と陣屋・番所・台場』(助川海防城跡保全会、2007)
- ^ 茨城県参事 関 新平宛 国家関係事蹟書(1874)
- ^ 鈴木彰『助川海防城 - 幕末水戸藩の海防策 -』(崑書房、1978)
- ^ 『助川海防城と陣屋・番所・台場』(助川海防城跡保全会、2007)
- ^ 『日本主義 近代のあけぼのと水戸藩 --その輝きと陰影』(白陽社、2010)
- ^ 茨城県参事 関 新平宛 国家関係事蹟書(1874)
- ^ 須見 裕『徳川昭武 万博殿様一代記』(中公新書、1984)
- ^ 茨城県参事 関 新平宛 国家関係事蹟書(1874)
- ^ 『日本警察新聞』第737号、1928)
- ^ 『茨城人名録』(いはらき新聞社、1939)