商品先物取引
商品先物取引(しょうひんさきものとりひき)は、農産物や鉱工業材料等の商品を将来の一定日時に一定の価格で売買することを現時点で約束する取引であり、先物取引の一種である。
本来は、将来の価格変動リスクを管理するための手段(リスクヘッジ)として利用するものであるが、多くは投機手段としての利用となっている。対義語は現物取引。
概要
主な役割として、価格変動のヘッジ機能と商品価格の調整機能がある。
ヘッジとは、商品の現物取引を行っている者が、将来の価格変動によって損失を被らないように保険を掛ける機能である。具体的には、アルミニウムを10,000トン輸入した商社があり、船で輸送して日本に到着するまでに1箇月かかるとする。仮に1箇月の間にアルミニウムの価格が1kgあたり10円下がったとすると、商社は1億円の損失を出すことになる。このような場合、商品先物取引を利用して10,000トン分のアルミニウムを売っておけば値下がりによって利益が出るので、現物の損失と相殺することが出来る。
価格調整機能とは、商品先物取引では、公開の市場で多数の参加者が競り合うことで価格が決定されるので、理論上、その時点での最も公正な価格が決められることを指す。また、先物価格を指標として生産者が生産調整を行うことがあるため、将来価格が高い場合は、生産量が増えて結果的に価格が下がり、将来価格が低い場合は、逆の現象が生じる。このため、商品価格の乱高下が減り、価格の安定化をもたらすと考えられている。ただし、仕手やファンド等の介入で価格が、ある程度乱高下する場合もある。銀相場におけるハント兄弟の買い占めが世界的な事象として知られてるが、結局、彼らは暴落で大損失を被ることになる。
商品先物取引を金融商品として見た場合、少額の現金のみで取引できる「証拠金取引」であるため、レバレッジ効果によって利益・損失とともに莫大になりやすい。
歴史
1730年に江戸幕府が、大阪堂島米相場会所に対し米の先物取引を許可したのが、日本での商品先物取引の始まりである。これ以前にも、1568年に開設されたロンドン(イギリス)の取引所や1531年に開設されたアントワープ(ベルギー)の取引所があったが、近代的な商品先物取引の嚆矢は上記の堂島米会所といわれている。
堂島米会所は、米を取引対象としていたので、当然、商品市場であるが、当時の日本で、米は貨幣的な役割を果たしていたこと、金本位制と銀本位制が混在していたことから、米を仲立ちとして金と銀の交換レートが実質的に決定されるという役割も持っていた。このことから、商品としての米よりも貨幣としての米の側面が高く、実質的には商品市場というよりも為替市場として機能していたと分析する研究者もいる。
しかし、米の先物取引は第二次世界大戦に伴う米流通の統制に伴い1939年廃止された。終戦後の商品取引所公布を受け、1950年大阪化学繊維取引所(現在の中部大阪商品取引所)を皮切りに商品先物取引が再開されたものの、米の先物取引は2006年時点でいまだ実現していない。
現状
日本の商品先物市場は、農林水産省及び経済産業省の管轄となっている。これは、先物取引の内の商品の受け渡しに注目した管轄の方法であり、商品先物取引委員会(w:Commodity Futures Trading Commission, CFTC)という専門組織があるアメリカ合衆国をはじめとする諸外国と異なる点であり、また管轄省庁が2箇所あることに起因する運営上の諸問題も発生している。
日本の商品先物市場は、他の国とは違って個人投資家による投機取引が大部分を占め、それにより投資家とのトラブルや市場機能の未熟さが指摘されてきたが、貴金属市場や石油市場の拡大とともに近年は商社をはじめとする機関投資家の取引が急増している。この結果、石油製品などの実需取引においては、商品先物市場の価格が指標として活用されるなど、日本の産業インフラとしての機能を発揮しつつある。 また、白金やゴムなどの商品では東京工業品取引所が世界最大規模の出来高を誇り、世界的な指標価格を形成している。
取引の仕組み
取引においては、一定の決まった月までに、現物引渡しまたは反対売買(転売・買戻し)で決済することが約束されている商品を売買する。この決められた月を、「限月(げんげつ)」といい、取引の単位を「枚」という。たとえば金においては1㎏が取引単位となっている(2007年2月現在)。現物を受け渡す最小単位も取引単位と同様に設定しているものが多いが、なかには2枚や5枚を単位するものもある。売買をするにあたっては取引所によって定められた一定額の証拠金を納めなければならない。この額は契約商品全体の額(「丸代金」という)の5~10%くらいである。すなわち10~20倍のレバレッジがかかっているのがこの取引の特徴である。買いまたは売りをしたまま、未決済(現物引渡しや反対売買が行われていない状態)になっている契約を「建玉(たてぎょく・たちぎょく)」という。建玉に発生する損益を「値洗い」といい、ポジション(口座にある建玉全体の状態)にたいして一定以上の値洗い損がでれば、追加の証拠金を納めなければならない。これを取引追証拠金(とりひきおいしょうこきん・おいしょう)という。証拠金が納付できない場合は、そこで強制決済となる。証拠金は、納会日(最終決済日)が近づいてきたときや相場が荒れたときにも、追加を要求される。前者を定時増証拠金(ていじまししょうこきん・ていまし)、後者を臨時増証拠金(りんじまししょうこきん・りんまし)という。
このようにして、商品が上がると思えば買い建玉をし、下がると思えば売り建玉をするのが、商品先物取引(商品相場)における典型的な投機的取引であるが(いわゆる片建取引)、このほかに、同一商品異市場の値段差が縮小するのを狙う取引(アービトラージ)や、類似商品の値段の差・比率に着目する取引(ストラドル)、限月間の値段差に着目する取引、順鞘(限月が近づくにつれ値段が下がっている状態)のときの鞘すべり取り(ローリング)、逆鞘(限月が近づくにつれ値段が上がっている状態)のときの鞘出世取り、順鞘のとき期近(決済の早い限月)を買い期先(決済の遅い限月)を売って、期近を現受け(現物を引き取ること)して期先に売りつなぐことで、差額を獲得する取引などがあり、これらを総称して鞘取りという(もともとは投機的取引で値段差を狙う全ての取引を鞘取りといった)。日本では困難であるが、これらにさらにオプション取引を絡ませて、いっそう複雑なポジションを構成することもできる。
なお、毎日の売買量を出来高(できだか・売りと買いが成立したものを1枚と数える)といい、ある時点での未決済の建玉の量を取組高(とりくみだか・売りと買いが取り組んだ状態を1枚と数える)という。これとは別に売買高という言葉を使用する場合があって、売りと買いでそれぞれ1枚と数え出来高を2倍に数えるのがそれだという。ただし日本経済新聞の商品市場の欄の説明では出来高のことを売買高といい、取組高のことをたんに建玉と称しているから注意を要する。
商品取引員
商品取引受託業務を営む株式会社が商品取引員である。これは有価証券の取引に於ける証券会社に当たる。ごく一部の良心的な取引員を除き、勧誘を巡る苦情が多く、2004年4月に成立した改正商品取引所法では、資産保全制度の拡充、商品取引員が投資家を勧誘する場合のルール強化、商品取引員の財務基準の見直しなどが盛り込まれた。また、外国為替証拠金取引に参入するものも多い。商品取引員の利潤の大部分は、顧客からの委託手数料で賄われているが、2004年に委託手数料が自由化された。 2005年4月に個人情報保護法が施行され、同年5月に商品取引所法が改正されてからは、勧誘規制強化の影響で収益が大幅に落ち込んだ商品取引員が多く、また主務省(経済産業省・農林水産省)による抜き打ち査察が徹底的に強化され、その結果廃業や業務停止に追い込まれる商品取引員が同年から相次いでいる。 また、商品先物取引の営業においては登録外務員の制度が採られている。
主な商品取引員
手数料の自由化以降、三菱商事や三井物産など大手商社の子会社だけでなく、ライブドア(ライブドアコモディティ、現・かざかコモディティ)や楽天(ドットコモディティ)などのような新規参入が増えつつある。
- コムテックス
- ばんせい証券
- 三貴商事
- 小林洋行
- 日本ユニコム(ユニコムグループホールディングス)
- 第一商品
- エース交易
- 豊商事
- SBIフューチャーズ
- マネックス証券(マネックス・ビーンズ・ホールディングス)
- 岡藤(岡藤ホールディングス)
- ひまわりCX(ひまわりホールディングス)
- スターアセット証券(スターホールディングス)
- 大洸ホールディングス
- オムニコ
- 岡地
- サンワード貿易
- オリエント貿易
- フジトミ
- 岡安商事
- フィリップ フューチャーズ
問題となった商品取引員
- アイメックス - 2007年3月30日付けで商品先物取引受託業務を廃止後自己破産。
- 東京ゼネラル - 2004年1月13日付けで会員たる資格を喪失
- グローバリー - 2005年9月30日付けで商品先物取引受託業務を廃止
- 西友商事 - 2005年11月30日付けで商品先物取引受託業務を廃止
- メビウストレード - 2006年11月6日付けで商品先物取引受託業務を廃止
- 新日本貴志 - 2004年12月14日付けで経済産業省より業務改善命令及び受託業務停止命令を受け、取引員の資格を喪失
特にグローバリーと西友商事は、問題となった業者の中でも苦情や紛争の件数が多かったことで知られる。しかしそれ以外にも、商品先物取引業者の多くに無断売買、預託金の返還拒否や顧客本人の名義以外での取引により、苦情の噴出や顧客との紛争で問題となっている会社がある。特に元西友商事社員は、3年間の外務員の登録拒否の行政処分を受けており、往時の同社の営業の悪辣さが窺える。
ちなみに廃業した会社の元社員や、退職した社員が会社を興し「海外先物取引」の業者として活動することがある。海外先物取引には国による許可登録制が無く、事実上自由に業務が行える。国内先物取引で違法業者が処罰を受け、海外先物の世界に転がり込んでくるということがよくある。それ故海外先物の世界が、違法業者の巣窟であり隠れ蓑にもなりうる危険性をはらんでいることは否めない事実である。経済産業省も注意を呼びかけており、海外先物に関する法令もあるものの、どれだけ実効的な管理が出来ているかは不透明である。
これについて、2003年に日本弁護士会、先物被害者団体等が連名で「海外先物も一元的な管轄体制にすべき」とのパブリックコメントを寄せている。[1]
2006年現在では、「ロコ・ロンドン金取引」という新手の取引の勧誘も出てきており、国民生活センターも注意を呼びかけている。[2]
商品取引所
日本では東京工業品取引所、東京穀物商品取引所など6つの商品取引所で商品先物取引が行われている。うち、原油やガソリン、貴金属などを上場する東京工業品取引所が、商品先物取引の出来高で世界第2位となっている。欧米と同様の清算制度や電子取引端末の導入を契機に、時差の面で米国市場・欧州市場を補完するアジアの中核市場として注目されている。
取引形態は、株式市場と同様のザラバ方式と、1日数回の取引節ごとに注文を突き合わせる板寄せ方式に分かれている。殆どの市場で注文処理はコンピュータシステムによるシステム取引が行われているが、中部大阪商品取引所大阪取引センターにおいては、伝統的なハンドサインによる手振り板寄せ売買が行われている。
板寄せにおいては、市場で売買が成立した後一定時間内の間、取引員が当該値段で売り買い同枚数の取引が成立したとして、後から取引所に報告することが認められている。これをバイカイ付け出しといい(またバイカイを振るともいう)、投資家の中には特殊サービスとして歓迎する向きもあるが、不正の温床であるとして問題視する意見もある。また、取引所と取引員は、日々値洗いに応じて、場勘とよばれる金銭のやりとりをしなければならず、これが即時行われないと違約となって取引停止となるので、取引員は場勘のやり取りを嫌う傾向が強い。このため、取引員は取引所に対し中立のポジションをとる傾向があり、当然一般の顧客とは反対のポジションをとる傾向となる。これを向かい玉といい(市場を全く通さない場合は呑み玉という不正行為である)、顧客に対する出金遅延の原因となりやすい。
日本の商品取引所
主な対象商品
取扱商品は取引所により異なる。
農産物
鉱産物
商品指数
- ゴム指数
- 野菜
関連項目
外部リンク
- 先物取引(金融広報中央委員会)
- 日本商品先物取引協会
- 悪徳先物取引と闘う市民の会
- 先物取引被害問題研究会(弁護士)
- 東京工業品取引所(TOCOM Independent Software Vendors)(ISVs)
- 商品取引関連情報 - 農林水産省総合食料局
- 商品先物取引 - 経済産業省商務情報政策局商務課
- 商品先物取引に関する消費者相談の傾向と問題点 - 独立行政法人国民生活センター