全農林警職法事件

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全農林警職法事件(ぜんのうりんけいしょくほうじけん)とは、公務員労働基本権の制限が問題とされた日本の刑事事件。最高裁判所昭和48年4月25日大法廷判決は、最高裁の判例の中でも最も大規模なものの一つとして知られる。

最高裁判所判例
事件名 国家公務員法違反被告事件
事件番号 昭和43年(あ)第2780号
1973年(昭和48年)4月25日
判例集 刑集27巻4号578頁
裁判要旨
1.公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、国公法98条5項がかかる公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべきであつて、憲法28条に違反するものではない。
2.国公法98条5項、110条1項17号の解釈に関して、公務員の行なう争議行為のうち、同法によつて違法とされるものとそうでないものとの区別を認め、さらに違法とされる争議行為にも違法性の強いものと弱いものとの区別を立て、あおり行為等の罪として刑事制裁を科されるのはそのうち違法性の強い争議行為に対するものに限るとし、あるいはまた、あおり行為等につき、争議行為の企画、共謀、説得、慫慂、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして、国公法上不処罰とされる争議行為自体と同一視し、かかるあおり等の行為自体の違法性の強弱または社会的許容性の有無を論じて、限定解釈すべきではない。
大法廷
裁判長 石田和外
陪席裁判官 大隅健一郎 村上朝一 関根小郷 藤林益三 岡原昌男 小川信雄 下田武三 岸盛一 天野武一 坂本吉勝 田中二郎 岩田誠 下村三郎 色川幸太郎
意見
多数意見 石田和外 村上朝一 藤林益三 岡原昌男 下田武三 岸盛一 天野武一 下村三郎
意見 岩田誠 田中二郎 大隅健一郎 関根小郷 小川信雄 坂本吉勝
反対意見 色川幸太郎
参照法条
憲法28条、国家公務員法98条5項、110条1項17号
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事件の概要

全農林労働組合(全農林)は、昭和33年の警察官職務執行法改正案が衆議院に上程された際、これに反対するとして、所属長の承認なしに正午出勤するなどの争議のあおりを行った。これが国家公務員法違反として、組合幹部が刑事責任を問われたものである。一審(東京地判昭和38年4月19日)は全員無罪、二審(東京高判昭和43年9月30日)は逆転して全員有罪。組合側が上告。

最高裁判所判決

上告棄却。労働基本権の保障は公務員にも及ぶが、それを制限する国家公務員法の争議行為の一律禁止規定は、憲法18条28条に違反しない。

なお、本判決には石田・村上・藤林・岡原・下田・岸・天野の各裁判官の補足意見、岸・天野両裁判官の追加補足意見、岩田・田中・大隅・関根・小川・坂本の各裁判官の意見、色川幸太郎裁判官の反対意見が出るなど、実質的には8対7の僅差であった。

関連する判例

関連項目

参考文献

  • 室井力「国家公務員の労働基本権」『憲法判例百選II 第4版』312頁(有斐閣、2000年)
  • 清水敏「労働基本権の制限─全農林警職法事件」『労働判例百選 第7版』12頁(有斐閣、2002年)

外部リンク