太陽を盗んだ男
『太陽を盗んだ男』(たいようをぬすんだおとこ)は長谷川和彦監督による、アクション映画の名作。1979年、キティ・フィルム製作、東宝配給。 1979年度キネマ旬報 日本映画ベストテン第2位、映画芸術誌ベストテン第3位、映画人が選んだオールタイムベスト100(キネマ旬報/1999年)日本映画篇では13位に選ばれた、日本映画史に残る作品。
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。
あらすじ
中学校の理科教師・城戸誠(沢田研二)は、茨城県東海村の原子力発電所から液体プルトニウムを強奪し、アパートの自室でハンドメイドの原爆を完成させた。そして、金属プルトニウムの欠片を仕込んだダミー原爆を大胆にも国会議事堂に置き去り、日本政府を脅迫する。誠が思いついた最初の要求は、「プロ野球ナイターを試合の最後までTV中継させろ」であった。
誠が交渉相手に名指ししたのは、丸の内警察署捜査1係の山下警部(菅原文太)。かつて誠がクラスごとバスジャック事件に巻き込まれたとき、体を張って誠と生徒たちを救出したのが山下だった。誠はアナーキズムの匂いのする山下にシンパシーを感じていたのだ。電話を介しての山下との対決の結果、ナイターは急遽完全中継される。快哉を叫ぶ誠は山下に名乗った。俺は”9番”だ、と。(当時、世界の核保有国は8ヶ国で誠が9番目という意味。)
第二の要求はどうするか? 思いつかずに迷う誠は、愛聴するラジオのDJ・沢井零子(池上季実子)を巻き込む。公開リクエストの結果、誠の決めた第二の要求は「ローリング・ストーンズ日本公演」。これにも従わざるを得ない山下だったが、転機が訪れた。原爆製造設備のため借金したサラ金業者に返済を迫られた誠が、渋々出した第三の要求「現金5億円」に山下は奮い立つ。金の受け渡しなら犯人は必ず現れるからだ。大型トランク2つ分もの大金を、誠はどうやって受け取るのだろうか?
概要
「原爆を作って政府を脅迫する」という奇想天外なアイデアの日本映画。 大掛かりなカーアクション、国会議事堂や皇居前を始めとしたゲリラ的な大ロケーション、 シリアスで重い内容と、ポップでエネルギッシュな活劇要素(人を食ったようなプルトニウム奪取や原爆奪還など) が渾然となった邦画としては他に類を見ないエンターテイメント作品。 原子爆弾製造や皇居前バスジャックなど、当時としてもかなりきわどい内容。 主演はジュリーこと沢田研二。原爆完成の嬉しさのあまりガイガーカウンターをマイク代わりにはしゃぐシーンは出色。 クライマックスの菅原文太との死闘の凄まじさは語り草となっている。
キャスト
その他
- タイトルの『太陽を盗んだ男』はオリジナルストーリーを執筆したレナード・シュレイダーの妻チエコ・シュレイダーの発案。 「何でもない普通の青年が原爆を作って時の政府を脅迫する。その第一の要求は"テレビのナイター中継を最後まで放送しろ"だった」が元アイデア。原題は「The Kid Who Robbed Japan」だった。
- 当初準備していたタイトルは「笑う原爆」。これはKIDにあたるいい日本語訳がなかったための仮タイトル。しかし、これに東宝サイドが難色を示し、監督が原題をもじって『太陽を盗んだ男』とした。
- 監督の長谷川自身が「胎内被爆児」であり、「原爆」という題材にのみ過敏になって映画撮影中に抗議に来たある活動団体に対して、自分の「特別被爆者手帳」を見せて説明し、納得させたという。
- 城戸の要求「試合終了までのTVナイター中継」「ローリング・ストーンズ日本公演」は、今でこそわりと普通だが、当時としては誰もが思っていながら,実現することなど夢のまた夢、と思われていた。
- 本作品は東洋工業(現:マツダ)が制作に協力している。劇中のナイター中継に挿入されたファミリアのCMや首都高速での主人公城戸が乗るサバンナRX-7と山下刑事が乗るコスモAPは当時新車で、惜しげもなくカーチェイスに使われ、ラストには爆破される。(白パトカーは230型日産セドリックで、カーチェイスシーンではたくさん横転させられている)。
- 城戸の作った原爆は劇中の設計図や製造過程から爆縮式(インプロージョン式)であることがわかるが、爆縮式原爆において極めて重要な部分である爆縮レンズの構造については触れられていない。形状、材質、細かな構造から見ても、全く同じ物を製造しても火薬の爆発の力がプルトニウム・コアに均等に伝わるとは考えにくい。したがってこの爆弾を作動させても核反応は起こらず、限られた狭い一定範囲にのみ火薬自体の爆発による破壊が起こるだけであろう。しかし、プルトニウムが爆発によって飛散することで、周囲のそれなりの範囲が放射能汚染されることは予想できる。
- ヘリコプターの足にぶら下がった山下がヘリから地上に落ちるシーン、余りにも高度が高過ぎるとお気づきだろうか。これは撮影時のミスで、本来5~10メートルの高さから落ちるはずが、ヘリコプターが予定よりも遥かに上昇してしまいあの高さになったものだそうな。奇跡的にケガひとつ負わなかった山下役のスタントマンは、完成フィルムを見て自分の飛び降りたあまりの高さに驚き、「冗談でしょ!」と顔面を引きつらせたとか。
- 冒頭のシーン、バスジャックのクライマックスは、伊藤雄之助扮するバスジャック犯が神風特攻隊の格好に日の丸鉢巻という出で立ちで皇居に向かって手榴弾を投げるものである。このシーンは長谷川が後に語ったところによると「皇居前広場に無許可で忍び込んで一発撮りしたいわばゲリラ撮影だった」とのこと。ちなみに伊藤は西部警察の第2話「無防備都市・後編」でも本作品と同じ出で立ちで特殊装甲車に乗り込み、渡哲也扮する大門部長刑事率いる「大門軍団」と戦って死亡している。
- 前述の大掛かりなアクションシーンや沢田と菅原の初共演、強烈なサスペンス要素といったセールスポイントを予告編で示していたが、興行成績は悪かった。宮崎駿監督作品である『ルパン三世 カリオストロの城』とともに「名作は必ずしもヒットするわけではない」ことを如実に示す作品として語られることも多い。なお、本作と『カリオストロの城』は、奇しくも同年に公開されている。
- 2001年にはアミューズピクチャーズ(現:ショウゲート)からDVD化され、映像特典として11PM(読売テレビ制作)による本作の特集などが収録された。
- 映画評論家樋口尚文は97年5月の朝日新聞夕刊の連載企画「わが青春のヒーロー」に本作の主人公「城戸誠」をとりあげて愛を語っているが、さらに著作「『砂の器』と『日本沈没』1970年代日本の超大作映画」(筑摩書房/2004)で一章をさいて「太陽を盗んだ男」を詳細に分析、激賞している。