人間国宝

日本の重要無形文化財の保持者

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人間国宝(にんげんこくほう)とよばれる正式な認定制度は無い。人間国宝とはいつの頃からか巷で言われ出した俗称でしかない。正確には、日本文化財保護法に基づき指定される国指定の重要無形文化財の保持者である。

 重要無形文化財には個人指定と団体指定といった指定方法があるが、人間国宝は俗には個人指定を指すことが多い。しかし、団体指定の場居も団体の中の個人名で指定されているため、実質的には個人、団体による保持者は法律的には何の差は無い。それは、ひとつの文化財を保護するには個人だけではなく周辺のものも保護する必要があるためである。また、それは、あくまで個人だけではなくその周辺の物も含め、全体としてひとつの文化ととらえられるためである。

概説

人間国宝は、重要無形文化財保持者として各個認定された人物を指す俗称である。「総合認定」における保持者の団体の構成員、「団体認定」におけるその団体およびその構成員については、通常は人間国宝とは呼ばない。

無形文化財とは、「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの」(文化財保護法第2条第1項第2号)をいう。重要無形文化財は、そのなかでも特に重要なものとして文部科学大臣が指定したものである(同法第71条第1項)。この点については重要無形文化財の項参照。

すなわち、「無形文化財」とは、芸能、工芸技術等の「わざ」そのものを指し、その「わざ」は、これを高度に体得している個人または団体が体現する。そして、国はこの「わざ」のうち重要なものを「重要無形文化財」に指定し、その「わざ」を体現する個人または団体を「重要無形文化財の保持者」または「重要無形文化財の保持団体」に認定し、その継承の支援と保護を行う。

「重要無形文化財の保持者」は「人間国宝」と通称され、転じて、「人間国宝」の呼称はその分野における名人・上手を比喩的にいう場合にも用いられる。

「重要無形文化財」の保持者、保持団体認定の方式

重要無形文化財の「保持者」または「保持団体」の認定の方式には、「各個認定」「総合認定」「保持団体認定」の3種がある。このうち、「各個認定」「総合認定」が「保持者」の認定であり、「保持団体認定」が「保持団体」の認定である。「保持者」の認定のうち、「人間国宝」と呼ばれるのは、個人が認定される「各個認定」の場合のみである。

演劇、音楽などの芸能の分野では「各個認定」と「総合認定」が行われ、工芸技術の分野では「各個認定」と「保持団体認定」が行われる。

  • 各個認定
「重要無形文化財に指定される芸能を高度に体現できる者」または「工芸技術を高度に体得している者」が認定される。
  • 総合認定
「2人以上の者が一体となって芸能を高度に体現している場合」や「2人以上の者が共通の特色を有する工芸技術を高度に体得している場合」において、「これらの者が構成している団体の構成員」が認定される。
  • 保持団体認定
「芸能または工芸技術の性格上個人的特色が薄く」かつ「当該芸能または工芸技術を保持する者が多数いる場合」において、「これらの者が主たる構成員となっている団体」が認定される。

総合認定における「保持者」

各個認定はいわゆる「人間国宝」、つまりその分野について高度な技術を持つ「名人」に対して行われる。一方で総合認定は、個人的な技術の高さではなく、ある芸能を保持し、後世に伝えてゆくために最低限必要な技量を持った人々に対して行われるものであり、その価値は実質上まったく異なる。総合認定が行われる分野は、一部の名人だけではなくその芸能自体が文化財保護の対象として考えられているものであるといえるだろう。

現在、重要無形文化財の総合認定には、以下の11団体が認定されている。総合認定の場合、「保持者」は、その団体の部員、会員、座員などである。

    • 人数は延べ人数(過去に会員となった者の総数。故人を含む)で、平成12年度の数。
  1. 宮内庁式部職楽部雅楽) - 50名
  2. 社団法人日本能楽会能楽) - 653名
  3. 人形浄瑠璃文楽座人形浄瑠璃) - 133名
  4. 社団法人・伝統歌舞伎保存会歌舞伎) - 294名
  5. 伝統組踊保存会(組踊) - 64名
  6. 義太夫節保存会(音楽) - 49名
  7. 常磐津節保存会(音楽) - 51名
  8. 一中節保存会(音楽) - 15名
  9. 河東節保存会(音楽) - 6名
  10. 宮薗節保存会(音楽) - 10名
  11. 荻江節保存会 - 8名

これらの団体には、多くの場合その母体となる全演奏家協会があり、その中で技量の熟達が認められた者について、上記の各団体への加入が認められ(通常は会員の推挙または互選)、各団体へ正式加入と同時に「重要無形文化財総合保持者」に認定される。各団体ごとに選出母体となる団体があり、数年に一回程度追加認定(実質上の人数追加)がある。

工芸技術分野における「団体認定」

工芸技術分野において、工芸技術の性格上個人的特色が薄く、かつ、当該工芸技術を保持する者が多数いる場合において、これらの者が主たる構成員となっている団体としてとして認定されているもの、すなわち、保持団体認定は、以下の14件・14団体である。

陶芸
  • 柿右衛門(濁手)- 「柿右衛門製陶技術保存会」
  • 小鹿田焼(おんたやき)- 「小鹿田焼技術保存会
  • 色鍋島 - 「色鍋島技術保存会」(1975年解除)、「色鍋島今右衛門技術保存会」(1976年認定)
染織
  • 伊勢型紙 - 「伊勢型紙技術保存会」
  • 喜如嘉の芭蕉布 - 「喜如嘉の芭蕉布保存会」
  • 久米島紬 -「久米島紬保持団体」
  • 久留米絣- 「重要無形文化財久留米絣技術保持者会」
  • 宮古上布 - 「宮古上布保持団体」
  • 結城紬 - 「本場結城紬技術保持会」
  • 小千谷縮・越後上布 - 「越後上布・小千谷縮布技術保存協会」
漆芸
手漉和紙
  • 細川紙 - 「細川紙技術者協会」
  • 石州半紙 - 「石州半紙技術者会」
  • 本美濃紙 - 「本美濃紙保存会」

人間国宝の一覧(芸能)

芸能分野は、雅楽能楽文楽歌舞伎組踊、音楽、舞踊演芸の8つの種別に分かれている。

平成19年度(2007年度)までの、歴代重要無形文化財保持者(各個認定)は以下のとおり(分野別。指定年月日順)。

雅楽

過去に各個認定はない。

能楽

文楽

歌舞伎

組踊

音楽

舞踊

演芸

演劇

人間国宝の一覧(工芸技術)

2007年までに認定された工芸技術部門の重要無形文化財保持者(各個認定)は以下のとおりである(2007年(平成19年)9月6日付け認定分までを含む。)

(凡例)

  • 便宜的に陶芸、染織、型紙、漆芸、金工、刀剣、人形、木竹工、諸工芸、和紙に分け、重要無形文化財に指定された工芸技術名と、保持者に認定された者の氏名を記載した。記載順は指定・認定された順とした。
  • 荒川豊蔵、北村武資、喜多川平朗の3名は、それぞれ2つの工芸技術について保持者に認定されたため、重出している。
  • 1975年の文化財保護法改正によって保持団体認定制度が導入される以前に「保持者代表」として認定されていた者については割愛した。
  • *印は2007年10月現在の保持者、無印は故人である。
  • 下の一覧には、保持者の死去により重要無形文化財の指定ならびに保持者の認定が解除されたものも含まれている。2007年9月現在、工芸技術部門の重要無形文化財で指定の効力が保たれているものは58件であり、保持者は各個認定が44件57人(下の一覧で*印を付した者。北村武資が2件で認定されているため、実人員は56人)である。

染織

染織(伊勢型紙)

  • 伊勢型紙(突彫)- 南部芳松
  • 伊勢型紙(錐彫)- 六谷梅軒(初代)
  • 伊勢型紙(道具彫)- 中島秀吉、中村勇二郎
  • 伊勢型紙(縞彫)- 児玉博
  • 伊勢型紙(糸入れ)- 城ノ口みゑ

漆芸

金工

  • 銅鑼 - 魚住為楽、*三代魚住為楽
  • 彫金 - 海野清、内藤四郎、鹿島一谷、金森映井智、*増田三男、鴨下春明、*中川衛
  • 蝋型鋳造 - 佐々木象堂
  • 茶の湯釜 - 長野垤志(てつし)、角谷一圭(かくたにいっけい)、*高橋敬典(けいてん) 
  • 鋳金 - 高村豊周(とよちか)、*齋藤明、*大澤光民(おおざわこうみん)
  • 肥後象嵌・透 - 米光光正
  • 梵鐘香取正彦
  • 鍛金 - 関谷四郎、*奥山峰石(ほうせき)、*田口壽恒(としちか)

金工(刀剣

  • 日本刀高橋貞次(さだつぐ)、宮入行平(ゆきひら)、月山貞一(さだいち)、隅谷正峯(すみたにまさみね)、*天田昭次(あまたあきつぐ)、*大隅俊平(としひら)
  • 刀剣研磨 - 本阿彌日洲、小野光敬、藤代松雄、*永山光幹
  • 衣裳人形 - 堀柳女、平田郷陽、野口園生、*秋山信子
  • 紙塑(しそ)人形 - 鹿児島寿蔵
  • 桐塑(とうそ)人形 - 市橋とし子、*林駒夫

木竹工

  • 竹芸 - 生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)
  • 竹工芸 - 飯塚小玕斎(いいづかしょうかんさい)、二代前田竹房斎、*五世早川尚古斎、*勝城蒼鳳
  • 木工芸 - 黒田辰秋、氷見晃堂、大野昭和斎、中臺瑞真(なかだいずいしん)、*川北良造、*大坂弘道、*中川清司(きよつぐ)、*村山明
  • 木象嵌 - 秋山逸生(いっせい)

諸工芸

  • 截金(きりかね)- 斎田梅亭、西出大三、江里佐代子
  • 撥鏤(ばちる)- 吉田文之
  • 越前奉書 - 八代岩野市兵衛、*九代岩野市兵衛
  • 雁皮紙 - 安部榮四郎
  • 土佐典具帖紙(てんぐじょうし)-*濵田幸雄(はまださじお)
  • 名塩雁皮紙 -*谷野剛惟(たにのたけのぶ)

関連項目

外部リンク