化け猫
日本の妖怪の一種
化け猫(ばけねこ)とは、猫が変化した妖怪のことである。猫又と混同されることが多く、その区別はあいまいである。日本各地に化け猫の伝説があり、佐賀藩(鍋島藩)の化け猫騒動が特に有名である。鍋島家の家臣、小森半太夫が異国種の猫を虐待したのでその猫はうらみをいだき、殿の愛妾、お政の方を食い殺して化身し御家に仇をなすが伊藤惣太らに退治されるという筋[1]。

化け猫のイメージとして「行灯の油を舐める」というものがある。怪談の文芸作品化が進められた江戸時代には、行灯の燃料としていわしから採った安価な魚油が広く使われていた(煤の少ない菜種油は高価だった)。いうまでもなく魚は猫の好物であるので、行灯の明かりにその姿を浮かびあがらせ油を舐めるというイメージが作られた。夜行性で目が光り、時刻によって瞳の形が変わる、暗闇で背中をなでれば静電気で光る、血をなめることもある、犬と違って猫の行動を制御することは困難であるなどの猫の神秘性に加え、また歴史上、化け猫へと変化していく過程で色々な動物の特徴を吸収して行き、蛇の執念深さ、狐の女性への変身能力、狸の人を食らう凶暴性(かちかち山)が纏まって化け猫へと完成していった[2]。
成り立ち・その他
- 猫が十数年も生きると神通力を持ち、人間などに化けられる。茨城県や長野県では12年、沖縄県国頭郡では13年飼われた猫が化け猫になるといい、広島県山県郡では7年以上飼われた猫は飼い主を殺すといわれる[3]
- 猫又がさらに年を経ると化け猫になる。逆に、化け猫がさらに年を経ると猫又になる、と言われることもある。
- 恩義のある人間の恨みを晴らすために、化け猫になる
- 地方によっては、人間に残忍な殺され方をした猫がその恨みを晴らすため、化け猫になり殺した人間を呪うと言う説もある。
- 『化物一代記』と言う江戸時代のパロディー本にも猫が遊女に化ける「化猫遊女」があり、客が寝てしまうと遊女はこっそり起き出して食べ物を盗み食いする絵が描かれている。夜中の行灯の油舐めシーンの原型とも言える[4]。
特徴
- 通常は猫の姿をしており、二足歩行することもできる。
- 人の姿に化けることができる。
- 尾が3本、または7本ある、とも言われている(猫又は2本あるとされている)。尻尾の数は霊力の強さを表す[4]。
伝承
- 江戸時代の安永年間に、泉州(現在の大阪府南部)の堺に現れたという話がある。平瀬という武士の家に巨大な腕が突然出現した。この腕を切ったところ、大きな猫の手であったという[5]。
- 江戸時代の中頃、六九谷村(現・兵庫県姫路市)に尼になった老婆がおり、そこの猫が飼い主に対し人の言葉を喋り、化け猫になる前にその猫を罠にかけて殺し処分した(春名忠成『西播怪談実記』六九谷村の猫物謂し事より)[6]。
- 同地香山村(龍野市新宮町)の農家がうるさく鳴く鶏を川に流し処分し、その川のそばで居眠りをしていた商人の夢枕に鶏が現れ、その家に長く飼われていた猫が農家の主人の命を狙っていたのを叫ぶことで防いだのだとする旨を伝えた。夢から覚めるとそばにその鶏がおり、正夢と言うことで農家はその猫を退治しようとしたが猫は逃げてしまった(同『西播怪談実記』香山村久太夫鶏の告によって難を免れし事より)。
- 北陸地方の弥三郎婆話にはある日猟に出た弥三郎は狼の群れに襲われ木の上に登ったが、狼は狼梯子を作りどんどん登って行き追いつこうとする。一匹分足りないときに「弥三郎婆を呼べ」と声がしやって来たのは巨大な古猫だった。登り付かれ食われる前に刀で猫の腕を切り落とし撃退した。逃げ帰ると母親が急病で寝込んでおり、もしやと切りかかると正体はあの古猫であり、床下に食い殺された母親の骨が残っていた[7]。
- 北海道・北奥羽地方の「三左衛門猫」(『日本伝説体系』)など弥三郎婆と類似した話が全国に伝わっている[7]。
- 播磨国山崎町牧谷(現・兵庫県宍粟市)にも、辛川某なる人が化け猫を退治した話が伝わっている。同様話は福崎町谷口にも伝わっており、金剛城寺で村人を困らせていた化け猫を寺侍が退治し、化け猫は茶釜の蓋や鉄鍋で矢や鉄砲玉を防いだ[8]。
- 新潟県では、坊主が法力で化け猫を退治して、守り本尊として祀ると、それからは人々のために雨を降らせる神様になった、「妙多羅天女」の話が伝わっている。本尊阿弥陀如来の脇に祀られている「妙多羅天女」は、改心した弥三郎婆だと伝えられている。妙多羅の妙の字は猫(みょう)だと言う[7]。
化け猫が登場する作品
脚注
- ^ http://www.interq.or.jp/rap/yoshida/saga00.html
- ^ 播磨学研究所編 『播磨の民俗探訪』 神戸新聞総合出版センター、2005年、160-161頁。ISBN 4-343-00341-8。
- ^ 村上健司編著 『妖怪事典』 毎日新聞社、2000年、301頁。ISBN 4-620-31428-5。
- ^ a b 『播磨の民俗探訪』 156頁。
- ^ 水木しげる 『妖怪大事典』 講談社、1994年、109頁。ISBN 4-062-59008-5。
- ^ 『播磨の民俗探訪』 145-146頁。
- ^ a b c 『播磨の民俗探訪』 157頁。
- ^ 『播磨の民俗探訪』 158-159頁。