雪かき車
雪かき車(ゆきかきしゃ)とは、貨車の一種で、冬、線路の除雪を行うのに使われる事業用車両である。 貨物は積載しないが、鉄道車両の分類上、便宜的に貨車の一種として分類されている。日本の国鉄における記号は「キ」[1]。
除雪車ともいうが、道路用の除雪車と区別するため、ここでは「雪かき車」の呼称を用いる。日本で実際に用いられた雪かき車の種類としては、ラッセル車、マックレー車、ロータリー車、ジョルダン車、ローダー車の5種類がある。
ラッセル車
鉄道用の雪かき車としては最も有名なもので、前方に排雪板(ブレード)を装着し、進行方向の片側もしくは両側に雪を掻き分ける雪かき車である。豪雪地域の初期除雪に活躍するほか、積雪がさほどひどくない降雪地でも用いられる。豪雪時など、雪を押しつけたり排雪するスペースが無くなる場合には運用できなくなるため、その場合にはマックレー車とロータリー車を連結した「キマロキ編成」が使われることになる。 機関車の後押しによって運用される事から排雪板は片側だけとなるのが通常であるが、羽後交通雄勝線には両頭式のラッセル車が存在した。
主な形式
マックレー車
豪雪時にラッセル車での除雪を繰り返すと、掻き分けられた雪が左右に溜まり、次第に高い雪の壁ができてくる。雪の壁が高くなりすぎると除雪できなくなるため、まず雪の壁を崩し、さらにロータリーで遠くに投雪する。この時に使われる雪かき車をかき寄せ雪かき車、またはマックレー車という。
マックレー車は除雪装置として「八」の字に開く翼を備え付けており、機関車の後方に連結し、除雪装置部分を後方に向け、翼を使って雪の壁を崩して線路の中央に向けて落としながら走る。
主な形式
ロータリー車
単独で、あるいはマックレー車によって崩された雪を、遠くへはね飛ばすための雪かき車である。機関車の前方に連結し、機関車に後押ししてもらって使う。
先頭部には回転する羽根車が付いており、これで雪の壁を切り崩し、同時に投雪する。巨大な回転翼を回す動力源として蒸気動力を用いているため、蒸気機関車と同じようなボイラーや炭水車を備えており、非常に大型であるが、自走はできない。
ディーゼル機関車に取り付けて使うタイプは、「DD14」、「DD53」を参照。
電動によるロータリー車は国鉄・JRでは存在しなかったが、栃尾鉄道には自社改造によるユキ1形が存在した。
主な形式
- キ600 - 1923年から16両製造。1974年度に形式消滅[2]。自重77.93t[4]。
- キ620 - 1948年に5両製造。ボイラー、炭水車はC58と同じものを使用。除雪能力を向上。1975年度に形式消滅。[2]。全長19025mm、自重84.5t[4]。キ621が福島県西会津町如法寺脇に保存されている。
ジョルダン車
前面に除雪用の翼を持ち、これを左右に広げて線路の周囲の広い範囲を除雪する雪かき車。広幅雪かき車とも呼ばれ、主として停車場や操車場などの除雪に用いられる。ただし本線上の除雪にも使われることがある[5]。 幅広く開いた翼は非常に大きな雪の抵抗を受けるため、あまり深い雪には使えない。
主な形式
ローダー車
前の翼で雪をかき込み、うずまき破砕機を通してベルトコンベヤに押し上げて処分する[6]。
主な形式
- キ950 - 1952年製造。2軸ボギー、自重32.2t、全長11600mm(連結面間、前の翼とベルトコンベヤの後は共にはみ出している[7])。1968年度末現在で追分機関区に1両のみ在籍、1969年度末までに廃車された。
キマロキ編成
極度の豪雪時にのみ使われるマックレー車、ロータリー車は出動するとき、機関車・マックレー車・ロータリー車・機関車の順に連結して使用する(機関車・マックレー車の編成とロータリー車・機関車の編成が別々になることもある)。これをそれぞれの頭文字をとってキマロキ編成という。
雪かき車の活躍と現状
雪かき車は鉄道創業期から長く使われてきたが、降雪時期以外は全く用途がなく、遊休車両となってしまう問題があり、1960年代からDD15形など除雪用ディーゼル機関車が登場し、次第にこれに置き換えられていったが、ディーゼル機関車よりも排雪能力が高いため、蒸気機関車が姿を消した後もしばらく残った。
しかし、現在ではディーゼル機関車のほかモーターカーなどの普及により、雪かき車はJRではすべて現役を退いており、東北の弘南鉄道、津軽鉄道、小坂鉄道に旧国鉄キ100形の4両が残るのみである。北海道では雪かき車が何両か保存されており、名寄市の名寄公園や小樽市の小樽市総合博物館(鉄道・科学・歴史館)などでその姿を見ることができる。
- 弘南鉄道 - キ104、キ105の2両。
- 小坂鉄道 - キ115の1両。1964年譲受。
- 津軽鉄道 - キ101の1両。ただし状態が悪くここ数年活動なし[8]。
北海道の札幌と函館の市電では、竹でできた「ササラ」と呼ばれるブラシを装着したドラムをモーターで回転させて除雪を行う車両(通称「ササラ電車」)がある。
脚注
- ^ 1928年の改正で二字重ねの記号が廃止された事に伴い「キ」に変更された。以前は「ユキ」。一部私鉄においては「ユキ」が継続使用された。
- ^ a b c d 国鉄事業用車博物館(外部リンク参照)該当項目。
- ^ 吉岡心平『3軸貨車の誕生と終焉』(戦後編)p.43
- ^ a b c 『貨車の知識』214-215頁。
- ^ 映画『雪にいどむ』1961年製作、(株)日映科学映画製作所、にも登場する。
- ^ コンベヤからタンクに運んで投入、解けた水は川や流雪溝に捨てるという記述もあるが(『貨車の知識』、203頁)、『貨車形式図 1971』によれば、本車のベルトコンベヤが翼の反対側の車端を越えて伸びており、その後にキ950甲というトム11000改の別のコンベヤ付き付属車を連結して前者のコンベヤからの雪を、後者のコンベヤに載せてそれを枕木方向に運転し、横に並んだ無蓋車に雪を積み込むような図面がある。したがって実際の使用方法はいまひとつ定かでない。
- ^ 『貨車形式図 1971』。
- ^ 『Rail Magazine』293 42-49頁。
参考文献
- 『Rail Magazine』2008年2月号 (No.293)。
- 日本国有鉄道車輌局『貨車形式図 1971』。
- 輸送業務研究会『貨車の知識』交通日本社 1970年。