武蔵野うどん
武蔵野うどん(むさしのうどん)とは、埼玉県西部から東京都西部(多摩地域)に伝わる独特の製法で作られたうどんのことである。機械を使わず手作業で打っていくことからこの地域では「手打ちうどん」と呼ばれる。

普及範囲
武蔵野とはおおむね多摩地域の北部から、川越あたりまでの地域の呼称である。武蔵野うどんはこの地域だけのものと認識されているが、実際には北本や熊谷などの埼玉県の平野部のほぼ全域に広まっている。
特徴
麺に使用する小麦粉は、主に武蔵野地域や関東地方で生産されたものが使われる。郷土料理の一種であるため、使用される小麦粉は、食される地域で生産されたものを使用するのが原則(地産地消)。 打つ過程では製麺機などを一切使用せずに行われるため、かなり強いコシ(固さ)がある(讃岐うどんよりさらに固い)。麺は、一般的なうどんよりも太く、色はやや茶色がかっている。食するときには麺は、ざるに盛って、「ざるうどん」もしくは「もりうどん」とするのが一般的(好みもあるが、寒い時期などは「かけうどん」でも食す)。汁はつけ麺であり、かつおだしを主とした汁に肉やシイタケ、ゴマなどを具として混ぜたものを、温かいまま茶碗ないしそれに近い大きさの器によそる。ねぎや油揚げなどの薬味を好みで混ぜ、汁をうどんにからませて食べる。特に地元のうどん店では豚肉の細切れを具にしたメニューの「肉汁うどん」が有名である。麺を食べ終わった後は茹でた湯(ゆで湯)を汁に混ぜて飲む。いくつかのうどん店では天ぷらが付いてきたり、「糧(かて)」と呼ばれる具(主に茹でた野菜)が付くことがある。
かつての武蔵野や中山道沿線では小麦の生産が多かったため、良く食べられていた(米を食いつなぐため、夕飯はうどんなどの麦を食する習慣)。この地域の旧家では冠婚葬祭などの祝い事、親戚集まりには(細く長く良い事が続くように)うどんを出す事が多い。現在でもこの地域では伝統の製法が受け継がれていて、店を出すことこそしないが職人並みの腕を持っている人もいる。
製法
- すべてのうどんに共通する事項の一部は省略する。
- 麺
一般にうどんは蕎麦と比較して製作を始めてから完成するまでに時間がかかるため、店では小麦粉をこねて、強いこしを出すための足で踏む作業をあらかじめ済ましておく場合がある。ここから先の打つ作業はガラス張りの部屋で行われ、その様子を順番待ちをしている間などに見ることができるようになっている店も多い。しかし前の、足で踏む工程が最大の特徴である強いこしを出すための大切な要素となる。この地域ではこしの強い麺こそがいいうどんであると考えられているため、やむを得ず非公開となっているが絶対になくてはならない作業である。うどん打ちはまず太く短い棒を使って徐々に伸ばしていく。しばらくしたら細く長い棒に変えてさらに薄く、丸く伸ばしていく。円形の直径が1mほどになったところで小麦粉をふりかけ、棒に巻きつけて粉をなじませる作業を数回繰り返す。これが終わったら、棒に巻きつけた麺を屏風状に折りたたみ、それを包丁で切る。元が円形のため、折りたたんだ端と中心では麺の長さに大きな差があり、端では10cm程度、中心では1m近くの長さになる。また包丁を使った手作業のため太さはまちまちである。
- 汁
汁はかつおぶしのだしを主にしたものはすべてに共通である。そこに具を投入して温めたものを程よく冷ましてから食べる。出汁よりも醤油が利いており、いわゆる「しょっぱい」味で、油が浮いているのが特徴。具によってメニューが決められ、おもに以下のようなものがある。
- きのこ汁うどん - シイタケやエノキなどの茸を具としたもの。薬味とは別にネギや油揚げが入るがさらに薬味としてネギを添えることもできる。
- 肉汁うどん - ここでいう肉は主に豚肉。
- なす汁うどん - ナスを具として入れる。
このほかにも具や油を一切加えずに出汁だけの汁を冷ましたものを用意している店もある。この汁は「冷汁」と呼ばれるが、武蔵野うどんと範囲をほぼ同じくする『すったて』とは全く異なったものである。
ブランドイメージ
讃岐うどんが地元企業によって全国に広められ、多くの場を席捲しているのに対して、『武蔵野うどん』は、あくまで埼玉と多摩地域の郷土料理としての印象が強い。劣化が早く、すぐに茹でるものであり、茹でた後の保存に向かないこともその一因としてある。
特徴的な店
特殊なもの
- 汁はつけ汁が一般的だが、多くの人にふるまう場合などには具や薬味を入れないかけ『うどん』として出されることもあり、その場合には七味唐辛子を好みで加える。しかし麺は上記の製法によるものである。
その他
- 『うどん』のみを扱う店もあるが、中には天麩羅をメニューに加える店や、そばも取りそろえている店もある。
- ここでの記述は代表例であり、地域によって多少の差はある。
- 大盛りの他、得盛り、得得盛り、1kgうどんなどを取り扱う店もある。