西武9000系電車
西武9000系電車(せいぶ9000けいでんしゃ)は、1993年(平成5年)から製造された西武鉄道の通勤形電車。
西武9000系電車 | |
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![]() 西武9000系電車 (池袋線椎名町 - 東長崎間) | |
基本情報 | |
製造所 | 西武所沢車両工場 |
主要諸元 | |
編成 | 10両編成 |
軌間 | 1,067(狭軌) |
電気方式 | 直流1,500V(架空電車線方式) |
最高運転速度 | 105 |
設計最高速度 |
改造前:110km/h 改造後:120 |
起動加速度 | 2.8 |
減速度(常用) | 3.5 |
減速度(非常) | 4.0 |
編成定員 | 1,450(座席522)人 |
車両定員 |
先頭車137(座席48)人 中間車147(座席54または51)人 |
自重 |
改造前:28.0 - 40.0t 改造後:28.1 - 39.0t |
編成重量 |
改造前:351.2t 改造後:346.6t |
全長 | 20,000 |
全幅 | 2,870 |
全高 |
4,065mm パンタ付車両4,208 |
台車 |
ペデスタル方式空気バネ台車 FS372・FS072形 |
主電動機 |
改造前:直流直巻電動機 150kW 改造後:かご形三相誘導電動機 135kW |
駆動方式 |
改造前:中空軸平行カルダン駆動方式 改造後:WN平行カルダン駆動方式 |
歯車比 | 86:15(5.73) |
編成出力 |
改造前:3,600kW 改造後:3,240kW |
制御装置 |
改造前:電動カム軸式抵抗制御方式 改造後VVVFインバータ制御(IGBT素子) |
制動装置 |
改造前:発電ブレーキ併用電磁直通ブレーキ(HSC-D) 改造後:回生ブレーキ併用電磁直通ブレーキ(HSC-R)・全電気ブレーキ・遅れ込め制御 |
保安装置 | 西武形ATS |
備考 | 改造前とは抵抗制御時、改造後とはVVVF制御化後 |
概要
101系の車体更新車として、1993年(平成5年)から1998年(平成10年)にかけて10両編成8本計80両が西武所沢車輛工場にて製造された。なお、西武所沢車輛工場ではこの形式の第8編成 (9108F) が最終新造車にあたる。
車体は新2000系とほぼ同仕様の普通鋼製とし、外板は黄色の塗装である。走行機器などは基本的に廃車となった101系の電装品を再利用したもので、電動カム軸式抵抗制御方式であった。その後、省エネルギー化の観点などから2007年(平成19年)度までに全編成の制御装置をVVVFインバータ制御方式に更新した。現時点で西武鉄道の通勤用車両の中で最後に製造された「黄色い電車」でもある。
新2000系との主な相違点[1] は、以下の通りである。
- 前面手すりと貫通扉下部のクツズリ部が黒色。
- ローマ字併記の種別・行先表示器を装備し、種別表示と行先表示は分離された。
- 全て10両固定編成。
- そのため2000系にはない付随車(サハ)が存在する。
- 先頭車に電気連結器が装備されていない。
- 車椅子スペースの設置。
- 車内の連結面に空調機器の作動を示す「冷」「暖」のランプの設置。
- 非常用車側灯の橙色化。
前面のスカートは9101F・9102Fでは2000N系用で、連結器部の切り欠きが大きいが、9103F以降は 切り欠きを小さくした。
9107Fからは新製時より、車両間転落防止幌を設置し、そのため妻面窓がやや縮小された。現在は全編成に設置がされている。
本系列においても2000系の一部編成と同様に種別・行先表示器字幕の交換が9101Fを皮切りに、2008年(平成20年)6月14日ダイヤ改正までに全車に施工された。
車内設備
車内は当時、量産が開始されていた6000系で採用された仕様を取り入れている。室内は「ハーレ・クイーン」と呼ばれる柄模様入り、クリーム色系統の化粧板を使用した。床材は薄茶色系で、出入り口部は滑り止め付きとしている。
座席モケットは2000N系と同じく朱色系であるが、新たに区分柄を取り入れたものとした。なお、優先席部は薄い緑色の座席モケットである。座席端部はステンレスパイプで仕切る構造とした。
客用ドアの室内側はステンレスのヘアライン仕上げとした。ドアガラスは9106Fまでは単板ガラス、9107F以降は複層ガラス構造である。なお、連結面貫通扉も同様にステンレスのヘアライン仕上げである。つり革は白色系の丸型である。現在、優先席部のものはオレンジ色品へ交換されている。また、2005年(平成17年)度より客用ドア上部線路方向へのつり革増設工事が9101F・9104F・9108Fに施工された。
本系式では車内の2か所(モハ9200形・モハ9900形)に車椅子スペースを設置した。同スペース部の側窓は固定窓とし、安全手すりと対話式非常通報装置を設置した。
サービス機器は6000系で採用した各客用ドア上部へのLED式車内案内表示器とドアチャイム、自動放送装置のほか、各車に乗務員と相互通話可能な非常通報装置が設置されている。また、AMラジオ送信用アンテナが設置されている。
冷房装置は集中式の能力48.9kW(42,000kcal/h)のCU72D形を搭載し、室温制御にはマイコンによって自動制御される。
乗務員室
乗務員室は正面非常貫通構造であり、室内は薄緑色の配色としている。乗務員室背面仕切部は小窓、仕切扉窓、小窓の仕切窓が3枚ある。いずれの窓にも遮光幕は設置されている。
運転台はツーハンドルマスコン式である。運転台上部には故障などをガイダンス表示するモニタ装置表示器が設置された。
走行機器など
制御装置は日立製作所製の電動カム軸式抵抗制御装置(MMC-HTB-20E形[2]、1C8M制御)と150kW出力の直流電動機を再利用した。ブレーキ装置は101系のものより抑速ブレーキ機能を外した発電ブレーキ併用電磁直通ブレーキ(HSC-D)とし、新たに滑走防止装置を設置した。
台車も流用品のFS372・FS072形とし、軸箱支持はペデスタル方式、基礎ブレーキは両抱き式踏面ブレーキ(クラスプブレーキ)構造としている。
補機類はメンテナンスなどを考慮して新製品を使用した。補助電源装置には東洋電機製造製の150kVA出力静止形インバータ(SIV)を採用し、編成で3台搭載とした。故障時に備えて冗長化が考慮され、6000系同様に自動受給電装置[3]を設けている。
9101F - 9104Fでは素子にGTOサイリスタを使用したものを、9105F以降はIGBTを使用したものとした。空気圧縮機 (CP)は6000系と同型のレシプロ式、低騒音形のHS-20-4形を採用した。
集電装置は新品で、電磁かぎ外し付きのPT-4320-S-B-M形とし、M1・3・4・5車(モハ9200・9500・9600・9800の各形式)の飯能寄りに搭載し、編成全体で母線引通しを行っている。なお、最終編成の9108Fは落成時よりシングルアーム式のPT-7116A形を採用した。
運用
自社の所沢車両工場(現在廃止)で製造されたため、製造能力の関係から当初4両編成で登場し狭山線で運用され、数か月後に中間車6両を製造して10両編成で本線系統での運用に移行する製造方法がとられた。
当初は9101 - 9104Fが新宿線、1996年(平成8年)の新造車である9105F以降からは池袋線に充当されていたが、1998年(平成10年)3月26日の池袋線と帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)有楽町線の相互直通運転開始に伴うダイヤ改正により、9101F - 9104Fは池袋線に転用された。翌4月に9101F・9103F・9104Fは新宿線に復帰したが、同年11月には池袋線の6000系を営団直通仕様車に統一する車両移動を行う際に9104Fが再度池袋線に移動し、その後新宿線に残った2本も20000系の登場により再度池袋線に移動した。2008年(平成20年)現在は全編成が武蔵丘車両基地に所属し、池袋線で運用[4][5]されており、早朝の保谷発や小手指発の飯能行普通列車以外、優等列車のみに使用されている。
VVVFインバータ制御への改造
本形式の車体自体は新しいが、冷房装置、補助電源装置等を除いた主要な電機品は旧式のままであり、また抵抗制御方式のままでは今後のメンテナンス費用の増加や予備部品確保の難しさ等の問題点が指摘された[6]。また、運転性能的には現状のままでも問題はないが、社会的な環境対策による省エネルギー化の観点から、より電力消費量の減少が必要とされるようになった。
このようなことから車体の残存寿命を考慮しても、改造後の電力消費量、メンテナンス費用の減少などから十分に投資が回収できる見通しが立ったため、抵抗制御方式からVVVFインバータ制御方式への改造を実施することが決定された。なお、改造にあたっては既存機器の移設などの改造はせず、改造費用を抑えるために最低限の改修がされた。さらに予備品の共通化などの目的から20000系・10000系5次車と極力、共通な機器を採用した[6]。
施工内容
改造工事は2003年(平成15年)度から開始され、2007年(平成19年)度まで全編成の施工が完了した。装置は20000系に準じた日立製作所製のIGBT素子を使用した全電気ブレーキ付VVVFインバータ制御[7]方式 (ベクトル制御方式(1C4M2群制御)) に更新した。20000系10両固定編成のMT比は5M5Tだが、本系列では車両重量が20000系に比べて重いため、改造前と同一の6M4Tとなっている。
床下では抵抗式制御装置および抵抗器等を撤去し、VVVFインバータ制御装置や周辺機器に換装した。主電動機は20000系および10000系5次車と共通の135kWかご形三相誘導電動機(HS32530-03RB形)とし、またフィルターリアクトル、断流器なども共通とし、予備品の効率化を図った。
台車は三相誘導電動機の取付け以外、特に変更されていない。ただし、駆動装置は中空軸平行カルダン駆動方式からWN平行カルダン駆動方式に変更 (歯車比は変更なし)され、最高速度は110km/hから120km/hに向上した。
ブレーキ装置は省エネルギー化のため、発電ブレーキ併用の電磁直通ブレーキ方式(HSC-D)から回生ブレーキ併用の電磁直通ブレーキ方式(HSC-R)に変更した。さらに同様のMT比である6000系に準じた遅れ込め制御方式に改良し、各車にブレーキ受量器や電空変換弁などの取り付け改造がされた。
改造に合わせて蓄電池も改良され、容量の増大、M4車(モハ9600形)のパンタグラフの撤去、警笛に電子警笛の追加などの改造が施工された。また、運転台は特に変更されず、電流計の交換や表示灯類の変更、モニタ装置のプログラム改修など、最小限の改造が実施された。
改造工事の時期
本節では、2008年(平成20年)1月までに改造された順番に記載する。
- 9107F
- 2005年(平成17年)1月上旬武蔵丘車両検修場出場。
- 改造時に9108Fと同様のシングルアーム式パンタグラフに交換された。これ以降当初よりステッカー貼付と車両番号を表記の上で出場している。
これ以後の改造は、東急車輛製造横浜製作所での施工に変更となり、甲種車両輸送[8] での入出場となった。その際には制御車の連結器を並形自動連結器への交換とスカートを取り外して輸送された。
- 9105F
- 2006年(平成18年)6月7日東急車輛入場。9月28日出場。
- 改造工事と同時に座席クッションを交換(6000系と同等だが、朱色モケットのバケットシート)、座席間にスタンションポール(つかみ棒)を設置し、つり革も乗務員室後方も含めてドア部分に増設され、10月から営業運転を再開。
編成表
←西武新宿・飯能/池袋・本川越→
形式 | クハ9100形 (Tc1) |
モハ9200形 (M1) |
モハ9300形 (M2) |
サハ9400形 (T1) |
モハ9500形 (M3) |
モハ9600形 (M4) |
サハ9700形 (T2) |
モハ9800形 (M5) |
モハ9900形 (M6) |
クハ9000形 (Tc2) |
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機器配置 | VVVF | SIV,CP | VVVF | SIV,CP | VVVF | SIV,CP | ||||
車両番号 | 9101 : 9108 |
9201 : 9208 |
9301 : 9308 |
9401 : 9408 |
9501 : 9508 |
9601 : 9608 |
9701 : 9708 |
9801 : 9808 |
9901 : 9908 |
9001 : 9008 |
- 凡例 VVVF:制御装置(1C4M2群)、SIV:補助電源装置(静止形インバータ)、CP:空気圧縮機
脚注
- ^ 新2000系と類似点が多いため、サイト上でも間違われるケースも多い。
- ^ 制御段数は弱め界磁起動1段、直列12段、並列13段、弱め界磁5段、発電制動25段
- ^ 編成でSIVを2台以上搭載した場合、1台が故障しても健全なSIVから電力を供給する機能。
- ^ 一部は6000系との共通運用。
- ^ 新宿線用10両固定編成は予備車が不足していることから、稀に貸し出されることがある。
- ^ a b 鉄道ピクトリアル2004年10月号増刊 鉄道車両年鑑2004年版参照。
- ^ 20000系は3レベル、9000系は2レベルPWMという違いがある。
- ^ 甲種輸送は下記のルートとなる。
- ^ 2008年(平成20年)2月現在で搭載されているのはこの編成のみであることからか、機能停止となっている。