ゼータ電位
溶液に別の相(例えば電極やコロイド粒子)が接触したとき、その界面では電荷分離が起こり、電気二重層が形成され電位差が生じる。 溶液に対して接触した相が相対的に運動しているとき、接触相の表面からある厚さの層にある溶液は粘性のために接触相とともに運動する。 この層の表面(滑り面)と界面から充分に離れた溶液の部分との電位差をゼータ電位(—でんい、zeta potential)という。 正式には界面動電電位(かいめんどうでんでんい、electrokinetic potential)と呼ぶが、記号で表すことが一般的であることから、ゼータ電位と呼ばれることの方が多い。
理論的には界面の電位差として、接触した相の界面と溶液の界面から充分に離れた部分との電位差である表面電位、接触した相のヘルムホルツ面と溶液の界面から充分に離れた部分との電位差であるシュテルン電位が存在するが、これらを実測する測定法は現在のところ存在しない。これに対してゼータ電位は電気浸透や電気泳動などの方法により実測することが可能であるため界面の電位差の代表値としてよく用いられる。ヘルムホルツ面は界面のイオンの拡散層の始まりの位置を表すことから、この面より外側のイオンの界面への束縛は小さくなっているものと考えられる。このことからゼータ電位はシュテルン電位とほぼ同じ値か若干それよりゼロに近い値を持つものと想定されている。
ゼータ電位は界面の性質を評価する上で重要な値である。特にコロイドの分散・凝集性、相互作用、表面改質を評価する上での指標となる。コロイド粒子は表面積をなるべく小さくした方が安定する。これはコロイド粒子に凝集しようとする傾向を与える。一方、コロイド粒子は帯電しており、粒子間には静電的な反発が働く。これはコロイド粒子に分散しようとする傾向を与える。ゼータ電位はこの静電的な反発の大きさに対応しているため、コロイドの安定性の指標となる。ゼータ電位がゼロに近づくとコロイド粒子の凝集する傾向が静電的反発に打ち勝つため、粒子の凝集が起こる。逆にゼータ電位の絶対値を大きくするような添加剤をコロイド表面に吸着させることで、コロイドの安定性を増すことが可能となる。
ゼータ電位は以下の原理により測定される。滑り面は接触相と同じ速度で運動するので、その速度は溶液と接触相の運動の相対速度と等しい。滑り面が一定速度で運動しているとき、そこに働く力は釣り合っている。溶液に対して一定の電圧Vをかけた場合、この電圧による静電気力と溶液の粘性による摩擦力が釣り合う。その結果、ゼータ電位と溶液と接触相の運動の相対速度vとの間には、
の関係(ヘルムホルツ・スモルコウスキーの式)が成立する。は溶液の誘電率、は溶液の粘度である。この関係から電気浸透や電気泳動によってゼータ電位を測定する。