分部光謙
分部 光謙（わけべ みつのり、文久2年11月3日（1862年12月23日）- 昭和19年（1944年）11月29日）は、近江大溝藩の第12代（最後）の藩主（厳密には大名でなく知藩事として就任）。分部家13代。第11代藩主・分部光貞の次男。正室は溝口直溥の娘・銀姫。官位は従五位、従四位。
略歴
幼名は竹之進。または掃部助。初名は光明。1870年7月25日、父の死去により、家督を相続した。同年7月28日、従五位を授けられる。後に従四位に昇進する。すでに版籍奉還後であり、同年7月29日に大溝藩知事に就任する。1871年6月23日、廃藩置県に先立ち廃藩願いを受理されて、知藩事免職となる。大溝藩の財政は、負債が年収の数倍に達し、極めて悪化していた。大溝藩は大津県に編入された。なお、狭山藩（北条家）や鞠山藩（酒井家）といった小藩も財政悪化によって廃藩置県以前に廃藩を行っている。
知藩事を辞した後、光謙は東京へ移って学習院へ入学し、学士の資格を取得した。1884年7月、華族令により子爵を授けられた。
その後の光謙は競馬にのめり込んでしまい、当時最強の名馬とも言われた「岩川」など多数の馬を所有する日本最大の馬主となる。こうした浪費により、分部家は経済的に行き詰まっていった。1886年11月8日、東京始審裁判所で身代限りを申し渡されている。さらに1887年7月4日、家産の浪費により華族の品位を汚したため、謹慎10日の処分を受けている。
1902年7月11日、光謙は子爵を返上し、大溝に戻る。その後は高島で余生を送り、太平洋戦争も末期にさしかかった1944年11月29日、83歳で死去した。法号は普宏院殿心源宗徹大居士。
光謙は最後の藩主か
藩主および知藩事に就任した者として、光謙は昭和時代まで生きた最後の人物であったが、「幕藩体制の最後の藩主は、上総請西藩の林忠崇（戊辰戦争で幕府側に就いて改易、昭和16年死去）」と紹介されることが多い。その理由として下記の諸事情が挙げられる。
光謙は光貞の代理で事実上の藩主として行動していたものの、実際の藩主であったのはたった4日間[1]であること、その上に光謙が就任したのは既に版籍奉還が行われた後であり、幕藩体制が事実上瓦解していたこと、また廃藩置県直前に知藩事を辞任していることが理由に挙げられる。更に、藩主に就任した時にすでに元服していた林忠崇に対し、光謙は辞任時に9歳という幼年であり、その後も爵位を返上している。これらの事情から、光謙は最後の藩主と見なされない場合が多い。
林忠崇についても、石高が低い上、戊辰戦争後に廃藩置県を待たずして改易され、男爵位しか賜っていないことから、忠崇をも「最後の藩主」と見なすことに否定的な意見もある。忠崇を除くと、元藩主で長命だったのは広島藩主で後に侯爵となった浅野長勲（1937年死去）である。