加速器駆動未臨界炉

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加速器駆動未臨界炉(かそくきくどうみりんかいろ、Accelerator Driven Subcritical Reactor : ADSR)または加速器駆動システム(Accelerator Driven System:ADS)とは原子炉の一種。加速器によって加速された陽子線をターゲットに照射して核破砕反応を起こし、それによって生成された中性子を臨界量に達しない核燃料を装荷した原子炉に照射することで核分裂反応を起こしてエネルギーを得る原子炉である。

利点

  • 「数万年保存が必要な、超長半減期廃棄物」の短半減期化(核変換技術
    • 中性子吸収が大きすぎて燃料としては放棄されてきた、ウラン・プルトニウム近縁の核分裂物質を、廃棄せず人工的に中性子を吹き込んで核分裂させて熱を回収し、半減期30年程度の核分裂生成物に変換できる
    • 高速増殖炉では燃料の5%しか超長半減期核種を混入できないが、加速器駆動未臨界炉は燃料の60%以上、廃棄物核種にできるので、加速器駆動未臨界炉1基で原発10基の発生する超長半減期核種の処分が可能
  • プルサーマルでは燃焼できなくなった高次化プルトニウムも燃焼可能であり、高速増殖炉なしでも核燃料サイクルを完成させる事ができる。つまり、燃えないU238(劣化ウラン)をプルトニウムに変化させて燃やしてウランを有効利用する事ができる。
  • 臨界に達していないので、加速器の運転を止めれば反応が止まるため、臨界状態を維持する必要のある既存の核分裂炉より本質的に安全である。つまり制御棒が故障して暴走事故に至る心配がない。
  • 中性子透過性にこだわらず燃料被覆管に耐熱性の良いものを選べる。(普通の軽水炉では中性子を吹き込めないため、被覆管に中性子透過性に優れるジルコニウム合金を使っているが、高温でクリープ変形を起こしやすく、運転温度を300度に抑えざるを得ないため火力発電に劣る熱効率30%にとどまっている)。本炉では中性子を人工的に吹き込めるため「鉛ビスマスの腐食性を改善すれば」、高温操業で熱効率の改善を図れる。特にヘリウム2次冷却であれば、超高温原子炉の一種として昼はガスタービン複合発電、夜は水素製造/エチレン製造/石炭液化など化学熱源として使用して、熱効率を1.7倍に改善した上、揚水コストを削減できる可能性がある。
  • 大量の中性子が得られるので核燃料の増殖の効率が良いこと

問題点

  • 中性子発生手段としては加速器より核融合のほうが効率が優れており、加速器駆動未臨界炉でできる事の多くは核融合でも可能。但し加速器駆動未臨界炉は核融合(2038年頃、実証炉運転開始目標)より早期に実現する可能性が高い。
  • 2005年現在 実用化には大電流陽子加速器が必要であり、現在建設中の最新の加速器の運転に成功して、それを36基使ってやっと28万KW実証炉を動かせるレベルで、加速器の大出力化がまだまだ発展途上なこと
    • 追記 2011年現在 FFAG型加速器の進歩が著しく直径36m程度のFFAG型加速器1基で臨界が得られそうである[要出典]
  • 炉自体としては2.7万KWの加速器を使って80万KWの熱出力を得て、電気出力25万KW前後だが、加速器のエネルギー効率がまだ良くないため、エネルギー収支が実証されていない点が挙げられる。高速増殖炉が優先されてきた理由は主としてこの点であったが、近年の研究で、軽水炉10基と加速器駆動未臨界炉1基を組み合わせた場合、総合エネルギー効率では高速増殖炉にさして遜色ないというレポートもある。[要出典]
  • 加速器駆動未臨界炉の本質的な弱点ではないが、現在日本で構想されているものは溶融金属(鉛ビスマス)をヘリウムガスではなく水で冷やす設計。そのために、水蒸気爆発回避を考えた場合、(廃棄物処理炉として熱効率に目を瞑って)290度前後での低熱効率操業になってしまう事。(2次冷却材がガスならこの問題は発生しない)
  • 鉛ビスマスは、ナトリウムのように水にいれると水素を発生して爆発する金属ではなく、事故時に水をかけても安全な点が評価できる。しかし鉄よりイオン化傾向が低いために、かつては容器の鋼材が腐食する問題が発生した。また1960-1970年代にロシアの潜水艦で使用された際には、当時、鉛ビスマス液体金属中の酸素濃度管理の重要性がわかっていなかったために腐食剥離物や液体金属酸化物でスラグが発生し、また液体金属流路設計の悪さもあいまって閉塞除熱不良を起こした経験があり、当時の知見と電子制御技術・耐腐食材料技術では解決困難だった。また微量のポロニウムが発生するのでその除去も問題であった。
    • 追記 2011年現在 クロム比率の大きな特殊鋼を用いて内側に(イオン化傾向の大きい)アルミスパッタリング加工をすることで耐腐食問題は400度以下から700度近辺まで改善されてきている。(超高温炉の場合、950度以上なのでもう一段の開発が必要)。また鉛ビスマス中の酸素濃度を電子制御管理することが、腐食やスラグ発生抑止に有効だと判明している。流路設計では、プール型(圧力容器に2次冷却材熱交換器を内蔵した形式)で万一、機器故障でスラグが発生しても流路閉塞しない流路設計が採用されている。ポロニウム吸着成功の研究報告も出ており、東京工業大学を中心に、鉛ビスマス冷却材の研究進展が著しい。

研究の進展

各国で研究が進んでおり、スイスポール・シュラー研究所(en:Paul Scherrer Institute)で行われたMEGAPIE[1]と呼ばれる国際共同研究で、液体鉛ビスマスターゲットの運転に成功した。[2] 欧州では、ベルギー原子力研究センター(en:SCK•CEN)で、MYRRHA[3]とよばれる炉の建設が進んでいる。

日本国内では、放射性廃棄物処理のためにオメガ計画の一環として検討が進んでいる。京都大学京都大学原子炉実験所にて、既存の原子炉に、加速器を併設しトリウムに囲まれたタングステンターゲットに対して陽子線を照射する実験を行った。また、J-PARCにおいて、マイナーアクチノイドの核変換処理目指して液体ビスマスターゲットに照射する実験が計画されている。

関連項目

外部リンク